(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
洗濯機、冷蔵庫、クーラーなどの家電製品、テレビ、ビデオ、ラジオ、コンピュータ、複写機、通信機器などの電子機器類には、プリント基板に電子部品を搭載した実装基板が使用されている。実装基板には、単層基板であるものに加えて、充実した機能を実現するために複数の基板を積層したものが使用されている。基板間の導通や電子部品の基板への実装には、面実装により接続する方法や基板のスルーホールに端子を挿入して実装する方法が挙げられる。このようなプリント基板への実装工程としては、フローソルダリング、リフローソルダリング、マニュアルソルダリングなどが挙げられる。これらの中で、ある程度の大きさを有する電子部品の実装には、接続強度などの観点から端子をスルーホールに挿入して実装する方法が採用されている。実装工程としては通常フローソルダリングが採用されている。
【0003】
フローソルダリング用のはんだ合金としては、例えば特許文献1にSn−Cu−P−Biはんだ合金が開示されている。このはんだ合金は、Pの添加によりぬれ性を向上させるとともに、Biの添加により溶融温度を下げて搭載された電子部品の動作不具合を抑制することができるという優れた合金である。ただ、端子をスルーホールに挿入してフローソルダリングを行う場合には、はんだのぬれ性を向上させることに加えて、さらなる検討が必要になる。
【0004】
スルーホールに挿入された端子は、プリント基板のランドと端子との間に形成されるはんだフィレット(以下、単に、「フィレット」という。)を介してプリント基板に接続される。この際、フィレットを形成するはんだ合金の組成や基板の積層状態によってはフィレットにリフトオフが発生する場合がある。リフトオフはランドとフィレットとの間に隙間ができる現象であり、これにより基板と端子との間で導通不良が生じてしまう。そこで、リフトオフを抑制するために種々の検討がなされてきた。
【0005】
例えば特許文献2には、表面実装された電子部品の接続強度の高信頼性を維持するため、Sn−3Ag−xBi−0.5Cu(x=0、1、2、3、4であり、単位は質量%である。)はんだ合金が開示されている。この文献には、Bi含有量とリフトオフ、強度および引け巣との関係を調査した結果が示されており、Bi含有量が0質量%や1質量%においてこれらの特性を満足する結果が開示されている。また、これらの合金組成の固相線温度と液相線温度も開示されている。特許文献3には、Agを使用せずに接合強度を向上させるため、Sn−0.7Cu−(0.35、0.7)Biはんだ合金が提案されている。この文献にはBiの添加によりリフトオフ等の発生を促進することが開示されている。特許文献4には、表面実装された電子部品においてヒートサイクル後においてもクラックが発生しないように、Sn−Ag−Bi−In系はんだ合金のBi含有量を0.1〜5重量%、In含有量を3〜9重量%にするとともに、基板の線膨張係数を所定の範囲とする発明が提案されている。また、この文献には、Biの多量添加によりリフトオフが発生することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、特許文献2〜4には、いずれもBiがリフトオフの発生原因であることが記載されているものの、ランドと端子との接続に関して各々以下のような問題点がある。
【0008】
特許文献2には、Biが0質量%のSn−Ag−Cuはんだ合金が開示されているが、Biを含有しないために熱疲労によるフィレットの劣化が問題となる。また、同文献にはBiが1質量%以上のはんだ合金が開示されている。しかし、6個の6端子コネクタ(36か所)しか用いずにリフトオフを判断しているため、リフトオフの判断としては不十分である。これは、上記はんだ合金が1質量%以上ものBiを含有するため、これ以上判断箇所を増やすとリフトオフが発生する可能性が生じるためであると考えられる。また、特許文献1に記載されている液相線温度や固相線温度は平衡状態での温度であり、接合時および冷却時の実情が反映されたものではない。さらに、固液共存領域でのはんだ合金の性状は平衡状態であっても合金組成毎に大きく異なり、これにともない端子が離脱しない程度に凝固するまでの時間も異なる。このため、単に液相線温度と固相線温度が開示されているだけではリフトオフの発生を十分に抑制することができない。すなわち、平衡状態での液相線温度や固相線温度を規定するだけでリフトオフを完全に抑制できるわけではない。
【0009】
特許文献3には、Bi含有量が0.35質量%または0.7質量%のSn−Cu−Bi系はんだ合金が開示されている。ここで、リフトオフは前述のようにランドとフィレットとの間に隙間ができる現象であり、凝固時におけるはんだ合金中のBiの偏析によって生じる。同文献にはBiがリフトオフの欠陥を生じやすくすることが開示されているが、はんだ合金の固液共存領域での性状は大きく異なり、フローソルダリング時における噴流はんだの温度に加えて基板の厚さや積層数も異なることから、合金組成だけで直ちにリフトオフの発生を抑制できない場合がある。
【0010】
また、特許文献4では、Inが必須元素であるためにInの酸化膜が形成され易い。この結果、はんだ合金がべとつきフィレットにブリッジやつららが発生しやすくなり、端子間で導通すると接続不良が発生してしまう。
【0011】
このように、従来ではフィレットでの接続不良としてリフトオフのみが考慮されてきたが、フィレットに関して問題となるのはリフトオフだけではなくブリッジやつららの発生も挙げられ、より実情を踏まえてこれらのフィレット異常を解決する必要がある。
【0012】
本発明の課題は、フィレット異常の発生を抑制すること、すなわち、リフトオフの発生を抑制するとともにフィレットのブリッジやつららをも同時に抑制することができ、さらには熱疲労による劣化も抑えることができるはんだ合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鉛フリーはんだ合金の中でも、熱疲労による劣化を抑制可能なSn−Bi系はんだ合金において鋭意検討を行った。本発明者らは、まず、リフトオフの発生を抑制するためにBi含有量を所定の範囲に調整した上で、基板の厚さや積層枚数から生じる凝固時の時間的なギャップをも考慮する必要がある点に着目した。リフトオフは前述のようにBiの偏析によって発生するが、フローソルダリングを行う場合には、基板の噴流はんだ側では冷えにくく、反対側ではすぐに冷えてしまう。これは積層基板にあってはさらに顕著になる。このように、冷却時における時間的なギャップを考慮することによってリフトオフの発生を抑制することができる。
【0014】
そこで、本発明者らは、リフトオフ、ブリッジおよびつららの発生を抑制するため、はんだ合金組成の他に凝固時の時間的なギャップをも考慮してさらに検討を行った。Sn−Bi系はんだ合金でフローソルダリングを行う条件としては、はんだ合金が235℃でほぼ完全に液相であるとともに、210℃で概ね固相である必要がある。235℃での固相が残存する理由ははんだ合金の溶け残りであると考えられる。溶け残りが多い場合にはフィレットでのブリッジやつららの原因となる。一方、210℃での液相が残存する場合には凝固偏析によるリフトオフの発生原因となり得る。
【0015】
なお、下記の説明において、「固相率」とは、ある温度におけるはんだ合金の全体積に占める固相の割合を表す。「液相率」とは、ある温度におけるはんだ合金の全体積に占める液相の割合を表す。
【0016】
ここで、上記検討に用いた固相率および液相率ははんだ合金の合金組成に基づいて得られるものであるが、合金組成から直ちに得られるものではない。平衡状態図では液相線温度と固相線温度との間の温度域が固液共存領域となるが、この固液共存領域でのはんだ合金の性状はフローソルダリングの実情を考慮すると平衡状態図から直ちに知得することはできない。また、仮にフローソルダリングの条件が平衡状態であったとしても、液相線温度から固相線温度にかけて固相と液相が1次元的に増減することはない。合金組成や噴流はんだ槽中のはんだ合金の温度により固相と液相の割合はさまざまである。そこで、本発明者らは、合金組成や時間的なギャップを考慮して得られた固相率や液相率とフィレット異常との関係をさらに検討した。
【0017】
この結果、本発明者らは、235℃での固相率と210℃での液相率が所定の範囲内では、Bi含有量が所定の範囲内において、偶然にも、上記のすべての特性を満たす知見を得ることができた。つまり、Bi含有量と固相率および液相率とを所定の範囲にすることによって、凝固時の時間的なギャップを考慮したとしても、リフトオフ、ブリッジおよびつららの発生を抑制するとともに耐熱疲労性も向上させることができる知見が得られたのである。なお、固相率および液相率を規定することにより実際のフローソルダリング時のすべての条件を満たすことにはならないが、これらを規定することによって、相対的にはフローソルダリング時におけるフィレット異常の有無を判断することができる。Sn−Biはんだ合金にAg、Cu、Pなどを含有する合金組成においても、これらの元素が所定の含有量の範囲内である場合には、Bi含有量、固相率および液相率により同様のことが言える知見も得られた。
【0018】
また、Sn−Bi系はんだ合金にAgを含有する合金組成では、BiとAgとの相互作用によってリフトオフが発生しやすくなる知見も得られた。このため、Agを含有する場合には、Ag含有量を所定の範囲にするとともに、Ag含有量とBi含有量の合計量を規定することによって、上記の特性をすべて満たす知見が得られた。
【0019】
さらに、Cuを含有する場合には、Cuが0.7質量%を超えると液相線温度が急激に高くなり固液共存領域が広くなってしまう。一方、Cu含有量が0.7質量%以下であれば、固液共存領域がほとんど広がることはなく、凝固時の時間的なギャップを考慮しても上記特性をすべて満足することができる知見も得られた。
【0020】
この知見により得られた本発明は次の通りである。
(1)質量%で、Bi:0.1〜0.8%、Ag:0〜0.3%、Cu:0〜0.7%、
P:0.001〜0.1%、残部がSnからなり、AgとBiの含有量の合計:0.3〜0.8%である合金組成を有
することを特徴とする
フィレット形成用はんだ合金。
【0021】
(2)
235℃での固相率が0.02体積%以下であるとともに210℃での液相率が5.0体積%以下である、上記(1)に記載の
フィレット形成用はんだ合金。
【0022】
(3)前記(1
)に記載の合金組成を有するはんだ継手。
本発明において、「235℃での固相率」とは、235℃でのはんだ合金の全体積に占める固相の割合を表す。「210℃での液相率」とは、210℃でのはんだ合金の全体積に占める液相の割合を表す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を以下により詳しく説明する。本明細書において、はんだ合金組成に関する「%」は、特に指定しない限り「質量%」である。
【0025】
1. 合金組成
(1) Bi:0.1〜0.8%
Biは耐熱疲労性の向上に必要な元素である。Bi含有量は0.1%以上であり、好ましくは0.2%以上である。一方、Biの多量の添加は固液共存領域の増加により凝固偏析が著しくなり、リフトオフの発生頻度が高くなってしまう。Bi含有量は0.8%以下であり、好ましくは0.6%
以下である。
【0026】
(2) Ag:0〜0.3%
Agは、耐熱疲労性を向上させることができる任意元素である。Agを添加する場合には好ましくはAg含有量を0.1%以上とする。AgはBiとともに添加されるとBiの添加による凝固偏析を促進し、リフトオフの発生頻度が高くなってしまう。よってAgは0.3%以下とし、好ましくは0.2%以下とする。
【0027】
(3) Ag+Bi:0.3〜0.8%
SnにAgを単独で添加してもリフトオフの発生原因としては考えられていなかった。しかし、AgをBiと同時にはんだ合金に添加する場合、Biのみ添加される場合と比較してBiの凝固時における偏析を促すためにリフトオフが発生しやすくなる。このため、Ag含有量とBi含有量の合計は0.8%以下とする。好ましくは0.6%以下である。一方、AgとBiの同時添加は熱疲労による劣化を抑制する。この効果を発揮するためには、Ag含有量とBi含有量の合計は0.3%以上とする。なお、リフトオフの発生や熱疲労によるフィレットの劣化の抑制は、前述のようにBi単独添加でも同様であるため、Agを含有しない場合であってもこの範囲は適用される。すなわち、Agを含有しない場合には、Bi含有量は0.3〜0.8%となる。
【0028】
(4) Cu:0〜0.7%
Cuは、はんだ合金の強度を改善することができる任意元素である。Cuの過剰添加ははんだ合金の融点を著しく上昇させて、ブリッジやつららを発生しやすくする。また、Cuは0.7%の添加でSnと共晶を形成するが、それ以下であれば固液共存領域がほとんど広くならない。このため、Cu含有量は好ましくは0.7%以下であり、より好ましくは0.6%以下である。また、本発明のはんだ合金がフローソルダリング用として用いられる場合には、基板の配線や端子に多く用いられるCuがはんだ槽内に溶出する場合が考えられる。その場合には、はんだ合金中のCu含有量を低減しないとはんだ槽内の合金組成が過共晶側にシフトして融点が上昇し、フィレット異常を引き起こす場合がある。このため、Cu含有量ははんだ槽内のCu量に応じて適宜低減させた方がよい。Cu含有量は好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.4%以下、さらに好ましくは0.3%以下、特に好ましくは0%である。
【0029】
一方、Cuは、強度の改善に加えて、ランドがCuの場合にはCu喰われ防止効果も発揮することができる。Cuを含有する場合には、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.1%以上であり、さらに好ましくは0.2%以上である。
【0030】
(5) P:0.1%以下
Pは、Snの酸化を抑制するとともにぬれ性を改善することができる任意元素である。Pの過剰添加ははんだ表面におけるはんだの流動性を阻害し、はんだ付け作業に困難をきたす。P含有量は0.1%以下であり、好ましくは0.01%以下であり、より好ましくは0.008%以下である。一方、上記P添加効果を発揮するため、P含有量は好ましくは0.001%以上である。
【0031】
(6) 残部:Sn
本発明に係るはんだ合金の残部はSnである。前述の元素の他に不可避的不純物を含有してもよい。不可避的不純物を含有する場合であっても、前述の効果に影響することはない。また、後述するように、本発明では含有しない元素が不可避的不純物として含有されても前述の効果に影響することはない。
【0032】
(7) In,Ni、Zn、Al、Sb
本発明に係るはんだ合金は、フィレット異常を抑制するためにIn,Ni、Zn、Al、Sbを含有しない方がよい。これらの元素はヒートサイクル特性などを向上させるためにはんだ合金に頻繁に添加されるものであるが、本発明ではInやZnを含有すると、InやZnの酸化膜が形成されるためにはんだ合金がべとつきフィレットにブリッジやつららが発生しやすくなる。Ni、AlおよびSbははんだ合金中のSnやAgと化合物を形成するためにはんだ溶融時での溶け残りの原因となり、フィレットのブリッジやつららを発生させる。
【0033】
2. 235℃での固相率:0.02体積%以下、210℃での液相率:5.0体積%以下
本発明に係るはんだ合金は、上記合金組成を有することに加えて、235℃での固相率が0.02体積%以下であり、かつ210℃での液相率が5.0体積%以下である
ことが好ましい。
【0034】
フィレット異常としては、従来検討されてきたリフトオフの他に、ブリッジやつららの発生が挙げられる。リフトオフの発生を抑制することができたとしても、端子間に形成されるブリッジやつららが発生すると接続不良により電子機器が正常に動作しない。そこで、リフトオフ、ブリッジおよびつららの発生を抑制するためには、合金組成や平衡状態図から得られる情報では足りず、これらに基づいて得られた所定温度での固相率や液相率で規定する必要がある。
【0035】
本発明では235℃での固相率を0.02体積%以下とする
ことが好ましい。Bi含有量が少ないSn−低Bi系はんだ合金を用いてフローソルダリングを行う場合、噴流はんだの溶融温度は235℃以上であるためである。すなわち、少なくとも235℃ではんだ合金がほぼ完全に溶融している必要があり、ブリッジやつららの原因となる溶け残りがあってはならない。現状のプリント基板において、フィレットにブリッジやつららが発生しないようにするため、235℃での固相率を0.02体積%以下とする
ことが好ましい。
より好ましくは0体積%である。
【0036】
また、本発明では210℃での液相率を5.0体積%以下とする
ことが好ましい。Sn−低Bi系はんだ合金では、概ね210℃あたりで急激に凝固が進行し、この時に液相が所定量を超えて混入していると凝固偏析の原因となる。そして、凝固偏析はリフトオフの発生につながる可能性を向上させる。リフトオフを発生させないため、210℃での液相率を5.0体積%以下とする
ことが好ましい。
より好ましくは4.0体積%以下であり、
さらに好ましくは3.64体積%以下である。下限値は特に限定されず、210℃での液相率が低い程リフトオフの発生を抑制することができる。
【0037】
本発明で規定する液相率および固相率は、合金組成に加えて、フローソルダリング時における基板の表面や裏面での冷却条件の違いに相当する時間的なギャップをも考慮したものである。これらは、元素の熱力学物性値を用いてシャイルの関係式に基づくSn−低Bi系合金の計算シミュレーションを行って求めることができる。温度変化の勾配が時間の経過とともに変化し、実際の接合条件毎に温度変化の勾配を把握することが困難であるため、本発明では、フローソルダリングにおける時間的なギャップを熱量に換算し固相率および液相率を求めた。
【0038】
ここで、本発明の固相率および液相率の算出方法について詳述する。
固相率や液相率と温度の関係は、DSCなどの熱分析などによって測定して求めてもよいが、熱分析の場合には昇降温速度を所定の条件で行う必要があり、実際の接合条件を反映したものとは言い難い。そこで、本発明では、サーモカルクなどの汎用熱力学データベースを活用した。但し、凝固を伴う固相率の変化を考慮する必要があるため、液相完全混合モデル(固相内無拡散モデル)であるシャイルの式もしくはシャイルモジュールを用いた。シャイルの式は通常2元系以下の合金に適用され、シャイルモジュールは3元系以上の合金に適用される。もちろんシャイルモジュールは、2元系以下の合金にも適用可能である。
【0039】
シャイルの式を用いると、固相中の溶質濃度および液相中の溶質濃度から得られた固液分配係数や汎用熱力学データベースを用いて固相率と温度との関係を求めることができる。また、シャイルモジュールを用いると、前記した汎用熱力学データベースに記録されているデータをもとに、1℃温度を下げたときに液相が一部固相に変化した分を固相として加え、新たな濃度の液相を形成させ、そしてまた温度を下げていくということを繰り返していくことによって所定の温度での固相率を算出することができる。
【0040】
この手法を用いることによって、種々の凝固過程に応じた固相率と液相率を求めることができる。
【0041】
このようにして計算した結果、Sn−Bi−(Ag)−(Cu)−(P)はんだ合金において、凝固の過程が異なることが明らかになった。本発明の固相率および液相率は、リフトオフに加えてブリッジやつららの発生をも抑制するための指標であり、合金組成のみでは得ることができない。この指標を用いることによって、初めて、本発明の効果を発揮することができるのである。つまり、固相率や液相率は従来でも用いられる場合があったが、本発明のように、リフトオフ、ブリッジおよびつららの発生を抑制するために、Sn−低Biはんだ合金において、実際のフローソルダリングの凝固過程を考慮した235℃での固相率および210℃での液相率の両者を同時に用いた指標は、今までになかった新たな指標である。また、上記シミュレートによって得られた本発明の固相率および液相率は、実際のフローソルダリング時におけるすべての条件を反映したものではないが、実施のフローソルダリングでの固相率および液相率と相対的に大小関係は変わらない。したがって、本発明の固相率および液相率を満たすことによって、リフトオフ、ブリッジおよびつららの発生を抑制することができるのである。
【0042】
3.用途
本発明に係るはんだ合金は、種々のはんだ付け手法の中で、特にフローソルダリングに使用することによって効果を発揮することができる。複数の基板が積層された積層基板にフローソルダリングを行う場合に有効である。フローソルダリングにおける噴流はんだは長時間使用すると組成が変動することがあるため、噴流はんだを所望の組成とするための補充用はんだとしても使用することができる。この場合、補充用のはんだは本発明の範囲内において組成を調整して補充することができる。フローソルダリングを行う場合の噴流はんだの温度は概ね230〜240℃である。また、この他の接合条件は、はんだ合金の合金組成、固相率および液相率に応じて適宜調整することができる。
【実施例】
【0043】
表1に示す合金組成からなるはんだ合金を用いて、235℃での固相率、210℃での液相率、信頼性(熱疲労)およびフィレット異常の評価を行った。各々の評価方法について以下に説明する。
【0044】
(1)235℃での固相率、210℃での液相率
本実施例における固相率および液相率の算出には、株式会社 材料設計技術研究所製の「Pandat」を用いた。結果を表1に示す。
【0045】
(2)信頼性(熱疲労)
本実施例では、耐熱疲労特性を用いて信頼性の評価を行った。
【0046】
まず、4端子Snめっき抵抗を12個用意し、の端子をガラスエポキシプリント基板(CEM−3)のスルーホールに挿入し、フローソルダリングを行った。フローソルダリングには、株式会社マルコム製フローシュミレーターFS−1を用い、下記試験条件でフローソルダリングを行った。
【0047】
試験条件
はんだ槽 :株式会社マルコム製フローシュミレーターFS−1
はんだ量 :15kg
フラックス :千住金属株式会社製フラックス(品名:ES−1061SP2)
はんだ槽内のはんだ温度:255℃
次いで、はんだ付けされたプリント基板を低温条件が−40℃、高温条件が、+85℃、各30分の二槽式の自動試験装置に投入して、500サイクル目でプリント基板を取り出して、光学顕微鏡によりフィレット(48か所)の外観観察を行った。クラックが確認されなかったものを○とし、クラックが確認されたものを×として評価した。結果を表1に示す。
【0048】
(3)フィレット異常
本実施例では、フィレット異常として、リフトオフ、ブリッジ、つららを評価した。上記(2)信頼性試験と同条件でフローソルダリングを行い、48か所のフィレットについて下記評価を行った。
【0049】
・ブリッジ、つらら
ブリッジが発生したかどうかを目視にて評価した。また、フィレットにつららが発生したかどうかを目視にて確認した。つららを確認した場合にはつららが発生したと評価した。
【0050】
・リフトオフ
48個のフィレットを光学顕微鏡にて確認した後、フィレットを切断し、断面をSEMで撮影した。フィレットがランドから剥がれているかどうかをSEM写真にて確認した。断面において少しでもランドと離れている部分があれば、リフトオフが発生したと評価した。
【0051】
表1中でのフィレット異常の記号は以下の通りである。
A:フィレット異常が発生しなかった
B:リフトオフが発生した
C:つららが発生した
D:ブリッジが発生した
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、実施例1〜
3では、いずれの合金組成においても信頼性に問題なく、フィレット異常が発生しなかった。
【0054】
一方、比較例1はBi含有量が少ないために耐熱疲労性に劣った。比較例2はBi含有量が多く210℃での液相率が高いためにリフトオフが発生した。比較例3はAg含有量が多くAg+Biも0.8%を超えるとともに210℃での液相率が高いため、リフトオフが発生した。比較例4はAg+Biが0.3%を下回ったために耐熱疲労性が劣った。比較例5および6はCu含有量が多く235℃の固相率が高いためにはんだ合金がべとつき、比較例5ではブリッジが発生し、比較例6ではブリッジとつららが発生した。
【0055】
比較例7および8はInを含有するために210℃での液相率が高く、耐疲労性が劣るとともにブリッジやつららが発生した。比較例9および10はNiを含有するために235℃での固相率が高く、ブリッジが発生した。比較例11はZnを含有するために210℃での液相率が高く、ブリッジやつららが発生した。比較例12および13は各々AlおよびSbを含有するために235℃での固相率が高く、比較例12ではブリッジおよびつららが発生し、比較例13ではブリッジが発生した。
【0056】
表1の結果から本発明の効果を明確にするため、
図1を用いてさらに説明する。
図1は、Sn−Bi−(Ag)−(Cu)−(P)はんだ合金におけるBi(+Ag)と210℃での液相率との関係を示すグラフである。
図1では、固液共存領域での挙動が大きく異なるIn、Ni、Zn、Al、Sbを含有する合金組成を除いた
参考例1〜8、実施例1〜
3および比較例1〜6の結果をプロットした。
図1より、Bi(+Ag)が0.8%を超えると210℃での液相率が大幅に増加し、比較例2および3のように液相率が5.0%を超えるとリフトオフが発生した。一方、比較例1、4、5、6では液相率が低いためにリフトオフが発生しなかったものの、前述のように、耐熱疲労性が劣り、ブリッジやつららが発生した。
【0057】
以上より、本発明に係るはんだ合金は、リフトオフ、ブリッジ、つららの発生を抑制するとともに優れた耐熱疲労性をも兼ね備えることができるため、家電製品や通信機器などの電子機器類の全般に渡り、幅広く高品質のフィレットを形成することができる。
【解決手段】質量%で、Bi:0.1〜0.8%、Ag:0〜0.3%、Cu:0〜0.7%、残部がSnからなり、AgとBiの含有量の合計:0.3〜0.8%である合金組成を有しさらに、235℃での固相率が0.02体積%以下であり、210℃での液相率が5.0体積%以下であるはんだ合金。好ましくは、合金組成は、更に、質量%でP:0.1%以下を含有するはんだ合金。