(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記調節要素が、バンドパスフィルターとオールパスフィルターとの組み合わせであり、前記閉じたフィードバックループのフィードバックが正であることを特徴とする、請求項4〜10のいずれか一項に記載の共振器デバイス。
前記第一のトランスデューサーが、キャパシティ効果、圧電効果、電磁効果、または、ピエゾ抵抗効果に基づいて、運動、応力、または、歪みによって、変位を検出するように構成されていることを特徴とする、請求項4〜14のいずれか一項に記載の共振器デバイス。
前記第二のトランスデューサーが、静電効果、圧電効果、電磁効果、熱弾性効果、電歪、または、磁歪に基づいて、力、トルク、応力、または、歪みによって、変位をひきおこすように構成されていることを特徴とする、請求項4〜15のいずれか一項に記載の共振器デバイス。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
微小電気機械システム(Micro-Electro-Mechanical System)、即ち、MEMSは、少なくともいくつかの要素が機械的機能性を持った、小型化された機械的および電気機械的システムとして定義され得る。MEMSデバイスは、集積回路をつくるために使用されるツールと同じツールで造られるので、マイクロマシンとマイクロエレクトロニクスは、同じシリコンピース上で製造され得、知能を有するマシン(machines with intelligence)を可能にする。
【0003】
MEMS構造は、例えば慣性センサーにおいて、非常に小さい変位を迅速かつ正確に検出するのに適用できる。例えば、加速度計において、バネ構造体でデバイスの本体に懸架されている質量体(mass)は、デバイスの加速に比例して変位し得、これらの質量体の変位が検出される。固体の物体として、質量体−バネの構造体(mass-spring structure)は、典型的には、共振周波数を持っており、その共振周波数では、該構造体は、その共振周波数と呼ばれるいくつかの周波数において、他の周波数よりも大きな振幅で自然に振動(oscillating)することによって、共振または共振挙動を示す。よって、これらの共振周波数では、変位が他の周波数の場合よりもはるかに大きく、MEMS構造体の小型化された寸法では、検出を妨害するオーバーロード(過負荷)をひきおこす。
【0004】
これらの妨害は通常、検出された運動のダンピング(damping、減衰)によって除去される。従来の方法は、受動的なガスダンピング(passive gas damping)を使用することであるが、多くの用途にとって、ガスダンピングは過度に非線形であり、システムの作動にひきおこされる不利な影響が多すぎる。振動ジャイロスコープのようないくつかの構成では、ガスダンピングは適用可能ですらない。その理由は、一次振動(primary vibration)の共振励起に対するダンピングが低く保たなければならないからである。
【0005】
フィードバックダンピングまたは能動的なダンピングにおいては、検出された変位(displacement)がモニターされ、その運動に反対するように、相対的な力が生成される。公知のシステムでは、能動的なダンピングは、微分器と、該微分器の信号に応答するトランスデューサーとを有する、閉じたフィードバックループにて実施されてきた。該微分器は、多くの特性を持っており、それによって、該微分器は、機械的共振器における変位のダンピングを制御するのに十分に適用可能である。しかしながら、問題は、構造が理想的であることが極めて少なく、実際の共振器では、付加的な機械的共振モードが存在するということである。微分器の出力信号が増幅されて、適切に高いダンピング力を生成する場合、該フィードバックループは、破壊的な振動(oscillate)を非常にたやすく開始する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、変位を電気信号に変換するのに適用可能な、質量体−バネのシステムを図示している。
【
図2】
図2は、変位を電気信号に変換するのに適用可能な、他の質量体−バネのシステムを図示している。
【
図3】
図3は、簡略化された例示的な感知デバイスのブロック図を示している。
【
図4】
図4は、例示的な機械的共振器の構成を図示している。
【
図5】
図5は、例示的な機械的共振器の伝達関数を示している。
【
図6】
図6は、例示的な機械的共振器の位相伝達プロットを示している。
【
図7】
図7は、ダンピングした(damped、減衰させた)機械的共振器システムの例示的な従来の閉ループ伝達関数を示している。
【
図8】
図8は、ダンピングした機械的共振器システムの位相伝達プロットを示している。
【
図9】
図9は、基本的な1自由度(1-degree-of freedom)の機械的共振器の概略的なモデルを示している。
【
図10】
図10は、付加的な質量体−バネのシステムを伴った、機械的共振器の構成の概略的モデルを示している。
【
図11】
図11は、例示的な伝達関数のシミュレーションの印刷出力を示している。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態によるデバイスを図示している。
【
図13】
図13は、例示的な微分器および例示的なローパスフィルターのための伝達関数を示している。
【
図14】
図14は、ローパスフィルターを有する閉ループのための振幅応答関数(amplitude response function)を示している。
【
図15】
図15は、ローパスフィルターを有する閉ループのための位相応答関数(phase response function)についての図である。
【
図16】
図16は、ハイパスフィルターを有する閉ループのための振幅応答関数を示している。
【
図17】
図17は、ハイパスフィルターを有する閉ループのための位相応答関数についての図である。
【
図18】
図18は、バンドパスフィルター(band-pass filter)とオールパスフィルター(all-pass filter)との組み合わせを有する閉ループのための振幅応答関数を示している。
【
図19】
図19は、バンドパスフィルターとオールパスフィルターとの組み合わせを有する閉ループのための位相応答関数についての図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
いくつかの実施態様の詳細な説明
以下の実施形態は、例示的なものである。明細書は、「ある(an)」、「1つの(one)」、または、「いくつかの(some)」実施形態に言及するであろうが、それは、そのような言及それぞれが、同じ実施形態を指すことや、その特徴が単一の実施形態だけに適用されることを必ずしも意味しない。異なる実施形態の単一の特徴は、さらなる実施形態を提供するべく、組み合わせられ得る。
【0012】
以下に、本発明の特徴をデバイスのアーキテクチャーの簡単な例で説明するが、該アーキテクチャーでは、本発明の様々な実施形態が実施され得る。実施形態を例証するのに関係する要素についてのみ、詳細に説明する。調節要素、共振器デバイスおよび方法の様々な実施は、当業者に概して知られる要素(elements)を有し、本文では具体的には説明しない。
【0013】
トランスデューサーは、本文では、1つの形態のエネルギーを他の形態に変換するデバイスをいう。例えば、感知デバイスまたはセンサーは、物理的特性を検出し、それを測定可能な信号に変換する機器またはシステムをいう。通常、物理的特性は、1つの形態のエネルギーとして現れ、センサーでは、トランスデューサーデバイスによって他の形態のエネルギーに変換される。物理的特性と、エネルギーの形態を検出する手段は、用途に応じて異なり得る。センサーの1つのカテゴリーでは、検出される物理的特性を表す特徴は、慣性座標系(inertial frame of reference)について、基準点(reference point)の変位を検出することを有しいてもよい。該変位は、例えば、懸架されたプルーフ質量体(proof-mass、プルーフマス)の運動として、または、該プルーフ質量体を担持する弾性サスペンション(elastic suspension)に接続されたトランスデューサー要素に作用する応力もしくは歪みとして検出され得る。検出された変位、応力または歪みは、電気信号を変調するのに使用され得、それが物理的特性を極めて正確に測定可能にする。他の例として、アクチュエーターでは、トランスデューサーは、電気的エネルギーをいくつかの形態の運動(motion)へと変換するのに使用され得る。
【0014】
トランスデューサーデバイスの或るカテゴリーは、質量体−バネのシステム(mass-spring system)を適用し、該システムにおいては、質量体に作用する力または本体の加速が、それに比例する変位を質量体にひきおこすように、該質量体がバネで本体に懸架されている。電気回路によって、該質量体の移動(movement)は検出され得、測定可能な電気信号へと変換され得る。本体が静止しており、正味の力が質量体に作用しないとき、質量体−バネのシステムは、釣り合った状態(equilibrium state)にある。該システムが釣り合った状態から変位する場合には、バネが質量体に正味の復元力をもたらし、それを釣り合った状態に戻そうとする。しかしながら、釣り合ったポジションへと戻る移動において、質量体は、該ポジションを超えて移動させ続ける運動量を得て、反対方向の新たな復元力を作る。従って、質量体は、釣り合った状態について振動(oscillate)し始める。質量体は、付勢(biased)され得、そして、固定電極に対する移動が電気信号に変換され得る。このようにして、質量体の調和振動(harmonic oscillation)が、交流電気信号へと変換され、該信号が、慣性座標系についての本体の運動を表す。
【0015】
図1は、変位を電気信号に変換するのに適用可能な、質量体−バネのシステムの簡略化した例を示している。該システムは、プルーフ質量体10と、感知される物体(図示せず)にアンカーポイント12において係留(anchored)されたバネ要素11とを持っていてもよい。該システムはまた、本体に係留された1以上の固定電極(stationary electrodes)13と、プルーフ質量体10の運動に接続された1以上の可動電極(movable electrodes)14とを持ち得る。
図1における、変位を測定するトランスデューサーは、電極13、14間の距離が変化するときにそれらの間のキャパシタンスが変化する、キャパシティ効果(容量効果)に基づいたものであってもよい。このキャパシタンスの変化は、トランスデューサーからの電気信号出力を変調するために使用され得る。
【0016】
図2は、他のタイプの容量性トランスデューサーを示しており;
図1および2において、同じ参照符号が、対応する要素を指すために使用される。
図2のトランスデューサーでは、電気信号の変調は、電極13、14の重なる(オーバーラップする)面積の変化に対応している。
図1および2に示されるトランスデューサーは、キャパシティ効果に基づいてプルーフ要素の変位を測定するが、例えば、プルーフ要素に加えられる歪みまたは応力を示す他のタイプのプルーフ要素、ならびに、検出される物理的特性の指示値(indication)を電気信号に変換する圧電効果および電磁効果のような他のタイプの効果が適用されてもよい。
【0017】
固体の物体は通常、固有の周波数または周波数の群を持ち、その周波数では、該固体の物体は他の周波数よりも大きな振幅で振動しようとする。通常、質量体−バネのシステムは共振し、従って、共振器とみなされる。共振は、いくつかの用途にとっては有用であり得る特徴であるが、その他の用途では、それは、作動を激しく妨害し得る。慣性の感知にでは、振動の周波数がシステムの共振周波数と一致するとき、質量体-バネシステムは容易にオーバーロードする。これらの望ましくない副作用を回避するために、質量体−バネのシステムの共振はダンピング(damped、減衰)する必要がある。
【0018】
いくつかのデバイスにおいては、ガスダンピングが共振の影響を減少させるために使用される。しかしながら、ノイズおよび直線性について最良(ultimate)の性能を求めるとき、ガスダンピングは、質量体の変位の関数として、非常に非線形的に挙動し得るので、該ガスダンピングは理想的なメカニズムではない。その非直線性は、振動(vibration)をオフセットシフトへと並進させることをひきおこし、振動整流(vibration rectification)と呼ばれる現象をひきおこすかもしれない。これはまた、特定の散逸(dissipation)メカニズムに起因して、新たなノイズ源を導入するかもしれない。
【0019】
また、振動ジャイロスコープも、質量体−バネのシステムによってモデル化することができ、線形共振器についてここで議論されるあらゆる概念が、関連する質量体を慣性のモーメントに置き換え、変位を角度に置き換え、力をトルクに置き換えることによって、ねじり共振器に直接的に一般化され得る。共振効果は、振動ジャイロスコープでは、よりいっそう問題がある;ガスダンピングが使用できず、その理由は、ダンピング(減衰)が一次振動の共振励起に対して低くなければならないからである。ジャイロスコープでは、その問題は、二次の共振器のQ値(クォリティファクター(quality factor、性質
係数))を何千にも増加させることによって、または、オーバーロードのマージンによってオーバーロードの効果を取り扱うことによって、従来では解決されてきた。
【0020】
代替的なダンピング方法は、フィードバックループを用いた能動的な電気的ダンピングである。変位が第一のトランスデューサーにおいて電気信号を生成し、該電気信号は、フィードバックループにおいて改変された信号へと変換され、それが、検出された移動(movement)を除去するか、または、少なくとも減少させるために変位に抗して発揮されることになる機械的な力を調節する。
図3は、能動的な電気的ダンピングメカニズムのフィードバックループの作動を図示するために、簡略化された例示的な共振器デバイス30のブロック図を示している。
図3のデバイスは、第一の機械的共振器31を有し、該共振器は、変位感知トランスデューサーTR1および力トランスデューサー(forcing transducer)TR2を有する。
図4は、
図3の例示的な機械的共振器31のより詳細な構成を図示したブロック図を示している。
【0021】
図4の機械的共振器は、プルーフ質量体40と、感知される物体(図示せず)にアンカーポイント42において係留されたバネ要素41とを有する。該システムは、本体に係留された1以上の固定TR1電極43と、プルーフ質量体40の運動に接続された1以上の可動TR1電極44とを持つ。これらの電極43、44が、
図3で説明するような容量的な変位を測定するトランスデューサーを形成する。該システムはまた、本体に係留された1以上の固定TR2電極45と、プルーフ質量体40の運動に接続された1以上の可動TR2電極46とを持つ。これらの電極43、44が、力を発生する(force generating)静電気的なトランスデューサーを形成する。
【0022】
なお、
図4における容量的なおよび静電気的なトランスデューサーは、例でしかない。
図3のトランスデューサーTR1およびTR2が、任意のトランスデューサー原理に基づき得ることが、あらゆる当業者にとって明白である。例えば、第一のトランスデューサーは、キャパシティ効果、圧電効果、電磁効果、または、ピエゾ抵抗効果に基づいて、運動(motion)、応力、または、歪みによって変位を検出するように構成され得る。第二のトランスデューサーは、静電効果、圧電効果、電磁効果、熱弾性(thermoelastic)効果、電歪(electrostriction)、または、磁歪(magnetostriction)に基づいて、力、トルク、応力、または、歪みによって変位をひきおこすように構成され得る。
【0023】
図3に戻ると、機械的共振器31におけるプルーフ質量体の変位は、TR1電極(
図4の43、44)によって電気的に測定され得、電気信号S1に変換され得る。第一の電気信号S1は、増幅器32によって増幅され得、増幅された信号は、調節器(controller、制御器)33を通じて力トランスデューサーTR2に送られ得る。TR2は、プルーフ質量体に対して、TR2電極(
図4の45、46)を用いて、第二の電気信号S2に対応する機械的力を作用させるように構成されている。S2は、プルーフ質量体の移動(movement)がダンピング(damped)される(即ち、加えられた力によって減少する)ような、検出される変位との位相関係にて、TR2へ送られる。
【0024】
図3の機械的共振器31の伝達関数は:
である。
上記式において、Q
mは、機械的共振器の機械的なQ値である。周波数は、共振周波数ω
0=2πf
0=1となるように正規化されており、sは、正規化された周波数(虚数)である。
図5は、Q値1000での例示的な機械的共振器の伝達関数を示し、
図6は、それの位相伝達プロットを示している。機械的共振器がその共振周波数で励起されるとき、特定の駆動力(driving force)にて到達した変位が最大となるのがわかる。
図5および6は、振幅応答における共振周波数で非常に狭くて高いピークがあること、および、位相応答において、0から−πへの急峻な遷移(transition)があることを示している。
【0025】
従来では、より高いダンピングは、フィードバックループにおける増幅を大きくすることによって得ることができる。これは、即ち、ループにおける任意の増幅器、調節器、トランスデューサー、機械的共振器の周波数応答、および、共振器バネ要素のバネ定数からの寄与を含んだ、いわゆるループゲインである。しかしながら、そのようにしながらも、閉ループ伝達関数があらゆる条件で安定したままであるように注意しなければならない。これは、調節器への適切な伝達関数を選択することによって確保され得る。このための従来の伝達関数は、微分器:
である。
【0026】
微分器は、基本的には理想的な調節器であり、それは、微分器が全ての周波数において一定の+π/2の位相シフトを生じるからである。これが意味するのは、負のフィードバックが適用されるときに、式(1)の伝達関数と組み合わせて、閉ループ作動のための良好な位相マージンが確保され得ることである。
図3のシステムにおける(1)および(2)の閉ループ伝達関数が、共に、システムの機械的なQ値を所望のレベルに減少させ、該システムは安定である:
ここで、Kは、低い周波数におけるループゲインである。閉ループの効果的なQ値は、
である。
【0027】
図7は、
図3に示されるダンピングされた機械的共振器システム30の閉ループ伝達関数を示し、調節要素33が微分器である場合のものである。
図8は、同じものの位相伝達プロットを示している。
図7および8における機械的なQ値は、1000に設定されていて、低い周波数増幅は1であり、調節器CTRLは、式(2)の伝達関数を持っている。
【0028】
しかしながら、調節器が式(2)の伝達関数を持ち、より高い値の増幅が試みられる場合、実際のシステムは、共振器の共振周波数よりもはるかに高い周波数で容易に振動し始める。この振動は、実際の共振器に起因する付加的な機械的な共振モードによって生じる。これらのモードは、例えば、質量体の柔軟性によって、トランスデューサーによって生じる共振によって、バネの調和モード(harmonic modes)でのたわみ(deflection)、バネのねじりモードでのたわみ、および、多くの類似した非理想特性(non-idealities)によって生じ得る。そのような非理想特性は、通常、伝達関数に付加的な共振のピークを生じる。
【0029】
図9は、プルーフ質量体90、質量体のないバネ91、および、ダッシュポットダンパ(dashpot damper)92から形成される基本的な1自由度の機械的共振器の概略的モデルを示している。シミュレーションでは、上述の非理想特性は、
図10に示されるように、付加的な質量体−バネのシステム100、101を構成に含めることによってシミュレートできる(平易にするために、あり得る機械的ダンピングは、
図10では除外されている)。
図11は、これらの実際の非理想特性を表すために付加的な質量体を含む構成でのシミュレーションの結果として受け取られた例示的な伝達関数の印刷出力を示している。
図11は、十分なループゲインがあり、かつ、位相シフトが振動の発生が促進されるようなものである場合の、振動が開始する典型的な付加的(additional)な共振周波数を示している。
【0030】
他の共振モードで観察される振動の発生の理由の1つは、微分器が、通常、高い周波数を強調するということである。これに起因して、非常に中程度(moderate)のレベルの増幅だけが従来では可能であり、それによって、十分なダンピングが未だに得られていない。調節器においてより高い周波数をフィルターにかけることによって、こうした微分器の特性を補償するための試みがあった(例えば、Toshiki Hirano in Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 42 (2003) pp. 1486-1490 Part 1. No. 3, March 2003)。しかし、その結果は、付加的な共振周波数がメインの共振周波数に近くなり得るような多くの実用的な用途にとっては十分ではない。
【0031】
図12は、デバイス構成と、同時に、本発明の実施形態の機械的共振器の作動を制御する方法の工程とを図示している。基本的には、該構成は、
図3の構成に類似しているが、ここでは、検出された運動に抗するフィードバック力は、信号処理フィルター123にて調節(コントロール)される。有利には、信号処理フィルターは共振器として機能し、従って、所定の共振周波数でピークとなる。従って、S1の値とS2の値との間の対応関係(correspondence)を定める応答関数は、周波数応答関数であり、該周波数応答関数は共振周波数特性(characteristic)を持ち、該共振周波数特性は、S1の共振周波数と実質的に一致する。
【0032】
信号処理では、フィルターは、信号からのいくつかの望ましくない成分または特徴部分を完全にまたは部分的に抑制するデバイスまたはプロセスをいう。周波数応答を有する信号処理フィルター(以下:フィルター)は、信号からいくつかの周波数を取り除き、その他を取り除かないように構成されている。フィルターの伝達関数は、それが入力する信号と、それが出力する信号との間の関係を定める周波数応答関数である。フィルターのカットオフ周波数は、それの後にフィルターが信号をダンピングまたは除去し始める周波数である。フィルターのロールオフ(roll-off)は、カットオフ(cut-off)周波数の後の周波数での応答関数の急峻性を決定する。ロールオフは、カットオフ周波数から十分に離れた周波数で一定勾配に向かう傾向があるということが知られている。ロールオフは、フィルターのタイプに応じて、減少する周波数および増加する周波数で起こり得る。例えば、ローパスフィルターは、増加する周波数でロールオフするであろうが、ハイパスフィルターは、減少する周波数でロールオフするであろう。
【0033】
本実施形態では、信号処理フィルターは、そのカットオフ周波数の直前の特定の共振周波数を有する共振器である。
図13のグラフ131に示されるように、これが意味するのは、周波数応答は、フィルターの共振周波数で高く、増加する周波数で急峻にロールオフすることである。カットオフ周波数の他面における領域(以下:低周波数応答領域)では、応答関数は、より均一(even)であるが、共振応答との差は、依然として著しい。
【0034】
共振周波数およびその付近の周波数についてのフィルターの応答と、それらを超える周波数についてのフィルターの応答との著しい差異が、機械的共振器の閉じたフィードバックループにおける望ましくない振動を回避するために適用できることが発見された。これによって、著しく高いレベルのダンピングが達成され得る。その原理は、例示的な微分器130と、例示的なローパスフィルター131とのための伝達関数を示す
図13に図示されている。共振周波数を上回る高い周波数範囲では、通常、付加的な共振周波数があり、応答の差がおよそ100以上と著しいことがわかる。従って、この高い周波数範囲では、微分器は信号を強調するが、共振器はこれらを非常に効果的にダンピングさせる。従って、この高い周波数範囲における付加的な共振周波数によって生じる振動は、共振器によって非常に効果的に除去され得る。
【0035】
また、ダンピングすべきメインの共振が、通常、デバイスの最も低い共振周波数であるので、低周波数の応答範囲における共振器の減衰(attenuation)は、必要でないかもしれないということもわかる。その領域における望ましくない位相シフトからの逆効果を除去するために、共振器による信号の増幅は調節されなければならない。
図12に戻ると、ブロックチャートは第一の共振器R1 121を示し、これは、
図3の通り、機械的共振器であり、第一の電気信号S1を生じる。S1の周波数は、座標系に関して、プルーフ質量体の振動に対応する。S1は、通常は第一の増幅器122によって事前に増幅され得、増幅された信号は第二の共振器123 R2に送られ得る。第二の共振器R2は、その周波数応答関数に従って、変更された電気信号S2を生成する。S2は、第二の増幅器によって増幅され得、次に、R1に作用するダンピング力の量を定めるため、R1に送られ得る。いくつかの従来の構成では、一次の機械的システムは、それを一定の振幅で振動させるために、1以上のフォーサ(forcer)によって、そのモードのうちの1つの共振周波数で、刺激されてきた。しかしながら、本発明においては、共振周波数応答は、検出された運動に反対するフィードバックダンピング力を生成するために適用される。
【0036】
ダンピングが適切な位相で起こるようにするために、フィードバックの符号は、フィルターのタイプに応じて調整しなければならない。まず、調節器123がローパスフィルターである場合を考慮しよう。共振周波数での機械的共振器の位相シフトは−π/2であり、ローパスフィルターの位相シフトは−π/2である。安定した作動のために、フィードバックループの位相シフトは、−πでなければならない。これが意味するのは、ローパスフィルターの場合は、フィードバックの符号は、低い周波数では正でなければならないということである。フィードバックループの符号は、当業者によく知られたメカニズムで、例えば、増幅の段階で、または、信号が減算ではなくて加算されるような他のループパラメータの適切な調節で、逆にされていてもよい。ロールオフ領域では、応答レベルの速い低下によって、振動のない作動が確保される。しかしながら、正のフィードバックが、低周波数応答領域において、ここでは低周波数範囲におけるローパスフィルターを用いて、不安定性を生じ得ることはよく知られている。
【0037】
その結果、低周波数範囲では、信号による不安定性を回避するために、それらの増幅は、低く、好ましくは、1未満の値に設定してよい。次の点が見出されている。即ち、3〜10の範囲からローパスフィルターの電気的なQ値を選択することによって、また、機械的共振器R1の共振周波数と実質的に一致するようにローパスフィルターの振幅のピークを配置することによって、低い周波数でのR2の増幅が、1をはるかに下回るよう減少させることができ、依然として、共振周波数の周辺のループゲインは、AMP2で、効果的なダンピングのために十分高く増加させることができる。
【0038】
調節器のための有利なローパス伝達関数は:
の形態を持ち得る。
上式において、Q
eは、ローパスフィルターのQ値であり、Kは、低い周波数での増幅である。Q
eは、好ましくは、3〜10の範囲にあり、Kは、0.1〜0.3の範囲にある。式(5)の伝達関数がフィードバックシステムにおいて使用され、フィードバックの符号が正に選択されるとき、振幅については
図14に示される閉ループ伝達関数が、位相については
図15に示される閉ループ伝達関数が得られる。
【0039】
振幅応答は、機械的共振器の共振周波数の付近で2つのピークを持つが、それらがオリジナルの非常に高いQ値の共振のダンピングを損う程高くないことがわかるだろう。さらなる利点として、機械的共振への調節器の応答のピークのマッチングは、あまり正確でなくてよい。10%の偏差(deviation、逸脱)では、顕著な影響を生じず、30%もの大きい偏差でも依然として有用であり得る。実質的な一致は、この文脈では、共振周波数を意味すると解釈され得、該共振周波数においては、第二の共振器(調節器R2)の伝達関数がその最高値に達するが、これは、機械的共振器R1の共振周波数からある程度偏移していてよい。有利には、R2の共振周波数がR1の共振周波数の80%〜120%の範囲内に留まるように、偏差が20%未満に留まる。しかしながら、50%の偏差、即ち、R1の共振周波数の50%〜150%の範囲にあるR2値でさえ、ダンピングのいくつかの用途に適用可能であることが留意されている。
【0040】
高い方の周波数に現れるという付加的な共振周波数の傾向により、ローパスフィルターは、フィードバックループにおいて非常に良好に作動すると見られてきたが、これは、速いロールオフが、効果的に望ましくない要素を信号から除去するからである。調節器の増幅を十分低く調節することによって、低周波数範囲における不安定性を除去することも可能である。正しい位相シフトを提供し、かつ、強く増幅され得るダンピング信号が達成される。
【0041】
同じ概念が、他のタイプのフィルターにも適用され得る。他の実施形態では、調節器33は、ハイパスフィルターで実施され得る。この場合、機械的共振器からのフィードバックループにおける位相シフトは、−π/2であり、ハイパスフィルターの位相シフトは、+π/2である。これが意味するのは、ローパスフィルターの場合は、閉ループの他の態様がローパスフィルターの場合と類似した方法で設計され得るが、フィードバックの符号は、今度は、負に設定しなければならないということである。ハイパス構成のための伝達関数は:
である。
【0042】
負のフィードバックで、結果生じる振幅と位相の伝達関数は、それぞれ、
図16および17に示される通りになる。
【0043】
他の実施形態では、調節器33は、バンドパスフィルターとオールパスフィルターとの組み合わせで実施され得る。この場合、フィードバックループにおける機械的共振器からの位相シフトは、−π/2であり、バンドパスフィルターの位相シフトは0である。バンドパスフィルターは、適切な周波数応答特性を提供するが、適切な位相シフトの値は提供できない。フィードバックの符号が正に設定されている場合、オールパスフィルターの位相シフトは、−π/2であって、ロールオフへの影響がないので、該オールパスフィルターを追加すると、所望の周波数応答特性が維持でき、正しい位相シフトが提供される。閉ループの他の態様は、ローパスフィルターの場合と類似した方法で設計され得る。バンドパス/オールパス構成のための伝達関数は、
の形態を持ち得る。
【0044】
正のフィードバックが適用されるとき、生じる振幅および位相伝達関数は、それぞれ、
図18および19に示される通りである。
【0045】
さらなる実施形態では、調節器33は、オールパスフィルターによって実施され得、該オールパスフィルターは、共振特性を持ち、または、フラットな周波数特性さえも持つ。結果は、依然として微分器による調節よりも優れている。この場合、フィードバックループにおける機械的共振器からの位相シフトは、−π/2であり、オールパスフィルターの位相シフトは、−π/2である。よって、適切な位相シフトが、フィードバックの符号を正に設定することによって達成できる。閉ループの他の態様は、ローパスフィルターの場合と類似した方法で設計され得る。
【0046】
技術が進歩するにつれて、本発明の基本的な考えが様々な形で実施できることは、当業者にとっては明白である。共振器デバイスは、加速度計、角速度センサー、もしくは、磁場センサーのようなセンサーデバイス、または、光学−機械的デバイス、もしくは、スイッチングデバイスのようなアクチュエーターデバイスであり得る。さらに、平易にするために、好適な周波数応答を有する最も低次なフィルターだけが、本文において議論されている。適切な共振および位相特性を有するより高次なフィルターは、十分に本発明の範囲内にある。従って、本発明およびその実施形態は、上記の実施例に限定されず、請求項の範囲内で変化し得る。