(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011261
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】3相PWMインバータ装置及びそれを用いた電動機制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20161006BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-250225(P2012-250225)
(22)【出願日】2012年11月14日
(65)【公開番号】特開2014-99997(P2014-99997A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161562
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 朗
(72)【発明者】
【氏名】林 崇
【審査官】
麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−114883(JP,A)
【文献】
特開2006−238637(JP,A)
【文献】
特開2010−011639(JP,A)
【文献】
特開2010−213407(JP,A)
【文献】
特開2011−041366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相交流信号を3相PWM信号に変換するPWM制御部と、前記PWM信号に従ってスイッチング素子を駆動し、直流電圧を3相交流電圧に変換して交流出力とするインバータと、前記インバータの直流母線に流れる電流を検出する直流電流検出手段と、前記直流電流検出手段の出力から前記インバータの出力相電流を復元する相電流復元手段とを備え、復元された相電流を用いてフィードバック制御することにより出力電流又は出力電力を調節する3相PWMインバータ装置において、
前記相電流復元手段は、相毎に新たな復元値を得るまでそれまでの相電流復元値を保持し、前記PWM信号を生成するキャリアの周期の3倍又は3の倍数倍を周期として、直流成分を持たず各相間で位相の異なる周期信号を前記3相交流信号の各相毎に重畳する信号重畳手段を有し、前記3相交流信号の振幅が所定の閾値を下回っている場合に、前記3相交流信号に前記周期信号を重畳することを特徴とする3相PWMインバータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の3相PWMインバータ装置において、前記周期信号は、キャリア信号1周期分の期間で正、次のキャリア信号2周期分の期間で負となるか、又はキャリア信号1周期分の期間で負、次のキャリア信号2周期分の期間で正となる矩形波であって、その振幅は直流母線電流検出を可能とする最小電圧差の2倍以上とすることを特徴とする3相PWMインバータ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の3相PWMインバータ装置において、前記周期信号は、キャリア信号1周期分の期間で正、次のキャリア信号1周期分の期間で負、次のキャリア信号1周期分の期間でゼロとなる矩形波であって、その振幅は、直流母線電流検出を可能とする最小電圧差の2倍以上とすることを特徴とする3相PWMインバータ装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の3相PWMインバータ装置を用いて、前記3相PWMインバータ装置の交流出力に交流電動機を接続することを特徴とする電動機制御装置。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1項に記載の3相PWMインバータ装置を用いて、前記相電流復元手段の出力にローパスフィルタを設け、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数は前記3相交流信号の周波数に応じて可変とし、前記3相PWMインバータ装置の交流出力に交流電動機を接続することを特徴とする電動機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流母線電流の検出によって出力交流電流を取得する、PWMインバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
3相PWMインバータでは、一般に出力すべき瞬時電圧に比例したデューティーをもたせたPWM信号でスイッチング素子を駆動することによって交流電圧を出力する。これを実現するPWM信号として、キャリア1周期内での各相のPWM波形が対称となるようにPWM出力した場合に電圧歪みが最小となることが知られており、このため電圧指令と三角波キャリア信号によって対称PWM信号を出力できるデバイスが数多く提供されている。インバータからの出力電流又は出力電力を調節するには、各相出力の電流を検出し、フィードバック制御を行うのが一般的である。
【0003】
一方、近年、3相PWMインバータでは、直流母線電流のみを計測し、その検出結果からインバータ出力電流を復元する手法が採用されてきている。
図6に特許文献1に示された直流母線電流を検出して相電流を演算する電流検出方法を用いた電動機駆動装置の回路構成例を示す。主回路1は、直流電源2とコンデンサ6の並列回路を直流電源として、直流電源の正極Pと直流電圧を交流電圧に変換するインバータ回路3の正極との間に電流検出器13を接続した構成である。インバータ回路3は、IGBTQuとQxの直列回路と、IGBTQvとQyの直列回路と、IGBTQwとQzの直列回路とが並列接続された構成で、各直列回路の直列接続点には交流電動機5が接続される。
【0004】
制御回路は以下のように構成される。電流検出器13の出力は相電流演算部14に入力され、相電流演算部ではPWMパルス生成器12からの信号を用いて、インバータ回路3の交流出力の各相電流を演算する。演算された各相電流は電流制御器10に入力され、電流制御部10では、相電流演算部14で演算された電流値が電流指令値となるような第1の電圧指令(vu1*、vv1*、vw1*)信号を出力する。さらに、これらの信号は電圧指令補正部11で補正され、第2の電圧指令(vu2*、vv2*、vw2*)信号となる。これらの信号はPWMパルス生成器12で、パルス幅変調制御されたパルス信号となり、インバータ回路3のIGBTに供給される。PWMパルス生成器12では、第1の電圧指令値の大きさ順に並べた相間電圧の差が所定間隔値より小さいとき、1PWM周期ごとに、電圧差が小さい2つの相の第1の電圧指令値の少なくも一方の値を、平均値を同一にしかつ周期の前半と後半とで異なる値とした第2の電圧指令値に補正して、各相間の差を所定間隔値以上とする電圧指令補正部11の出力に従ってPWMパルスを出力する。
【0005】
次に、直流母線電流から相電流を演算する原理を
図7に従って説明する。例えば、上アームはU相電圧を出力するIGBTQuがゲートオンし、下アームはV相電圧を出力するIGBTQy及びW相電圧を出力するIGBTQzがオンしている時には、電流Isは直流電源P極→電流検出器13→IGBTQu→交流電動機5→IGBTQy及びQz→直流電源N極の経路となる。この時、IGBT直流母線に流れる電流IsとU相から出力される電流Iuとは一致する。従って、全てのIGBTのゲート信号がオン又はオフに変化しないタイミングにおいて直流母線電流を検出することによって、相電流を復元することが可能となる。上アームの他のIGBT1個がオンで下アームの2個のIGBTがオンの場合や、下アームのIGBT1個と上アームのIGBT2個で電流を流す場合も同様である。この結果、使用する電流検出器は1個となり、電流検出器を各相に接続して相電流を直接測定する方法等と比べて低コストのインバータが構築できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3664040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の構成において直流電流検出値から相電流を演算する場合、各相の電圧指令の差が小さい場合、対称PWMでは、電圧指令値の大きい相のゲートがオンして電圧指令値の小さい相のゲートがオフしている期間が短くなり、この期間が母線電流検出に要する時間を下回ると電流検出が不可能になる。電流検出の可否が切り替わる電圧を閾電圧と表現した時、特に電圧振幅が閾電圧以下であるような交流電圧を出力しようとする場合には、直流母線電流検出はできなくなる。
【0008】
低電圧出力時のように各相間の電圧差が小さい時に電流検出を実現する手段としては、例えば特許文献1にあるように、キャリア周期の前半と後半とで各相の電圧指令をずらす、即ちゲートオン・オフタイミングを相毎にずらすことによって電流検出用の時間を確保できるが、そのためにはキャリア周期の前半の半周期と後半の半周期の波形が対称とならない非対称PWM出力ができるPWM発生装置を用いる必要がある。
また、別の問題として、直流母線電流検出を行うために理想的な対称PWMから位相をずらしたPWM波形によって電圧出力を行うと、電圧波形歪みが発生する。この電圧波形歪みは、低電圧時ほど顕著になる。この電圧波形歪みに伴って、検出される電流にも波形歪みが生じる。この検出電流波形歪みは、ローパスフィルタで低減できるが、これを電動機制御に適用する場合、低速・低電圧時に十分波形歪みが低減できるようなフィルタを用いると、高速回転時には検出遅れの影響が顕著になってその結果電動機制御が不安定になる恐れがある。
【0009】
従って、本発明の課題は、非対称PWM出力が可能か否かに関わらず、従来からのインバータ制御装置に簡単な機能を付加することにより、出力電圧が低い状態から直流母線電流検出により、出力相電流検出を可能とする3相PWMインバータ装置を提供することであり、さらに上述の直流母線電流検出による3相PWMインバータ装置を使用し、回転数を問わず安定した電動機の制御が可能な電動機制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、第1の発明においては、3相交流信号を3相PWM信号に変換するPWM制御部と、前記PWM信号に従ってスイッチング素子を駆動し、直流電圧を3相交流電圧に変換して交流出力とするインバータと、前記インバータの直流母線に流れる電流を検出する直流電流検出手段と、前記直流電流検出手段の出力から前記インバータの出力相電流を復元する相電流復元手段とを備え、復元された相電流を用いてフィードバック制御することにより出力電流又は出力電力を調節する3相PWMインバータ装置において、前記相電流復元手段は、相毎に新たな復元値を得るまでそれまでの相電流復元値を保持し、前記PWM信号を生成するキャリアの周期の3倍又は3の倍数倍を周期として、直流成分を持たず各相間で位相の異なる周期信号を前記3相交流信号の各相毎に重畳する信号重畳手段を有し、前記3相交流信号の振幅が所定の閾値を下回っている場合に、前記3相交流信号に前記周期信号を重畳する。
【0011】
第2の発明においては、第1の発明における3相PWMインバータ装置において、前記周期信号は、キャリア信号1周期分の期間で正、次のキャリア信号2周期分の期間で負となるか、又はキャリア信号1周期分の期間で負、次のキャリア信号2周期分の期間で正となる矩形波であって、その振幅は直流母線電流検出を可能とする最小電圧差の2倍以上とする。
【0012】
第3の発明においては、第1の発明における3相PWMインバータ装置において、前記周期信号は、キャリア信号1周期分の期間で正、次のキャリア信号1周期分の期間で負、次のキャリア信号1周期分の期間でゼロとなる矩形波であって、その振幅は、直流母線電流検出を可能とする最小電圧差の2倍以上とする。
【0013】
第4の発明においては、第1〜第3の何れか1項に記載の3相PWMインバータ装置を用いて、前記3相PWMインバータ装置の交流出力に交流電動機を接続する電動機制御装置とする。
【0014】
第5の発明においては、第1〜第3の何れか1項に記載の3相PWMインバータ装置を用いて、前記相電流復元手段の出力にローパスフィルタを設け、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数は前記3相交流信号の周波数に応じて可変とし、前記3相PWMインバータ装置の交流出力に交流電動機を接続する電動機制御装置とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、3相交流信号を3相PWM信号に変換するPWM制御部と、前記PWM信号に従ってスイッチング素子を駆動し、直流電圧を3相交流電圧に変換して交流出力とするインバータと、前記インバータの直流母線に流れる電流を検出する直流電流検出手段と、前記直流電流検出手段の出力から前記インバータの出力相電流を復元する相電流復元手段とを備え、復元された相電流を用いてフィードバック制御することにより出力電流又は出力電力を調節する3相PWMインバータ装置において、前記相電流復元手段は、相毎に新たな復元値を得るまでそれまでの相電流復元値を保持し、前記PWM信号を生成するキャリアの周期の3倍又は3の倍数倍を周期として、直流成分を持たず各相間で位相の異なる周期信号を前記3相交流信号の各相毎に重畳する信号重畳手段を有し、前記3相交流信号の振幅が所定の閾値を下回っている場合に、前記3相交流信号に前記周期信号を重畳する。その結果、非対称PWM出力が可能か否かに関わらず、低電圧から母線電流検出による出力電流検出が可能となる。
【0016】
また、直流母線電流から相電流を復元した後にローパスフィルタを挿入して、その結果を使って電流制御するインバータを適用し、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数は、インバータから出力する3相交流信号の周波数に応じて可変としたものを電動機制御に適用する。その結果、回転数を問わず安定して電動機制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例を示す回路ブロック図である。
【
図2】本発明の電流検出のタイミングを示す波形図である。
【
図5】カットオフ周波数可変型ローパスフィルタの構成例である。
【
図7】直流母線電流と相電流との関係を説明するための回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の要点は、3相交流信号を3相PWM信号に変換するPWM制御部と、前記PWM信号に従ってスイッチング素子を駆動し、直流電圧を3相交流電圧に変換して交流出力とするインバータと、前記インバータの直流母線に流れる電流を検出する直流電流検出手段と、前記直流電流検出手段の出力から前記インバータの出力相電流を復元する相電流復元手段とを備え、復元された相電流を用いてフィードバック制御することにより出力電流又は出力電力を調節する3相PWMインバータ装置において、前記相電流復元手段は、相毎に新たな復元値を得るまでそれまでの相電流復元値を保持し、前記PWM信号を生成するキャリアの周期の3倍又は3の倍数倍を周期として、直流成分を持たず各相間で位相の異なる周期信号を前記3相交流信号の各相毎に重畳する信号重畳手段を有し、前記3相交流信号の振幅が所定の閾値を下回っている場合に、前記3相交流信号に前記周期信号を重畳する点である。
【実施例1】
【0019】
図1に、本発明の第1の実施例を示す。主回路部の構成は従来例と同じであるので、説明は省略する。制御回路において、電流制御器10は、電流指令値と相電流検出値をもとに、3相交流出力電圧指令値を出力する。重畳信号生成器17は、3相交流電圧指令値に重畳するための、キャリア周期の3倍又は3の倍数倍の周期をもつ周期信号を生成し、出力する。電流制御器10出力である出力電圧指令値と重畳信号生成器17の出力は加算回路18で加算され、重畳信号が加算された出力電圧指令値となる。また、この重畳信号生成器17では、各相電圧指令値の2乗和の平方根で得られる交流電圧振幅を入力し、この振幅が所定の閾値を下回っている場合に、上記周期信号を出力する。出力電圧指令値とキャリアを比較してPWM信号を生成するPWM制御部であるPWMパルス生成器12は前記3相交流電圧指令値と前記周期信号との和に基づいたPWMパルス波形を出力する。このPWM波形でインバータ回路3のスイッチング素子(ここではIGBT)を駆動することによりインバータの出力に交流を出力する。周期信号重畳後の電圧指令信号はさらに電流検出トリガ発生器19に入力され、電流検出トリガ発生器19は、出力電圧指令信号から電流検出が可能なタイミングを算出してそのタイミングで電流検出トリガ信号を出力するとともに、相電流復元器20に、電流検出トリガ発生時刻におけるゲート情報を送出する。
【0020】
図2に、電流検出が可能なタイミングとインバータ回路3のIGBTのゲート信号との関係を示す。IGBTQyのゲート信号がオンの期間にIGBTQuのゲート信号がオフからオンに切替わり、次にIGBTQyのゲート信号がオンからオフに切替わりIGBTQvのゲート信号がオフからオンに切替わる時の波形図である。上下アームのIGBTのゲート信号の切替えはスイッチング時間の遅れにより上下アームのIGBTが同時にオンして電源短絡が発生するのを防止するためにデッドタイムTdを設けて切替える必要がある。このため、下アームのIGBTQxのゲート信号がオフとなりデッドタイム時間Td後に上アームのIGBTQuのゲートにオン信号が入力された後のターンオン時間Ton後からIGBTQyのゲートにオフ信号が入力されるまでの間の期間Taが電流検出の有効期間となる。実際にはAD変換回路でデジタル信号として検出するため、有効期間Taの時間がAD変換に要する時間より大きい場合に検出可能となる。相電流復元器20は電流検出トリガ発生器19からのトリガ信号により母線電流検出器13から得られる母線電流検出信号をラッチし、相電流復元器20はラッチされた母線電流信号を増幅器15で増幅しAD変換器16でAD変換された値をラッチし、その時のゲート情報に基づいて相電流を復元する。この相電流復元器20は、各相に関して、新たな復元値が得られるまで、それまでに取得した値を保持し、出力し続ける。復元された相電流検出値は電流制御器10にフィードバックされる。
【0021】
次に、電圧指令値に重畳する周期信号とそれによる効果を説明する。
図3に、重畳する周期信号の例1を示す。ここではキャリア周期の3倍を周期とする、直流成分をもたない信号を、各相でキャリア周期ずつ位相をずらして出力している。ここで振幅Vsは、直流母線電流を電圧に変換した電圧検出を可能とする最小電圧より大きい値とする。ゼロ電圧において、このような信号を重畳することによって、各キャリア周期で1相の電流検出が可能となり、また電流検出可能な相がサイクリックに入れ替わるため、検出不可能な相の電流は過去に復元され保持された値を使うことで、キャリア周期の3倍周期で全相電流を復元できる。
【0022】
さらに、この周期信号の振幅を、母線電流検出を可能とする最小電圧差の2倍以上とすることで、交流電圧振幅をゼロから増大させた際の全ての値において電流検出が可能となる。この理由を、3相交流信号でU相信号>V相信号>W相信号なる大小関係の領域において説明する。振幅Vrの時のU相、V相、W相の指令値はそれぞれVr*cosθ、Vr*cos(θ-2π/3)、Vr*cos(θ+2π/3) (0<θ<π/3)と表される。これに、振幅Vsを有する
図3の周期信号を重畳した時、まず区間Iにおいて、U相信号>V相信号>W相信号であって(U相信号-V相信号)>Vsであるので、U相電流が検出できる。区間IIにおいては、W相信号は最小であり、周期信号重畳後もU相信号>V相信号である場合と、V相信号>U相信号となる場合に分かれるが、U相信号>V相信号となる場合、(V相信号-W相信号)>VsであるのでW相電流が検出でき、これと区間Iで得られるU相電流とでV相電流も算出できる。V相信号>U相信号となる場合であっても、(V相信号-W相信号)=(V相信号-U相信号)+(U相信号-W相信号)>Vsであるため、(V相-U相)>Vs/2と(U相-W相)>Vs/2のいずれかは必ず成り立ち、前者の場合はV相電流を検出できてこれと区間Iで得られるU相電流とでW相電流を算出でき、後者の場合はW相電流を検出できてこれと区間Iで得られるU相電流とでV相電流を算出できる。
図3の例ではキャリア1周期分が正、2周期分が負となる矩形波としたが、この符号関係は逆であっても構わない。即ち、キャリア1周期分が負、2周期分が正となる矩形波であっても良い。
【実施例2】
【0023】
図4に、実施例1における重畳する周期信号の波形を変更した実施例2を示す。キャリア周期1周期分で正、次のキャリア周期1周期分で負、次のキャリア周期1周期分の期間でゼロとなる矩形波であって、その振幅Vsを、母線電流検出を可能とする最小電圧差の2倍以上とすることによって、交流電圧振幅によらず電流検出が可能になる。第1の実施例と同様に、キャリア周期の3倍を周期とする直流成分をもたない信号を、各相でキャリア周期ずつ位相をずらして出力している。ここで振幅Vsは、母線電流電圧検出を可能とする最小電圧より大きい値とする。ゼロ電圧において、このような信号を重畳することによって、各キャリア周期で1相の電流検出が可能となり、また電流検出可能な相がサイクリックに入れ替わるため、検出不可能な相の電流は過去に復元され保持された値を使うことで、キャリア周期の3倍周期で全相電流を復元できる。動作原理は、実施例1と同様である。
【実施例3】
【0024】
上述のように検出した電流には、重畳した電圧に起因した波形歪みが加わる。電流制御を行う際、電流検出値からローパスフィルタを使って上述の波形歪みを除去した値を使って制御する方が安定化できるが、電動機制御で低速・低電圧時に十分波形歪みが低減できるようなフィルタを使うと、高速回転時には検出遅れの影響が顕著になってその結果電動機制御が不安定化する恐れがある。これを解決するため、ローパスフィルタのカットオフ周波数は、インバータから出力する3相交流信号の周波数に応じて可変とする。
【0025】
図5に、デジタルフィルタでのローパスフィルタ構成例を示す。ここでは、カットオフ周波数がインバータ出力周波数に比例するように構成している。サンプリング周期をT、入力をx[n]、出力をy[n]として、y[n+1]=α*x[n]+(1-α)*y[n](0<α<<1)となる有限インパルス応答FIRを導入すると、角周波数ωの成分に対する応答Y/XはY+jωTY=αX+(1-α)Yより、Y/X=1/(1+jω/(α/T))、即ちカットオフ周波数α/TのローパスフィルタLPFとなる。ここで、αをインバータ出力信号周波数に比例させることによってカットオフ周波数をインバータ出力信号周波数に比例させることが可能となる。
図5において、掛算器ML2の出力がα、掛算器ML1の出力がαX、加算器AD1の出力が1-α、掛算器ML3の出力が(1-α)Yである。電動機制御装置にこのようなローパスフィルタを適用することで、回転数に影響されずに安定した制御が可能となる。
【0026】
尚、出力電圧が十分高い場合、上記の周期信号を重畳させても電流検出は可能であるが、周期信号を重畳させなくても電流検出可能な電圧では重畳させない方が望ましいため、3相交流信号の振幅が所定の閾値を下回っている場合に、周期信号を重畳するようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、インバータの交流出力電流検出を、交流出力に電流検出器を設けずに、直流母線電流検出値から演算で復元する電流検出方式であり、電動機駆動用インバータや無停電電源装置などへの適用が可能である。
【符号の説明】
【0028】
1・・・インバータ主回路 2・・・直流電源
3・・・インバータ回路 5・・・交流電動機
6・・・コンデンサ 13・・・電流検出器
10・・・電流制御器 11・・・電圧指令補正部
12・・・PWMパルス生成器 14・・・相電流演算部
15・・・増幅器 16・・・AD変換器
17・・・重畳信号生成器 18・・・加算回路
19・・・電流検出トリガ発生器 20・・・相電流復元器
Qu、Qv、Qw、Qx、Qy、Qz・・・IGBT
ML1、ML2、ML3・・・掛算器 AD1、AD2・・・加算器