【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1、2に記載された技術では、溶銑の炉外予備脱燐工程という特別な工程を設ける必要があり、脱燐処理コストやスラグ回収コストが高くなるという問題がある。例えば、特許文献1に記載された技術では、溶銑の炉外予備脱燐工程を2回に分けて行うため、脱燐処理装置を2基設ける必要があり、脱燐処理コストが高騰する。また、1基では脱燐処理量が半分となり、生産性が低下する。
【0012】
また、特許文献1〜3に記載された技術によれば、高濃度の燐酸を含むスラグを得ることができる。しかし、特許文献1〜3には、ク溶性燐酸、可溶性燐酸についての言及がなく、得られたスラグが燐酸肥料として有効な肥料効果を保持しているかは不明である。なお、ここでいう「ク溶性燐酸」とは、2%クエン酸(pH2.0)に溶解する燐酸をいい、「可溶性燐酸」とは、クエン酸二アンモニウム溶液(pH7)に溶解する燐酸をいう。この「ク溶性燐酸」濃度あるいは「可溶性燐酸」濃度が高いほど、肥料として有効であるといわれており、得られたスラグが燐酸肥料として効果を発揮するためには、ク溶性燐酸あるいは可溶性燐酸が多く含まれる必要がある。しかし、特許文献1〜3に記載された発明では、スラグ中の「ク溶性燐酸」濃度や「可溶性燐酸」を高めるための方策についてなんの配慮もされておらず、高いレベルの肥料効果を有するスラグが得られているとは必ずしも言い難い。
【0013】
また、特許文献4には、スラグ中の「ク溶性燐酸」含有量についての記載があるが、「可溶性燐酸」についての記載はなく、特許文献4に記載された技術では、高いレベルの肥料効果を有するスラグが得られているとは必ずしも言い難い。なお、肥料効果は、燐酸の溶解性(燐酸溶解性)を示す「ク溶性燐酸」あるいは「可溶性燐酸」で評価されることが多いが、「可溶性燐酸」で評価するほうが、「ク溶性燐酸」で評価するよりも、作物生育促進との相関が強いと言われている。
【0014】
本発明は、かかる従来技術の問題を有利に解決し、製鋼プロセスで発生する製鋼スラグを回収し、燐酸含有量が高く、かつ肥料効果が高い成分を含むスラグとし、燐酸質肥料として活用可能な燐酸質肥料原料とする、燐酸質肥料原料の安定した製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記した目的を達成するため、回収した製鋼スラグを素材として、燐酸質肥料として有効な組成を有するスラグとすることができる方策について、鋭意研究した。その結果、まず、回収した燐含有製鋼スラグを還元処理することにより、得られる溶銑は、0.5質量%以上の燐を含む高燐溶銑であることを確認した。そこで、その高燐溶銑を出発素材として、脱燐処理を施せば、溶銑は低燐化し、生成するスラグに燐が濃縮し高燐含有スラグ(脱燐スラグともいう)となり、このスラグを燐酸質肥料原料として利用することが可能になることに思い至った。しかし、従来から、生成されるスラグが燐酸質肥料原料として利用されるためには、スラグが肥料効果を有する燐酸を多量に含むことが必要であるとされてきた。
【0016】
そこで、生成するスラグ中の燐酸濃度を高める方策についてさらに鋭意検討した。その結果、高燐溶銑に脱燐処理を施す際に、生成するスラグ(脱燐スラグ)が塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO
2)):1.5以上となるように、酸素ガスと共に投射するCaO源の量を調整することに思い至った。脱燐スラグの塩基度が1.5以上となるように調整することにより、
図1に示すように、スラグ中の燐酸含有量が、スラグ全量に対する質量%で15%以上と安定して高くすることができることを知見した。スラグの塩基度が1.5未満の低塩基度では、脱燐能力が不足することに起因して、所望のスラグ中の燐酸含有量を確保できない。なお、燐酸含有量はP
2O
5含有量として示す。
【0017】
しかし、種々の燐酸濃度(P
2O
5含有量)のスラグを、燐酸質肥料として、チンゲン菜、水稲等に施肥し、栽培試験(生育試験ともいう)を行い、肥料効果を確認したところ、燐酸濃度が高くても、必ずしも十分な肥料効果を示さない場合があることを知見した。これは、燐酸濃度が15質量%以上と高い場合でも、CaO、P
2O
5およびSiO
2の合計量がスラグ全量に対する質量%で50%未満である場合には、FeO、MnO、MgO等の成分が多すぎることにより肥料効果が不十分となったことによると考えられる。
【0018】
一方、燐酸P
2O
5が、スラグ全量に対する質量%で15%以上と高く、かつCaO、SiO
2、P
2O
5の合計量がスラグ全量に対する質量%で50%以上と高い場合でも、燐酸質肥料として十分な肥料効果を発揮しない場合があることを知見した。
そこでさらに、燐酸質肥料として種々のスラグについて、スラグ組成と肥料効果との関係を、チンゲンサイを用いた栽培試験で評価した。
【0019】
栽培試験はつぎのとおりとした。
炭酸カルシウムと酸化マグネシウムでpH(H20)6.5に矯正した多腐植質黒ボク土1kgと、燐酸質肥料原料としてのスラグ0.5gを装入した1/5000aワグネルポットに、チンゲンサイを植え、ガラス温室内で所定期間(60日間)栽培し、生育状況を観察した。なお、すべてのポットには、窒素(N)として0.5g/ポット、カリウム(K20)として0.5g/ポットとなるように、硝酸カリウムと塩化カリウムを施用した。チンゲンサイの生育状況は、燐酸質肥料として対照肥料である過燐酸石灰を施用したポットでの生育状況と比較し、同等もしくは優れている場合を「○」とし、それ以外の場合を「×」として評価した。得られた結果を表1に示す。
【0020】
なお、表1には、使用した燐酸質肥料原料(スラグ)について、肥料公定規格に定められているクエン酸二アンモニウム溶液(pH:7.0)に溶解する燐酸(可溶性燐酸)量を求め、燐酸質肥料原料(スラグ)中の全燐酸量に対する可溶性燐酸量の割合、燐酸可溶率(%)を算出した結果も併せて示す。またさらに表1には、燐酸質肥料原料(スラグ)に含まれる鉱物相を、X線回折により同定した結果も併記して示す。同定された鉱物相を○印で示した。
【0021】
【表1】
【0022】
栽培試験での生育状況が「○」と評価された燐酸質肥料原料(スラグ)はいずれも、スラグ全量に対する質量%で、CaO、SiO
2、P
2O
5の合計量が50%以上、燐酸(P
2O
5)が15%以上で、かつCaO、SiO
2、P
2O
5の三元系での質量%で、SiO
2を10%以上含むスラグである。
このことから、燐酸質肥料原料中の燐酸含有量に加えて、SiO
2量が肥料効果に大きく影響していることを突き止め、肥料効果が高い燐酸質肥料原料(スラグ)となるためには、スラグの組成を、スラグ全量に対する質量%で、CaO、SiO
2、P
2O
5の合計量が50%以上、P
2O
5が15%以上で、かつCaO、SiO
2、P
2O
5の三元系での質量%で、SiO
2が10%以上含有する組成のスラグとする必要があることを見出した。
【0023】
そして、上記したCaO、SiO
2、P
2O
5の三元系での質量%で、SiO
2を10%以上含む組成のスラグは、鉱物相(CaO−P
2O
5系結晶)として、可溶性燐酸量が高く燐酸可溶率が高い、高い肥料効果を示すシリコカーノタイト(Ca
5(PO
4)
2SiO
4)の結晶構造を有する鉱物相を含むことを知見した。ここで、シリコカーノタイト(Ca
5(PO
4)
2SiO
4)は、Ca
3(PO
4)
2−Ca
2SiO
4固溶体であり、通常、Ca
5(PO
4)
2SiO
4で表記される。
【0024】
このことは、試薬として精製された各鉱物相について測定した、燐酸可溶率の比較からも明らかである。すなわち、Ca
5(PO
4)
2SiO
2の燐酸可溶率が85%であるのに対し、β-Ca
3(PO
4)
2では39%、Ca
19Mn
2(PO
4)
14では56%、Ca
9Fe(PO
4)
7では15%と低く、シリコカーノタイト(Ca
5(PO
4)
2SiO
2)の存在が、肥料効果を大きく向上させていると考えられる。
【0025】
また、本発明者らは、脱燐スラグ中のCaO、SiO
2、P
2O
5の三元系での質量%で、SiO
2含有量を10%以上とするには、脱燐処理中の吹錬中期から末期に、脱燐剤とともに珪素源を供給、とくに珪素源を火点に供給することにより、より達成しやすいことも見出している。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)製鋼精錬プロセスで発生した燐を含有する製鋼スラグに還元処理を施して得られる燐含有溶銑に、さらに脱燐処理を施し、得られる脱燐スラグを燐酸質肥料原料とするに当たり、前記脱燐処理を、得られる前記脱燐スラグがCaO含有量とSiO
2含有量の比、[質量%CaO]/[質量%SiO
2]で定義される塩基度が1.5以上、かつCaO、SiO
2、P
2O
5の三元系での質量%で、SiO
2が10%以上となる組成を有するように、酸素ガスと共に投射するCaO源の量を調整するとともに、さらに珪素源を供給する処理とすることを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
(2)(1)において、前記還元処理が、炭素、珪素、アルミニウムのうちの1種以上を含有する還元剤を用いて行う処理であることを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記CaO源が、粒径が1mmアンダーの粉末であることを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記珪素源の供給を、火点に対して行うことを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記得られる脱燐スラグが、スラグ全量に対する質量%で、P
2O
5が15%以上となる組成を有することを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法。
(6)(1)ないし(5)のいずれかにおいて、前記得られる脱燐スラグが、スラグ全量に対する質量%で、CaO、P
2O
5およびSiO
2の合計含有量が50%以上となる組成を有することを特徴とする燐酸質肥料原料の製造方法
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