(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ハードウェア構成>
図1は、実施形態の構成の全体を示す図である。
印刷装置500は、例えば電子写真方式によって記録媒体に画像を印刷する装置である。制御装置600は、印刷装置500を制御する装置である。検査装置100は、印刷物から読み取った画像を検査する装置である。印刷装置500と検査装置100はそれぞれ制御装置600と通信線で接続されている。
【0013】
図2は、検査装置100のハードウェア構成を示す図である。
操作部1は、キーボード、マウスなどの入力装置である。
表示部2は、液晶などを用いた表示装置である。
読取部3は、原稿を光学的に読み取って画像データを生成する読取装置である。具体的には、読取部3は、光源、光学系、撮像素子、アナログデジタル変換回路、プラテンガラスを備え(いずれも図示省略)、プラテンガラス上に載せられた原稿に対して光源が光を照射し、原稿で反射された反射光が光学系を介してR(Red)色、G(Green)色、B(Blue)色に分解されて撮像素子に入射する。撮像素子は、入射した光を電気信号に変換し、アナログデジタル変換回路は、この電気信号をアナログデジタル変換してラスタ形式の画像データを生成する。なお、読取部3が、原稿を載せる原稿台と、原稿台に載せられた原稿を1枚ずつプラテンガラス上に搬送する原稿搬送機構とを備えていてもよい。
【0014】
制御部4は、演算装置であるCPU(Central Processing Unit)と、記憶装置であるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を有する(いずれも図示省略)。ROMには、ハードウェアやOS(Operating System)の起動の手順を記述したファームウェアが記憶されている。RAMは、CPUが演算を実行する際のデータの記憶に用いられる。
記憶部5は、例えばハードディスク記憶装置であり、OSやアプリケーションプログラムなどが記憶されており、制御部4がこのOSやアプリケーションプログラムを実行することによって検査装置100の各部を制御する。
通信部6は、通信I/F(Interface)であり、検査装置100と制御装置600との通信を仲介する。
【0015】
<機能構成>
図3は、検査装置100の機能構成を示す図である。これらの機能は、制御部4がOSやアプリケーションプログラムに従って検査装置100のハードウェアを動作させることによって実現される。
最初に、第1取得手段101について説明する。第1取得手段101は、入力データに基づいて印刷された印刷画像を読み取って生成された印刷画像データを取得する。具体的には、次のとおりである。
入力データとは、制御装置600から印刷装置500に入力されるデータであり、印刷装置500は、この入力データに基づく画像を紙等の記録媒体に印刷する。入力データは、ページ記述言語で記述されたベクタデータでもよいし、ラスタデータでもよい。以下、印刷装置500によって画像が印刷された記録媒体を印刷物という。また、記録媒体に印刷された画像を印刷画像という。ユーザは、印刷物を検査装置100の読取部3の原稿台に載せる。読取部3は、印刷物から印刷画像を読み取って印刷画像を表すラスタデータである印刷画像データを生成し、生成した印刷画像データを記憶部5に記憶させる。
【0016】
次に、第2取得手段102について説明する。第2取得手段102は、入力データを取得する。具体的には、検査装置100の制御部4が、通信部6を介して、制御装置600から入力データを受信し、受信した入力データを記憶部5に記憶させる。
【0017】
次に、第1算出手段103について説明する。第1算出手段103は、第1取得手段101によって取得された印刷画像データに基づいて印刷画像の特徴量を算出する。具体的には、制御部4が、印刷画像データに基づいて複数種類の特徴量を算出し、これらの特徴量を成分とする特徴量ベクトルを生成する。複数種類の特徴量は、例えば、フーリエスペクトル、DCT(Discrete Cosine Transform)係数、ウェーブレット変換係数など、いかなるものでもよい。
【0018】
印刷画像の特徴量ベクトルf
iは、次式で表される。このベクトルは、d種類(dは2以上の整数)の特徴量を成分とするd次元ベクトルであり、各成分の下付きの添え字が特徴量の種類を表す。Tは、転置を表す。
【数1】
【0019】
次に、第2算出手段104について説明する。第2算出手段104は、第2取得手段102によって取得された入力データに基づいて参照画像の特徴量を算出する。具体的には、制御部4が、入力データに基づいて、第1算出手段103と同じ複数種類の特徴量を算出し、これらの特徴量を成分とする特徴量ベクトルを生成する。ここで、入力データがページ記述言語などで記述されたベクタデータである場合には、制御部4がベクタデータをラスタデータに変換し、このラスタデータに基づいて特徴量を算出する。
参照画像の特徴量ベクトルf
rは、次式で表される。
【数2】
f
iとf
rの成分で下付きの添え字が同じものは、同じ種類の特徴量である。
【0020】
次に、判定手段105について説明する。判定手段105は、印刷画像の特徴量と参照画像の特徴量と定められたパラメータとを用いた演算によって印刷画像の画質の良否を判定する。具体的には、次のとおりである。
本実施形態では、線形識別関数を用いた判定処理の例を示す(詳しくは、石井健一郎 他、「わかりやすいパターン認識」、オーム社)。制御部4は、参照画像の特徴量ベクトルと印刷画像の特徴量ベクトルの成分毎の差の絶対値と定数1とを成分とするd+1次元のベクトルfを求める。
【数3】
【0021】
次に、制御部4は、印刷画像の評価値gを次式により求める。
【数4】
ここで、wは、d+1次元の重みベクトルであり、印刷画像の画質の良否を判定するためのパラメータである。重みベクトルは、予め初期値が設定されている。この初期値は、評価値gによる判定結果が理想的な判定結果に近づくように予め学習済みであることが望ましい。
【数5】
制御部4は、評価値gが0以上である場合に、印刷画像の画質が良であると判定し、評価値gが0未満である場合に、画質が不良であると判定する。
【0022】
次に、記憶手段106について説明する。記憶手段106は、印刷画像に固有の識別子と、印刷画像の特徴量と、参照画像の特徴量と、判定手段105による判定結果とを対応付けて記憶する。具体的には、次のとおりである。
図4は、判定結果DB(database)150を示す図である。判定結果DB150は、記憶部5に記憶される。印刷画像ID(identifier)のフィールドには、印刷画像に固有の識別子が書き込まれる。この識別子は、読取部3が1ページ分の印刷画像を読み取る度に制御部4が当該印刷画像に割り当てる固有の識別子であり、例えば、1から始まるページ番号などである。印刷画像の特徴量のフィールドには、第1算出手段103で算出された印刷画像の特徴量ベクトルf
iが書き込まれる。参照画像の特徴量のフィールドには、第2算出手段104で算出された参照画像の特徴量ベクトルf
rが書き込まれる。判定手段の判定結果のフィールドには、判定手段105による判定結果(良又は不良)が書き込まれる。目視の判定結果のフィールドには、後述する受付手段107で受け付けられたユーザの目視による判定結果(良又は不良)が書き込まれる。
【0023】
次に、受付手段107について説明する。受付手段107は、目視による印刷画像の画質の良否の判定結果を受け付ける。具体的には、印刷物をユーザが目視観察し、画質の良否を判定し、画質が不良であると判定したページのページ番号を操作部1を用いて入力する。制御部4は、入力されたページ番号に対応するページの再印刷を制御装置600に要求する。制御装置600は、要求されたページに対応する入力データを印刷装置500に送信し、印刷装置500は、当該ページの画像を印刷する。また、制御部4は、判定結果DB150の当該ページ番号(印刷画像ID)に対応する目視の判定結果のフィールドに「不良」を書き込む。
【0024】
次に、第1抽出手段108について説明する。第1抽出手段108は、記憶手段106に記憶された判定結果と受付手段107で受け付けられた判定結果とに基づいて、判定手段105によって画質が良と判定され、且つ、目視によって画質が不良と判定された印刷画像の識別子を記憶手段106から抽出する。具体的には、制御部4は、判定結果DB150において良の判定結果に対応する印刷画像IDのうち、ユーザが入力したページ番号、すなわち、ユーザが目視により画質が不良であると判定したページに対応する印刷画像IDを抽出する。言い換えれば、制御部4は、画質不良と判定すべきであるのに検査装置100が画質不良と判定しなかった印刷画像を抽出する(False Negative(FN)の抽出)。
【0025】
次に、第2抽出手段109について説明する。第2抽出手段109は、記憶手段106に記憶された判定結果と受付手段107で受け付けられた判定結果とに基づいて、判定手段105によって画質が不良と判定され、且つ、目視によって画質が良と判定された印刷画像の識別子を抽出する。具体的には、制御部4は、判定結果DB150において不良の判定結果に対応する印刷画像IDのうち、ユーザが入力しなかったページ番号、すなわち、ユーザが目視により画質が良であると判定したページに対応する印刷画像IDを抽出する。言い換えれば、制御部4は、画質不良と判定すべきでないのに検査装置100が画質不良と判定した印刷画像を抽出する(False Positive(FP)の抽出)。
【0026】
次に、第1修正手段110と第2修正手段111について説明する。
第1修正手段110は、第1抽出手段108によって抽出された識別子に対応する印刷画像の特徴量と当該識別子に対応する参照画像の特徴量とを用いて、判定手段105によって画質が不良と判定されやすくなるようにパラメータを修正する。
第2修正手段111は、第2抽出手段109によって抽出された識別子に対応する印刷画像の特徴量と当該識別子に対応する参照画像の特徴量とを用いて、判定手段105によって画質が良と判定されやすくなるように、第1修正手段110よりも小さい修正量でパラメータを修正する。具体的には、次のとおりである。
【0027】
本実施形態では、最小二乗学習を用いた修正処理の例を示す(詳しくは、石井健一郎 他、「わかりやすいパターン認識」、オーム社)。修正するパラメータは、前述の重みベクトルである。制御部4は、次式によって重みベクトルを修正する。w
mは、修正後の重みベクトル、ρは刻み幅、tは教師信号である。
【数6】
教師信号tは、目視による判定結果に応じて次の値を設定する。
【数7】
【0028】
刻み幅ρは、1よりも非常に小さい値とする。また、FNが抽出された場合とFPが抽出された場合とで刻み幅ρを異ならせ、FPが抽出された場合よりもFNが抽出された場合の方が大きくなるように刻み幅ρを設定する。
【数8】
【0029】
<動作>
次に、検査装置100の動作について説明する。
検査に先立って、ユーザは、制御装置600に対して画像の印刷を指示する。すると、制御装置600から印刷装置500に入力データが入力され、この入力データに基づいて印刷装置500が画像を印刷する。制御装置600は、この入力データを記憶している。ユーザが読取部3の原稿台に印刷物を載せ、操作部1を用いて検査の開始を指示すると、制御部4が以下の手順で処理を実行する。
【0030】
図5は、検査装置100の動作を示す流れ図である。
ステップS001においては、第1取得手段101としての読取部3が、印刷物から印刷画像を読み取って印刷画像データを生成する。
ステップS002においては、第2取得手段102としての制御部4が、制御装置600に入力データを要求し、制御装置600から送信された入力データを受信する。
ステップS003においては、制御部4が、印刷画像及び参照画像のページカウンタpに1を設定する。
【0031】
ステップS004においては、第1算出手段103としての制御部4が、第pページの印刷画像の特徴量ベクトルを算出する。
ステップS005においては、第2算出手段104としての制御部4が、第pページの参照画像の特徴量ベクトルを算出する。
ステップS006においては、判定手段105としての制御部4が、第pページの印刷画像の画質の良否を判定する。
【0032】
ステップS007においては、記憶手段106としての制御部4が、第pページの印刷画像IDと印刷画像の特徴量ベクトルと参照画像の特徴量ベクトルと判定手段105による判定結果とを対応付けて判定結果DB150に書き込む。
ステップS008においては、制御部4が、印刷画像及び参照画像の全ページに対してステップS004からS007の処理が完了したか否かを判定する。完了していない場合(ステップS008:NO)には、ステップS009に進み、完了した場合(ステップS008:YES)には、ステップS010に進む。
ステップS009においては、制御部4が、ページカウンタpに1を加算し、ステップS004に戻る。
【0033】
ステップS010においては、受付手段107としての制御部4が、目視による判定結果を受け付け、判定結果DBに書き込む。
ステップS011においては、制御部4が、ページカウンタpに1を設定する。
ステップS012においては、第1抽出手段108としての制御部4が、判定結果DB150の第pページに対応するレコードを参照し、当該レコードがFNに該当するか否かを判定する。FNに該当する場合(ステップS012:YES)には、ステップS013に進み、FNに該当しない場合(ステップS012:NO)には、ステップS014に進む。
ステップS013においては、第1修正手段110としての制御部4が、パラメータを修正する。
【0034】
ステップS014においては、第2抽出手段109としての制御部4が、判定結果DB150の第pページに対応するレコードを参照し、当該レコードがFPに該当するか否かを判定する。FPに該当する場合(ステップS014:YES)には、ステップS015に進み、FPに該当しない場合(ステップS014:NO)には、ステップS016に進む。
ステップS015においては、第2修正手段111としての制御部4が、パラメータを修正する。
【0035】
ステップS016においては、制御部4が、ページカウンタpに1を加算し、ステップS012に戻る。
ステップS017においては、制御部4が、判定結果DB150の全レコードに対してステップS012又はS014の処理が完了したか否かを判定する。完了していない場合(ステップS017:NO)には、ステップS016に進み、完了した場合(ステップS017:YES)には、処理を終了する。
このようにして修正されたパラメータは、次回の検査において、印刷画像の評価値gの算出に用いられる。
【0036】
本実施形態によれば、判定手段によって画質が良と判定され、且つ、目視によって画質が不良と判定された場合(FN)に、判定手段によって画質が不良と判定されやすくなるようにパラメータが修正される。従って、この構成を有しない場合と比べて、画質不良の判定漏れが減少する。
また、本実施形態によれば、判定手段によって画質が不良と判定され、且つ、目視によって画質が良と判定された場合(FP)に、判定手段によって画質が良と判定されやすくなるようにパラメータが修正される。
FNの場合とFPの場合とでは、パラメータの修正の方向が逆であるため、FNの場合の修正とFPの場合の修正は、互いの修正を打ち消すように作用する。しかし、本実施形態では、FPの場合の修正量がFNの場合の修正量よりも小さいため、この構成を有しない場合と比べて、画質不良の判定漏れを減少させる作用が打ち消されにくくなる。
【0037】
また、従来は、検査装置の判定結果と目視の判定結果が相違した場合、ユーザがパラメータの修正を行っていたが、パラメータと人間の直感との相関関係は単純なものではなく、また、複数の特徴量に基づくパラメータの修正は、ユーザが直感的に判断するのが困難である。本実施形態では、検査装置が複数の特徴量に基づいてパラメータの修正を行うので、ユーザが修正作業を行う必要がなくなる。
【0038】
<変形例>
上記の実施形態を以下に示す変形例のように変形してもよい。また、実施形態と変形例を組み合わせてもよい。また、複数の変形例を組み合わせてもよい。
<変形例1>
実施形態では、線形識別関数を用いた判定処理の例を示したが、線形基底関数モデルを用いてもよい(詳しくは、C.M.ビショップ、「パターン認識と機械学習」、シュプリンガージャパン)。この場合、次式で示すように、非線形な基底関数φを用いて評価値gを算出する。
【数9】
この場合、重みベクトルの修正式は、次式で表される。
【数10】
【0039】
<変形例2>
パラメータの修正回数が増えるにつれてパラメータが収束するように、次式により刻み幅ρを減衰させるようにしてもよい。ρ
mは修正後の刻み幅、αは時定数、kは修正回数である。
【数11】
また、FNの場合にFPの場合よりも刻み幅ρが減衰しにくくなるように、FNの場合の時定数をFPの場合の時定数よりも小さい値に設定してもよい。
【数12】
【0040】
<変形例3>
実施形態では、複数種類の特徴量を成分とする特徴量ベクトルを用いて画質の良否を判定する例を示したが、1種類の特徴量を用いて画質の良否を判定するようにしてもよい。
実施形態では、FNが抽出された場合とFPが抽出された場合とでそれぞれパラメータを修正する例を示したが、FNが抽出された場合にだけパラメータを修正するようにしてもよい。
【0041】
<変形例4>
印刷画像を複数の領域に分割し、領域毎に画質の良否の判定を行うようにしてもよい。その場合、1ページ分の印刷画像に含まれる領域のうち不良と判定された領域の数が閾値に達した場合にそのページを不良と判定するようにしてもよい。また、印刷画像に分割の境界線を重ねて表示部2に表示し、目視で不良と判定した領域をユーザがマウス等で指定し、指定された領域に対応する印刷画像の特徴量と参照画像の特徴量とを用いてパラメータを修正するようにしてもよい。
【0042】
<変形例5>
実施形態では、ユーザが目視により不良と判定したページのページ番号を入力する例を示したが、目視により良と判定したページのページ番号を入力するようにしてもよい。要するに、目視の判定結果が不良であるか否かを制御部4に認識させるように構成されていればよい。
【0043】
<変形例6>
実施形態では、検査装置100が読取部3を備える例を示したが、読取部3を検査装置100と分離した構成とし、両者を通信線で接続するようにしてもよい。
また、読取部3が検査装置100ではなく印刷装置500に備えられていてもよい。この場合、印刷装置500の読取部に印刷画像を読み取らせ、これによって生成された印刷画像データを検査装置100に入力する。
また、実施形態で例示した検査装置100が印刷装置500又は制御装置600と一体化されていてもよい。また、検査装置100と印刷装置500と制御装置600が一体化されていてもよい。
【0044】
実施形態では、印刷装置500が電子写真方式である例を示したが、印刷装置500は、インクジェット方式などいかなる方式でもよい。
また、実施形態では、制御部4がプログラムを実行することによって検査装置100を動作させる例を示したが、このプログラムを、光記録媒体、半導体メモリ等、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供し、この記録媒体からプログラムを読み取って記憶部5に記憶させるようにしてもよい。また、このプログラムを電気通信回線経由で提供してもよい。また、実施形態と同様の機能をハードウェアで実装してもよい。