特許第6011556号(P6011556)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011556
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】燐酸質肥料原料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/28 20060101AFI20161006BHJP
   C05B 13/00 20060101ALI20161006BHJP
   C21C 5/32 20060101ALI20161006BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20161006BHJP
   C05D 3/04 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   C21C5/28 C
   C05B13/00ZAB
   C21C5/32
   B09B3/00 304C
   C05D3/04
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-15545(P2014-15545)
(22)【出願日】2014年1月30日
(65)【公開番号】特開2015-140473(P2015-140473A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2015年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】大阪 友也
(72)【発明者】
【氏名】内田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】松井 章敏
(72)【発明者】
【氏名】三木 祐司
(72)【発明者】
【氏名】八尾 泰子
(72)【発明者】
【氏名】菊池 直樹
【審査官】 大塚 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−132544(JP,A)
【文献】 特開2010−168641(JP,A)
【文献】 特開2004−345940(JP,A)
【文献】 特開2004−137136(JP,A)
【文献】 特開平11−158526(JP,A)
【文献】 特開2012−072018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/28 − 5/36
B09B 3/00
C05B 13/00
C05D 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼精錬プロセスで発生した燐を含有する製鋼スラグに還元処理を施して得られる燐含有溶銑に、さらに脱燐処理を施し、得られる脱燐スラグを燐酸質肥料原料とするに当たり、
前記脱燐処理を、得られる前記脱燐スラグがCaO含有量とSiO2含有量の比、[質量%CaO]/[質量%SiO2]で定義される塩基度が1.5以上、かつCaO、P2O5、SiO2の三元系での質量%でSiO2が10%以上となる組成を有するように、酸素ガスと共に投射するCaO源の量を調整するとともに、さらに珪素源を供給する処理とすることを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
【請求項2】
前記還元処理が、炭素、珪素、アルミニウムのうちの1種以上を含有する還元剤を用いて行う処理であることを特徴とする請求項1に記載の燐酸質肥料原料の製造方法。
【請求項3】
前記CaO源が、粒径が1mmアンダーの粉末であることを特徴とする請求項1または2に記載の燐酸質肥料原料の製造方法。
【請求項4】
前記珪素源の供給を、火点に対して行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の燐酸質肥料原料の製造方法。
【請求項5】
前記得られる脱燐スラグが、スラグ全量に対する質量%で、P2O5が15%以上となる組成を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の燐酸質肥料原料の製造方法。
【請求項6】
前記得られる脱燐スラグが、スラグ全量に対する質量%で、CaO、P2O5およびSiO2の合計含有量が50%以上となる組成を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の燐酸質肥料原料の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼工程において発生する製鋼スラグの有効再利用に係り、とくに製鋼スラグから燐を回収・濃化して、燐酸質肥料として安定して活用可能な高いレベルの燐酸質肥料原料とする、燐酸質肥料として活用可能な燐酸質肥料原料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燐鉱石の枯渇や、中国、米国などによる燐鉱石の囲い込みのため、燐資源が高騰している。そのため、鉄鋼プロセスにおいて発生する鉄鋼スラグ(以下、製鋼スラグともいう)中の燐が貴重な燐資源として見直されている。
しかし、高炉から出銑される溶銑中の燐濃度は0.1質量%程度であるため、従来の一般的な溶銑の予備脱燐処理や溶銑の脱炭精錬で生成される製鋼スラグ中の燐酸(P2O5)濃度は、高々5質量%程度と低く留まっている。なお、ここでいう「予備脱燐処理」とは、溶銑を転炉などで脱炭精錬する前に、予め溶銑中の燐を除去する処理をいう。このままでは、製鋼スラグを燐酸資源、例えば燐酸質肥料原料として利用できる見込みはほとんどない。そのため、これらの製鋼スラグは、路盤材などの土木用材料として使用されているのが現状であり、スラグ中の燐は有効に利用されていない。
【0003】
また、最近では、環境対策や省資源という観点から、製鋼スラグをリサイクルして使用することを含めて、製鋼スラグの発生量を削減することが急務となっている。例えば、製鋼スラグをリサイクルして、造滓剤用の石灰源として鉄鉱石の焼結工程で使用するという試みがある。しかし、この方法では、製鋼スラグ中の燐が高炉で還元されて、高炉から出銑される溶銑の燐濃度が増加するという問題がある。
【0004】
従来から、製鋼スラグを原料とする燐酸質肥料として、トーマス燐肥が広く知られている。このトーマス燐肥は、高燐鉄鉱石を原料として製造されるトーマス溶銑(通常、[P]:1.8〜2.0質量%程度)をトーマス転炉を用いて精錬し、この際に生成するスラグを原料とするものであり、燐酸濃度は16〜22質量%と高いことが特徴である。しかし、この技術は、トーマス転炉を用いる必要があることや、高燐鉄鉱石を原料とする必要があることなどの制約や、脱燐後の溶銑のP濃度が高いこと、生成するスラグ量が多いこと等の問題があり、現在はほとんど実施されていない。
【0005】
このような問題に対し、例えば特許文献1には、清浄鋼の精錬方法が記載されている。特許文献1に記載された技術は、高炉精錬工程と転炉精錬工程の間に2段階にわたる溶銑の炉外予備脱燐工程を設け、1回目の炉外予備脱燐工程ではP含有量が0.17〜0.50重量%の高含燐溶銑を予備脱燐しP含有量の高い有用スラグを生成してこれを排出し、この時得られる脱燐銑を2回目の炉外予備脱燐工程で再度脱燐して低燐銑とし、得られた低燐銑を転炉精錬して低燐鋼となす、清浄鋼の精錬方法である。
【0006】
特許文献1に記載された技術では、2回目の炉外予備脱燐工程で発生した含燐スラグを高炉装入原料の一部として高炉に装入し、高炉から出銑される溶銑中のP含有量を0.17〜0.50重量%に維持するとしている。また、1回目の炉外予備脱燐工程で排出されたP含有量の高いスラグは、燐酸資源として回収し、燐酸、肥料の原料に利用できるとしている。また、特許文献1に記載された技術によれば、製鋼プロセスで排出されるスラグの量を大幅に低減できるとしている。
【0007】
また、特許文献2には、製銑製鋼方法が記載されている。特許文献2に記載された技術では、高炉精錬工程と転炉精錬工程の間に溶銑の炉外予備脱燐工程を設け、この炉外予備脱燐工程でP含有量が0.17〜0.50重量%の高含燐溶銑を予備脱燐しP含有量の高い有用スラグを生成してこれを排出し、この時得られた予備脱燐銑を転炉精錬して低燐鋼となしたのち、該転炉精錬で生成した含燐スラグを高炉装入原料の一部として高炉に装入し、高炉から出銑される溶銑中のP含有量を0.17〜0.50重量%に維持するとともに、廃棄スラグ量の低減を可能とする製銑製鋼方法である。特許文献2に記載された技術によれば、溶銑の炉外予備脱燐工程で排出されたP含有量の高いスラグは、燐酸資源として回収し、燐酸、肥料の原料に利用できるとしている。また、特許文献2に記載された技術によれば、製鋼プロセスで排出されるスラグの量を大幅に低減できるとしている。
【0008】
また、特許文献3には、高Pスラグの製造方法が記載されている。特許文献3に記載された技術は、P濃度が0.15質量%以下の溶銑を脱燐して得られた燐含有スラグを溶銑浴に投入し、炭素材および酸化鉄または/および酸素を供給してスラグ中のPを溶銑浴中に還元抽出して、P濃度が0.5〜3質量%の溶銑を生成する第1工程と、第1工程で生成したスラグを排滓した後、溶銑に処理後のスラグ塩基度が2〜8になるようにフラックスを添加し、さらに酸化鉄源の添加および/または酸素ガスの吹き込みを行って溶銑中に含まれる炭素濃度を1%以下まで低下させる第2工程を施し、処理後の燐酸濃度が10〜35%である高Pスラグを得る方法である。この方法で得られたスラグは、高濃度の燐酸を含み、直接、肥料として使用できるとしている。
【0009】
また、特許文献4には、製鋼スラグの資源化方法が記載されている。特許文献4に記載された技術は、転炉での溶銑の脱炭精錬において発生した脱炭精錬スラグと、溶銑の予備処理において発生した予備脱燐スラグとを、混合した後の塩基度(質量%CaO/質量%SiO2)が1.5〜2.8になるように混合し、該混合物に対して、炭素、珪素、アルミニウムのうちの1種以上を含有する還元剤を用いて前記スラグ中の鉄酸化物を還元するための還元処理を行い、該還元処理によって得られた金属鉄を鉄源として利用し、還元処理後のスラグを燐酸肥料用原料として利用する製鋼スラグの資源化方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平08−3612号公報
【特許文献2】特開平08−3613号公報
【特許文献3】特開平11−158526号公報
【特許文献4】特開2012−7190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1、2に記載された技術では、溶銑の炉外予備脱燐工程という特別な工程を設ける必要があり、脱燐処理コストやスラグ回収コストが高くなるという問題がある。例えば、特許文献1に記載された技術では、溶銑の炉外予備脱燐工程を2回に分けて行うため、脱燐処理装置を2基設ける必要があり、脱燐処理コストが高騰する。また、1基では脱燐処理量が半分となり、生産性が低下する。
【0012】
また、特許文献1〜3に記載された技術によれば、高濃度の燐酸を含むスラグを得ることができる。しかし、特許文献1〜3には、ク溶性燐酸、可溶性燐酸についての言及がなく、得られたスラグが燐酸肥料として有効な肥料効果を保持しているかは不明である。なお、ここでいう「ク溶性燐酸」とは、2%クエン酸(pH2.0)に溶解する燐酸をいい、「可溶性燐酸」とは、クエン酸二アンモニウム溶液(pH7)に溶解する燐酸をいう。この「ク溶性燐酸」濃度あるいは「可溶性燐酸」濃度が高いほど、肥料として有効であるといわれており、得られたスラグが燐酸肥料として効果を発揮するためには、ク溶性燐酸あるいは可溶性燐酸が多く含まれる必要がある。しかし、特許文献1〜3に記載された発明では、スラグ中の「ク溶性燐酸」濃度や「可溶性燐酸」を高めるための方策についてなんの配慮もされておらず、高いレベルの肥料効果を有するスラグが得られているとは必ずしも言い難い。
【0013】
また、特許文献4には、スラグ中の「ク溶性燐酸」含有量についての記載があるが、「可溶性燐酸」についての記載はなく、特許文献4に記載された技術では、高いレベルの肥料効果を有するスラグが得られているとは必ずしも言い難い。なお、肥料効果は、燐酸の溶解性(燐酸溶解性)を示す「ク溶性燐酸」あるいは「可溶性燐酸」で評価されることが多いが、「可溶性燐酸」で評価するほうが、「ク溶性燐酸」で評価するよりも、作物生育促進との相関が強いと言われている。
【0014】
本発明は、かかる従来技術の問題を有利に解決し、製鋼プロセスで発生する製鋼スラグを回収し、燐酸含有量が高く、かつ肥料効果が高い成分を含むスラグとし、燐酸質肥料として活用可能な燐酸質肥料原料とする、燐酸質肥料原料の安定した製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記した目的を達成するため、回収した製鋼スラグを素材として、燐酸質肥料として有効な組成を有するスラグとすることができる方策について、鋭意研究した。その結果、まず、回収した燐含有製鋼スラグを還元処理することにより、得られる溶銑は、0.5質量%以上の燐を含む高燐溶銑であることを確認した。そこで、その高燐溶銑を出発素材として、脱燐処理を施せば、溶銑は低燐化し、生成するスラグに燐が濃縮し高燐含有スラグ(脱燐スラグともいう)となり、このスラグを燐酸質肥料原料として利用することが可能になることに思い至った。しかし、従来から、生成されるスラグが燐酸質肥料原料として利用されるためには、スラグが肥料効果を有する燐酸を多量に含むことが必要であるとされてきた。
【0016】
そこで、生成するスラグ中の燐酸濃度を高める方策についてさらに鋭意検討した。その結果、高燐溶銑に脱燐処理を施す際に、生成するスラグ(脱燐スラグ)が塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2)):1.5以上となるように、酸素ガスと共に投射するCaO源の量を調整することに思い至った。脱燐スラグの塩基度が1.5以上となるように調整することにより、図1に示すように、スラグ中の燐酸含有量が、スラグ全量に対する質量%で15%以上と安定して高くすることができることを知見した。スラグの塩基度が1.5未満の低塩基度では、脱燐能力が不足することに起因して、所望のスラグ中の燐酸含有量を確保できない。なお、燐酸含有量はP2O5含有量として示す。
【0017】
しかし、種々の燐酸濃度(P2O5含有量)のスラグを、燐酸質肥料として、チンゲン菜、水稲等に施肥し、栽培試験(生育試験ともいう)を行い、肥料効果を確認したところ、燐酸濃度が高くても、必ずしも十分な肥料効果を示さない場合があることを知見した。これは、燐酸濃度が15質量%以上と高い場合でも、CaO、P2O5およびSiO2の合計量がスラグ全量に対する質量%で50%未満である場合には、FeO、MnO、MgO等の成分が多すぎることにより肥料効果が不十分となったことによると考えられる。
【0018】
一方、燐酸P2O5が、スラグ全量に対する質量%で15%以上と高く、かつCaO、SiO2、P2O5の合計量がスラグ全量に対する質量%で50%以上と高い場合でも、燐酸質肥料として十分な肥料効果を発揮しない場合があることを知見した。
そこでさらに、燐酸質肥料として種々のスラグについて、スラグ組成と肥料効果との関係を、チンゲンサイを用いた栽培試験で評価した。
【0019】
栽培試験はつぎのとおりとした。
炭酸カルシウムと酸化マグネシウムでpH(H20)6.5に矯正した多腐植質黒ボク土1kgと、燐酸質肥料原料としてのスラグ0.5gを装入した1/5000aワグネルポットに、チンゲンサイを植え、ガラス温室内で所定期間(60日間)栽培し、生育状況を観察した。なお、すべてのポットには、窒素(N)として0.5g/ポット、カリウム(K20)として0.5g/ポットとなるように、硝酸カリウムと塩化カリウムを施用した。チンゲンサイの生育状況は、燐酸質肥料として対照肥料である過燐酸石灰を施用したポットでの生育状況と比較し、同等もしくは優れている場合を「○」とし、それ以外の場合を「×」として評価した。得られた結果を表1に示す。
【0020】
なお、表1には、使用した燐酸質肥料原料(スラグ)について、肥料公定規格に定められているクエン酸二アンモニウム溶液(pH:7.0)に溶解する燐酸(可溶性燐酸)量を求め、燐酸質肥料原料(スラグ)中の全燐酸量に対する可溶性燐酸量の割合、燐酸可溶率(%)を算出した結果も併せて示す。またさらに表1には、燐酸質肥料原料(スラグ)に含まれる鉱物相を、X線回折により同定した結果も併記して示す。同定された鉱物相を○印で示した。
【0021】
【表1】
【0022】
栽培試験での生育状況が「○」と評価された燐酸質肥料原料(スラグ)はいずれも、スラグ全量に対する質量%で、CaO、SiO2、P2O5の合計量が50%以上、燐酸(P2O5)が15%以上で、かつCaO、SiO2、P2O5の三元系での質量%で、SiO2を10%以上含むスラグである。
このことから、燐酸質肥料原料中の燐酸含有量に加えて、SiO2量が肥料効果に大きく影響していることを突き止め、肥料効果が高い燐酸質肥料原料(スラグ)となるためには、スラグの組成を、スラグ全量に対する質量%で、CaO、SiO2、P2O5の合計量が50%以上、P2O5が15%以上で、かつCaO、SiO2、P2O5の三元系での質量%で、SiO2が10%以上含有する組成のスラグとする必要があることを見出した。
【0023】
そして、上記したCaO、SiO2、P2O5の三元系での質量%で、SiO2を10%以上含む組成のスラグは、鉱物相(CaO−P2O5系結晶)として、可溶性燐酸量が高く燐酸可溶率が高い、高い肥料効果を示すシリコカーノタイト(Ca5(PO42SiO4)の結晶構造を有する鉱物相を含むことを知見した。ここで、シリコカーノタイト(Ca5(PO42SiO4)は、Ca3(PO42−Ca2SiO4固溶体であり、通常、Ca5(PO42SiO4で表記される。
【0024】
このことは、試薬として精製された各鉱物相について測定した、燐酸可溶率の比較からも明らかである。すなわち、Ca(PO42SiO2の燐酸可溶率が85%であるのに対し、β-Ca3(PO42では39%、Ca19Mn2(PO414では56%、Ca9Fe(PO47では15%と低く、シリコカーノタイト(Ca5(PO42SiO2)の存在が、肥料効果を大きく向上させていると考えられる。
【0025】
また、本発明者らは、脱燐スラグ中のCaO、SiO2、P2O5の三元系での質量%で、SiO2含有量を10%以上とするには、脱燐処理中の吹錬中期から末期に、脱燐剤とともに珪素源を供給、とくに珪素源を火点に供給することにより、より達成しやすいことも見出している。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)製鋼精錬プロセスで発生した燐を含有する製鋼スラグに還元処理を施して得られる燐含有溶銑に、さらに脱燐処理を施し、得られる脱燐スラグを燐酸質肥料原料とするに当たり、前記脱燐処理を、得られる前記脱燐スラグがCaO含有量とSiO2含有量の比、[質量%CaO]/[質量%SiO2]で定義される塩基度が1.5以上、かつCaO、SiO2、P2O5の三元系での質量%で、SiO2が10%以上となる組成を有するように、酸素ガスと共に投射するCaO源の量を調整するとともに、さらに珪素源を供給する処理とすることを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
(2)(1)において、前記還元処理が、炭素、珪素、アルミニウムのうちの1種以上を含有する還元剤を用いて行う処理であることを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記CaO源が、粒径が1mmアンダーの粉末であることを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記珪素源の供給を、火点に対して行うことを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記得られる脱燐スラグが、スラグ全量に対する質量%で、P2O5が15%以上となる組成を有することを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
(6)(1)ないし(5)のいずれかにおいて、前記得られる脱燐スラグが、スラグ全量に対する質量%で、CaO、P2O5およびSiO2の合計含有量が50%以上となる組成を有することを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、従来、再利用できていない製鋼スラグから、肥料効果が安定して高い燐酸質肥料原料となる脱燐スラグを製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、製鋼スラグを有効活用できるようになり、製鉄所より外部に排出されるスラグ量を削減できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】脱燐スラグ中の燐酸含有量に及ぼすスラグ塩基度(質量%CaO)/(質量%SiO2)の影響を示すグラフである。
図2】本発明燐酸質肥料原料(脱燐スラグ)の組成範囲を、CaO、P2O5、SiO2の三元系状態図で示す説明図である。
図3】本発明脱燐処理に利用できる脱燐処理設備の一例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明では、溶銑の予備脱燐処理時に発生するスラグ、転炉での溶銑の脱炭精錬で生成するスラグなどの、製鋼精錬プロセスで発生した燐を含有する製鋼スラグ(以下、「燐含有製鋼スラグ」ともいう)に、まず還元処理を施す。
燐含有製鋼スラグには、CaO、SiO2を主成分とし、燐がP2O5なる酸化物として含まれ、また鉄がFeOやFe2O3等の形態で酸化物として含有されている。このような燐含有製鋼スラグに、還元剤を使用して還元処理を施す。なお、使用する還元剤は、炭素、珪素、アルミニウムのうちの1種以上とすることが好ましい。
【0029】
燐、鉄はCaやSiに比較して酸素との親和力が弱く、スラグ中のP2O5や鉄酸化物は容易に還元される。還元処理は、バーナー等の加熱手段を備えたロータリーキルン、アーク炉等の設備を利用して行うことができるが、還元により生成した鉄が溶融状態となるように、好ましくは1000℃以上の高温に加熱して行うことが好ましい。これにより、還元され生成した鉄(溶融鉄)が、容易にスラグから分離でき、さらに、この溶融鉄に、還元により生成した燐が溶解し、高燐含有溶融鉄となる。
【0030】
なお、生成した溶融鉄の融点が低いほど、溶融鉄とスラグとの分離が促進されるため、生成した溶融鉄に、炭素を溶解させ、溶銑とすることが好ましい。溶融鉄に炭素を溶解させるには、還元剤として炭素を使用することが好ましい。また、還元剤として珪素やアルミニウムを使用する場合には、炭素と製鋼スラグと共存させることにより、還元より生成した溶融鉄に浸炭させ、高燐含有溶銑とすることが好ましい。
【0031】
また、還元処理後のスラグは、燐酸含有量も低く、製銑工程や製鋼工程の精錬剤として利用できる。還元処理後のスラグを精錬剤(石灰)の代替品として利用しても、溶銑中の燐含有量の増加は認められず、再利用が可能である。
ついで、本発明では、得られた高燐含有溶銑に、脱燐処理を施す。なお、得られた高燐含有溶銑に、高炉から出銑された溶銑を混合して、適正な燐濃度に調整してもよい。
【0032】
本発明の溶銑の脱燐処理には、通常の脱燐処理設備がいずれも利用可能である。
脱燐処理設備としては、例えば図3に示すような、反応容器(転炉型)1に、上吹きランス2、インジェクションランス3、ホッパー11、貯蔵タンク5,6等を備えた設備が例示できる。
脱燐処理では、得られた高燐含有溶銑を反応容器1に装入し、上吹きランス2から酸素ガスを吹付けると同時に、この酸素ガスを搬送ガスとして、貯蔵タンク6に貯蔵されたCaO源4を吹付ける。CaO源としては、生石灰が例示でき、フッ素化合物が混入していないCaO系精錬剤(脱燐剤)とすることが好ましい。なお、反応の促進という観点から、CaO系精錬剤は、粉末状とし、粒径1mmアンダー(1mm未満)の粉末とすることが好ましい。なお、上吹きランス2からCaO系精錬剤などの粉体を溶銑に吹付けることを「投射」ともいう。また、インジェクションランス3を利用して、窒素ガスを搬送ガスとして貯蔵タンク5に貯蔵されたCaO系精錬剤(脱燐剤)を溶銑中に吹き込んでも良い。
【0033】
なお、本発明では、脱燐処理において、得られる脱燐スラグが、CaO含有量とSiO2含有量の比、[質量%CaO]/[質量%SiO2]で定義される塩基度が1.5以上となる組成を有するように、投射するCaO源の量を調整する。これにより、得られる脱燐スラグの燐酸(P2O5)含有量を安定して、所望値以上に高めることができる、
得られるスラグの塩基度が1.5未満では、図1に示すように、燐酸含有量を、安定して所望値以上とすることができない。ここでいう「所望値」とは、スラグ全量に対する質量%で、P2O5:15%以上である。スラグ中のP2O5含有量が15%以上確保できれば、燐酸質肥料として所望の肥料効果を期待できる。
【0034】
さらに、本発明の脱燐処理においては、得られるスラグ(脱燐スラグ)がさらに高い肥料効果を保有するために、吹錬中期から吹錬末期に、上記したCaO系精錬剤(脱燐剤)の投射に加えて、珪素源を供給する処理とする。
脱燐処理で、スラグへの燐濃化のために溶銑にCaO系精錬剤(脱燐剤)を投入するとともに、珪素源を供給することにより、さらに高い肥料効果を有する組成のスラグとする。
【0035】
この珪素源の供給は、珪素源をホッパーから上添加して行うことが好ましい。なお、珪素源の供給は、火点に対して行うことが好ましい。これにより、吹錬末期に投入した添加物も溶け残ることなくスラグ中に取り込むことができる。珪素源としては、SiCや珪石などが例示できる。また、ここでいう「火点」とは、鉄浴と酸素供給源とが干渉する高温領域である。
【0036】
ここでいう「さらに高い肥料効果を有する組成」とは、得られる脱燐スラグ全量に対する質量%で、CaO、P2O5およびSiO2の合計量が50%以上で、P2O5を15%以上、CaOを1.5(SiO2)%以上含み、さらに、CaO、P2O5、SiO2の三元系での質量%で、SiO2を10%以上含有する組成をいう。なお、好ましくは、CaO、P2O5、SiO2の三元系での質量%で、P2O5が30%以上、CaOが40%以上である。
【0037】
脱燐スラグの組成を、上記した組成とすることにより、燐酸可溶率が高く、高い肥料効果を示すシリコカーノタイト(Ca5(PO42SiO4)の結晶構造を有する鉱物相が生成するようになり、脱燐スラグの可溶性燐酸量、燐酸可溶率が高くなり、肥料効果の優れた燐酸質肥料原料とすることができる。なお、肥料効果の観点からは、脱燐スラグの可溶性燐酸量を、スラグ全量に対し15質量%以上とすることが好ましい。
【0038】
なお、スラグへの燐濃化を目的とした、CaO源(CaO系精錬剤(脱燐剤))の投入は、スラグの流動性を低下させる。これは、溶銑中のSiは、Pに優先して酸化されるため、初期に形成された燐酸濃化スラグにSiO2が偏在し、吹錬末期に形成される燐酸濃化スラグ中のSiO2濃度が低下するためである。このようなスラグの流動性低下を防止するため、本発明では、好ましくは吹錬の中期〜末期にかけて、脱燐剤とともに、珪素源を供給、好ましくは火点に供給し、スラグ中の成分偏在を低減し、燐酸質肥料の品質向上をも図る。
【0039】
珪素源の投入時期は、溶鉄中のSi濃度[%Si]が、次(1)式
[%Si] ≦ 1/2[%Si]input ‥‥(1)
[%Si]input:装入Si濃度(質量%)
を満足する、溶銑中のSi濃度が、装入時のSi濃度[%Si]inputの半分以下に低下した時点とすることが好ましい。なお、吹錬開始からt秒後の溶銑中のSi濃度は、次式
[%Si]=[%Si]input exp(−kSi・Input O2) ‥‥(1a)
[%Si]input:装入Si濃度(質量%)、kSi:処理設備で決まる定数、
Input O2:吹錬開始からt秒後までに供給される酸素量(Nm3/t)、
で算出できる。また、その際の珪素源の投入量QSiO2(ton)は、次(2)式
SiO2 ≦ (0.6/0.85)×(WCaO+WP205+(WSiO2input)‥‥(2)
を満足するように調整することが好ましい。
【0040】
ここで、WCaOは、脱燐処理時のCaO投入量(ton)、WP205、(WSiO2inputは、スラグ中の装入溶銑起因のP2O5量(ton)、SiO2量(ton)である。なお、WP205、(WSiO2inputは、それぞれ次(3)式、次(4)式で定義される。
P205 =([%P]input−[%P]output )/100×(MP205/M)×W‥‥(3)
(WSiO2input =([%Si]input−[%Si]output )/100×(MSiO2/MSi)×W‥‥(4)
ここで、[%P]inputは装入溶銑中のP濃度(質量%)、[%P]output は脱燐処理終了時(終点時)の溶銑中のP濃度(質量%)、[%Si]inputは装入溶銑中のSi濃度(質量%)、[%Si]outputは脱燐処理終了時(終点時)の溶銑中のSi濃度(質量%)であり、Wmは、装入溶銑量(ton)である。また、MP205、MSiO2は各化合物の分子量であり、MP、MSiは、各元素の原子量である。
【0041】
なお、WSiO2 は、スラグ中に含まれるSiO2量であり、Wtotalは、スラグ中に含まれるCaO量、P2O5量、SiO2量の合計量で、次式で定義できる。
SiO2 =(WSiO2input +QSiO2 ‥‥(5)
total = WCaO + WP205 + WSiO2 ‥‥(6)
そして、上記した(3)〜(6)式と、スラグ塩基度:1.5以上、燐酸含有量:15質量%以上という、得られるスラグ(脱燐スラグ)の条件
CaO/WSiO2 ≧ 1.5 ‥‥(7)
P205/Wtotal ≧ 0.15 ‥‥(8)
とから、上記した(2)式を導くことができる。
【0042】
本発明では、上記した(2)式を満足するように、珪酸源の投入量QSiO2を調整して、スラグ中SiO2が不足する部分に投入することが好ましい。これにより、スラグの流動性がよくなり、しかも所望の組成を有する均質なスラグ(脱燐スラグ)を安定して製造でき、肥料効果の高い珪酸質肥料原料とすることができる。
【実施例】
【0043】
製鋼工程で発生した燐含有製鋼スラグ50tonを、還元剤である炭素とともに、ロータリーキルン炉に装入した。そして、ロータリーキルン炉付設の加熱バーナーにより、装入した製鋼スラグを還元剤とともに1000℃以上に加熱する還元処理を施し、高燐還元鉄10tonを得た。なお、この還元処理時に生成したスラグは、燐酸濃度が低く、製銑工程、製鋼工程の石灰の代替品(精錬剤)として利用可能であることを確認した。
【0044】
上記した還元処理により得られた高燐還元鉄の燐含有量は1.0〜4.0質量%であった。そこで、得られた高燐還元鉄を、高炉から出銑された溶銑中に投入し、燐含有量を0.5〜3.0質量%の範囲内の値に調整し、それぞれ高燐溶銑200tonとした。脱燐処理前の溶銑成分を表2に示す。
ついで、これら高燐溶銑200tonを転炉型反応容器に装入し、脱燐処理を実施した。
【0045】
脱燐処理は、上吹きランスから酸素ガスを吹き付けるとともに、CaO源として粉状CaO系脱燐剤(フラックス)を吹き込む処理とした。CaO系脱燐剤は、粒径:1mmアンダーの粉状生石灰(CaO純分:95質量%程度)のみとし、蛍石等のフッ素化合物を含有しないものとした。なお、投入するCaO系脱燐剤の原単位を調整して、スラグの塩基度([CaO]/[SiO2])を変化させた。なお、一部では、火点に対し、表2に示す原単位で珪素源をホッパーから上添加した。珪素源の投入時期は、上記した(1a)式で定義される溶銑中のSi濃度[%Si]が、装入Si濃度[%Si]inputの1/2以下となった時点とした。また、珪素源の投入量は、上記した(2)式を満足するように決定した。なお、珪素源を、高温の火点に投入することで、吹錬末期に投入した添加物も、溶け残ること無く、スラグ中に取り込むことができた。
【0046】
脱燐処理後に、得られた溶銑の組成を測定し、表2に示す。なお、脱燐処理後、溶銑は、反応容器外に排出し、スラグは反応容器内で放冷した。
また、吹錬末期に生成したスラグを採取し、ガラスビード分析法を用いて組成を分析した。また、スラグ中に含まれる鉱物相について、X線回折を用いて測定した。さらに、肥料公定規格に準拠して、クエン酸二アンモニウム溶液(pH7)に溶解する燐酸(可溶性燐酸)量を測定した。得られた値から、スラグ中に含まれる全燐酸に対する可溶性燐酸の割合(燐酸可溶率)を算出した。
【0047】
ついで、得られた放冷後のスラグを燐酸質肥料原料として、ヒロシマナを用いて栽培試験を実施した。栽培試験はつぎのとおりとした。
炭酸カルシウムと酸化マグネシウムでpH(H20)6.5に矯正した多腐植質黒ボク土1kgと、燐酸質肥料原料としてのスラグ0.5gを装入した1/5000aワグネルポットに、ヒロシマナを植え、ガラス温室内で所定期間(60日間)栽培し、生育状況を観察した。なお、すべてのポットには、窒素(N)として0.5g/ポット、カリウム(K20)として0.5g/ポットとなるように、硝酸カリウムと塩化カリウムを施用した。ヒロシマナの生育状況は、燐酸質肥料として対照肥料である過燐酸石灰を施用したポットでの生育状況と比較し、同等もしくは優れている場合を「○」とし、それ以外の場合を「×」として評価した。
【0048】
得られた結果を表2に示す。なお、表2に示すスラグ組成を、図2の三元系図中にプロットして示した。
【0049】
【表2】
【0050】
本発明例はいずれも、スラグ全量に対する質量%で、CaO、SiO2、P2O5の合計量が50質量%以上、P2O5量が15質量%以上であり、CaO、SiO2、P2O5の三元系での質量%で、SiO2含有量が10質量%以上を満足し、Ca5(PO4)SiO2が検出され、肥料効果が優れている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、CaO、SiO2、P2O5の三元系でSiO2含有量が10質量%未満となり、Ca5(PO4) 2SiO2が検出されず、肥料効果も低くなっている。
【0051】
なお、本発明で脱燐処理を行って得られた溶銑は、いずれも燐濃度が0.10質量%以下まで低下しており、この程度の低燐濃度であれば、高炉溶銑と何ら遜色なく、製鋼用の鉄源として使用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 反応容器
2 上吹きランス
3 インジェクションランス
4 CaO源
5 貯蔵タンク
6 貯蔵タンク
7 溶銑
11 ホッパー
12 生成スラグ
図1
図2
図3