(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011524
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】米原料配合ベーカリー製品
(51)【国際特許分類】
A21D 13/04 20060101AFI20161006BHJP
A21D 2/18 20060101ALI20161006BHJP
A21D 2/36 20060101ALI20161006BHJP
A21D 10/00 20060101ALN20161006BHJP
A21D 2/26 20060101ALN20161006BHJP
A21D 13/08 20060101ALN20161006BHJP
【FI】
A21D13/04
A21D2/18
A21D2/36
!A21D10/00
!A21D2/26
!A21D13/08
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-505973(P2013-505973)
(86)(22)【出願日】2012年3月21日
(86)【国際出願番号】JP2012057106
(87)【国際公開番号】WO2012128266
(87)【国際公開日】20120927
【審査請求日】2015年1月7日
(31)【優先権主張番号】特願2011-61916(P2011-61916)
(32)【優先日】2011年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-156267(P2011-156267)
(32)【優先日】2011年7月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤井 名苗
(72)【発明者】
【氏名】足立 典史
【審査官】
田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−142189(JP,A)
【文献】
特開平05−007449(JP,A)
【文献】
特開2004−290160(JP,A)
【文献】
特開平10−056947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/FROSTI/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性大豆多糖類を乾燥重量に対して1重量%以上5重量%以下添加することを特徴とする、乾燥原料に対する米原料の割合が15重量%以上である米原料配合パンの口溶けを改良し、かつ体積を増加する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、米原料配合ベーカリー製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本の食糧自給率を向上されるために、輸入に頼っている小麦粉に代わり、米粉を普及させる動きが高まっている。また、「フードマイレージ」の意識も広まりつつあり、国産米粉の消費を増やし、フードマイレージを低くする試みがされている。
中でも、主食として米と並んで消費されるパンを米粉に置換する検討は数多くされている。米を原料に使用したパンは、小麦のみを使用したパンにはないもちもちとした特徴的な食感を有している。
【0003】
しかし、米原料を配合したパンは、小麦粉のみのパンと比べると、口溶けが非常に悪い問題がある。合わせて、澱粉の老化が激しく、経時的にぼそぼそとした食感へと変化しやすく、また粘弾性が低いことで食感が劣る上、米特有の風味を有する問題もある。特許文献1は、米粉を含むパン・菓子類に、弾力性のある柔らかな食感を与えるために茶成分を添加することが開示されているが、茶に由来する風味が残り、使用用途が限られる問題がある。
【0004】
一方、水溶性大豆多糖類は種々の食品に添加することで、老化防止等の効果を与えることができる(特許文献2)。しかし、小麦粉を主たる原料として調製したパン等に添加すると、口溶けが悪化することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−236803
【特許文献2】特開平05−007449
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
米原料配合ベーカリー製品は、もちもちとした食感ではあるが、口溶けが悪く、飲み込みにくい問題があった。また従来の米原料配合ベーカリー製品は、澱粉の老化により経時的にボソついた食感になるという問題もあった。
【0007】
本願発明の目的は、もちもちした食感を維持しながら、口溶けがよく、時間が経っても良好な食感が維持される、米原料配合ベーカリー製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、小麦粉のみを原料とするパン等に添加すると、ねちゃついた食感にすることのある水溶性大豆多糖類を、敢えて、米を原料の一部に使用するベーカリー製品に添加すると、逆に口溶けが非常に良くなり、時間が経ってもボソつきのない良好な食感が維持されること見出し、本願発明を完成させた。
【0009】
即ち、本願発明は、
(1)水溶性大豆多糖類が添加された、米原料配合ベーカリー製品。
(2)水溶性大豆多糖類および米原料が添加された、ベーカリー製品用プレミックス。
(3)乾燥原料に対する米原料の割合が15重量%以上であることを特徴とする、(1)に記載のベーカリー製品、または(2)に記載のプレミックス。
である。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によれば、米原料配合ベーカリー製品に水溶性の大豆多糖類を添加すると、口溶けが非常によくなり、時間が経ってもボソつきのない良好な食感のパンが提供される。また、二次的な効果として、水溶性大豆多糖類を使用することにより、釜伸びが良くなり、米原料配合パンの体積を増加させる効果も有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願発明を具体的に説明する。
(ベーカリー製品)
本願発明の、ベーカリー製品は、食パン,フランスパン,コッペパン,デニッシュ,フォカッチャ,ナン等の各種のパン類、パウンドケーキ,スポンジケーキ,シフォンケーキ,シュークリーム,ロールケーキ,カステラ,フィナンシェ,マドレーヌ等のケーキ類、またクッキー,ビスケット,クラッカー,マカロン等を含む、澱粉を主原料とした生地を焼成して得られたものである。原料としては、通常の小麦粉パン等と同様に、穀粉類,澱粉類,食塩,糖類,乳製品(牛乳,生クリーム,脱脂粉乳,全脂粉乳,ホエーパウダー等),油脂類等を含むことができる。更に必要に応じて、パン酵母,ベーキングパウダー,小麦粉,グルテン,乳化剤,酵素,大豆粉,豆乳等を併用することが出来る。そして、本願発明の米原料配合ベーカリー製品は、上記ベーカリー製品に米原料と水溶性大豆多糖類を含むものである。
【0012】
(米原料)
本願発明における米原料は、玄米や、これを精米した精白米、更にはこれらを粉砕した米粉である。具体的には生米として精白米,玄米,屑米,古米などが使用できるが特に制限されるものではない。米も粳米,もち米から選ばれて使用できる。また、粉砕方法としては、ロールミル,スタンプミル,ピンミル,気流粉砕機,などが例示されるが、湿式,乾式のどちらでも使用することが出来る。米粉の粒度も特に限定されるものではないが、パンでは膨らみが食感に影響するため、50μm以下のものが好ましい。
【0013】
(米原料配合ベーカリー製品)
乾燥原料中に概ね5重量%以上の米原料を含むベーカリー製品は、小麦を主体とするベーカリー製品とは異なり、米の特徴であるもちもちした食感を有する。一方で、咀嚼中に口のなかでまとまり、飲み込みにくい食感が発現される。また、経時的な保存により、澱粉の老化によるボソついた食感が感じられる。しかしながら本願発明を用いれば、これらの米原料を含むベーカリー製品について、その口溶けを改善することができる。その際のベーカリー製品への米原料の添加量は、乾燥ベーカリー製品原料中に15重量%以上が好ましく、20重量%以上が更に好ましく、30重量%以上が最も好ましい。米原料の添加量が増えるに従い、通常のベーカリー製品の口溶けは悪化する一方、本願発明の効果は顕著となる。
【0014】
(副原料)
小麦粉ベーカリー製品と同様に使用される、食塩,砂糖,乳製品,油脂等についても特に制限はなく、任意に配合することができる。また、グルテンを使用することで、米原料の配合を増やしても、ベーカリー製品特有の食感を維持することができる。但し、グルテンを乾物換算で、ベーカリー製品の20重量%を超えて加えると、本願発明を用いなくても口溶けの低下が少ない場合があり、その際は本願発明の効果が薄れる。
【0015】
(副材)
米原料配合ベーカリー製品の生地、若しくは焼成後に、アン,カレー,フラワーペースト,ソース,マヨネーズ,肉,魚,卵,乳製品,野菜など各種惣菜や具材をのせたり、包んだりすることにより、バラエティーに富んだベーカリー製品に仕上げることが出来る。
【0016】
本願発明のベーカリー製品は、各種の多糖類,ガム質及び蛋白質並びにその分解物を併用することが出来る。これら併用物としては、例えば澱粉,加工デンプン,デキストリン,各種セルロース,寒天,カラギーナン,ファーセラン,グアーガム,ローカストビーンガム,タマリンド種子多糖類,タラガム,アラビアガム,トラガントガム,カラヤガム,ペクチン,キサンタンガム,プルラン,ジェランガムなどの多糖類の他、分離大豆蛋白質,ゼラチン等の蛋白質を例示出来る。
【0017】
(水溶性大豆多糖類)
本願発明における水溶性大豆多糖類とは、種々の方法で得られる水溶性大豆多糖類を用いることができる。製造の一例を示せば、豆腐や豆乳、分離大豆蛋白質の製造時に副産物として得られるオカラや、脱脂大豆粕(ミール)を原料として、水系下で蛋白質の等電点付近である弱酸性域で高温抽出し、固液分離により水溶性大豆多糖類を得ることができる。油分,蛋白質が共に少ない、分離大豆蛋白質製造時に副生するオカラが原料に好ましく、抽出温度は100℃を超えると抽出効率が高く好ましい。この様にして得られた水溶性大豆多糖類は、抽出濾液または抽出濾液の精製物を米原料配合ベーカリー製品に使用しても良いし、抽出濾液またはその精製物を更に乾燥した物を米原料配合ベーカリー製品に使用しても良い。
【0018】
(添加量)
水溶性大豆多糖類の添加量は乾燥原料に対して0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上5重量%以下であり、最も好ましくは1重量%以上5重量%以下である。0.1重量%未満では水溶性大豆多糖類の機能が発揮されない場合があり、10重量%以上配合してもコストに対して期待される効果が得られない。
【0019】
(添加方法)
水溶性大豆多糖類は焼成前の生地に添加することが必要であり、発酵を伴う場合は発酵前の生地に添加することが望ましい。添加の方法としては、粉で添加しても、水溶液を調製してから添加しても構わない。生地中に、水溶性大豆多糖類が均一に混ざっていれば機能を発揮することが出来る。
【0020】
(プレミックス)
プレミックスとは、上記のベーカリー製品を調製するための原料を予め混合した粉体物である。プレミックスをそのまま、あるいは幾つかの添加物を加えたものに水等を添加して生地を調製し、ベーカリー製品を焼成することができる。
【0021】
以下に実施例を記載するが、この発明の技術思想がこれらの例示によって限定されるものではない。
【0022】
○比較例1,2(小麦粉パンへの水溶性大豆多糖類への影響)
強力粉を用い、表1の配合に基づき、小麦粉パンをホームベーカリー(National SD-BT101)で焼成した。水溶性大豆多糖類にはソヤファイブーS(不二製油株式会社製)を使用した。
【0023】
(表1)小麦粉パンへの水溶性大豆多糖類への影響
【0024】
(評価方法)
焼成後、1時間放冷した米原料配合パンの重量、および体積を測定した。尚、体積は同一試験で調製した内の1点を基準にした比率(比体積)で表した。また、焼成当日、2日後の食感を官能により評価した。食感については、口溶けの良さ、噛みだしの食感、しっとり感の3項目について以下の表2に従って評価した。10人のパネラーによって評価し、平均点を算出した。
【0026】
結果を表1に示す。比較例1の食感を標準的なパンの食感とし、評価した。水溶性大豆多糖類を添加した小麦粉パンは、ねちゃつきが発生し、口溶けが悪くなっていた。
【0027】
○実施例1〜3,比較例3(グルテン,米粉を配合したパン)
米粉,グルテンを用い、表3の配合に基づき、グルテン入りの米原料配合パンをホームベーカリー(National SD-BT101)で焼成した。水溶性大豆多糖類にはソヤファイブーSを使用した。
【0028】
(表3)グルテン,米粉を配合したパン
【0029】
結果を表3に示す。水溶性大豆多糖類を添加した米原料配合パンは、無添加のものに対して口溶けが良かった。小麦粉パンで認められたようなねちゃつきも認められず、米原料配合パン特有のもちもちした食感を維持していた。水溶性大豆多糖類の添加量としては、約0.5重量%でも食感改良の効果が認められ、1.6重量%以上でその効果が十分に発揮されていた。水溶性大豆多糖類を添加しなかった米原料配合パンでは、口溶けが悪くなり、咀嚼中に口の中でまとまり飲み込み辛い食感になっていた。もちもち感は維持されたものの、水溶性大豆多糖類を添加したものに比べ、しっとり感が劣る傾向にあった。澱粉が老化したことに起因すると考えられた。また、小麦粉パンでは見られなかった効果として、米原料配合パンに水溶性大豆多糖類を添加すると、パンの体積が増加する傾向が認められた。
【0030】
○実施例4,比較例4(グルテン,米を配合したパン)
白米を原料とし、表4の配合に基づき、グルテン入りの米原料配合パンをホームベーカリー(GOPAN: SANYO)にて焼成した。水溶性大豆多糖類にはソヤファイブーSを使用した。
【0032】
結果を表4に示す。白米を原料とした場合でも、水溶性大豆多糖類を添加した米原料配合パンは、無添加のものに対して口溶けが良く、米原料配合パン特有のもちもちした食感を維持していた。水溶性大豆多糖類を添加しなかった米原料配合パンでは、口溶けが悪くなり、もちもち感は維持されたものの、ボソつきが発生する傾向にあった。米原料配合パンに水溶性大豆多糖類を添加すると、パンの体積が増加した。
【0033】
○実施例5〜7,比較例5(グルテンフリー,米粉を配合したパン)
米粉を用い、表5の配合に基づき、グルテンを使用しない米原料配合パンをホームベーカリー(National SD-BT101)で焼成した。水溶性大豆多糖類にはソヤファイブーSを使用した。
【0034】
(表5)グルテンフリー,米粉を配合したパン
【0035】
結果を表5に示す。比較例5のグルテンを使用しない米原料配合パンでは、グルテンを使用したパンよりもちもちした食感が認められたが、口溶けが更に悪くなる傾向にあった。また、経時的なボソつきが発生し、老化感が強かった。しかし、水溶性大豆多糖類を添加すると、グルテンを使用しないことによる口溶けの悪さを改善することが出来た。米原料配合パンの特徴であるもちもち感は維持されており、また体積の増加も同時に認められた。水溶性大豆多糖類の添加量としては約0.5重量%でも食感改良の効果が認められ、1.7重量%以上でその効果が十分に発揮されていた。
【0036】
○実施例8,比較例6(グルテンフリー,米を配合したパン)
白米を原料とし、表6の配合に基づき、グルテンを使用しない米原料配合パンをホームベーカリー(GOPAN: SANYO)にて焼成した。水溶性大豆多糖類にはソヤファイブーSを使用した。
【0037】
(表6)グルテンフリー,米を配合したパン
【0038】
結果を表6に示す。白米を原料とした場合でも、水溶性大豆多糖類を添加した米原料配合パンは、比較例6と比べて口溶けの良い米原料配合パンであった。もちもち感も維持されており、澱粉の老化によるボソつきも抑えられていた。
【0039】
○実施例9〜13,比較例7〜13(一部米粉配合パン)
表7の配合で、米粉量を変化させた際の、水溶性大豆多糖類の効果を検討した。米粉量8重量%の場合、米特有の食感に乏しく、ねちゃつきが発生し、本願発明の効果に乏しかった。米粉量16重量%では本願効果が認められ、24重量%では、非常に強い効果が認められた。
【0041】
○実施例14〜17,比較例14〜17(グルテン添加量と本願効果)
表8の配合で、グルテン量を変化させ、水溶性大豆多糖類の効果を検討した。グルテン量32重量%以上の場合、水溶性大豆多糖類を添加してなくても口どけが小麦パンに近くなり、本願発明の効果に乏しかった。グルテン量24重量%以下では本願効果が認められ、16重量以下%では、非常に強い効果が認められた。
【0043】
○比較例18,実施例18(パウンドケーキ)
表9の配合にて、米粉を用いたパウンドケーキを作成した。比較例18では食感が重く口溶けの悪いケーキであったが、大豆多糖類を配合した実施例18では、ふんわりした軽い食感で、非常に口溶けも良好であった。