(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記の繊維群Aの体積割合は30〜70vol%、繊維群Bの体積割合は5〜30vol%、繊維群Cの体積割合が0〜65vol%であることを特徴とする、請求項1に記載の混繊不織布。
不織布が、濾過風速4.5m/minにおける粒子径0.3〜0.5μmのポリスチレン粒子の捕集効率が99.9%以上かつQF値が0.20以上の不織布であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の混繊不織布。
【背景技術】
【0002】
従来から、気体中の花粉や塵等を除去するためにエアフィルターが使用されており、そのエアフィルターの濾材として不織布が多く用いられている。中でも、不織布の製造法の一つであるメルトブロー法は、エアフィルター製品の濾材や電池セパレータ等々の製造に幅広く使用されている。メルトブロー法は、一般に、紡糸口金から押し出された熱可塑性ポリマーを熱風噴射することにより繊維状に細化し、得られた繊維の自己融着特性を利用して繊維ウェブとして形成せしめる方法であり、スパンボンド法等の他の不織布の製造法に比べて、複雑な工程を必要とせず、また数10μmから数μm以下の細い繊維が容易に得られるという利点をもつ。
【0003】
エアフィルターに要求される性能は、ミクロなダストを多く捕集できる高捕集効率、および、エアフィルター内部を気体が通過する際に抵抗が少ない低圧力損失である。上記の高い捕集効率を有する濾材を得るためには、不織布を構成する繊維が細繊度であることが適しているが、その一方で、その不織布が潰れやすくなり、繊維密度が増加することにより圧力損失が高くなるという課題がある。また、圧力損失が低い濾材を得るためには、不織布を構成する繊維が太繊度であることが適しているが、その一方で、不織布内の繊維表面積が減少してしまい、捕集効率が低下する。このように、高捕集効率を有することと、低圧力損失を有することは相反する関係にあるものである。
【0004】
上記の問題点を解決する方法として、不織布をエレクトレット化し、物理的作用に加えて静電気的作用を利用することにより、高捕集かつ低圧力損失を同時に満足させる試みがなされている。
【0005】
例えば、アース電極上に不織布を接触させた状態で、このアース電極と不織布を共に移動させながら非接触型印加電極で、高圧印加を行なって連続的にエレクトレット化する、エレクトレット不織布の製造法が提案されている(特許文献1参照。)。これは、不織布内に、電子の注入、イオンの移動および双極子の配向などを生ぜしめることにより、分極させ、不織布に電荷を付与するというものである。
【0006】
また、不織布を構成する繊維に対して、繊維に添加剤を添加することにより、高捕集効率を有しかつ低圧力損失特性を持つ不織布を得る方法が提案されており、例えば、高分子重合体に、ヒンダードアミン系、含窒素ヒンダードフェノール系、金属塩ヒンダードフェノール系あるいはフェノール系の安定剤から選ばれた少なくとも1種を配合してなる材料からなり、かつ100℃以上の温度における熱刺激脱分極電流からのトラップ電荷量が2.0×10
−10クーロン/cm
2以上であるという耐熱性エレクトレット材料が提案されている(特許文献2参照。)。
【0007】
また、その他にも性質の異なる樹脂からなる繊維を混繊したメルトブロー不織布を得るための方法(特許文献3)や、細繊維と太繊維が混合した不織布を形成させることにより不織布の潰れを軽減し、圧力損失の上昇を抑制する方法が提案されている(特許文献4および5参照。)。このうち、特許文献3には、フィルター用途に適した繊維径の組み合わせについて、具体的な言及はされていなかった。また、特許文献4には1〜10μmの繊維が適度に混合分散した混繊不織布が、フィルターに好適に用いられるとされている。しかし10μmよりも細い繊維のみからなる混繊不織布では、特にエアフィルター用濾材として用いた場合に、十分な圧損上昇の抑制効果を得ることができなかった。また、特許文献5には、10μmより太い繊維を混繊する方法が開示されている。しかし、この方法を使用した場合、十分な捕集効率を得るために、大きい目付が必要となり、濾材コストが高価となるという課題があった。
このように、捕集効率と圧力損失のバランスを両立し、かつ安価に濾材を得る方法はこれまで知られていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の混繊不織布は、繊維径が異なる繊維が混合された不織布からなるものである。
本発明の混繊不織布の素材は、非導電性を有する材料からなる繊維を主として含むものであることが好ましい。ここでいう非導電性は、体積抵抗率が10
12・Ω・cm以上であることが好ましく、10
14・Ω・cm以上であることがより好ましい態様である。
【0017】
このような非導電性の材料としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリ乳酸等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、フッ素系樹脂、ポリスチレンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマーおよびポリウレタンエラストマー等のエラストマー、およびこれらの共重合体または混合物などを挙げることができる。これらの中でも、エレクトレット性能を特に発揮するという観点から、ポリオレフィンを主体とする素材が好ましく、ポリプロピレンがより好ましく用いられる。
【0018】
また、本発明で用いられる繊維径の異なる繊維群Aと繊維群Bを構成する繊維は、異なる種類のポリマーから形成されてもよい。ただし、細繊維はエレクトレット性能に大きく影響を与えるため、繊維群Aを構成する繊維は、ポリプロピレンからなることが好ましい。これらの繊維群Aと繊維群Bについては、後述する。
【0019】
本発明の混繊不織布の製造方法としては、メルトブロー法、スパンボンド法およびエレクトロスピニング法など挙げられるが、複雑な工程を必要とせず、細繊維および太繊維を製造することができるという点で、メルトブロー法が好ましく用いられる。メルトブロー法における紡糸条件としては、ポリマー吐出量、ポリマー粘度、ノズル温度およびエア圧力等があるが、これら紡糸条件の最適化を行うことにより、所望の繊維径を有する混繊不織布が得られる。所望の繊維径を得るための具体的な手法としては、より細い繊維を得るためには、ポリマー吐出量を低くしたり、粘度が低いポリマーを用いたり、ノズル温度またはエア圧力を高くする方法等が挙げられる。また、より太い繊維を得るためには、ポリマー吐出量を高くしたり、粘度が高いポリマーを用いたり、ノズル温度またはエア圧力を低くする方法等が挙げられる。
【0020】
また、本発明の混繊不織布の製造方法としては、例えば米国特許第3981650号明細書に記載された一つの紡糸口金内にて、同一もしくは異なるポリマーがそれぞれ異なる流路を通った後に、それぞれ異なる口金孔から吐出可能である口金孔が交互に一列に配列した構造の紡糸口金を用いる方法が挙げられる。その際、細繊維と太繊維を得る手段として、同種からなるポリマー以外に、異なるポリマーとして粘度や種類の異なるポリマーを用いて紡糸し、混繊させてもよい。また、各ポリマーが吐出される口金孔の数や孔径または吐出量を変更させてもよい。
【0021】
本発明の混繊不織布のその他の製造方法としては、特許第3753522号公報に記載された、ポリマーが同一の流路を通った後に、孔径が異なる口金孔から吐出可能である口金孔が交互に一列に配列した構造の紡糸口金を用いて紡糸する方法が挙げられる。ただしこの製造方法では、ポリマーが同一の流路を通った後に各口金孔へ配分されるため、安定した紡糸性を得るために口金孔径や吐出量条件に制限がある。また、特許第3703986号公報に記載されたメルトブロー繊維の中に短繊維を吹き込む方法では、複雑な装置が必要であり、かつ細繊維と太繊維を均一に混合することが困難な場合が考えられる。
そのため、本発明の混繊不織布の製造方法としては、前記の米国特許第3981650号明細書に記載された紡糸口金を用いて紡糸する方法がより好ましい態様である。
【0022】
本発明の不織布をメルトブロー法によって紡糸する場合には、口金吐出孔とコレクタ間の距離(ダイ・コレクタ間距離)が10cmより大きく30cmより小さいことが、圧力損失と捕集効率のバランスの観点から、好ましく、15cmより大きく、25cmより小さいことが、より好ましい。ダイ・コレクタ間距離が10cm以下になると、本発明の不織布に含まれる50μmを超える繊維の冷却が不十分なままシート化される場合がある。このようにして得られた不織布は、不織布内の間隙が広がらず、圧力損失上昇の抑制効果を得られない場合がある。また、ダイ・コレクタ間距離を30cm以上とした場合、繊維の絡みあいが増大し、特に低目付の不織布を得ようとしたときに、シートの均一性が悪化する場合がある。均一性の悪い不織布は、フィルター用濾材として用いたときに、捕集効率が低くなる場合がある。
【0023】
本発明の混繊不織布は、繊維径によって分類される繊維群A,Bを含んでなる。繊維群Aの繊維径は、5.0μm以下であり、好ましくは2.0μm以下である。繊維群Aの繊維径が5.0μmを超えると、不織布内の繊維表面積が減少し、十分な捕集効率が得られない。また、繊維群Aの繊維径は、高い捕集効率を得るために、2.0μm以下であれば特に細くても構わないが、実用上、下限値は0.10μm程度である。
【0024】
また、繊維群Bの繊維は太繊維でその繊維径は、50.0μm以上である。繊維群Bの繊維径が50.0μm未満であると、不織布内の空隙が広がらず、十分な低圧損化効果が得られない。なお繊維群Bの繊維径は特に太くても構わないが、実用上の上限は200μm程度である。200μmを超える繊維が存在すると、特に低目付の不織布を得る際に繊維群Aと均一に混合することが困難となり、十分な捕集性能を得ることができない場合がある。この繊維群Bを構成する繊維の繊維径は100.0μm以下であるとより好ましく、70.0μm未満であるとさらに好ましい。
【0025】
また、本発明の混繊不織布においては、繊維群Aおよび繊維群B以外に、繊維径が5.0μmより大きく、50.0μm未満である繊維(繊維群C)を含んでもよい。
【0026】
本発明の混繊不織布において、低圧力損失かつ高捕集効率を得るための不織布における繊維群A〜Cの繊維の体積割合は、繊維群Aが20〜80vol%、繊維群Bが1〜40vol%、および繊維群Cが0〜79vol%であり、好ましい体積割合は、繊維群Aが30〜70vol%、繊維群Bが5〜30vol%、および繊維群Cが0〜65vol%である。
【0027】
繊維群Aの体積割合が20vol%より少ないと、不織布の繊維表面積が減少するため、特に低目付な不織布としたときに十分な捕集効率が得られず、また十分な捕集効率を得るために目付を大きくした場合、不織布の製造コストが増大する。また、80vol%より多いと不織布内の空隙が減少し、圧力損失が増加してしまう。
また、繊維群Bの体積割合が1vol%より少ないと、不織布内の空隙が増加せず、圧力損失が増加してしまい、40vol%より多いと、不織布の繊維表面積が相対的に小さくなり、十分な捕集効率が得られない。
【0028】
また、繊維群Aの繊維径中央値(A’)に対する繊維群Bの繊維径中央値(B’)の比(B’/A’)は、35以上であり、好ましくは40以上である。繊維径中央値(A’、B’)の比B’/A’が35より小さいと、繊維群Aの各繊維が太いため繊維表面積が減少して捕集効率が低下するため、もしくは繊維群Bの各繊維が細いため不織布内の空隙が増加しないため、低圧力損失かつ高捕集効率といった十分な捕集性能が得られない。また、B’/A’は35以上であれば特に大きくても構わないが、実用上、上限値は150程度である。B’/A’が150を超えると、繊維群Aと繊維群Bが、シート中で均一に混合されない場合がある。
【0029】
さらに本発明の混繊不織布は、高捕集性能エアフィルターに用いる点から、濾過風速4.5m/minにおける粒子径0.3〜0.5μmのポリスチレン粒子の捕集効率が99.90%以上かつQF値が0.20以上であることが好ましく、より好ましくは捕集効率が99.92%以上かつQF値が0.22以上であることが好ましい。
【0030】
また、本発明の混繊不織布の目付は、10〜80g/m
2であることが好ましく、より好ましくは15〜70g/m
2であり、さらに好ましくは20〜60g/m
2である。
目付が10g/m
2より低いと、不織布の厚み方向の繊維本数が減少するため低圧力損失となるが、ダストを捕捉するための有効繊維本数が減少してしまい、十分な捕集効率が得られないことがある。一方、目付が80g/m
2より高いと、有効繊維本数が増加して高捕集効率となるが、繊維本数の増加により高圧力損失となってしまう傾向を示す。また、目付が80g/m
2よりも大きい場合、不織布のコストの観点からも不適となる。
【0031】
本発明の混繊不織布は、前述の、濾過風速4.5m/minにおける粒子径0.3〜0.5μmのポリスチレン粒子の捕集効率(%)と、目付(g/m
2)の関係が、次の式を満足することが好ましい。
−Log(1−[捕集効率]/100)/[目付] >= 0.1
上式の左辺によって表現される値は、目付10g/m
2あたりの捕集効率に相当する。一般に、フィルター濾材の捕集効率は、濾材の目付が大きいほど高くなる。しかし、目付が大きくなると、コストの観点から不利になる。上記の目付10g/m
2あたりの捕集効率が、0.1よりも大きい場合、小さい目付でエアフィルター用濾材に要求される捕集効率が達成可能となり、コスト面で有利となる。
【0032】
また、本発明の混繊不織布の厚みは、0.05〜1.60mmであることが好ましく、より好ましくは0.10〜1.00mmである。厚みが0.05mmより薄いと不織布としての嵩高性が減少し、圧力損失が高くなってしまうことがある。一方、厚みが1.60mmより厚いとプリーツフィルターとして用いる際にプリーツのピッチを短くできないことがある。
【0033】
さらに、本発明の混繊不織布は、エレクトレット処理が施されエレクトレット化されていることが望ましい。特に、エレクトレット化不織布にすることにより、静電気吸着効果により、更に低圧力損失と高捕集効率を得ることができる。
【0034】
エレクトレット化の方法としては、高性能を有する混繊不織布を得る上で、水を不織布に付与した後に乾燥させることによりエレクトレット化する方法が好ましく用いられる。水を不織布に付与する方法としては、水の噴流もしくは水滴流を不織布内部まで水が浸透するのに十分な圧力にて噴霧する方法や、水を付与した後もしくは付与しながら不織布の片側から吸引して不織布内に水を浸透させる方法、およびイソプロピルアルコール、エチルアルコールおよびアセトンなどの水溶性有機溶剤と水との混合溶液に不織布を浸漬させて水を不織布内部まで浸透させる方法等が挙げられる。
【0035】
また、本発明の混繊不織布を構成する各繊維には、耐候性を向上させ、またエレクトレット性能を良好にするという観点から、ヒンダードアミン系化合物およびトリアジン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種が含まれていることが好ましい。
【0036】
これら化合物を含有させた不織布を得るための手段としては、あらかじめ、これらの化合物と非導電性材料を混練押出機や静止混練機等で混練りしてマスターチップを作製し、これを押出機内で溶融し口金部へ供給する方法や、紡糸機の押出機ホッパーに非導電性材料とこれら化合物を混合して供給し、押出機内で混練りして直接口金へ供給する方法、さらには、非導電性材料とこれら化合物をそれぞれ異なる押出機ホッパーに供給した後、これらを合流せしめてブレンドし、押出機にて溶融・混錬し口金部へ供給する方法等がある。
【0037】
上記のヒンダードアミン系化合物としては、ポリ[(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)](BASF・ジャパン(株)製、“キマソーブ”(登録商標)944LD)、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物(BASF・ジャパン(株)製、“チヌビン”(登録商標)622LD)、および2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)(BASF・ジャパン(株)製、“チヌビン”(登録商標)144)などが挙げられる。
【0038】
また、上記のトリアジン系添加剤としては、前述のポリ[(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)](BASF・ジャパン(株)製、“キマソーブ”(登録商標)944LD)、および2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−((ヘキシル)オキシ)−フェノール(BASF・ジャパン(株)製、“チヌビン”(登録商標)1577FF)などを挙げることができる。これらの中でも、特にヒンダードアミン系化合物が好ましい。
【0039】
混繊不織布において、ヒンダードアミン系化合物および/またはトリアジン系化合物の含有量は、ポリオレフィン繊維中に含有させる場合は、不織布全質量に対して0.5〜5.0質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.7〜3質量%の範囲である。また、ヒンダードアミン系化合物および/またはトリアジン系化合物を、不織布もしくは繊維表面に付着させるなどの場合は、不織布全質量に対して0.1〜5.0質量%の範囲であることが好ましい。
【0040】
混繊不織布には、上記化合物の他に、熱安定剤、耐候剤および重合禁止剤等の一般にエレクトレット加工品の不織布に使用されている通常の添加剤を添加してもよい。
【0041】
さらに、本発明の混繊不織布は、他のシートと積層して積層繊維不織布にしてもよい。例えば、本発明の混繊不織布とそれよりも剛性の高いシートを積層して、製品強力を向上させて使用することや、脱臭や抗菌等機能性を有するシートと組み合わせて使用することもできる。積層方法としては、接着剤を用いて2種類の不織布を貼り合わせる方法や、メルトブロー法以外の製法で製造した不織布の上にメルトブロー法により積層する方法が挙げられる。その他、2種類の不織布を貼り合わせる方法としては、湿気硬化型ウレタン樹脂をスプレー法で散布する方法、熱可塑性樹脂、熱融着繊維を散布し熱路を通して貼り合わせる方法などあるが、2種類の不織布を貼り合わせることが出来ればよい。しかしながら、使用用途がフィルターに使用する不織布であるので、圧損上昇が生じる貼り合わせ方法は好ましくない。その点で、湿気硬化型ウレタン樹脂によるスプレー法は、2枚の不織布をプレスすることなく貼り合わせることが可能なため、貼り合わせ時の圧力損失の上昇が少なく好ましい方法である。
【0042】
本発明の混繊不織布は、フィルターの濾材として用いることができる。濾材は、エアフィルター全般、なかでも空調用フィルター、空気清浄機用フィルター、および自動車キャビンフィルターの高性能用途に好適であるが、その応用範囲はこれらに限られるものではない。
【実施例】
【0043】
次に、実施例を挙げてより具体的に本発明の混繊不織布について説明する。実施例において使用する特性値は、次の測定法により測定したものである。
【0044】
(1)目付
タテ×ヨコ=15cm×15cmの不織布の質量を3点測定し、それぞれ得られた値を1m
2当たりの値に換算し、その平均値をとって目付(g/m
2)とした。
【0045】
(2)繊維径、繊維径中央値および体積比率
不織布の任意の場所から、タテ×ヨコ=1cm×1cmの測定サンプルを30個採取し、走査型電子顕微鏡で倍率を調節して、採取したサンプルから繊維表面写真を各1枚ずつ、計30枚を撮影した。倍率は200〜3000倍とし、写真の中の繊維直径がはっきり確認できるものについてすべて有効数字0.1μmにて測定した。
また、得られた値のうち、繊維群A(繊維径が5.0μm以下)および繊維群B(繊維径が50.0μm以上)に属する繊維ついて、それぞれ繊維径中央値を計算した。さらに、繊維群A、繊維群Bおよび繊維群C(繊維径が5.0μmより大きく、50.0μm未満)の体積比率は、得られた繊維径の値を用い、次の式により算出した。ここでは、各繊維群に含まれる繊維の長さは一定(X)と仮定して体積を算出している。
・各繊維の体積 :Y=π(繊維径/2)
2×X
・繊維群Aの体積:Z(A)=繊維群AにおけるYの総和
・繊維群Bの体積:Z(B)=繊維群BにおけるYの総和
・繊維群Cの体積:Z(C)=繊維群CにおけるYの総和
・繊維群Aの体積比率(vol%)=Z(A)/[Z(A)+Z(B)+Z(C)]
・繊維群Bの体積比率(vol%)=Z(B)/[Z(A)+Z(B)+Z(C)]
・繊維群Cの体積比率(vol%)=Z(C)/[Z(A)+Z(B)+Z(C)]
【0046】
(3)捕集効率および圧力損失
不織布の縦方向5カ所でタテ×ヨコ=15cm×15cmの測定用サンプルを採取し、それぞれのサンプルについて、
図1に示す捕集効率測定装置で測定した。この捕集効率測定装置は、測定サンプルMをセットするサンプルホルダー1の上流側にダスト収納箱2を連結し、下流側に流量計3、流量調整バルブ4、およびブロワ5を連結している。また、サンプルホルダー1にパーティクルカウンター6を使用し、切替コック7を介して、測定サンプルMの上流側のダスト個数と下流側のダスト個数とをそれぞれ測定することができる。さらに、サンプルホルダー1は圧力計8を備え、測定サンプルMの上流と下流での静圧差を読み取ることができる。捕集効率の測定にあたっては、ポリスチレン0.309U 10%溶液(メーカー:ナカライテスク(株))を蒸留水で200倍まで希釈し、ダスト収納箱2に充填する。次に、測定サンプルMをサンプルホルダー1にセットし、風量をフィルター通過速度が4.5m/minになるように流量調整バルブ4で調整し、ダスト濃度を1万〜4万個/2.83×10
−4m
3(0.01ft
3)の範囲で安定させ、測定サンプルMの上流のダスト個数Dおよび下流のダスト個数dをパーティクルカウンター6(リオン社製、KC−01B)で1個の測定サンプル当り3回測定し、JIS K 0901:1991「気体中のダスト試料捕集用ろ過材の形状、寸法並びに性能試験方法」に基づいて下記計算式を用いて0.3〜0.5μm粒子の捕集効率(%)を求めた。5個の測定サンプルの平均値を、最終的な捕集効率とした。
捕集効率(%)=〔1−(d/D)〕×100
ただし、
d:下流ダストの3回測定トータル個数
D:上流のダストの3回測定トータル個数
高捕集の不織布ほど、下流のダスト個数が少なくなるため、捕集効率の値は高くなる。
また、圧力損失は、捕集効率測定時の測定サンプルMの上流と下流の静圧差を圧力計8で読み取り求めた。5個の測定サンプルの平均値を最終的な圧力損失とした。
【0047】
(4)QF値
濾過性能の指標となるQF値(Pa
−1)は、前記捕集効率(%)および圧力損失(Pa)を用いて以下の式により計算される。低圧力損失かつ高捕集効率であるほどQF値は高くなり、濾過性能が良好であることを示す。
QF値=−[ln(1−捕集効率/100)]/圧力損失
【0048】
[実施例1]
“キマソーブ”(登録商標)944(BASF・ジャパン(株)製)を1質量%添加したポリプロピレン(MFR=860)(α)と、“キマソーブ”(登録商標)944(BASF・ジャパン(株)製)を1質量%添加したポリプロピレン(MFR=60)(β)を、それぞれ異なる押出機に投入し、直径が0.25mmおよび0.60mmの吐出孔(それぞれa,b)がa:b=5:1にて繰り返し一直線上に配置した口金(孔ピッチ:a−b間;2mm,a−a間;1mm、孔数:a;90ホール,b;20ホール、幅:150mm)を用いて、メルトブロー法により、口金孔aから吐出されるポリマーαの単孔吐出量を0.15g/分・ホール、口金孔bから吐出されるポリマーβの単孔吐出量を0.90g/分・ホールとし、ノズル温度265℃、エア温度285℃、およびエア圧力0.10MPaの条件で噴射し、捕集コンベア上に捕集した。口金の吐出孔と捕集コンベア間の距離は20cmとした。捕集コンベアの速度を調整することによって、目付が30g/m
2の不織布を得た。
得られた混繊不織布を、純水/イソプロパノールの質量比が70/30からなる混合水溶液に含浸させ、次いで自然乾燥することにより、エレクトレット化メルトブロー混繊不織布を得た。このエレクトレットメルトブロー不織布の特性値を測定し、表1に示した。
【0049】
[実施例2]
実施例1で使用したポリプロピレンのMFRを1550(α)と60(β)に変更し、a,bから吐出されるポリマーα、βの単孔吐出量をそれぞれ0.15g/分・ホールと1.53g/分・ホール、エア圧力0.13MPaとし、目付を一致させるため捕集コンベアの速度を調整したこと以外は、実施例1と同じ方法により目付が30g/m
2の混繊不織布を得た。
得られた混繊不織布を実施例1と同様の方法でエレクトレット処理した後、特性値を測定し、表1に示した。
【0050】
[実施例3]
実施例1で使用したポリプロピレンのMFRを860(α)と20(β)に変更し、a,bから吐出されるポリマーα、βの単孔吐出量をそれぞれ0.15g/分・ホールと0.68g/分・ホール、エア圧力0.10MPaとし、目付を一致させるため捕集コンベアの速度を調整したこと以外は、実施例1と同じ方法により目付が30g/m
2の混繊不織布を得た。
得られた混繊不織布を実施例1と同様の方法でエレクトレット処理した後、特性値を測定し、表1に示した。
【0051】
[比較例1]
実施例1で使用したポリプロピレンのMFRを1550(α)と60(β)に変更し、a,bから吐出されるポリマーα、βの単孔吐出量をそれぞれ0.15g/分・ホールと1.53g/分・ホール、エア圧力0.05MPaとし、口金吐出孔と捕集コンベア間の距離を30cmとし、目付を一致させるため捕集コンベアの速度を調整したこと以外は、実施例1と同じ方法により目付が30g/m
2の混繊不織布を得た。
得られた混繊不織布を実施例1と同様の方法でエレクトレット処理した後、特性値を測定し、表1に示した。
【0052】
[比較例2]
実施例1で使用したポリプロピレン(α、β)を用い、a,bから吐出されるポリマーα、βの単孔吐出量をそれぞれ0.19g/分・ホールと0.83g/分・ホール、ノズル温度255℃、エア温度265℃、エア圧力0.13MPaとし、目付を一致させるため捕集コンベアの速度を調整したこと以外は、実施例1と同じ方法により目付が30g/m
2の混繊不織布を得た。
得られた混繊不織布を実施例1と同様の方法でエレクトレット処理した後、特性値を測定し、表1に示した。
【0053】
[比較例3]
実施例1で使用したポリプロピレン(α、β)を用い、bから吐出されるポリマーβの単孔吐出量を0.70g/分・ホールとし、ノズル温度255℃、エア温度265℃、エア圧力0.13MPaとし、目付を一致させるため捕集コンベアの速度を調整したこと以外は、実施例1と同じ方法により目付が30g/m
2の混繊不織布を得た。
得られた混繊不織布を実施例1と同様の方法でエレクトレット処理した後、特性値を測定し、表1に示した。
【0054】
[比較例4]
実施例1で使用したポリプロピレン(α)のみを用い、a,bから吐出されるポリマーαの単孔吐出量がそれぞれ0.19g/分・ホールと1.38g/分・ホール、ノズル温度255℃、エア温度265℃、エア圧力0.15MPaとし、目付を一致させるため捕集コンベアの速度を調整したこと以外は、実施例1と同じ方法により目付が30g/m
2の混繊不織布を得た。
得られた混繊不織布を実施例1と同様の方法でエレクトレット処理した後、特性値を測定し、表1に示した。
【0055】
【表1】
【0056】
表1から明らかなように、本発明の実施例1〜3ではいずれも、原料のMFR、紡糸温度、エア圧力および単孔吐出量を調整することにより、繊維群A(繊維径5μm以下)および繊維群B(繊維径50.0μm以上)が混合され、かつ繊維群Aと繊維群Bそれぞれの繊維径中央値(A’,B’)の比(B’/A’)が35以上である混繊不織布が得られ、これらは低圧力損失かつ高捕集効率を示した。
【0057】
これに対し比較例1および2では、繊維群Aおよび繊維群Bが混合されているものの、繊維群Aの体積割合が20%以下であり、かつB’/A’が35未満であった。このため、比較例1では十分な捕集効率が得られず、比較例2ではQF値が低い値となった。
また、比較例3と4では繊維群Bを含まないことから、圧力損失の上昇が見られ、QF値が低下してしまっている。
【0058】
以上のように本発明では、細繊維と太繊維の混繊不織布において、細繊維と太繊維の繊維径およびそれぞれの繊維径中央値の比を特定の範囲に制限することにより、圧力損失が低いうえに捕集効率に優れる不織布を得ることができた。