【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウシオ電機株式会社は、平成24年10月2日に、http://www.ushio.co.jp/jp/NEWS/products/20121002.htmlのURLにて、微量分析キットについて公開した。公開されたページには、「蛍光標識試薬イメージ(右)」と表題された写真が掲載されており、この写真は、赤い色の液体が収容されたセル(容器)を写した写真となっている。 また、ウシオ電機株式会社は、平成24年9月5日から同年9月7日に幕張メッセ(千葉県千葉市美浜区中瀬2丁目1番)にて開催されたJASIS2012(第1回)(第50回分析展/第35回科学機器展(東京))において、オンサイト微量分析キットを公開した。公開されたキットには、蛍光測定装置と、この蛍光測定装置にセットされるセル(容器)が含まれる。 また、ウシオ電機株式会社は、平成24年10月3日から同年10月5日に東京ビックサイト(東京都江東区有明3丁目11番1号)にて開催された食品開発展2012において、オンサイト微量分析キットを公開した。公開されたキットには、蛍光測定装置と、この蛍光測定装置にセットされるセル(容器)が含まれる。 また、ウシオ電機株式会社は、平成24年10月17日から同年10月19日に東京ビックサイト(東京都江東区有明3丁目11番1号)にて開催されたテロ対策特殊装備展’12において、オンサイト微量分析キットを公開した。公開されたキットには、蛍光測定装置と、この蛍光測定装置にセットされるセル(容器)が含まれる。 また、ウシオ電機株式会社は、平成24年10月10日から同年10月12日にパシフィコ横浜展示ホール(神奈川県横浜市西区みなとみらい一丁目1番1号)にて開催されたバイオジャパン2012において、オンサイト微量分析キットを公開した。公開されたキットには、蛍光測定装置と、この蛍光測定装置にセットされるセル(容器)が含まれる。 また、北陸先端科学技術大学院大学マテリアルサイエンス研究科教授芳坂貴弘は、平成24年12月28日から少なくとも平成25年2月15日まで、北陸先端科学技術大学院大学マテリアルサイエンス研究科(石川県能美市旭台一丁目1番地)内の展示コーナーにて、オンサイト微量分析キットを公開した。公開されたキットには、蛍光測定装置と、この蛍光測定装置にセットされるセル(容器)が含まれる。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記希釈液収容部は、開口と当該開口を塞ぐ蓋とを有しており、当該蓋は、液密に当該開口を塞ぎつつ非気密に当該開口を塞いでおり、非気密に蓋が開口を塞いだ構造により前記a>bが達成されていることを特徴とする請求項1記載の蛍光測定用試薬液キット。
前記蓋は、ネジ込みによらずに嵌め合わせにより前記開口を塞ぐものであるか、又はパッキン無しにネジ込みによって前記開口を塞ぐものであることを特徴とする請求項2記載の蛍光測定用試薬液キット。
前記希釈液収容部の材質についての前記希釈液の気化物の透過度をxとし、前記試薬液収容部の材質についての前記試薬液の気化物の透過度をyとしたとき、x>yとなるよう各材質が選定されており、これによって前記a>bが達成されていることを特徴とする請求項1記載の蛍光測定用試薬液キット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように蛍光測定の応用分野が広がっていくと、蛍光測定を実験室や測定室といった特別の部屋で測定するのではなく、他の様々な場所で測定したり、オンサイト即ち試料が採取される現場で測定して迅速に結果を得たりするニーズが生じてくると予想される。例えば、前掲の特許文献1が測定技術を開示しているメタンフェタミンは代表的な覚醒剤であり、いわゆる禁止薬物である。したがって、メタンフェタミンの検出は、例えば空港の税関における荷物検査や、警察による麻薬取締などで行われ得る。税関における禁止薬物取締には、いわゆる麻薬犬の活動が広く知られているが、大量の手荷物を隈無く検査するには限界があるし、仮に禁止薬物と疑われる物質が見つかったとしても、最終的に摘発を行って法的措置を取るには、発見された物質を科学的に分析して同定しなければならない。このためには、当該手荷物を一時的に取り置き、発見された物質を検査機関に送るなどの措置を取ることが必要で、通関が一時的に保留にされた状態となる。仮に、禁止薬物の取締を行う現場で迅速に発見物質の同定ができれば、通関を一時的に保留にして旅行者を長時間留め置くような面倒はなく、すぐさま摘発や逮捕が行える。したがって、オンサイト(現場)で使用できる実用的な蛍光光度計が必要になってくる。
【0006】
しかしながら、このようなオンサイトでの測定が可能な実用的な蛍光光度計は開発されておらず、またオンサイトでの測定が可能な蛍光光度計においてどのような点が課題となるのかも教示されていない。
発明者の研究によると、オンサイトでの蛍光測定ということを考慮すると、測定に使用する試薬類の劣化の問題があることが判ってきた。以下の説明において、試薬類とは、蛍光測定に使用される材料を意味し、蛍光色素、測定のために試料と反応させる材料、試料を溶解させる溶液等を包含する用語である。
【0007】
蛍光測定に使用される試薬類は、温度や湿度、圧力等の条件によって特性が変化してしまう場合がある。実験室や測定室といった特別の施設で蛍光測定を行う場合、温度や湿度、圧力等の条件を適切に管理した設備で保管することで、特性変化を抑えることが可能である。しかしながら、オンサイトでの蛍光測定の場合、試薬類も現場に持ち込む必要があるため、使用する直前まで保管設備で保管することは困難である。
その一方、劣化した試薬類を使用して蛍光測定を行うと、測定精度が低下し、誤った同定や定量となってしまうことがあり得る。この場合、そのような測定が禁止薬物の取締り等の目的で行われる場合、誤った同定が重大な問題を招くことになる。
本願の発明は、このような課題を解決するために為されたものであり、試薬類の劣化を防止し、精度の高い蛍光測定をどのような場所でも行えるようにする意義を有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、試料の蛍光特性を測定する際に使用される蛍光測定用試薬液キットであって、
試料を希釈するための希釈液と、希釈液で希釈された試料が混合される試薬液とを収容した試薬液容器と、
試薬液容器を液密且つ気密に封入した遮光性ガスバリア性ラミネート袋と
を備えており、
試薬液容器は、試薬液を収容した試薬液収容部と、希釈液を収容した希釈液収容部とを有しており、
試薬液収容部は、励起光が照射された際の自家蛍光の強度が試薬液よりも低い材質で形成されており、
希釈液収容部は、試薬液収容部に収容されている試薬液よりも多い量で希釈液を収容しており、
希釈液収容部全体における希釈液の気化物の単位時間あたりの漏出量をa、試薬液収容部全体における試薬液の気化物の単位時間あたりの漏出量をbとしたとき、希釈液収容部及び試薬液収容部はa>bとなる材質及び構造であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記希釈液収容部は、開口と当該開口を塞ぐ蓋とを有しており、当該蓋は、液密に当該開口を塞ぎつつ非気密に当該開口を塞いでおり、非気密に蓋が開口を塞いだ構造により前記a>bが達成されているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項3記載の発明は、前記請求項2の構成において、前記蓋は、ネジ込みによらずに嵌め合わせにより前記開口を塞ぐものであるか、又はパッキン無しにネジ込みによって前記開口を塞ぐものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項4記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記希釈液収容部の材質についての前記希釈液の気化物の透過度をxとし、前記試薬液収容部の材質についての前記試薬液の気化物の透過度をyとしたとき、x>yとなるよう各材質が選定されており、これによって前記a>bが達成されているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項5記載の発明は、前記請求項4の構成において、前記x及び前記yは、水蒸気の透過度であるという構成を有する。
【発明の効果】
【0009】
以下に説明する通り、本願の請求項1記載の発明によれば、試薬液収容部の自家蛍光が少ないので、試薬液収容部を測定位置に配置して測定した場合でも測定精度が低下することがない。そのため、取り扱いが煩雑にならず、また容器の構造もシンプルになる。その上、希釈液収容部における希釈液の気化物が優先的に容器から漏出して袋内に充満するので、試薬液の気化物の漏出が抑制される。このため、製造後にある程度時間が経過した場合でも測定精度の低下を招くことなく試薬液や希釈液を使用した蛍光測定が行える。
また、請求項2又は3記載の発明によれば、上記効果に加え、希釈液収容部の開口を塞ぐ蓋を非気密にすることで上記a>bを達成しているので、試薬液収容部の材質に気化物の透過度の高い材質を使用することができ、自家蛍光が少ないことを優先して材質の選定が行える。
また、請求項3記載の発明によれば、上記効果に加え、希釈液収容部の器壁における気化物の透過度が試薬液収容部の器壁における気化物の透過度よりも高くなるので、希釈液収容部の開口を塞ぐ蓋を非気密にする必要がなく、何らかの理由で液密且つ気密に塞いだ構造にする必要がある場合に好適となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
図1は、本願発明の実施形態に係る蛍光測定用試薬液キットの概略図であり、(1)は外観図、(2)はキットに含まれる試薬液容器の正面断面概略図である。実施形態の試薬液キットは、試薬液容器1と、試薬液容器1を液密且つ気密に封入した個装袋2とから成っている。
【0012】
個装袋2には、遮光性ガスバリア性ラミネート袋が使用されている。具体的には、個装袋2は、
図1(1)に部分断面図として示すように、金属製の基材シート21と、基材シート21の両面に重ね合わされたラミネートシート22とから成る構造である。より具体的には、個装袋2は、いわゆるアルミラミネート袋として市販されているものと同様のものである。基材シート21には、アルミ箔が使用されている。ラミネートシート22は、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリエチレン又はポリプロピレン等の樹脂のシートである。二つの異なる樹脂材料のシートが、基材シート21の両側で積層される場合もあり得る。
このような構造の個装袋2を使用するのは、内部に封入された試薬液容器1内の試薬液の劣化を防止するためである。劣化は、外部からの光やガスの侵入によって生じ得るので、遮光性及びガスバリア性を必要とする。このため、金属製の基材シート21を主要な部材として有するものが使用される。
【0013】
アルミ箔のような基材シート21のみで個装袋2を形成することも不可能ではないが、柔軟性に欠けたり、破損し易かったり、成形時にピンホールが発生し易かったりする問題があるので、樹脂製のラミネートシート22を重ね合わせた構造としている。このような遮光性ガスバリア性ラミネート袋は、各種食品(調味料等)、各種薬品、各種精密機器の個装袋2用として市販されているので、詳細な説明は割愛する。尚、遮光性については、より広い波長範囲において十分な遮光性であることが望まれるが、蛍光測定に使用される試薬類は、特に可視から紫外域の光において劣化し易い性質を持つものが多いので、これら波長範囲において十分な遮光性を有することが望ましい。
尚、ラミネート袋である個装袋2は、試薬液容器1を入れた後、熱融着によって封止がされる。即ち、開口部を閉じた後、加熱してラミネートシート22同士を融着させることで封止する。
【0014】
このような個装袋2に封入された試薬液容器1は、
図1(2)に示すように、試薬液3を収容した試薬液収容部11と、希釈液4を収容した希釈液収容部12とを有している。本実施形態では、希釈液4は、試料を溶解させて所定の濃度にするための溶液である。試薬液3は、試薬を溶液に溶解させて成るものであるが、試薬が液相のものであり、それをそのまま試薬液として使う場合もあるし、液相の試薬を溶液に溶解させて所定の濃度として試薬液とする場合もある。
【0015】
図1(2)に示すように、試薬液容器1は、全体としては細長い容器である。試薬液収容部11は下端部に設けられた部位であり、希釈液収容部12は中腹部に設けられた部位となっている。試薬液容器1の上端は開口となっており、開口を塞ぐキャップ状の蓋13が設けられている。また、希釈液収容部12の底壁は、破断可能な隔壁121となっている。試料は、開口から投入され、希釈液4と混合される。
蓋13は、上から下に開口に差し込まれることで開口に嵌め合わされるものとなっており、嵌め合わされた後、人の手で開くことができる程度の嵌め合わせ強度となっている。即ち、蓋13を摘んで上に引き上げることで開くことができる。
【0016】
また、隔壁121は、希釈液収容部12の一部となっており、希釈液収容部12の側壁部分と同一の材質である。試薬液収容部11は、上端が開口となっており、この部分が希釈液収容部12の下端部分に嵌め合わされることで両者は接合されている。具体的には、試薬液収容部11の上端には、開口の縁に沿って周状に溝が形成されている。希釈液収容部12の下端は、この溝に嵌め込まれており、これにより試薬液収容部11と希釈液収容部とが接合されている。
【0017】
この嵌め合わせは、試薬液容器1の製造時に行われるものであり、人の手では破壊せずに開くことができない強固な強度となるよう試薬液収容部11及び希釈液収容部12の形状や寸法が設定されている。尚、製造の際には、試薬液3を所定の量で試薬液収容部11に収容し、その後、試薬液収容部11と希釈液収容部12とを嵌め合わせて接合する。希釈液4については、接合の後に希釈液収容部12に収容しても良いし接合の前に予め収容しておいても良い。
【0018】
次に、このような試薬液キットを使用して蛍光測定を行う蛍光光度計について説明する。
図2は、実施形態の試薬液キットが使用される蛍光光度計の一例について示した斜視概略図、
図3は
図2に示す蛍光光度計の正面断面概略図である。
図2及び
図3に示す蛍光光度計5は、前述したようにオンサイトでの蛍光測定を想定したものとなっている。即ち、試料が採取される現場又はそこに近い場所で測定することを想定しており、このため、携帯型の蛍光光度計となっている。
【0019】
具体的に説明すると、
図2に示すように、蛍光光度計は、全体としては扁平なほぼ直方体の箱状のものである。携帯型であるので、大きさとしては人の手のひらサイズかそれよりも少し大きい程度である。
扁平なほぼ直方体の箱状のケーシング50の上面には、開口51が形成されており、開口には開閉蓋52が設けられている。開閉蓋52を開けると、容器保持部58の上端の挿入孔580が露出するようになっている。
図1に示す試薬液容器1は、挿入孔580からケーシング50内の容器保持部58に挿入され、容器保持部58に装着される。この他、ケーシング50の前面には、測定に必要な情報や測定結果を表示するためのディスプレイ53、測定ボタン541を含む各種操作ボタン541〜546等が設けられている。
【0020】
図3に示すように、ケーシング50内には、試料を励起して蛍光を放出させることが可能な波長の光(励起光)を発する光源55と、発生した蛍光を捉える検出器56と、励起光を測定位置に導き、発生した蛍光を検出器56に導く光学系57と、測定位置に試薬液容器1を保持する容器保持部58等が設けられている。測定位置は、光学系57の光軸上の位置であるが、容器保持部58に試薬液容器1が正しく保持された際、試薬液容器1の試薬液収容部11がこの位置に位置することになる。
【0021】
光源55には、コスト上の優位性や省消費電力を考慮してLEDランプが使用される。例えば、波長525nmの緑色光を放射するもので、出力2mW程度のものが使用される。
光学系57は、光源1からの光を集光する集光レンズ571と、光路の折り曲げと光の選択を行うためのダイクロイックミラー572と、光路上に配置されたフィルタ573,574等から構成される。光源55は、下方に向けて光を放出する姿勢となっており、ダイクロイックミラー572は、光源55の下方において斜め45°の角度で配置されている。ダイクロイックミラー572は、励起光の波長の光を反射するとともに、測定する蛍光の波長の光を透過するものである。
検出器56は、ダイクロイックミラー572を挟んで容器保持部58とは反対側の位置に配置されている。検出器56には、例えばシリコンフォトダイオードにより光電変換を行うものが使用される。
【0022】
また、光源55とダイクロイックミラー572との間には、励起光用フィルタ573が配置され、ダイクロイックミラー572と検出器56との間には蛍光用フィルタ574が配置されている。525nmの緑色光が励起光として使用される場合、510〜545nm程度の波長域の光を透過し、それ以外の波長域の光を反射するものが励起光用フィルタ573として使用される。この場合、測定する蛍光の波長は550〜630nm程度であり、蛍光用フィルタ574としては、570〜610nm程度の波長域の光を透過し、それ以外の波長域の光を反射するものが使用される。尚、集光レンズ571は、光源55からの光を細いビームにして測定位置に照射するとともに、測定対象の液相材料から発せられた蛍光を集めて検出器56に入射させるものである。
【0023】
尚、
図3に示す制御ボックス59内には、不図示の制御部が設けられている。制御部は、各部の制御や信号処理を行うものであり、各種プログラムを実行するプロセッサ、データやプログラムを記憶するためのメモリ等を備えている。プログラムの中には、操作メニューをディスプレイ53に表示するための表示プログラムや、検出器56からの出力を処理して測定結果を得るための測定プログラムが含まれている。
【0024】
このような蛍光光度計を使用して測定を行う場合、試薬液キットを用意し、個装袋2を破って試薬液容器1を取り出す。そして、試料を所定量採取し、蓋13を開けて開口から試薬液容器1内に投入する。投入された試料は、希釈液収容部12内の希釈液4に混合される。希釈液4は試料の投入量との関係で所定の量で収容されており、試料は所定の濃度で希釈液4に溶解される。
【0025】
この状態で、試薬液容器1は挿入孔580からケーシング50内に挿入され、容器保持部58に装着される。これにより、試薬液容器1の試薬液収容部11が測定位置に位置した状態となる。そして、開閉蓋52が閉じられた後、測定ボタン541が押されて光源55が点灯し、1回目の測定が行われる。この測定では隔壁121は破断されていないので、測定されるのは試料未投入の状態の試薬液3からの発生蛍光の強度である。
【0026】
1回目の測定が終わったら、測定者は、不図示の治具等により隔壁121を破断する。この結果、試料が溶解している希釈液4が試薬液収容部11に移動し、試薬液3に混合される。尚、詳細な図示は省略されているが、希釈液3のうちの一部が滴下して試薬液3に混合されるようになっている。この後、測定ボタン54をもう一度押し、2回目の測定を行う。不図示の制御部が備える測定プログラムは、上記2回の測定における検出器56からの出力について比を取り、その結果から試料の同定又は定量を行う。同定又は定量の結果は、ディスプレイ53に表示される。
【0027】
尚、上記のように、実施形態の試薬液キットにおいて、試薬液容器1の試薬液収容部11は、蛍光光度計に試薬液容器1が装着された際、測定位置に位置する部位となっている。試薬液収容部11が測定位置に位置されない部位であっても良いのであるが、最初に試料未投入の状態の試薬液について励起光を照射して発生蛍光を測定する必要がある。このため、試薬液収容部11が測定位置に位置されない部位であると、測定の際には試薬液収容部11内の試薬液を測定位置まで移動させる必要が生じ、煩雑となり、また容器の構造も複雑となる。試薬液収容部11が測定位置に位置する構造とし、まず試料を投入しない状態で1回目の測定を行い、試薬液容器1をそのままの位置とし、試薬液収容部11に試料を投入して2回目の測定を行う構造が、シンプルで操作も容易な構造である。
【0028】
このような実施形態の蛍光測定用試薬液キットの大きな特徴点は、試薬液容器1における各部の材質の選定や、試薬液及び希釈液の収容構造にある。以下、この点について詳しく説明する。
容器の材質や液の収容構造を考える上で重要な点は、前述したように液の劣化防止の観点である。この観点では、ガラス製の容器とすることが考えられる。しかしながら、ガラス製の容器は、破損し易いという欠点がある。オンサイトでの使用を考慮すると、キットの輸送を考慮しなければならず、破損し易いという欠点は大きなマイナス要因となる。
【0029】
別の観点は、コストの面である。試薬液容器1は、所定量の試薬液や希釈液をユーザーに提供するためのものであり、基本的には使い捨てとされる。使用後に容器内を空にして再度利用することもあり得ないではないが、回収や洗浄等のコストを考えると、使い捨てとするのが合理的である。この場合、ガラス製の容器はコスト高となる欠点がある。
このように、破損しにくさやコストの面を考えると、ガラス製の容器は実用的ではなく、樹脂製の容器を使用することになる。その一方、樹脂製の容器を使用した場合、自家蛍光の問題や内部の液の劣化の問題が顕在化し得ることが、発明者の研究において判明した。
【0030】
まず、自家蛍光の問題について説明すると、上述したような試薬液容器1を使用し、十分な精度で蛍光測定を行うためには、試薬液容器1からの自家蛍光を少なくすることが肝要である。自家蛍光とは、観察したい対象成分や部位以外から発生する蛍光を広く意味するが、ここでは、測定対象の液相材料を収容している容器自体から発生する蛍光を意味する。容器内の液相材料に励起光を照射すると、液相材料に加えて容器自体にも励起光が照射されることが避けられないから、液相材料中の蛍光成分が励起されて蛍光が発生する以外に、容器自体からも蛍光が放出されることがある。これが自家蛍光である。
【0031】
自家蛍光が多く発生し、それが検出器56で捉えられてしまうと、本来の測定値に多くのバックグラウンドノイズが含まれることになるので、測定精度が著しく低下してしまう。自家蛍光の中には、目的とする試薬や試料からの蛍光とは波長が異なるため、蛍光用フィルタ574で除去できる(蛍光用フィルタ574を透過できない)場合もある。しかしながら、同じ励起光で励起するため、試薬や試料からの蛍光と波長が重なっていたり、波長が近い場合が多く、蛍光用フィルタ574では除去できない場合がしばしばである。
【0032】
このようなことから、試薬液容器1の材質は、自家蛍光が少ないものであることが必要である。特に、実施形態の試薬液容器1では、試薬液収容部11が測定位置に位置し、励起光に晒されるため、自家蛍光が少ない材料が選定されなければならない。ガラスの場合には自家蛍光が問題になることは少ないが、樹脂の中には自家蛍光が多く発生するものがあり、注意が必要である。発明者の研究によると、自家蛍光が少ない樹脂材料として好適なのは、ポリスチレン、アクリル(例えばPMMA)等である。
【0033】
一方、容器内の液の成分劣化の観点では、樹脂製の容器を使用した場合、内部の液からの気化物が容器の器壁を透過して漏れ出てしまう問題がある。気化物としては水(水蒸気)の場合が多い。ガラスでは気化物の漏出は少ないものの、樹脂製の容器では意外に多くの量が漏れ出る。
図4は、代表的な樹脂の水蒸気透過度を示した表である。
図4に示す水蒸気透過度のデータは、日本工業出版(株)発行「プラスチックス」Vol.51, No6, pp119-127「プラスチック材料の各動特性の試験方法と評価結果」から抜粋されたものである。
図4に示すように、幾つかの樹脂において高い水蒸気透過度が示されている。試薬液収容部11の材質としてこのような高い水蒸気透過度の材料を選定した場合、水を主成分とする溶液に試薬を所定の濃度で溶解して所定の量で試薬液収容部11に収容したとしても、溶液中の水分が気化して経時的に漏出してしまう結果、濃度が大きく変化してしまうことになる。そして、それが原因で蛍光測定の精度が大きく低下してしまうことがあり得る。従って、容器の材質は、気化物の透過度が低い材料とすべきである。
【0034】
しかしながら、自家蛍光が少ないという観点と、気化物の透過度が少ないという観点とは、両立しない場合もある。例えば、前述したようにポリスチレンは自家蛍光が少ないので好適であるが、
図4に示すように、ポリスチレンの水蒸気透過度は30g/m
2・24hである。薬品類等の容器の材質として比較的採用されることの多いポリプロピレンは1.6g/m
2・24hであり、これに比べるとかなり多い。従って、自家蛍光が少ないことを最優先してポリスチレンを採用してしまうと、内部から水蒸気が多く漏出してしまい、成分劣化の問題が顕在化してしまうことがあり得る。
【0035】
実施形態の蛍光測定用試薬液キットは、このような各観点を総合的に考慮し、容器の材質の選定や容器の構造を最適化している。具体的に説明すると、実施形態の試薬液容器1は、希釈液収容部12全体における希釈液の気化物の外部への単位時間あたりの漏出量をa、試薬液収容部11全体における試薬液の気化物の外部への単位時間あたりの漏出量のbとしたとき、希釈液収容部12及び試薬液収容部11はa>bとなる材質及び構造となっている。
【0036】
より具体的に説明すると、
図1に示すように、まず、希釈液収容部12のサイズは試薬液収容部11よりも大きく、希釈液の収容量は試薬液よりも多い構造となっている。一例を示すと、試薬液は10〜100μL(マイクロリットル)程度、希釈液は1〜10mL(ミリリットル)程度の量で収容される。より具体的な例としては、試薬液35μL、希釈液2mLが挙げられる。
このように希釈液の収容量が試薬液に比べて圧倒的に多いのは、蛍光色素や抗体といった試薬は高価な場合が多いというのが理由の一つである。即ち、高価な試薬はコスト上の理由から必要最小限の使用量とすべきで、そのために試薬液の量も少なくなる。そして、試薬の量が少ないので、試料もそれに合わせて希釈液で所定の濃度まで薄める必要があり、そのために相当量の希釈液が必要である。また、試料を希釈液に均一に希釈してから試薬液に投入する必要もある。このような事情のため、試薬液に比べて希釈液の量はかなり多くなる。
【0037】
また、試薬液収容部11は、前述したように自家蛍光が少ない材料で形成されている。少ないとは、励起光で励起された際に内部の試薬液よりは発生蛍光が少ないということである。具体的には、前述したポリスチレン又はアクリル(例えばPMMA)から適宜選定される。
一方、希釈液収容部12の材料には、容器の材質としての使用実績、水蒸気透過度の低さ等を考慮し、ポリプロピレンが用いられている。つまり、実施形態の試薬液容器1は、二つの部位11,12が異なる材料で形成されている。
【0038】
このように、実施形態の試薬液容器1は、試薬液収容部11がポリスチレンで形成され、希釈液収容部12がアクリル(例えばPMMA)で形成されているので、試薬液収容部11の材質の方が少なくとも水蒸気透過度に関しては希釈液収容部12よりも高くなっている。この場合の問題は、前述したように、試薬液収容部11内の希釈液から気化した水蒸気が漏れ出てしまうことで試薬液が濃度変化してしまうことである。
この問題を解決するため、実施形態の試薬液容器1は、希釈液収容部12の構造に工夫を加え、希釈液収容部12全体における気化物の漏出速度(単位時間あたりの漏出量)が試薬液収容部11に比べて大きくなるようにしている(前述したa>b)。この工夫は、希釈液の収容量は試薬液に比べて多いので、気化成分の漏出は希釈液の方に優先的に生じた方が問題が少ないという考えに基づいている。
【0039】
上記a>bを達成するため、実施形態の試薬液容器1は、希釈液収容部12の開口を塞ぐ蓋13について、嵌め合わせ構造を採用し、液密としつつも非気密とした構造としている。即ち、蓋13が開口に嵌め合わされて開口を塞いだ状態では、開口から液相状態では希釈液は漏出しないが、気化物は漏出可能な状態に意図的にしている。このような薬液を収容した容器の蓋は、パッキン付きの蓋にして液密且つ気密の構造とすることが多いが、実施形態では液密且つ非気密にしている。
【0040】
このような構造とすることは、実施形態の試薬液容器1がガスバリア性の個装袋2に収容されたものであることと密接に関連している。即ち、試薬液収容部11内において試薬液の各気化成分は飽和蒸気圧に達して平衡し、希釈液収容部12内において希釈液の各気化成分は飽和蒸気圧に達して平衡している。このうち、非気密としている蓋13の部分から希釈液の気化物が漏出する。ガスバリア性の個装袋2に封入されているため、希釈液の気化物の漏出はいつまでも続く訳ではなく、気化物が個装袋2内に充満し、希釈液収容部12内の圧力と個装袋2内の圧力とが同一になった時点で停止する。つまり、希釈液収容部12の外が希釈液収容部12内の気化物にとって飽和蒸気圧に達した時点で漏出は停止する。
【0041】
その一方、試薬液収容部11では、嵌め合わせた蓋13のような局所的に非気密である箇所はないので、ポリスチレンのような水蒸気透過度の高い材質で器壁が形成されていても、全体としては希釈液収容部12よりは気化物の漏出速度は低い。従って、希釈液収容部12からの希釈液の気化物の漏出が優先的に生じ、試薬液収容部11からの試薬液の気化物の漏出は非常に少なくなるか又は実質的にゼロになる。つまり、試薬液収容部11から試薬液の気化物の漏出が始まる前に希釈液の気化物が漏出して個装袋2内に充満して平衡に達してしまう。このため、試薬液の気化物の漏出は非常に少なくなるか又は実質的にゼロになる。
【0042】
前述したように、希釈液の収容量は試薬液の収容量に比べて多い。このため、希釈液にその気化物の漏出が生じたとしても、測定全体に与える影響は、試薬液の気化物が漏出する場合に比べて少ない。特にこの実施形態では、希釈液は試薬液の10倍以上と圧倒的に多い量となっている。このため、希釈液に気化物の漏出が生じて多少成分が変化したとしても、試薬液にそれが生じる場合に比べると、測定に与える影響は殆ど問題にはならない。
【0043】
図5は、前述した希釈液の優先的な漏出について確認した実験の結果を示した図である。
図5に結果を示す実験では、前述した実施形態の構造の試薬液容器を使用し、試薬液収容部に試薬液75μL、希釈液収容部に希釈液2mLをそれぞれ収容したタイプのものを5つ用意した(以下、タイプ1という)。また、別のタイプとして、試薬液収容部に試薬液75μL収容し、希釈液収容部は空とした状態のものを5つ用意した(以下、タイプ2という)。各タイプで、容器の大きさ、材質の組み合わせ、構造はどれも同じである。
【0044】
各5つの試薬液容器はそれぞれ遮光性ガスバリア性ラミネート袋より成る個装袋に封入され、経時的に収容量がどの程度減少するかが調べられた。即ち、一定期間経過後、順次個装袋から取り出して各液の収容量を計測した。
図5(1)には、タイプ1の試薬液容器における試薬液及び希釈液の収容量の経時的な変化が示され、(2)にはタイプ2の試薬液容器における試薬液の収容量の経時的な変化が示されている。
図5中の各グラフにおいて、横軸は経過日数、縦軸は重量変化である。重量変化は、実験開始時の重量をゼロとして示されている。
【0045】
図5(1)に示すように、タイプ1の試薬液容器では、希釈液は5日経過の時点で2.5mg(≒5μL)程度まで急激に減少しており、その後はほぼ減少はなくなっている。一方、試薬液については、27日程度経過するまで減少は殆ど観測されていない。また、
図5(2)に示すように、タイプ2の試薬液容器1では、タイプ1の希釈液ほど急激ではないものの、日数の経過に伴って徐々に試薬液は減少しており、27日程度経過の時点で2mg(≒2μL)程度の減少量となっている。尚、この実験では、試薬液収容部や希釈液収容部に収容された液相材料はPBS−T溶液(界面活性剤入りリン酸緩衝生理食塩水)とした。従って、両収容部における主な気化物は水(水蒸気)であると推定される。
【0046】
図5(1)に示す結果は、実施形態の試薬液容器1の構造では、希釈液収容部12からの希釈液の気化物の漏出が優先的に生じ、この結果、個装袋2内は希釈液の気化物で先に満たされてしまうことを示していると考えられる。試薬液の収容量の減少(気化物の漏出)が生じていないのは、この希釈液の気化物の優先的な漏出が原因であると考えられる。その一方、希釈液収容部12に希釈液を収容しない場合(タイプ2)では、希釈液収容部12からの希釈液の気化物の漏出がないため、試薬液収容部11から試薬液の気化物が漏出せざるを得ず、個装袋2内の圧力が試薬液収容部11内と同じ飽和蒸気圧になるまで露出が続いてしまうものと考えられる。
【0047】
ここで重要なのは、実施形態の試薬液容器1において、試薬液収容部11の材質自体はポリスチレンであり、ポリプロピレンである希釈液収容部12に比べて水蒸気透過度が高い点である(
図4参照)。つまり、器壁自体については試薬液収容部11の方が気化物の透過度が高いにも拘わらず、試薬液の減少は実質的に生じておらず、減少は希釈液の方に生じている。つまり、実施形態の試薬液容器1では、蓋13の部分が非気密になっているため、この部分での気化物の漏出速度が非常に高くなっており、この結果、希釈液収容部12全体の希釈液の気化物の漏出速度aが、試薬液収容部11全体の試薬液の気化物の漏出速度bに比べて高くなったということであると理解される。このような構造のため、試薬液において減少が生じず、希釈液において専ら減少が生じるものと考えられる。
ちなみに、
図5に示す実験結果から計算すると、タイプ1において、希釈液収容部からの希釈液の気化物の漏出速度は0.42mg/24h程度である。また、タイプ2において、試薬液収容部からの試薬液の気化物の漏出速度は0.077mg/24h程度である。
【0048】
このように、実施形態の蛍光測定用試薬液キットでは、試薬液容器1が遮光性の袋2に封入されているため、試薬液や希釈液が光で劣化することがない上、量の多い希釈液において専ら気化物の漏出が生じるため、気化物の漏出が測定精度に与える影響を問題にならない程度に小さくすることができる。このため、オンサイト測定のように特別な施設以外で蛍光測定する場合であっても精度の高い測定が行える。
【0049】
試薬液収容部11の材質よりも希釈液収容部12の材質の方が気体透過度が高いにも拘わらずa>bが達成される蓋13の構造、即ち液密且つ非気密の構造は、単なる嵌め合わせ(ネジ込みによらない嵌め合わせ)の場合、人が手で開けられる程度の嵌合強さとしておくことで達成できる。即ち、蓋13と開口とを同じ形状としておき、蓋13の剛性や開口を形成する部材の剛性に応じて両者の寸法を最適にしておくことで達成できる。液密であって且つ人が手で開けられる程度の強さの嵌め合わせの場合、気密にはできず気化物は漏出していく。
上記以外の構造としては、蓋13を、ペットボトル等で見られるようなネジ込み式(スクリュー式)としても良い。この場合、パッキンを設けてしまうと気密構造となってしまうことが多いので、パッキンを設けない構造のネジ込み式とする。
【0050】
また、別の実施形態として、蓋13の部分を気密構造とする場合は、希釈液収容部12の方が試薬液収容部11より気化物の透過度が高くなるよう各々の器壁の材質を選定する必要がある。例を挙げると、試薬液収容部11がポリスチレン又はアクリル(例えばPMMA)で形成されているとすると、希釈液収容部12はポリカーボネート(水蒸気透過度44g/m
2・24h)又はナイロン6(水蒸気透過度47g/m
2・24h)で形成されることが望ましい。このように材質を選定することで、上記a>bを達成することができる。
【0051】
尚、蓋13の部分は液密であることが必須であるが、試薬液キットは輸送等の際に上下逆さまにされることもあり得るので、試薬液容器1を逆さまにしても液漏れが無い構造であることが望ましい。
また、個装袋2は、容積の小さいものとしておく方が望ましい。上記のように、実施形態の試薬液キットは容器からの気化物の漏出があっても個装袋2の内の制限された空間内で限定されることを前提にしている。従って、容積の大きな個装袋2を使用してしまうと、飽和蒸気圧に達するまでの気化物の漏出量が多くなってしまうので、場合によっては問題が生じ得る。
【0052】
尚、個装袋2は、内部に試薬液容器1を封入するためのものであるが、2個以上の試薬液容器1を1つの個装袋2に封入する場合もあり、1個のみの試薬液容器1が封入されるものに限定される訳ではない。
また、個装袋2の封止については、液密且つ気密な封止である必要があるが、液密且つ気密な封止箇所に加えてチャックで封止する箇所を有するものであっても良い。チャック封止は、食品等の包装用でよく見かけられるが、試薬液容器1を使用した後に廃棄する際、個装袋2に入れて閉じるのに便利であるので、採用することもあり得る。
尚、個装袋2の材質のうち、基材シート21としてアルミ以外の材質とすることもあり得る。例えば、金、亜鉛、ニッケル又はそれらの合金等である。