特許第6011337号(P6011337)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6011337-ガスバリア性フィルム 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011337
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】ガスバリア性フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20161006BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   G09F9/00 302
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-516423(P2012-516423)
(86)(22)【出願日】2012年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2012058388
(87)【国際公開番号】WO2012137662
(87)【国際公開日】20121011
【審査請求日】2015年2月26日
(31)【優先権主張番号】特願2011-83409(P2011-83409)
(32)【優先日】2011年4月5日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182785
【弁理士】
【氏名又は名称】一條 力
(72)【発明者】
【氏名】上林 浩行
(72)【発明者】
【氏名】塚村 裕介
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 修
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−125965(JP,A)
【文献】 特開2005−289041(JP,A)
【文献】 特開2002−154184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子基材の少なくとも片面に、以下の[A]層と[B]層がこの順で積層されたガスバリア性フィルム。
[A]層:鉛筆硬度がH以上5H以下かつ表面自由エネルギーが26.1mN/m以上45mN/m以下であり、厚みが0.5〜10μmの架橋樹脂層
[B]層:厚みが10〜1000nmで、以下の[B1]層または[B2]層のいずれかの含ケイ素無機層
[B1]層:酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの共存相からなる層であって、ICP発光分光分析法により測定される亜鉛(Zn)原子濃度が20〜40atom%、ケイ素(Si)原子濃度が5〜20atom%、アルミニウム(Al)原子濃度が0.5〜5atom%、酸素(O)原子濃度が35〜70atom%である組成により構成された層
[B2]層:硫化亜鉛と二酸化ケイ素の共存相からなる層であって、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.7〜0.9である組成により構成された層
【請求項2】
前記[A]層の平均表面粗さRaが1nm以下であ請求項1記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記[B]層の平均表面粗さRaが1.5nm以下である請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
前記[B]層表面または前記高分子基材と[A]層との間に、透明導電層を有する請求項1〜のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
前記透明導電層がインジウム錫酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、アルミニウム含有酸化亜鉛(Al/ZnO)、ガリウム含有酸化亜鉛(Ga/ZnO)、金属ナノワイヤー、カーボンナノチューブのいずれかを含む請求項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載のガスバリア性フィルムを有する太陽電池。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載のガスバリア性フィルムを有する表示体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いガスバリア性が必要とされる食品、医薬品の包装用途や太陽電池、電子ペーパー、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレーなどの電子部材用途に使用されるガスバリア性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子基材の表面に、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム等の無機物(無機酸化物を含む)を使用し、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD法)、あるいは、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(CVD法)等を利用して、その無機物の蒸着膜を形成してなるガスバリア性フィルムは、水蒸気や酸素などの各種ガスの遮断を必要とする食品や医薬品などの包装材および薄型テレビ、太陽電池などの電子デバイス部材として用いられている。
【0003】
ガスバリア性向上技術としては、例えば、有機ケイ素化合物の蒸気と酸素を含有するガスを用いてプラズマCVD法により基材上に、ケイ素酸化物を主体とし、炭素、水素、ケイ素及び酸素を少なくとも1種類含有した化合物とすることによって、透明性を維持しつつガスバリア性を向上させる方法が用いられている(特許文献1)。また、プラズマCVD法などの成膜方法以外のガスバリア性向上技術としては、ガスバリア性を悪化させるピンホールやクラックの発生原因となる突起や凹凸を減少させた平滑基材や表面平滑化を目的としたアンカーコート層を設けた基材が用いられている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−142252号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−113826号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プラズマCVD法によりケイ素酸化物を主成分としたガスバリア性の層を形成する方法では、基材表面がプラズマの発光熱やイオン、ラジカルの衝突などの影響を受けるため、基材の種類によって、形成されるガスバリア層の膜質は異なり、安定したガスバリア性が得られないなどの問題があった。
【0006】
一方、ガスバリア層を形成する基材に平滑基材や表面平滑化を目的としたアンカーコート付き基材を用いた方法は、ピンホールやクラックの発生を防止することでガスバリア性の再現性は向上するものの、形成されるガスバリア層の膜質は改善されないため、飛躍的な性能の向上はできていなかった。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、基材の種類を選ぶことなく、飛躍的なガスバリア性の向上並びに安定したガスバリア性の発現を可能にしたガスバリア性フィルムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用する。すなわち、
(1)高分子基材の少なくとも片面に、以下の[A]層と[B]層がこの順で積層されたガスバリア性フィルム。
[A]層:鉛筆硬度がH以上かつ表面自由エネルギーが45mN/m以下の架橋樹脂層
[B]層:厚みが10〜1000nmの含ケイ素無機層
(2)前記[B]層が、亜鉛化合物とケイ素酸化物とを含む組成により構成されたものであること
(3)前記[B]層が、以下の[B1]層または[B2]層のいずれかであること
[B1]層:酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの共存相からなる層
[B2]層:硫化亜鉛と二酸化ケイ素の共存相からなる層
(4)前記[B]層が[B1]層であり、該[B1]層が、ICP発光分光分析法により測定される亜鉛(Zn)原子濃度が20〜40atom%、ケイ素(Si)原子濃度が5〜20atom%、アルミニウム(Al)原子濃度が0.5〜5atom%、酸素(O)原子濃度が35〜70atom%である組成により構成されたものであること
(5)前記[B]層が[B2]層であり、該[B2]層が、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.7〜0.9である組成により構成されたものであること
(6)前記[A]層の平均表面粗さRaが1nm以下であること
(7)前記[B]層の平均表面粗さRaが1.5nm以下であること
(8)前記[B]層表面または前記高分子基材と[A]層との間に、透明導電層を有すること
(9)前記透明導電層がインジウム錫酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、アルミニウム含有酸化亜鉛(Al/ZnO)、ガリウム含有酸化亜鉛(Ga/ZnO)、金属ナノワイヤー、カーボンナノチューブのいずれかを含むこと
(10)(1)〜(9)のいずれかに記載のガスバリア性フィルムを有する太陽電池
(11)(1)〜(9)のいずれかに記載のガスバリア性フィルムを有する表示体素子
また、前記[A]層が、鉛筆硬度がH以上5H以下かつ表面自由エネルギーが26.1mN/m以上45mN/m以下であり、厚みが0.5〜10μmの架橋樹脂層であること
を好ましい態様とする。
【発明の効果】
【0009】
酸素ガス、水蒸気等に対する高いガスバリア性を有するガスバリア性フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のガスバリア性フィルムの一例を示した断面図である。
図2】本発明のガスバリア性フィルムを製造するための巻き取り式スパッタリング装置を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明者らは、基材の種類を選ぶことなく、ガスバリア性が良好なガスバリア性フィルムを得ることを目的として鋭意検討を重ね、高分子基材の少なくとも片面に、特定の鉛筆硬度と表面自由エネルギーを有する架橋樹脂層と特定の厚みの含ケイ素無機層とをこの順で配置したところ、前記課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0012】
図1は、本発明のガスバリア性フィルムの一例を示す断面図である。本発明のガスバリア性フィルムは、図1に示すように、高分子基材1の表面に、[A]層として鉛筆硬度がH以上かつ表面自由エネルギーが45mN/m以下の架橋樹脂層と[B]層として厚み10〜1000nmの含ケイ素無機層をこの順で積層したものである。
[高分子基材]
本発明に用いられる高分子基材は、フィルム形態を有していれば素材は特に限定されないが、ガスバリアフィルムに必要な柔軟性を有することから、有機高分子であることが好ましい。本発明に好適に用いることができる有機高分子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール等の各種ポリマーなどを挙げることができる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレートを含むことが好ましい。また、前記有機高分子は、単独重合体、共重合体のいずれでもよいし、1種類の有機高分子を用いても良いし、複数種類の有機高分子をブレンドして用いても良い。
【0013】
また、本発明において高分子基材に好適に用いることができる有機高分子は、上記に列挙したごとく、基本となる骨格が線状の有機高分子である(ここで線状とは分岐を有していたとしても、網状構造を有していないことを示す:以降、基本となる骨格が線状の有機高分子を線状有機高分子と略記する)。なお、分子内に2以上の官能基を有する架橋剤を添加し反応させたり、放射線照射したりすることにより、部分的に架橋を形成したとしても、数平均分子量が5000〜20000であれば線状有機高分子であると定義する。かかる場合の線状有機高分子は、鉛筆硬度がF以下である範囲であることが好ましい。
【0014】
高分子基材の形態としてはとして、単層フィルム、あるいは、2層以上の、例えば、共押し出し法で製膜したフィルムであっても良い。フィルムの種類としては、一軸方向あるいは二軸方向に延伸されたフィルム等を使用しても良い。架橋樹脂層及び含ケイ素無機層を形成する側の高分子基材表面には、密着性を良くするために、コロナ処理、イオンボンバード処理、溶剤処理、粗面化処理、および、有機物または無機物あるいはそれらの混合物で構成されるアンカーコート層の形成処理、といった前処理が施されていても構わない。また、架橋樹脂層及びガスバリア層を形成する側の反対面には、フィルムの巻き取り時の滑り性の向上を目的として、有機物や無機物あるいはこれらの混合物のコーティング層が施されていても構わない。
【0015】
本発明に使用する高分子基材の厚さは特に限定されないが、柔軟性を確保する観点から500μm以下が好ましく、引張りや衝撃に対する強度を確保する観点から5μm以上が好ましい。さらに、フィルムの加工やハンドリングの容易性から下限は10μm以上が、上限は200μm以下がより好ましい。
[架橋樹脂層]
次に、鉛筆硬度がH以上かつ表面自由エネルギーが45mN/m以下の架橋樹脂層である[A]層について詳細を説明する。
【0016】
本発明に用いる[A]層の厚みは、0.5μm以上、10μm以下が好ましい。[A]層の厚みが0.5μmより薄くなると、高分子基材の凹凸の影響を受けて、[B]層の膜質が均一にならないため、ガスバリア性が悪化する場合がある。[A]層の厚みが10μmより厚くなると、[A]層内に残留する応力が大きくなることによって高分子基材が反り、[B]層にクラックが発生するため、ガスバリア性が低下する場合がある。従って、[A]層の厚みは0.5μm以上、10μm以下が好ましく、フレキシブル性を確保する観点から1μm以上、5μm以下がより好ましい。[A]層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察画像から、測定することが可能である。
【0017】
本発明において、安定したガスバリア性の発現が可能となる効果に対する[A]層の鉛筆硬度の寄与は、[A]層の鉛筆硬度をH以上とすることにより、高分子基材に耐熱性及び寸法安定性を付与することができるため、含ケイ素無機層を形成する際、プラズマの発光熱やイオン、ラジカルの衝突による損傷を防止することができ、結果としてガスバリア性の再現性が安定することにあると推測している。従って、かかる[A]層の鉛筆硬度はH以上が好ましく、さらに好ましくは2H以上である。一方、[A]層の鉛筆硬度の上限は、5Hを超えると、柔軟性が低下するため、含ケイ素無機層形成後のハンドリングや後加工において、クラックによるガスバリア性の悪化の原因となるとなる場合があるので、5H以下であることが好ましい。(鉛筆硬度は、(軟)10B〜B、HB、F、H〜9H(硬))
本発明における[A]層の鉛筆硬度試験は、JIS K5600(1999)に準じて実施する。異なる硬度の鉛筆を用い、0.5kg荷重下で試験を実施し、傷の有無によって判定する。なお、[A]層表面に無機層や樹脂層が積層されている場合、必要に応じてイオンエッチングや薬液処理により層を除去した後、鉛筆硬度試験を行うことで鉛筆硬度を評価することができる。
【0018】
また、本発明において、飛躍的にガスバリア性が良好となる効果に対する[A]層の表面自由エネルギーの寄与は、表面自由エネルギーを45mN/m以下とすることによって、[B]層を形成する際の、が含ケイ素無機化合物の初期成長過程において、膜の成長核となる原子や粒子は表面移動、拡散し易くなるため、[B]層付近の膜質か緻密化し、結果として、層全体が緻密な構造に改善され、酸素および水蒸気の透過が抑制されることにあると推測している。従って、かかる[A]層の表面自由エネルギーは、45mN/m以下であることが好ましく、さらに好ましくは40mN/m以下である。
【0019】
本発明における[A]層の表面自由エネルギーは、各成分(分散力、極性力、水素結合力)が既知の4種類の測定液(水、ホルムアミド、エチレングリコール、ヨウ化メチレン)を用いて、各測定液の接触角を測定し、拡張Fowkes式とYoungの式より導入される下記式(1)を用いて各成分を計算できる。
【0020】
【数1】
【0021】
なお、[A]層表面に無機層や樹脂層が積層されている場合、本発明のガスバリア性フィルムにおいては上記4種類の測定液の接触角は、[A]層を[A]層の厚みの30〜70%の範囲でイオンエッチングや薬液処理で研磨した後に測定する。[A]層は含ケイ素無機層と高分子基材層との間に位置しているが、必要に応じてイオンエッチングや薬液処理によりいずれかの層を除去した後、上述した測定方法を行うことで鉛筆硬度や表面自由エネルギーを評価することができる。
【0022】
本発明における[A]層の表面(ガスバリア性フィルムにおいては[B]層との境界面)の平均表面粗さRaを1nm以下にすると積層する[B]層のピンホールやクラックの発生をより、低減できるので、ガスバリア性の繰り返し再現性が向上するため好ましい。[A]層の表面の平均表面粗さRaが1nmより大きくなると、凸部においては、[B]層の積層後にピンホールが発生し易くなり、さらに凹凸が多い部分ではクラックが発生するため、ガスバリア性の繰り返し再現性が悪化する原因となる場合がある。従って、本発明は、[A]層の表面の平均表面粗さRaを1nm以下にすることが好ましく、折り曲げ時のマイクロクラックなどの微細な欠陥の発生を抑制し、柔軟性を向上させる観点から0.6nm以下にすることがさらに好ましい。
【0023】
本発明における[A]層の平均表面粗さRaは、原子間力顕微鏡を用いて測定することができる。なお、[A]層表面に無機層や樹脂層が積層されている場合、X線反射率法(「X線反射率入門」(桜井健次編集)講談社p.51〜78、2009年)を使用して得られた値を[A]層の平均表面粗さRaとする。
【0024】
本発明に用いられる[A]層の材料としては、鉛筆硬度がH以上かつ表面自由エネルギーが45mN/m以下となるものであれば、特に限定されず種々の架橋樹脂を使用することができる。ここでいう架橋樹脂とは、架橋点を数平均分子量20000あたりに1点以上有するものと定義する。本発明における架橋樹脂層に適用できる架橋樹脂の例としては、アクリル系、ウレタン系、有機シリケート化合物、シリコーン系などの架橋樹脂があげられる。これらの中でも、プラズマ熱の耐久性および鉛筆硬度の観点から、熱硬化型のアクリル系樹脂および活性線硬化型のアクリル系樹脂が好ましい。
【0025】
熱硬化型のアクリル系樹脂および活性線硬化型のアクリル系樹脂としては、多官能アクリレートとアクリルオリゴマー、反応性希釈剤を含むものが好ましく例示され、その他必要に応じて光開始剤、光増感剤、熱重合開始剤あるいは改質剤などが添加されていても良い。
【0026】
上述したアクリル系樹脂に好適に用いられる多官能アクリレートは1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物が挙げられる。かかる化合物の例としては、ペンタエリスリトールトリ( メタ) アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ( メタ) アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ( メタ) アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ( メタ) アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ( メタ) アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ( メタ) アクリレート、トリメチロールプロパントリ( メタ) アクリレートなどが挙げられる。これらの多官能アクリレートは、1種または2種以上を混合して使用することができる。また、本発明において、多官能アクリレートには、多官能アクリレートの変性ポリマーを含んでもよい。
【0027】
アクリルオリゴマーは、数平均分子量が、100〜5000であって、分子内に少なくとも1つの反応性のアクリル基が結合されたものである。骨格としてはポリアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエポキシ系樹脂、ポリエーテル系樹脂などが挙げられる。また、前記の骨格にはメラミンやイソシアヌール酸などの剛直な骨格のものであっても良い。
【0028】
反応性希釈剤は、塗布剤の媒体として塗布工程での溶剤の機能を担うと共に、それ自体が一官能性あるいは多官能性のアクリルオリゴマーと反応する基を有し、塗膜の共重合成分となるものである。
【0029】
また、特に、紫外線による架橋の場合には、光エネルギーが小さいため、光エネルギーの変換や反応の促進のため、詳細は後述するが、光重合開始剤および、 または光増感剤を添加することが好ましい。
【0030】
本発明に用いられる[A]層の材料の配合における多官能アクリレートの使用割合は、鉛筆硬度をH以上とする観点から、[A]層の総量に対して20〜90質量%が好ましく、より好ましくは40〜70質量%である。かかる割合が90質量%より大きくなると、硬化収縮が大きく高分子基材が反る場合があり、そのような場合には含ケイ素無機層にクラックが発生し、ガスバリア性が悪化するなどの問題が生じる場合がある。また、単量体の割合が20質量%より小さくなると、基材と[A]層との密着強度が低下し、剥離するなどの問題が発生する場合がある。
【0031】
本発明における[A]層を架橋させる方法として、光による硬化を適用する場合、光重合開始剤を加えることが好ましい。光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2 , 2 −ジエトキシアセトフェノン、p − ジメチルアセトフェノン、p − ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2 − クロロベンゾフェノン、4 , 4 ’ − ジクロロベンゾフェノン、4 , 4 ’ − ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、メチルベンゾイルフォメート、p − イソプロピル− α − ヒドロキシイソブチルフェノン、α − ヒドロキシイソブチルフェノン、2 , 2 − ジメトキシ− 2 − フェニルアセトフェノン、1 − ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのカルボニル化合物、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、チオキサントン、2 − クロロチオキサントン、2 − メチルチオキサントンなどの硫黄化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ジ− t − ブチルパーオキサイドなどのパーオキサイド化合物などがあげられる。
【0032】
光重合開始剤の使用量は、重合性組成物100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、重合時の未反応物として残存し、ガスバリア性に影響しない範囲として、0.05〜5質量部が好ましい。
【0033】
本発明に用いられる[A]層の架橋樹脂層を形成する樹脂を含有する塗液には、塗工時の作業性の向上、塗工膜厚の制御を目的として、本発明の効果が損なわれない範囲において、有機溶剤を配合することが好ましい。有機溶剤を配合する好ましい範囲としては10質量%以上、90質量%以下、より好ましくは20質量%以上、80質量%以下である。
【0034】
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、トルエンなどの芳香族系溶剤などを用いることができる。これらの溶剤は、単独あるいは2種以上を混合して用いても良い。
【0035】
また、本発明に用いられる[A]層の架橋樹脂層を形成する樹脂を含有する塗液には、[B]層との密着性の向上を目的として、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛等の無機粒子を配合することが好ましい。これらの中でも含ケイ素無機層と強く密着するシリカ系無機粒子が好ましく、シラン化合物などで加水分解して得られるシリカ系無機粒子がさらに好ましい。無機粒子を配合する好ましい範囲としては、0.1質量%以上30質量%以下、より好ましくは、0.5質量%以上、10質量%以下である。
【0036】
本発明には、本発明の効果が損なわれない範囲で、各種の添加剤を必要に応じて配合することができる。例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などの安定剤、界面活性剤、レベリング剤、帯電防止剤などを用いることができる。
【0037】
本発明に用いられる[A]層の表面自由エネルギーを45mN/m以下とする方法としては、[A]層と[B]層との密着性やガスバリア性が悪化しない範囲で、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンなどの表面張力が低いシリコーンを添加したり、親油性であるn―ステアリルアクリレートなどの長鎖のアルキル基をもつモノマーを添加したりする方法が挙げられる。
【0038】
[A]層を形成する樹脂からなる塗液の塗布手段としては、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などを用いることができる。中でも、本発明における[A]層の厚みである0.5μm以上、10μm以下の塗工に好適な手法として、グラビアコート法が好ましい。
【0039】
[A]層を架橋させる際に用いられる活性線としては、紫外線、電子線、放射線(α線、β線、γ線)などがあり、実用上簡便な方法として、紫外線が好ましい。また、熱による架橋させる場合に用いられる熱源としては、スチームヒーター、電気ヒーター、赤外線ヒーターなどがあり、温度制御の安定性の観点から赤外線ヒーターが好ましい。
[含ケイ素無機層]
次に、[B]層である厚みが10〜1000nmの含ケイ素無機層について詳細を説明する。本発明において含ケイ素無機層は、[B]厚みが10〜1000nmであり、[A]層である鉛筆硬度がH以上かつ表面自由エネルギーが45mN/m以下の架橋樹脂層の上に配置される。
【0040】
発明者らの検討の結果、[A]層の上に[B]層を積層することにより、飛躍的にガスバリア性を向上させることが可能であることを見出した。
【0041】
本発明における[B]層に好適に用いられる材料としては、膜質が非晶質かつ緻密に形成でき、優れたガスバリア性を有する二酸化ケイ素が好ましい。なお、「二酸化ケイ素」を「SiO」と略記することもある。また、二酸化ケイ素(SiO)は、生成時の条件によって、左記組成式のケイ素と酸素の組成比率から若干ずれたもの(SiO〜SiO)が生成することがあるが、二酸化ケイ素あるいはSiOと表記することとする。
【0042】
前記[A]層の上に[B]層を積層することにより、[A]層は鉛筆硬度がH以上の架橋樹脂層であるため、高分子基材の耐熱性および熱寸法性が向上する。そして、かかる[A]層の上に二酸化ケイ素の層を形成することにより、高分子基材の上に直接二酸化ケイ素の層を形成するのに比較して、二酸化ケイ素の層を形成する際のプラズマのイオンおよびラジカルによる高分子基材の損傷を防止できるので、安定して緻密な二酸化ケイ素層を形成できる。さらに、[A]層の表面自由エネルギーが45mN/m以下の範囲であるため、高分子基材表面における二酸化ケイ素層のスパッタ粒子が表面拡散し易くなり、従来よりも高分子基材表面付近の膜質は微細化し緻密になるため、ガスバリア性を向上できるものと推測している。
【0043】
[B]層は、ケイ素酸化物を含んでいれば、Zn、Al、Ti、Zr、Sn、In、Nb、Mo、Ta等の元素の酸化物、窒化物、硫化物、または、それらの混合物を含んでいても良い。例えば、高いガスバリア性が得られるものとして、[B1]酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相からなる層(以降[B1]層と略記する)または[B2]硫化亜鉛と二酸化ケイ素の共存相からなる層(以降[B2]層と略記する)が好適に用いられる。[B1]層と[B2]層のそれぞれの詳細は後述する。
【0044】
また、本発明における[B]層の上には、ガスバリア性が悪化しない範囲で耐擦傷性の向上を目的としたハードコート層を形成しても良いし、有機高分子化合物からなるフィルムをラミネートした積層構成としても良い。
【0045】
本発明に使用する[B]層の厚みは、ガスバリア性を発現する層の厚みとして10nm以上、1000nm以下が好ましい。層の厚みが10nmより薄くなると、十分にガスバリア性が確保できない箇所が発生し、高分子基材面内でガスバリア性がばらつくなどの問題が生じる場合がある。また、層の厚みが1000nmより厚くなると、層内に残留する応力が大きくなるため、曲げや外部からの衝撃によって[B]層にクラックが発生しやすくなり、使用に伴いガスバリア性が低下する場合がある。従って、[B]層の厚みは10nm以上、1000nm以下が好ましく、柔軟性を確保する観点から100nm以上、500nm以下がより好ましい。[B]層の厚みは、通常は透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察により測定することが可能である。
【0046】
本発明に使用する[B]層の平均表面粗さRaは、ガスバリア性が発現する表面粗さとして1.5nm以下であることが好ましい。平均表面粗さが1.5nmより大きくなると、[B]層表面の凹凸形状が大きくなり、積層されるスパッタ粒子間に隙間ができるため、膜質が緻密になりにくく、膜厚を厚く形成してもガスバリア性の向上効果は得られにくくなる。従って、[B]層の平均表面粗さRaは、1.5nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは、0.8nm以下である。
【0047】
本発明における[B]層の平均表面粗さRaは、原子間力顕微鏡を用いて測定することができる。なお、[B]層表面に無機層や樹脂層が積層されている場合、X線反射率法(前出)を使用して得られた値を[B]層の平均表面粗さRaとする。
【0048】
[B]層を形成する方法は特に限定されず、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法等によって形成することができる。これらの方法の中でも、簡便かつ安価に[B]層を形成可能な方法として、スパッタリング法が好ましい。
【0049】
[酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相からなる層]
次に、本発明における含ケイ素無機層として好適に用いられる[B1]層として、酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相からなる層について詳細を説明する。なお、「酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相」を「ZnO−SiO−Al」と略記することもある。また、二酸化ケイ素(SiO)は、生成時の条件によって、左記組成式のケイ素と酸素の組成比率から若干ずれたもの(SiO〜SiO)が生成することがあるが、二酸化ケイ素あるいはSiOと表記することとする。かかる組成比の化学式からのずれに関しては、酸化亜鉛、酸化アルミニウムについても同様の扱いとし、それぞれ、生成時の条件に依存する組成比のずれに関わらず、酸化亜鉛またはZnO、酸化アルミニウムまたはAlと表記することとする。
【0050】
本発明のガスバリア性フィルムにおいて[B1]層を適用することによりガスバリア性が良好となる理由は、酸化亜鉛−二酸化ケイ素−酸化アルミニウムの共存相においては酸化亜鉛に含まれる結晶質成分と二酸化ケイ素の非晶質成分とを共存させることによって、微結晶を生成しやすい酸化亜鉛の結晶成長が抑制され粒子径が小さくなるため層が緻密化し、酸素および水蒸気の透過が抑制されるためと推測している。
【0051】
また、酸化アルミニウムを共存させることによって、酸化亜鉛と二酸化ケイ素を共存させる場合に比べて、より結晶成長を抑制することができるため、クラックの生成に起因するガスバリア性低下が抑制できたものと考えられる。
【0052】
[B1]層の組成は、後述するようにICP発光分光分析法により測定することができる。ICP発光分光分析法により測定されるZn原子濃度は20〜40atom%、Si原子濃度は5〜20atom%、Al原子濃度は0.5〜5atom%、O原子濃度は35〜70atom%であることが、好ましい。Zn原子濃度が40atom%より大きくなる、またはSi原子濃度が5atom%より小さくなると、酸化亜鉛の結晶成長を抑制する酸化物が不足するため、空隙部分や欠陥部分が増加し、十分なガスバリア性が得られない場合がある。Zn原子濃度が20atom%より小さくなる、またはSi原子濃度が20atom%より大きくなると、層内部の二酸化ケイ素の非晶質成分が増加して層の柔軟性が低下する場合がある。また、Al原子濃度が5atom%より大きくなると、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が過剰に高くなるため膜の鉛筆硬度が上昇し、熱や外部からの応力に対してクラックが生じやすくなる場合がある。Al原子濃度が0.5atom%より小さくなると、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が不十分となり、層を形成する粒子間の結合力が向上できないため、柔軟性が低下する場合がある。また、O原子濃度が70atom%より大きくなると、[A]層内の欠陥量が増加するため、所定のガスバリア性が得られない場合がある。O原子濃度が35atom%より小さくなると、亜鉛、ケイ素、アルミニウムの酸化状態が不十分となり、結晶成長が抑制できず粒子径が大きくなるため、ガスバリア性が悪化する場合がある。かかる観点から、Zn原子濃度が25〜35atom%、Si原子濃度が10〜15atom%、Al原子濃度が1〜3atom%、O原子濃度が50〜64atom%であることがより好ましい。
【0053】
[B1]層に含まれる成分は酸化亜鉛および二酸化ケイ素および酸化アルミニウムが上記組成の範囲でかつ主成分であれば特に限定されず、例えば、Al、Ti、Zr、Sn、In、Nb、Mo、Ta、Pd等から形成された金属酸化物を含んでも構わない。ここで主成分とは、通常[B1]層の組成の60質量%以上であることを意味し、80質量%以上であれば好ましい。
【0054】
[B1]層の組成は、層の形成時に使用した混合焼結材料と同等の組成で形成されるため、目的とする層の組成に合わせた組成の混合焼結材料を使用することで[B1]層の組成を調整することが可能である。
【0055】
[B1]層の組成分析は、ICP発光分光分析法を使用して、亜鉛、ケイ素、アルミニウムの各元素を定量分析し、酸化亜鉛と二酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよび含有する無機酸化物の組成比を知ることができる。なお、酸素原子は亜鉛原子、ケイ素原子、アルミニウム原子が、それぞれ酸化亜鉛(ZnO)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)として存在すると仮定して算出する。ICP発光分光分析は、試料をアルゴンガスとともにプラズマ光源部に導入した際に発生する発光スペクトルから、多元素の同時計測が可能な分析手法であり、組成分析に適用することができる。[B]層上に無機層や樹脂層が積層されている場合、必要に応じてイオンエッチングや薬液処理により層を除去した後、ICP発光分光分析することができる。
【0056】
高分子基材上に[B1]層を形成する方法は特に限定されず、酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの混合焼結材料を使用して、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等によって形成することができる。酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの単体材料を使用する場合は、酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムをそれぞれ別の蒸着源またはスパッタ電極から同時に成膜し、所望の組成となるように混合させて形成することができる。これらの方法の中でも、本発明に使用する[B1]層の形成方法は、ガスバリア性と形成した層の組成再現性の観点から、混合焼結材料を使用したスパッタリング法がより好ましい。
【0057】
[硫化亜鉛と二酸化ケイ素の共存相からなる層]
次に、[B2]層として、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の共存相からなる層について詳細を説明する。なお、「硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相」を、「ZnS−SiO」と略記することもある。また、二酸化ケイ素(SiO)は、その生成時の条件によって、左記組成式のケイ素と酸素の組成比率から若干ずれたもの(SiO〜SiO)が生成することがあるが、二酸化ケイ素あるいはSiOと表記する。
【0058】
本発明のガスバリア性フィルムにおいて[B2]層を適用することによりガスバリア性が良好となる理由は、硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相においては硫化亜鉛に含まれる結晶質成分と二酸化ケイ素の非晶質成分とを共存させることによって、微結晶を生成しやすい硫化亜鉛の結晶成長が抑制され粒子径が小さくなるため層が緻密化し、酸素および水蒸気の透過が抑制されるためと推測している。また、結晶成長が抑制された硫化亜鉛を含む硫化亜鉛−二酸化ケイ素共存相は、無機酸化物または金属酸化物だけで形成された層よりも柔軟性が優れるため、熱や外部からの応力に対してクラックが生じにくいため、かかる[B2]層を適用することによりクラックの生成に起因するガスバリア性低下が抑制できたものと考えられる。
【0059】
[B2]層の組成は、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.7〜0.9であることが好ましい。硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.9より大きくなると、硫化亜鉛の結晶成長を抑制する酸化物が不足するため、空隙部分や欠陥部分が増加し、所定のガスバリア性が得られない場合がある。また、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の合計に対する硫化亜鉛のモル分率が0.7より小さくなると、[B2]層内部の二酸化ケイ素の非晶質成分が増加して層の柔軟性が低下するため、機械的な曲げに対するガスバリア性フィルムの柔軟性が低下する場合がある。さらに好ましくは0.75〜0.85の範囲である。
【0060】
[B2]層に含まれる成分は硫化亜鉛および二酸化ケイ素が上記組成の範囲でかつ主成分であれば特に限定されず、例えば、Al、Ti、Zr、Sn、In、Nb、Mo、Ta、Pd等の金属酸化物を含んでも構わない。ここで主成分とは、通常[B2]層の組成の60質量%以上であることを意味し、80質量%以上であれば好ましい。
【0061】
[B2]層の組成は、層の形成時に使用した混合焼結材料と同等の組成で形成されるため、目的に合わせた組成の混合焼結材料を使用することで[B2]層の組成を調整することが可能である。
【0062】
[B2]層の組成分析は、ICP発光分光分析によりまず亜鉛及びケイ素の組成比を求め、この値を基にラザフォード後方散乱法を使用して、各元素を定量分析し硫化亜鉛と二酸化ケイ素および含有する他の無機酸化物の組成比を知ることができる。ICP発光分光分析は、試料をアルゴンガスとともにプラズマ光源部に導入した際に発生する発光スペクトルから、多元素の同時計測が可能な分析手法であり、組成分析に適用することができる。また、ラザフォード後方散乱法は高電圧で加速させた荷電粒子を試料に照射し、そこから跳ね返る荷電粒子の数、エネルギーから元素の特定、定量を行い、各元素の組成比を知ることができる。なお、[B2]層は硫化物と酸化物の複合層であるため、硫黄と酸素の組成比分析が可能なラザフォード後方散乱法による分析を実施する。[B2]層上に無機層や樹脂層が積層されている場合、必要に応じてイオンエッチングや薬液処理により層を除去した後、ICP発光分光分析及び、ラザフォード後方散乱法にて分析することができる。
【0063】
透明高分子基材上に[B2]層を形成する方法は特に限定されず、硫化亜鉛と二酸化ケイ素の混合焼結材料を使用して、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等によって形成することができる。硫化亜鉛と二酸化ケイ素の単体材料を使用する場合は、硫化亜鉛と二酸化ケイ素をそれぞれ別の蒸着源またはスパッタ電極から同時に成膜し、所望の組成となるように混合させて形成することができる。これらの方法の中でも、本発明に使用する[B2]層の形成方法は、ガスバリア性と形成した層の組成再現性の観点から、混合焼結材料を使用したスパッタリング法がより好ましい。
【0064】
[透明導電層]
本発明のガスバリア性フィルムは、酸素、水蒸気等のガスバリア性に優れているため、主に、食品、医薬品などの包装材や電子ペーパーや有機ELテレビなどの表示体素子、太陽電池などの電子デバイス部材として用いることができる。すなわち、前記[B]層表面または前記高分子基材と[A]層との間に、透明導電層を設け、表示体素子や電子デバイスを封止することによって、外部からの酸素、水蒸気による電気抵抗変化が少ない、高い耐久性を付与することができる。
【0065】
本発明に用いる透明導電層としては、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、アルミニウム含有酸化亜鉛(Al/ZnO)、ガリウム含有酸化亜鉛(Ga/ZnO)、金属ナノワイヤー、カーボンナノチューブのいずれかを含むことが好ましい。透明導電層の厚みとしては、0.1〜500nmの範囲が好ましく、透明性が良い範囲として、5〜300nmがより好ましい。
【0066】
透明導電層を形成する方法としては、真空蒸着、EB蒸着、スパッタ蒸着などのドライコート法、キャスト、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレー、ブレードコート、スリットダイコート、グラビアコート、リバースコート、スクリーン印刷、鋳型塗布、印刷転写、インクジェットなどのウエットコート法等、一般的な方法を挙げることができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例に基づき、具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
[評価方法]
まず、各実施例および比較例における評価方法を説明する。評価n数は、特に断らない限り、n=5とし平均値を求めた。
【0068】
(1)層の厚み
断面観察用サンプルをマイクロサンプリングシステム(日立製FB−2000A)を使用してFIB法により(具体的には「高分子表面加工学」(岩森暁著)p.118〜119に記載の方法に基づいて)作製した。透過型電子顕微鏡(日立製H−9000UHRII)により、加速電圧300kVとして、観察用サンプルの断面を観察し、[A]層及び[B]層の厚みを測定した。基材および[B]層、[A]層および[B]層の界面は、透過型電子顕微鏡による断面観察写真によって判断した。
【0069】
(2)鉛筆硬度試験
[A]層表面の鉛筆硬度を、鉛筆硬度試験機HEIDON−14(新東科学(株))を用いて、JIS K5600−5−4(1999)に従い、n=1にて、鉛筆硬度を測定した。
【0070】
(3)表面自由エネルギー
[A]層表面について、表面自由エネルギーおよびその各成分(分散力、極性力、水素結合力)が既知の4種類の測定液(水、ホルムアミド、エチレングリコール、ヨウ化メチレン)を用い、23℃の温度、相対湿度65%の条件下で接触角計CA−D型(協和界面科学(株)製)にて、各液体の積層膜上での接触角を測定した。測定には、5個の平均値を用いた。この値を、拡張Fowkes式とYoungの式より導入される下記式(1)を用いて各成分を計算した。
【0071】
【数2】
【0072】
(4)平均表面粗さRa
原子間力顕微鏡を用いて、以下の条件で[A]層である架橋樹脂層表面について測定した。
システム:NanoScopeIII/MMAFM(デジタルインスツルメンツ社製)
スキャナ:AS−130(J−Scanner)
プローブ:NCH−W型、単結晶シリコン(ナノワールド社製)
走査モ−ド:タッピングモ−ド
走査範囲:10μm×10μm
走査速度:0.5Hz
測定環境:温度23℃、相対湿度65%、大気中。
【0073】
(5)水蒸気透過率(g/(m・d))
温度40℃、湿度90%RH、測定面積50cmの条件で、英国、テクノロックス(Technolox)社製の水蒸気透過率透過率測定装置(機種名:DELTAPERM(登録商標) )を使用して測定した。サンプル数は水準当たり2検体とし、測定回数は各検体について5回とし、得られた10点の平均値を水蒸気透過率(g/(m・d))とした。
【0074】
(6)[B1]層の組成
[B1]層の組成分析はICP発光分光分析(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、SPS4000)により行った。試料を、硝酸および硫酸で加熱分解し、希硝酸で加温溶解してろ別した。不溶解分は加熱灰化したのち、炭酸ナトリウムで融解し、希硝酸で溶解して、先のろ液とあわせて定容とした。この溶液について、亜鉛原子、ケイ素原子、アルミニウム原子の含有量を測定し、原子数比に換算した。なお、酸素原子は亜鉛原子、ケイ素原子、アルミニウム原子が、それぞれ酸化亜鉛(ZnO)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)として存在すると仮定して求めた計算値とした。
【0075】
(7)[B2]層の組成
[B2]層の組成分析はICP発光分光分析(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、SPS4000)により行った。試料を、硝酸および硫酸で加熱分解し、希硝酸で加温溶解してろ別した。不溶解分は加熱灰化したのち、炭酸ナトリウムで融解し、希硝酸で溶解して、先のろ液とあわせて定容とした。この溶液について、亜鉛原子、ケイ素原子の含有量を測定した。次に、この値をもとにさらにラザフォード後方散乱法(日新ハイボルテージ(株)製AN−2500)を使用して、亜鉛原子、ケイ素原子、硫黄原子、酸素原子を定量分析し硫化亜鉛と二酸化ケイ素の組成比を求めた。
【0076】
(8)[B3]層の組成
X線光電子分光法(XPS法)を用いることにより、アルミニウム原子に対する酸素原子の原子数比(O/Al比率)を測定した。測定条件は下記の通りとした。
・装置:Quantera SXM (PHI社製)
・励起X線:monochromatic AlKα1,2
・X線径100μm ・光電子脱出角度:10°。
[[B1][B2]層の形成]
([B1]層)
図2に示す構造の巻き取り式のスパッタリング装置を使用し、酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムで形成された混合焼結材であるスパッタターゲットをスパッタ電極12に設置してアルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、高分子基材4のスパッタ電極12側の面上([A]層が形成されている場合は[A]層上、または、[A]層を形成していない場合には高分子基材上)に[B1]層を設けた。
【0077】
具体的な操作は以下のとおりである。まず、スパッタ電極12に酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が77/20/3で焼結されたスパッタターゲットを設置した巻き取り式スパッタ装置5の巻き取り室6の中で、巻き出しロール7に前記高分子基材4を[B1]層を設ける側の面がスパッタ電極12に対向するようにセットし、巻き出し、ガイドロール8,9,10を介して、クーリングドラム11に通した。減圧度2×10−1Paとなるように酸素ガス分圧10%としてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、直流電源により投入電力4000Wを印加することにより、アルゴン・酸素ガスプラズマを発生させ、スパッタリングにより前記高分子基材4の表面上に[B1]層を形成した。厚みは、フィルム搬送速度により調整した。その後、ガイドロール13,14,15を介して巻き取りロール16に巻き取った。
【0078】
([B2]層)
図2に示す構造の巻き取り式のスパッタリング装置を使用し、酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムで形成された混合焼結材であるスパッタターゲットをスパッタ電極12に設置してアルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、高分子基材4のスパッタ電極12側の面上([A]層が形成されている場合は[A]層上、または、[A]層を形成していない場合には高分子基材上)に[B2]層を設けた。
【0079】
具体的な操作は以下のとおりである。まず、スパッタ電極12に硫化亜鉛/二酸化ケイ素のモル組成比が80/20で焼結されたスパッタターゲットを設置した巻き取り式スパッタ装置5の巻き取り室6の中で、巻き出しロール7に前記高分子基材4をセットし、巻き出し、ガイドロール8,9,10を介して、クーリングドラム11に通した。減圧度2×10−1Paとなるようにアルゴンガスを導入し、高周波電源により投入電力500Wを印加することにより、アルゴンガスプラズマを発生させ、スパッタリングにより前記高分子基材4の表面上に[B2]層を形成した。厚みは、フィルム搬送速度により調整した。その後、ガイドロール13,14,15を介して巻き取りロール16に巻き取った。
【0080】
([B3]層)
図2に示す構造の巻き取り式のスパッタリング装置を使用し、酸化亜鉛と二酸化ケイ素と酸化アルミニウムで形成された混合焼結材であるスパッタターゲットをスパッタ電極12に設置してアルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、高分子基材4のスパッタ電極12側の面上([A]層が形成されている場合は[A]層上、または、[A]層を形成していない場合には高分子基材上)に[B3]層を設けた。
【0081】
具体的な操作は以下のとおりである。まず、スパッタ電極12にアルミニウム原子に対する酸素原子の原子数比(O/Al比率)が、1.5で焼結されたスパッタターゲットを設置した巻き取り式スパッタ装置5の巻き取り室6の中で、巻き出しロール7に前記高分子基材4をセットし、巻き出し、ガイドロール8,9,10を介して、クーリングドラム11に通した。減圧度2×10−1Paとなるようにアルゴンガスを導入し、高周波電源により投入電力500Wを印加することにより、アルゴンガスプラズマを発生させ、スパッタリングにより前記高分子基材4の表面上に[B3]層を形成した。厚みは、フィルム搬送速度により調整した。その後、ガイドロール13,14,15を介して巻き取りロール16に巻き取った。
(実施例1)
高分子基材として厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー(登録商標)”U48)を使用した。
【0082】
[A]層形成用の塗工液として、ウレタンアクリレート(中国塗料(株)製フォルシード420C)100質量部をトルエン70質量部で希釈した塗工液1を調製した。次いで、塗工液1を前記高分子基材の片面にマイクログラビアコーター(グラビア線番200UR、グラビア回転比100%)で塗布、60℃で1分間乾燥後、紫外線を1J/cm照射、硬化させ、厚み3μmの[A]層(A1と記す)を設けた。
【0083】
[A]層を形成したフィルムから縦100mm、横100mmの試験片を切り出し、[A]層の鉛筆硬度試験、表面自由エネルギー、平均表面粗さの評価を実施した。結果を表1に示す。
【0084】
次に、[A]層上に[B1]層を厚み200nm形成し、ガスバリア性フィルムを得た。[B1]層の組成は、Zn原子濃度が27.5atom%、Si原子濃度が13.1atom%、Al原子濃度が2.3atom%、O原子濃度が57.1atom%であった。
【0085】
得られたガスバリア性フィルムを縦100mm、横140mmの試験片を切り出し、水蒸気透過率の評価を実施した。結果を表1に示す。
(実施例2)
[A]層形成用の塗工液として、ウレタンアクリレートに代えて、ポリエステルアクリレート(日本化薬(株)製FOP−1740)100質量部にシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング(株)製SH190)0.2質量部を添加し、トルエン50質量部、MEK50質量部で希釈した塗工液2を調製し、塗工液2をマイクログラビアコーター(グラビア線番200UR、グラビア回転比100%)で塗布、60℃で1分間乾燥後、紫外線を1J/cm照射、硬化させ、厚み5μmの[A]層(A2と記す)を設けた以外は実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(実施例3)
[B1]層に代えて[B2]層を厚み200nmとなるよう設けた以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0086】
[B2]層の組成は、硫化亜鉛のモル分率が0.80であった。
(実施例4)
[B1]層に代えて[B2]層を厚み200nmとなるよう設けた以外は、実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0087】
[B2]層の組成は、硫化亜鉛のモル分率が0.80であった。
(実施例5)
[B1]層を厚み850nmとなるよう設けた以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(実施例6)
[B1]層を厚み950nmとなるよう設けた以外は、実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(比較例1)
高分子基材としてポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー(登録商標)”U35)を使用し、[A]層を形成しないで、高分子基材の表面に直接、[B1]層を厚み100nmとなるよう形成した以外は実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(比較例2)
高分子基材としてポリエチレンナフタレートフィルム(帝人株式会社製Q65FA)を使用し、[A]層を形成しないで、高分子基材の表面に直接、[B1]層を厚み100nmとなるよう形成した以外は実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(比較例3)
高分子基材としてポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー(登録商標)”U35)を使用し、[A]層を形成しないで、高分子基材の表面に直接、[B2]層を厚み100nmとなるよう形成した以外は実施例3と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(比較例4)
高分子基材としてポリエチレンナフタレートフィルム(帝人株式会社製Q65FA)を使用し、[A]層を形成しないで、高分子基材の表面に直接、[B2]層を厚み100nmとなるよう形成した以外は実施例3と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(比較例5)
[B1]層の厚みを1200nmとした以外は実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(比較例6)
[B2]層の厚みを1200nmとする以外は実施例3と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(比較例7)
[A]層形成用の塗工液として、ウレタンアクリレートに代えて、EVOH系樹脂を水に分散させたコート剤である住友精化株式会社製“セポルジョン”(登録商標)VH100を10質量部(固形分濃度:15質量%)量り取り、希釈溶剤として水1.9質量部およびイソプロパノール0.6質量部を添加し、30分間攪拌することにより固形分濃度12%の塗工液3を調製した。次に、ワイヤーバーを用いて塗布し、120℃の温度で40秒間乾燥させ、厚み1μmの[A]層(A3と記す)を設けた以外は実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(比較例8)
[B1]層に代えて[B2]層を厚み200nmとなるよう設けた以外は、比較例7と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(比較例9)
[A]層形成用の塗工液にシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング(株)製SH190)0.2質量部を添加しない以外は実施例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
(比較例10)
[B2]層に代えて[B3]層を厚み200nmとなるよう設けた以外は、実施例3と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
【0088】
Al層の組成は、アルミニウム原子に対する酸素原子の原子数比(O/Al比率)が、1.65であった。
【0089】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のガスバリア性フィルムは、酸素ガス、水蒸気等に対するガスバリア性に優れているので、例えば、食品、医薬品などの包装材および薄型テレビ、太陽電池などの電子デバイス部材として有用に用いることができるが、用途がこれらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0091】
1 高分子基材
2 [A]層
3 [B]層
4 高分子基材
5 巻き取り式スパッタリング装置
6 巻き取り室
7 巻き出しロール
8、9、10 巻き出し側ガイドロール
11 クーリングドラム
12 スパッタ電極
13、14、15 巻き取り側ガイドロール
16 巻き取りロール
図1
図2