特許第6011612号(P6011612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6011612変性ポリオレフィン水性分散組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011612
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】変性ポリオレフィン水性分散組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/03 20060101AFI20161006BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20161006BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20161006BHJP
   C09D 123/26 20060101ALN20161006BHJP
   C09D 7/12 20060101ALN20161006BHJP
   C09D 11/00 20140101ALN20161006BHJP
   C09J 123/26 20060101ALN20161006BHJP
   C09J 11/02 20060101ALN20161006BHJP
【FI】
   C08J3/03CES
   C08L71/02
   C08L23/26
   !C09D123/26
   !C09D7/12
   !C09D11/00
   !C09J123/26
   !C09J11/02
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-507494(P2014-507494)
(86)(22)【出願日】2013年2月8日
(86)【国際出願番号】JP2013053013
(87)【国際公開番号】WO2013145884
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2015年12月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-76604(P2012-76604)
(32)【優先日】2012年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-76605(P2012-76605)
(32)【優先日】2012年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】阿曽 英王
(72)【発明者】
【氏名】柏原 健二
(72)【発明者】
【氏名】磯本 賢一郎
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−084137(JP,A)
【文献】 特開2005−036076(JP,A)
【文献】 特開2009−079078(JP,A)
【文献】 特開平01−275636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/03
C08L 23/26
C08L 71/02
C09D 7/12
C09D 11/00
C09D 123/26
C09J 11/02
C09J 123/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(2)の工程を含む変性ポリオレフィン水性分散組成物の製造方法であって、変性ポリオレフィンが、酸変性ポリオレフィンおよび/または酸変性塩素化ポリオレフィンであり、前記の変性ポリオレフィンの酸価が5〜50KOHmg/gであり、工程(1)及び工程(2)の間に、脱有機溶剤処理を行う、製造方法
(1)変性ポリオレフィン、有機溶剤、塩基化合物、および水を原料として変性ポリオレフィン水性分散体を得る工程1
(2)前記変性ポリオレフィン水性分散体に界面活性剤を変性ポリオレフィンに対し0.1〜10重量%配合する工程2
【請求項2】
前記の酸変性塩素化ポリオレフィンの塩素含有率が10〜35重量%である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記の変性ポリオレフィンの重量平均分子量が10000〜150000である請求項 1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記の変性ポリオレフィンがプロピレン−α−オレフィン共重合体を酸変性または酸変 性後に塩素化したものであり、該プロピレン−α−オレフィン共重合体に含まれるプロピ レン成分が60〜97モル%である請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記のプロピレン−α−オレフィン共重合体がメタロセン系触媒を用いて合成されるプ ロピレン−α−オレフィン共重合体である請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記の有機溶剤がエーテル系溶剤を少なくとも含むものであることを特徴とする請求項 1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記の界面活性剤がHLB9以上の非イオン性界面活性剤であることを特徴とする請求 項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
HLBが9以上の非イオン性界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル型、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル型、ポリオキシアルキレンアルキルアミン型、ポリオキシアルキレンアミン型、ポリオキシアルキレンアルキルアミド型、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル型、酸化エチレン酸化プロピレンブロック重合型、酸化エチレン酸化プロピレンランダム重合型、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル型からなる群より選択される少なくとも1種である請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂に対する接着付与成分として、塗料、インキ、接着剤等の用途で幅広く使用できる変性ポリオレフィン水性分散組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂は、安価であり、機械的物性や化学特性など優れた性質を有することから、自動車分野等の広い分野で大量に使用されている。しかしながら、ポリオレフィン系樹脂は分子中に極性基を有しないことから、表面が一般に低極性であり、塗装や接着が困難であるという問題がある。
【0003】
このため、ポリオレフィン系樹脂の塗装や接着には、変性ポリオレフィン類が使用され、トルエンやキシレン等の有機溶剤に溶解して使用されている。しかしながら、環境面や安全衛生面等の問題から水性化が望まれ、変性ポリオレフィン類の水性化が数多く検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、酸変性塩素化ポリプロピレンのトルエン溶液にアミンを加え、混合後に界面活性剤を加え、次いで水を徐々に加えて乳化を行った後に、トルエンを減圧下で除くことにより水性樹脂組成物を得る方法が記されている。しかしながら、トルエンを除く工程において、界面活性剤を含有している影響で発泡しやすいことから、発泡を抑えながらトルエンを除かねばならず工程時間が長くなるという問題がある。
【0005】
また、特許文献2では、変性ポリオレフィンを溶融後、水性化助剤としての界面活性剤及び/又はアルコール、アミンを混合し、高温高圧下で水を加えることにより水性樹脂分散物を得る方法が記されている。しかしながら、変性ポリオレフィンを溶融させて水性化することから、水性化時の溶融粘度が高すぎると、水性化は困難であることから、使用できる変性ポリオレフィンの分子量に制限がある。また、実質上多量の水性化助剤の添加を必要とすることから、水性樹脂分散物の乾燥フィルムの耐水性を低下させ、また使用する装置も高温高圧下で耐性のある反応缶を使用しなければならないという問題を有している。
【0006】
これらを改善するために、界面活性剤を変性ポリオレフィンと反応させて水性樹脂組成物を製造する方法が検討されており、例えば特許文献3〜4には酸変性ポリオレフィンに親水性高分子を反応させ、有機溶剤に溶解後、水を加えて分散する製造する方法が記されている。しかしながら、実質上親水性高分子を多量に使用し反応させることから、水性樹脂分散物の乾燥フィルムの耐水性を低下させる等、コーティング剤としての塗膜物性に悪影響を与えるという問題を有している。
【0007】
これらを改善するために、水性化助剤を使用せずに水性樹脂組成物を製造する方法が検討されており、例えば特許文献5には特定の種類の有機溶剤を使用することにより製造する方法が記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−182534号
【特許文献2】特許2930511号
【特許文献3】特開2007−321105号
【特許文献4】特開2008−163289号
【特許文献5】特開2009−79078号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、界面活性剤を含有しない変性ポリオレフィン水性樹脂分散物は長期間での保存安定性や機械安定性に問題があり、界面活性剤のような水性化助剤が分散粒子に吸着し保護している変性ポリオレフィン水性樹脂分散物と比べて保存条件に制限される場合がある。また、界面活性剤を含有しない変性ポリオレフィン水性樹脂分散物は、表面が低極性であるポリオレフィン基材に対する濡れ性に問題がある場合もある。つまり、変性ポリオレフィン水性樹脂分散物をポリオレフィン基材の表面に塗布し、乾燥塗膜が生成する際には、水が揮発しながら分散粒子同士が融着する工程を経てから、均一な乾燥塗膜となるが、界面活性剤を含有しない変性ポリオレフィン水性樹脂分散物は、ポリオレフィン系樹脂に対する濡れ性が劣るため、ポリオレフィン基材の表面に塗布した際に均一な乾燥塗膜を得るのが困難なことから、ポリオレフィン基材に対する付着性等の各種塗膜物性が悪くなる場合がある。
【0010】
本発明は、特定の工程を採用することにより、脱有機溶剤時の発泡を抑え、工程時間を短縮することができ、さらに密着性および耐水性良好な変性ポリオレフィン水性分散組成物の効率的な製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の変性ポリオレフィン水性分散組成物の製造方法を採用する場合には上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の変性ポリオレフィン水性分散組成物の製造方法に関する。なお、本願では便宜的に界面活性剤配合前の水性分散組成物を変性ポリオレフィン水性分散体と、界面活性剤配合後の水性分散組成物を変性ポリオレフィン水性分散組成物という。
【0013】
(項1)
(1)(2)の工程を含む変性ポリオレフィン水性分散組成物の製造方法。
(1)変性ポリオレフィン、有機溶剤、塩基化合物、および水を原料として変性ポリオレフィン水性分散体を得る工程1
(2)前記変性ポリオレフィン水性分散体に界面活性剤を変性ポリオレフィンに対し0.1〜10重量%配合する工程2
(項2)
前記の変性ポリオレフィンが、酸変性ポリオレフィンおよび/または酸変性塩素化ポリオレフィンである項1に記載の製造方法。
(項3)
前記の変性ポリオレフィンの酸価が5〜50KOHmg/gである項1または2に記載の製造方法。
(項4)
前記の酸変性塩素化ポリオレフィンの塩素含有率が10〜35重量%である項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
(項5)
前記の変性ポリオレフィンの重量平均分子量が10000〜150000である項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
(項6)
前記の変性ポリオレフィンがプロピレン−α−オレフィン共重合体を酸変性または酸変性後に塩素化したものであり、該プロピレン−α−オレフィン共重合体に含まれるプロピレン成分が60〜97モル%である項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
(項7)
前記のプロピレン−α−オレフィン共重合体がメタロセン系触媒を用いて合成されるプロピレン−α−オレフィン共重合体である項6に記載の製造方法。
(項8)
前記の有機溶剤がエーテル系溶剤を少なくとも含むものであることを特徴とする項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
(項9)
前記の界面活性剤がHLB9以上の非イオン性界面活性剤であることを特徴とする項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
(項10)
HLBが9以上の非イオン性界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル型、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル型、ポリオキシアルキレンアルキルアミン型、ポリオキシアルキレンアミン型、ポリオキシアルキレンアルキルアミド型、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル型、酸化エチレン酸化プロピレンブロック重合型、酸化エチレン酸化プロピレンランダム重合型、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル型からなる群より選択される少なくとも1種である項9に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る変性ポリオレフィン水性分散組成物の製造方法によれば、特定の工程を採用しているため、脱有機溶剤時の発泡を抑え工程時間を大幅に短縮することができる。さらに、脱有機溶剤後に界面活性剤を配合するため、変性ポリオレフィン水性分散組成物の用途に応じて、界面活性剤の種類、配合量を適宜選択することができ、密着性および耐水性良好な変性ポリオレフィン水性分散組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明は、変性ポリオレフィン、有機溶剤、塩基化合物、および水を原料として変性ポリオレフィン水性分散体を得た後に、脱有機溶剤処理を行い、更に界面活性剤を変性ポリオレフィンに対し0.1〜10重量%配合することによる変性ポリオレフィン水性分散組成物の製造方法である。
【0017】
上記特徴を有する本発明の製造方法は、界面活性剤を含まない変性ポリオレフィン水性分散体を製造した後に、続けて界面活性剤を必要量配合することにより、接着性および耐水性に優れた変性ポリオレフィン水性分散組成物を得ることが出来る。
【0018】
本発明に使用する変性ポリオレフィンとしては、酸変性ポリオレフィンおよび/または酸変性塩素化ポリオレフィンが挙げられる。
【0019】
酸変性ポリオレフィンとしては、ポリプロピレンおよび/またはプロピレン−α−オレフィン共重合体に、α,β−不飽和カルボン酸および/またはその酸無水物を反応して得られるものであることが好ましい。
【0020】
プロピレン−α−オレフィン共重合体は、プロピレンを主体としてこれにα−オレフィンを共重合したものである。α−オレフィンとしては、特に限定されないが、炭素数2〜8のα−オレフィンが好ましく、具体的には、エチレン、1−ブテン、1−ヘプテン、1−オクテンなどを1種類又は2種類以上用いることができる。これらのα−オレフィンの中では、エチレン、1−ブテンが好ましい。プロピレン−α−オレフィン共重合体のプロピレン成分とα−オレフィン成分との比率は特に限定されないが、プロピレン成分が60〜97モル%、α−オレフィン成分が40〜3モル%であることがコーティング剤として結晶性や融点をコントロールする上で好ましく、プロピレン成分が70〜95モル%、α−オレフィン成分が30〜5モル%であることがより好ましい。
【0021】
ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体は、メタロセン触媒を用いて合成されたものが、均一な結晶性を有しており、溶剤に対する溶解性もすぐれている点で好ましい。また、ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体は、いずれもアイソタクチック重合体であることが好ましい。アイソタクチック重合体は比較的高い結晶化度を示し、酸変性塩素化ポリオレフィンの場合は、塩素化反応することにより結晶性をコントロールすることができる。例えば、ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体に様々な有機溶剤への溶解性を付与する場合には、塩素含有量を高めることにより低結晶化することができる。他方、ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体の塗膜に凝集力を付与する場合には、有機溶剤への溶解性は低下するが、塩素含有率を低く設定することにより高結晶性を維持することができる。そのためには、少なくとも有機溶剤に溶解する状態まで結晶性を下げる必要がある。
【0022】
ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体の融点は特に制限されないが、コーティング剤として使用する上では50〜130℃が好ましく、60〜90℃が更に好ましい。
【0023】
ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体に反応するα,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物としては、特に限定されないが、例えば、マレイン酸、イタコン酸およびそれらの酸無水物が挙げられる。これらの中では無水マレイン酸が好ましい。ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体への付加量としては、酸価が5〜50KOHmg/gの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜30KOHmg/gである。
【0024】
酸価が5KOHmg/g未満の場合は、界面活性剤を使用せずに酸変性ポリオレフィンを水中に分散させることが困難となる場合がある。50KOHmg/gを超えると、極性成分の割合が高くなりすぎることにより、乾燥塗膜の耐水性が悪くなる場合がある。なお、酸価はJIS K5902に準拠することにより測定できる。
【0025】
ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体に、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる少なくとも1種を反応する方法としては、溶液法や溶融法などの公知の方法を使用することができる。
【0026】
溶液法としては、例えば、ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体を、有機溶媒に80〜180℃で溶解させた後、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる少なくとも1種とラジカル発生剤を添加し、所定時間反応させる。有機溶媒としては芳香族炭化水素が好ましく、例えば、トルエン、キシレンなどである。
【0027】
溶融法としては、例えば、ポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体を、180〜300℃で溶解させた後、α,β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる少なくとも1種とラジカル発生剤を添加し、所定時間反応させる。
【0028】
ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエイト、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド等が挙げられ、反応温度と分解温度によって選定できる。
【0029】
酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量は、10000〜150000であるのが好ましく、より好ましくは30000〜120000である。10000未満では、乾燥塗膜の凝集力が弱く、ポリオレフィン基材に対する密着性が悪くなる場合がある。150000を超えると、水性化時における有機溶剤への溶解性が悪くなり、水への分散が行えない場合がある。なお、重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定することができる。本発明ではWaters製のe2695セパレーションモジュール及び2998 PDA(フォトダイオードアレイ)検出器を使用し、標準ポリスチレン換算により測定した。測定条件は以下の通りである。装置(カラム:Shodex Pcked Column for HPLC KF-806M + KF-803、移動相溶媒:THF(100%)、カラム温度:40℃、流速:1.23ml/分、試料濃度:0.3wt%)、検出器(注入量:100μl、温度:25℃)。
【0030】
本発明に使用する酸変性塩素化ポリオレフィンとしては、前記酸変性ポリオレフィンを塩素化して得られるものが挙げられる。
【0031】
酸変性ポリオレフィンの塩素化方法としては、公知の方法を使用することができ、例えば、塩素系有機溶媒中に酸変性ポリオレフィンを100〜120℃で溶解し、ラジカル発生剤の存在下または不存在下で、90〜110℃の雰囲気下で、塩素含有率が10〜35重量%になるまで塩素ガスを吹き込んで行うことができる。塩素系溶剤としては、例えば、クロロホルム、テトラクロロエチレン、テトラクロロエタン等が挙げられ、この中でもクロロホルムが好ましい。
【0032】
酸変性塩素化ポリオレフィンの酸価は5〜50KOHmg/gの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜30KOHmg/gである。酸価が5KOHmg/g未満の場合は、界面活性剤を使用せずに酸変性塩素化ポリオレフィンを水中に分散させることが困難となる場合がある。50KHmg/gを超えると、極性成分の割合が高くなりすぎることにより、乾燥塗膜の耐水性が悪くなる場合がある。なお、酸価はJIS K5902に準拠することにより測定できる。
【0033】
酸変性塩素化ポリオレフィンの塩素含有率は、10〜35重量%であるのが好ましく、より好ましくは14〜25重量%である。10重量%未満では、酸変性塩素化ポリオレフィンの結晶性が高い場合があり、水性化時における有機溶剤への溶解性が悪くなり、水への分散が行えない場合がある。35重量%を超えると、酸変性塩素化ポリオレフィンの結晶性が低くなりすぎることに伴い、乾燥塗膜の凝集力が弱くなり、ポリオレフィン基材に対する密着性が悪くなる場合がある。なお、塩素含有率はJIS K7229に準拠することにより測定できる。
【0034】
酸変性塩素化ポリオレフィンの重量平均分子量は、10000〜150000であるのが好ましく、より好ましくは30000〜120000である。10000未満では、乾燥塗膜の凝集力が弱く、ポリオレフィン基材に対する密着性が悪くなる場合がある。150000を超えると、水性化時における有機溶剤への溶解性が悪くなり、水への分散が行えない場合がある。なお、重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定することができる。本発明ではWaters製のe2695セパレーションモジュール及び2998 PDA検出器を使用し、標準ポリスチレン換算により測定した。
【0035】
本発明の変性ポリオレフィン水性分散組成物を製造するには、変性ポリオレフィン、有機溶剤、塩基化合物、および水を原料として変性ポリオレフィン水性分散体を得た後に、脱有機溶剤処理を行い、界面活性剤を含有しない変性ポリオレフィン水性分散体を製造した後、更に界面活性剤を変性ポリオレフィンに対し0.1〜10重量%配合すればよい。
【0036】
これを、工程ごとに説明する。
【0037】
<工程1>工程1は、界面活性剤を含有しない変性ポリオレフィン水性分散体を製造する。
使用する有機溶剤は、分子内にエーテル結合を有する有機溶剤が好ましい。具体的には、特に限定されないが、少なくとも、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等の1種類以上を使用することが好ましい。より好ましくは、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノn−プロピルエーテルである。前記有機溶媒を2種以上併用すると、変性ポリオレフィンの極性成分量の変動により、変性ポリオレフィンへの溶解性をコントロールすることができるという点で、より好ましい。その他、必要に応じて、トルエン等の芳香族炭化水素、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、メチルエチルケトン等のケトン系、酢酸エチル等のエステル系溶剤、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤を、前記エーテル系溶剤と共に使用することができる。
【0038】
塩基化合物としては、アンモニア、または沸点が30〜250℃、より好ましくは50〜200℃の揮発性の有機アミン化合物が好ましい。沸点が30℃未満の場合は、水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超えると樹脂被膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、被膜の耐水性が悪化する場合がある。揮発性の有機アミン化合物の具体例としては、特に限定されないが、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン等の1級アミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の3級アミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等の脂環式アミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等の水酸基含有アミンが挙げられ、これらを1種類以上使用する。
【0039】
本発明では、まず、変性ポリオレフィンを有機溶剤に溶解する。有機溶剤量は固形分濃度で20〜70重量%が好ましく、25〜65重量%がより好ましく、30〜60重量%がさらに好ましい。20重量%未満であると、希薄になりすぎて効率的な製造に適さない。70重量%を超えると有機溶剤に溶解しないか、溶解するのに高温を必要とするので品質に悪影響を及ぼす場合がある。また、溶解温度は50〜100℃が好ましく、55〜95℃がより好ましく、60〜90℃がさらに好ましい。
【0040】
塩基化合物の配合は変性ポリオレフィン溶解前後のいずれもで差し支えない。塩基性化合物は変性ポリオレフィンのカルボキシル基に対して1〜5化学当量が好ましく、1〜4化学当量がより好ましく、1〜3化学当量がさらに好ましい。1当量未満であると、変性ポリオレフィンのカルボキシル基の中和が十分なされない場合がある。5当量を超えると、塩基性が強すぎることにより、分散体の酸塩基のバランスが崩れ、粘度が極端に高くなる場合がある。
【0041】
塩基性化合物で中和した後に水を配合する。水は変性ポリオレフィンに対して1〜10倍重量が好ましく、2〜8倍重量がより好ましく、3〜6倍重量がさらに好ましい。添加温度は特に限定されないが、操作上、有機溶剤の溶解温度と同程度が好ましい。また、水は少量ずつ加えることにより、W/O型(油中水型)の分散体からO/W型(水中油型)に転相させることができる。
【0042】
転相後、有機溶剤を一部の水と合わせて、減圧下で留去する。減圧度は温度との兼ね合いで適宜設定できるが、例えば、温度50〜120℃が好ましく、60〜110℃がより好ましく、70〜100℃がさらに好ましく、圧力は絶対圧力で50〜100kPaが好ましく、60〜95kPaがより好ましく、80〜90kPaがさらに好ましい。有機溶剤留去後の変性ポリオレフィン水性分散体の重量組成比は変性ポリオレフィン:塩基化合物:水=1:0.005〜0.10:1〜4であるのが好ましい。この際、有機溶剤は完全に除去できていることが望ましいが、工業的には事実上困難であるので、変性ポリオレフィンに対して、1重量%以下、好ましくは、0.1重量%以下、より好ましくは0.01重量%以下であれば良い。
その他の方法としては、特に限定されないが、変性ポリオレフィン、有機溶剤に加えて、塩基化合物および水も初期に配合して樹脂を水分散させた後に脱溶剤処理を行い、変性ポリオレフィン水性分散体を製造する方法や、変性ポリオレフィン、有機溶剤および水を仕込んで溶解させた後、塩基化合物を配合し、その後に脱溶剤処理を行う製造方法等が挙げられる。
【0043】
<工程2>工程2は、界面活性剤を前記変性ポリオレフィン水性分散体に配合して、変性ポリオレフィン水性分散組成物を製造する。
使用する界面活性剤は、特に限定されないが、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が挙げられる。この中でも、非イオン性界面活性剤が好ましい。また、HLBが9以上の非イオン性界面活性剤は長期の保存安定性に優れていることから特に好ましい。HLBは界面活性剤の親水性と親油性のバランスを表した指標(Hydrophile-Lipophphile Balanceの頭文字)であり、HLBの値が大きくなるほど、親水性は増していく、グリフィン氏が創案した方式である。工程2において、使用する非イオン性界面活性剤のHLBが9未満の場合、界面活性剤の親油性が強すぎることにより、変性ポリオレフィン水性分散物の保存安定性向上の効果が小さく、場合によっては界面活性剤を含有しない酸変性ポリオレフィン水性分散組成物よりも保存安定性が悪くなる場合がある。非イオン性界面活性剤のより好ましいHLBは12以上である。HLBの上限は特に限定されないが、通常は20であり、より好ましくは19、さらに好ましくは18である。
【0044】
界面活性剤は界面張力を低下させる機能があることから、表面が低極性であるポリオレフィン系樹脂基材に変性ポリオレフィン水性樹脂分散物を塗布する際には大きな効果を発揮する。
【0045】
非イオン性界面活性剤の種類としては、HLBが9以上であれば特に制限は受けないが、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル型(アルキレンは直鎖または分岐しても良い炭素数2〜4のアルキレン基が好ましく、アルキルは直鎖または分岐しても良い炭素数10〜18のアルキル基が好ましい)、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル等のポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル型、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンステアリルアミン等のポリオキシアルキレンアルキルアミン型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアミン等のポリオキシアルキレンアミン型、ポリオキシエチレンオレイルアミド等のポリオキシアルキレンアルキルアミド型、ポリオキシエチレンモノラウレート等のポリオキシアルキレン脂肪酸エステル型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリデシルエーテル等の酸化エチレン酸化プロピレンブロック重合型や酸化エチレン酸化プロピレンランダム重合型、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられ、これらを1種類または2種類以上を使用できる。
【0046】
界面活性剤の配合量は変性ポリオレフィンに対し0.1〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.5〜9重量%であり、さらに好ましくは1〜8重量%である。これにより、変性ポリオレフィン水性分散組成物の長期間における保存安定性、および低極性であるポリオレフィン基材に対する濡れ性が確保でき、かつ乾燥塗膜の耐水性の低下を防ぐことができる。さらに本発明では、工程1で界面活性剤を使用していないため、続く工程2で使用する界面活性剤の種類と配合量の制限を受けることなく、ポリオレフィン基材に対する濡れ性向上に好適な界面活性剤を幅広く選択することができ、効率よく変性ポリオレフィン水性分散組成物を得ることができる。加えて、工程1での界面活性剤による、脱有機溶剤工程での発泡も抑制できるため工業的にも極めて優れた製造方法といえる。
【0047】
界面活性剤の配合方法は特に限定されないが、例えば、水等に希釈せずに配合してもよいし、1〜50重量%に希釈した水溶液の形態で配合してもよい。変性ポリオレフィン水性分散体に速やかに混合するために、1〜50重量%に希釈した水溶液の形態で配合するのが好ましい。変性ポリオレフィン水性分散体に水溶液状態の界面活性剤を配合することで、速やかに界面活性剤が粒子に吸着する。
【0048】
変性ポリオレフィン水性分散組成物の体積基準の平均粒子径は、好ましくは500nm以下であり、より好ましくは200nm以下である。500nmを超えると塗装後の塗膜中に欠損が生じる可能性があり、諸物性に悪影響を及ぼす可能性があるため、好ましくない。なお、体積基準の平均粒子径は、Malvern Instruments製 Zetasizer Nano ZSにより測定した。
【0049】
界面活性剤配合後、例えば、濃度調整のため水の添加や留去をしても差し支えない。
【実施例】
【0050】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0051】
製造例1(酸変性ポリオレフィン)
3LのSUS製オートクレーブ反応缶中に、メタロセン触媒を用いて製造されたプロピレン−エチレン共重合体(プロピレン:エチレン=93:7 モル比、融点75℃、180℃における溶融粘度:1500mPa・s)750g、無水マレイン酸90g、ジクミルパーオキサイド15g、トルエン1100gを入れ密閉した。オートクレーブ中を窒素で置換した後、加温して缶内温度140℃で5時間反応した。反応液を110℃に冷却し、メチルエチルケトン(以下、「MEK」ともいう)3500gの入った10LのSUS製容器中に入れ、反応液から樹脂を析出させた後に、固液分離を行い、更に固液分離した樹脂を1000gのMEKに入れ、再度固液分離をする洗浄を3回繰り返した後に、樹脂を乾燥した。得られた無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体の酸価は26KOHmg/g、重量平均分子量は34000であった。
【0052】
製造例2(酸変性ポリオレフィン)
製造例1において、無水マレイン酸量を23gに変更した以外は製造例1と同じ操作を行った。得られた無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体の酸価は11 KOHmg/g、重量平均分子量は40000であった。
【0053】
製造例3(酸変性ポリオレフィン)
製造例1において、ポリオレフィン樹脂をメタロセン触媒を用いて合成されたプロピレン−1−ブテン共重合体(プロピレン:1−ブテン=78:22 モル比、融点85℃、230℃におけるMFR:7g/10分)に変更した以外は製造例1と同じ操作を行った。得られた無水マレイン酸変性プロピレン−1−ブテン共重合体の酸価は18 KOHmg/g、重量平均分子量は68000であった。
【0054】
製造例4(酸変性ポリオレフィン)
製造例1において、アイソタクチックポリプロピレン(180℃における溶融粘度:1500mPa・s)に変更した以外は製造例1と同じ操作を行った。
【0055】
製造例5(酸変性ポリオレフィン)
製造例3において、ジクミルパーオキサイドをt−ブチルパーオキシベンゾエイトに変更し、反応条件を120℃で5時間に変更した以外は製造例3と同じ操作を行った。得られた無水マレイン酸変性プロピレン−1−ブテン共重合体の酸価は23KOHmg/g、重量平均分子量は117000であった。
【0056】
製造例6(酸変性塩素化ポリオレフィン)
5Lのグラスライニング製反応缶中に、製造例4により得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレン500g、クロロホルム8500gを入れ密閉し、反応缶中の液を攪拌して分散しながら反応缶内を加温し、缶内温度120℃で1時間溶解した。缶内温度を110℃まで冷却した後に、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートを2.5g添加し、速やかに塩素を120g/時間の速度で導入し、缶内温度を100〜120℃で保持した。反応缶内の圧力は上限0.4MPaとして、圧力が上限に達した時には、系内のガスを系外の水および水酸化ナトリウム水溶液のトラップに排出した。塩素導入開始から2時間50分経過時の塩素348g導入した段階において塩素の導入を止め、10分間液の攪拌を続けた後に、缶内温度60℃まで冷却し、缶内温度35〜60℃、減圧度0.05〜0.08MPaの条件下でクロロホルム7000を留去した。得られた反応液に安定剤としてp−t−ブチルフェニルグリシジルエーテルを18g添加し、乾燥することにより、無水マレイン酸変性塩素化ポリプロピレンを得た。得られた無水マレイン酸変性塩素化ポリプロピレンの塩素含有率は23重量%、酸価は16KOHmg/g、重量平均分子量は42000であった。
【0057】
製造例7(酸変性塩素化ポリオレフィン)
製造例6において、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを製造例2により得られた樹脂に変更し、塩素導入量を237gに変更した以外は製造例6と同じ操作を行った。得られた無水マレイン酸変性塩素化ポリプロピレンの塩素含有率は17重量%、酸価は10KOHmg/g、重量平均分子量は38000であった。
【0058】
製造例8(酸変性塩素化ポリオレフィン)
製造例6において、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを製造例1により得られた樹脂に変更し、塩素導入量を186gに変更した以外は製造例1と同じ操作を行った。得られた無水マレイン酸変性塩素化プロピレンエチレン共重合体の塩素含有率は14重量%、酸価は19KOHmg/g、重量平均分子量は75000であった。
【0059】
製造例9(酸変性塩素化ポリオレフィン)
製造例6において、塩素導入量を389gに変更した以外は製造例6と同じ操作を行った。得られた無水マレイン酸変性塩素化プロピレンエチレン共重合体の塩素含有率は25重量%、酸価は22KOHmg/g、重量平均分子量は118000であった。
【0060】
製造例10(酸変性ポリオレフィン水性分散体)
3Lの攪拌機付きフラスコに製造例1により得られた無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体350g、テトラヒドロフラン585g、およびプロピレングリコールモノプロピルエーテル65gを入れ、65℃に加熱して溶解させた。次いで、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの50重量%水溶液22gを添加し、温度を65℃に保ちながら、60℃のイオン交換水を少量ずつ滴下した。1時間かけてイオン交換水1000gを滴下した後に、絶対圧力93kPaでテトラヒドロフランとプロピレングリコールモノプロピルエーテルを1.5時間で留去した。テトラヒドロフランとプロピレングリコールモノプロピルエーテルの合計残留量は無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体に対して、1重量%以下であった。次いで、固形分が30重量%になるようイオン交換水を添加し、乳白色の変性ポリオレフィン水性分散体を得た。得られた変性ポリオレフィン水性分散体の組成は、無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体:2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール:水=30:1:69(重量比)であり、体積基準の平均粒子径は50nmであった。
【0061】
製造例11(酸変性ポリオレフィン水性分散体)
3Lの攪拌機付きフラスコに製造例2により得られた無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体350g、テトラヒドロフラン520g、およびプロピレングリコールモノプロピルエーテル130g、イオン交換水1000gを入れ、65℃に加熱して溶解させた。次いで、2−ジメチルアミノエタノールの50重量%水溶液16gを添加し、温度を65℃で1時間保持した。その後、絶対圧力93kPaでテトラヒドロフランとプロピレングリコールモノプロピルエーテルを1.5時間で留去した。テトラヒドロフランとプロピレングリコールモノプロピルエーテル合計残留量は無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体に対して、1重量%以下であった。次いで、固形分が30重量%になるようイオン交換水を添加し、乳白色の変性ポリオレフィン水性分散体を得た。得られた変性ポリオレフィン水性分散体の組成は、無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体:2−ジメチルアミノエタノール:水=30:1:69(重量比)であり、体積基準の平均粒子径は140nmであった。
【0062】
製造例12(酸変性ポリオレフィン水性分散体)
製造例5において、無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体を製造例3により得られたプロピレン−1−ブテン共重合体に変更し、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの50重量%水溶液量を15gに変更した以外は製造例5と同じ操作を行った。得られた変性ポリオレフィン水性分散体の体積基準の平均粒子径は90nmであった。
【0063】
製造例13(酸変性ポリオレフィン水性分散体)
製造例5において、無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体を製造例4により得られたプロピレン−1−ブテン共重合体に変更し、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの50重量%水溶液量を19gに変更した以外は製造例5と同じ操作を行った。得られた変性ポリオレフィン水性分散体の体積基準の平均粒子径は160nmであった。
【0064】
製造例14(酸変性塩素化ポリオレフィン水性分散体)
3Lの攪拌機付きフラスコに製造例6により得られた無水マレイン酸変性塩素化ポリプロピレン350g、テトラヒドロフラン520g、およびプロピレングリコールモノプロピルエーテル130gを入れ、65℃に加熱して溶解させた。次いで、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの50重量%水溶液13gを添加し、温度を65℃に保ちながら、60℃のイオン交換水を少量ずつ滴下した。1時間かけてイオン交換水1000gを滴下した後に、絶対圧力93kPaでテトラヒドロフランとプロピレングリコールモノプロピルエーテルを1.5時間で留去した。テトラヒドロフランとプロピレングリコールモノプロピルエーテル合計残留量は無水マレイン酸変性塩素化プロピレンに対して、1重量%以下であった。次いで、固形分が30重量%になるようイオン交換水を添加し、乳白色の変性ポリオレフィン水性分散体を得た。得られた変性ポリオレフィン水性分散体の組成は、無水マレイン酸変性塩素化ポリプロピレン:2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール:水=30:1:69(重量比)であり、体積基準の平均粒子径は70nmであった。
【0065】
製造例15(酸変性塩素化ポリオレフィン水性分散体)
3Lの攪拌機付きフラスコに製造例7により得られた無水マレイン酸変性塩素化ポリプロピレン350g、テトラヒドロフラン520g、およびプロピレングリコールモノプロピルエーテル130g、イオン交換水1000gを入れ、65℃に加熱して溶解させた。次いで、2−ジメチルアミノエタノールの50重量%水溶液17gを添加し、温度を65℃で1時間保持した。その後、絶対圧力93kPaでテトラヒドロフランとプロピレングリコールモノプロピルエーテルを1.5時間で留去した。テトラヒドロフランとプロピレングリコールモノプロピルエーテル合計残留量は無水マレイン酸変性塩素化プロピレンに対して、1重量%以下であった。次いで、固形分が30重量%になるようイオン交換水を添加し、乳白色の変性ポリオレフィン水性分散体を得た。得られた変性ポリオレフィン水性分散体の組成は、無水マレイン酸変性塩素化ポリプロピレン:2−ジメチルアミノエタノール:水=30:1:69(重量比)であり、体積基準の平均粒子径は180nmであった。
【0066】
製造例16(酸変性塩素化ポリオレフィン水性分散体)
製造例14において、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを製造例8により得られた樹脂に変更し、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの50重量%水溶液量を15gに変更した以外は製造例14と同じ操作を行った。得られた変性ポリオレフィン水性分散体の体積基準の平均粒子径は90nmであった。
【0067】
製造例17(酸変性塩素化ポリオレフィン水性分散体)
製造例14において、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを製造例9により得られた樹脂に変更し、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの50重量%水溶液量を21gに変更した以外は製造例14と同じ操作を行った。得られた変性ポリオレフィン水性分散体の体積基準の平均粒子径は130nmであった。
【0068】
実施例1(酸変性ポリオレフィン水性分散組成物)
製造例5で得られた3Lの攪拌機付きフラスコ内の無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体水性分散体に、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(HLB15.4)の30重量%水溶液11.7g(無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体樹脂に対し1重量%)を添加し、混合することにより変性ポリオレフィン水性分散組成物を得た。得られた変性ポリオレフィン水性分散組成物の体積基準の平均粒子径は50nmであった。
【0069】
実施例2〜12(酸変性ポリオレフィン水性分散組成物)
実施例1において、製造例5〜8の無水マレイン酸変性プロピレン−α−オレフィン共重合体水性分散体を使用し、界面活性剤の種類と量を変更した表1の配合により、それぞれ変性ポリオレフィン水性分散組成物を得た。
【0070】
比較例1〜3(酸変性ポリオレフィン水性分散組成物)
実施例1において、製造例5の無水マレイン酸変性プロピレン−α−オレフィン共重合体水性分散体を使用し、界面活性剤の種類と量を変更した表1の配合により、それぞれ変性ポリオレフィン水性分散組成物を得た。
【0071】
比較例4(酸変性ポリオレフィン水性分散組成物)
3Lの攪拌機付きフラスコに製造例1により得られた無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体350g、テトラヒドロフラン520g、プロピレングリコールモノプロピルエーテル130g、およびポリオキシエチレンラウリルエーテル(HLB15.4)10.5gを入れ、65℃に加熱して溶解させた。次いで、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの50重量%水溶液13gを添加し、温度を65℃に保ちながら、60℃のイオン交換水を少量ずつ滴下した。1時間かけてイオン交換水1000gを滴下した後に、絶対圧力93kPaでテトラヒドロフランとプロピレングリコールモノプロピルエーテルを留去したが、泡立ちが激しいために、泡立ちを抑え、圧力をコントロール(93kPa〜常圧)しながら行った。そのため、所要時間は7.5時間掛かり、製造例10〜13の5倍の時間を要した。テトラヒドロフランとプロピレングリコールモノプロピルエーテル合計残留量は無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体に対して、1重量%以下であった。次いで、固形分が30重量%になるようイオン交換水を添加し、変性ポリオレフィン水性分散組成物を得た。得られた乳白色の変性ポリオレフィン水性分散組成物の体積基準の平均粒子径は60nmであった。
【0072】
比較例5(酸変性ポリオレフィン水性分散組成物)
オキシエチレンラウリルエーテル(HLB15.4)の配合量を変更した以外は比較例4と同じ操作を行った。溶剤留去の所要時間は6時間であり、得られた変性ポリオレフィン水性分散組成物の体積基準の平均粒子径は60nmであった。
【0073】
実施例13(酸変性塩素化ポリオレフィン水性分散組成物)
製造例14で得られた3Lの攪拌機付きフラスコ内の無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィン水性分散体に、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(HLB16.1)の30重量%水溶液11.7g(無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂に対し1重量%)を添加し、混合することにより変性ポリオレフィン水性分散組成物を得た。得られた変性ポリオレフィン水性分散組成物の体積基準の平均粒子径は70nmであった。
【0074】
実施例14〜24(酸変性塩素化ポリオレフィン水性分散組成物)
実施例13において、製造例14〜17の無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィン水性分散体を使用し、界面活性剤の種類と量を変更した表2の配合により、それぞれ変性ポリオレフィン水性分散組成物を得た。
【0075】
比較例1〜3(酸変性塩素化ポリオレフィン水性分散組成物)
実施例13において、製造例14の無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィン水性分散物を使用し、界面活性剤の種類と量を変更した表2の配合により、それぞれ変性ポリオレフィン水性分散組成物を得た。
【0076】
比較例9(酸変性塩素化ポリオレフィン水性分散組成物)
3Lの攪拌機付きフラスコに製造例5により得られた無水マレイン酸変性塩素化ポリプロピレン350g、テトラヒドロフラン520g、プロピレングリコールモノプロピルエーテル130g、およびポリオキシエチレンラウリルエーテル(HLB16.1)15.75gを入れ、65℃に加熱して溶解させた。次いで、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの50重量%水溶液13gを添加し、温度を65℃に保ちながら、60℃のイオン交換水を少量ずつ滴下した。1時間かけてイオン交換水1000gを滴下した後に、絶対圧力93kPaでテトラヒドロフランとプロピレングリコールモノプロピルエーテルを留去したが、泡立ちが激しいために、泡立ちを抑え、圧力をコントロールしながら行った。そのため、所要時間は7.5時間掛かり、製造例14〜17の5倍の時間を要した。テトラヒドロフランとプロピレングリコールモノプロピルエーテル合計残留量は無水マレイン酸変性塩素化ポリプロピレンに対して、1重量%以下であった。次いで、固形分が30重量%になるようイオン交換水を添加し変性ポリオレフィン水性分散組成物を得た。得られた乳白色の変性ポリオレフィン水性分散組成物の体積基準の平均粒子径は60nmであった。
【0077】
比較例10(酸変性塩素化ポリオレフィン水性分散組成物)
オキシエチレンラウリルエーテル(HLB16.1)の配合量を変更した以外は比較例9と同じ操作を行った。溶剤留去の所要時間は6時間であり、得られた変性ポリオレフィン水性分散組成物の体積基準の平均粒子径は60nmであった。
【0078】
試験方法
【0079】
塗膜の密着性試験
基材として、プライムポリマー製SP-280成型板(アイソタクチックポリプロピレンにエチレン−プロピレン−ジエンゴム成分が配合されたもの)およびHimont Basell製Profax SB823成型板(アイソタクチックポリプロピレン)を使用する。変性ポリオレフィン水性分散組成物を基材に乾燥後の塗布量が約5μmとなるようバーコーターでコーティングし、80℃で3分間乾燥し、続けて関西ペイント製ウレタン塗料レタン(登録商標)PG80を乾燥後の塗布量が約25μmとなるようエアスプレーガンで塗装し、80℃30分間乾燥する。塗装板を25℃で1日保管した後に、塗装面にカッターナイフで切れ目を入れて、1mm間隔で100個の碁盤目を作り、その上にニチバン製粘着テープLP-18を密着させて180°の方向に10回引き剥がした。10回剥離しても変化のなかった場合を10点とし、1回目で剥がれた場合を0点とした。好ましい密着性は5以上であり、より好ましくは7以上である。
【0080】
塗膜の耐水性試験
密着性試験と同様の処理を行った塗装板を40℃の温水に10日間浸漬した後に、塗装面の水分を拭き取り、密着性試験と同様の剥離試験を行った。好ましい耐水性は5以上であり、より好ましくは7以上である。
【0081】
保存安定性試験
ガラス瓶で密封した酸変性ポリオレフィン水性分散物を50℃と−5℃の雰囲気下で保管し、流動性がなくなり固化するまでの期間を最長1年まで調べた。50℃での好ましい保存安定性は6ヶ月以上であり、より好ましくは1年である。−5℃での好ましい保存安定性は3カ月以上であり、より好ましくは6ヶ月以上である。
【0082】
濡れ性
前記、塗膜の密着性試験で、酸変性ポリオレフィン水性分散組成物を基材に塗布した際の濡れ性を目視で評価した。濡れ性良好な場合は評価「○」とし、濡れ性不良な場合は「×」とした。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係る変性ポリオレフィン水性分散組成物の製造方法によれば、特定の工程を採用しているため、脱有機溶剤時の発泡を抑え工程時間を大幅に短縮することができる。さらに、脱有機溶剤後に界面活性剤を配合するため、変性ポリオレフィン水性分散組成物の用途に応じて、界面活性剤の種類、配合量を適宜選択することができ、密着性および耐水性良好な変性ポリオレフィン水性分散組成物を得ることができ、自動車等のポリオレフィン部品材料、ポリオレフィンフィルム等に対する塗料、インキ、接着剤等用の水性樹脂組成物として有用である。