(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動ユニット本体からの駆動出力軸と、前記駆動ユニット本体のケース部材に対しハブベアリングにより支持されたホイールハブ軸とを、変位吸収機構を介して連結した車両用インホイールモータユニットにおいて、
前記変位吸収機構は、前記駆動出力軸の第1内歯部とギヤカップリング軸の第1外歯部とが噛み合う出力軸側駆動伝達嵌合部と、前記ホイールハブ軸の第2内歯部と前記ギヤカップリング軸の第2外歯部とが噛み合うハブ軸側駆動伝達嵌合部と、を有し、
前記ホイールハブ軸において軸方向で前記駆動ユニット本体側とは反対側の端部に、前記ギヤカップリング軸を挿通可能な開口部が設けられ、
この開口部を塞ぐ蓋部材が前記ホイールハブ軸に設けられ、
前記ホイールハブ軸に軸直交方向に貫通して挿通孔が開口され、
前記蓋部材を、前記ホイールハブ軸に対して固定した状態と、前記ホイールハブ軸からの取り外しを可能な状態とに変位可能な着脱部材が、前記挿通孔に抜き差し可能に挿通され、
前記挿通孔の外径側が、前記ホイールハブ軸に装着されたホイールにより覆われていることを特徴とする車両用インホイールモータユニット。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の車両用インホイールモータユニットを実現する最良の形態を、図面に示す実施の形態1に基づいて説明する。
【0010】
まず、構成を説明する。
実施の形態1における車両用インホイールモータユニットの構成を、[ユニット全体の概略構成]、[駆動ユニット本体の詳細構成]、[変位吸収機構の詳細構成]、[ホイール構造の詳細構成]、[ギヤカップリング軸の組付構造の詳細構成][変位吸収機構の嵌合部耐摩耗性の詳細設定構成]に分けて説明する。
【0011】
[ユニット全体の概略構成]
車両用インホイールモータユニットの全体断面を示す
図1に基づき、ユニット全体の概略構成を説明する。
前記車両用インホイールモータユニットは、電気自動車の左右後輪等に適用され、
図1に示すように、駆動ユニット本体Aと、変位吸収機構Bと、ホイール構造Cと、を備えている。
【0012】
前記駆動ユニット本体Aは、左右後輪等のそれぞれに設定される駆動源としての機能を持ち、モータジェネレータMGと、ギヤトレインGTと、を有する。モータジェネレータMGの力行時には、三相交流の電流をステータ9に巻き付けたステータコイル9bに印加することで、ロータ8を一体に有するモータ軸6を回転し、モータ軸6の回転をギヤトレインGTにより減速して駆動出力軸10から出力する。モータジェネレータMGの回生時には、駆動出力軸10から入力される回転を、ギヤトレインGTにより増速してモータ軸6及びロータ8を回転することで、ロータ8にエアギャップを介して配置されたステータ9のステータコイル9bに三相交流の電流が発生する。
【0013】
前記変位吸収機構Bは、ハブベアリング71の変位/傾きを駆動ユニット本体AのモータジェネレータMGやギヤトレインGTへ伝達することを防止/抑制する機能を持ち、ギヤカップリング軸50を有する。このギヤカップリング軸50は、駆動ユニット本体Aからの駆動出力軸10と、アクスルケース72(ケース部材)に対しハブベアリング71により支持されたホイールハブ軸70を、変位吸収可能に連結する。
【0014】
前記ホイール構造Cは、各輪のタイヤやブレーキ機構を取り付ける機能を持ち、ホイールハブ軸70を有する。このホイールハブ軸70は、アクスルケース72に対し、複列アンギュラベアリング構造によるハブベアリング71により回転可能に支持され、ホイールハブ軸70のフランジ部70aには、ブレーキディスク73及びタイヤホイール110が固定される。また、ホイールハブ軸70は、駆動ユニット本体Aの駆動出力軸10に対し、変位吸収機構Bを介して連結される。
【0015】
[駆動ユニット本体の詳細構成]
図2は、車両用インホイールモータユニットを駆動ユニット本体Aと変位吸収機構Bとホイール構造Cに分けた構成を示す。以下、
図1及び
図2に基づき、駆動ユニット本体Aの詳細構成を説明する。
【0016】
前記駆動ユニット本体Aは、ユニットケース部材100に、三相交流の埋込磁石同期モータ構造によるモータジェネレータMGと、遊星歯車式減速ギヤ機構によるギヤトレインGTと、を内蔵することで構成される。
【0017】
前記ユニットケース部材100は、ユニットケース1と、ユニットカバー2と、モータ軸側カバー3と、出力軸側カバー4と、を有して構成される。ユニットカバー2は、ユニットケース1の一端側にボルト固定され、モータ軸側カバー3は、モータ軸6の一端側を塞ぐようにユニットカバー2にボルト固定される。出力軸側カバー4は、駆動出力軸10の一部を駆動ユニット本体Aから突出させるようにユニットケース1の他端側にボルト固定される。
そして、出力軸側カバー4の端部位置にはオイルシール5が装着され、オイルシール5のシール部分を駆動出力軸10の外周面に対して所定のシール圧にて接触させている。つまり、出力軸側カバー4とオイルシール5を、駆動ユニット本体Aとハブベアリング71を隔離する隔壁構造部材としている。
【0018】
前記モータジェネレータMGは、モータ軸6と、ロータフランジ7と、ロータ8と、ステータ9と、を有して構成される。モータ軸6は、一端部がユニットカバー2に対し第1ベアリング11を介して回転可能に支持され、他端部が駆動出力軸10に対し第2ベアリング12を介して相対回転可能に支持される。ロータ8は、モータ軸6に固定されたロータフランジ7に嵌装され、図外の永久磁石を埋設した積層鋼板により構成される。ステータ9は、ユニットケース1の内面に固定される共にロータ8に対しエアギャップを介して配置され、打ち抜き積層鋼板によるステータティース9aのそれぞれにステータコイル9bを巻き付けることで構成される。
なお、ステータコイル9bには、U相・V相・W相に分けた接続端子15を介してハーネスが接続される。また、モータ軸6には、ギヤトレインGTのギヤ噛み合い部やベアリング等の必要部位を潤滑する潤滑油が供給される軸芯油路16が形成される。
【0019】
前記ギヤトレインGTは、ロータフランジ7を挟んだ
図1の右側スペースに配置され、サンギヤ17と、大ピニオン18と、小ピニオン19と、ピニオンキャリア20と、リングギヤ21と、を有する。そして、入力回転を減速して出力する遊星歯車式減速ギヤ機構を、リングギヤ固定・サンギヤ入力・ピニオンキャリア出力とすることにより構成している。サンギヤ17は、モータ軸6に一体に形成され、大ピニオン18と噛み合う。大ピニオン18と小ピニオン19は、隣接して一体構成され、ピニオンキャリア20に対して回転可能に支持される。リングギヤ21は、ユニットケース1に対しセレーション結合により回転方向に固定され、小ピニオン19と噛み合う。
【0020】
前記ピニオンキャリア20と一体に駆動出力軸10が設けられる。この駆動出力軸10は、一端側が小ピニオン19の内側まで軸方向に延び、他端側が出力軸側カバー4から突出するまで軸方向に延びた円筒スリーブ状に形成される。この駆動出力軸10の回転支持構造は、ピニオンキャリア20と共になされるもので、モータ軸6に対し第3ベアリング13を介して相対回転可能に支持され、出力軸側カバー4に対し第4ベアリング14を介して回転可能に支持される。
そして、駆動出力軸10の内面には、モータ軸6とギヤカップリング軸50とを隔てる位置に、隔壁シール部材22が油密状態で配置されている。つまり、隔壁シール部材22を、駆動ユニット本体Aと変位吸収機構Bを隔離する隔壁構造部材としている。
なお、ロータフランジ7を挟んだ
図1の左側スペースには、モータの回転角度を検出するレゾルバ23と、図外のパーキングポールの噛み合いによりモータ軸6を固定するパークギヤ24と、が配置される。
【0021】
[変位吸収機構の詳細構成]
図2は、車両用インホイールモータユニットを駆動ユニット本体Aと変位吸収機構Bとホイール構造Cに分けた構成を示し、
図3は、要部である変位吸収機構の拡大断面図を示す。以下、
図1〜
図3に基づき、変位吸収機構Bの詳細構成を説明する。
【0022】
図1に示す前記変位吸収機構Bは、単独で交換可能なギヤカップリング軸50を、駆動出力軸10とホイールハブ軸70に対し、変位を吸収しつつ駆動伝達可能に嵌合することで構成される。
【0023】
前記ギヤカップリング軸50は、ギヤ連結軸部51の両側位置にそれぞれ、第1外歯部52及び第1端部53と、第2外歯部54及び第2端部55と、設けて構成される。第1外歯部52は、駆動出力軸10の第1内歯部56に対して変位吸収可能にセレーション嵌合され、第1端部53は、隔壁シール部材22に対して球面接触可能とされる。第2外歯部54は、ホイールハブ軸70の第2内歯部57に対して変位吸収可能にセレーション嵌合され、第2端部55は、エンドキャップシール部材76に対して球面接触可能とされる。
【0024】
前記駆動出力軸10に形成された第1内歯部56と、ホイールハブ軸70に形成された第2内歯部57は、内歯の頂面と谷面を軸方向に直線で延びる円筒形状としている。これに対し、ギヤカップリング軸50に形成された第1外歯部52と第2外歯部54は、外歯の頂面と底面を球面形状にしている。これに加え、中央部歯厚を広くし両端部に向かうにしたがって歯厚を狭くしたクラウニング形状とし(
図3参照)、傾斜中心点Dと傾斜中心点Eを中心とするあらゆる方向の傾きを吸収する構造としている。第1端部53と第2端部55は、軸芯位置を最大突出面とする滑らかな球面形状とし、傾斜中心点Dと傾斜中心点Eの間に配置した変位(剛性)中心点Fを中心とする傾きに対しこれを吸収する構造としている。すなわち、第1外歯部52と第1内歯部56の噛み合いが、ギヤカップリング軸50と駆動出力軸10との出力軸側駆動伝達嵌合部58となる。また、第2外歯部54と第2内歯部57の噛み合いが、ギヤカップリング軸50とホイールハブ軸70とのハブ軸側駆動伝達嵌合部59となる(
図3参照)。
なお、ギヤカップリング軸50は、全周がシールされたカップリング空間に、図外の潤滑用のグリースG(
図6、
図7参照)と共に装着される。
【0025】
さらに、前記ギヤカップリング軸50は、軸方向の両端部が対称に形成されている。すなわち、第1外歯部52と第2外歯部54は、その歯数及び外歯の頂面と底面を球面形状が軸方向(
図1の左右方向)で対称に形成されている。また、第1端部53と第2端部55も、その形状が軸方向(
図1の左右方向)で対称に形成されている。
したがって、両外歯部52,54と噛み合う両内歯部56,57の歯数も同数に形成されている。
【0026】
[ホイール構造の詳細構成]
図2は、車両用インホイールモータユニットを駆動ユニット本体Aと変位吸収機構Bとホイール構造Cに分けた構成を示し、
図3は、要部である変位吸収機構の拡大断面図を示す。以下、
図1〜
図3に基づき、ホイール構造Cの詳細構成を説明する。
【0027】
前記ホイール構造Cは、ホイールハブ軸70と、ハブベアリング71と、アクスルケース72と、ブレーキディスク73と、タイヤホイール110と、を有して構成される。
【0028】
前記ホイールハブ軸70は、ギヤカップリング軸50を介して駆動出力軸10に連結される回転部材であり、ハブベアリング71のインナーレース機能を持たせている。このホイールハブ軸70のフランジ部70aには、ブレーキディスク73及びタイヤホイール110を図外のホイールナットにより共締めにて固定するホイールボルト75が予め固定される。また、ギヤカップリング軸50の第2端部55と接触するエンドキャップシール部材76が、スプリングピン77により端部位置に固定される。なお、タイヤホイール110の外周位置には、図外のタイヤが装着される。
【0029】
前記ハブベアリング71は、ホイールハブ軸70をアクスルケース72に対して支持するベアリングであり、2列のボールが背面合わせの接触角を持たせて配列させることで構成されている。このハブベアリング71は、ホイールハブ軸70をインナーレースとし、アクスルケース72をアウターレースとするベアリングであるため、ホイールハブ軸70とアクスルケース72のボール接触面に対し、浸炭焼き入れやショットピーニング等による表面硬化処理を施している。なお、ハブベアリング71には、潤滑のためのグリースが封入されている。
【0030】
前記アクスルケース72は、ボルト78によりユニットケース1と出力軸側カバー4に対して共締めに固定されるケース部材であり、ハブベアリング71のアウターレース機能を持たせている。このアクスルケース72には、ブレーキ部品として、ホイールシリンダ79が固定されると共に、一対のブレーキシュー80,80が支持されるブレーキキャリパ81が一体に延設される。また、アクスルケース72は、ブレーキディスク73を覆うと共に、ハブベアリング71への泥水の浸入を防止するスプラッシュガード82が固定される。さらに、アクスルケース72を出力軸側カバー4に固定することで、駆動ユニット本体Aとハブベアリング71との間に液体シール性を持たせた閉鎖空間90を形成し、この閉鎖空間90に車輪速を検出するABSセンサ91を配置している。ABSセンサ91は、センシング部品91aがアクスルケース72の上部位置に閉鎖空間90まで貫通して設けられ、ホイールハブ軸70に被センシング部品91bが圧入により固定される。
なお、閉鎖空間90には、外気と連通するブリーザー92が連結される(
図3参照)。
【0031】
[ギヤカップリング軸の組付構造の詳細構成]
次に、ギヤカップリング軸50の組付に関する構成について説明する。
ホイールハブ軸70は、ユニットケース1に対してハブベアリング71により支持された
図3に示す状態で、軸方向で駆動ユニット本体A側とは反対側の端部(図において右側の端部)に、開口部70bが設けられている。この開口部70bは、円筒状のホイールハブ軸70においてギヤカップリング軸50を収容する一般部70cよりも大径に形成されており、ギヤカップリング軸50を挿通可能な内径寸法に形成されている。また、開口部70bと一般部70cとの間には、径差により段部70dが形成されている。
【0032】
さらに、この開口部70bは、前述したエンドキャップシール部材76により塞がれている。
エンドキャップシール部材76は、金属あるいは樹脂により円盤状に形成され、外周部には、
図6に示すように、軸方向に延びるフランジ76fが形成され、このフランジ76fの外周に閉鎖空間90をシールするシール部材76aが設けられている。
【0033】
このエンドキャップシール部材76は、段部70dに突き当てられた状態で、着脱部材としてのスプリングピン77により開口部70bからの抜け止めが成されている。
すなわち、ホイールハブ軸70には、軸直交方向に貫通して一対の挿通孔70e,70eが開口されている。
さらに、エンドキャップシール部材76のフランジ76fには、挿通孔70e,70eと径方向で同軸の位置であって図において上下の2箇所に、スプリングピン77を貫通させる径方向で見てU字状の切欠部76b,76bが形成されている。
【0034】
また、スプリングピン77は、
図5A及び
図5Bに示すように、周方向の一箇所に、軸方向の全長に亘って切欠部77aが形成されている。これにより、スプリングピン77は、外径寸法を短縮させる方向に弾性変形可能であり、かつ、この短縮状態から拡径方向に復元可能に形成されている。
そして、スプリングピン77は、外力を加えない状態で、その外径寸法が、挿通孔70eの内径寸法よりも僅かに大きな寸法に形成されている。
【0035】
したがって、
図3に示す、組付状態では、エンドキャップシール部材76を開口部70bに挿入して段部70dに突き当てた状態で、スプリングピン77を、挿通孔70e,70e、切欠部76b,76b及び開口部70bに貫通させる。これにより、エンドキャップシール部材76は、軸方向への移動を、段部70d及びスプリングピン77により規制され、また、周方向への回動も、スプリングピン77により規制される。
【0036】
また、スプリングピン77は、挿通孔70eに対して挿通させる際には、その寸法差に基づいて、外径を縮める方向に弾性変形させるため、組付状態では、復元方向の弾性反発力により、挿通孔70eに対する軸方向の変位が規制される。
【0037】
さらに、挿通孔70e,70eは、
図1に示すように、ホイールハブ軸70に装着されたタイヤホイール110の取付穴111の内周により覆われている。これにより、タイヤホイール110の装着状態では、スプリングピン77の抜け止めがタイヤホイール110により成される。また、取付穴111は、キャップ112により塞がれ、エンドキャップシール部材76やスプリングピン77への泥水などの浸入が規制される。
【0038】
[変位吸収機構の嵌合部耐摩耗性の詳細設定構成]
上記のように、変位吸収機構Bは、駆動出力軸10との出力軸側駆動伝達嵌合部58と、ホイールハブ軸70とのハブ軸側駆動伝達嵌合部59と、を有する。そして、上述した出力軸側駆動伝達嵌合部58とハブ軸側駆動伝達嵌合部59のうち、交換作業性が困難な部品側の嵌合部耐摩耗性を、交換作業性が容易な部品側の嵌合部耐摩耗性より相対的に高めた設定としている。
【0039】
すなわち、変位吸収機構Bは、単独で交換可能なギヤカップリング軸50を有する。ギヤカップリング軸50は、上述のエンドキャップシール部材76を取り外して単独で交換可能となっている。そこで、この単独で交換可能なギヤカップリング軸50は、変位吸収機構Bにおいて、駆動出力軸10とホイールハブ軸70よりも交換作業性が容易な部品になる。このため、交換作業性が困難な部品である駆動出力軸10とホイールハブ軸70の嵌合部耐摩耗性を、交換作業性が容易な部品である変位吸収機構Bのギヤカップリング軸50の嵌合部耐摩耗性よりも相対的に高めている。
【0040】
前記ギヤカップリング軸50の第1外歯部52と第2外歯部54は、外歯の頂面と底面を球面形状にすると共に、歯面にクラウニングを付けた変位吸収構造を有する。これは、変位吸収機構Bにてホイールハブ軸70が平行変位・傾き変位・軸方向変位の何れの変位を生じても、これらの変位を吸収し、ギヤトレインGTのギヤ噛み合い部での摩耗を抑制するためである。言い換えると、出力軸側駆動伝達嵌合部58での第1外歯部52と第1内歯部56の噛み合い位置と、ハブ軸側駆動伝達嵌合部59での第2外歯部54と第2内歯部57の噛み合い位置を、摩耗部位として積極的に規定するためである。
【0041】
そして、出力軸側駆動伝達嵌合部58及びハブ軸側駆動伝達嵌合部59の互いに嵌合する嵌合面の表面硬度に高低差を与えることで、嵌合部耐摩耗性に差を持たせている。具体的には、出力軸側駆動伝達嵌合部58の第1外歯部52と第1内歯部56及びハブ軸側駆動伝達嵌合部59の第2外歯部54と第2内歯部57は、何れも浸炭熱入れやショットピーニング等により表面硬化処理が施される。この表面硬化処理において、温度条件や時間条件等の処理条件を異ならせることで、第1内歯部56及び第2内歯部57の表面硬度(歯面強度)を、ギヤカップリング軸50の第1外歯部52と第2内歯部57の表面硬度(歯面強度)よりも高めて設定している。
【0042】
次に、作用を説明する。
実施の形態1の車両用インホイールモータユニットにおける作用を、[変位吸収機構での変位吸収作用]、[変位吸収機構の組立方法]、[変位吸収機構の部品修理/部品交換作用]に分けて説明する。
【0043】
[変位吸収機構での変位吸収作用]
例えば、高負荷での長期使用によりハブベアリング71のレース面摩耗が進行すると、ハブベアリング71に支持されるホイールハブ軸70が変位したり傾いたりする。このホイールハブ軸70の変位/傾きは、駆動ユニット本体AのギヤトレインGTやモータジェネレータMGへ伝達されることにより、
(1)異音・振動 :ギヤ歯の片当たりによるギヤノイズ
(2)ギヤ寿命の低下 :ギヤ歯の片当たりによる極部応力/面圧増加
(3)フリクション増加:ギヤ歯面間バックラッシ変化による損失増加
(4)モータ性能 :モータエアーギャップ変化による出力低下やトルク変動等の問題を生じさせる。
【0044】
したがって、ホイールハブ軸70の変位/傾きをギヤトレインGTやモータジェネレータMGへ伝達することを防止/抑制することにより、ギヤトレインGTのギヤ噛み合い部やモータジェネレータMGへの影響を防止/抑制する変位吸収機構Bが必要である。以下、
図4A〜
図4Dに基づき、変位吸収機構Bでの変位吸収作用を説明する。
【0045】
ホイールハブ軸70が、
図4Aの非変位状態から
図4Bに示すように、軸直角方向へyだけ平行変位する場合、この平行変位を出力軸側駆動伝達嵌合部58とハブ軸側駆動伝達嵌合部59による2つの自在継手作用によりギヤカップリング軸50の図示した傾斜を介して吸収することができる。よって、ホイールハブ軸70の平行変位が駆動出力軸10に影響してこれを変位させるようなことがない。
【0046】
また、ホイールハブ軸70が、
図4Aの非変位状態から
図4Cに示すように、変位中心点Fの周りにθだけ傾き変位(首振り変位)する場合も、この傾き変位を出力軸側駆動伝達嵌合部58とハブ軸側駆動伝達嵌合部59による2つの自在継手作用によりギヤカップリング軸50の図示した傾斜を介して吸収することができる。よって、ホイールハブ軸70の傾き変位が駆動出力軸10に影響してこれを変位させるようなことがない。
【0047】
さらに、ホイールハブ軸70が、
図4Aの非変位状態から
図4Dに示すように、軸線方向へXだけ軸方向変位した場合も、この軸方向変位を出力軸側駆動伝達嵌合部58とハブ軸側駆動伝達嵌合部59のうち、少なくとも一方によるスライド作用により吸収することができる。よって、ホイールハブ軸70の軸方向変位が駆動出力軸10に影響してこれを変位させるようなことがない。
【0048】
このように、変位吸収機構Bの変位中心点F(ハブベアリング71の2列のボール中心位置)を、傾斜中心点D,Eの間の位置に配置する構成とすることで、ホイールハブ軸70が平行変位・傾き変位・軸方向変位の何れの変位を生じても、これらの変位を出力軸側駆動伝達嵌合部58とハブ軸側駆動伝達嵌合部59が確実に吸収し得る。すなわち、ホイールハブ軸70の変位が駆動出力軸10に及んでこれを対応方向へ変位させるようなことがない。
【0049】
したがって、車両用インホイールモータユニットは、ホイールハブ軸70の変位が、駆動出力軸10からギヤトレインGT及びモータジェネレータMGに伝達されるのを、変位吸収機構Bによって防止することができる。この結果、上記(1)〜(4)の何れの問題をも生じさせることがない。
【0050】
[変位吸収機構の組立方法]
次に、実施の形態1の車両用インホイールモータユニットの変位吸収機構Bの組立方法について、
図6〜
図10に基づいて順を追って説明する。
(ホイールハブ軸組付工程)
まず、
図6に示すように、駆動ユニット本体Aにホイールハブ軸70を組み付ける。この組付状態で、駆動出力軸10とホイールハブ軸70とは、同軸に配置されて、その軸心部に、ギヤカップリング軸50を配置するギヤ孔120が形成される。
【0051】
(グリース充填工程)
次に、ギヤ孔120に潤滑用のグリースGを充填する。
また、充填したグリースGは、刷毛などを用いて、ギヤ孔120の全体に塗布する。
さらに、このグリースGを、
図7において、二点鎖線Hgにて示す範囲であるギヤカップリング軸50の両外歯部52,54及び両端部53,55にも塗布する。
このグリース充填工程によるグリースGの充填対象は、ケース部材としてのユニットケース部材100に支持されてフローティング状態ではないため、作業が容易である。加えて、このグリースGにより出力軸側駆動伝達嵌合部58及びハブ軸側駆動伝達嵌合部59の潤滑性が維持される。
【0052】
(ギヤカップリング軸係合工程)
次に、ギヤカップリング軸50を、ギヤ孔120に対して、ホイールハブ軸70の開口部70bから、矢印Cinに示す方向に挿入し、ギヤカップリング軸50の各外歯部52,54を、それぞれ、
図8に示すように、各内歯部56,57に係合させる。
これにより、ギヤカップリング軸50は、両嵌合部58,59により軸方向両端の支持されたフローティング支持状態となる。
このように、ギヤカップリング軸50をフローティング支持状態とする際の作業は、ホイールハブ軸70の先端に設けられた開口部70bから、一本のギヤカップリング軸50を挿入することで行なうことができる。
このため、従来のように、長尺の2本の軸を、孔の中央で、スリーブで連結する構造と比較して、作業性に優れる。
加えて、ギヤカップリング軸50の軸方向両端の各外歯部52,54を係合相手の各内歯部56,57は、ユニットケース部材100側に支持されているため、従来のように係合対象がフローティング状態である場合と比較して、係合作業が容易である。
【0053】
また、ギヤカップリング軸50の挿入に伴い、余剰分のグリースGaが、
図8に示すように、開口部70b側に漏れ出す。この余剰分のグリースGaのうち、図示のように、開口部70bの周縁に付着したものは、第2端部55の端面に塗布する(この塗布分がグリースGbである)。その後、このグリースGaのうち、段部70dなどのエンドキャップシール部材76を装着する部分に残ったものは拭き取る。
【0054】
(エンドキャップシール部材装着工程(蓋部材装着工程))
次に、開口部70bをエンドキャップシール部材76により塞ぐ。
この場合、まず、
図9に示すように、エンドキャップシール部材76を開口部70bに差し込み、さらに、
図10に示すように、段部70dに突き当てる。
そして、エンドキャップシール部材76のフランジ76fの切欠部76bの周方向の位置を、ホイールハブ軸70の挿通孔70e,70eの周方向の位置に一致させ、両者76b,70eを径方向の内外に重ねる。
【0055】
次に、挿通孔70e,70eに対して、スプリングピン77を軸直交方向に差し込み、
図10に示すように、スプリングピン77を挿通孔70e,70eに埋没状態とする。このとき、スプリングピン77は、挿通孔70eとの径差に基づいて縮径方向に弾性変形されるため、拡径方向の弾性力により挿通孔70eに圧を持って当接され、挿通孔70eからの抜け落ちが規制される。
このように、開口部70bは、単にエンドキャップシール部材76により塞ぐため、この開口を、ハブ、軸受け、出力側の軸などを備えたホイール側蓋により塞ぐ作業と比較して、作業性に優れる。
また、このように、ギヤカップリング軸50を収容したギヤ孔120は、エンドキャップシール部材76によりシール性を有して塞がれるため、グリースGが漏れ出すのを防いで、潤滑性を保持できる。
【0056】
その後、
図1に示すように、タイヤホイール110を、ホイールハブ軸70に組み付けた状態としたときに、スプリングピン77の軸方向の端部は、ホイールハブ軸70に覆われる。これにより、スプリングピン77は、タイヤホイール110により抜け止めされた状態となる。
【0057】
[変位吸収機構の部品修理/部品交換作用]
動力を伝達しつつ変位を吸収する変位吸収機構Bには、高い負荷が作用するため、長期使用により部品摩耗が進行すると、部品交換が必要となる。以下、これを反映する変位吸収機構Bの部品修理/部品交換作用を説明する。
【0058】
まず、変位吸収機構の駆動伝達嵌合部において、強度(硬度)差が同等な場合、若しくは、交換作業性が困難な部品側の強度(硬度)が小さい場合を比較例とする。
この比較例の場合には、下記の問題点がある。
(b1)万一摩耗や破損が生じた際に交換作業性が困難な部品の摩耗(増大)が発生し、交換作業性の悪化や、修理費用の増大となる。
(b2)点検の際も、(双方の部品に対して摩耗が発生する可能性があるため)双方の部品共に点検を要することとなり、不具合の兆候を発見することが困難となるため、信頼性が悪化する。
(b3)変位吸収機構が駆動ユニット本体に対し、単独で交換可能な構造となっていない場合、摩耗発生後の修理/部品交換作業性が著しく悪化することとなり、修理費用の増大と信頼性の維持管理性はさらに悪化する。
【0059】
これに対し、実施の形態1では、変位吸収機構Bの出力軸側駆動伝達嵌合部58とハブ軸側駆動伝達嵌合部59において、耐摩耗性に差を持たせる構成を採用した。
したがって、出力軸側駆動伝達嵌合部58とハブ軸側駆動伝達嵌合部59の部品間において、交換作業性が困難な部品の耐摩耗性を相対的に高くすることにより、万一摩耗や破損が生じた際に交換作業性が困難な部品の摩耗(増大)を防止することができる。これにより、交換作業性の向上や、修理費用を低減することができる。
【0060】
すなわち、駆動出力軸10に形成された第1内歯部56と、ホイールハブ軸70に形成された第2内歯部57に対し、ギヤカップリング軸50に形成された第1外歯部52と第2外歯部54との表面硬度を相対的に低くしている。これにより、万一摩耗が生じた場合には、ギヤカップリング軸50側の第1外歯部52と第2外歯部54のみが摩耗するというように、摩耗部品がギヤカップリング軸50に規定される。このため、部品修理や部品交換は、ギヤカップリング軸50のみで良くなるため、修理費用や交換費用の削減が可能である。また、点検の際も、相対的に耐摩耗性が低い方の部品(ギヤカップリング軸50)を優先して確認を行うことにより、不具合の兆候を発見することが可能となるため、信頼性が向上する。
【0061】
ここで、単独で交換可能なギヤカップリング軸50の取り外し作業について説明すると、この作業は、
図9に基づいて説明した組立手順と逆になる。
すなわち、部品修理や部品交換や点検の際、ギヤカップリング軸50の取り外すときは、まず、ハブボルトを緩めてタイヤホイール110を外す。次に、スプリングピン77を、ピン抜き治具を用いて抜き、ギヤカップリング軸50の第2端部55と接触するエンドキャップシール部材76を外す。次に、第2端部55が露出したギヤカップリング軸50を、全周がシールされたカップリング空間から抜き出す。以上の手順によりギヤカップリング軸50が単独で取り外される。そして、ギヤカップリング軸50の摩耗や破損の度合いを検証し、交換が必要なときは、ギヤカップリング軸50を新品に交換し、前述の
図8、
図9に基づいて説明した組立手順にて組み付ける。また、修理で補修できるときは、ギヤカップリング軸50の補修を行った後、補修後のギヤカップリング軸50を、組み付ける。
【0062】
[実施の形態1の効果]
次に、実施の形態1の効果を説明する。
実施の形態1の車両用インホイールモータユニットにあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
(a) 実施の形態1の車両用インホイールモータユニットは、
駆動ユニット本体Aからの駆動出力軸10と、駆動ユニット本体Aのケース部材としてのユニットケース部材100に対しハブベアリング71により支持されたホイールハブ軸70とを、変位吸収機構Bを介して連結した車両用インホイールモータユニットにおいて、
前記変位吸収機構Bは、前記駆動出力軸10の第1内歯部56とギヤカップリング軸50の第1外歯部52とが噛み合う出力軸側駆動伝達嵌合部58と、前記ホイールハブ軸70の第2内歯部57と前記ギヤカップリング軸50の第2外歯部54とが噛み合うハブ軸側駆動伝達嵌合部59と、を有し、
前記ホイールハブ軸70において軸方向で前記駆動ユニット本体A側とは反対側の端部に、前記ギヤカップリング軸50を挿通可能な開口部70bが設けられ、
この開口部70bを塞ぐ蓋部材としてのエンドキャップシール部材76が前記ホイールハブ軸70に設けられていることを特徴とする。
このため、ギヤカップリング軸50をフローティング支持状態とする際の作業は、ホイールハブ軸70の先端に設けられた開口部70bから、一本のギヤカップリング軸50を挿入することで行なうことができる。よって、従来のように、長尺の2本の軸を、孔の中央で、スリーブで連結する構造と比較して、作業性に優れる。
また、開口部70bは、蓋部材としてのエンドキャップシール部材76により塞ぐため、ギヤカップリング軸50を収容するギヤ孔120の機密性は保持され、グリースGの漏れや、泥水などの浸入を防止することができる。
特に、実施の形態1では、エンドキャップシール部材76にシール部材76aを設けているため、高いシール性を得ることができる。
【0063】
(b) 実施の形態1の車両用インホイールモータユニットは、
前記蓋部材としてのエンドキャップシール部材76を、前記ホイールハブ軸70に対して固定した状態と、前記ホイールハブ軸70からの取り外しを可能な状態とに変位可能な着脱部材としてのスプリングピン77を備えていることを特徴とする。
したがって、スプリングピン77を、ホイールハブ軸70から外せば、エンドキャップシール部材76もホイールハブ軸70から取り外し、開口部70bを開口することが可能である。
よって、必要に応じて、ギヤカップリング軸50を開口部70bから抜き出すことが可能である。
このように、駆動ユニット本体Aにホイールハブ軸70が取り付けられている状態でも、エンドキャップシール部材76をホイールハブ軸70から取り外し、ギヤカップリング軸50を取り出すことが可能である。よって、ギヤカップリング軸50の修理や交換などの変位吸収機構Bのメンテナンス性が向上する。
また、エンドキャップシール部材76をスプリングピン77によりホイールハブ軸70に固定しているため、固定に要する軸方向寸法を短くすることができる。すなわち、例えば、蓋部材の外周に雄ねじを形成し、開口部70bの内周に雌ねじを形成したものと比較して、ねじを形成しない分だけ、固定に必要な軸方向寸法を抑えることができる。これにより、駆動ユニット本体Aからタイヤホイール110までの軸方向寸法を抑えて、車載性を向上できる。
加えて、実施の形態1では、1本のスプリングピン77を、ホイールハブ軸70に対して径方向に貫通させて、エンドキャップシール部材76の抜け止めを行なうため、複数個所に着脱部材を設けるものと比較して、安価に実施可能である。
【0064】
(c) 実施の形態1の車両用インホイールモータユニットは、
前記ホイールハブ軸70に軸直交方向に貫通して挿通孔70e,70eが開口され、
この挿通孔70e,70eに抜き差し可能に、前記着脱部材としてのスプリングピン77が挿通され、
前記挿通孔70eの外径側が、前記ホイールハブ軸70に装着されたタイヤホイール110により覆われていることを特徴とする。
したがって、スプリングピン77の抜け止めがタイヤホイール110により成されるため、別途、抜け止め用の部材を設けることなく、安価に、スプリングピン77の抜け止めを確実に行うことができる。
【0065】
(d) 実施の形態1の車両用インホイールモータユニットは、
前記ギヤカップリング軸50は、両外歯部52,54を含む軸方向両端部が対称に形成されていることを特徴とする。
したがって、ギヤカップリング軸係合工程においてギヤカップリング軸50を開口部70bから挿入する際に、軸方向のどちら側の端部から挿入してもよく、ギヤカップリング軸50の挿入方向を間違えた誤組付の発生を防止できる。
【0066】
(e) 実施の形態1の車両用インホイールモータユニットは、
エンドキャップシール部材76には、スプリングピン77を前記挿通孔70eに挿通した状態で、周方向に係合する係合部としての切欠部76bを設けたことを特徴とする。
したがって、スプリングピン77の装着状態では、エンドキャップシール部材76の抜け止めだけではなく、ホイールハブ軸70に対して周方向に相対回動するのも規制される。
これにより、エンドキャップシール部材76がホイールハブ軸70に対して周方向に相対回動するものと比較して、シール性能の悪化を抑制できる。また、エンドキャップシール部材76の回動規制を、抜き止め用のスプリングピン77を利用して行なうため、別途、回動規制用の部材を設けるものと比較して、部品点数を削減して、コスト低減を図ることが可能である。
【0067】
(f)実施の形態1の車両用インホイールモータユニットは、
駆動ユニット本体Aからの駆動出力軸10と、ケース部材(アクスルケース72)に対しハブベアリング71により支持されたホイールハブ軸70を、変位吸収機構Bを介して連結した車両用インホイールモータユニットにおいて、
前記変位吸収機構Bは、前記駆動出力軸10との出力軸側駆動伝達嵌合部58と、前記ホイールハブ軸70とのハブ軸側駆動伝達嵌合部59と、を有し、
前記出力軸側駆動伝達嵌合部58と前記ハブ軸側駆動伝達嵌合部59のうち、交換作業性が困難な部品側の嵌合部耐摩耗性を、交換作業性が容易な部品側の嵌合部耐摩耗性より相対的に高めたことを特徴とする。
このため、変位吸収機構Bでの摩耗発生に対し、摩耗発生後の部品修理/部品交換の作業性向上と変位吸収機構Bの信頼性向上を図ることができる。
【0068】
(g)実施の形態1の車両用インホイールモータユニットは、
前記変位吸収機構Bを、単独で交換可能とし、
前記出力軸側駆動伝達嵌合部58及び前記ハブ軸側駆動伝達嵌合部59により互いに嵌合する部品のうち、交換作業性が困難な部品である前記駆動出力軸10と前記ホイールハブ軸70の嵌合部耐摩耗性を、交換作業性が容易な部品である前記変位吸収機構Bの嵌合部耐摩耗性より相対的に高めたことを特徴とする。
このため、上記(f)の効果に加え、修理/交換作業や点検作業を行う際、変位吸収機構Bを単独で取り外すだけでよく、部品修理/部品交換の作業性をさらに向上させることができる。
【0069】
(h)実施の形態1の車両用インホイールモータユニットは、
前記変位吸収機構Bは、前記開口部70bから出し入れして単独で交換可能なギヤカップリング軸50を有し、
前記ギヤカップリング軸50は、ギヤ連結軸部51の一端側に形成された第1外歯部52が前記駆動出力軸10の第1内歯部56に対してセレーション嵌合することで出力軸側駆動伝達嵌合部58を構成し、前記ギヤ連結軸部51の他端側に形成された第2外歯部54が前記ホイールハブ軸70の第2内歯部57に対してセレーション嵌合することでハブ軸側駆動伝達嵌合部59を構成したことを特徴とする。
このため、上記(g)の効果に加え、修理/交換作業や点検作業を行う際、第1内歯部56と第2内歯部57に対してセレーション嵌合されたギヤカップリング軸50を、単独で抜き取るだけの作業により容易に取り外すことができる。
【0070】
(i)実施の形態1の車両用インホイールモータユニットは、
前記ギヤカップリング軸50の第1外歯部52と第2外歯部54は、外歯の頂面と底面を球面形状にすると共に、歯面にクラウニングを付けた変位吸収構造を有することを特徴とする。
このため、上記(h)の効果に加え、駆動ユニット本体A側のギヤ噛み合い部での摩耗が抑制され、出力軸側駆動伝達嵌合部58とハブ軸側駆動伝達嵌合部59の噛み合い位置を、摩耗部位として積極的に規定することができる。
【0071】
(j)実施の形態1の車両用インホイールモータユニットは、
前記出力軸側駆動伝達嵌合部58及び前記ハブ軸側駆動伝達嵌合部59の互いに嵌合する嵌合面の表面硬度に高低差を与えることで、嵌合部耐摩耗性に差を持たせたことを特徴とする。
このため、(f)〜(i)の効果に加え、駆動伝達嵌合面に施される表面硬化処理を異ならせるだけで、簡単に嵌合部耐摩耗性に差を持たせることができる。
【0072】
さらに、実施の形態1の車両用インホイールモータユニットにおける変位吸収機構組立方法にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
(A) 実施の形態1の車両用インホイールモータユニットの変位吸収機構組立方法は、
駆動ユニット本体Aからの駆動出力軸10と、前記駆動ユニット本体Aのケース部材としてのユニットケース部材100に対しハブベアリング71により支持されたホイールハブ軸70とが、変位吸収機構Bを介して連結され、
前記変位吸収機構Bは、前記駆動出力軸10の第1内歯部56とギヤカップリング軸50の第1外歯部52とが噛み合う出力軸側駆動伝達嵌合部58と、前記ホイールハブ軸70の第2内歯部57と前記ギヤカップリング軸50の第2外歯部54とが噛み合うハブ軸側駆動伝達嵌合部59と、を有し、
前記ホイールハブ軸70において軸方向で前記駆動ユニット本体A側とは反対側の端部に、前記ギヤカップリング軸50を挿通可能な開口部70bが設けられた車両用インホイールモータユニットの変位吸収機構組立方法であって、
前記ケース部材としてのユニットケース部材100に、前記ホイールハブ軸70を組み付けるホイールハブ組付工程と、
このホイールハブ組付工程の後に、前記開口部70bから前記ギヤカップリング軸50を挿入し、前記第1外歯部52を前記第1内歯部56に係合させるとともに、前記第2外歯部54を前記第2内歯部57に係合させるギヤカップリング軸係合工程と、
を実行することを特徴とする。
したがって、ギヤカップリング軸50をフローティング支持状態とする際の作業は、ホイールハブ軸70の先端に設けられた開口部70bから、一本のギヤカップリング軸50を挿入することで行なうことができる。このため、従来のように、長尺の2本の軸を、孔の中央で、スリーブで連結する構造と比較して、作業性に優れる。
加えて、ギヤカップリング軸50の軸方向両端の各外歯部52,54を係合相手の各内歯部56,57は、ユニットケース部材100側に支持されているため、従来のように係合対象がフローティング状態である場合と比較して、係合作業が容易である。
【0073】
(B) 実施の形態1の車両用インホイールモータユニットの変位吸収機構組立方法は、
前記ホイールハブ組付工程の実施後、前記ギヤカップリング軸係合工程の実施前に、前記開口部70bから前記ホイールハブ軸70及び前記駆動出力軸10の内周にグリースを充填するグリース充填工程を実行することを特徴とする。
このように、グリース充填工程によるグリースGの充填対象は、ケース部材としてのユニットケース部材100に支持されておりフローティング状態ではない。このため、フローティング状態のものに対してグリースGを充填あるいは塗布する作業と比較して、作業が容易である。
【0074】
(C) 実施の形態1の車両用インホイールモータユニットの変位吸収機構組立方法は、
前記ギヤカップリング軸係合工程の実施後、前記開口部70bを、蓋部材としてのエンドキャップシール部材76により塞ぐ蓋部材装着工程を実施することを特徴とする。
したがって、開口部70bは、単にエンドキャップシール部材76により塞ぐため、この開口を、ハブ、軸受け、出力側の軸などを備えたホイール側蓋により塞ぐ作業と比較して、作業性に優れる。
また、このように、ギヤカップリング軸50を収容したギヤ孔120は、エンドキャップシール部材76によりシール性を有して塞がれるため、グリースGが漏れ出すのを防いで、潤滑性を保持できる。
【0075】
(D) 実施の形態1の車両用インホイールモータユニットの変位吸収機構組立方法は、
前記蓋部材装着工程では、前記蓋部材としてのエンドキャップシール部材76により前記ホイールハブ軸70の前記開口部70bを塞いだ後、前記ホイールハブ軸70に軸直交方向に貫通して形成された挿通孔70eに、スプリングピン77を挿通して前記蓋部材としてのエンドキャップシール部材76の抜け止めを行なうことを特徴とする。
したがって、エンドキャップシール部材76の抜け止め作業が、単にスプリングピン77を、挿通孔70eを挿通させてホイールハブ軸70に対して貫通させるだけの作業であるため、ボルトなどの締結作業と比較して作業性に優れる。
【0076】
(他の実施の形態)
以下に、他の実施の形態の車両用インホイールモータユニットについて説明する。
なお、以下に説明する他の実施の形態は、実施の形態1の変形例であるため、実施の形態1と共通する構成には実施の形態1と同じ符号を付して説明を省略し、実施の形態1との相違点のみ説明する。
【0077】
(実施の形態2)
実施の形態2の車両用インホイールモータユニットは、ギヤカップリング軸の構成が実施の形態1と異なる。
【0078】
[ギヤカップリング軸の詳細構成]
図12は実施の形態2の車両用インホイールモータユニットにおける変位吸収機構のギヤカップリング軸の組付け前状態を示す説明図である。以下、
図12に基づきギヤカップリング軸の詳細構成を説明する。
図12に示すように、ギヤカップリング軸500は、第1内歯部56と第2内歯部57と隔壁シール部材22とエンドキャップシール部材76に囲まれたギヤカップリング空間Kに、図外の潤滑用のグリースGと共に装着される。
ここで、前記ギヤカップリング空間Kは、隔壁シール部材22の周面に嵌着されたOリング22aと、エンドキャップシール部材76の周面に嵌着されたシール部材(Oリング)76a(
図15参照)と、駆動出力軸10とホイールハブ軸70の間をシールするグリスシール91cと、によって全周が油密状態にシールされた閉鎖空間となっている。
【0079】
そして、前記ギヤカップリング軸500のギヤ連結軸部51には、一端側と他端側を連通する連通路60が設けられている。
前記連通路60の一端は、
図11に拡大して示すように、ギヤ連結軸部51の一端面51aであって、第1外歯部52の歯元位置52aと第1端部53の外周位置53aとの間に開放し、ギヤカップリング軸50を軸方向に貫通している。また、連通路60の他端は、ギヤ連結軸部51の他端面51bであって、第2外歯部54の歯元位置54aと第2端部55の外周位置55aとの間に開放し、ギヤカップリング軸50を軸方向に貫通している。なお、ここでは、連通路60は、第1端部53及び第2端部55を取り囲むように複数設けられている。
また、この連通路60の内径寸法は、ギヤカップリング空間Kに封入された潤滑用のグリースG(
図12参照)を流通可能な寸法に設定される。
【0080】
次に、作用を説明する。
実施の形態2の車両用インホイールモータユニットの変位吸収機構におけるギヤカップリング軸組付け時通気作用について説明する。
[ギヤカップリング軸組付け時通気作用]
図12〜
図15は、実施の形態2の車両用インホイールモータユニットの変位吸収機構におけるギヤカップリング軸の組付け状態の各段階を示す説明図である。以下、
図12〜
図15に基づき、ギヤカップリング軸組付け時通気作用について説明する。
【0081】
実施の形態2の車両用インホイールモータユニットの変位吸収機構において、ギヤカップリング軸50は、駆動ユニット本体A及びホイール構造C(
図12では図示省略)に対して単独で交換可能となっている。
つまり、この変位吸収機構を組み立てるには、まず、
図12に示すように、予め組み立てた駆動ユニット本体Aに、ハブベアリング71を介してホイールハブ軸70が取り付けられたアクスルケース72を、ボルト78によって固定する。これにより、駆動出力軸10の隔壁シール部材22、第1内歯部56、第2内歯部57に囲まれたギヤカップリング空間Kが形成される。
なお、このとき、スプリングピン77は引き抜かれ、エンドキャップシール部材76は取り外されている。しかしながら、隔壁シール部材22と駆動出力軸10との間はOリング22aによって油密状態にシールされ、駆動出力軸10とホイールハブ軸70との間はグリスシール91cによって油密状態にシールされている。すなわち、ギヤカップリング軸50の組付前のギヤカップリング空間Kは、ホイール構造C側が開放しているものの、駆動ユニット本体A側及び周囲は密閉された状態になっている。
【0082】
そして、このような状態のギヤカップリング空間Kにギヤカップリング軸50を装着するには、まず、ギヤカップリング空間K内に潤滑用のグリースGを流し込む。続いて、ギヤカップリング軸50の、第1外歯部52及び第1端部53が設けられた一端側(
図12においてAAで示す部分)をギヤカップリング空間Kに向けた状態にする。そして、ギヤカップリング軸50を軸方向に移動させ、この一端側(AA)からギヤカップリング空間K内に挿入する。
【0083】
ギヤカップリング軸50は、ギヤカップリング空間Kに入り込むと、第1外歯部52と第2外歯部54が同形であり、第1内歯部56と第2内歯部57が同形であるため、
図13に示すように、まず第1外歯部52がホイールハブ軸70に形成された第2内歯部57に対し噛合った状態となる。ここで、第1外歯部52と第1内歯部56との間、及び、第2外歯部54と第2内歯部57との間の隙間がほぼ生じていないことから、第1外歯部52と第2内歯部57とが噛合った際も、第1外歯部52と第2内歯部57との間に隙間はほぼ生じることはない。
【0084】
このため、第1外歯部52と第2内歯部57とが噛合った状態では、隔壁シール部材22とギヤカップリング軸50との間のギヤカップリング空間Kは、ギヤカップリング軸50によって封鎖された状態なる。そして、この状態でギヤカップリング軸50を軸方向に移動させると、ギヤカップリング空間Kの容積が次第に小さくなる。
【0085】
これに対し、ギヤカップリング軸50のギヤ連結軸部51には、一端側と他端側を連通する連通路60が形成されている。そのため、
図13に矢印で示すように、ギヤカップリング空間K内の空気は、連通路60内に流れ込む。ここで、連通路60は、他端部50b側の開口が大気開放しているので、ギヤカップリング空間K内の空気は連通路60を介して大気へと流出し、ギヤカップリング空間K内の圧力上昇が抑制される。
【0086】
そして、さらにギヤカップリング軸50を軸方向に移動させ、
図14に示すように、第1外歯部52と第2内歯部57との噛合いが解除されると、ギヤカップリング空間K内の空気は、連通路60だけでなく、第1外歯部52の歯の間及び第2内歯部57の歯の間を通り、大気へと流れ出る。これにより、ギヤカップリング空間K内の圧力上昇が抑制される。
なお、このとき、ギヤカップリング軸50がグリースGに接触すれば、グリースGは、一部の連通路60に入り込み、余分なグリースGはギヤカップリング空間Kから排出される。
【0087】
さらに、ギヤカップリング軸50を軸方向に移動させ、
図15に示すように、第1外歯部52と第1内歯部56とが噛合い、第2外歯部54と第2内歯部57とが噛合うと、再びギヤカップリング空間Kはギヤカップリング軸50によって封鎖された状態になる。
しかしながら、ギヤカップリング空間K内の空気は連通路60内に流れ込み、この連通路60を介して大気へと流出し、ギヤカップリング空間K内の圧力上昇が抑制される。また、余分なグリースGも連通路60を介して排出される。
【0088】
そして、ギヤカップリング軸50がギヤカップリング空間K内に完全に入り込み、第1端部53が隔壁シール部材22に接触したら、エンドキャップシール部材76をホイールハブ軸70の内側に配置し、スプリングピン77を装着して固定する。
【0089】
このように、ギヤカップリング空間K内にギヤカップリング軸50を挿入していく際、第1外歯部52及び第2外歯部54と、第1内歯部56及び第2内歯部57とが噛合った時には、ギヤカップリング空間Kが、ギヤカップリング軸50によって封鎖された状態になる。しかし、このとき、ギヤ連結軸部51に設けた連通路60を介して、ギヤカップリング空間K内の空気を大気へ逃がすことができるため、ギヤカップリング空間K内の圧力上昇を抑えながら、ギヤカップリング軸50を挿入し、ギヤカップリング空間Kに装着することができる。
【0090】
なお、ギヤカップリング空間K内の空気を大気へ逃がすことができないと、ギヤカップリング軸50の挿入に伴ってギヤカップリング空間K内の圧力が高まってしまう。そして、これにより、ギヤカップリング空間KをシールするOリング22aやグリスシール91cへの圧力負担が高くなり、シール変形を生じるという問題が生じるおそれがある。しかも、グリスシール91cはリップシールであるため、ギヤカップリング空間K内の圧力が高くなると、グリースGの漏れを抑えきれずにめくれてしまい、破損するおそれもあった。
また、ギヤカップリング空間K内の圧力が上昇することで、ギヤカップリング軸50の挿入抵抗が高まり、挿入させにくくなるという問題もあった。
【0091】
これに対し、実施の形態2の車両用インホイールモータユニットの変位吸収構造では、ギヤカップリング空間K内の圧力上昇を抑えながら、ギヤカップリング軸50の装着ができるので、ギヤカップリング空間KをシールするOリング22aやグリスシール91cへの圧力負担が高くならず、シール変形を防止することができる。また、ギヤカップリング空間K内の圧力が高くならないので、ギヤカップリング軸50を円滑に挿入することができる。
特に、トルク反動制御等のインホイールモータシステムにおける制御性の向上要求が高い場合では、噛合った歯部間のがたつき音の発生を抑制するために、グリースGの粘度を増加させる必要がある。この場合であっても、連通路60を設定したことで、グリースGによってグリスシール91cが圧迫されることを防止でき、シール変形やシール破損を防止することができる。
【0092】
しかも、実施の形態2では、連通路60の内径寸法を、グリースGの流通が可能な寸法に設定しているため、余分なグリースGの排出も円滑に行うことができ、グリスシール91cヘの圧力負担をさらに低減して、シール破損を防止することができる。
【0093】
なお、
図12〜
図15では、ギヤカップリング軸50を装着する際の空気の流れを示したが、例えば、
図15のようにギヤカップリング軸50をギヤカップリング空間Kから引き抜く際であっても、ギヤカップリング空間K内の圧力変動を抑制しながら、ギヤカップリング軸50を引き抜くことができる。
すなわち、ギヤカップリング軸50をギヤカップリング空間Kから引き抜いていくと、連通路60を介して空気がギヤカップリング空間K内に流れ込む。これにより、隔壁シール部材22とギヤ連結軸部51との間が負圧になることが防止される。
この結果、ギヤカップリング空間K内の圧力低下を抑えながら、ギヤカップリング軸50を引き抜くことができるので、ギヤカップリング空間KをシールするOリング22aやグリスシール91cへの圧力負担が高くならず、シール変形を防止することができる。
【0094】
次に、実施の形態2の効果を説明する。
実施の形態2の車両用インホイールモータユニットにあっては、上記実施の形態1の効果に加えて、下記に列挙する効果を得ることができる。
(2-1) 実施の形態2の車両用インホイールモータユニットは、
駆動出力軸10に形成された第1内歯部56と、
ホイールハブ軸70に形成された第2内歯部57と、
ギヤ連結軸部51と、前記ギヤ連結軸部51の一端側に設けられて前記第1内歯部56に噛合うと共に変位吸収構造を有する第1外歯部52と、前記ギヤ連結軸部51の他端側に設けられて前記第2内歯部57に噛合うと共に変位吸収構造を有する第2外歯部54と、前記ギヤ連結軸部51の一端側に設けられて前記第1回転軸10に球面接触可能な第1端部53と、前記ギヤ連結軸部51の他端側に設けられて前記第2回転軸70に球面接触可能な第2端部55と、を有するギヤカップリング軸50を備え、駆動出力軸10とホイールハブ軸70を連結し、両軸10,70に対して変位を吸収しつつ駆動伝達する変位吸収機構(B)と、
を備え、
前記変位吸収機構(B)は、前記ギヤカップリング軸50が装着されて、前記駆動出力軸10と前記ホイールハブ軸70と前記第1内歯部56と前記第2内歯部57とに囲まれてシールされたギヤカップリング空間Kを備え、
さらに、前記ギヤ連結軸部51に、一端側の一端面51aと他端側の他端面51bとを連通する連通路60を設けたことを特徴とする。
これにより、一対の両軸10,70の平行変位を吸収可能であって、組付け/組外し時のグリスシール91cへの圧力負担を低減することができる。
【0095】
(2-2) 実施の形態2の車両用インホイールモータユニットは、
前記ギヤカップリング空間Kには、前記ギヤカップリング軸50と共に潤滑用のグリースGを封入し、
前記連通路60の内径寸法を、前記グリースGを流通可能な寸法に設定したことを特徴とする。
これにより、ギヤカップリング空間K内で余った余分なグリースGをスムーズに排出し、グリスシール91cヘの圧力負担をさらに低減して、シール破損を防止することができる。
【0096】
(実施の形態3)
実施の形態3は、連通路の構造を、実施の形態2とは異なる構成とした例である。
図16は、実施の形態3のギヤカップリング軸を示す断面図である。
図17は、実施の形態3のギヤカップリング軸の組付け後期状態を示す説明図である。以下、
図16及び
図17に基づき、実施の形態3のギヤカップリング軸を説明する。なお、実施の形態2と同等の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0097】
図16に示すギヤカップリング軸50Aでは、ギヤ連結軸部51の一端側と他端側を連通する連通路61が、貫通連通路61aと、中間連通路61bとを有している。
前記貫通連通路61aは、一端がギヤ連結軸部51の一端面51aに開放され、他端がギヤ連結軸部51の他端面51bに開放され、ギヤ連結軸部51を軸方向に貫通されている。
【0098】
前記中間連通路61bは、ギヤ連結軸部51の径方向に延在され、第1外歯部52と第2外歯部54との中間位置のギヤ連結軸部51周面に開放することで、貫通連通路61aと、第1外歯部52と第2外歯部54との間のギヤカップリング空間Kと、を連通している。
ここで、「第1外歯部52と第2外歯部54との間のギヤカップリング空間K」とは、ギヤカップリング空間K内にギヤカップリング軸50を装着した際、第1外歯部52と第2外歯部54とに挟まれたギヤ連結軸部51の周囲の空間である(
図17におけるBB部)。
この「第1外歯部52と第2外歯部54との間のギヤカップリング空間K」は、第1外歯部52が第1内歯部56に噛合うと共に、第2外歯部54が第2内歯部57に噛合った状態では、この第1外歯部52、第1内歯部56、第2外歯部54、第2内歯部57、及びギヤ連結軸部51によって囲まれた閉鎖空間となる。
【0099】
そして、ギヤカップリング軸50Aの装着途中において、第1外歯部52が第1内歯部56に噛合うと共に、第2外歯部54が第2内歯部57に噛合うと、
図17に示すように、第1外歯部52と第2外歯部54との間のギヤカップリング空間K(BB部)が閉鎖された状態になる。
【0100】
このとき、実施の形態3のギヤカップリング軸50Aでは、この第1外歯部52と第2外歯部54との間のギヤカップリング空間K(BB部)の空気を、中間連通路61bから貫通連通路61aを通し、大気へ逃がすことができる。
これにより、ギヤカップリング空間K内の圧力上昇をさらに抑制することができ、グリスシール91cの変形や破損をさらに防止することができる。
【0101】
すなわち、実施の形態3の変位吸収機構にあっては、上記実施の形態1の効果に加えて、下記に列挙する効果を得ることができる。
(3-1) 実施の形態3の車両用インホイールモータユニットは、
前記連通路61は、
前記ギヤ連結軸部51の一端側の一端面51aと他端側の他端面51bとを貫通する貫通連通路61aと、
前記貫通連通路61aと、前記第1外歯部52と前記第2外歯部54との間のギヤカップリング空間K(BB部)と、を連通する中間連通路61bと、
を有する構成とした。
これにより、第1外歯部52と第2外歯部54との間のギヤカップリング空間K(BB部)の空気を大気へ逃がすことができ、ギヤカップリング空間K内の圧力上昇をさらに抑制することができる。
【0102】
(実施の形態4)
実施の形態4は、連通路の構造を、実施の形態2、実施の形態3とは異なる構成とした例である。
図18は、実施の形態4の車両用インホイールモータユニットにおけるギヤカップリング軸を示す断面図である。
図19は、実施の形態4におけるギヤカップリング軸の組付け後期状態を示す説明図である。以下、
図18及び
図19に基づき、実施の形態4におけるギヤカップリング軸を説明する。なお、実施の形態2又は実施の形態3と同等の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0103】
図18に示すギヤカップリング軸50Bでは、ギヤ連結軸部51の一端側と他端側を連通する連通路62が、第1連通路62aと、第2連通路62bと、を有している。
【0104】
前記第1連通路62aは、一端がギヤ連結軸部51の一端面51aに開放され、他端が第1外歯部52と第2外歯部54との中間位置のギヤ連結軸部51の周面に開放されている。これにより、この第1連通路62aは、ギヤ連結軸部51の一端側と、第1外歯部52と第2外歯部54との間のギヤカップリング空間K(
図19においてBC部で示す)と、を連通する。
また、この第1連通路62aは、ギヤ連結軸部51の一端面51aに開放すると共に軸方向に延在した軸方向通路621aと、ギヤ連結軸部51の周面に開放すると共にギヤ連結軸部51の径方向に延在した径方向通路622aと、を有している。この軸方向通路621aと径方向通路622aとは、ギヤ連結軸部51の内部で交差し、連通されている。
【0105】
前記第2連通路62bは、一端がギヤ連結軸部51の他端面51bに開放し、他端が第1外歯部52と第2外歯部54との中間位置のギヤ連結軸部51の周面に開放している。これにより、この第2連通路62bは、ギヤ連結軸部51の他端側と、第1外歯部52と第2外歯部54との間のギヤカップリング空間K(BC部)と、を連通する。
また、この第2連通路62bは、ギヤ連結軸部51の他端面51bに開放すると共に軸方向に延在した軸方向通路621bと、ギヤ連結軸部51の周面に開放すると共にギヤ連結軸部51の径方向に延在した径方向通路622bと、を有している。この軸方向通路621bと径方向通路622bは、ギヤ連結軸部51の内部で交差し、連通されている。
【0106】
そして、ギヤカップリング軸50Bの装着途中において、第1外歯部52が第1内歯部56に噛合うと共に、第2外歯部54が第2内歯部57に噛合うと、
図19に示すように、第1外歯部52と第2外歯部54との間のギヤカップリング空間K(BC部)が閉鎖された状態になる。
【0107】
このとき、実施の形態4のギヤカップリング軸50Bでは、まず、隔壁シール部材22とギヤ連結軸部51との間の空気を、第1連通路62aを介して、第1外歯部52と第2外歯部54との間のギヤカップリング空間K(BC部)へと流出させる。続いて、この第1外歯部52と第2外歯部54との間のギヤカップリング空間K(BC部)内の空気を、第2連通路62bを介して、大気へ流出させる。このように、ギヤカップリング空間K内にギヤカップリング軸50を装着する際、第1外歯部52と第2外歯部54との間のギヤカップリング空間K(BC部)内の空気も含めて、ギヤカップリング空間K内の空気を大気へ逃がすことができる。これにより、ギヤカップリング空間K内の圧力上昇を抑えながら、ギヤカップリング軸50をギヤカップリング空間Kに装着することができる。
【0108】
しかも、実施の形態4の連通路62では、第1連通路62aと第2連通路62bとに分割されているため、連通路62を形成しやすく、ギヤカップリング軸50Bを容易に製造することができる。
特に、実施の形態4では、第1連通路62aを、軸方向通路621aと径方向通路622aとに分け、第2連通路62bを、軸方向通路621bと径方向通路622bとに分けている。このため、さらにギヤカップリング軸50Bの加工性を向上することができる。
【0109】
すなわち、実施の形態4の車両用インホイールモータユニットにあっては、実施の形態1の効果に加えて、下記に列挙する効果を得ることができる。
(4-1) 実施の形態4の車両用インホイールモータユニットは、
前記連通路62は、
前記ギヤ連結軸部51の一端側(一端面)51aと、前記第1外歯部52と前記第2外歯部54との間のギヤカップリング空間K(BC部)と、を連通する第1連通路62aと、
前記ギヤ連結軸部51の他端側(他端面)51bと、前記第1外歯部52と前記第2外歯部54との間のギヤカップリング空間K(BC部)と、を連通する第2連通路62bと、
を有する構成とした。
これにより、連通路62を形成しやすく、ギヤカップリング軸50Bの加工性を向上することができる。
【0110】
以上、本発明の車両用インホイールモータユニットを実施の形態に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施の形態1に限られるものではなく、請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施の形態1では、蓋部材として、エンドキャップシール部材を示した。しかし、蓋部材は、ホイールハブ軸の開口部を塞ぐものであれば、その形状や開口部への取り付けの態様は、実施の形態で示したものに限定されない。例えば、開口部に、ねじ込み式のものとしてもよい。
また、各外歯部と各内歯部の歯数は、全て同数に形成した例を示したが、これに限定されない。すなわち、開口部から遠い側の第1内歯部及び第1外歯部の歯数は、第2内歯部及び第2外歯部に対して、同位相で少ない歯数である場合には、第1内歯部を第2外歯部に対して通過させることが可能である。
実施の形態1では、着脱部材としてスプリングピンを示した。しかし、着脱部材としては、蓋部材を着脱可能に固定するものであれば、ピンやボルトなどスプリングピン以外のものを用いてもよい。
【0111】
実施の形態1では、本発明の車両用インホイールモータユニットを、電気自動車の左右後輪に適用する例を示した。しかし、本発明の車両用インホイールモータユニットは、電気自動車の左右前輪に対しても適用することができるし、電気自動車の全輪に対しても適用することができる。
【0112】
実施の形態1では、出力軸側駆動伝達嵌合部58及びハブ軸側駆動伝達嵌合部59の互いに嵌合する嵌合面の表面硬度に高低差を与えることで、嵌合部耐摩耗性に差を持たせる例を示した。しかし、出力軸側駆動伝達嵌合部58及びハブ軸側駆動伝達嵌合部59の互いに嵌合する2つの部品の素材強度を異ならせることで、嵌合部耐摩耗性に差を持たせる例としても良いし、素材強度と表面硬度を併用して異ならせることで、嵌合部耐摩耗性に差を持たせる例としても良い。
実施例1では、駆動出力軸10とホイールハブ軸70を交換作業性が困難な部品とし、変位吸収機構B(ギヤカップリング軸50)を交換作業性が容易な部品とする例を示した。しかし、交換作業性の困難性は、相対的なものであり、インホイールモータユニット構成によっては、逆に、変位吸収機構(ギヤカップリング軸)を交換作業性が困難な部品とし、ギヤカップリング軸の両側の回転軸部品を交換作業性が容易な部品とする例としても良い。
【0113】
また、上記各実施の形態では、ギヤ連結軸部51に対し、第1外歯部52、第1端部53、第2外歯部54、第2端部55を、それぞれ一体に形成した例を示した。しかしながら、ギヤ連結軸部51に対して第1外歯部52等を別体部品としてもよい。
また、実施の形態4では、第1連通路62aと第2連通路62bを、それぞれ軸方向通路621a,621bと、径方向通路622a,622bとで構成する例を示したが、これに限らない。例えば、
図20に示すギヤカップリング軸50Cのように、ギヤ連結軸部51の軸方向に対し、第1連通路63a及び第2連通路63bの延在方向を傾斜させ、ギヤ連結軸部51の一端面51aと、ギヤ連結軸部51の周面を直線状態に連結してもよい。
【0114】
本出願は、2013年4月11日に日本国特許庁に出願された特願2013−082665、2013年4月11日に日本国特許庁に出願された特願2013−082791、2013年4月11日に日本国特許庁に出願された特願2013−082721、2013年4月11日に日本国特許庁に出願された特願2013−082664、に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。