特許第6011297号(P6011297)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6011297-内接ギヤポンプ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011297
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】内接ギヤポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/10 20060101AFI20161006BHJP
【FI】
   F04C2/10 321A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-269956(P2012-269956)
(22)【出願日】2012年12月11日
(65)【公開番号】特開2014-114757(P2014-114757A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(72)【発明者】
【氏名】蓮田 康彦
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−48767(JP,A)
【文献】 特開平1−32083(JP,A)
【文献】 特開2012−219978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーギヤおよびアウターギヤを有する内接ギヤポンプであって、前記アウターギヤの歯形は、噛み合い側と非噛み合い側とで非対称に形成されており、前記歯形を形成する曲線は、噛み合い側においては、歯元ほど曲率が徐々に大きくなる相対的に緩やかな曲線で、非噛み合い側においては、歯元ほど曲率が徐々に小さくなる相対的に急峻な曲線とされており、噛み合い側の曲線と非噛み合い側の曲線とが歯先で連続に接続されていることを特徴とする内接ギヤポンプ。
【請求項2】
前記歯形を形成する前記曲線は、噛み合い側および非噛み合い側がいずれも楕円の一部によって形成されており、噛み合い側を形成する楕円の短半径と非噛み合い側を形成する楕円の長半径とが共通の線分とされていることを特徴とする請求項1の内接ギヤポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車のトランスミッション(変速機)に油圧を供給するポンプなどに使用される内接ギヤポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスミッション用油圧ポンプとしては、トロコイドポンプと称されている内接ギヤポンプがよく使用されている。
【0003】
トロコイドポンプは、通常、正回転と逆回転とで同じ形状となるように歯形が対称に形成されているが、特許文献1には、歯形を正回転の噛み合い側と非噛み合い側とで非対称形状とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−56268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車のトランスミッション用油圧ポンプでは、車体の限られたスペースに搭載されるため、コンパクト化が要求され、また、高効率でかつ低騒音という相反する性能の両立が求められている。
【0006】
高効率化のためには、ポンプ小径化による流体摩擦損失の低減が有効であることが知られている。すなわち、内接ギヤポンプは、同じ外径でも、高歯にする(アウターギヤとインナーギヤとの偏心量を大きくする)ほど、吐出量大となる。逆に吐出量一定ならば、高歯化することで、小径化が可能で、これにより外径部での摺動抵抗を低減し、効率アップが可能である。
【0007】
上記従来の内接ギヤポンプでは、高歯化すると、歯形に尖点が発生(トロコイド干渉)し、噛み合い条件が崩れることから、高歯化することが難しいという問題があった。
【0008】
この発明の目的は、高歯化することで、高効率でかつ低騒音を可能とする内接ギヤポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による内接ギヤポンプは、インナーギヤおよびアウターギヤを有する内接ギヤポンプであって、前記アウターギヤの歯形は、噛み合い側と非噛み合い側とで非対称に形成されており、前記歯形を形成する曲線は、噛み合い側においては、歯元ほど曲率が徐々に大きくなる相対的に緩やかな曲線で、非噛み合い側においては、歯元ほど曲率が徐々に小さくなる相対的に急峻な曲線とされており、噛み合い側の曲線と非噛み合い側の曲線とが歯先で連続に接続されていることを特徴とするものである。
【0010】
一般的な内接ギヤポンプでは、アウターギヤの歯形は、噛み合い側と非噛み合い側とで対称に形成されているのに対し、この発明の内接ギヤポンプでは、アウターギヤの歯形は、噛み合い側と非噛み合い側とで非対称に形成される。通常、内接ギヤポンプは、回転方向が一定で使用されており、回転方向を規定することで、トロコイド干渉を防ぐ歯形が得やすくなる。また、従来のトロコイドポンプでは、円弧を使用して歯形を形成しているのに対し、この発明の内接ギヤポンプでは、曲率が徐々に変化する曲線を使用して歯形が形成されており、これにより、尖点発生が抑えられている。そして、この発明の内接ギヤポンプでは、さらに、噛み合い側が歯元ほど曲率が徐々に大きくなる相対的に緩やかな曲線とされ、非噛み合い側が歯元ほど曲率が徐々に小さくなる相対的に急峻な曲線とされることにより、高歯化(アウターギヤとインナーギヤとの偏心量大)が可能とされている。
【0011】
インナーギヤは、アウターギヤから創成され、噛み合い側が滑らかな曲線となる。インナーギヤにおいては、尖点が生じるが、尖点が生じている部分は、非噛み合い側となり、尖点による悪影響が生じることはない。
【0012】
こうして、従来は、高歯化すると尖点が生じて適切な噛み合い条件が得られなくなるという理由で、高歯化が制限されていたのに対し、この発明による内接ギヤポンプでは、噛み合い率を上げて尖点の発生を抑制することができ、高歯化しても噛み合いが崩れないため、回転変動と、それに伴うトルク変動、油圧脈動および振動を抑制して、吐出量を増加させることができる。
【0013】
曲率が徐々に変化する曲線としては、楕円を使用することができる。具体的には、前記歯形を形成する前記曲線は、噛み合い側および非噛み合い側がいずれも楕円の一部によって形成されており、噛み合い側を形成する楕円の短半径と非噛み合い側を形成する楕円の長半径とが共通の線分とされていることが好ましい。
【0014】
高歯化を達成するための曲線は、楕円に限られるものではないが、楕円とすることで、歯形を適切な形状とする曲線を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明の内接ギヤポンプによれば、上記のように、高歯化しても噛み合いが崩れないため、回転変動と、それに伴うトルク変動、油圧脈動および振動を抑制して、吐出量を増加させることができる。したがって、内接ギヤポンプを小径化することができ、内接ギヤポンプの高効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、この発明の1実施形態を示す内接ギヤポンプの横断面図である。
図2図2は、アウターギヤの要部の拡大横断面図である。
図3図3は、アウターギヤの歯形を形成する曲線形状を説明する要部の拡大横断面図である。
図4図4は、インナーギヤの要部の拡大横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、この発明の内接ギヤポンプの1実施形態について説明する。
【0018】
内接ギヤポンプ(1)は、図1に示すように、複数の歯(4)を有するアウターギヤ(2)と、アウターギヤ(2)よりも歯数が1つ少ない複数の歯(5)を有するインナーギヤ(3)とを備えている。
【0019】
アウターギヤ(2)は、図示省略した吸入ポートおよび吐出ポートを有するケーシング内に回転自在に配置される。インナーギヤ(3)は、アウターギヤ(2)の回転中心より所定量E偏心した位置に回転中心をもつようにアウターギヤ(2)内に配置され、インナーギヤ(3)と同軸に配される駆動軸(図示略)により回転駆動される。
【0020】
インナーギヤ(3)が駆動されることで、インナーギヤ(3)とアウターギヤ(2)とが相対回転する。ここでは、両ギヤ(2)(3)は、時計方向に回転するものとする。両ギヤ(2)(3)の相対回転によって、両ギヤ(2)(3)間に形成される隙間の容積が変化し、これに伴って、隙間の増加時において吸入ポートから流体が吸引され、吸引された流体が両ギヤ(2)(3)の回転によって搬送され、さらに、隙間の減少時において流体が吐出ポートから排出される。
【0021】
図1において、両ギヤ(2)(3)が時計回りの回転とされていることにより、アウターギヤ(2)の歯(4)の反時計側部分とインナーギヤ(3)の歯(5)の時計側部分とが接触する部分が噛み合い側となっており、アウターギヤ(2)の歯(4)の時計側部分とインナーギヤ(3)の歯(5)の反時計側部分とが接触する部分が非噛み合い側となっている。
【0022】
図1には、インナーギヤ(3)が最も上方位置に偏心している状態が示されている。この状態では、アウターギヤ(2)のピッチ円(2p)とインナーギヤ(3)のピッチ円(3p)とが接しているピッチ点(P)が最も上方にあって、噛み合い点(M)は、ピッチ点(P)付近にある。ピッチ点(P)付近では、アウターギヤ(2)の歯元位置とインナーギヤ(3)の歯先位置とが一致し、ピッチ点(P)から略180°離れたシール点(S)付近では、アウターギヤ(2)の歯先とインナーギヤ(3)の歯先とが一致している。このことから、両ギヤ(2)(3)の歯(4)(5)の歯丈は、h=2×Eであることが分かる。両ギヤ(2)(3)のピッチ円(2p)(3p)の半径比は歯数比に等しい。インナーギヤ(3)のピッチ円(3p)の半径をρ1、アウターギヤ(2)のピッチ円(2p)の半径をρ2とすると、偏心量Eは、E=ρ2−ρ1と定義できる。また、噛み合い点(M)までの距離は、インナーギヤ(3)のピッチ円(3p)の半径ρ1に等しく、シール点(S)までの距離は、インナーギヤ(3)の歯先半径ρt1に等しいとできる。
【0023】
クリアランスを無視すると、インナーギヤ(3)の歯数がZn1、インナーギヤ(3)の歯幅(ポンプ幅方向の長さ)wでかつ上記の諸元を有する内接ギヤポンプ(1)の1回転分の平均吐出量Vは、近似的に、V=wπ{(ρt1−En1)+2EZn1(ρt1+EZn1)sin(π/Zn1)/(π/Zn1)}/(Zn1+1)で求めることができる。この式によると、平均吐出量への主たる影響因子は、インナーギヤ(3)の歯数Zn1、インナーギヤ(3)の歯幅(ポンプ幅方向の長さ)w、インナーギヤ(3)の歯先円半径ρt1および偏心量Eとなる。
【0024】
内接ギヤポンプ(1)のポンプ外径が一定(アウターギヤ(2)の歯元円半径が一定)とした場合のインナーギヤ(3)の歯数Zn1および偏心量Eの影響については、偏心量E大ほど吐出量大となり、歯数Zn1小ほど(偏心量E大とできるので)、吐出量大となる。すなわち、高歯化が吐出量アップの有効手段であると言える
図示省略するが、従来のトロコイドポンプは、アウターギヤ歯形を一定半径の円弧としたもので、噛み合うインナーギヤ歯形は、エピトロコイドの平行曲線となっている。エピトロコイド曲線は、基礎円上を転がる転がり円内の1点が描く軌跡として表すことができる。トロコイド曲線では、吐出量アップのために偏心量を増大させると、尖点が発生する。したがって、高歯化すると尖点が生じて適切な噛み合い条件(噛み合い点の歯形法線がピッチ点すなわちピッチ円の接点を通るという条件)が得られなくなるという理由で、高歯化が制限されていた。
【0025】
図1の要部を拡大した図2において、アウターギヤ(2)の歯(4)は、アウターギヤ(2)の歯先(4a)を基準にして、反時計方向側の噛み合い側と時計方向側の非噛み合い側とで非対称形状とされている。
【0026】
アウターギヤ(2)の歯形を形成する曲線は、噛み合い側が第1の曲線(11)、非噛み合い側が第2の曲線(12)とされ、第1の曲線(11)と第2の曲線(12)とが歯先(4a)で連続に接続されている。
【0027】
この実施形態においては、第1の曲線(11)が楕円(第1の楕円)の一部とされ、第2の曲線(12)も楕円(第2の楕円)の一部とされている。第1の曲線(第1の楕円の一部)(11)は、相対的に緩やかな曲線とされており、これに対し、第2の曲線(第2の楕円の一部)(12)は、相対的に急峻な曲線とされている。そして、第1の曲線(噛み合い側の曲線)(11)は、歯元(4b)に行くにしたがって曲率が大きくなる形状とされ、第2の曲線(非噛み合い側の曲線)(12)は、歯元(4c)に行くにしたがって曲率が小さくなる形状とされている。第1の曲線(11)と第2の曲線(12)とは、歯元(4b)(4c)側においては、円弧(13)で接続されている。
【0028】
図3に示すように、第1の曲線(11)を形成する第1の楕円(14)の短半径と第2の曲線(12)を形成する第2の楕円(15)の長半径とが共通の線分(16)とされている。このようなアウターギヤ(2)の歯形を得るには、所要の形状の第1の楕円(14)を選択するとともに、第1の楕円(14)の短半径が噛み合い側と非噛み合い側とを分ける線分(16)となるように、アウターギヤ(2)の噛み合い側の曲線(11)を第1の楕円(14)の一部で形成し、さらに、噛み合い側と非噛み合い側とを分ける線分(16)すなわち第1の楕円(14)の短半径を長半径とする第2の楕円(15)を選択して、非噛み合い側の曲線(12)をこの第2の楕円(15)の一部で形成すればよい。
【0029】
楕円(14)(15)は、短半径を形成している部分の近傍で曲率が小(曲率半径は大)であり、長半径を形成している部分の近傍で曲率が大(曲率半径は小)であり、曲率が徐々に変化する曲線となっている。したがって、第1の曲線(11)は、歯元(4b)ほど曲率が徐々に大きくなる相対的に緩やかな曲線となり、第2の曲線(12)は、歯元(4c)ほど曲率が徐々に小さくなる相対的に急峻な曲線となる。
【0030】
インナーギヤ(3)は、従来と同様にして、アウターギヤ(2)から創成される。これにより、インナーギヤ(3)は、図4に示すように、反時計方向側の噛み合い側と時計方向側の非噛み合い側とで非対称形状となり、噛み合い側が滑らかな曲線となる。インナーギヤ(3)においては、歯元(5b)側の径方向内側に向かって凸の曲線(17)から歯先(5a)側の径方向外側に向かって凸の曲線(18)との間に尖点(T)が生じるが、尖点(T)が生じている部分は、非噛み合い側にあり、尖点(T)による悪影響が生じることはない。
【0031】
こうして、噛み合い側の歯形の曲線(11)を緩やかに(傾斜を小さく)することにより、噛み合い側での尖点発生というトロコイド干渉が回避されている。
【0032】
上記実施形態における具体的な寸法の1例を挙げると、アウターギヤ(2)の半径が13.95mm、歯数がインナーギヤ(3)/アウターギヤ(2)=7/8、偏心量Eが1.6mm、第1の楕円(14)の長半径/短半径=5.10mm/3.80mm、第2の楕円(15)の長半径/短半径=3.80mm/2.50mm、両楕円(14)(15)の中心のピッチ円半径14.55mmである。
【0033】
なお、図1においては、両ギヤ(2)(3)のピッチ円(2p)(3p)が、それぞれ歯丈中央付近に位置しているが、両ギヤ(2)(3)のピッチ円は、歯丈最外径付近に位置しているようにしてもよく、また、歯丈を超えて最外径より大きくてもよい。両ギヤ(2)(3)のピッチ円が歯丈最外径付近に位置しているようにした場合であっても、噛み合い点(M)の軌跡は、ほぼピッチ点(P)を通過し、噛み合い条件からのズレすなわち回転変動は小さいものとなる。
【0034】
上記において、楕円(14)(15)は、曲率が徐々に変化する曲線の一例であり、第1および第2の曲線(11)(12)は、曲率が徐々に変化する曲線であれば、楕円(14)(15)に限定されるものではない。
【0035】
アウターギヤ(2)の歯形を形成する曲線(11)(12)を楕円(14)(15)とするとともに、噛み合い側を形成する楕円(14)の短半径と非噛み合い側を形成する楕円(15)の長半径とを一致させる(共通の線分とする)ことで、高歯化を達成するために歯形を適切な形状とする曲線を容易に得ることができる。例えば、第1の楕円(14)の短半径(したがって第2の楕円の長半径も)(16)を一定に保って、第1の楕円(14)の長半径と第2の楕円(15)の短半径との比を調整することで、インナーギヤ(3)の噛み合い側に尖点が発生しないようにすることができる。上記の例では、第1の楕円(14)の長半径/第2の楕円(15)の短半径=5.10mm/2.50mmと約2倍程度であるが、この比は、例えば2〜5の範囲で適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0036】
(1):内接ギヤポンプ、(2):アウターギヤ、(3):インナーギヤ、(4a):歯先、(4b)(4c):歯元
図1
図2
図3
図4