特許第6011509号(P6011509)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6011509磁気シールド特性に優れた鋼管及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011509
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】磁気シールド特性に優れた鋼管及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20161006BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20161006BHJP
   C22C 38/50 20060101ALI20161006BHJP
   C21D 8/10 20060101ALI20161006BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20161006BHJP
   H01F 1/16 20060101ALI20161006BHJP
   H01F 27/36 20060101ALI20161006BHJP
   B21B 3/00 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   C22C38/00 303S
   C22C38/00 301Z
   C22C38/06
   C22C38/50
   C21D8/10 A
   C21D8/12 F
   H01F1/16 Z
   H01F27/36 B
   B21B3/00 D
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-216309(P2013-216309)
(22)【出願日】2013年10月17日
(65)【公開番号】特開2015-78412(P2015-78412A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2015年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 昌利
(72)【発明者】
【氏名】岡部 能知
(72)【発明者】
【氏名】豊田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】河端 良和
(72)【発明者】
【氏名】小久保 信作
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−149081(JP,A)
【文献】 特開平02−145723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 1/00−11/00
B21B 3/00
H01F 1/16
H01F 27/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気シールド用の鋼管であって、
該鋼管が、質量%で、
C :0.0001〜0.010%、 Si:0.001〜0.50%、
Mn:0.01〜0.50%、 P :0.0001〜0.05%、
S :0.010%以下、 Al:0.0001%以上0.01%未満、
N :0.0001〜0.01%
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、さらに、円周方向に<100>方向、かつ圧延方向(管軸方向)に<011>方向が配向した結晶方位の、X線回折の3次元ランダム強度比が3.0以上で、平均結晶粒径が100〜240μmである組織を有し、円周方向の最大比透磁率μが20000以上、飽和磁束密度Bが1.5テスラ以上、および40ガウス以上の外部磁界下での下記(1)式で定義されるシールド効果S(dB)が45dB以上であることを特徴とする磁気シールド特性に優れた鋼管。

S=20log{外部磁場/内部磁場} ‥‥(1)
【請求項2】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.01〜0.50%、Mo:0.01〜0.50%、Ti:0.001〜0.05%、Nb:0.001〜0.05%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載の鋼管。
【請求項3】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.005%、REM:0.001〜0.05%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼管。
【請求項4】
鋼管を素材とし、該鋼管に縮径圧延と焼鈍処理を施して電磁特性に優れた鋼管とするにあたり、
前記素材となる鋼管を、質量%で、
C :0.0001〜0.010%、 Si:0.001〜0.50%、
Mn:0.01〜0.50%、 P :0.0001〜0.05%、
S :0.010%以下、 Al:0.0001%以上0.01%未満、
N :0.0001〜0.01%
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼管とし、
前記縮径圧延を、前記鋼管を加熱温度:Ac変態点以上1100℃以下に加熱し、縮径率:15%以上で縮径圧延終了温度:(Ar変態点−100℃)以上Ar変態点未満とする圧延とし、円周方向に<100>方向、かつ圧延方向(管軸方向)に<011>方向が配向した結晶方位の、X線回折の3次元ランダム強度比が3.0以上で、平均結晶粒径が100〜240μmである組織を有し、円周方向の最大比透磁率μが20000以上、飽和磁束密度Bが1.5テスラ以上、および40ガウス以上の外部磁界下での下記(1)式で定義されるシールド効果S(dB)が45dB以上である鋼管とすることを特徴とする磁気シールド性に優れた鋼管の製造方法。

S=20log{外部磁場/内部磁場} ‥‥(1)
【請求項5】
前記焼鈍処理を、前記縮径圧延ずみ鋼管に焼鈍温度:650℃以上Ac変態点未満で焼鈍する処理であることを特徴とする請求項に記載の鋼管の製造方法。
【請求項6】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.01〜0.50%、Mo:0.01〜0.50%、Ti:0.001〜0.05%、Nb:0.001〜0.05%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項4または5に記載の鋼管の製造方法。
【請求項7】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.005%、REM:0.001〜0.05%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項ないしのいずれかに記載の鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機器、医療機器や民生機器用の磁気シールド材として好適な、鋼管に係り、とくに、磁気シールド特性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁シールド材(磁気シールド材)として従来から電磁特性に優れた材料の薄板、厚板が使用されてきた。電磁特性に優れた材料としては、磁化容易方向<100>が面内に無方向に配向された無方向電磁鋼板や、磁化容易方向<100>が圧延方向に平行に強く配向された方向性珪素鋼板などがある。
しかし、これら電磁特性に優れた鋼板を、例えばシールド用として使用する場合には、これら鋼板を加工し、溶接等で接合、組み立てして所望形状に仕上げる工程が必要となる。このように、鋼板を素材とする場合には、複雑な工程を必要とするうえ、溶接部等の非定常部が形成され、シールド特性が劣化するという問題があった。このような問題を回避するため、電磁特性に優れた鋼管を素材とすることが考えられる。
【0003】
しかし、電磁鋼板を電縫溶接して電磁特性に優れた鋼管とすることは、電磁鋼板がSi含有量が高く電縫溶接が難しいうえ、電縫溶接部の電磁特性が低下するという問題がある。また、電磁鋼のビレットを使用して電磁特性に優れた継目無鋼管とすることも考えられるが、電磁鋼は延性が低く、製管作業が困難になるという問題がある。
このような問題に対し、例えば特許文献1には、Si、Alを高くした組成の鋼を用い、熱間押出し条件、熱間圧延条件を適正範囲に調整して継目無鋼管とし、ついで、再結晶温度以下で圧延し、さらに最終焼鈍を施す、電磁材料管の製造方法が記載されている。しかし、特許文献1に記載された技術では、熱間押出し工程を必須工程としており製造コストが高いという問題があった。
【0004】
また、特許文献2には、99.5%以上のFeを含み残部が不純物からなる鋼組成の鋼片または鋳片を1100〜1350℃に加熱し、熱間圧延を行って素材としたのち、製管し、500〜1000℃で熱処理する電磁鋼管の製造方法が記載されている。特許文献2に記載された技術によれば、磁気シールド用として十分な特性の鋼管が得られるとしている。しかし、この技術は、熱処理により単に粒成長を図っただけで、結晶方位の配向にまでは配慮されていない。したがって、更なる高い磁気シールド特性を要求される使途には特性が不足するという問題を残していた。
【0005】
また、特許文献3には、質量%で、C:0.004%以下、Si:0.45%以下、Mn:0.01〜1.4%、S:0.01%以下、P:0.025%以下、Al:0.01〜0.06%、N:0.005%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、製管後、減肉率:40%以下あるいは増肉率:40%以下の縮径圧延を施されて得られる、円周方向に<100>方向、且つ圧延方向に<011>方向が配向した結晶方位の、X線の三次元ランダム強度比が3.0以上で、平均結晶粒径が20μm以上である組織を有する電磁シールド材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平02−236226号公報
【特許文献2】特公平07−68579号公報
【特許文献3】特許第5034190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載された技術によっても、最近の磁気シールド材に要求される、高い磁気シールド特性を確保するには、高い温度での熱処理を施す必要があり、製造コストが高騰するという問題があった。
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、優れた磁気特性を有し、磁気シールド特性に優れた鋼管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、鋼管の磁気特性に及ぼす鋼管製造工程の影響について鋭意考究した。その結果、鋼管の磁気特性を向上させるには、結晶粒径が大きい方がよく、そのためには、まず、素管として、できるだけ純度の高い組成の極低炭素鋼管を用いる必要があることに想到した。とくに、Alは、素材鋼板製造時にAlNとして析出し、その後の鋼管製造工程における加熱、縮径、圧延、およびその後の熱処理等における結晶粒成長を抑制し、鋼管の磁気特性向上を阻害するため、0.01%未満、好ましくは0.004%以下に限定する必要があることを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、鋼管の磁気特性を向上させるには、磁化容易軸である<100>方向を、管円周方向に強く配向した結晶集合組織を発達させることが必要であり、そのために、素管に施す縮径圧延をAr変態点直下で完了させる必要があることを見出した。
また、この縮径圧延ままの状態でも、十分に高い磁気特性が得られるが、さらに高い磁気特性を得るには、縮径圧延で形成された集合組織を維持したまま、結晶粒の粗大化を達成することが肝要であり、そのため、縮径圧延後の鋼管に、Ac変態点未満で熱処理を施す必要があることを見出した。しかし、高温での熱処理は製造コストの上昇を招くため、本発明者らは、AlNの析出量を抑え、十分に高い粒成長性を確保できれば、650〜750℃の温度域での熱処理で十分高い磁気特性を確保できることを見出した。
【0010】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)磁気シールド用の鋼管であって、該鋼管が、質量%で、C:0.0001〜0.010%、Si:0.001〜0.50%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.0001〜0.05%、S:0.010%以下、Al:0.0001%以上0.01%未満、N:0.0001〜0.01%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、さらに、円周方向に<100>方向、かつ圧延方向(管軸方向)に<011>方向が配向した結晶方位の、X線回折の3次元ランダム強度比が3.0以上で、平均結晶粒径が100〜240μmである組織を有し、円周方向の最大比透磁率μが20000以上、飽和磁束密度Bが1.5テスラ以上、および40ガウス以上の外部磁界下での次(1)式
S=20log{外部磁場/内部磁場} ‥‥(1)
で定義されるシールド効果S(dB)が45dB以上であることを特徴とする磁気シールド特性に優れた鋼管。
【0011】
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.01〜0.50%、Mo:0.01〜0.50%、Ti:0.001〜0.05%、Nb:0.001〜0.05%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする鋼管。
【0012】
)(1)または2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.005%、REM:0.001〜0.05%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする鋼管。
)鋼管を素材とし、該鋼管に縮径圧延と焼鈍処理を施して電磁特性に優れた鋼管とするにあたり、前記素材となる鋼管を、質量%で、C:0.0001〜0.010%、Si:0.001〜0.50%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.0001〜0.05%、S:0.010%以下、Al:0.0001%以上0.01%未満、N:0.0001〜0.01%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼管とし、前記縮径圧延を、前記鋼管を加熱温度:Ac変態点以上1100℃以下に加熱し、縮径率:15%以上で縮径圧延終了温度:(Ar変態点−100℃)以上Ar変態点未満とする圧延とし、円周方向に<100>方向、かつ圧延方向(管軸方向)に<011>方向が配向した結晶方位の、X線回折の3次元ランダム強度比が3.0以上で、平均結晶粒径が100〜240μmである組織を有し、円周方向の最大比透磁率μが20000以上、飽和磁束密度Bが1.5テスラ以上、および40ガウス以上の外部磁界下での次(1)式
S=20log{外部磁場/内部磁場} ‥‥(1)
で定義されるシールド効果S(dB)が45dB以上である鋼管とすることを特徴とする磁気シールド性に優れた鋼管の製造方法。
【0013】
)()において、前記焼鈍処理を、前記縮径圧延ずみ鋼管に、焼鈍温度:650℃以上Ac変態点未満で焼鈍する処理とすることを特徴とする鋼管の製造方法。
)(または(5)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.01〜0.50%、Mo:0.01〜0.50%、Ti:0.001〜0.05%、Nb:0.001〜0.05%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする鋼管の製造方法。
【0014】
)()ないし()のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.005%、REM:0.001〜0.05%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、磁気特性および磁気シールド特性に優れた鋼管を容易にしかも比較的安価に製造ができ、産業上格段の効果を奏する。本発明によれば、一般的に行われているような電磁鋼板の切断や積層、あるいはくり貫きなどの加工を行うことなく、管形状の電磁シールド材を容易に得ることができ、産業機器、医療機器や民生機器など向けの安価な磁気シールド材として有効に寄与するという効果がある。また、本発明は、自動車等に用いられるロータ、ステータ等のモーター部品への適用により、モーター効率の向上やモーターの小型化などに寄与することも期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】磁気シール特性測定方法の概略を模式的に示す説明図である。
図2】磁気シール特性測定方法の概略を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明では、素材として鋼管を用いる。ここでいう「鋼管」とは、その製造方法をとくに限定する必要はなく、電縫鋼管等の溶接鋼管、継目無鋼管、鍛接鋼管等がいずれも好適に利用できる。まず、素材とする鋼管の組成限定理由について説明する。以下、組成における質量%は、単に%と記す。
C:0.0001〜0.010%
Cは、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、所望の鋼管強度を確保するためには、0.0001%以上含有する必要がある。一方、Cは、磁気特性を低下させる作用を有するために、磁気特性の向上という観点から、さらには結晶粒成長促進の観点から、できるだけ低減することが好ましいが、本発明では、Cは0.010%以下とした。このため、Cは0.0001〜0.010%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.005%以下である。
【0018】
Si:0.001〜0.50%
Siは、脱酸剤として作用するとともに、固溶して鋼管強度を増加させ、さらに磁気特性、とくに鉄損特性を向上させる作用を有する元素である。このような効果を得るためには0.001%以上含有する必要がある。一方、0.50%を超える含有は、磁気特性を低下させるとともに、電縫溶接性を低下させる。このため、Siは0.001〜0.50%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.001〜0.3%である。
【0019】
Mn:0.01〜0.50%
Mnは、固溶強化により鋼管強度の増加に有効に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.50%を超える含有は、延性の低下、電縫溶接性の低下などを招く。このため、Mnは0.01〜0.50%の範囲に限定した。
P:0.0001〜0.05%
Pは、固溶して、鋼管強度の増加に寄与するとともに、磁気特性を向上させる元素である。このような効果を得るためには、0.0001%以上の含有を必要とする。一方、Pは、粒界に偏析する傾向が強く、磁壁の移動を妨げ、磁気特性に悪影響を及ぼす可能性が強く、できるだけ低減することが望ましいが、0.05%までは許容できる。このため、Pは0.0001〜0.05%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.02%以下である。
【0020】
S:0.010%以下
Sは、鋼中では硫化物として存在し、延性、靭性に悪影響を及ぼし、できるだけ低減することが望ましいが、0.010%までは許容できる。0.010%を超える含有は、延性、靭性の低下をもたらす。このようなことから、Sは0.010%以下に限定した。なお、好ましくは0.005%以下である。
【0021】
Al:0.0001%以上0.10%未満
Alは、脱酸剤として作用する元素である。このような効果を得るためには、0.0001%以上の含有を必要とする。一方、多量の含有は、延性を低下させるとともに、介在物を増加させ、磁気特性を低下させる。また、Alは、素材製造工程でAlNを生成し、そのAlNがその後の工程における結晶粒の成長を抑制し、磁気特性を低下させるという悪影響を及ぼす。このような悪影響は、0.10%未満であれば許容できる。このため、Alは0.0001%以上0.10%未満に限定した。なお、好ましくは0.005%以下である。
【0022】
N:0.0001〜0.01%
Nは、固溶元素として鋼管の強度を増加させる作用を有する。このような効果を得るためには0.0001%以上の含有を必要とする。しかし、Nは、Alと結合して、AlNを形成して磁気特性に悪影響を及ぼすため、できるだけ低減することが望ましい。このような悪影響は0.01%以下であれば許容できる。このため、Nは0.0001〜0.01%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.005%以下である。
【0023】
上記した成分が基本の成分であるが、このような基本の組成に加えてさらに、必要に応じて選択元素として、Cu:0.01〜0.50%、Ni:0.01〜0.50%、Cr:0.01〜0.50%、Mo:0.01〜0.50%、Ti:0.001〜0.05%、Nb:0.001〜0.05%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.0001〜0.005%、REM:0.001〜0.05%のうちから選ばれた1種または2種、を含有することができる。
【0024】
Cu:0.01〜0.50%、Ni:0.01〜0.50%、Cr:0.01〜0.50%、Mo:0.01〜0.50%、Ti:0.001〜0.05%、Nb:0.001〜0.05%のうちから選ばれた1種または2種以上
Cu、Ni、Cr、Mo、Ti、Nbはいずれも、鋼管強度を増加させる作用を有する元素であり、必要に応じて選択して1種または2種以上を含有できる。
Cu:0.01〜0.50%
Cuは、固溶して鋼管の強度を増加すると同時に、耐食性を向上させる元素である。このような効果を得るためには0.01%以上含有することが好ましい。一方、0.50%を超える含有は、磁気特性を低下させる。このために、含有する場合には、Cuは0.01〜0.50%の範囲に限定することが好ましい。
【0025】
Ni:0.01〜0.50%
Niは、固溶して鋼管の強度を増加すると同時に、耐食性を向上させる元素である。このような効果を得るためには0.01%以上含有することが好ましい。一方、0.50%を超える含有は磁気特性を低下させる。このために、含有する場合には、Niは0.01〜0.50%の範囲に限定することが好ましい。
【0026】
Cr:0.01〜0.50%
Crは、固溶して鋼管の強度を増加すると同時に、耐食性を向上させる元素である。このような効果を得るためには0.01%以上含有することが好ましい。一方、0.50%を超える含有は磁気特性を低下させる。このために、含有する場合には、Crは0.01〜0.50%の範囲に限定することが好ましい。
【0027】
Mo:0.01〜0.50%
Moは、固溶して鋼管の強度を増加すると同時に、耐食性を向上させる元素である。このような効果を得るためには0.01%以上含有することが好ましい。一方、0.50%を超える含有は磁気特性を低下させる。このために、含有する場合には、Moは0.01〜0.50%の範囲に限定することが好ましい。
【0028】
Ti:0.001〜0.05%
Tiは、炭化物を形成して析出強化により鋼管の強度を増加させる作用を有する元素である。このような効果を得るためには0.001%以上含有することが好ましい。一方、0.05%を超える含有は、二次再結晶での粒成長を阻害する。このために、含有する場合には、Tiは0.001〜0.05%の範囲に限定することが好ましい。
【0029】
Nb:0.001〜0.05%
Nbは、炭化物を形成し析出強化により鋼管の強度を増加させる作用を有する元素である。このような効果を得るためには0.001%以上含有することが好ましい。一方、0.05%を超える含有は、二次再結晶での粒成長を阻害する。このために、含有する場合には、Nbは0.001〜0.05%の範囲に限定することが好ましい。
【0030】
Ca:0.0001〜0.005%、REM:0.001〜0.05%のうちから選ばれた1種または2種
Ca、REMはいずれも、介在物の形態を制御する作用を有し、必要に応じて、1種または2種を含有できる。
Ca:0.0001〜0.005%
Caは、展伸した介在物(MnS)を粒状の介在物とする、介在物の形態制御を介して、成形時の割れおよび亀裂進展を抑制し、成形性および靭性を向上させる元素である。このような効果を得るためには、0.0001%以上含有することが好ましい。一方、0.005%を超えて含有すると、非金属介在物が増加し、延性が低下する。このために、含有する場合は、Caは0.0001〜0.005%の範囲に限定することが好ましい。
【0031】
REM:0.001〜0.05%
REMは、介在物の形態を介し、耐食性を向上させる元素である。このような効果を得るためには、0.001%以上含有することが好ましい。一方、0.05%を超える含有は、磁気特性を低下させる。このため、含有する場合は、REMは0.001〜0.05%の範囲に限定することが好ましい。
【0032】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。なお、不可避的不純物としては、O(酸素):0.01%以下が許容できる。
本発明では、上記した組成を有する鋼管を素材として、該鋼管に、まず縮径圧延を施す。縮径圧延は、素材である鋼管を加熱温度:Ac変態点以上1100℃以下に加熱し、縮径率:15%以上で縮径圧延終了温度:(Ar変態点−100℃)以上Ar変態点未満とする圧延とする。このような縮径圧延を施すことにより、磁気特性に有利な容易磁化軸である円周方向に<100>方向、圧延方向に<011>方向の配向が強くなり、それに伴い磁気特性が向上する。
【0033】
縮径圧延の加熱温度が、Ac変態点未満では素材である鋼管が溶接鋼管の場合に、溶接部の靭性が低下する。また、Ac変態点未満では、変形抵抗が高くなりすぎて、所定量の縮径率を確保することが難しくなるとともに、冷却後の鋼管に縮径圧延歪が残留し磁気特性が低下する。加熱温度の下限値の限定は、所定温度以上の縮径圧延終了温度を確保するために必要となる。一方、1100℃を超える高温では、鋼管の表面性状が低下する。このため、縮径圧延の加熱温度はAc変態点以上1100℃以下に限定した。なお、好ましくはAc変態点〜1080℃である。
【0034】
また、縮径率が15%未満では、縮径量が不足し、結晶粒を所望の結晶方位に配向させにくくなる。このため、縮径圧延の縮径率は15%以上に限定した。なお、好ましくは20%以上である。一方、縮径率が85%を超えると、生産性が低下すると同時に、加工による歪が残存しやすくなり、磁気特性に悪影響を及ぼす。このため、縮径圧延の縮径率は85%以下とすることが好ましい。ここで、縮径率は次式
縮径率(%)=[{(縮径圧延前の外径)−(縮径圧延後の外径)}/(縮径圧延前の外径)]×100%
で計算するものとする。
【0035】
また、縮径圧延の圧延終了温度が(Ar変態点−100℃)未満では、磁気特性向上に好ましい集合組織の形成が不十分となるとともに、結晶粒内に加工歪が残存しやすく、結晶粒も微細化しやすい。一方、縮径圧延の圧延終了温度がAr変態点以上では、所望の結晶方位に配向せず、ランダムな方位となり、所望の磁気特性を確保できなくなる。このため、縮径圧延の圧延終了温度は(Ar変態点−100℃)以上Ar変態点未満に限定した。
【0036】
また、本発明では、縮径圧延ままでも十分高い磁気特性を有しているが、より高い磁気特性を確保するために、縮径圧延後に加工歪の除去および粒成長を図るため熱処理(焼鈍処理)を施してもよい。
また、焼鈍処理を施す前に、減面率で2%以上16%未満の冷間引抜加工を施してもよい。
【0037】
焼鈍処理を施す前に、冷間引抜加工を施すことにより、高い磁気特性を確保することができる。所望の磁気特性を得るためには、焼鈍処理前に行う冷間引抜加工は、重要な工程となる。適度な冷間加工歪(減面率)を加えた後に、焼鈍処理を施すことにより、歪誘起粒成長により、磁気特性に優位な結晶方位が優先的に粗大化し磁気特性が向上する。その理由については、現時点では明確になっていないが、適正範囲の冷間歪を冷間引抜加工により付与することにより、管円周方向に<100>方向が、かつ管軸方向に<110>方向が配向した結晶方位が形成され、その後の焼鈍処理により、その他の方位を有する結晶粒を蚕食しながら優先的に粗大化するためと考えられる。
【0038】
冷間引抜加工における減面率が2%未満では、その後の焼鈍処理による粒成長、磁気特性に優位な結晶方位の発達が不十分となる。一方、減面率が16%以上では、結晶粒成長が不十分で、かつ結晶方位がランダム化するため、所望の磁気特性を確保できなくなる。このため、冷間引抜加工の減面率は2%以上16%未満に限定することが好ましい。なお、より好ましくは3%以上である。
【0039】
焼鈍処理は、縮径圧延済み鋼管に、焼鈍温度:650℃以上Ac変態点未満で焼鈍する処理とする。このような焼鈍処理を施すことにより、結晶粒がさらに成長し、比較的粗大な結晶となり、磁気特性がより向上する。
焼鈍温度が、650℃未満では、結晶粒の粗大化および縮径圧延時に形成された加工歪の除去に対する効果が十分ではない。一方、Ac変態点を超えて高温になると、縮径圧延で形成された集合組織が潰れ、結晶方位がランダム化して、所望の磁気特性を確保できなくなる。このようなことから、焼鈍処理における焼鈍温度は650℃以上Ac変態点未満に限定した。なお、製造コストの上昇を抑えるため、焼鈍処理は650〜750℃での熱処理とすることが望ましい。
【0040】
上記した組成の鋼管を素材とし、上記した条件で縮径圧延、焼鈍処理、あるいは縮径圧延、冷間引抜加工、焼鈍処理を順次施すことにより、円周方向に<100>方向、かつ圧延方向(管軸方向)に<011>方向が配向した結晶方位の、X線回折の3次元ランダム強度比が3.0以上で、平均結晶粒径が100μm以上である組織を有する鋼管となる。
上記したような縮径圧延、焼鈍処理、あるいは縮径圧延、冷間引抜加工、焼鈍処理により得られた、上記したような組成、組織を有する鋼管は、円周方向の最大比透率μが20000以上、飽和磁束密度Bが1.5テスラ以上、および外部磁界40ガウス以上の外部磁界下でのシールド効果S(=20log{外部磁場/内部磁場})が45dB以上である、磁気シールド特性に優れた電縫鋼管となる。
【0041】
以下、さらに実施例に基づき、本発明について説明する。
【実施例】
【0042】
表1に示す組成を有する薄鋼板を冷間で複数のロールにより連続してロール成形し略円筒形状のオープン管とし、該オープン管の相対する端部同士を電縫溶接して得られた電縫鋼管を素材の鋼管とし、該鋼管に表2に示す条件の縮径圧延および焼鈍処理を施し、表2に示す寸法の鋼管(製品)を得た。得られた鋼管(製品)から、試験材を採取し、組織観察、磁気特性を調査した。調査方法はつぎのとおりである。
(1)組織観察
得られた鋼管(製品)から、組織観察用試験片を採取し、管軸方向断面を研磨、ナイタール液腐食して、光学顕微鏡(倍率:200倍)で組織を観察し、撮像して、JIS G 0551に規定される切断法をもちいて、平均結晶粒径を求めた。
また、得られた鋼管(製品)を平板展開して、X線回折用試験片を採取し、肉厚中央部付近から鏡面仕上した試験片を採取した。さらに、化学研磨(フッ酸+過酸化水素)して、測定用試験片とした。測定用試験片について、X線回折装置を用いて反射法による不完全極点図を測定した。得られた結果から、鋼管の円周方向に<100>方向かつ圧延方向に<011>方向が配向した結晶方位の積分強度を、ランダム強度で規格化して三次元ランダム強度比を求めた。なお、X線源はCoKαを用いた。
【0043】
(2)磁気特性
得られた製品鋼管から試験材(長さ:300mm)を採取し、長さ15mmの輪切りにして、切断面を研磨したのち、一次巻数:250巻、二次巻数:100巻として、直流磁化特性を測定した。10000A/mの磁化力Hを作用させて、透磁率を測定し、比透磁率μ、および飽和磁束密度Bを算出した。
【0044】
また、得られた鋼管から長さ300mm長さの試験材を切り出し、電磁シールド特性評価する評価材とした。磁化印加方法は、管の長手方向に平行な方向に磁場が印加される場合(図1)と、管の長手方向に直交する方向に磁揚が印加される場合(図2)の2通りとした。なお、外部磁場は0〜90ガウスの範囲で変化させた。内部磁場の測定は、試験材の内部にガウスメータプロープを設置して、励磁コイルにより発生される外部磁場に対応して測定した。得られた結果からシールド効果S(dB)(=20×log(外部磁場/内部磁場))を求めた。
【0045】
得られた結果を表3に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
本発明例はいずれも、管円周方向の比透磁率μが20000を超え、飽和磁束密度Bが1.5テスラ以上と、優れた磁気特性を有する鋼管となっている。また、本発明例はいずれも、外部磁界40ガウス以上の外部磁界下でのシールド効果Sが40dB以上となり、優れた磁気シールド特性を示している。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、所望の磁気特性を確保できておらず、磁気シールド特性が低下している。
【符号の説明】
【0050】
1 試験材
2 励起コイル
3 ガウスメータプローブ
図1
図2