【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両用樹脂部品及びその製造方法は、次のような構成を有している。
(1)意匠面を有するパネル本体と、該パネル本体の内側面に立設し、基端部の肉厚が先端部の肉厚より薄く形成されるとともに、リブ延在方向端末の側端部が開放された段付き補強リブとを備えた車両用樹脂部品であって、
前記先端部には、前記基端部より先行して溶融樹脂が供給される樹脂供給口を形成したことを特徴とする。
【0009】
本発明においては、先端部には、基端部より先行して溶融樹脂が供給される樹脂供給口を形成したので、金型のキャビティ内に充填された溶融樹脂が、樹脂供給口から先端部に先行して供給された後に、基端部へ遅れて供給されることになる。そのため、樹脂供給口から先端部に供給された溶融樹脂は、先端部から基端部に向かって流れ込むことができる。したがって、樹脂供給口から供給された先端部の溶融樹脂が先に冷却されて凝固し、その後、先端部から基端部に供給された溶融樹脂が、先端部より遅れて凝固する。その結果、熱容量の大きい先端部における樹脂収縮に伴う引張力がパネル本体のヒケに与える影響を大幅に回避することができる。
よって、本発明によれば、先端部に基端部より先行して溶融樹脂が供給される樹脂供給口を形成する簡単な構造で、パネル本体のヒケ等を低減して、パネル本体及び補強リブの薄肉化と高剛性化を実現することができる。
【0010】
(2)(1)に記載された車両用樹脂部品において、
前記樹脂供給口に連通する樹脂供給路を、前記パネル本体の内側面から前記先端部の下端まで前記段付き補強リブのリブ高さ方向に沿って形成したことを特徴とする。
【0011】
本発明においては、樹脂供給口に連通する樹脂供給路を、パネル本体の内側面から先端部の下端まで段付き補強リブのリブ高さ方向に沿って形成したので、パネル本体を面方向に流れる溶融樹脂は、樹脂供給路を通過して段付き補強リブのリブ高さ方向に移動して樹脂供給口から先端部の下端に供給される。そして、先端部の下端に供給された溶融樹脂は、肉厚の厚い先端部を段付き補強リブのリブ延在方向に移動しながら、速やかに先端部全体に充填される。次に、先端部全体に充填された溶融樹脂は、段付き補強リブのリブ延在方向におけるそれぞれの先端部の下端から肉厚の薄い基端部のパネル本体側に向かって流れ込む。そのため、パネル本体から樹脂供給路を経由して肉厚の厚い先端部全体を先行して充填した溶融樹脂が、肉厚の薄い基端部全体を遅れて充填する、段付き補強リブへの溶融樹脂の供給回路が形成される。したがって、時間的に早く充填された先端部の溶融樹脂は、遅れて充填された基端部の溶融樹脂より先行して凝固を開始する。その結果、熱容量の大きい先端部における溶融樹脂の熱収縮に伴う引張力は、未だ凝固されていない基端部の溶融樹脂によって打ち消され、引張力がパネル本体に与える影響を略回避することができる。
よって、本発明によれば、樹脂供給口に連通する樹脂供給路を、パネル本体の内側面から先端部の下端まで段付き補強リブのリブ高さ方向に沿って形成するという簡単な構造で、パネル本体のヒケ等を低減して、パネル本体及び補強リブの薄肉化と高剛性化を実現することができる。
【0012】
(3)(2)に記載された車両用樹脂部品において、
前記樹脂供給路は、前記基端部の肉厚を前記段付き補強リブのリブ延在方向で部分的に太くして形成したことを特徴とする。
【0013】
本発明においては、樹脂供給路は、基端部の肉厚を段付き補強リブのリブ延在方向で部分的に太くして形成したので、段付き補強リブのリブ延在方向において、基端部における樹脂供給路が形成された箇所の溶融樹脂の流動性が、基端部における樹脂供給路が形成されていない箇所の溶融樹脂の流動性より向上する。そのため、パネル本体を面方向に流れる溶融樹脂を、基端部における樹脂供給路を形成した箇所から、基端部における樹脂供給路が形成されていない箇所より先行して、先端部に供給することができる。
また、樹脂供給路は、基端部の肉厚を段付き補強リブのリブ延在方向で部分的に太くしたのみであるので、段付き補強リブ全体の熱容量に対する樹脂供給路が与える影響は少ない。そのため、樹脂供給路が立設する箇所のパネル本体の外側面には、射出成形時における溶融樹脂の熱収縮に伴うヒケが発生しにくい。また、仮にヒケが発生したとしても、リブ延在方向で部分的であるので、目立ちにくい。
なお、樹脂供給路の前後幅(リブ延在方向と直交する方向)及び左右幅(リブ延在方向)は、基端部の根元側の肉厚の1.5〜2.5倍程度が好ましい。
【0014】
(4)(2)又は(3)に記載された車両用樹脂部品において、
前記樹脂供給路は、前記段付き補強リブのリブ延在方向で間欠的に形成されたことを特徴とする。
【0015】
本発明においては、樹脂供給路は、段付き補強リブのリブ延在方向で間欠的に形成されたので、樹脂供給路は、射出成形後の離型時に、段付き補強リブとともにリブ延在方向と直交する方向へ容易に撓むことができる。そのため、段付き補強リブの負角部を成形するスライド駒を横方向又は傾斜方向へスライドさせる等の複雑な型構造を採用しなくても、射出成形後の離型時に樹脂供給路の影響を受けてパネル本体にヒケ、歪が発生するおそれを防止できる。
【0016】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載された車両用樹脂部品において、
前記先端部の下端は、基端部に向かって徐々に肉厚が薄くなるようテーパ状に形成されたことを特徴とする。
【0017】
本発明においては、先端部の下端は、基端部に向かって徐々に肉厚が薄くなるようテーパ状に形成されたので、先端部に供給された溶融樹脂が、テーパ状の先端部の下端に沿ってリブ延在方向に迅速かつ円滑に流れることができる。先端部の下端が、先端部に供給された溶融樹脂のリブ延在方向への流路の役割を果たす。そのため、先端部に供給された溶融樹脂は、リブ延在方向の異なる位置において、略均等に基端部に流れ込むことができる。したがって、段付き補強リブのリブ延在方向いずれの箇所においても、パネル本体の外側面に発生するヒケを略均等に低減することができる。なお、先端部の下端のテーパ状に形成された傾斜角は、45度程度が好ましい。
【0018】
なお、基端部は、先端部の下端から徐々に肉厚が薄くなってパネル本体と接合する根元側の肉厚が最小(極薄)となるようテーパ状に形成するのが好ましい。パネル本体と接合する根元側の肉厚が最小(極薄)となるようテーパ状に形成することによって、先端部から基端部に向かって流れ込んだ溶融樹脂は、肉厚が最小(極薄)となる根元側に最後に到達する。根元側に到達した溶融樹脂は、パネル本体を面方向に流れる溶融樹脂と合流して、凝固を開始する。そのため、根元側の溶融樹脂とパネル本体の溶融樹脂の凝固タイミングは、略同時になる。その結果、先端部における樹脂収縮に伴う引張力がパネル本体に与える影響をより一層回避することができ、パネル本体の外側面に発生するヒケを更に低減することができる。
【0019】
(6)(1)乃至(5)のいずれか1つに記載された車両用樹脂部品において、
前記基端部の根元側には、前記パネル本体と接合するガゼットリブを前記段付き補強リブのリブ延在方向で間欠的に形成したことを特徴とする。ここで、ガゼットリブは、パネル本体と近接する根元側のみを前記段付き補強リブのリブ延在方向で部分的に補強するリブである。
【0020】
本発明において、基端部の根元側には、パネル本体と接合するガゼットリブを段付き補強リブのリブ延在方向で間欠的に形成したので、基端部の根元側がガゼットリブで部分的に補強されて、段付き補強リブの剛性が向上する。そのため、車両用樹脂部品に外力が作用しても、パネル本体の外側面には、ひずみ、変形等が発生しにくい。なお、射出成形後の離型時にも、ガゼットリブによって、基端部の根元側の起立状態を保持しながら、基端部の根元側より上方のみをリブ延在方向と直交する方向(矢印Yの方向)に負角部を成形する型干渉分だけ撓ませることができる。その結果、ガゼットリブによって段付き補強リブの起立状態を略維持できるので、パネル本体の外側面のヒケ、歪を低減することができる。
【0021】
(7)(1)乃至(6)のいずれか1つに記載された車両用樹脂部品の製造方法であって、
前記先端部には、前記基端部より先行して溶融樹脂を供給することを特徴とする。
【0022】
本発明においては、先端部には、基端部より先行して溶融樹脂を供給するので、金型のキャビティ内に充填された溶融樹脂が、先端部に先行して供給された後に、基端部へ遅れて供給されることになる。そのため、先端部に供給された溶融樹脂は、先端部から基端部に向かって流れ込むことができる。したがって、先行して供給された先端部の溶融樹脂が先に冷却されて凝固し、その後、先端部から基端部に供給された溶融樹脂が、先端部より遅れて凝固する。その結果、熱容量の大きい先端部における樹脂収縮に伴う引張力がパネル本体のヒケに与える影響を大幅に回避することができる。
よって、本発明によれば、先端部に基端部より先行して溶融樹脂を供給する簡単な方法で、パネル本体のヒケ等を低減して、パネル本体及び補強リブの薄肉化と高剛性化を実現することができる。
【0023】
(8)(1)乃至(6)のいずれか1つに記載された車両用樹脂部品において、
前記段付き補強リブは、前記パネル本体の稜線部から略平行に離間して延設されていることを特徴とする。
【0024】
本発明においては、段付き補強リブは、パネル本体の稜線部から略平行に離間して延設されているので、パネル本体において湾曲面の断面曲率が小さく相対的に面剛性が低下する領域を、パネル本体のヒケ等を低減しつつ、効果的に補強することができる。
すなわち、一般に、車両用樹脂部品におけるパネル本体は、意匠面におけるデザイン上の見栄えとパネル剛性とを両立させるために、稜線部と稜線部の間に形成される一般部との組み合わせで形成されている。通常、稜線部近傍の断面曲率は、稜線部間に形成される一般部の断面曲率に比べて大きいので、稜線部近傍は面剛性が高い領域であり、稜線部近傍の薄肉化は容易である。これに対して、稜線部と稜線部の間に形成される一般部は、断面曲率が小さく、面剛性が低い領域であるので、補強リブによって面剛性を高める必要がある。本発明においては、稜線部近傍に比べて相対的に面剛性が低い一般部の領域に、パネル本体の稜線部から略平行に離間して段付き補強リブを延設することで、段付き補強リブの樹脂収縮によるパネル本体のヒケ等を低減しつつ、パネル本体及び段付き補強リブの薄肉化と高剛性化の両方を実現することができる。
【0025】
(9)(8)に記載された車両用樹脂部品の製造方法であって、
前記車両用樹脂部品の射出成形型には、前記段付き補強リブの負角部を成形するスライド駒を備え、
前記スライド駒は、前記段付き補強リブのリブ高さ方向への樹脂収縮に従って前記パネル本体に近接する方向へ移動可能とすることを特徴とする。
【0026】
本発明においては、車両用樹脂部品の射出成形型には、段付き補強リブの負角部を形成するスライド駒を備え、スライド駒は、段付き補強リブのリブ高さ方向への樹脂収縮に従ってパネル本体に近接する方向へ移動可能とするので、金型のキャビティ内に充填された溶融樹脂が冷却してその体積が熱収縮するとき、段付き補強リブの負角部を成形するスライド駒の凸部に段付き補強リブの先端部が当接して、スライド駒をパネル本体に近接する方向へ移動させることができる。そのため、パネル本体の外側面には段付き補強リブのリブ高さ方向への樹脂収縮に伴う引張力が作用することはなく、パネル本体の外側面に発生するヒケを大幅に低減することができる。
【0027】
また、上記引張力は段付き補強リブの基端部にも作用しないので、段付き補強リブの基端部の肉厚を薄くしても、破断するおそれを大幅に低減することができる。仮に、段付き補強リブの基端部にパネル本体からの溶融樹脂と先端部からの溶融樹脂との合流によってウェルドラインが形成されても、段付き補強リブのリブ高さ方向への樹脂収縮に従ってスライド駒はパネル本体に近接する方向へ移動するので、ウェルドラインで亀裂が生じるおそれを低減できる。
したがって、本発明によれば、段付き補強リブの負角部を成形するスライド駒を、樹脂収縮に従ってパネル本体に近接する方向へ移動可能とする簡単な型構造で、パネル本体のヒケ等を低減して、パネル本体及びリブの薄肉化と高剛性化を実現することができる。
【0028】
(10)(9)に記載された車両用樹脂部品の製造方法において、
前記スライド駒は、前記射出成形型に設けられたリフター装置の昇降板に弾性体を介して連結されていることを特徴とする。
【0029】
本発明においては、スライド駒は、射出成形型に設けられたリフター装置の昇降板に連結されているので、リフター装置の昇降板が上昇するとき、スライド駒も同時に上昇して、段付き補強リブが金型のキャビティ内から脱出すれば、段付き補強リブの負角部がスライド駒と離間する方向に射出成形品を離型させることができる。また、スライド駒は、リフター装置の昇降板に弾性体を介して連結されているので、段付き補強リブのリブ高さ方向への収縮動作に追従して移動することができる。ここで、弾性体は、ばね部材でもガス部材でもよい。 したがって、本発明によれば、スライド駒をリフター装置の昇降板に弾性体を介して連結する簡単な型構造で、パネル本体のヒケ等を防止してパネル本体及び補強リブのより一層の薄肉化と高剛性化を実現することができる。
【0030】
なお、上記弾性体は、スライド駒を昇降板に近接する方向に付勢していることが好ましい。その場合、溶融樹脂がパネル本体のキャビティ内に射入されるときには、スライド駒がパネル本体のキャビティ内に突出しないので、スライド駒がパネル本体のキャビティ内における溶融樹脂の流れを阻害しない。したがって、パネル本体にウェルドラインやボイド等の成形欠陥を生じさせることがない。