特許第6011666号(P6011666)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011666
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】回転体
(51)【国際特許分類】
   G01M 1/34 20060101AFI20161006BHJP
   F02B 39/00 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   G01M1/34
   F02B39/00 Q
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-56489(P2015-56489)
(22)【出願日】2015年3月19日
(65)【公開番号】特開2016-176783(P2016-176783A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2016年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 成公
(72)【発明者】
【氏名】早川 祥
(72)【発明者】
【氏名】播摩 英敏
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5588085(JP,B2)
【文献】 特開昭57−200831(JP,A)
【文献】 特開2003−302304(JP,A)
【文献】 特開2014−141909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 1/00−1/38
F02B 33/00−41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸周りに回転する回転体であって、
前記回転体の表面に、前記回転体の回転位相を検出する際に基準となる、電磁波によって検出可能な凹状の基準マークが形成されるとともに、
前記表面のうち前記回転体の回転方向において前記基準マークから90度以上離れた位置に、少なくとも1つの凹状のダミーマークが形成されており、
前記回転体は、軸方向に延びるボス部と前記ボス部から径方向外側に形成された羽根部とを有し、ターボチャージャーに用いられるインペラであって、前記ボス部のうち前記羽根部よりも軸方向先端側に突出した先端領域に、前記基準マークおよび前記ダミーマークが形成されており、
前記基準マークおよび前記ダミーマークは、前記ボス部の周面に形成されており、
前記基準マークが、前記ダミーマークよりも軸方向先端側に形成されていることを特徴とする回転体。
【請求項2】
前記基準マークおよび前記ダミーマークは、前記回転方向において等間隔に形成されている請求項1に記載の回転体。
【請求項3】
前記ダミーマークは、前記回転方向において前記基準マークから180度離れた位置に形成されている請求項1または2に記載の回転体。
【請求項4】
前記インペラは所定の切削具を用いた削り出し加工によって製作されており、
前記基準マークおよび前記ダミーマークが、前記切削具の先端部の形状と合致する形状を有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の回転体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸周りに回転する回転体に関する。
【背景技術】
【0002】
回転体の回転位相を検出するため、回転体の表面に光等の電磁波で検出可能な凹状の基準マークが設けられることがある。しかしながら、凹状の基準マークを設けることによって、回転体の重量バランスが回転方向において非均一となり、その結果生ずるアンバランスにより、回転時に振動が発生するおそれがあった。
【0003】
このような場合には、例えば特許文献1に記載されているアンバランス修正方法により、回転体のアンバランスを低減することができる。特許文献1に記載の方法は、まず回転体のアンバランス量を測定し、そのアンバランスを相殺すべく回転体の一部を切削除去するものである。特に、特許文献1の方法では、1箇所の切削除去では対応しきれない場合に、所定の複数箇所を切削除去することにより、効果的にアンバランスが低減できるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−15472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、回転体のアンバランス量が大きい場合にもアンバランスを効果的に低減できるという点においては確かに有効である。しかしながら、回転体の複数箇所を切削除去することで、アンバランス修正に要する工数が増加する傾向にある。アンバランス修正に要する工数を低減するためには、回転体に生じるアンバランス量を小さくする必要があるが、特許文献1では、回転体のそもそものアンバランスを低減することについては論じられていない。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、凹状の基準マークが表面に形成された回転体に生じるそもそものアンバランスを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、軸周りに回転する回転体であって前記回転体の表面に、前記回転体の回転位相を検出する際に基準となる、電磁波によって検出可能な凹状の基準マークが形成されるとともに、前記表面のうち前記回転体の回転方向において前記基準マークから90度以上離れた位置に、少なくとも1つの凹状のダミーマークが形成されており、前記回転体は、軸方向に延びるボス部と前記ボス部から径方向外側に形成された羽根部とを有し、ターボチャージャーに用いられるインペラであって、前記ボス部のうち前記羽根部よりも軸方向先端側に突出した先端領域に、前記基準マークおよび前記ダミーマークが形成されており、前記基準マークおよび前記ダミーマークは、前記ボス部の周面に形成されており、前記基準マークが、前記ダミーマークよりも軸方向先端側に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、回転体の表面に、回転位相を検出する際の基準となる凹状の基準マークが形成されるとともに、回転方向において基準マークから90度以上離れた位置に、少なくとも1つの凹状のダミーマークが形成されている。このため、基準マークが存在することによるアンバランスをダミーマークによって相殺することができ、回転体に生じるそもそものアンバランスを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態にかかるインペラの軸方向に沿った断面図である。
図2図1のII−IIにおける断面矢視図である。
図3】回転位相を検出する原理を説明するための模式図である。
図4】削り出し加工用の切削具の先端形状を示す斜視図である。
図5】他の実施形態におけるボス部の軸方向先端側の端面の正面図である。
図6】他の実施形態における回転位相検出センサーを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明にかかる回転体の表面構造を、インペラに適用した場合の実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかるインペラの軸方向に沿った断面図であり、図2は、図1のII−IIにおける断面矢視図である。なお、本発明が適用できるのはインペラに限定されず、他の回転体に本発明を適用することももちろん可能である。
【0011】
本実施形態のインペラ1は、自動車に設けられるターボチャージャーのコンプレッサとして用いられるもので、アルミニウム(あるいはアルミニウム合金)を削り出し加工することによって製作される。インペラ1は、軸方向に延びるボス部2と、ボス部2から径方向外側に形成された複数の羽根3aを有する羽根部3とからなる。ボス部2の内部には、不図示の回転軸を挿入するための貫通孔2aが軸方向に沿って形成されており、貫通孔2aに挿入された回転軸がナット等によってボス部2に固定される。なお、図1図2では、羽根3aの形状は簡略化して図示しており、正確な形状を示すものではない。
【0012】
ボス部2のうち羽根部3よりも軸方向先端側(図1の右側)に突出した先端領域2bの周面には、半球形状の凹部である基準マーク4と、基準マーク4と同形状を有するダミーマーク5が形成されている。基準マーク4は、インペラ1の回転位相を検出するために利用されるマークであり、1つ設けられている。一方、ダミーマーク5は、インペラ1の回転位相を検出するために利用されるものではなく、基準マーク4を設けたことにより生じるアンバランスを相殺するためのマークである。本実施形態では、ダミーマーク5の数は1つとしている。
【0013】
図3は、回転位相を検出する原理を説明するための模式図である。インペラ1の回転位相は、インペラ1の径方向外側に配置された位相検出センサー10によって検出される。この位相検出センサー10は、電磁波の一種である光を射出する投光部(図示省略)と光を受け取る受光部(図示省略)とを一体的に備えるセンサである。位相検出センサー10は、投光部から射出される光が基準マーク4に斜めに入射するように配設されている。
【0014】
図3のa図に示すように、位相検出センサー10から射出された光が、基準マーク4の形成されていないボス部2の周面に入射した場合は、入射光が概ね正反射するため、基本的に位相検出センサー10で反射光は検出されない。一方、図3のb図に示すように、位相検出センサー10から射出された光が、基準マーク4に入射した場合は、入射光が正反射せずに、少なくとも一部の反射光が位相検出センサー10に戻ってくるため、この反射光を位相検出センサー10で検出することができる。つまり、位相検出センサー10によって基準マーク4を検出することができ、その検出タイミングによってインペラ1の回転位相が分かるようになっている。
【0015】
ダミーマーク5は、基準マーク4と同じ半球形状を有する凹部であり、インペラ1の回転方向において、基準マーク4から180度離れた位置に形成されている。また、軸方向においては、ダミーマーク5は、基準マーク4よりも軸方向基端側(図1の左側)に配置されており、ダミーマーク5には位相検出センサー10からの射出光が入射しないようになっている(図3参照)。
【0016】
図4は、削り出し加工用の切削具の先端形状を示す斜視図である。切削具20の先端部21は半球形状となっており、この先端部21が回転しながら材料に当接することで、切削加工が行われる。切削具20は不図示のNC加工機に取り付けられており、NCプログラムによる自動切削加工が可能となっている。基準マーク4およびダミーマーク5は、切削具20を用いたNC加工によって形成されており、基準マーク4およびダミーマーク5の凹形状は切削具20の先端部21の形状に対応するものとなっている。
【0017】
(効果)
以上のように、本実施形態のインペラ1(回転体)の表面には、回転位相を検出するのに基準となる凹状の基準マーク4が形成されるとともに、回転方向において基準マーク4から90度以上離れた位置に、少なくとも1つの凹状のダミーマーク5が形成されている。このため、基準マーク4が存在することによるアンバランスをダミーマーク5によって相殺することができ、インペラ1に生じるそもそものアンバランスを低減することが可能となっている。その結果、インペラ1のアンバランス修正が不要になるか、あるいはアンバランス修正が必要な場合でもその修正量を大幅に低減することができる。
【0018】
また、本実施形態のように、基準マーク4およびダミーマーク5が、回転方向において等間隔に配置されている場合には、回転方向における重量分布を均一化できるので、インペラ1のアンバランスをより効果的に低減することができる。
【0019】
また、本実施形態のように、ダミーマーク5が回転方向において基準マーク4から180度離れた位置に形成されている場合には、基準マーク4を設けたことにより生じるアンバランスを、容易にダミーマーク5によって相殺することができる。
【0020】
また、本実施形態のように、基準マーク4およびダミーマーク5が、ボス部2の周面に形成されていると、基準マーク4およびダミーマーク5の加工が容易となる。というのも、ボス部2の周面の面積は、ボス部2の端面の面積よりも一般的に広く、加工が行いやすいからである。
【0021】
また、本実施形態では、ダミーマーク5は、軸方向において基準マーク4と異なる位置に形成されている。このため、位相検出センサー10からの射出光がダミーマーク5に入射することはなく、ダミーマーク5は位相検出センサー10によって検出されない。よって、位相検出センサー10は基準マーク4のみを検出することができ、その検出タイミングに基づいて回転位相を容易に求めることができる。
【0022】
また、本実施形態では、基準マーク4が、ダミーマーク5よりも軸方向先端側に形成されている。このため、図3のa図に示すようにボス部2の周面で正反射した光が、羽根部3にぶつかって反射し、位相検出センサー10に戻ることを回避できる。このため、基準マーク4の誤検出を防ぐことができ、回転位相の検出精度を向上させることができる。
【0023】
また、本実施形態では、基準マーク4およびダミーマーク5が、切削具20の先端部21の形状と合致する形状を有している。このため、削り出し加工によるインペラ1の製作工程において、基準マーク4およびダミーマーク5を切削具20で同時に形成することが可能となるので、インペラ1の製作に要する時間を短縮することができる。
【0024】
[他の実施形態]
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上記実施形態の要素を適宜組み合わせまたは種々の変更を加えることが可能である。
【0025】
例えば、上記実施形態では、基準マーク4から回転方向に180度離れた位置にダミーマーク5を設けるものとした。しかしながら、ダミーマーク5は、基準マーク4から回転方向に90度以上離れた位置、すなわち図2において下半分の領域内にあれば、他の位置に設けてもよい。このような位置にあるダミーマーク5は、基準マーク4を設けたことにより生じるアンバランスを相殺する効果を有する。
【0026】
また、上記実施形態では、ダミーマーク5を1つ設けるものとしたが、ダミーマーク5は1つに限らず複数設けてもよい。例えば、ダミーマーク5を2つ設ける場合は、基準マーク4から回転方向両側に120度ずつ離れた位置に設ければよい。また、ダミーマーク5を複数設ける場合には、少なくとも1つのダミーマーク5が基準マーク4から回転方向に90度以上離れた位置、すなわち図2において下半分の領域内にあればよく、他のダミーマーク5が基準マーク4から回転方向に90度未満の位置、すなわち図2において上半分の領域内にあってもよい。また、複数のダミーマーク5のそれぞれを軸方向において同じ位置に設けてもよいし、異なる位置に設けてもよい。
【0027】
また、上記実施形態では、ダミーマーク5を、軸方向において基準マーク4と異なる位置に設けた。しかしながら、ダミーマーク5を、軸方向において基準マーク4と同じ位置に設けることも可能である。この場合には、基準マーク4およびダミーマーク5を回転方向において不等間隔に配置することで、検出タイミングの時間間隔に差が生じ、位相検出センサー10によって検出されたマークが、基準マーク4およびダミーマーク5のいずれであるかを判断することができ、回転位相を求めることが可能となる。
【0028】
また、上記実施形態では、基準マーク4およびダミーマーク5を、インペラ1の周面に設けるものとした。しかしながら、基準マーク4およびダミーマーク5を周面以外の表面、例えば、ボス部2の軸方向先端側の端面2c(図1参照)に形成するようにしてもよい。この場合は、図5に示すように、ダミーマーク7を、径方向において基準マーク6と異なる位置に形成することで、基準マーク6に向けて射出される光がダミーマーク7に入射することはなく、容易に回転位相を検出することが可能となる。
【0029】
また、上記実施形態では、反射光によって基準マーク4の検出を行う、いわゆる反射型の位相検出センサー10を採用したが、反射型以外のセンサーを用いてもよい。例えば、図6に示すように、投光部11aと受光部11bとを、インペラ1のボス部2を挟むように対向配置させることで構成される透過型の位相検出センサー11を採用してもよい。この場合には、基準マーク8を周方向の一部に形成した溝形状とすればよい。こうすることで、投光部11aからの射出光が基準マーク8を通過して受光部11bに至り、基準マーク8を位相検出センサー11によって検出することが可能である。
【0030】
また、基準マーク4およびダミーマーク5の形状も、上記実施形態に示したものに限定されない。例えば、基準マーク4およびダミーマーク5は直方体形状等でもよいし、基準マーク4およびダミーマーク5が互いに異なる形状でもよい。
【符号の説明】
【0031】
1:インペラ
2:ボス部
2b:先端領域
3:羽根部
4、6、8:基準マーク
5、7:ダミーマーク
20:切削具
21:先端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6