(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
押出機において溶融した熱可塑性樹脂をTダイスにより押出し、押出された熱可塑性樹脂を、対向して回転する1対のローラにより挟圧及び冷却し、フィルム状に成形する塗布型偏光板用の原反フィルムの製造方法において、
前記原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域を除くフィルム部分の膜厚の平均値をLμmで表すとき、
前記原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域を除くフィルム部分の膜厚が、L±1μmの範囲内にある原反フィルムを、長手方向に1500mm以上成形し、
前記原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域に、膜厚が0.80L〜0.95Lμmの範囲内にある薄膜部を、前記Tダイスのスリット間隔を調整するか、又は前記1対のローラの一方に、ローラ周面に凸部を有するローラを用いて、形成する、
ことを特徴とする塗布型偏光板用の原反フィルムの製造方法。
前記原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域を除くフィルム部分の膜厚の平均値Lが、100〜200μmの範囲内にあることを特徴とする請求項2に記載の塗布型偏光板用の原反フィルムの製造方法。
前記Tダイスにより熱可塑性樹脂を押出すときの長手方向の線速度と、前記1対のローラにより前記熱可塑性樹脂を引き取るときの長手方向の線速度とのドラフト比の値が、10未満であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の塗布型偏光板用の原反フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の塗布型偏光板用の原反フィルムは、
熱可塑性樹脂を含有する原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域を除くフィルム部分の膜厚の平均値をLμmで表すとき、
前記原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域を除くフィルム部分の膜厚が、L±1μmの範囲内であり、
前記原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域に、膜厚が0.80L〜0.95Lの範囲内にある薄膜部を有し、
前記原反フィルムの幅手方向の長さが、1500mm以上であることを特徴とする。この特徴は
各請求項に係る発明に共通の技術的特徴である。
【0014】
本発明の塗布型偏光板用の原反フィルムの製造方法は、押出機において溶融した熱可塑性樹脂をTダイスにより押出し、押出された熱可塑性樹脂を、対向して回転する1対のローラにより挟圧及び冷却し、フィルム状に成形する工程において、
前記原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域を除くフィルム部分の膜厚が、L±1μmの範囲内にある原反フィルムを、長手方向に1500mm以上成形し、前記原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域に、膜厚が0.80L〜0.95Lμmの範囲内にある薄膜部を
、前記Tダイスのスリット間隔を調整するか、又は前記1対のローラの一方に、ローラ周面に凸部を有するローラを用いて、形成することを特徴としている。
【0015】
また、本発明の塗布型偏光板用の原反フィルムを用いた塗布型偏光板の製造方法は、上記のようにして製造された塗布型偏光板用の原反フィルム上に親水性樹脂層を積層し、前記原反フィルム上に前記親水性樹脂層が積層された積層フィルムを、3〜15倍の範囲内の延伸倍率で長手方向に延伸し、延伸された前記積層フィルムを、2色性色素で染色し、安定化し、乾燥して偏光板を製造し、巻き取ることを特徴としている。
【0016】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0017】
〔塗布型偏光板用の原反フィルム〕
塗布型偏光板用の原反フィルムは、原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域を除くフィルム部分の膜厚の平均値をLμmで表すとき、原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域を除くフィルム部分の膜厚が、L±1μmの範囲内であり、原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域に、膜厚が0.80L〜0.95Lμmの範囲内にある薄膜部を有し、原反フィルムの幅手方向の長さが、1500mm以上である。
【0018】
図1は、本実施の形態に係る塗布型偏光板用の原反フィルムの幅手方向の膜厚プロファイルを示している。
図1に示すように、塗布型偏光板用の原反フィルムは、幅手方向の両端から50〜300mmの領域に、当該領域を除くフィルム部分の膜厚の平均値Lμmよりも膜厚が小さい薄膜部を有している。
図1の薄膜部は、膜厚が0.85Lμmの例を示している。
【0019】
塗布型偏光板用の原反フィルムは、塗布型偏光板の支持体として用いられる光学フィルムの原反であり、熱可塑性樹脂を含有してなる。
〔熱可塑性樹脂〕
塗布型偏光板用の原反フィルムに用いられる熱可塑性樹脂としては、セルロースエステル樹脂又は(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
【0020】
〔セルロースエステル樹脂〕
セルロースエステル樹脂は、セルロースを、脂肪族カルボン酸又は芳香族カルボン酸とエステル化反応させて得られる化合物である。
セルロースエステル樹脂としては、例えばセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートベンゾエート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等が挙げられる。なかでも、セルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられる。
【0021】
上記セルロースとしては、特に限定されないが、綿花リンター、木材パルプ(針葉樹由来、広葉樹由来)、ケフナ等が挙げられる。これらのうち、1種類を用いることもできるし、2種類以上を用いることもできる。
【0022】
セルロースエステル樹脂に含まれるアシル基は、脂肪族アシル基又は芳香族アシル基であり、好ましくは脂肪族アシル基である。脂肪族アシル基は、直鎖であっても分岐していてもよく、さらに置換基を有していてもよい。
セルロースエステル樹脂のアシル基の総置換度は、2.0〜3.0の範囲内であることが好ましく、2.5〜3.0の範囲内であることがより好ましい。
また、アシル基の総置換度のうち、炭素数3〜7のアシル基の置換度は、1.2〜3.0の範囲内であることが好ましく、1.2〜2.6の範囲内であることがより好ましい。
上記アシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法により測定することができる。
【0023】
セルロースエステル樹脂の重量平均分子量Mwは、脆性の改善の観点から、好ましくは75000以上であり、より好ましくは75000〜240000の範囲内であり、さらに好ましくは100000〜240000の範囲内であり、特に好ましくは160000〜240000の範囲内である。
重量平均分子量Mwが、75000以上であると、原反フィルムの可とう性、耐熱性が十分得られる。また、重量平均分子量Mwが、240000以下であると、熱可塑性樹脂の溶融物の粘度が、混練しやすい粘度となる。
【0024】
セルロースエステル樹脂は、公知の方法で合成することができる。例えば、特開平10−45804に記載されているように、セルロースと、少なくとも酢酸又はその無水物を含む炭素原子数3以上の有機酸又はその無水物とを、触媒の存在下でエステル化反応させて、セルロースのトリエステル体を合成する。このセルロースのトリエステル体を加水分解して、所望のアシル置換度を有するセルロース樹脂を合成する。得られたセルロースエステル樹脂を、濾過、沈殿、水洗、脱水、乾燥し、セルロースエステル樹脂を得る。
【0025】
〔(メタ)アクリル樹脂〕
(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体又は(メタ)アクリル酸エステルと他の共重合モノマーとの共重合体であり得る。
共重合体におけるメチルメタクリレート由来の構成単位の含有質量比は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0026】
共重合体における共重合モノマーとしては、例えばアルキル部分の炭素数が2〜18のアルキル(メタ)アクリレート、アルキル部分の炭素数が1〜18のアルキルアクリレート、後述のラクトン環構造を形成し得る、ヒドロキシ基(水酸基)を有するアルキル部分の炭素数が1〜18のアルキル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸等のα、β−不飽和酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα、β−不飽和ニトリル、無水マレイン酸、まれイミド、N−置換マレイミド、グルタル酸無水物、アクリロイルモルホリン(ACMO)等のアクリルアミド誘導体、N−ビニルピロリドン(VP)等が挙げられる。これらは、1種類を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
なかでも、共重合体の耐熱分解性、流動性を高めるためには、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル等のヒドロキシ基を有するアルキル(メタ)アクリレート、メチルメタクリレートが好ましい。
(メタ)アクリル樹脂は、1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0028】
(メタ)アクリル樹脂は、原反フィルムの耐熱性を高め、光弾性係数を調整する観点等から、ラクトン環構造を含有していてもよい。(メタ)アクリル樹脂に含まれるラクトン環構造は、下記一般式(1)で表されるラクトン環構造であることが好ましい。一般式(1)で示されるラクトン環構造は、ヒドロキシ基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構造である。
【0029】
【化1】
一般式(1)において、R
1〜R
3は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を示す。有機残基は、酸素原子を含んでいてもよい。有機残基としては、例えば直鎖又は分岐状のアルキル基、直鎖又は分岐状のアルキレン基、アリール基、アセチル基、シアノ基等が挙げられる。
【0030】
ラクトン環構造を含有する(メタ)アクリル樹脂は、アルキル部分の炭素数が1〜18のアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(好ましくはメチルメタクリレート)をさらに含み、必要に応じてヒドロキシ基を含有するモノマー、不飽和カルボン酸、下記一般式(2)で表されるモノマー等に由来する構成単位を、さらに含んでいてもよい。
【0031】
【化2】
一般式(2)において、R
4は、水素原子又はメチル基を示す。Xは、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アセチル基、シアノ基、アシル基又は−C−OR基(Rは、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基)を示す。
【0032】
ラクトン環構造を含有する(メタ)アクリル樹脂における、上記一般式(1)で表されるラクトン環構造の含有質量比は、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは20〜90質量%、さらに好ましくは30〜90質量%、特に好ましくは40〜80質量%の範囲内である。
ラクトン環構造の含有質量比が、90質量%以内であると、成形の加工性が低く、得られる原反フィルムの可とう性も低くなることがない。また、ラクトン環構造の含有質量比が、5質量%以上であると、必要な位相差を有する原反フィルムが得られやすく、原反フィルムの耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が十分である。
【0033】
ラクトン環構造を含有する(メタ)アクリル樹脂における、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有質量比は、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは10〜80質量%、さらに好ましくは10〜65質量%、特に好ましくは20〜60質量%の範囲内である。
【0034】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル樹脂における、ヒドロキシ基含有モノマー、不飽和カルボン酸又は一般式(2)で表されるモノマーに由来する構成単位の含有質量比は、それぞれ独立に、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜10質量%の範囲内である。
【0035】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル樹脂は、少なくともヒドロキシ基を有するアルキル(メタ)アクリレートと、それ以外のアルキル(メタ)アクリレートとを含むモノマー成分を重合反応させて、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体を得て、この重合体を加熱処理し、ラクトン環構造を導入することにより製造することができる。
【0036】
(メタ)アクリル樹脂として市販品を用いることもできる。(メタ)アクリル樹脂の市販品の例としては、デルペット60N、80N、80NH(旭化成ケミカルズ社製)、ダイヤナールBR52、BR80、BR83、BR88(三菱レイヨン社製)、KT75(電気化学工業社製)等が挙げられる。
【0037】
(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量Mwは、好ましくは50000〜200000の範囲内であり、より好ましくは75000〜150000の範囲内である。
(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量Mwが50000以上であると、得られる原反フィルムの脆性が過度に大きくならず、200000以下であると、熱可塑性樹脂の溶融物の粘度が過度に大きくなったり、得られる原反フィルムのヘイズが大きくなったりすることがない。
【0038】
(メタ)アクリル酸樹脂の重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。測定条件は、以下のとおりである。
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806,K805,K803G(昭和電工社製)を3本接続して使用
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所社製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンとして、280000〜500のSTK standardポリスチレン(東ソー社製)の13サンプルによる校正曲線を使用する。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0039】
〔添加剤〕
熱可塑性樹脂は、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等が添加されていてもよい。
【0040】
〔可塑剤〕
原反フィルムの機械的特性、光学的特性等を向上させる観点から、熱可塑性樹脂に、可塑剤を添加することが好ましい。
可塑剤としては、多価アルコールと1価のカルボン酸からなる多価アルコールエステル系可塑剤、多価カルボン酸と1価のアルコールからなる多価カルボン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、炭水化物エステル系可塑剤、ポリマー可塑剤等が挙げられる。なかでも、多価アルコールエステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤は、セルロースエステルと親和性が高く、好ましい。
【0041】
〔酸化防止剤〕
酸化による分解反応に起因する原反フィルムの変質を防止するため、熱可塑性樹脂に、酸化防止剤を添加することが好ましい。
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えばフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物、ラクトン系化合物、イオウ系化合物、耐熱加工安定剤、酸素スカベンジャー等を用いることができる。なかでも、フェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物、ラクトン系化合物が好ましい。
【0042】
〔紫外線吸収剤〕
紫外線による原反フィルムの劣化を防止するため、熱可塑性樹脂に、紫外線吸収剤を添加することが好ましい。
原反フィルムが用いられる偏光子や液晶表示装置の紫外線による劣化を防止するという観点からすれば、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ液晶表示性の観点からすれば、波長400nm以上の可視光の吸収が少ない紫外線吸収剤が好ましい。
【0043】
紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。
【0044】
具体的には、5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロキシルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、(2−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン等がある。市販品としては、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328等(いずれもBASFジャパン社製)のチヌビン類がある。
【0045】
〔塗布型偏光板用の原反フィルムの製造方法〕
塗布型偏光板用の原反フィルムの製造方法は、原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域を除くフィルム部分の膜厚の平均値Lμmに対し、原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域を除くフィルム部分の膜厚が、L±1μmの範囲内にある原反フィルムを、長手方向に1500mm以上成形し、原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域に、膜厚が0.80L〜0.95Lμmの範囲内にある薄膜部を形成する。
【0046】
図2は、製造装置A1による、本実施の形態に係る塗布型偏光板用の原反フィルムの製造工程を示している。
〔フィルム成形工程〕
フィルム成形工程では、
図2に示すように、製造装置A1の一軸押出機11において熱可塑性樹脂を溶融し、ギアポンプ12により溶融した熱可塑性樹脂を、フィルター13を介してTダイス14に送出する。フィルター13により濾された熱可塑性樹脂を、Tダイス14によりスリットからフィルム状に押出し、押し出された熱可塑性樹脂を、対向して回転する1対の弾性タッチローラ21と冷却ローラ22により狭圧及び冷却し、フィルム状に成形する。
【0047】
Tダイス14のスリットは、そのスリット間隔を調整可能に構成されている。このスリット間隔を調整することにより、原反フィルムの膜厚を調整することができる。
図3Aに示すように、Tダイス14のスリットを形成するリップ部141、142のうち、リップ部141はヒートボルト143によって変位する。ヒートボルト143は、ヒーターを内蔵するブロック144を貫通し、先端がリップ部141に当接している。このようなヒートボルト143が、スリットの長さ方向に等間隔に設けられている。ブロック144の温度を調節し、ヒートボルト143を熱で伸縮させることにより、リップ部141を変位させ、リップ部141、142のスリット間隔を調整する。長さ方向に並ぶ複数のヒートボルト143のそれぞれを、個別に調整することができるので、スリット間隔を部分的に変化させることができる。
【0048】
フィルム成形工程では、塗布型偏光板用の原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域に、薄膜部を形成する。
【0049】
製造装置A1によれば、Tダイス14のスリット間隔を調整することによって、薄膜部を形成することができる。
Tダイス14の、原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域に該当する位置のスリット間隔を、当該領域以外のフィルム部分に該当する位置のスリット間隔より小さく調整する。これにより、
図3Bに示すようにリップ部141が凸部145を有し、この凸部145によって薄膜部を形成することができる。なお、
図3Bは、
図3Aの矢印の方向から見た、Tダイス14のスリット形状を示している。
【0050】
または、弾性タッチローラ21又は冷却ローラ22の一方に、ローラ周面に凸部を有するローラを用いて、フィルム状に押し出された熱可塑性樹脂を狭圧及び冷却する際に、薄膜部を形成することができる。
図4は、凸部221を有する冷却ローラ22の例を示している。凸部221は、原反フィルムの幅手方向の両端から50〜300mmの領域に該当する位置に設けられている。この凸部221を有する冷却ローラ22と弾性タッチローラ21により、原反フィルムを狭圧することにより、凸部221に接するフィルム部分は、他のフィルム部分より膜厚が小さくなり、薄膜部が形成される。
【0051】
Tダイスにより熱可塑性樹脂を押出すときの長手方向の線速度と、弾性タッチローラ21及び冷却ローラ22により原反フィルムを引き取るときの長手方向の線速度とのドラフト比の値が、10未満であること好ましい。ドラフト比の値を10未満とし、長手方向の原反フィルムの引き取り力を小さくすることにより、その後の長手方向の延伸工程での破断を防止することができる。
【0052】
弾性タッチローラ21及び冷却ローラ22を通過した原反フィルムは、引き取りローラ23によってさらに冷却され、補助ローラ、フィードローラ等によって、TD延伸機6に搬送される。
この搬送過程において膜厚計3が設けられ、原反フィルムの膜厚が測定される。測定された膜厚は、制御部4にフィードバックされ、制御部4は膜厚の測定値からTダイス14のスリット間隔を調整し、原反フィルムの膜厚が目的値となるように調整する。
【0053】
〔TD延伸工程〕
原反フィルムを成形後、TD延伸機6により、原反フィルムを幅手方向(TD;Transverse Directionとも呼ばれる)に延伸することが好ましい。幅手方向の延伸により、原反フィルムの幅手方向の強度が向上し、その後の長手方向の延伸工程において収縮しやすくなる。また、長手方向のみの延伸による位相差発現を減少させることができる。
延伸は、例えばテンターを介して一端を固定する固定端一軸延伸法や、一端を固定しない自由端一軸延伸法等が挙げられる。
TD延伸工程での延伸倍率は、1.3〜5.0倍の範囲内であることが好ましい。1.3倍以上とすることで、幅手方向の強度の向上が十分である。また、5倍以下とすることにより、長手方向の強度も確保することができ、MD延伸工程までに破断する可能性を低くすることができる。
【0054】
〔加工工程〕
TD延伸機6によって幅手方向に延伸された原反フィルムは、スリッター7によって幅手方向の端部が所定の長さだけスリットされる。
さらに、原反フィルムはナール加工部8に搬送され、幅手方向の端部がナール加工される。ナール加工は、例えばエンボス加工である。
このとき、原反フィルムの幅手方向の両端から30mm以内の領域を、ナール加工することが好ましい。
ナール加工後、ワインダー9によって巻き取られ、原反フィルムのロールが得られる。
【0055】
TD延伸を行わない場合、
図5に示すような原反フィルムの製造装置A2を用いることができる。製造装置A2は、製造装置A1からTD延伸機6を除いた以外は、製造装置A1と同じ構成であるので、同じ構成部には同じ符号が付されている。
【0056】
〔塗布型偏光板用の原反フィルムを用いた塗布型偏光板の製造方法〕
塗布型偏光板の製造方法は、上述の製造方法によって塗布型偏光板用の原反フィルムを製造する工程、製造された原反フィルム上に親水性樹脂層を積層する工程、長手方向に3〜15倍の範囲内の倍率で長手方向に延伸する工程、2色性色素で染色し、安定化し、乾燥して偏光板を製造し、巻き取る工程を含む。
ここで、塗布型偏光板とは、材料を塗布することによって作製された偏光板をいう。
【0057】
図6は、製造装置Bによる、本実施の形態に係る塗布型偏光板の製造工程を示している。
〔原反フィルムの製造工程〕
原反フィルムの製造工程では、上述した原反フィルムの製造方法によって、原反フィルムを製造する。
【0058】
〔積層工程〕
図6に示すように、製造装置Bのアンワインダー101に、製造装置A1又はA2によって巻き取られた原反フィルムのロールをセットする。アンワインダー101によってロールが巻き戻され、補助ローラ、フィードローラによって原反フィルムがプラズマ処理機103に搬送される。プラズマ処理機103は、原反フィルムをプラズマ処理し、表面改質する。プラズマ処理は、原反フィルムと原反フィルム上に積層される親水性樹脂層との密着性を向上させる前処理である。
【0059】
プラズマ処理された原反フィルム上に、リップコーター104が、親水性樹脂の塗布液を塗布し、親水性樹脂層を形成する。
〔親水性樹脂〕
熱可塑性樹脂層を支持体として、その上層に形成される親水性樹脂層は、親水性高分子を主成分とする層である。親水性樹脂層は、染色処理によって2色性物質を吸着し、偏光子として機能する。
【0060】
親水性樹脂層に用いられる親水性高分子は、特に限定されないが、好ましい例として、ポリビニルアルコール系高分子が挙げられる。
ポリビニルアルコール系高分子としては、例えばポリビニルアルコール及びその誘導体等である。ポリビニルアルコールの誘導体は、例えばポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール等の他、ポリビニルアルコールを、エチレン、プロピレン等のオレフィン、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸、そのアルキルエステル、アクリルアミド等によって変性したものがある。ポリビニルアルコール系高分子のなかでも、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0061】
ポリビニルアルコールの重合度は、100〜10000程度の範囲内であることが好ましく、1000〜10000の範囲内であることがより好ましい。
ポリビニルアルコールは、ケン化度が80〜100モル%程度の範囲内であるものが一般的に用いられる。
【0062】
その他、親水性高分子としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化物、ポリビニルアルコールの脱水処理部やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等が挙げられる。
【0063】
親水性樹脂層は、上述した親水性高分子に加えて、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含有してもよい。
可塑剤としては、ポリオール又はその縮合物等が挙げられ、例えばグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
これら添加剤の含有量は、特に限定されないが、親水性樹脂層の全質量に対し、20質量%以下の含有質量比とすることが好ましい。
【0064】
〔MD延伸工程〕
乾燥機105が、親水性樹脂層が積層された原反フィルムを乾燥処理した後、原反フィルム(積層フィルム)はMD延伸機106に搬送される。MD延伸機106は、原反フィルムを長手方向(MD:Machine Directionとも呼ばれる)に延伸する。MD延伸機106の延伸方法としては、特に限定されず、ローラ間延伸方法、圧縮延伸方法、テンターを用いた延伸法等が挙げられる。
MD延伸工程での延伸倍率は、3〜15倍の範囲内であることが好ましい。
延伸倍率を3倍以上とすることで、以降の染色工程において色素を十分配向させることができ、偏光子とした際の偏光度の低下を防ぐことができる。また、15倍以下とすることにより、幅手方向の強度低下を防ぎ、裂けやすくなることを防ぐことができる。
【0065】
〔染色工程〕
長手方向に延伸された原反フィルムは、染色槽107に搬送され、染色処理される。染色処理は、染色槽107内の2色性物質を含有する染色溶液に、原反フィルムを浸漬する処理である。染色処理により、原反フィルム上に積層された親水性樹脂層に2色性物質を吸着させて、2色性物質を配向させる。
【0066】
〔2色性色素〕
染色処理に用いられる2色性色素は、特に限定されないが、例えばヨウ素、有機染料等が挙げられる。
有機染料としては、例えばレッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、エロー3G、エローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラック等が挙げられる。
【0067】
なかでも、水溶性であり、工程適性という観点から、ヨウ素が好ましく、さらにヨウ化物を添加することが、染色効率の向上する観点から好ましい。
このようなヨウ化物としては、例えばヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化スズ、ヨウ化チタン等が挙げられる。
ヨウ化物の添加量は、染色溶液の全質量に対し、含有質量比が0.01〜10質量%の範囲内であることが好ましく、0.1〜5質量%の範囲内であることがより好ましい。
なかでも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましく、染色溶液におけるヨウ素とヨウ化カリウムの含有質量比は、1:5〜1:100の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは1:6〜1:80、さらに好ましくは1:7〜1:70の範囲内にあることが好ましい。
【0068】
染色溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、通常は15秒から5分程度の範囲内であることが好ましく、1〜3分間の範囲内であることが好ましい。
染色溶液の温度は、10〜60℃の範囲内にあることが好ましく、20〜40℃の範囲内にあることがより好ましい。
染色処理は、MD延伸の前に又は同時に行うこともできるが、2色性物質を良好に配向させる観点から、MD延伸の後に行うことが好ましい。
【0069】
〔安定化、乾燥工程〕
染色処理後、原反フィルムは安定化槽108に搬送される。安定化槽108は、脱色槽108aと架橋槽108bを備え、脱色槽108aにはヨウ化カリウムを含む脱色液が、架橋槽108bにはホウ酸とヨウ化カリウムを含む架橋液が充填されている。この2槽に原反フィルムを順次浸漬して、2色性物質を固定化する。その後、乾燥機109により乾燥すると、塗布型偏光板が得られる。
【0070】
〔巻き取り工程〕
得られた塗布型偏光板の幅手方向の端部を、スリッター110によって所定の長さだけスリットした後、ワインダー111によって巻き取る。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示が用いられるが、特に断りが無い限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0072】
〔塗布型偏光板用の原反フィルムの作製〕
(1)原反フィルム1の作製
特開2011−227530号公報の実施例1に記載の方法に従い、次のようにして主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂を生成した。
下記材料を、反応釜に仕込み、窒素を通じつつ、105℃まで昇温した。
メタクリル酸メチル 40質量部
2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル 10質量部
トルエン 50質量部
酸化防止剤(アデカスタブ2112、ADEKA社製) 0.025質量部
【0073】
昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として、0.05質量部のt−アミルパ−オキシイソナノエート(ルペロックス570、アルケマ吉富社製)を投入した。さらに、この重合開始剤0.10質量部を3時間かけて滴下し、約105〜110℃の還流下で重合反応を進行させ、4時間熟成させた。
そこへ、環化縮合反応の触媒として、0.05質量部のリン酸2−エチルヘキシルを加え、約90〜110度の還流下において、環化縮合反応を進行させた。その後、重合溶液を240℃で30分間加熱し、環化縮合反応をさらに進行させた。
【0074】
環化縮合反応後、重合溶液を二軸押出機に導入し、脱揮した。
脱揮完了後、二軸押出機から熱溶融状態にある樹脂を排出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂のペレットを得た、アクリル樹脂の重量平均分子量は、148000であり、アクリル樹脂のガラス転移温度Tgは、128℃であった。
【0075】
90℃の熱風乾燥機(図示せず)にて、上記アクリル樹脂のペレットの含水率を100ppm以下まで乾燥したうえで、製造装置A2(
図5の構成)の一軸押出機11内で溶融し、ギアポンプ12、フィルター13を介して、スリット間隔1mm、スリット幅3000mmのTダイス14からフィルム状に押出した。Tダイス14の温度は280℃とした。 フィルム質量を測定し、押出し量を120kg/Hrに調整したうえで、対向して回転する直径350mmの冷却ローラ22及び直径300mmの弾性タッチローラ21(各々温度は110℃)に狭持して冷却した。引き続き、引取りローラ23により常温まで冷却したのち、インラインの膜厚計3を通してから、幅手方向の両端を100mmずつスリッター7にてスリットした。さらに、幅手方向の両端をナール加工部8によりナール加工(ナール高さ5μm)し、ワインダー9により巻き取った。
【0076】
膜厚計3による測定値を元に、Tダイス14のスリット間隔を、図示しない調整ボルトで手動にて調整し、幅手方向の両端のネックイン部分を除いた膜厚を120±5μmに調整した。さらに、Tダイス14付随のヒートボルト(3000mmのスリット幅に等間隔に並ぶ120個のヒートボルト)を作動させて、膜厚を120±0.8μm以内に微調整した。
なお、ネックイン部分は幅手方向の両端から約70mmの範囲内にあり、スリットによって除外された。
巻き取られた原反フィルムのロールは、幅手方向の長さが2800mm、幅手方向の両端から50〜300mmの領域を除くフィルム部分の膜厚の平均値Lが120μm、当該フィルム部分の膜厚が120±0.8μmの範囲内であった。この状態でワインダー9のコアを切り替えて、そのまま長手方向の長さが4000mの原反フィルム1のロールを作製した。
【0077】
(2)原反フィルム2の作製
原反フィルム1の作製に引き続き、原反フィルムの幅手方向の両端から120mm近傍の位置に対応するヒートボルト143を調整して、幅手方向の両端から120mm近傍の膜厚を100μmに調整し、薄膜部を形成した。また、残りのヒートボルトを調整して、原反フィルムの膜厚を120±0.8μmの範囲に調整し、膜厚が安定したところで、ワインダー9のコアを切り替えてそのまま長手方向の長さが4000mの原反フィルム2のロールを作製した。
【0078】
(3)原反フィルム3の作製
原反フィルム2の作製に引き続き、ヒートボルトの出力を調整して、特開2010−070652に記載された実施例1と同様の膜厚プロファイルを持つ原反フィルム3を作製した。
原反フィルム3は、幅手方向の両端の膜厚が最も大きく、両端から60mm前後の位置の膜厚が最も小さかった。具体的には、原反フィルム3の幅手方向の両端から100mmまでの端部を除くフィルム中央部の膜厚平均値をL
*と表すと、両端の膜厚はそれぞれ1.1L
*であった。また、左端から65mmの位置、右端から60mmの位置の膜厚が最も小さく、その膜厚は、左側が0.72L
*、右側が0.70L
*であった。なお、フィルム中央部の膜厚平均値L
*は120μmであり、フィルム中央部の膜厚は120±0.8μmの範囲内にあった。この膜厚プロファイルを持つ原反フィルム3のロールを、長手方向に長さ4000m作製した。
【0079】
(4)原反フィルム4の作製
下記熱可塑性樹脂と添加剤を混合後、二軸押出機に投入して溶融、混練した。ダイスの直前に設けられた目開き100μmの金属メッシュ(フィルター)にて、溶融樹脂をろ過した後、240℃で、ダイスの円形の口径からストランド状に押し出した。押し出された溶融樹脂を水冷した後、ストランドカッターで長径5mm、断面直径が2.5mmの円筒形にカットし、低粘度樹脂組成物のペレットを得た。
(熱可塑性樹脂)
セルロースアセテートプロピオネート(製品名CAP482−20、イーストマンケミカル社製、アセチル基置換度0.26、プロピオニル基置換度2.5、総アシル基置換度2.76、重量平均分子量Mw240000):65質量部
(メタ)アクリル樹脂(メチルメタクリレート(MMA)とアクリロイルモルホリン(ACMO)の共重合体(MMA/ACMO=70/30(質量比))、重量平均分子量Mw:10万):35質量部
(添加剤)
GSY−P101(堺化学工業社製):0.25質量部
Irganox1010(BASFジャパン社製):0.5質量部
SumilizerGS(住友化学社製):0.24質量部
R972V(アエロジル社製):0.15質量部
(添加剤の添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対しての質量比)
【0080】
得られた低粘度樹脂組成物を二軸押し出し機に投入し、ベント部で脱揮しながら溶融混練した。ダイスの直前に設けられた目開き100μmの金属メッシュ(フィルター)にて、溶融樹脂をろ過した後、240℃で、ダイスの円形の口径からストランド状に押し出した。押し出された溶融樹脂を水冷した後、ストランドカッターで断面直径が2〜3mm、長さ2〜3mmの円筒形にカットし、ペレットを得た。
上記ペレットを用いて、ダイス温度を240℃に変更した以外は、原反フィルム2と同様にして、原反フィルム4のロールを得た。
【0081】
(5)原反フィルム5の作製
熱可塑性樹脂として下記2種のペレットを使用し、一軸押出機においてベントにて脱揮し、ダイス温度を235℃とした以外は、原反フィルム2と同様に薄膜部を形成して、原反フィルム5のロールを作製した。
(ペレット)
デルペット80N(ポリメチルメタクリレート(PMMA)ペレット、旭化成ケミカルズ社製):70質量部
デルペットSRB215(ゴム粒子入りのポリメチルメタクリレート(PMMA)ペレット、旭化成ケミカルズ社製):30質量部
【0082】
(6)原反フィルム6の作製
原反フィルム4の作製において、熱可塑性樹脂から(メタ)アクリル樹脂を除去し、セルロースアセテートプロピオネートを100質量部としてペレットを作製し、ダイス温度を240℃にした以外は、原反フィルム4と同様にして、原反フィルム6のロールを作製した。
原反フィルム6の熱可塑性樹脂と添加剤は、次のとおりである。
(熱可塑性樹脂)
セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製、製品名CAP482−20、アセチル基置換度0.26、プロピオニル基置換度2.5、総アシル基置換度2.76、重量平均分子量Mw240000):100質量部
(添加剤)
GSY−P101(堺化学工業社製):0.25質量部
Irganox1010(BASFジャパン社製):0.5質量部
SumilizerGS(住友化学社製):0.24質量部
R972V(アエロジル社製):0.15質量部
(添加剤の添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対しての質量比)
【0083】
(7)原反フィルム7〜10の作製
原反フィルム2の作製において、ヒートボルト143を調整し、薄膜部の膜厚を0.75Lμm(90μm)に調整した以外は、原反フィルム2と同様にして、原反フィルム7のロールを作製した。
原反フィルム2の作製において、ヒートボルト143を調整し、薄膜部の膜厚を0.88Lμm(106μm)に調整した以外は、原反フィルム2と同様にして、原反フィルム8のロールを作製した。
原反フィルム2の作製において、ヒートボルト143を調整し、薄膜部の膜厚を0.95Lμm(114μm)に調製した以外は、原反フィルム2と同様にして、原反フィルム9のロールを作製した。
原反フィルム2の作製において、ヒートボルト143を調整し、薄膜部の膜厚を0.97Lμm(116μm)に調製した以外は、原反フィルム2と同様にして、原反フィルム10のロールを作製した。
【0084】
(8)原反フィルム11、12の作製
原反フィルム2の作製において、Tダイス14の熱可塑性樹脂の押出し量Q値と、冷却ローラ22、弾性タッチローラ21以降の引き取り速度(CS)を変化させることで、ドラフト比の値を変更した以外は、原反フィルム2と同様にして原反フィルム11を作製した。原反フィルム11のドラフト比の値は9.5であった。
同様に、原反フィルム2の作製において、ドラフト比を変更し、さらにヒートボルト143を調整して薄膜部の膜厚を0.79Lμm(95μm)に調整した以外は、原反フィルム2と同様にして、原反フィルム12のロールを作製した。原反フィルム12のドラフト比の値は10.5であった。
【0085】
(9)原反フィルム13の作製
原反フィルム1の作製において、
図4に示すように、冷却ローラ22の周面上に、高さ15μm、断面が半円状の凸部を設けてフィルムの成形を行い、凸部によって薄膜部を形成した以外は、原反フィルム1と同様にして、原反フィルム13のロールを作製した。凸部は、原反フィルム13の幅手方向の両端から120mmに対応する位置に設けた。原反フィルム1と同様のスリットの調整条件とし、原反フィルム13の膜厚を120±0.8μmの範囲内に調整した。凸部によって形成された薄膜部の膜厚が、0.88Lμm(106μm)である原反フィルム13のロールを安定に作製することができた。
【0086】
(10)原反フィルム14〜16の作製
TD延伸機を連結した製造装置A1(
図2構成)を用いて、クリップ型テンターのTD延伸機6において、延伸温度150℃で幅手方向に延伸した以外は、原反フィルム2と同様にして、原反フィルム14〜16のロールを作製した。TD延伸機6による端部位置のずれ、薄膜部の伸び(膜厚)を考慮し、ヒートボルト143を調整することで、原反フィルム14〜16の幅手方向の両端から120mmの位置に薄膜部を形成した。原反フィルム14、15は、薄膜部の膜厚が0.85Lμmであり、原反フィルム16は、薄膜の膜厚が0.79Lμmであった。
原反フィルム14〜16は、それぞれTD延伸時の延伸倍率が異なり、延伸倍率を1.4倍にして原反フィルム14を、延伸倍率を5倍にして原反フィルム15を、延伸倍率を5.2倍にして原反フィルム16を作製した。
【0087】
(11)原反フィルム17の作製
原反フィルム8の作製において、ヒートボルト143によってスリット間隔を調整し、原反フィルム17の膜厚をL±1.2μmの範囲内に調整した以外は、原反フィルム8と同様にして原反フィルム17を作製した。
【0088】
〔塗布型偏光板の作製〕
(1)塗布型偏光板1の作製
重剛度4200、ケン化度99%のポリビニルアルコールを熱水で膨潤後、純水で希釈し、固形分7%の親水性樹脂層の塗布溶液を調製した。
【0089】
図6に示す製造装置Bのアンワインダー101に、原反フィルム1のロールをセットし、フィードローラ、補助ローラによって繰り出し、プラズマ処理機103で表面改質した。次に、リップコーター4において、調製した親水性樹脂層の塗布溶液を50℃に保温しながら、原反フィルム1の内面(成形時に弾性タッチローラ21に接触した面であり、ワインダー9により巻き取られたときに内側となった面)に対し、幅手方向中心に2500mm幅で積層塗布した。その後、乾燥機105において乾燥し、原反フィルム1を支持体とするポリビニルアルコールの積層体を得た。
【0090】
次に、MD延伸機106において、延伸温度140℃、延伸倍率6倍となるように、出口側CSを調整して、積層体を長手方向に延伸した。延伸後、積層体を、ヨウ素とヨウ化カリウムを含有する染色溶液が充填された染色槽107に10分間浸漬し、親水性樹脂層を染色した。さらに、安定化槽108において、ヨウ化カリウムを含む脱色液が充填された脱色槽108aに2分間浸漬し、染色された親水性樹脂層のポリヨウ素イオン錯体を一部除去した。その後、ホウ酸とヨウ化カリウムを含む架橋液が充填された架橋槽108bに1分間浸漬して架橋し、乾燥機109にて5分間温風乾燥して、塗布型偏光板1を得た。
【0091】
得られた塗布型偏光板1を、スリッター110により原反フィルム1の幅手方向の両端から300mmを超えた位置でスリットした。スリット後の端部に高さ6μmのナール加工を施した後、原反フィルム1を内側にして、ワインダー111が塗布型偏光板1をコアに巻き取り、幅手方向1200mm、長手方向4000mmの塗布型偏光板1のロールを得た。
なお、上記塗布型偏光板1の作製において、製造装置Bのラインに、膜厚100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムをあらかじめ通しておいた。このポリエチレンテレフタレートフィルムの後端に、原反フィルム1のロールの先頭を連結して、5m/分の速度で搬送開始し、原反フィルム1を製造装置Bに導入した。連結部分がMD延伸機106を通過後、MD延伸機106以降の搬送速度を徐々に上げ、30m/分に上昇させた。ポリエチレンテレフタレートフィルムとは、コアを切り替えて塗布型偏光板1のロールを得た。
【0092】
(2)塗布型偏光板2〜17の作製
塗布型偏光板1と同様の手順により、原反フィルム2〜17のロールを用いて、それぞれ塗布型偏光板2〜17を作製した。薄膜部が形成されている原反フィルム2〜17は、スリッター110により、幅手方向の両端から300mmを超えた位置、つまり薄膜部のすぐ内側の位置でスリットされ、薄膜部が切り落とされた。
【0093】
〔評価〕
(1)評価1:原反フィルムのロールの変形
原反フィルム1〜17のロールを架台に乗せた状態で2週間放置し、巻きの形状を観察して、巻き締まりの有無を次のように評価した。巻き締まりは、目視、触感(硬い、柔らかい)によって、幅手方向の位置による差を観察した。
○:巻き締まり(変形)が無い
△:巻き締まりは無いが、ブラックバンドが視認できる
×:巻き締まりが発生している
【0094】
原反フィルム1〜17のロールを100m繰り出し、長手方向に1mの長さで切断した。切断した原反フィルム1〜17のサンプルを平台の上に乗せ、目視で皺の有無を確認し、次のように評価した。
○:目視で確認できる皺が無い
×:目視で皺が視認できる
【0095】
原反フィルム1〜17のロールを100m繰り出し、長手方向に1mの長さで切断した。切断した原反フィルム1〜17のサンプルを、ロール時に巻きの内側であった面を上面にして平台に乗せた状態で、温度23℃、湿度50%の環境下で12時間放置後、カールの有無を観察し、次のように評価した。
○:カールによって端部が平台から離れた距離が、5mm未満
△:カールによって端部が平台から離れた距離が、5〜10mm
×:カールによって端部が平台から離れた距離が、10mmを超える
【0096】
(2)評価2:塗布型偏光板の製造工程における塗布性及び延伸性・搬送性
親水性樹脂層を幅手方向に10分割し、分割領域毎に親水性樹脂層の膜厚を測定した。各分割領域の膜厚の最大値と最小値の差Δから、親水性樹脂層の塗布性を、次のように評価した。
○: Δ<0.2μm
△:0.2μm≦Δ<0.4μm
×:0.4μm≦Δ
【0097】
上記塗布型偏光板1〜17の製造過程において、原反フィルム1〜17の延伸性・搬送性を次のように評価した。
○:破断等が無く、安定的に搬送、巻取りができる
△:破断、端部の折れ込みが無いが、蛇行、ツレ等が発生する
×:破断又は端部の折れ込みが発生する
【0098】
(3)評価3:塗布型偏光板の性能
塗布型偏光板1〜17の外観を目視で観察し、ムラやスジの有無を評価した。また、塗布型偏光板1〜17を90度傾けた状態で重ねてクロスニコル状態とし、光漏れの有無を評価した。
○:目視でムラ、スジが認められず、クロスニコル状態で光漏れが発生しない
△:目視でムラ、スジが認められないが、クロスニコル状態で光漏れが発生する
×:目視でムラ又はスジが認められる
【0099】
塗布型偏光板1〜17を、80℃90%RHの環境下で500時間放置後、塗布型偏光板1〜17の変色を目視で観察し、退色性を次のように評価した。
○:退色が認められない
×:有意に退色している
【0100】
塗布型偏光板1〜17の親水性樹脂層側の露出表面に、トリアセチルセルロースを主成分とする偏光板保護フィルム(コニカミノルタオプト社製、コニカミノルタタックKC−4UA)を、水性接着剤を介して貼着して乾燥した。次に、塗布型偏光板1〜17の支持体として用いられた原反フィルム1〜17を剥がし、剥がした面に偏光板保護フィルム(コニカミノルタオプト社製、コニカミノルタタックKC−4CZ)を水性接着剤を介して貼着して乾燥し、4UA/親水性樹脂層/4CZの3層構成を有する保護フィルム付きの塗布型偏光板1〜17を作製した。
上記保護フィルム付き偏光板1〜17を5×5cmのサイズで切り出し、切り出したサンプルを80℃90%RHの環境下で500時間放置した。その後、保護フィルム(4UA、4CZ)と親水性樹脂層の界面の浮き、剥がれを、目視により観察し、保護フィルムと親水性樹脂層との密着性を次のように評価した。
○:静置した状態でも、折り曲げても、浮き、剥がれが認められない
△:静置した状態では、浮き、剥がれが認められない
×:静置した状態でも、浮き、剥がれが認められる
【0101】
下記表1〜5は、上記評価結果を示す。
表1〜5において、CAPは、セルロースアセテートプロピオネートを表している。
なお、原反フィルム3については、表1の膜厚平均値Lの欄において、原反フィルム3のフィルム中央部の膜厚平均値L
*を示した。
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】
【0105】
【表5】
【0106】
表1〜5に示すように、実施例によれば、平滑性、延伸性、搬送性に優れた原反フィルムが得られ、当該原反フィルムを用いることによりムラや退色が無く、密着性に優れた塗布型偏光板を製造することができる。一方、比較例によれば、平滑性が失われるか、塗布型偏光板の製造過程において破断する等して、延伸性、搬送性が低く、長尺の原反フィルムを用いた塗布型偏光板の製造が難しい。製造ができた場合でも、塗布型偏光板にムラやスジが発生しやすい。なお、塗布型偏光板16、17は、それぞれフィルム変形によるスジ、塗布液の濃度ムラによるスジが認められた。