(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011339
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】炭化珪素基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20161006BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20161006BHJP
B28D 5/04 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
H01L21/304 611W
B24B27/06 D
B28D5/04 C
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-547398(P2012-547398)
(86)(22)【出願日】2012年5月9日
(86)【国際出願番号】JP2012061834
(87)【国際公開番号】WO2012165108
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2015年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2011-123928(P2011-123928)
(32)【優先日】2011年6月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沖田 恭子
【審査官】
宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−190909(JP,A)
【文献】
特許第4525353(JP,B2)
【文献】
特開2011−077325(JP,A)
【文献】
特開2002−283340(JP,A)
【文献】
特開平09−017755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 27/06
B28D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶炭化珪素の結晶(1)を準備する工程と、
前記結晶(1)を切断することにより基板(3)を得る工程とを備え、
前記基板(3)を得る工程では、前記結晶(1)の<11−20>方向または<1−100>方向とのなす角が{0001}面への正射影において15°±5°の範囲となる方向に切断を進行させる、炭化珪素基板の製造方法。
【請求項2】
前記基板(3)を得る工程では、前記結晶(1)の<11−20>方向または<1−100>方向とのなす角が{0001}面への正射影において15°±2°の範囲となる方向に切断を進行させる、請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項3】
前記結晶(1)の成長方向は<0001>方向である、請求項1または2に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項4】
前記結晶(1)の直径は2インチ以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項5】
前記基板(3)を得る工程では、前記基板(3)の厚みに対する直径の比が100以上となるように前記結晶(1)が切断される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項6】
前記基板(3)を得る工程では、前記結晶(1)はワイヤー切断により切断される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化珪素基板の製造方法に関し、より特定的には、主面における面方位のばらつきを抑制することが可能な炭化珪素基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の高耐圧化、低損失化、高温環境下での使用などを可能とするため、半導体装置を構成する材料として炭化珪素の採用が進められつつある。炭化珪素は、従来から半導体装置を構成する材料として広く使用されている珪素に比べてバンドギャップが大きいワイドバンドギャップ半導体である。そのため、半導体装置を構成する材料として炭化珪素を採用することにより、半導体装置の高耐圧化、オン抵抗の低減などを達成することができる。また、炭化珪素を材料として採用した半導体装置は、珪素を材料として採用した半導体装置に比べて、高温環境下で使用された場合の特性の低下が小さいという利点も有している。
【0003】
炭化珪素を材料として用いた半導体装置は、たとえば炭化珪素基板上にエピタキシャル成長層を形成し、当該エピタキシャル成長層に所望の不純物を導入した領域を作成するとともに、電極を形成することにより製造される。そして、炭化珪素基板は、炭化珪素の結晶(インゴット)を切断(スライス)することにより製造されるのが一般的である。しかし、炭化珪素は極めて高い硬度を有するため、その切断は容易ではない。そのため、炭化珪素結晶の切断方法については様々な検討がなされ、種々の方法が提案されている(たとえば、特開2009−61528号公報(特許文献1)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−61528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の炭化珪素結晶の切断方法では、得られた基板の反りが大きいという問題がある。基板の反りは、切断後の研磨等によって低減することができる。しかし、反りの大きい基板を研磨等によって平坦化すると、基板の主面における炭化珪素単結晶の面方位が部位によってばらつく。炭化珪素単結晶は、結晶の面方位によって異なる特性を有する。そのため、基板の切断の段階で反りを低減し、基板の主面における上記面方位のばらつきを抑制することが好ましい。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、主面における面方位のばらつきを抑制することが可能な炭化珪素基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従った炭化珪素基板の製造方法は、単結晶炭化珪素の結晶を準備する工程と、当該結晶を切断することにより基板を得る工程とを備えている。そして、上記基板を得る工程では、上記結晶の<11−20>方向または<1−100>方向とのなす角が{0001}面への正射影において15°±5°の範囲となる方向に切断を進行させる。
【0008】
本発明者は、基板の切断段階における反りを低減するための方策について詳細な検討を行ない、以下のような知見を得て本発明に想到した。
【0009】
すなわち、上述のように炭化珪素の結晶は極めて硬度が高く、切断が困難である。また、炭化珪素の結晶は劈開面を有し、この劈開面の影響により切断の困難性に異方性が存在する。そのため、劈開方向に沿って切断を進行させることにより切断を容易に実施することができる。
【0010】
しかしながら、このような切断方法が上記基板の反りの原因となっていることが本発明者の検討の結果明らかとなった。より具体的には、六方晶炭化珪素の結晶には<1−100>方向および<11−20>方向の2つの劈開方向が存在する。<1−100>方向と<11−20>方向とは90°をなす。そして、結晶の対称性に基づく等価な方向を考慮すると、上記劈開方向は{0001}面内において30°ごとに現れる。また、<1−100>方向と<11−20>方向とでは、劈開の程度、つまり亀裂進行の容易性は異なっている。さらに、炭化珪素基板の表面と裏面、すなわち切断進行中に切断領域において向かい合う一方の面と他方の面とでは、<1−100>方向と<11−20>方向とで亀裂進行の容易性が逆転する。
【0011】
そのため、たとえばワイヤー切断により結晶を切断する場合、上記劈開方向の一方に沿って切断が進行するように切断を実施すると、切断進行中に切断領域において向かい合う一方の面と他方の面とで亀裂進行の容易性が異なるため、<0001>方向にワイヤーが徐々に移動する。その結果、切断されて得られた炭化珪素基板には反りが形成される。
【0012】
これに対し、本発明の炭化珪素基板の製造方法では、結晶の<11−20>方向または<1−100>方向とのなす角が{0001}面への正射影において15°±5°の範囲となる方向に切断が進行する。すなわち、{0001}面内において30°ごとに現れる劈開方向から大きく離れた方向に切断が進行する。そのため、上記劈開方向の影響が低減され、反りの発生が抑制される。その結果、切断により得られた基板を研磨等により平坦化した場合でも、主面における面方位のばらつきを抑制することができる。なお、切断の進行方向と<11−20>方向または<1−100>方向とのなす角とは、切断の進行方向と<11−20>方向または<1−100>方向とのなす角のうち、鋭角側の角度をいう。
【0013】
ここで、切断が進行する方向は、結晶の<11−20>方向または<1−100>方向とのなす角が{0001}面への正射影において15°であることが最も好ましい。しかし、この最も好ましい方向とのなす角が5°以内であれば、十分な効果が得られる。より高い効果を得るためには、切断が進行する方向は、結晶の<11−20>方向または<1−100>方向とのなす角が{0001}面への正射影において15°±3°であることが好ましい。
【0014】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、上記基板を得る工程では、結晶の<11−20>方向または<1−100>方向とのなす角が{0001}面への正射影において15°±2°の範囲となる方向に切断を進行させてもよい。これにより、切断によって得られる基板の反りが一層抑制される。その結果、切断により得られた基板を研磨等により平坦化した場合でも、主面における面方位のばらつきを一層抑制することができる。
【0015】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、結晶の成長方向は<0001>方向であってもよい。これにより、単結晶炭化珪素の結晶を効率よく作製することができる。
【0016】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、結晶の直径は2インチ以上であってもよい。結晶の直径が大きくなるに従って、上記反りの影響は大きくなる。そのため、上記反りを低減可能な本発明は、直径が2インチ以上の結晶から基板を作製する場合に好適である。
【0017】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、上記基板を得る工程では、基板の厚みに対する直径の比が100以上となるように上記結晶が切断されてもよい。基板の厚みTに対して直径Dが大きい場合、上記反りの影響は大きくなる。特に、上記D/Tが100以上の場合、上記反りの発生に起因した基板の主面内での面方位のばらつきは、当該基板を用いた半導体装置の製造に影響を与えるおそれが大きくなる。そのため、上記反りを低減可能な本発明は、上記D/Tが100以上の場合に、特に好適である。
【0018】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、基板を得る工程では、上記結晶はワイヤー切断により切断されてもよい。
【0019】
ワイヤー切断によって結晶が切断される場合、特に上記反りが発生し易くなる。そのため、上記反りを低減可能な本発明は、ワイヤー切断によって結晶が切断される場合に、特に好適である。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明から明らかなように、本発明の炭化珪素基板の製造方法によれば、主面における面方位のばらつきを抑制することが可能な炭化珪素基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】単結晶炭化珪素のインゴットを示す概略斜視図である。
【
図2】インゴットの切断方法を示す概略平面図である。
【
図4】劈開方向に沿った方向に切断が進行するようにワイヤー切断して得られた基板の主面の形状を示す図である。
【
図5】劈開方向に沿った方向に切断が進行するようにワイヤー切断し、その後表面を研磨して得られた基板の主面の形状を示す図である。
【
図6】劈開方向とのなす角が15°となる方向に切断が進行するようにワイヤー切断して得られた基板の主面の形状を示す図である。
【
図7】劈開方向とのなす角が15°となる方向に切断が進行するようにワイヤー切断し、その後表面を研磨して得られた基板の主面の形状を示す図である。
【
図8】ワイヤー切断における線速を変更した場合のD/Tと反りとの関係を示す図である。
【
図9】ワイヤー切断におけるワイヤーの張力を変更した場合のD/Tと反りとの関係を示す図である。
【
図10】ワイヤー切断における切断速度を変更した場合のD/Tと反りとの関係を示す図である。
【
図11】<1−100>方向とのなす角が0°となる方向に切断が進行するようにワイヤー切断して得られた基板の主面の形状を示す図である。
【
図12】<1−100>方向とのなす角が15°となる方向に切断が進行するようにワイヤー切断して得られた基板の主面の形状を示す図である。
【
図13】<1−100>方向とのなす角が20°となる方向に切断が進行するようにワイヤー切断して得られた基板の主面の形状を示す図である。
【
図14】<1−100>方向とのなす角が30°となる方向に切断が進行するようにワイヤー切断して得られた基板の主面の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。また、本明細書中においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示す。また、負の指数については、結晶学上、”−”(バー)を数字の上に付けることになっているが、本明細書中では、数字の前に負の符号を付けている。
【0023】
まず、本発明の一実施の形態における炭化珪素基板の製造方法について説明する。
図1を参照して、本実施の形態における炭化珪素基板の製造方法では、まず、単結晶炭化珪素の結晶(インゴット)を準備する工程が実施される。具体的には、たとえば以下に説明する昇華法により、単結晶炭化珪素のインゴットが作製される。すなわち、まずグラファイトからなる容器内に単結晶炭化珪素からなる種結晶と、炭化珪素からなる原料粉末とが挿入される。次に、原料粉末が加熱されることにより炭化珪素が昇華し、種結晶上に再結晶する。このとき、所望の不純物、たとえば窒素などが導入されつつ再結晶が進行する。これにより、
図1に示す単結晶炭化珪素のインゴット1が得られる。ここで、インゴット1の成長方向を
図1に示すように<0001>方向とすることにより、効率よくインゴット1を作製することができる。
【0024】
次に、作製されたインゴット1が切断されることにより、炭化珪素基板が作製される。具体的には、
図2を参照して、まず作製された柱状(円柱状)のインゴット1が、その側面の一部が支持台2により支持されるようにセットされる。次に、ワイヤー9が、インゴット1の直径方向に沿った方向に走行しつつ、走行方向に垂直な方向である切断方向αに沿ってインゴット1に近づき、ワイヤー9とインゴット1とが接触する。そして、ワイヤー9が切断方向αに沿って進行し続けることによりインゴット1が切断される。より詳細に説明すると、たとえば鉄およびニッケルを含む合金からなるワイヤー9がインゴット1に接触しつつ走行し、かつワイヤー9とインゴット1とが接触する領域には、遊離砥粒としての単結晶ダイヤモンドと切削油とを混合したスラリーなどの切削液が供給されることにより、インゴット1が切断される。これにより、
図3に示す炭化珪素基板3が得られる。その後、炭化珪素基板3の主面が、たとえば研磨により平坦化されることにより、本実施の形態における炭化珪素基板3が完成する。
【0025】
ここで、
図2を参照して、ワイヤー9によるインゴット1の切断(スライス)に際しては、インゴット1の<11−20>方向または<1−100>方向とのなす角が{0001}面への正射影において15°±5°の範囲となる切断方向αに沿って切断が進行する。より具体的には、たとえば
図2に示すように、インゴット1の<11−20>方向と切断方向αとのなす角βが15°±5°とされる。これにより、劈開方向がワイヤー9に与える影響が低減され、炭化珪素基板3の反りの発生が抑制される。その結果、切断により得られた炭化珪素基板3の主面を研磨等により平坦化した場合でも、主面における面方位のばらつきが抑制される。また、上記角βの値は、15°±2°とすることが、より好ましい。
【0026】
ここで、インゴット1の直径(炭化珪素基板3の直径)が2インチ以上である場合や炭化珪素基板3のD/Tが100以上の場合、上記反りは大きくなる傾向にある。そのため、上記反りを低減可能な本実施の形態における炭化珪素基板3の製造方法は、このような条件下において特に有効である。
【0027】
また、切断中に撓みの発生し易いワイヤー9による切断では、上記反りが発生し易いため、上記反りを低減可能な本実施の形態における炭化珪素基板3の製造方法は、インゴット1がワイヤー切断により切断される場合に、特に有効である。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
本発明の炭化珪素基板の製造方法における炭化珪素基板の主面の状態を、従来の炭化珪素基板の主面の状態と比較する実験を行なった。実験の手順は以下の通りである。
【0029】
まず、上記実施の形態の場合と同様に単結晶炭化珪素のインゴットを準備し、支持台2により支持された状態で、劈開方向に沿った方向に切断が進行するようにワイヤー切断を実施し、炭化珪素基板を得た。そして、当該炭化珪素基板の主面を研磨により平坦化した(従来例)。一方、同様の手順において、劈開方向とのなす角が15°となる方向に切断が進行するようにワイヤー切断を実施し、炭化珪素基板を得た。そして、当該炭化珪素基板の主面を研磨により平坦化した(実施例)。このようにして得られる炭化珪素基板の切断後平坦化前の状態、および平坦化後の状態における炭化珪素基板の主面の形状を調査した。実験結果を
図4〜
図7に示す。なお、
図4〜
図7において数値は基準面からの高さを示している。
【0030】
図4および
図5を参照して、従来例の切断方法の場合、表面の反りが大きく、平坦化によって表面粗さは改善するものの、平坦化後においても反りが大きくなっていた。これに対し、
図6および
図7を参照して、本発明の実施例の切断方法の場合、切断時点において表面の反りは大幅に改善しており、平坦化により表面粗さが向上していた。このことから、本発明の炭化珪素基板の製造方法によれば、従来の切断方法を採用した場合に比べて反りの発生が抑制され、基板を研磨等により平坦化した場合でも、主面における面方位のばらつきを大幅に抑制することができることが確認された。
【0031】
(実施例2)
本発明の炭化珪素基板の製造方法における炭化珪素基板の厚みTに対する直径Dの値(D/T)と基板の反りとの関係を調査する実験を行なった。実験は、ワイヤー切断における線速を変更した場合、ワイヤーの張力を変更した場合および切断速度を変更した場合について実施した。試験結果を
図8〜
図10に示す。なお、
図8〜
図10において横軸はD/Tの値、縦軸は反り(SORI)の値である。また、
図8においてはワイヤーの線速が100m/min〜600m/minの場合、
図9においてはワイヤーの張力が15N〜40Nの場合、
図10においては切断速度が1mm/h〜6mm/hの場合について、実験結果が示されている。
【0032】
図8〜
図10を参照して、いずれの条件においてもD/Tの値が100以上の場合、特に反りが大きくなっている。そのため、反りを低減することが可能な本発明の炭化珪素基板の製造方法は、特にD/Tの値が100以上の場合に好適であるといえる。
【0033】
また、
図8を参照して、ワイヤーの線速が大きくなるに従って反りは低減されている。そして、当該線速が100m/minから300m/minに上昇することにより反りは大幅に低減される一方、300m/minから600m/minに上昇させても、反りの低減幅は100m/minから300m/minに上昇させた場合に比べて小さくなっている。さらに、上記線速が700m/minを超えるとワイヤーがインゴットに対して滑る傾向が強くなり、スライスが進行しにくくなる。そのため、ワイヤーの線速は300m/min以上700m/min以下とすることが好ましいと考えられる。
【0034】
さらに、
図9を参照して、ワイヤーの張力が大きくなるに従って反りは低減されている。そして、張力が15Nから35Nに上昇することにより反りは大幅に低減される一方、35Nから40Nに上昇させても、反りの低減幅は15Nから35Nに上昇させた場合に比べて小さくなっている。一方、張力が50Nを超えるとワイヤーが断線するおそれがある。そのため、ワイヤーの張力は35N以上50N以下とすることが好ましいと考えられる。
【0035】
また、
図10を参照して、切断速度が小さくなるに従って反りは低減されている。そして、切断速度が6mm/hから3mm/hに低下させることにより反りは大幅に低減される一方、3mm/hから1mm/hに低下させても、反りの低減幅は6mm/hから3mm/hに低下させた場合に比べて小さくなっている。さらに、切断速度が1mm/h未満になると、スラリーなどの切削液を巻き込んだワイヤーがほとんど前進することなくインゴット上を走行することとなって切り代が大きくなるため収率が低下する。そのため、切断速度は1mm/h以上3mm/h以下とすることが好ましいと考えられる。
【0036】
(実施例3)
単結晶炭化珪素のインゴットを切断して基板を得る場合に、{0001}面への正射影における切断の進行方向と劈開方向とのなす角が、得られる基板の反り(SORI)に及ぼす影響を調査する実験を行なった。
【0037】
まず、上記実施の形態の場合と同様に単結晶炭化珪素のインゴットを準備し、支持台2により支持された状態で、劈開方向である<1−100>方向とのなす角が{0001}面への正射影において0°〜30°となるように当該インゴットをスライスすることにより、炭化珪素基板を得た。そして、得られた基板の主面のSORIを測定した。測定結果を表1に示す。また、得られた基板の主面の形状を
図11〜
図14に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1および
図11〜
図14を参照して、切断の進行方向と劈開方向である<1−100>方向とのなす角が15°に近いほど、基板主面のSORIの値は小さくなっている。そして、切断の進行方向と<1−100>方向とのなす角を15°±5°の範囲とすることにより、基板主面のSORIの値が有効に低減できることが確認される。さらに、切断の進行方向と<1−100>方向とのなす角を15°±2°の範囲とすることにより、基板主面のSORIの値を一層低減できることが分かった。
【0040】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の炭化珪素基板の製造方法は、主面における面方位のばらつきを抑制することが求められる炭化珪素基板の製造に、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0042】
1 インゴット、2 支持台、3 炭化珪素基板、9 ワイヤー。