特許第6011547号(P6011547)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011547
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/36 20100101AFI20161006BHJP
   H01M 10/38 20060101ALI20161006BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   H01M10/36 A
   H01M10/38
   H01M4/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-554083(P2013-554083)
(86)(22)【出願日】2012年9月21日
(86)【国際出願番号】JP2012006031
(87)【国際公開番号】WO2013108309
(87)【国際公開日】20130725
【審査請求日】2014年6月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-10137(P2012-10137)
(32)【優先日】2012年1月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 淳一
(72)【発明者】
【氏名】仲西 正孝
(72)【発明者】
【氏名】川澄 一仁
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 正和
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/133642(WO,A2)
【文献】 国際公開第2011/057135(WO,A2)
【文献】 特公昭52−017209(JP,B2)
【文献】 特開2008−293678(JP,A)
【文献】 特開2009−230899(JP,A)
【文献】 特開2011−081971(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/073978(WO,A1)
【文献】 特開2009−064730(JP,A)
【文献】 特開2011−228219(JP,A)
【文献】 特開2010−015782(JP,A)
【文献】 米国特許第04968393(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/36−10/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極、負極用の電解液、隔膜、正極用の電解液および正極がその順に設けられた二次電池であって、
前記負極は、水素の酸化還元電位に対して1.5V以上卑の酸化還元電位を有する元素をもち且つリチウム金属よりも体積密度が大きい負極材料からなり、
前記負極材料の体積密度は、リチウム金属の体積密度に対して2倍以上高く、
前記元素はアルミニウムであり、
前記負極材料は、アルミニウムからなる金属からなり、
前記負極用の電解液は、エチルメチルイミダゾリウム塩を含み、
前記隔膜は、アルミニウムイオンのみを通す固体電解質からなることを特徴とする二次電池。
【請求項2】
前記負極用の電解液は、有機電解液またはイオン液体である請求項に記載の二次電池。
【請求項3】
前記正極は、前記負極の酸化還元電位に対して1V以上貴の酸化還元電位を有する元素をもつ正極材料からなる請求項1又は2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記固体電解質は、NASICON型アルミニウム伝導体、β―Fe(SO)型アルミニウムイオン伝導体、及び高分子型アルミニウムイオン伝導体から選ばれた少なくとも一種からなる請求項1〜3のいずれかに記載の二次電池。
【請求項5】
前記正極用の電解液は、水溶性電解液である請求項1〜4のいずれかに記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池は、電池容量が大きいため、携帯電話やノート型パソコンといった幅広い分野で用いられている。また、近年、リチウムイオン二次電池は、車両の駆動源として用いられることも検討されている。リチウムイオン二次電池の正極は、リチウム複合酸化物などのセラミックからなり、充放電時にセラミックの層間にリチウムイオンが出入りする。負極は、カーボンからなり、充放電時にカーボンの層間にリチウムイオンが出入りする。このように正極と負極とで、リチウムイオンの吸蔵・放出が繰り返されることで、電気エネルギーが作り出される。
【0003】
最近、国際公開2010−073978号公報(特許文献1)に開示されているように、負極にリチウム金属を用い、正極に金属銅を用いたリチウム電池が開発されている。このリチウム電池では、充電時には正極で銅が溶解する一方で、負極表面にリチウム金属がめっきされ、放電時には負極でリチウムが溶解する一方で、正極表面に金属銅がめっきされる。このようなめっきの析出・溶解による電池反応は、一般のリチウムイオン二次電池の電池反応に比べて単純である。ゆえに、電池の出力の向上が期待できる。また、電極が金属であるので、電極自体の導電性がよい。このため、集電体を用いる必要がなく、そのまま電極に使用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2010−073978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、負極に用いられる金属材料はリチウム金属に限られている。水素の酸化還元電位を0(ゼロ)としたときに、リチウム金属の酸化還元電位は−3Vであって、他の金属に比べて電位が卑である。このため、リチウム金属を負極に用いることで、電池の起電力を大きくすることが可能である。
【0006】
リチウム金属の単位質量当たりの電池容量は3860mAh/gであり、比較的大きい。しかし、リチウム金属の体積密度は0.5g/cmであり、かなり体積密度が低い。このため、体積エネルギー密度が低くなってしまう。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、体積エネルギー密度の高い二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の二次電池は、負極、負極用の電解液、隔膜、正極用の電解液および正極がその順に設けられた二次電池であって、前記負極は、水素の酸化還元電位に対して1.5V以上卑の酸化還元電位を有する元素をもち且つリチウム金属よりも体積密度が大きい負極材料からなり、前記隔膜は、前記元素のイオンのみを通す固体電解質からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、負極材料が、水素の酸化還元電位に対して1.5V以上卑である元素を有している。このため、高い体積エネルギー密度の二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】各種電極材料の単位質量当たりの電池容量と電位とを示す図である。
図2】各種電極材料の単位体積当たりの電池容量と電位とを示す図である。
図3】実施例1の二次電池の断面説明図である。
図4】実施例2の二次電池の断面説明図である。
図5】実施例3の二次電池の断面説明図である。
図6】実施例4の二次電池の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態の二次電池について詳細に説明する。
【0012】
二次電池には、負極、負極用の電解液、隔膜、正極用の電解液、および正極が、その順に設けられている。負極は、一般に、水素の酸化還元電位を0(ゼロ)としたときに、卑の電位、即ちマイナスの電位をもつ元素が用いられる。本発明では、負極は、水素の酸化還元電位に対して1.5V以上卑である元素をもつ負極材料からなる。負極材料に含まれる元素の酸化還元電位は、水素の酸化還元電位を基準として卑であり、−1.5V以上である。負極材料は、水素の酸化還元電位に対して1.5V以上卑の酸化還元電位を有するとよい。
【0013】
負極材料は、それ自体が電池反応を担う活物質として機能する。本発明において、リチウム金属の酸化還元電位は、水素の酸化還元電位に対して−3Vであり、負極材料を構成する元素の酸化還元電位は、リチウム金属の酸化還元電位に比較的近くなる。このため、電池の起電力を大きくすることができる。また、負極材料は、リチウム金属よりも体積密度が大きい。このため、単位体積当たりの電池容量が大きくなり、電池の体積エネルギー密度を大きくすることができる。
【0014】
負極材料に含まれる元素は、リチウム電位−3.045Vに対して、1.5V以内貴(+1.5V以内)の電位をもつことが好ましい。リチウムに比較的近い電位をもつことができ、大きな起電力を発揮することができる。リチウムは体積密度が小さいため、体積エネルギー密度が小さい。このため、負極材料に含まれる元素は、リチウム以外の元素であることがよい。
【0015】
負極材料に含まれる元素は、イオン体となったときに、イオン体の価数が大きいほど、電池の容量を大きくすることができる。このため、元素のイオン体の価数は、1価でもよいが、2価又は3価、或いはそれ以上であるとよい。
【0016】
本発明の二次電池の電池反応を説明する。正極が金属銅であり、負極がアルミニウムである場合を例にする。充電時には、正極で、Cu → Cu2+ + 2eの反応が起こる。Cu2+ は、正極側の電解液に放出される。正極側の電解液に存在するAl3+は隔膜を通り、負極側の電解液に移動する。正極で生成した電子eは正極負極間を繋ぐ配線回路を通り、負極に移動する。負極で、Al3+ + 3e → Alの反応が起こる。
【0017】
放電時には、負極で、Al → Al3+ + 3e の反応が起こり、Al3+は負極側の電解液に放出される。Al3+は、隔膜を通り、正極側の電解液に移動する。負極で生成した電子eは配線回路を通り、正極に移動する。正極側の電解液中のCu2+は、電子とともに、正極で、Cu2+ + 2e→ Cuの反応に供される。
【0018】
ここで、隔膜は、負極を構成する元素のイオンのみを通す固体電解質からなる。負極側の電解液と正極側の電解液とは隔膜を隔てて分離されることになる。このため、負極側の電解液と正極側の電解液とが互いに異なる成分をもつことができる。ゆえに、負極側の電解液と正極側の電解液とを、負極側、正極側でのそれぞれの充電・放電反応に適した成分とすることができる。このため、電池の出力向上が可能である。また、正極を構成する元素と負極を構成する元素との組み合わせの自由度が増し、多様な二次電池を作製することができる。
【0019】
負極材料は、水素の酸化還元電位に対して1.5V以上卑である金属元素をもつ金属又は該金属元素を含む合金からなることが好ましい。前記元素は金属元素であり、前記負極材料は、前記金属元素からなる金属又は前記金属元素を含む合金からなることが好ましい。この場合には、充電・放電に伴い、負極と正極のそれぞれの表面で、金属又は合金が析出・溶解する。このため、活物質の破壊によるサイクルの劣化を防止できる。金属元素は、それ自体の導電性が高いため、集電体として機能することができる。負極材料が金属元素からなる場合には、集電体を別途設ける必要はなく、負極材料自体で負極を構成することができる。負極材料は金属元素からなる金属材料であるとよい。この場合、負極材料だけで負極を構成することもできる。また、負極材料を活物質として用い、別途集電体の表面に負極材料を配設することもできる。
【0020】
負極材料に用いられる金属元素としては、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)などを用いることができる。これらの酸化還元電位は、Na:-2.714V, Mg:-2.363V, Ca:-2.87V, Al:-1.68V, K:-2.925V, Sr:-2.89V, Ba:-2.92V (水素基準)である。ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムの電気特性をリチウムとともに、表1に列挙する。また、図1には、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、銅の単位質量当たりの電池容量と、水素の酸化還元電位をゼロとしたときの酸化還元電位とを示す。図2には、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、銅の単位体積当たりの電池容量と、水素の酸化還元電位をゼロとしたときの酸化還元電位とを示す。
【0021】
【表1】
【0022】
表1、図1図2に示すように、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムは、いずれも、リチウムよりも体積密度が大きい。また、これらの金属の電位は、リチウムほど卑ではないが、水素の酸化還元電位に対していずれも1.5V以上卑である。このため、これらの金属を負極に用いた電池は、体積エネルギー密度が大きく、且つ、大きな起電力を発揮することができる。
【0023】
負極材料がナトリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムからなる場合には、これらはたとえばニッケルなど負極イオンと合金反応をしない金属であれば集電体として使用でき、基材の表面に負極材料を形成することができる。この場合、ニッケル基材は、集電体として機能する。
【0024】
負極材料の体積密度は、リチウム金属の体積密度に対して大きいことが好ましい。この場合には、電池の体積エネルギー密度を更に大きくすることができる。ここで、体積密度とは、単位体積当たりの質量をいう。
【0025】
負極用の電解液としては、有機電解液、水溶性の電解液、イオン液体の電解液のいずれも使用できる。いずれの電解液を用いるかは、負極材料の種類に依存する。負極材料が、例えば、マグネシウム、カルシウム、又はアルミニウムからなる金属又は合金からなる場合には、負極用の電解液は有機電解液またはイオン液体であることがよい。有機電解液は、電解質と有機溶媒とからなる電解液をいう。イオン液体は、イオン物質を有する液体を意味する。
【0026】
正極としては、負極材料に用いられる元素よりも貴な電位をもつ元素からなる正極材料を用いる。正極材料は、金属元素をもつ金属又は合金を用いることが好ましい。正極材料は金属又は合金からなる金属材料であるとよい。この場合、正極材料だけで正極を構成することもできる。また、正極材料を活物質として用い、別途集電体の表面に正極材料を配設することもできる。正極材料に用いる金属元素は、例えば、銅、鉄、ニッケル、銀、金などが挙げられる。正極材料は、安定性と大容量の観点から、金属銅を用いることが好ましい。銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、金(Au)の標準酸化還元電位は、水素基準で、Cu/Cu2+:0.337V、Fe/Fe2+:―0.44V,Ni/Ni2+:―0.257V、Ag/Ag:0.799V、Au/Au:1.83Vである。
【0027】
また、正極材料は、金属酸化物、金属水酸化物、及び金属過水酸化物の群から選ばれる一種からなることもよい。例えば、Ni(OH)2などのニッケル水素用正極を用いることもできる。Ni(OH)の酸化還元反応は、Ni(OH)+ OH → NiOOH + HOであり、標準酸化還元電位は、水素基準で、0.48Vである。
【0028】
正極は、負極材料の酸化還元電位に対して1V以上貴の酸化還元電位を有する元素をもつ正極材料からなることが好ましい。正極材料は、負極材料の酸化還元電位に対して1V以上貴の酸化還元電位を有するとよい。即ち、正極材料は、負極材料の酸化還元電位と1V以上貴(+1V以上)の電位差を持つ材料であると良い。この場合には、高容量の二次電池とすることができる。
【0029】
Cu、Fe、Ni、Ag、Au、又はNi(OH)からなる正極材料は、いずれも、Na、Mg、Ca、Al、K、Sr、又はBaからなる負極材料の酸化還元電位に対して1V以上貴の電位差があり、どの組み合わせも本発明の二次電池として使用することができる。例えば、負極材料がアルミニウムのとき、正極材料は、鉄より貴な元素を含むとよい。負極材料がマグネシウムのとき、正極材料は、鉄より貴な元素を含むとよい。鉄よりも貴な元素は、例えば、Cu、Ni、Ag、Au、Ni(OH)が挙げられる。負極材料がカルシウムのとき、正極材料は、マグネシウムより貴な元素を含むよい。マグネシウムより貴な元素は、例えば、Al、Cu、Ni、Ag、Au、Ni(OH)が挙げられる。なお、正極材料は、負極材料の酸化還元電位と1V以上貴の電位差をもつ材料であるとよいため、正極材料は、負極材料との相対的な電位差により、任意に選択することが可能である。
【0030】
正極用の水溶性の電解液に含有させる電解質としては、電解液中で、正極材料を構成する元素のイオンとイオン交換することで、負極材料を構成する元素のイオンを生成するものが用いられるとよい。このような電解質としては、例えば、負極材料を構成する元素のイオンを含む硝酸塩、塩化物、硫酸塩等が挙げられる。これら電解質は、単独でもよいが、組み合わせて使用してもよい。
【0031】
隔膜は、負極材料を構成する元素のイオンのみを通す固体電解質からなる。この固体電解質は、正極材料に含まれる元素は通さない。例えば、NASICON、β―Fe(SO)型イオン伝導体、及び高分子型イオン伝導体などを挙げることができる。この固体電解質は、負極材料を構成する元素の種類に応じて選択される。一般に、NASICON(Na Super Ionic Conductor)は、Na3Zr2Si2PO12で表される固体電解質を示す。本願において、NASICON型構造とは、NASICONと同種の結晶系に属するものとすることができ、一般式AaM2(XO43(a=1〜3、A,M,Xについては後述)で表され、MO6八面体とXO4四面体とが頂点を共有して三次元ネットワークを構成しているものとすることができる。
【0032】
(負極材料に用いられる金属元素がアルミニウムである場合)
負極材料に用いられる金属元素がアルミニウムである場合には、負極材料は、アルミニウム金属又はアルミニウム合金からなるとよい。隔膜は、アルミニウムイオンのみを通す固体電解質からなるとよい。固体電解質は、NASICON型アルミニウム伝導体、β―Fe(SO)型アルミニウムイオン伝導体、及び高分子型アルミニウムイオン伝導体から選ばれた少なくとも一種からなることが好ましい。また、負極用の電解液は、エチルメチルイミダゾリウム塩に代表されるイオン液体を好適に用いることが可能である。この場合は必ずしも、イオン液体は有機溶媒に溶解したうえで用いる必要はない。エチルメチルイミダゾリウム塩としては、「化1」に示す化合物を用いることができる。
【0033】
【化1】
【0034】
(負極材料に用いられる金属元素がマグネシウムである場合)
負極に用いられる金属元素がマグネシウムである場合には、負極材料は、マグネシウム金属又はマグネシウム合金からなるとよい。隔膜は、マグネシウムイオンのみを通す固体電解質からなるとよい。この場合、固体電解質は、β―Fe(SO)型マグネシウムイオン伝導体、高分子型マグネシウムイオン伝導体、及びNASICON型マグネシウム伝導体から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。
【0035】
負極用の電解液は、グリニャール試薬RMgX(Rはアルキル基又はアリール基であり、Xは塩素、臭素、又はヨウ素である。)を含むとよい。更には、負極用の電解液は、グリニャール試薬と別種金属イオンが有機溶媒に溶解していることが好ましい。
【0036】
負極に用いられる金属元素がマグネシウムである場合、有機溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)やジグライムなどのエーテル結合を有する有機化合物を、少なくとも1種類含むか、又は、テトラフルオロチオフェン(THT)などのスルフィド結合或いはアミド結合を有する有機化合物を、少なくとも1種類含むとよい。これらの溶媒は、電極反応によるマグネシウムの溶解および析出に際して不動態膜を形成することがなく、また、マグネシウムイオンと配位結合を形成して、マグネシウムイオンを溶かし込むことができる。
【0037】
グリニャール試薬は、グリニャール化合物の二量体からなる二核錯体を形成する。二核錯体は、別種金属イオンとの反応により、R-を失う。これにより、ハロゲン元素を介して2つのマグネシウムイオンが連結され、各マグネシウムイオンに有機溶媒分子又はハロゲン原子が結合した二核錯体に改変される。この二核錯体は、電荷を有するため電解液に高い導電性を与えることができる。また、R-が除かれているため、酸化を受けにくく、電解液の酸化電位を高く保つことができる。
【0038】
(負極材料に用いられる金属元素がカルシウムである場合)
負極材料に用いられる金属元素がカルシウムである場合、負極材料は、カルシウム金属又はカルシウム合金からなるとよい。隔膜は、カルシウムイオンのみを通す固体電解質からなるとよい。固体電解質は、β―Fe(SO)型カルシウムイオン伝導体、NASICON型カルシウムイオン伝導体(NASICON)、高分子型カルシウムイオン伝導体から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。電解液は、電解質としてCa(ClOを含むとよい。電解液に含まれる有機溶媒は、公知のものを用いることができる。例えば、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、ジエチルカーボネート、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート等が挙げられる。これら有機溶媒は、単独でもよいが、組み合わせて使用してもよい。
【0039】
(負極材料に用いられる金属元素がナトリウムである場合)
負極材料に用いられる金属元素がナトリウムである場合、負極材料は、ナトリウム金属又はナトリウム合金からなるとよい。隔膜は、ナトリウムイオンのみを通す固体電解質であるとよい。固体電解質は、NASICON、β―Fe(SO)型ナトリウムイオン伝導体、高分子型ナトリウムイオン伝導体から選ばれた少なくとも一種からなるとよい。電解液は、電解質としてNaClOを含むとよい。電解液に含まれる有機溶媒は、公知のものを用いることができ、また、上記の負極材料に用いられる金属元素がカルシウムである場合と同様のものを用いることが可能である。即ち、電解液に含まれる有機溶媒は、公知のものを用いることができる。例えば、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、ジエチルカーボネート、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート等が挙げられる。これら有機溶媒は、単独でもよいが、組み合わせて使用してもよい。
このうち、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを用いることが好ましい。
【0040】
二次電池は、例えば、正極、正極用の電解液、隔膜、負極用の電解液、負極を、この順で配置し、これらをケース内に収容する。二次電池の形状は、特に限定なく、円筒型、積層型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0041】
二次電池は、車両に搭載してもよい。上記の二次電池で走行用モータを駆動することにより、大容量、大出力で使用することができる。車両は、その動力源の全部あるいは一部に二次電池による電気エネルギーを使用している車両であれば良く,例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両に二次電池を搭載する場合には、二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。二次電池は、車両以外にも、パーソナルコンピュータ,携帯通信機器など,電池で駆動される各種の家電製品,オフィス機器,産業機器が挙げられる。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
本例の二次電池7は、図3に示すように、負極1と、負極用の電解液2と、隔膜3と、正極用の電解液4と、正極5とを備えている。負極1は、板状の金属アルミニウムからなる。負極用の電解液2は、有機電解液であり、上記「化1」に示したエチルメチルイミダゾリウム塩からなる。
【0043】
隔膜3は、厚み0.15mmの膜形状をなす。隔膜3は、アルミニウムイオンのみを通す固体電解質であり、本例においては高分子型アルミニウムイオン伝導体を用いる。高分子型アルミニウムイオン伝導体の具体的構成は、Al2(WO43の粉末を分散させたエタノールにポリエチレンオキシドを溶解させた後φ(直径)30mm、厚さ5mmのアルミニウム円盤上に滴下してアルミニウム円盤表面にポリエチレンオキシドとAl2(WO43とからなる混合薄膜を形成したものである。正極側の電解液4は、水溶性電解液であり、2mol/LのAl(NO水溶液からなる。正極5は、金属銅からなる。
【0044】
二次電池7は、コイン型電池である。二次電池7は、ケース61,62を備えており、ケース61,62の中に、負極1と、負極用の電解液2と、隔膜3と、正極用の電解液4と、正極5とを、この順番で配置している。ケース61,62は、ガラス製で、コイン形状を軸方向中央で半割りした形状をなす。ケース62の内部には、負極1と、負極用の電解液2が収容されている。負極用の電解液2は、多孔質体に含浸されている。多孔質体は、厚さ10μmのポリプロピレン/ポリエチレン不織布である。ケース61の内部には、正極5と正極用の電解液4とが収容されている。ケース61,62の間には、隔膜3が配置されている。隔膜3の周縁は、ケース61,62の開口周縁に形成されたフランジ部で気密に挟持固定されている。負極1と正極5には、それぞれ、図示略の配線が接続されていて、電気を外部に導出する構成とされている。
【0045】
二次電池7を充電させた場合、金属銅からなる正極5の表面の銅が溶解する(Cu→Cu2+ + 2e-)。Cu2+が正極用の電解液4に放出され、その中に含まれるAl(NOとイオン交換して、Al3+を生成させる(3Cu2+ + 2Al(NO →3Cu(NO + 2Al3+)。Al3+は、アルミニウムイオンのみを通す固体電解質からなる隔膜3を通り、負極側の電解液2に移動する。負極1の表面にはアルミニウムが析出する(Al3+ + 3e-→ Al)。
【0046】
二次電池7を放電させた場合、負極1の表面のアルミニウムが負極側の電解液2に溶解する(Al → Al3+ + 3e-)。Al3+は隔膜3を通り抜けて、正極側の電解液4に移動する。Al3+ は、正極側の電解液4に存在するCu(NO とイオン交換して、Cu2+ を生成させる(2Al3+ +3Cu(NO → 3Cu2+ + 2Al(NO)。正極5表面には銅が析出する(Cu2+ + 2e- →Cu)。
【0047】
本発明において、負極材料を構成する元素は、アルミニウムである。上記の表1に示すように、水素の酸化還元電位を0としたとき、アルミニウムの酸化還元電位は、−1.68Vであり、リチウム金属の酸化還元電位−3.045Vに比較的近い。このため、電池の起電力を大きくすることができる。また、負極材料であるアルミニウムの体積密度は2.7g/cmであり、リチウム金属の体積密度0.534g/cmよりも大きい。このため、単位体積当たりの電池容量が大きくなり、電池の体積エネルギー密度を大きくすることができる。
【0048】
(実施例2)
図4に示すように、本例の二次電池7においては、負極1を構成する負極材料が金属マグネシウムである。
【0049】
負極用の電解液2は、グリニャール試薬CMgClが、有機溶媒としてのテトラヒドロフラン(THF)に溶解してなる。電解液2の中のマグネシウムイオンの濃度は、0.25mol/Lとなるように調整した。電解液2の中では、グリニャール試薬は、Mgを核とする二量体からなる二核錯体になっている。この二核錯体は、電荷を有するため電解液に高い導電性を与えることができる。
【0050】
隔膜3は、厚み0.15mmの膜形状をなす。隔膜3は、マグネシウムイオンのみを通す固体電解質であり、本例においては高分子型マグネシウムイオン伝導体を用いる。高分子型マグネシウムイオン伝導体の具体的構成は、ポリエーテル化合物として、分子量約400 のポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDM)と、2種のメタクリロイル変性ポリエチレンオキシドとして、メトキシポリ(エチレングリコール)モノメタクリレート(PEMM)及びポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート(PEDM) とを混合した。混合比は、PEGDM:PEMM:PEDM=4:3:1(質量比)とした。この混合物に過塩素酸マグネシウム無水物Mg(C104)2を溶解した。マグネシウム塩(Mg)の含有量の、ポリエーテル化合物のアルキレンオキシド単位(以下、EOと略称する)の含有量に対するモル比(Mg/EO )は、1/32〜1/128とした。更に、この組成物に、光重合開始剤として、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンを0.2 重量%加え、均一溶液とした。この溶液をアルミニウムシャーレ上に流延し、6Wの紫外線ランプを用いて紫外光を15分間照射してラジカル重合させることにより、組成物を硬化させた。これにより、均一組成の無色透明の薄膜(厚み0.5 mm)を得た。この薄膜が、高分子型マグネシウムイオン伝導体である。
【0051】
正極側の電解液4は、水溶性電解液であり、2mol/LのMg(NO水溶液からなる。正極5は、金属銅からなる。
【0052】
二次電池7を充電させた場合、金属銅からなる正極5の表面の銅が溶解する(Cu→Cu2+ + 2e-)。Cu2+が正極用の電解液4に放出され、その中に含まれるMg(NOとイオン交換して、Mg2+を生成させる(Cu2+ + Mg(NO → Cu(NO+ Mg2+)。Mg2+は、マグネシウムイオンのみを通す固体電解質からなる隔膜3を通り、負極側の電解液2に移動し、負極1の表面にマグネシウムが析出する(Mg2+ + 2e- → Mg)。
【0053】
二次電池7を放電させた場合、金属マグネシウムからなる負極1の表面のマグネシウムが負極側の電解液2に溶解する(Mg → Mg2+ + 2e-)。これに伴い、Mg2+は、隔膜3を通り抜けて、正極側の電解液4に移動する。Mg2+ は、正極側の電解液4に存在するCu(NOとイオン交換して、Cu2+ を生成させる(Mg2+ +Cu(NO → Cu2+ + Mg(NO)。正極5表面に銅が析出する(Cu2+ + 2e- →Cu)。
【0054】
本発明において、負極材料を構成する元素は、マグネシウムである。上記の表1に示すように、水素の酸化還元電位を0としたとき、マグネシウムの酸化還元電位は、−2.363Vであり、リチウム金属の酸化還元電位−3.045Vに比較的近い。このため、電池の起電力を大きくすることができる。また、負極材料であるマグネシウムの体積密度は1.783g/cmであり、リチウム金属の体積密度0.534g/cmよりも大きい。このため、単位体積当たりの電池容量が大きくなり、電池の体積エネルギー密度を大きくすることができる。
【0055】
(実施例3)
図5に示すように、本例の二次電池7においては、負極1として、金属カルシウムを用いている。負極用の電解液2は、有機電解液であり、1mol/LのCa(ClOを有機溶媒に溶解してなる。有機溶媒は、プロピレンカーボネートからなる。
【0056】
隔膜3は、厚み0.15mmの膜形状をなす。隔膜3は、カルシウムイオンのみを通す固体電解質であり、本例においては高分子型カルシウムイオン伝導体を用いる。高分子型カルシウムイオン伝導体の具体的構成は、ポリエチレンオキシド(PEO)にCa(ClO4)2を10重量部入れたポリマー電解質である。正極側の電解液4は、水溶性電解液であり、2mol/LのCa(NO水溶液からなる。正極5は、金属銅からなる。
【0057】
二次電池7を充電させた場合、金属銅からなる正極5の表面の銅が溶解する(Cu→Cu2+ + 2e-)。Cu2+が正極用の電解液4に放出され、その中に含まれるCa(NOとイオン交換して、Ca2+を生成させる(Cu2+ + Ca(NO → Cu(NO+ Ca2+)。Ca2+は、カルシウムイオンのみを通す固体電解質からなる隔膜3を通り、負極側の電解液2に移動する。負極1の表面でカルシウムが析出する(Ca2+ + 2e-→ Ca)。
【0058】
二次電池7を放電させた場合、負極1の表面のカルシウムが負極側の電解液2に溶解する(Ca → Ca2+ + 2e-)。Ca2+は、隔膜3を通り抜けて、正極側の電解液4に移動する。Ca2+ は、正極側の電解液4に存在するCu(NO とイオン交換して、Cu2+ を生成させる(Ca2+ +Cu(NO → Cu2+ + Ca(NO)。正極5表面に銅が析出する(Cu2+ + 2e- →Cu)。
【0059】
本発明において、負極材料を構成する元素は、カルシウムである。上記の表1に示すように、水素の酸化還元電位を0としたとき、カルシウムの酸化還元電位は、−2.87Vであり、リチウム金属の酸化還元電位−3.045Vに比較的近い。このため、電池の起電力を大きくすることができる。また、負極材料であるカルシウムの体積密度は1.55g/cmであり、リチウム金属の体積密度0.534g/cmよりも大きい。このため、単位体積当たりの電池容量が大きくなり、電池の体積エネルギー密度を大きくすることができる。
【0060】
(実施例4)
図6に示すように、本例の二次電池7においては、負極1として、金属ナトリウムを用いている。負極用の電解液2は、有機電解液であり、1mol/LのNaClOを有機溶媒に溶解してなる。有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で1:1の割合で混合したものである。
【0061】
隔膜3は、厚み0.15mmの膜形状をなす。隔膜3は、ナトリウムイオンのみを通す固体電解質であり、本例においてはNASICONを用いる。NASICONの具体的構成は、Na4Zr2Si312である。正極側の電解液4は、水溶性電解液であり、2mol/LのNaNO水溶液からなる。正極5は、金属銅からなる。
【0062】
二次電池7を充電させた場合、金属銅からなる正極5の表面の銅が溶解する(Cu→Cu2+ + 2e-)。Cu2+が正極用の電解液4に放出され、その中に含まれるNaNOとイオン交換して、Ca2+を生成させる(Cu2+ + 2NaNO → Cu(NO+ 2Na)。Naは、ナトリウムイオンのみを通す固体電解質からなる隔膜3を通り、負極側の電解液2に移動する。負極1の表面にナトリウムが析出する(Na + e- → Na)。
【0063】
二次電池7を放電させた場合、負極1の表面のナトリウムが負極側の電解液2に溶解する(Na → Na + e-)。Naは、隔膜3を通り抜けて、正極側の電解液4に移動する。Na は、正極側の電解液4に存在するCu(NO とイオン交換して、Cu2+ を生成させる(2Na +Cu(NO → Cu2+ + 2NaNO)。正極5表面にカルシウムが析出する(Cu2+ + 2e- →Cu)。
【0064】
本発明において、負極材料を構成する元素は、ナトリウムである。上記の表1に示すように、水素の酸化還元電位を0としたとき、ナトリウムの酸化還元電位は、−2.714Vであり、リチウム金属の酸化還元電位−3.045Vに比較的近い。このため、電池の起電力を大きくすることができる。また、負極材料であるナトリウムの体積密度は0.968g/cmであり、リチウム金属の体積密度0.534g/cmよりも大きい。このため、単位体積当たりの電池容量が大きくなり、電池の体積エネルギー密度を大きくすることができる。
【符号の説明】
【0065】
1:負極、2:負極側の電解液、3:隔膜、4:正極側の電解液、5:正極、61,62:ケース、7:二次電池。
図1
図2
図3
図4
図5
図6