特許第6011649号(P6011649)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011649
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】ヒートシンク
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20161006BHJP
【FI】
   H01L23/36 Z
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-13854(P2015-13854)
(22)【出願日】2015年1月28日
(65)【公開番号】特開2016-139708(P2016-139708A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2015年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 光男
【審査官】 豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−340284(JP,A)
【文献】 特開2003−152370(JP,A)
【文献】 特開2004−153218(JP,A)
【文献】 特開2011−100672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/34−23/473
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台に立設された複数の冷却フィンを有するヒートシンクであって、
複数の前記冷却フィンに連架して設けられた少なくとも一つの押出部を備え、
前記押出部は、前記基台平面とほぼ平行に設けられた押出座面と、前記基台平面と前記押
出座面との間に形成される壁部を有する
ことを特徴とするヒートシンク。
【請求項2】
前記壁部は、前記押出部が設けられた冷却フィンの側面にはみ出すことなく形成されてい
ることを特徴とする請求項1に記載のヒートシンク。
【請求項3】
前記押出座面は、前記冷却フィンの高さよりも低い高さに位置していることを特徴とする
請求項1または2に記載のヒートシンク。
【請求項4】
前記押出部は、特定の前記冷却フィンの間に複数個設けられていることを特徴とする請求
項1〜3のいずれか一項に記載のヒートシンク。
【請求項5】
前記押出部に接する前記冷却フィンは、上方を切欠いた切欠き部を備え、
この切欠き部は、前記押出座面より上方に向けて広がる末広がり形で形成されていること
を特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のヒートシンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温に発熱する電子部品を冷却する機能を持つヒートシンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
発熱する電子部品を冷却するためのヒートシンクは、コンピューターや電源などに広く用いられており、このようなヒートシンクはアルミニウム合金を用いたダイカストによって形成されている。具体的には、鋳造機を使用してダイカスト用金型のキャビティ内に溶解させたアルミニウム合金を射出させ、金型内で冷却・凝固させたヒートシンクを金型から離型させて取り出している。
【0003】
ダイカスト鋳造において金型からヒートシンクを離型させる手段として、金型に内蔵されたイジェクターピンにて被成形体を押し出す方法が行われている。その場合、イジェクターピンに押圧された痕跡の部分にはバリが形成されるため、鋳造後の工程でバリ除去作業が必要となるが、その作業を容易するために、冷却フィンの上面とほぼ同一高さで、かつ、フィン形状の幅の中心線の位置に押圧のためのボスを設置させていた。(下記特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−340284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1のような従来のヒートシンクは、図6に示すように、冷却フィンの先端部であって幅方向の中心位置に押圧されるボスを設置していたが、イジェクターピン径が大きくなると、冷却フィンのボス部分で隣り合うフィンとの隙間が狭くなり、金型強度の低下による金型破損が生じやすくなる問題がある。そのため、直径の小さいイジェクターピンを選定せざるを得ないが、金型からヒートシンクを離型するために必要な押出力に対して、小径ピンは1本当たりの面圧が大きくなることから、座屈荷重によるピンの折れや曲がりの発生が懸念される。そのため、あらかじめピンの本数を多く配置させる必要がある。しかし、押出ピン跡のバリ取り箇所が多くなることから、作業工数が増加するとともに、小径のイジェクターピン使用によるピンの折れや曲がりによる製造トラブルが発生する可能性が高くなり、その結果全体として製造コストが高くなるという問題があった。
【0006】
そこで本発明の目的は、冷却フィンの放熱性を確保すると共に、座屈強度のある太径のイジェクターピンが配置できる十分なボスの押出座面を確保して、成形後のバリ取り仕上げ作業を容易にし、金型からの離型が容易でイジェクターピンの折れや曲がりによる製造トラブルを低減させることが可能なヒートシンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のヒートシンクは、基台に立設された複数の冷却フィンを有し、複数の冷却フィンに連架して設けられた少なくとも一つの押出部を備え、押出部は基台平面とほぼ平行に設けられた押出座面と、基台平面と押出座面との間に形成された壁部を有する。
【0008】
この構成によれば、太径のイジェクターピンが配置できるに足りる十分な押出座面領域が確保できるため、金型からの成形品を離型する際にイジェクターピン1本当たりにかかる単位面積当たりの押出力を軽減することが可能となり、押出力そのものを高めることができる。よって、結果的に小径ピンを使用する場合に比べて配置本数を減らすことが可能となり、成形後のバリ取り箇所が減り、作業コストを低減することが出来る。
【0009】
本発明の好ましい実施形態において、壁部は、押出部が設けられた冷却フィンの側面にはみ出すことなく形成されている。
【0010】
この構成によれば、隣り合う冷却フィンの隙間の空気の流動を阻害することがなく、ヒートシンクの冷却性能を損なうことが防止出来る。
【0011】
本発明の好ましい実施形態において、押出座面は、冷却フィンの高さよりも低い高さに位置している。
【0012】
この構成によれば、押出部の押出座面高さを低くさせることによって、押出座面上方の空気の流路を確保することができるため、冷却フィンの間を通り抜ける空気のすべてを阻害することがない。よって、空気の流動性の損失を最小限に抑えることができ、ヒートシンクの冷却性能を更に向上することができる。
【0013】
本発明の好ましい実施形態において、押出部は、特定の冷却フィンの間に複数個設けられている。
【0014】
この構成によれば、空気の流動性の損失を低く抑えることができるので、ヒートシンクの冷却性能を良好に保つことができる。
【0015】
本発明の好ましい実施形態において、押出部に接する冷却フィンは、上方を切欠いた切欠き部を備え、切欠き部は、押出座面より上方に向けて広がる末広がり形で形成されている。
【0016】
この構成によれば、金型からヒートシンクを離形する際の抵抗を小さくすることができるので、ダイカスト鋳造時の湯流れ性や金型からの離型性を向上させることができる。
【0017】
本発明の好ましい実施形態において、壁部は、前記複数個設けられている押出部間に備えられた内壁部を有し、この内壁部は前記押出座面から前記基台平面に向かって傾斜していることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、金型からヒートシンクを離型する際の抵抗を更に小さくすることができるので、ダイカスト鋳造成型時の変形を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の好ましい実施の形態にかかるヒートシンクの構造を示す略斜視図である。
図2図2は、図1のX-X方向に沿った略断面図である。
図3図3は、図1のY-Y方向に沿った略断面図である。
図4図4は、本発明の実施例を示す放熱装置であり、(a)は略斜視図で、(b)は吸入側から見た側面図である。
図5図5は、フィン間に冷却風を通過させた時の圧力特性を示し、(a)は圧力損失特性図で、(b)は損失改善率の特性図である。
図6図6は、従来のヒートシンクの構造を示す図であって、(a)は略斜視図で、(b)は(a)のX-X方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに以下に記載した構成要素は、適宜組み合わせることができる。
【0021】
図1は、本発明の好ましい実施の形態にかかるヒートシンクの構造を示す略斜視図である。また、図2は、図1のX-X方向に沿った略断面図であり、図3は、図1のY-Y方向に沿った略断面図である。
【0022】
図1ないし図3に示されるように、このヒートシンク100は、基台101と、基台101上に立設された複数の冷却フィン102と、基台101上における前記冷却フィン102が設けられている領域内の所定の位置に設けられた複数の押出部103とを備えており、一体的に成型されている。
【0023】
基台101は、略板状である。また、基台101の冷却フィン102が設けられている面と対向する面上には、発熱部品等が搭載された基板等が配置される。発熱部品から発せられた熱は、基台101を介して冷却フィン102へと伝わり放熱される。
【0024】
複数の冷却フィン102は、基台101の一端側から他端側に向かって延びており、ほぼ平行に、かつほぼ等間隔に形成されている。
【0025】
押出部103は、2枚の冷却フィン102に連架した押出座面104と、この押出座面104から基台101に向かって形成されている壁部107を備えている。押出座面104は、平面視において外形が矩形形状であり、基台101平面とほぼ平行な面となっている。また、本実施例では、押出座面104のイジェクターピンが当接する箇所に、押出凹部106が形成されている。イジェクターピンの先端部外形が円形であるため、押出凹部106もこの形状に合わせて円形となっている。
【0026】
押出部103は、略矩形で形成された押出座面104の各辺から基台101に向かって形成される壁部107を有する。壁部107は、本実施例のように押出座面104が矩形の場合、4つの壁部107が形成される。具体的には、4つの壁部107は、冷却フィン102が延びる方向と略垂直方向に形成される外壁部107a、内壁部107cと、冷却フィン102が延びる方向と略並行に形成される側壁部107b、107dである。この壁部107の内、側壁部107b、107dは、冷却フィン102の側面よりはみ出すことなく形成されている。これにより、冷却フィンの間隔の制約を受けることなく、太径のイジェクターピンが配置できる十分な押出座面の領域が確保できるため、金型からの成形品を離型する際にイジェクターピン1本当たりにかかる単位面積当たりの押出力を軽減することが可能となり、押出力そのものを高めることができる。よって、結果的に小径ピンを使用する場合に比べて配置本数を減らすことが可能となる。さらに、冷却フィン102に、はみ出すことがないため、隣り合う冷却フィンの隙間の空気の流動を阻害することがなく、ヒートシンクの冷却性能を損なうことがない。
【0027】
なお、より好ましくは、押出部103の側壁部107b、107dは冷却フィン102側面と面一とすることが望ましい。
【0028】
押出部103は、特定の冷却フィン102の間に沿って複数設けられている。つまり、押出部103を複数設ける場合には、ヒートシンク100全体に離散的に設けないように配慮されている。押出部103が設けられている箇所は、少なからず冷却フィン102に沿って通り抜ける空気の流動を阻害させてしまうが、特定の冷却フィン102の間に沿って複数の押出部103を設けることによって、空気の流動性の損失を最小限に抑えることができるため、ヒートシンクの冷却性能を維持することができる。
【0029】
図1に示すY−Y方向の断面形状において、押出部103に接する冷却フィン102は、上方を切欠いた切欠き部108を備えている。この切欠き部108は、前記押出座面104より上方に向けて広がる末広がり形で形成されている。これにより、ダイカスト鋳造時の湯流れ性や金型からの離型性を向上させることができる。
【0030】
Y−Y方向の断面形状において、連続した2つの押出部103に囲まれた内側の内壁部107cは、基台101の表面である基台平面までなだらかな角度に傾斜させて形成されている。これにより、金型からヒートシンク100を離型する際の抵抗を小さくすることができるので、ダイカスト鋳造成型時の変形を抑えることができる。
【0031】
次に、本実施形態のヒートシンク100における押出座面104の高さと空気の通風抵抗(圧力損失)との相関特性について説明する。図4(a)はヒートシンク100の通風抵抗を測定するために空冷放熱装置500を用いた略斜視図である。空冷放熱装置500は、ヒートシンク100を覆うようにして設けられた風路カバー501と、吸入側から冷却風をヒートシンク100に送風するための図示しない送風機と、排出側の冷却風の風圧を測定するための図示しない風圧計測器を備えており、これらによりヒートシンク100の通風抵抗が測定可能となっている。
【0032】
図4(b)は空冷放熱装置500の冷却風の吸入側から見た側面図である。前提条件として、ヒートシンク100の通風抵抗の測定では、最右の冷却フィンを1番フィン、右から2番目の冷却フィンを2番フィンとすると、押出部103は1番フィンと2番フィンの間、8番フィンと9番フィンの間、15番フィンと16番フィンの間に設け、これらのフィン間に2箇所ずつ、計6箇所設けた。冷却風は、吸入側から風速を40m/hとして一定にした。
【0033】
図5は、図4に示した空冷放熱装置500を用いて通風抵抗を測定した場合の測定結果を示している。図5(a)は、基台101から押出座面104までの距離の割合と圧力損失との関係を示す特性図である。横軸は、冷却フィン102の高さを100%とした時の押出座面104の高さの割合を示している。冷却フィン102の先端と同じ高さに押出座面104の高さを設定した場合を100%とし、そこから冷却フィン102の高さに対して押出座面104の高さが75%、50%、25%の4種類を示している。縦軸は、押出座面104の高さを基台101と同じ高さ(0%)とした時の圧力損失(Pa)を0として、それぞれの押出座面104の高さにおける圧力損失の差分を示している。押出座面104の高さが25%の時は圧力損失が0.6Pa、押出座面104の高さが50%の時は圧力損失が1.5Pa、押出座面104の高さが75%の時は圧力損失が3.5Pa、押出座面104の高さが100%の時は圧力損失が7.2Paであった。押出座面104の高さが高くなるにつれて冷却フィン102間を通り抜ける空気の流動が阻害されるために通風抵抗が大きくなり、圧力損失が上昇する結果が得られた。
【0034】
図5(b)は、押出座面104の高さを冷却フィン102の高さと同じ(100%)にしたときの圧力損失に対しての損失改善率の特性を示す。横軸は、図5(a)と同様に冷却フィン102に対する押出座面104の高さの割合を示し、縦軸は押出座面104の高さを冷却フィンの先端と同じ100%の高さとした時の圧力損失を0%として、それぞれの押出座面104の高さにおける圧力損失の改善率を示している。押出座面104の高さを冷却フィン102の先端の高さの75%にすると、押出座面104の高さを冷却フィン102の先端と同じ高さである100%とした時と比較して、32%の圧力損失を改善できた。また、押出座面104の高さを50%にすると、押出座面104の高さを冷却フィン102の先端と同じ高さである100%とした時と比較して、ほぼ50%の圧力損失を改善でき、それ以上に座面高さを低くした条件では改善率の変化は緩やかになる結果が得られた。これにより、押出座面104は、連架した冷却フィン102の高さより低い高さにすることにより、空気の流動性の損失を抑えることができ、ヒートシンクの冷却性能を維持することができる。特に、押出座面104は、連架した冷却フィン102の高さの50%以下とすることにより、圧力損失の改善率を約半分以下にすることができ、好適である。なお、押出座面104の高さが0%としたときに改善される圧力損失は、62%である。これは、押出座面を一つも設けない場合においても冷却フィン102の間を通り抜ける空気の流動が、例えば冷却フィン102自体で阻害されるため、損失改善率は100%にはならず62%となっている。
【0035】
本発明は、以上の実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更を加えることが可能であり、これらも本発明に包含されるものであることはいうまでもない。
【0036】
例えば、本実施形態では押出座面104の外形形状を矩形としたが、これに限らず円形、楕円形、三角形、多角形、その他の形状にも適宜応用することができる。
【0037】
また、本実施形態では、押出部103が複数設けられている場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えばヒートシンク100全体がそれほど大きくない場合には、押出部103を基台の中央に1個だけ設けても構わない。すなわち、押出部103の数はいくつあっても良く、ヒートシンク100の大きさ、冷却フィン102の数や冷却フィン102の間隔などに基づいて、適宜決定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は高温に発熱する電子部品を冷却する機能を持つヒートシンクに関するもので、あらゆるヒートシンクに適用可能である。たとえば、車載用DC−DCコンバータのヒートシンクなどに好ましく用いることができる。
【符号の説明】
【0039】
100 ヒートシンク
101 基台
102 冷却フィン
103 押出部
104 押出座面
106 押出凹部
107 壁部
108 切り欠き部
400 ヒートシンク
401 押出しボス
500 空冷放熱装置
501 風路カバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6