特許第6011549号(P6011549)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011549
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】光ファイバ母材製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/018 20060101AFI20161006BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   C03B37/018 B
   G02B6/02 356A
   G02B6/02 376A
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-555151(P2013-555151)
(86)(22)【出願日】2012年12月13日
(86)【国際出願番号】JP2012082371
(87)【国際公開番号】WO2013111470
(87)【国際公開日】20130801
【審査請求日】2015年11月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-13122(P2012-13122)
(32)【優先日】2012年1月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 欣章
(72)【発明者】
【氏名】春名 徹也
(72)【発明者】
【氏名】平野 正晃
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−250025(JP,A)
【文献】 特表2005−537210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00−37/16
C03C 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部およびクラッド部を含む石英系ガラスからなる光ファイバ母材を製造する方法であって、
石英ガラスからなるガラスパイプの内表面近傍に最高濃度500ppm以上20000ppm以下のアルカリ金属を添加するアルカリ金属添加工程と、
前記アルカリ金属添加工程の後に前記ガラスパイプの内部にSFガスおよび該SF6ガスの流量の2〜10倍の流量の塩素ガスを流しながら、前記ガラスパイプの内表面の温度が1500℃以上であり且つ前記ガラスパイプの各点が温度800℃以上に加熱される時間が8分より短くなるように前記ガラスパイプを加熱して前記ガラスパイプの内表面を気相エッチングするエッチング工程と、
前記エッチング工程の後に前記ガラスパイプを中実化してガラスロッドを作製する中実化工程と、
を備え、
前記エッチング工程においてキャリアガスとして酸素を含まず、
前記中実化工程により作製されたガラスロッドを用いて光ファイバ母材を製造する、
ことを特徴とする光ファイバ母材製造方法。
【請求項2】
前記エッチング工程においては、前記ガラスパイプの同一箇所を複数回加熱しないように前記ガラスパイプを加熱することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ母材製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属元素をコア領域に添加した石英ガラスからなる光ファイバが知られている(特許文献1〜9を参照)。光ファイバ母材のコア部にアルカリ金属元素が添加されていると、光ファイバ母材を線引するときにコア部の粘性を下げることができ、石英ガラスのネットワーク構造の緩和が進行するので、光ファイバの伝送損失を低減することが可能であるといわれている。
【0003】
アルカリ金属元素を石英ガラス中に添加する方法としては拡散法が知られている(例えば特許文献1,2を参照)。拡散法は、原料となるアルカリ金属元素またはアルカリ金属塩などの原料蒸気をガラスパイプ内に導入しながら、ガラスパイプを外部熱源により加熱したり、ガラスパイプ内にプラズマを発生させたりすることで、アルカリ金属元素をガラスパイプの内表面に拡散添加するものである。
【0004】
このようにしてアルカリ金属元素をガラスパイプの内表面近傍に添加した後、このガラスパイプを加熱して縮径させる。縮径後、アルカリ金属元素の添加の際に同時に添加されてしまうNiやFeなどの遷移金属元素を除去する目的で、ガラスパイプの内表面のある厚みをエッチングする。アルカリ金属元素は遷移金属元素よりも拡散が速いのでガラス表面をある厚みでエッチングして遷移金属元素を除去してもアルカリ金属元素を残留させることが可能である。エッチング後、ガラスパイプを加熱して中実化することで、アルカリ金属元素添加コアロッドを製造する。このアルカリ金属元素添加コアロッドの外側に、アルカリ金属元素添加コアロッドを含むコア部よりも屈折率の低いクラッド部を合成することで、光ファイバ母材を製造する。そして、この光ファイバ母材を線引することで光ファイバを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−537210号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0130530号明細書
【特許文献3】特表2007−504080号公報
【特許文献4】特表2008−536190号公報
【特許文献5】特表2010−501894号公報
【特許文献6】特表2009−541796号公報
【特許文献7】特表2010−526749号公報
【特許文献8】国際公開第98/002389号
【特許文献9】米国特許第5146534号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
石英系ガラス中でのアルカリ金属元素の拡散は非常に早い。特に線引時には光ファイバ母材は温度1700℃以上に加熱される。このような高温状態におけるアルカリ金属元素の拡散については、拡散係数が1×10−6cm/sとなり、加熱時間が0.5秒となるので、拡散距離が14μmとなって通常の光ファイバのコア半径5μmと比較して非常に大きい。このように、コア部に添加されたアルカリ金属元素はクラッド部まで大きく拡散してしまう。
【0007】
このアルカリ金属元素の拡散の結果、光ファイバ状態でのコア中のアルカリ金属の平均濃度は、光ファイバ母材中のコア中のアルカリ金属の平均濃度の1/10程度と極めて低くなってしまう。光ファイバのコア部には平均で1ppm以上のアルカリ金属が添加されていることが望ましい。したがって、光ファイバ母材のコア部には平均で10ppm以上のアルカリ金属が添加されていることが望ましい。このとき、光ファイバ母材のコア部におけるアルカリ金属のピーク濃度は500ppm以上となる。
【0008】
コア部におけるアルカリ金属のピーク濃度が500ppm以上である光ファイバ母材を製造する際に、石英ガラスパイプの内表面近傍にアルカリ金属元素を添加するアルカリ金属添加工程、石英ガラスパイプの内表面を気相エッチングするエッチング工程、および、石英ガラスパイプを中実化して石英ガラスロッドを作製する中実化工程において、結晶化が極めて生じやすくなり、製造性が悪いという課題があった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、線引して光ファイバとした状態においても該光ファイバのコア領域に充分な濃度のアルカリ金属元素を含有させることができる光ファイバ母材を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、光ファイバ母材製造方法に関する。この光ファイバ母材製造方法は、コア部およびクラッド部を含む石英系ガラスからなる光ファイバ母材を製造する方法であって、石英ガラスからなるガラスパイプの内表面近傍に最高濃度500ppm以上のアルカリ金属を添加するアルカリ金属添加工程と、アルカリ金属添加工程の後にガラスパイプの内部にSFガスおよび塩素ガスを流してガラスパイプの内表面を気相エッチングするエッチング工程と、エッチング工程の後にガラスパイプを中実化してガラスロッドを作製する中実化工程とを備え、中実化工程により作製されたガラスロッドを用いて光ファイバ母材を製造することを特徴とする。
【0011】
本発明の一側面に係る光ファイバ母材製造方法は、エッチング工程において塩素ガスの流量をSFガスの流量の2〜10倍とすることができる。エッチング工程においてキャリアガスとして酸素を含まないことができる。エッチング工程においてガラスパイプの内表面の温度が1500℃以上となるようにガラスパイプを加熱することができる。また、エッチング工程において、ガラスパイプの各点が温度800℃以上に加熱される時間が8分より短いことができる。さらに、エッチング工程においては、ガラスパイプの同一箇所を複数回加熱しないようにガラスパイプを加熱することができる。
【0012】
光ファイバ母材は、上記の本発明の一側面に係る光ファイバ母材製造方法により製造された光ファイバ母材であって、第一コア部と、この第一コア部の周りに設けられた第二コア部とを有し、第一コア部において、アルカリ金属添加量が平均10原子ppm以上であり、塩素添加量が500ppm以下であり、フッ素添加量が500ppm以上であり、第二コア部において、アルカリ金属添加量が平均10原子ppm以下であり、塩素添加量が1000ppm以上であることを特徴とする。
【0013】
光ファイバは、上記の本発明の一側面に係る光ファイバ母材製造方法により製造された光ファイバ母材を線引して製造される光ファイバであって、波長1550nmにおける伝送損失が0.180dB/km以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、線引して光ファイバとした状態においても該光ファイバのコア領域に充分な濃度のアルカリ金属元素を含有させることができる光ファイバ母材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】光ファイバ母材製造方法のフローチャートである。
図2】光ファイバ母材製造方法におけるアルカリ金属添加工程(ステップS1)を説明する図である。
図3】エッチング工程の際のキャリアガスのガス種および流量に対するエッチング後の結晶の有無を纏めた図表である。
図4】エッチング工程の際のキャリアガスとしての塩素ガスの流量に対するエッチング後の結晶の有無およびKCl分相の状態を纏めた図表である。
図5】カリウム最高濃度とエッチング後のパイプ内面状態との関係を纏めた図表である。
図6】エッチング工程の際のパイプ内面温度とエッチング後のパイプ内面状態との関係を纏めた図表である。
図7】エッチング工程の際のパイプ加熱時間とエッチング後のパイプ内面状態との関係を纏めた図表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、光ファイバ母材製造方法のフローチャートである。光ファイバ母材製造方法は、アルカリ金属添加工程(ステップS1)、縮径工程(ステップS2)、エッチング工程(ステップS3)、中実化工程(ステップS4)、延伸工程(ステップS5)、コア部拡径工程(ステップS6)およびクラッド部形成工程(ステップS7)の各処理を順に行うことで、コア部およびクラッド部を含む石英系ガラスからなる光ファイバ母材を製造することができる。図2は、光ファイバ母材製造方法におけるアルカリ金属添加工程(ステップS1)を説明する図である。
【0018】
アルカリ金属添加工程(ステップS1)では、石英系ガラスからなるガラスパイプ1の内壁面にアルカリ金属が添加される。添加されるアルカリ金属としては、好適にはカリウムであり、他にナトリウム、ルビジウム、セシウム等であってもよい。例えば、図2に示されるように、アルカリ金属原料3として臭化カリウム(KBr)を用い、これを外部熱源2により加熱してKBr蒸気を発生させる。そして、キャリアガスと共にKBr蒸気をガラスパイプ1に導入しながら、外部熱源4によってガラスパイプ1の外表面を加熱する。外部熱源4を複数回トラバースさせて加熱し、カリウム金属元素をガラスパイプ1の内表面に拡散添加させる。
【0019】
アルカリ金属添加工程(ステップS1)後の縮径工程(ステップS2)では、原料供給部の加熱によるKBr蒸気の供給が停止された後、外部熱源による加熱が続けられて、ガラスパイプが縮径される。
【0020】
続くエッチング工程(ステップS3)では、縮径されたガラスパイプの内部にSFガスがキャリアガスと共に流されるとともに、外部熱源がガラスパイプの長さ軸方向に連続的にトラバースされて、ガラスパイプが加熱される。これにより、ガラスパイプの内壁面が400〜800μm程度の厚みでエッチングされて、カリウムの拡散工程で同時に拡散添加された遷移金属やOH基などの不純物を多量に含む層が取り除かれる。
【0021】
続く中実化工程(ステップS4)では、ガラスパイプ内部を減圧しながら、酸水素バーナ火炎などの熱源によって、ガラスパイプの表面を温度2000℃〜2250℃に加熱し、上記熱源がガラスパイプの長さ方向に連続的にトラバースされてガラスパイプが中実化され、これにより透明な石英系ガラスからなるガラスロッドが得られる。中実化工程(ステップS4)で得られたガラスロッドは、続く延伸工程(ステップS5)で酸水素バーナなどの熱源によって加熱されながら延伸される。
【0022】
続くコア部拡径工程(ステップS6)では、ガラスロッドの周囲に石英ガラスが設けられ、拡径部付きガラスロッドが得られる。ここで設けられた石英ガラスは、光ファイバのコア部またはコアの一部となる。続くクラッド部形成工程(ステップS7)では、上記のようにして得られたガラスロッドの周囲に光学クラッド部が形成される。このようにして光ファイバ母材が製造される。
【0023】
エッチング工程(ステップS3)において、キャリアガスとして酸素ガスが用いられる場合がある。この場合、この酸素ガスとSFガスとの混合ガスがガラスパイプの内部に流されるとともに、ガラスパイプが加熱される。これにより、ガラスパイプの内壁面がエッチングされて、遷移金属やOH基などの不純物を多量に含む層が取り除かれ得る。しかし、500ppm以上のカリウムを添加したガラスパイプを上記方法でエッチングした場合、ガラスの結晶化が発生しやすい。
【0024】
この結晶化は、エッチングガスの流れに対して下流側で発生することが多く、特にエッチングにより発生したガラス粉体等が堆積した部分で発生していることが確認された。また、この堆積物を分析したところ、高濃度の硫酸カリウム(KSO)およびガラスから構成されていることが確認された。KSOは非常に安定であり、エッチング等の加熱においてもパイプ内に残留したアルカリ塩はKSOを核として結晶化の原因になっていると推測される。
【0025】
SOの発生を抑えて結晶化を抑制する方法として、エッチングのキャリアガスにClガスを混ぜる方法が考えられる。Clガスを混ぜた場合、大部分のKはClと反応してKClとなる。KClは、沸点が低いので、エッチング時の加熱により蒸発除去される。これによりカリウム塩を核とした結晶化が抑制されると考えられる。
【0026】
図3は、エッチング工程の際のキャリアガスのガス種および流量に対するエッチング後の結晶の有無を纏めた図表である。エッチング工程において、SFガスおよびキャリアガス(酸素、窒素、ヘリウム、塩素またはこれらの混合気体)をガラスパイプ内に流すとともに、ガラスパイプの外側から熱源を移動速度40mm/minで移動させながら加熱した。ガラスパイプには拡散法によりカリウムが添加されており、そのカリウム濃度の最大値は2000ppmであった。SFガスの流量を100sccmとし、キャリアガスの総流量を500sccmとした。流したキャリアガスのガス種および流量に対してエッチング後の結晶の有無を確認したところ、図3に示される結果が得られた。
【0027】
図3中の実験No1、5、6、10の結果を比較したところ、キャリアガスとして塩素ガスを供給した実験では結晶化が発生しないことが確認された。これは、塩素の存在によりカリウムがKClとなって気化することでカリウムが排出されたからであると推測される。一方、キャリアガスとして塩素ガスを供給しなかった条件では、エッチングガスまたはガラス中の酸素とカリウムとが結合してKSOが発生し、これが結晶核となり結晶が発生したと推測される。
【0028】
図3中の実験No1〜No5の結果から、キャリアガス中に酸素を混合した場合、塩素の存在に関わらず結晶化することが確認された。キャリアガスに酸素を含む条件では、エッチングしたパイプの内面にKSOの堆積が確認されたことから、カリウムの一部がKSOとなり、これを結晶核として結晶成長が発生したと推測される。
【0029】
図4は、エッチング工程の際のキャリアガスとしての塩素ガスの流量に対するエッチング後の結晶の有無およびKCl分相の状態を纏めた図表である。エッチング工程において、SFガスおよび塩素ガスをガラスパイプ内に流すとともに、ガラスパイプの外側から熱源を移動速度40mm/minで移動させながら加熱した。ガラスパイプには拡散法によりカリウムが添加されており、そのカリウム濃度の最大値は2000ppmであった。SFガスの流量を100sccmとし、キャリアガスとしての塩素ガスの流量を100〜1200sccmとした。流した塩素ガスの流量に対してエッチング後の結晶の有無およびガラス中のKCl分相の状態を確認したところ、図4に示される結果が得られた。
【0030】
図4に示される結果から、塩素ガス流量がSFガス流量の2倍以上の条件で結晶化が抑制されることが確認された。これは、塩素ガス流量が200sccm未満の条件では、カリウムが十分にKClとならず、KSOが発生し、これを核とした結晶化が発生したからであると推測される。一方、塩素ガス流量をSFガス流量の10倍以上とした場合、過剰に発生したKClがガラス中でKClの分相を生成し、これによりガラスが白く濁る現象が確認された。分相の発生したガラス体は、後の母材化工程で気泡の原因となるので、ファイバ化することが困難であった。
【0031】
図5は、カリウム最高濃度とエッチング後のパイプ内面状態との関係を纏めた図表である。外径25mmで肉厚10mmの内面にKが添加されたパイプの内部に、SFガス(100sccm)およびClガス(500sccm)を流しながらトラバース速度40mm/minで移動する熱源で加熱してエッチングを行った。このときのパイプ内面のカリウムの最高濃度とエッチング後のパイプ内面状態との関係は図5に示されるようになった。
【0032】
図6は、エッチング工程の際のパイプ内面温度とエッチング後のパイプ内面状態との関係を纏めた図表である。エッチング工程において、SFガス(100sccm)および塩素ガス(500sccm)をガラスパイプ内に流すとともに、ガラスパイプの外側から熱源を移動させながら加熱した。ガラスパイプの外径は25mmであり、肉厚は10mmであった。ガラスパイプには拡散法によりカリウムが添加されており、そのカリウム濃度の最大値は20000ppmであった。エッチング工程の際のパイプ内面の温度とエッチング後のパイプ内面状態との関係は図6に示されるようになった。
【0033】
エッチング工程においてキャリアガスとして塩素ガスを用いた場合、パイプ内のカリウムと塩素との反応生成物であるKClが発生する。KClはそのままパイプ内に残留することで結晶化の原因となる。KClは、沸点が1500℃であるので、パイプ内面を1500℃以上に加熱することで蒸発しパイプ内面から排出することが可能である。このことから、図6に示されるように、パイプ内面を1500℃以上になるように加熱することで結晶化を抑制することができた。なお、ガラスパイプは、ガラス自体の蒸発により1700℃以上加熱することは困難である。
【0034】
図7は、エッチング工程の際のパイプ加熱時間とエッチング後のパイプ内面状態との関係を纏めた図表である。エッチング工程において、SFガス(100sccm)および塩素ガス(500sccm)をガラスパイプ内に流すとともに、ガラスパイプの外側から熱源を移動させながら加熱した。ガラスパイプの外径は25mmであり、肉厚は10mmであった。ガラスパイプには拡散法によりカリウムが添加されており、そのカリウム濃度の最大値は20000ppmであった。加熱の際にパイプ内面温度が1600℃以上となるように火力を調整した時の800℃以上となる加熱長(ヒートゾーン)をバーナの移動速度で割った加熱時間についてエッチング後のパイプ状態を比較したところ、図7に示されるようになった。
【0035】
図7に示されるように、加熱時間が長い条件では結晶の生成が確認された。これは、結晶が成長するのに十分な加熱時間であったからであると推測される。一方、加熱時間が2.8分より短い条件については、加熱長をさらに短くする又は熱源移動速度を早くするといった方法で達成可能であるが、パイプ内面の温度が1600℃以上を保つことができず結晶化した。これは熱源が現在より高性能になればより短時間の加熱も可能になると考えられる。なお、熱源によるガラスパイプの加熱は、複数回行ってもよいが、一回のみである方が望ましい。これは、加熱が複数回の場合、例えば初回の加熱により発生してガラスパイプの内面に微量に残留したKCl等のアルカリ金属塩が、次回の加熱により結晶に成長し得ると考えられるためである。つまり、エッチング工程においては、ガラスパイプの同一箇所を複数回加熱しないようにガラスパイプを加熱することが望ましい。
【実施例1】
【0036】
実施例では、以下の各処理を順に行うことで光ファイバ母材および光ファイバを製造して、この光ファイバの伝送特性を評価した。
【0037】
最初に、石英系ガラスからなるガラスパイプを準備した。このガラスパイプは、100原子ppmのCl及び6,000原子ppmのフッ素をドーパントとして含み、その他の不純物の濃度が10ppm以下であって、実質的に純石英ガラスであった。このガラスパイプの外径は直径35mmであり、内径は直径20mm程度であった。
【0038】
続くアルカリ金属添加工程では、図2に示されるように、アルカリ金属原料3として臭化カリウム(KBr)を用い、これを外部熱源2により温度840℃に加熱してKBr蒸気を発生させた。そして、キャリアガスとして導入した流量1SLM(標準状態に換算して1リットル/min)の酸素と共にKBr蒸気をガラスパイプ1に導入しながら、外部熱源4である酸水素バーナによってガラスパイプ1の外表面が2150℃となるように加熱した。酸水素バーナを40mm/minの速さでトラバースさせ、合計15ターン加熱し、カリウム金属元素をガラスパイプ1の内表面に拡散添加させた。このアルカリ金属添加パイプのカリウム濃度の最大値は5000原子ppmであった。
【0039】
続く縮径工程では、カリウム金属元素が添加されたガラスパイプ内に酸素(0.5SLM)を流しながら、外部熱源によってガラスパイプの外表面が2250℃となるように加熱した。外部熱源を合計6ターン加熱し、カリウム金属元素が添加されたガラスパイプを内直径5mmまで縮径した。
【0040】
続くエッチング工程では、カリウム金属元素が添加されたガラスパイプ内に、SFガス(0.1SLM)およびClガス(0.5SLM)の混合ガスを導入しながら、外部熱源で加熱し気相エッチングすることで、ガラスパイプの内直径を5.5mmにした。
【0041】
続く中実化工程では、ガラスパイプ内に酸素(1SLM)を導入しながら、ガラスパイプ内の絶対圧を1kPaにまで減圧し、外部熱源によって表面温度を2150℃として中実化し、直径が25mmのアルカリ金属添加コアガラスロッドとした。このアルカリ金属添加コアガラスロッドのカリウム濃度は最大値で1000原子ppmであり、カリウムが10原子ppm以上に添加されている領域の直径は10mmであった。
【0042】
続く延伸工程では、アルカリ金属添加コアガラスロッドを直径20mmとなるように延伸し、その後直径が13mmとなるようにアルカリ金属添加コアガラスロッドの外周部を研削した(第一コア部)。
【0043】
続くコア部拡径工程では、アルカリ金属添加コアガラスロッドの外側に外径65mmとなるようClが5,000原子ppm添加された石英系ガラス(第二コア部)を設け、直径24mmとなるように延伸し、その後直径が20mmとなるように外周部を研削し、コアガラスロッドとした。第一コア部と第二コア部とをあわせて、光ファイバのコア領域となる。このコア部のアルカリ金属濃度は平均で50原子ppmであった。この第二コア部のガラスの合成に際しては、Clが6,000原子ppm添加された石英系ガラスパイプを準備し、このガラスパイプにアルカリ金属添加コアガラスロッドを挿入し、両者を外部熱源によって加熱し一体化するロッドインコラプス法を用いた。この結果、第一コア部の径(D1)と塩素が高濃度に添加された第二コア部の径(D2)との比D2/D1は3であった。
【0044】
続くクラッド部形成工程では、コアガラスロッドの外側に、フッ素元素が添加された石英系ガラスからなる第一クラッド部(光学クラッドガラス部)を合成した。第二コア部と第一クラッド部との相対比屈折率差は最大で0.34%程度であった。この第一クラッド部の合成に際しては、フッ素元素が添加された石英系ガラスパイプを準備し、これにコアガラスロッドを挿入し、外部熱源によって加熱し一体化するロッドインコラプス法を用いた。このロッドインコラプス法による合成の結果、コアガラスロッド及びその近傍の第一クラッド部の水分量を十分に低く抑制することが可能であった。
【0045】
更に、第一クラッド部付きコアガラスロッドを所定径に延伸などの加工をした後、そのガラスロッドの外側に、フッ素元素が添加された石英系ガラス(第二クラッド部)を合成して光ファイバ母材とした。第一クラッド部の外直径が36mmであり、第二クラッド部の外直径が140mmであった。第二コア部と第二クラッド部との相対比屈折率差は最大で0.32%程度であった。この第二クラッド部の合成に際してOVD法を用いた。また、赤外吸収分光を用いてOH基の濃度を測定した結果、第一クラッド部と第二クラッド部との界面においてOH基濃度はピークで400原子ppm程度であった。
【0046】
このようにして製造された光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造した。このとき、線引速度は2,300m/minであり、線引張力は0.5Nであった。
【0047】
以上のようにして製造された光ファイバの諸特性は以下のとおりであった。カリウム添加濃度(コア中の平均値)は3原子ppm程度であった。伝送損失(波長1300nm)は0.287dB/kmであり、伝送損失(波長1380nm)は0.292dB/kmであり、伝送損失(波長1550nm)は0.163dB/kmであった。波長分散(波長1550nm)は+15.9ps/nm/kmであり、分散スロープ(波長1550nm)は+0.054ps/nm/kmであった。零分散波長は1310nmであり、零分散波長における分散スロープは+0.083ps/nm/kmであった。実効断面積(波長1550nm)は82μmであり、モードフィールド径(波長1550nm)は10.3μmであり、モードフィールド径(波長1310nm)は9.1μmであった。ファイバカットオフ波長(2m)は1310nmであり、ケーブルカットオフ波長(22m)は1230nmであった。偏波モード分散(C、Lバンド)は0.11ps/√kmであり、非線形係数(波長1550nm、ランダム偏波状態)は1.1(W・km)−1であった。このように低伝送損失の光ファイバが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、線引して光ファイバとした状態においても該光ファイバのコア領域に充分な濃度のアルカリ金属元素を含有させることができる光ファイバ母材を製造することができる。
【符号の説明】
【0049】
10…石英ガラスパイプ、20…ダミーパイプ、30…KBr原料、40…電気炉、50…酸水素バーナ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7