【実施例】
【0011】
図1は、本発明に係るロータリ圧縮機の実施例を示す縦断面図であり、
図2は、実施例の第1の圧縮部及び第2の圧縮部の上から見た横断面図である。
【0012】
図1に示すように、ロータリ圧縮機1は、密閉された縦置き円筒状の圧縮機筐体10の下部に配置された圧縮部12と、圧縮機筐体10の上部に配置され、回転軸15を介して圧縮部12を駆動するモータ11と、を備えている。
【0013】
モータ11のステータ111は、円筒状に形成され、圧縮機筐体10の内周面に焼きばめされて固定されている。モータ11のロータ112は、円筒状のステータ111の内部に配置され、モータ11と圧縮部12とを機械的に接続する回転軸15に焼きばめされて固定されている。
【0014】
圧縮部12は、第1の圧縮部12Sと第2の圧縮部12Tとを備えており、第2の圧縮部12Tは、第1の圧縮部12Sの上側に配置されている。
図2に示すように、第1の圧縮部12Sは、環状の第1シリンダ121Sを備えている。第1シリンダ121Sは、環状の外周から張り出した第1側方張出部122Sを備え、第1側方張出部122Sには、第1吸入孔135Sと第1ベーン溝128Sが放射状に設けられている。また、第2の圧縮部12Tは、環状の第2シリンダ121Tを備えている。第2シリンダ121Tは、環状の外周から張り出した第2側方張出部122Tを備え、第2側方張出部122Tには、第2吸入孔135Tと第2ベーン溝128Tが放射状に設けられている。
【0015】
図2に示すように、第1シリンダ121Sには、モータ11の回転軸15と同心に、円形の第1シリンダ内壁123Sが形成されている。第1シリンダ内壁123S内には、第1シリンダ121Sの内径よりも小さい外径の第1環状ピストン125Sが配置され、第1シリンダ内壁123Sと第1環状ピストン125Sとの間に、冷媒を吸入し圧縮して吐出する第1シリンダ室130Sが形成される。第2シリンダ121Tには、モータ11の回転軸15と同心に、円形の第2シリンダ内壁123Tが形成されている。第2シリンダ内壁123T内には、第2シリンダ121Tの内径よりも小さい外径の第2環状ピストン125Tが配置され、第2シリンダ内壁123Tと第2環状ピストン125Tとの間に、冷媒を吸入し圧縮して吐出する第2シリンダ室130Tが形成される。
【0016】
第1シリンダ121Sには、第1シリンダ内壁123Sから径方向に、シリンダ高さ全域に亘る第1ベーン溝128Sが形成され、第1ベーン溝128S内に、平板状の第1ベーン127Sが、摺動自在に嵌合されている。第2シリンダ121Tには、第2シリンダ内壁123Tから径方向に、シリンダ高さ全域に亘る第2ベーン溝128Tが形成され、第2ベーン溝128T内に、平板状の第2ベーン127Tが、摺動自在に嵌合されている。
【0017】
図2に示すように、第1ベーン溝128Sの径方向外側には、第1側方張出部122Sの外周部から第1ベーン溝128Sに連通するように第1スプリング穴124Sが形成されている。第1スプリング穴124Sには、第1ベーン127Sの背面を押圧する図示しない第1ベーンスプリングが挿入されている。第2ベーン溝128Tの径方向外側には、第2側方張出部122Tの外周部から第2ベーン溝128Tに連通するように第2スプリング穴124Tが形成されている。第2スプリング穴124Tには、第2ベーン127Tの背面を押圧する図示しない第2ベーンスプリングが挿入されている。
【0018】
ロータリ圧縮機1の起動時は、この第1ベーンスプリングの反発力により、第1ベーン127Sが、第1ベーン溝128S内から第1シリンダ室130S内に突出し、その先端が、第1環状ピストン125Sの外周面に当接し、第1ベーン127Sにより、第1シリンダ室130Sが、第1吸入室131Sと、第1圧縮室133Sとに区画される。また、同様に、第2ベーンスプリングの反発力により、第2ベーン127Tが、第2ベーン溝128T内から第2シリンダ室130T内に突出し、その先端が、第2環状ピストン125Tの外周面に当接し、第2ベーン127Tにより、第2シリンダ室130Tが、第2吸入室131Tと、第2圧縮室133Tとに区画される。
【0019】
また、第1シリンダ121Sには、第1ベーン溝128Sの径方向外側と圧縮機筐体10内とを開口部R(
図1参照)で連通して圧縮機筐体10内の圧縮された冷媒を導入し、第1ベーン127Sに冷媒の圧力により背圧をかける第1圧力導入路129Sが形成されている。なお、圧縮機筐体10内の圧縮された冷媒は、第1スプリング穴124Sからも導入される。また、第2シリンダ121Tには、第2ベーン溝128Tの径方向外側と圧縮機筐体10内とを開口部R(
図1参照)で連通して圧縮機筐体10内の圧縮された冷媒を導入し、第2ベーン127Tに冷媒の圧力により背圧をかける第2圧力導入路129Tが形成されている。なお、圧縮機筐体10内の圧縮された冷媒は、第2スプリング穴124Tからも導入される。
【0020】
第1シリンダ121Sの第1側方張出部122Sには、第1吸入室131Sに外部から冷媒を吸入するために、第1吸入室131Sと外部とを連通させる第1吸入孔135Sが設けられている。第2シリンダ121Tの第2側方張出部122Tには、第2吸入室131Tに外部から冷媒を吸入するために、第2吸入室131Tと外部とを連通させる第2吸入孔135Tが設けられている。第1吸入孔135S及び第1吸入孔135Sの断面は円形である。
【0021】
また、
図1に示すように、第1シリンダ121Sと第2シリンダ121Tの間には、中間仕切板140が配置され、第1シリンダ121Sの第1シリンダ室130S(
図2参照)と第2シリンダ121Tの第2シリンダ室130T(
図2参照)とを仕切っている。中間仕切板140は、第1シリンダ121Sの上端部と第2シリンダ121Tの下端部を閉塞している。
【0022】
第1シリンダ121Sの下端部には、下端板160Sが配置され、第1シリンダ121Sの第1シリンダ室130Sを閉塞している。また、第2シリンダ121Tの上端部には、上端板160Tが配置され、第2シリンダ121Tの第2シリンダ室130Tを閉塞している。下端板160Sは、第1シリンダ121Sの下端部を閉塞し、上端板160Tは、第2シリンダ121Tの上端部を閉塞している。
【0023】
下端板160Sには、副軸受部161Sが形成され、副軸受部161Sに、回転軸15の副軸部151が回転自在に支持されている。上端板160Tには、主軸受部161Tが形成され、主軸受部161Tに、回転軸15の主軸部153が回転自在に支持されている。
【0024】
回転軸15は、互いに180°位相をずらして偏心させた第1偏心部152Sと第2偏心部152Tとを備え、第1偏心部152Sは、第1の圧縮部12Sの第1環状ピストン125Sに回転自在に嵌合し、第2偏心部152Tは、第2の圧縮部12Tの第2環状ピストン125Tに回転自在に嵌合している。
【0025】
回転軸15が回転すると、第1環状ピストン125Sが、第1シリンダ内壁123Sに沿って第1シリンダ121S内を
図2の時計回りに公転し、これに追随して第1ベーン127Sが往復運動する。この第1環状ピストン125S及び第1ベーン127Sの運動により、第1吸入室131S及び第1圧縮室133Sの容積が連続的に変化し、圧縮部12は、連続的に冷媒を吸入し圧縮して吐出する。また、回転軸15が回転すると、第2環状ピストン125Tが、第2シリンダ内壁123Tに沿って第2シリンダ121T内を
図2の時計回りに公転し、これに追随して第2ベーン127Tが往復運動する。この第2環状ピストン125T及び第2ベーン127Tの運動により、第2吸入室131T及び第2圧縮室133Tの容積が連続的に変化し、圧縮部12は、連続的に冷媒を吸入し圧縮して吐出する。
【0026】
図1に示すように、下端板160Sの下側には、下端板カバー170Sが配置され、下端板160Sとの間に下マフラー室180Sを形成している。そして、第1の圧縮部12Sは、下マフラー室180Sに開口している。すなわち、下端板160Sの第1ベーン127S近傍には、第1シリンダ121Sの第1圧縮室133Sと下マフラー室180Sとを連通する第1吐出孔190S(
図2参照)が設けられ、第1吐出孔190Sには、圧縮された冷媒の逆流を防止するリード弁型の第1吐出弁200Sが配置されている。
【0027】
下マフラー室180Sは、環状に形成された1つの室であり、第1の圧縮部12Sの吐出側を、下端板160S、第1シリンダ121S、中間仕切板140、第2シリンダ121T及び上端板160Tを貫通する冷媒通路136(
図2参照)を通して上マフラー室180T内に連通させる連通路の一部である。下マフラー室180Sは、吐出冷媒の圧力脈動を低減させる。また、第1吐出弁200Sに重ねて、第1吐出弁200Sの撓み開弁量を制限するための第1吐出弁押え201Sが、第1吐出弁200Sとともにリベットにより固定されている。第1吐出孔190S、第1吐出弁200S及び第1吐出弁押え201Sは、下端板160Sの第1吐出弁部を構成している。
【0028】
図1に示すように、上端板160Tの上側には、上端板カバー170Tが配置され、上端板160Tとの間に上マフラー室180Tを形成している。上端板160Tの第2ベーン127T近傍には、第2シリンダ121Tの第2圧縮室133Tと上マフラー室180Tとを連通する第2吐出孔190T(
図2参照)が設けられ、第2吐出孔190Tには、圧縮された冷媒の逆流を防止するリード弁型の第2吐出弁200Tが配置されている。また、第2吐出弁200Tに重ねて、第2吐出弁200Tの撓み開弁量を制限するための第2吐出弁押え201Tが、第2吐出弁200Tとともにリベットにより固定されている。上マフラー室180Tは、吐出冷媒の圧力脈動を低減させる。第2吐出孔190T、第2吐出弁200T及び第2吐出弁押え201Tは、上端板160Tの第2吐出弁部を構成している。
【0029】
下マフラーカバー170S、下端板160S、第1シリンダ121S及び中間仕切板140は、下側から挿通されて第2シリンダ121Tに設けられたメネジにネジ込まれた複数の通しボルト175により第2シリンダ121Tに締結される。上マフラーカバー170T及び上端板160Tは、上側から挿通されて第2シリンダ121Tに設けられた前記メネジにネジ込まれた通しボルト(図示せず)により第2シリンダ121Tに締結される。複数の通しボルト175等により一体に締結された下マフラーカバー170S、下端板160S、第1シリンダ121S、中間仕切板140、第2シリンダ121T、上端板160T及び上マフラーカバー170Tは、圧縮部12を構成している。圧縮部12のうち、上端板160Tの外周部が、圧縮機筐体10にスポット溶接により固着され、圧縮部12を圧縮機筐体10に固定している。
【0030】
円筒状の圧縮機筐体10の外周壁には、軸方向に離間して下部から順に、第1貫通孔101及び第2貫通孔102が、夫々第1吸入管104及び第2吸入管105を通すために設けられている。また、圧縮機筐体10の外側部には、独立した円筒状の密閉容器からなるアキュムレータ25が、アキュムホルダー252及びアキュムバンド253により保持されている。
【0031】
アキュムレータ25の天部中心には、冷媒回路の蒸発器に接続するシステム接続管255が接続され、アキュムレータ25の底部に設けられた底部貫通孔257には、一端がアキュムレータ25の内部上方まで延設され、他端が、夫々第1吸入管104及び第2吸入管105の他端に接続される第1低圧連絡管31S及び第2低圧連絡管31Tが固着されている。
【0032】
冷媒回路の低圧冷媒をアキュムレータ25を介して第1の圧縮部12Sに導く第1低圧連絡管31Sは、吸入部としての第1吸入管104を介して第1シリンダ121Sの第1吸入孔135S(
図2参照)に接続されている。また、冷媒回路の低圧冷媒をアキュムレータ25を介して第2の圧縮部12Tに導く第2低圧連絡管31Tは、吸入部としての第2吸入管105を介して第2シリンダ121Tの第2吸入孔135T(
図2参照)に接続されている。すなわち、第1吸入孔135S及び第2吸入孔135Tは、冷媒回路の蒸発器に並列に接続されている。
【0033】
圧縮機筐体10の天部には、冷媒回路と接続し高圧冷媒を冷媒回路の凝縮器側に吐出する吐出部としての吐出管107が接続されている。すなわち、第1吐出孔190S及び第2吐出孔190Tは、冷媒回路の凝縮器に接続されている。
【0034】
圧縮機筐体10内には、およそ第2シリンダ121Tの高さまで潤滑油が封入されている。また、潤滑油は、回転軸15の下部に挿入される図示しないポンプ羽根により、回転軸15の下端部に取付けられた給油パイプ16から吸上げられ、圧縮部12を循環し、摺動部品(第1環状ピストン125S及び第2環状ピストン125T)の潤滑を行なうとともに、圧縮部12の微小隙間のシールをする。
【0035】
次に、
図1〜
図8を参照して、冷媒R32を用いる実施例のロータリ圧縮機1の特徴的な構成について説明する。第1シリンダ室130S及び第2シリンダ室130T内の吸入冷媒の温度上昇Δt[K]は、次の(1)式で表される。
Δt=h・S・Δθ/(m・c)・・・・・(1)
ここで、
h:熱伝達率[W/(mm
2・K)]
S:シリンダ室(130S,130T)の壁面面積[mm
2]
Δθ:壁面温度と冷媒温度の差[K]
m:冷媒質量[g/s]=(シリンダ室容積V[mm
3/rev])×(吸入冷媒密度ρ[g/mm
3])
c:冷媒比熱[J/(g・K)]
【0036】
冷媒R32の吸入冷媒密度ρは、冷媒R410Aの約70%であるが、蒸発エンタルピーは、約140%である。そのため、略同一の排除容積V(シリンダ室容積)が適用可能である。同一の排除容積Vであるので、冷媒R410A用の圧縮部12の寸法を用いることができ、壁面面積Sも同一となる。よって、上記(1)式のΔtは、吸入冷媒密度ρが小さい冷媒R32の方が、冷媒R410Aよりも大きくなり、冷媒R32の方が冷媒R410Aに比べて加熱され易い。このことから、冷媒R32を採用する場合、冷媒加熱を抑制することは、冷媒R410Aを用いる場合に比べ、圧縮効率の向上に有効である。
【0037】
本発明では、シリンダ室(130S,130T)の壁面面積をS、排除容積(シリンダ室容積)をVとすると、S/Vが小さくなるように、圧縮部12S,12Tの寸法を設定することにより、冷媒の加熱を抑制する。
【0038】
実施例のロータリ圧縮機1の一つのシリンダ室(第1シリンダ室130S又は第2シリンダ室130T)の壁面面積Sは、次の(2)式で表される。
S=2Sb+Sc+Sr ・・・・・・・・・・・・・(2)
Sb=(Dc
2−(Dc−2e)
2)π/4 ・・・・(3)
Sc=π・Dc・Hc ・・・・・・・・・・・・・(4)
Sr=π・(Dc−2e)・Hc ・・・・・・・・(5)
ここで、
Sb:シリンダ室の端板(160S,160T)部又は中間仕切板(140)部の面積[mm
2]
Sc:シリンダ(121S,121T)内周壁面積[mm
2]
Sr:環状ピストン(125S,125T)外周壁面積[mm
2]
Dc:シリンダ(121S,121T)内径[mm]
e :偏心部(152S,152T)偏心量[mm]
Hc:シリンダ(121S,121T)高さ[mm]
【0039】
また、ロータリ圧縮機1の一つのシリンダ室(第1シリンダ室130S又は第2シリンダ室130T)の排除容積(シリンダ室容積)V[cc/rev]は、次の(6)式で表される。
V=π・e・(Dc−e)・Hc ・・・・・・・・・(6)
(2)式及び(6)式より、S/Vは、次の(7)式で表される。
S/V=2(e+Hc)/(e・Hc) ・・・・・・(7)
【0040】
S/Vは、排除容積Vが大きいほど小さくなるので、シリンダ室の寸法を評価するには、排除容積Vの影響を除去する必要がある。そこで、S/VにV
1/3を掛けたものをパラメータA[無次元]とする。パラメータAは、次の(8)式で表され、パラメータAが小さいほど冷媒加熱の影響が少ない。
A=(e+Hc)・(Dc−e)
1/3/(e・Hc)
2/3 ・・・(8)
【0041】
次に、特許第4864572号公報には、シリンダ高さHcとシリンダ内径Dcの比率Hc/Dcを小さくすることにより、冷媒リーク量を減らして圧縮効率を向上させることが記載されている。
【0042】
図3は、パラメータAとHc/Dcとの関係を示す図である。
図3に示すように、パラメータAが小さいほど、Hc/Dcが大きくなる傾向がある。
図3に示す実施例1〜3は、ロータリ圧縮機1の、排除容積V、圧縮機筐体10の内径及びシリンダ高さHcを同一とし、偏心部偏心量eを変えたものである。シリンダ高さHc大、シリンダ高さHc小の二つのパターンについて計算した。
【0043】
計算例(Hc大)は、吸入孔135S,135Tの断面積を従来通り確保できるシリンダ高さHcに設定したものである。偏心部偏心量eを大きくするほどシリンダ内径Dcが小さくなりHc/Dcは大きくなってしまう。しかし、パラメータAは小さくすることができる。
【0044】
計算例(Hc小)は、吸入孔135S,135Tの断面積が従来の80%程度となるまでシリンダ高さHcを低く設定したものである。シリンダ高さHcを低く設定した方が、同じパラメータA値の場合、Hc/Dcを小さくすることができ、冷媒リーク量を減らすことができる。この場合、吸入孔135S,135Tの断面積が小さいため、吸入冷媒の圧力損失が増えてしまうが、冷媒R32は、冷媒R410Aよりも密度が低いので、圧力損失の影響は少ない。
【0045】
従来の冷媒R410Aを用いるロータリ圧縮機では、Hc/Dcを小さくすることが圧縮効率向上に有効であるため、Hc/Dcが小さい圧縮部12S,12Tの寸法が選択された結果、パラメータAが小さくなるような圧縮部12S,12Tの寸法となっていない。冷媒加熱の影響が大きい冷媒R32を用いるロータリ圧縮機1では、パラメータAを、従来のロータリ圧縮機の下限値4.1(
図3参照)よりも小さい値とすることにより、従来のロータリ圧縮機よりも圧縮効率を向上させることができる。
【0046】
図4は、パラメータAと副軸部(151)面圧との関係を示す図である。パラメータAが小さい圧縮部12S,12Tの寸法は、偏心部(152S,152T)の偏心量eが大きい。偏心量eを大きくすると、回転軸15と環状ピストン125S,125Tの組立上の都合から副軸部151の径を小さくする必要があり、副軸径を小さくすると副軸面圧Pが大きくなってしまう。それ故、パラメータAには下限値がある。
【0047】
次に、副軸面圧Pの算出方法を説明する。軸荷重F[N]は、次の(9)式で表される。
F=W/(2π・e・N) ・・・・・(9)
ここで、
W:圧縮動力[W]
e:偏心部(152S,152T)の偏心量[mm]
N:回転軸15の回転数[rev/s]
【0048】
また、圧縮動力Wは、次の(10)式で表される。
W=Δh・V・ρ・N ・・・・・・・(10)
ここで、
Δh:吐出エンタルピーと吸入エンタルピーとの差[J/g]
V:排除容積(シリンダ室容積)[cc/rev]
ρ:吸入冷媒密度[g/mm
3]
N:回転軸15の回転数[rev/s]
Δh、ρ、Nは、運転条件で決まる。
【0049】
圧縮部12S,12Tの寸法に関係するパラメータのみ残して、軸負荷F[mm
2/rev]を次の(11)式とした。
F=V/e ・・・・・・・・・・・・(11)
また、副軸部151の面積は、副軸部151の直径Dsの二乗と仮定した。
以上より、副軸面圧Pは、次の(12)式で算出される。
P=V/(e・Ds
2) ・・・・・・(12)
ここで、
V:排除容積(シリンダ室容積)[cc/rev]
e:偏心部(152S,152T)の偏心量[mm]
Ds:副軸部151の直径[mm]
【0050】
従来の経験値によれば、副軸部151の許容最大面圧は、22〜23である。
図4に示すように、計算例(Hc小)は、計算例(Hc大)よりも副軸面圧Pを小さくすることができる。パラメータAを小さくすることができる計算例(Hc小)にて、副軸面圧Pが22になるポイントがパラメータAの下限値の目安となる。なお、後述するように、副軸部151の耐久性を向上させる手段を講じれば、さらにパラメータAを小さくすることが可能である。
【0051】
以上のことから、パラメータAの範囲は、
図4に示すように、3.9<パラメータA<4.1とすることが望ましい。また、吸入孔135S,135Tの断面積を従来通り確保できるシリンダ高さHc(試算例(Hc大))を採用する場合には、パラメータAの範囲は、
図4に示すように、4.0<パラメータA<4.1とすることが望ましい。
【0052】
次に、パラメータAよりも簡単なパラメータとして、パラメータB[無次元]を次の(13)式で定義する。
B=e/V
1/3 ・・・・・・・・・・(13)
ここで、
V:排除容積(シリンダ室容積)[cc/rev]
e:偏心部(152S,152T)の偏心量[mm]
【0053】
図5は、パラメータAとパラメータBとの関係を示す図である。
図5に示すように、パラメータAとパラメータBには相関がある。パラメータAの範囲3.9<パラメータA<4.1に対応する範囲として、パラメータBの範囲を0.215<パラメータB<0.240の範囲としてもよい。
【0054】
図6は、パラメータBと副軸部(151)面圧との関係を示す図である。
図6に示すように、同じパラメータB値であっても、シリンダ高さHcが低い方が、Hcが高い方よりも副軸面圧Pを低くすることができ、信頼性に余裕があり、パラメータB値をより大きくすることが可能となる。以上のように、シリンダ高さHcを低くすることは、冷媒の加熱を抑制することになり、冷媒R32を用いるロータリ圧縮機の圧縮効率向上に有効である。
【0055】
しかしながら、従来、冷媒R32を用いるロータリ圧縮機と冷媒R410Aを用いるロータリ圧縮機とは、同一の排除容積(シリンダ室容積)で略同一の冷凍能力を得ることができるため、同一の圧縮部寸法を採用して部品を共通化しており、冷媒R32専用として特に有効な圧縮部寸法とはなっていなかった。
【0056】
前述したように、冷媒R32の吸入冷媒密度は、冷媒R41Aの約70%である。従って、冷媒R32を用いる場合、シリンダ121S、121Tの吸入孔135S,135Tの断面積(吸入路面積)を冷媒R410A用の断面積よりも小さくしても、吸入冷媒の圧力損失を増大させることはない。
【0057】
吸入孔135S,135Tは、シリンダ121S,121Tの側部に設けられており、シリンダ高さHcは、吸入管104,105を取付けられる高さが確保されている。吸入孔135S,135T部分の肉厚は、強度上2〜4mm以上を確保する必要があるため、シリンダ高さHcは、次の(14)式を満足する必要がある。
シリンダ高さHc≧吸入孔径Dk+2×(2〜4) ・・・・・(14)
(14)式より、吸入孔径Dkを小さくすることにより、シリンダ高さHcを低くすることができる。
【0058】
特開2010−121481号公報には、シリンダ高さHcを低くしても吸入路面積を確保することができ、冷媒の吸入圧力損失を低減させる技術として、吸入孔135S,135Tの断面形状を、周方向に長い長孔とすることが記載されている。しかしながら、吸入孔135S,135Tの断面形状を長孔にすると、アキュムレータ25と吸入孔135S,135Tとを接続する吸入管104,105及び低圧連絡管31S,31Tの断面形状も長孔にする必要がある。
【0059】
吸入孔135S,135Tは、吸入管104,105を圧入することによりシールされるが、長孔形状は、高精度に形成するのが難しく、シールが不十分となり、圧縮機筐体10内の高圧冷媒が圧入シール部分から漏れて圧縮効率を低下させてしまう。よって、本願発明では、吸入孔135S,135Tの断面形状を円形に形成するものとする。
【0060】
吸入冷媒の圧力損失は、一般的に、冷媒の密度に比例し、吸入流速の二乗に比例する。吸入流速は、1シリンダ当たりの排除容積(シリンダ室容積)を吸入路面積(吸入孔径の二乗に比例)で除したものであるから、吸入圧力損失を、次の(15)式のパラメータCで表す。
C=β・V
2/Dk
4 ・・・・・(15)
ここで、
β:吸入冷媒密度率(冷媒R410Aを100、冷媒R32を70とする)[無次元]
V:排除容積(シリンダ室容積)[cc/rev]
Dk:吸入孔径[mm]
【0061】
図7は、冷媒R410A用ロータリ圧縮機の排除容積Vと吸入圧力損失C(パラメータC)との関係を示す図である。
図7に示すように、冷媒R410A用ロータリ圧縮機では、吸入圧力損失Cを2.0以下に抑えるように排除容積V及び吸入孔径Dkを設定している。なお、排除容積Vが60cc以上のものでは、吸入圧力損失Cが大きくなっている。これは、大きな排除容積Vに見合う吸入孔径Dk(吸入管径、低圧連絡管径)にすると、管径が太くなりすぎてしまい、耐圧強度に余裕がなくなり、また、管の入手性、組立性も悪くなるなどの理由から細い径の管を用いているためである。
【0062】
パラメータCが1.5以下であれば、圧力損失が少ないと言える。パラメータCが1.0以下では、圧力損失は少ないが、シリンダ高さHcを低くできる余裕があるにもかかわらず、低くなっていないと言える。冷媒R32用のロータリ圧縮機であれば、冷媒の加熱を抑制するために、シリンダ高さHcを低くすべきである。
【0063】
以上のことから、冷媒R32専用のロータリ圧縮機では、吸入圧力損失を表すパラメータCを、1.0〜1.5の範囲にすることにより、圧縮効率の向上を図ることができる。なお、シリンダ高さHc[mm]は、吸入孔径をDk[mm]とするとき、次の(16)式を満たす必要がある。
(Dk+4)≦Hc≦(Dk+8) ・・・・・(16)
【0064】
図8は、冷媒R32を用いる2シリンダ式のロータリ圧縮機1の圧縮部12S,12Tの寸法の実施例1〜3を示す図表である。実施例1〜3において、排除容積Vは14.5[cc/rev]、圧縮機筐体10の内径はφ112mmで固定した。
【0065】
図8に示すように、実施例1及び2は、冷媒410Aを用いる場合、吸入圧力損失を示すパラメータCが1.5を超えており、吸入圧力損失の増大が懸念される。しかしながら、冷媒R32を用いる場合、パラメータCは、1.0から1.5の範囲内に入っており、吸入圧力損失を抑えながら、シリンダ高さHcを低くしている。冷媒加熱及び吸入圧力損失を抑制することができるので、高効率なロータリ圧縮機となる。
【0066】
実施例3は、冷媒R410Aと冷媒R32で同じ圧縮部寸法を用いることを想定したものである。冷媒R410Aを用いた場合でも、吸入圧力損失を示すパラメータCを1.5以下に抑えることができ、吸入圧力損失が少ない。しかしながら、冷媒R32を用いる場合には、パラメータCが1.0を下回っており、シリンダ高さHcを低くする余地がある。
【0067】
なお、本発明は、単シリンダ式ロータリ圧縮機及び2段圧縮式ロータリ圧縮機に適用することができる。本発明は、シリンダ121S,121Tを軸方向に貫通する穴などを設けずに、圧縮部12S,12Tの寸法を適切に設定することにより、シリンダ121S,121T及び端板160S,160Tから圧縮部12S,12T内の冷媒に熱が伝わるのを抑制すると共に、コストアップを抑えることができる。
【0068】
以上、実施例を説明したが、前述した内容により実施例が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、実施例の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。