(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱間プレス用Alめっき鋼板の表面皮膜形成後の表面の粗さ曲線における輪郭曲線要素の平均長さRSmが、500μm以下である、請求項1又は2に記載の熱間プレス用Alめっき鋼板。
鋼板と、前記鋼板の片面又は両面に形成されたAlめっき層と、を有するAlめっき鋼板の当該Alめっき層上に、亜鉛化合物を含み、かつ、前記Alめっき鋼板と20°以上50°以下の接触角を有する塗布液を塗布し、
前記塗布液の塗布された前記Alめっき鋼板を、最高到達温度60℃以上200℃以下の温度で乾燥させて、前記Alめっき層上に亜鉛化合物を含む表面皮膜層を形成させる、熱間プレス用Alめっき鋼板の製造方法。
製造された前記熱間プレス用Alめっき鋼板の表面皮膜層形成後の表面の粗さ曲線における輪郭曲線要素の平均長さRSmが、500μm以下である、請求項4〜9の何れか1項に記載の熱間プレス用Alめっき鋼板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護と地球温暖化の防止のために、化石燃料の消費を抑制する要請が高まっており、この要請は、様々な製造業に対して影響を与えている。例えば、移動手段として日々の生活や活動に欠かせない自動車についても例外ではなく、車体の軽量化などによる燃費の向上等が求められている。しかし、自動車では、単に車体の軽量化を実現することは製品機能上許されず、適切な安全性を確保する必要がある。
【0003】
自動車の構造の多くは、鉄系材料(特に鋼板)により形成されており、この鋼板の重量を低減することが、車体の軽量化にとって重要である。しかし、上述の通り、単に鋼板の重量を低減することは許されず、鋼板の機械的強度を確保することが同時に求められる。このような鋼板に対する要請は、自動車製造業のみならず、様々な製造業でも同様である。従って、鋼板の機械的強度を高めることにより、従来使用されていた鋼板より薄肉化しても機械的強度を維持又は向上させることが可能な鋼板について、研究開発が行われている。
【0004】
一般的に、高い機械的強度を有する材料は、曲げ加工等の成形加工において、形状凍結性が低下する傾向にあり、複雑な形状に成形加工することが困難となる。この成形性についての問題を解決する手段の一つとして、いわゆる「熱間プレス方法(ホットスタンプ法、ホットプレス法、又は、ダイクエンチ法とも呼ばれる。)」が挙げられる。この熱間プレス方法では、成形対象である材料を一旦高温に加熱して、加熱により軟化した鋼板にプレス加工を行って成形した後、冷却する。この熱間プレス方法によれば、材料を一旦高温に加熱して軟化させるため、材料を容易にプレス加工することが出来る。更に、成形後の冷却による焼入れ効果により、材料の機械的強度を高めることが出来る。従って、熱間プレス方法により、良好な形状凍結性と高い機械的強度とを両立した成形品が得られる。
【0005】
しかし、この熱間プレス方法を鋼板に適用すると、鋼板を800℃以上の高温に加熱することにより鋼板の表面が酸化して、スケール(化合物)が生成される。従って、熱間プレス加工を行った後に、このスケールを除去する工程(デスケーリング工程)が必要となり、生産性が低下する。また、耐食性を必要とする部材等では、加工後に部材表面へ防錆処理や金属被覆処理を実施する必要があり、表面清浄化工程及び表面処理工程が必要となり、更に生産性が低下する。
【0006】
このような生産性の低下を抑制する方法として、鋼板に被覆を施す方法が挙げられる。鋼板上の被覆としては、一般に、有機系材料や無機系材料など様々な材料が使用される。なかでも、鋼板に対して犠牲防食作用のある亜鉛系めっき鋼板が、その防食性能と鋼板生産技術の観点から、自動車鋼板等に広く使われている。しかし、熱間プレス加工における加熱温度(700〜1000℃)は、有機系材料の分解温度や亜鉛などの金属の融点及び沸点よりも高く、熱間プレスで加熱した際に表面皮膜及びめっき層が蒸発し、表面性状の著しい劣化の原因となる。
【0007】
そこで、高温加熱を伴う熱間プレス方法に適用する鋼板としては、有機系材料被覆や亜鉛系の金属被覆に比べて沸点の高いAl系の金属被覆が施された鋼板(すなわち、Alめっき鋼板)を使用することが望ましい。
【0008】
Al系の金属被覆を施すことにより、鋼板表面にスケールが生成されることを防止でき、デスケーリングなどの工程が不要となるため、成形品の生産性が向上する。また、Al系の金属被覆には防錆効果もあるため、耐食性も向上する。所定の成分組成を有する鋼板にAl系の金属被覆を施した鋼板を熱間プレスする方法が、下記特許文献1に開示されている。
【0009】
しかし、下記特許文献1のようなAl系の金属被覆を施した場合、熱間プレス加工前の予備加熱の条件によっては、Al被覆が溶融し、その後、鋼板からのFe拡散によりAl−Fe合金層が生成し、更に、Al−Fe合金層が成長して鋼板の表面までAl−Fe合金層となる場合がある。このAl−Fe合金層は、極めて硬質であるため、プレス加工時の金型との接触により、成形品に加工傷が形成されるという問題があった。
【0010】
Al−Fe合金層は、表面が滑りにくく、潤滑性が悪い。更に、このAl−Fe合金層は、硬く割れやすく、めっき層にヒビが入ったり、パウダリングなどが生じたりするため、成形性が低下する。加えて、剥離したAl−Fe合金層が金型に付着したり、鋼板のAl−Fe合金層表面が強く擦過されて金型に付着したりし、金型にAl−Fe合金層を起因とするAl−Fe金属間化合物が凝着して、成形品の品質を低下させる。そのため、定期的に、金型に凝着したAl−Fe金属間化合物を除去する必要があり、成形品の生産性低下や生産コスト増大の一因となっている。
【0011】
更に、Al−Fe合金層は、通常のリン酸塩処理との反応性が低い。従って、Al−Fe合金層の表面には、電着塗装の前処理である化成処理皮膜(リン酸塩皮膜)を生成させることができない。化成処理皮膜が生成されない場合であっても、塗料密着性を良好なものとした上で、Alの付着量を十分なものとすれば塗装後耐食性も良好となるが、Alの付着量を増大させると、金型へのAl−Fe金属間化合物の凝着を増大させる。
【0012】
Al−Fe金属間化合物の凝着には、剥離したAl−Fe合金層が付着する場合と、Al−Fe合金層層表面が強く擦過されて付着する場合と、がある。表面皮膜を有する鋼板を熱間プレス加工する際に、潤滑性を向上させれば、Al−Fe合金層層表面が強く擦過されて付着することは改善される。しかし、潤滑性の向上は、剥離したAl−Fe合金層が金型に付着することを改善するには有効ではない。剥離したAl−Fe合金層が金型に付着することを改善するには、AlめっきにおけるAlの付着量を低減させることが、最も有効である。しかし、Alの付着量を低下させると耐食性が劣化する。
【0013】
そこで、成形品に加工傷が発生することを防止する鋼板が、下記特許文献2に開示されている。下記特許文献2に開示される鋼板は、所定の成分組成を有する鋼板表面上に、Al系の金属被覆を施し、更に、Al系の金属被覆表面上に、Si、Zr、Ti又はPの少なくとも1つを含有する無機化合物皮膜、有機化合物皮膜、又は、それらの複合化合物皮膜を形成した鋼板である。下記特許文献2に開示されるような表面皮膜が形成された鋼板では、加熱後のプレス加工時にも表面皮膜が剥離することはなく、プレス加工時の加工傷の形成を防止することが出来る。
【0014】
一方、下記特許文献3には、ウルツ鉱型の化合物、特に酸化亜鉛をAlめっき鋼板の表面に施す方法が開示されている。下記特許文献3で開示される方法は、熱間潤滑性と化成処理性を改善するもので、熱間プレス加工前における表面皮膜密着性を確保するために、表面皮膜にバインダー成分を添加したものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記特許文献2に記載される表面皮膜では、プレス加工時に十分な潤滑性が得られず、潤滑剤の改善等が求められている。また、上記特許文献3で開示される方法では、酸化亜鉛自体の電気伝導性が不十分なため、スポット溶接性に劣る傾向があった。
【0017】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、熱間潤滑性、塗装後耐食性、スポット溶接性に優れた熱間プレス用Alめっき鋼板及び熱間プレス用Alめっき鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、Alめっき鋼板表面に亜鉛の化合物、特に酸化亜鉛を一定の範囲内の付着量で均一付着させることで、熱間潤滑性及び塗装後耐食性を確保したまま、スポット溶接性を大幅に向上出来ることを見出した。
かかる知見に基づいてなされた本発明の要旨は、以下の通りである。
【0019】
(1)鋼板と、前記鋼板の片面又は両面に形成されたAlめっき層と、前記Alめっき層上に形成された表面皮膜層と、を有する熱間プレス用Alめっき鋼板であり、前記表面皮膜層は、亜鉛化合物を含み、当該亜鉛化合物は、前記Alめっき鋼板上に、金属亜鉛換算で片面当たり0.3g/m
2以上1.5g/m
2以下付着しており、かつ、任意の連続した1mm
2の領域
の全てにおける亜鉛の付着量が1.5g/m
2以下である、熱間プレス用Alめっき鋼板。
(2)前記表面皮膜層における前記亜鉛化合物は、酸化亜鉛である、(1)に記載の熱間プレス用Alめっき鋼板。
(3)前記熱間プレス用Alめっき鋼板の表面皮膜形成後の表面の粗さ曲線における輪郭曲線要素の平均長さRSmが、500μm以下である、(1)又は(2)に記載の熱間プレス用Alめっき鋼板。
(4)鋼板と、前記鋼板の片面又は両面に形成されたAlめっき層と、を有するAlめっき鋼板の当該Alめっき層上に、亜鉛化合物を含み、かつ、前記Alめっき鋼板と20°以上50°以下の接触角を有する塗布液を塗布し、前記塗布液の塗布された前記Alめっき鋼板を、最高到達温度60℃以上200℃以下の温度で乾燥させて、前記Alめっき層上に亜鉛化合物を含む表面皮膜層を形成させる、熱間プレス用Alめっき鋼板の製造方法。
(5)25℃における前記塗布液の表面張力は、20mN/m以上60mN/m以下である、(4)に記載の熱間プレス用Alめっき鋼板の製造方法。
(6)25℃における前記塗布液の粘度は、2mPa・s以上20mPa・s以下である、(4)又は(5)に記載の熱間プレス用Alめっき鋼板の製造方法。
(7)前記塗布液は、ロールコーターにより前記Alめっき層上に塗布される、(4)〜(6)の何れか1項に記載の熱間プレス用Alめっき鋼板の製造方法。
(8)前記亜鉛化合物は、酸化亜鉛である、(4)〜(7)の何れか1項に記載の熱間プレス用Alめっき鋼板の製造方法。
(9)製造された前記表面皮膜層において、前記亜鉛化合物は、前記Alめっき鋼板上に、金属亜鉛換算で片面当たり0.3g/m
2以上1.5g/m
2以下付着しており、かつ、任意の連続した1mm
2の領域
の全てにおける亜鉛の付着量が、1.5g/m
2以下である、(4)〜(8)の何れか1項に記載の熱間プレス用Alめっき鋼板の製造方法。
(10)製造された前記熱間プレス用Alめっき鋼板の表面皮膜層形成後の表面の粗さ曲線における輪郭曲線要素の平均長さRSmが、500μm以下である、(4)〜(9)の何れか1項に記載の熱間プレス用Alめっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明によれば、熱間潤滑性、塗装後耐食性、スポット溶接性に優れた熱間プレス用めっき鋼板を提供し、熱間プレス工程における生産性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
なお、以下の説明において、「%」の表記は、特に断りがない場合は「質量%」を意味する。
【0023】
(熱間プレス用めっき鋼板について)
まず、本発明の実施形態に係る熱間プレス用めっき鋼板について説明する。本実施形態に係る熱間プレス用めっき鋼板は、鋼板の片面又は両面に、Alめっき層が形成され、そのAlめっき層の表面に、亜鉛化合物を含有する表面皮膜層が更に形成される。
【0024】
<めっき前の鋼板について>
めっき前の鋼板としては、高い機械的強度(引張強さ、降伏点、伸び、絞り、硬さ、衝撃値、疲れ強さ、及びクリープ強さ等の機械的な変形及び破壊に関する諸性質を意味する。)を有する鋼板を使用することが望ましい。本実施形態に係る熱間プレス用鋼板に使用される、めっき前の鋼板の一例を次に示す。
【0026】
めっき前の鋼板の成分組成は、質量%で、C:0.1〜0.4%、Si:0.01〜0.6%、Mn:0.5〜3%を含有することが好ましい。更に、めっき前の鋼板の成分組成は、Cr:0.05〜3.0、V:0.01〜1.0%、Mo:0.01〜0.3%、Ti:0.01〜0.1%、及び、B:0.0001〜0.1%のうちの少なくとも1以上を含有してもよい。そして、めっき前の鋼板の成分組成の残部は、Fe及び不純物からなる。
【0027】
[C:0.1%〜0.4%]
Cは、鋼板に所望の機械的強度を確保するために含有される。Cの含有量が0.1%未満の場合には、十分な機械的強度が得られない。一方、Cの含有量が0.4%超過の場合には、鋼板を硬化させることが出来るものの、溶融割れが生じやすくなる。従って、Cの含有量は、0.1%〜0.4%とすることが好ましい。
【0028】
[Si:0.01%〜0.6%]
Siは、鋼板の機械的強度を向上させる元素であり、Cと同様に、鋼板に所望の機械的強度を確保するために含有される。Siの含有量が0.01%未満の場合には、強度向上効果を発揮しにくく、十分な機械的強度の向上が得られない。一方、Siは、易酸化性元素でもある。よって、Siの含有量が0.6%超過である場合には、溶融Alめっきを行う際に、濡れ性が低下し、不めっき部分が生じる可能性がある。従って、Siの含有量は、0.01%〜0.6%とすることが好ましい。
【0029】
[Mn:0.5%〜3%]
Mnは、鋼板の機械的強度を向上させる元素であり、焼入れ性を高める元素でもある。更に、Mnは、不純物であるSによる熱間脆性を防止するのにも有効である。Mnの含有量が0.5%未満の場合には、これらの効果が得られない。一方、Mnの含有量が3%超過である場合には、残留γ相が多くなり過ぎて強度が低下する可能性がある。従って、Mnの含有量は、0.5%〜3%とすることが好ましい。
【0030】
[Cr:0.05%〜3.0%]
[V:0.01%〜1.0%]
[Mo:0.01%〜0.3%]
Cr、V及びMoは、鋼板の機械的性質を向上させる元素であり、焼鈍温度からの冷却時にパーライトの生成を抑制する元素でもある。Crの含有量が0.05%未満、Vの含有量が0.01%未満、又は、Moの含有量が0.01%未満の場合には、これらの効果が得られない。一方、Crの含有量が3.0%超過、Vの含有量が1.0%超過、又は、Moの含有量が0.3%超過の場合には、硬質相の面積率が過剰となり成形性が劣化する。従って、Crの含有量は、0.05%〜3.0%とすることが好ましく、Vの含有量は、0.01%〜1.0%とすることが好ましく、Moの含有量は、0.01%〜0.3%とすることが好ましい。
【0031】
[Ti:0.01%〜0.1%]
Tiは、鋼板の機械的強度を向上させる元素であり、Alめっき層の耐熱性を向上させる元素でもある。Tiの含有量が0.01%未満の場合には、機械的強度及び耐酸化性の向上効果が得られない。一方、Tiを過剰に含有させると、炭化物や窒化物を形成して、鋼を軟質化させる可能性がある。特に、Tiの含有量が0.1%超過となる場合には、所望の機械的強度を得られない。従って、Tiの含有量は、0.01%〜0.1%とすることが好ましい。
【0032】
[B:0.0001%〜0.1%]
Bは、焼入れ時に作用して強度を向上させる元素である。Bの含有量が0.0001%未満の場合には、このような強度向上効果が得られない。一方、Bの含有量が0.1%超過となる場合には、鋼板中に介在物を生成して脆化し、疲労強度を低下させる可能性がある。従って、Bの含有量は、0.0001%〜0.1%とすることが好ましい。
【0033】
[任意添加元素について]
なお、上述した、めっき前の鋼板の成分組成は、あくまでも例示に過ぎず、他の成分組成であってもよい。例えば、めっき前の鋼板の成分組成は、脱酸元素として、Alを0.001%〜0.08%含有してもよい。また、めっき前の鋼板の成分組成は、製造工程などで不可避的に混入してしまう不純物を含んでもよい。
【0034】
このような成分組成を有するめっき前の鋼板は、めっき後も、熱間プレス方法などによる加熱により焼入れされて、約1500MPa以上の引張強さとすることも出来る。このように高い引張強さを有する鋼板であっても、熱間プレス方法によれば、加熱により軟化した状態で容易に成形することが出来る。また、成形品は、高い機械的強度を実現でき、軽量化のために薄肉化した場合でも機械的強度を維持又は向上させることが出来る。
【0035】
<Alめっき層について>
Alめっき層は、めっき前の鋼板の片面又は両面に形成される。このAlめっき層の付着量は、例えば、片面当たり20g/m
2〜120g/m
2とすることが好ましい。Alめっき層は、例えば、溶融めっき法により鋼板の片面又は両面に形成されるが、Alめっき層の形成方法は、かかる方法に限定されるものではない。
【0036】
また、Alめっき層の成分組成は、少なくともAlを50質量%以上含有していればよく、めっき層の特性改善のために、Al以外の元素を添加したものも含む。ここで、Al以外の元素は、特に限定しないが、以下の理由から、Alめっき層に対してSiを積極的に含有させてもよい。
【0037】
Alめっき層に対してSiを含有させると、めっきと地鉄との界面にAl−Fe−Si合金層が生成し、溶融めっき時に生成される脆いAl−Fe合金層の生成を抑制することが出来る。Siの含有量が3%未満の場合には、Alめっきを施す段階でAl−Fe合金層が厚く成長し、加工時にめっき層割れを助長して、耐食性に悪影響を及ぼす可能性がある。一方、Siの含有量が15%超過となる場合には、逆にSiを含む層の体積率が増加し、めっき層の加工性や耐食性が低下する可能性がある。従って、Alめっき層中のSi含有量は、3%〜15%とすることが好ましい。
【0038】
Alめっき層は、本実施形態に係る熱間プレス用鋼板の腐食を防止する。また、本実施形態に係る熱間プレス用鋼板を熱間プレス方法により加工する場合には、高温に加熱されても、表面が酸化してスケール(鉄の化合物)が発生することもない。Alめっき層でスケール発生を防止することにより、スケールを除去する工程、表面清浄化工程、及び表面処理工程などを省略することができ、成形品の生産性を向上させることが出来る。また、Alめっき層は、有機系材料によるめっき被覆や他の金属系材料(例えば、亜鉛系材料)によるめっき被覆よりも沸点及び融点が高い。従って、熱間プレス方法により成形する際に、被覆が蒸発することがないため、高い温度での成形が可能となり、熱間プレス加工における成形性を更に高め、容易に成形出来るようになる。
【0039】
溶融めっき時及び熱間プレス時における加熱により、Alめっき層は、鋼板中のFeと合金化し得る。よって、Alめっき層は、必ずしも成分組成が一定な単一の層で形成されるとは限らず、部分的に合金化した層(合金層)を含むものとなる。
【0040】
<表面皮膜層について>
表面皮膜層は、Alめっき層の表面に形成される。表面皮膜層は、亜鉛化合物を含有するものとする。亜鉛化合物としては、例えば、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、リン酸亜鉛、酢酸亜鉛、クエン酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、グルコン酸亜鉛など、種々の化合物を挙げることが出来るが、特に酸化亜鉛を用いることが好ましい。これらの亜鉛化合物は、熱間プレスにおける潤滑性や、化成処理液との反応性を改善する効果がある。これらの亜鉛化合物は、1種のみを表面皮膜層に含有させても良いし、複数の亜鉛化合物を混合して用いても良い。
【0041】
以下では、酸化亜鉛が表面皮膜層に含有される場合を例に挙げて説明する。しかしながら、酸化亜鉛以外の上記の亜鉛化合物が表面皮膜層に含有される場合であっても、以下と同様の説明が成り立つ点に注意されたい。
【0042】
酸化亜鉛を含む表面皮膜層は、例えば、酸化亜鉛粒を含有する塗料の塗布処理、及び、その塗布後の焼付け・乾燥による硬化処理で、Alめっき層上に形成することが出来る。酸化亜鉛の塗布方法としては、例えば、酸化亜鉛を含有するゾルと所定の有機性バインダーと混合してアルミめっき層の表面に塗布する方法、粉体塗装による塗布方法などが挙げられる。所定の有機性バインダーとしては、例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、シランカップリング剤などが挙げられる。これらの有機性バインダーは、酸化亜鉛を含有するゾルと溶解出来るように水溶性とする。こうして得られた塗布液を、アルミめっき鋼板の表面に塗布する。
【0043】
酸化亜鉛の大きさは、特に限定するものではないが、例えば、直径50nm〜300nm程度であることが望ましい。酸化亜鉛の粒径として、粉末自体の粒径と、粉末をゾルにした時のゾル中の粒径の2種類があるが、本実施形態では、ゾル中の粒径として記述する。一般に、ゾル中では微細粉末の二次凝集が起こるため、ゾル中の粒径は粉末自体の粒径よりも大きくなる。粉末自体の粒径が50nm未満である場合には、混練しにくいだけでなく、二次凝集し易くなるため、結果的に粗大化する。そのため、ゾル中の粒径として50nm未満とすることは事実上困難である。また、ゾル中の粒径が300nm超過となる場合には、粒子が沈殿し易くなるため、ムラが発生する。酸化亜鉛のゾル中の粒径は、50nm〜150nm程度の粒径とすることが、より望ましい。なお、酸化亜鉛のゾル中の粒径は、動的光散乱法、誘導回折格子法、レーザー回折・散乱法等の公知の方法により測定することができる。
【0044】
表面皮膜中の樹脂成分及び/又はシランカップリング剤等のバインダー成分の含有量は、酸化亜鉛に対する質量比で5%〜30%程度であることが望ましい。含有量が5%未満である場合には、バインダー効果が十分得られず、塗膜が取れやすくなるだけでなく、以下に述べるが、有機溶剤蒸発後の空孔が生じないため、潤滑性に大きく影響しうる。バインダー効果を安定して得るためには、バインダー成分を質量比で10%以上とすることが、より好ましい。一方、バインダー成分の含有量が30%超過である場合には、加熱時の匂い発生が顕著になるため、好ましくない。
【0045】
また、バインダー成分の含有量が上記の範囲であると、熱間プレス時の表面潤滑性が良くなることも確認できた。これは、バインダーの有機溶剤が加熱段階で蒸発することにより、酸化亜鉛皮膜中に空孔が生じ、潤滑効果を有する酸化亜鉛と金型金属とが点接触になるためと考える。
【0046】
酸化亜鉛の付着量は、鋼板片面当たりの金属亜鉛量換算で、0.3g/m
2以上1.5g/m
2以下である必要がある。酸化亜鉛の付着量が、金属亜鉛として鋼板片面当たり0.3g/m
2未満である場合には、熱間潤滑性、塗装後耐食性が不足する。一方、酸化亜鉛の付着量が、金属亜鉛として鋼板片面当たり1.5g/m
2超過となる場合には、表面皮膜層の厚みが厚くなり過ぎ、スポット溶接性が低下する。従って、酸化亜鉛は、片面側の表面皮膜層において、金属亜鉛量として0.3g/m
2以上1.5g/m
2以下の付着量でアルミめっき層の表面上に形成される必要がある。特に、酸化亜鉛の付着量は、金属亜鉛量として0.6g/m
2〜1.0g/m
2程度が特に望ましく、かかる範囲とすることで、熱間プレス時の潤滑性も確保でき、溶接性も良好となる。
【0047】
ここで、上記の亜鉛化合物の付着量は、金属亜鉛量として、例えば蛍光X線分析などの公知の方法により測定することが可能である。例えば、金属亜鉛の付着量が既知の試料を用いて、蛍光X線強度と付着量との関係を示す検量線を予め作成しておき、かかる検量線を用いて、蛍光X線強度の測定結果から金属亜鉛の付着量を決定すればよい。
【0048】
更に、酸化亜鉛は、任意の連続した1mm
2の領域における亜鉛の付着量が1.5g/m
2を超えないことが必要である。任意の連続した1mm
2の微小領域の酸化亜鉛付着量が1.5g/m
2超過である場合、スポット溶接時に電流分布の偏りが生じ、溶接性に劣る。なお、任意の連続した1mm
2の領域における亜鉛の付着量は、1.5g/m
2以下であればよく、1.5g/m
2以下であればその値は特に規定するものではない。また、任意の連続した1mm
2の領域における亜鉛の付着量の下限値については、特に規定するものではないが、例えば0.3g/m
2以上であることが好ましい。
【0049】
ここで、上記の任意の連続した1mm
2の領域における亜鉛の付着量とは、電子線マイクロアナライザ(Electron Probe MicroAnalyser:EPMA)を用いてAlめっき鋼板表面を亜鉛分布に関してマッピング分析し、測定面積内における最大の亜鉛付着量を意味する。このときの測定面積は、1mm
2以上とし、測定ピッチは、10μm以上100μm以下とする。測定面積及び測定ピッチを決めてマッピング分析を行うことで、Alめっき鋼板表面に亜鉛化合物が均一に付着しているか否かを確認することができる。
【0050】
このような酸化亜鉛を含有する表面皮膜層は、めっき鋼板の潤滑性を高めることが出来る。特に、この酸化亜鉛を含有する表面皮膜層は、上記特許文献2に記載のSi,Zr,Ti又はPの少なくとも1つを含有する無機化合物皮膜、有機化合物皮膜、又は、それらの複合化合物皮膜よりも、更に潤滑性を高めることが可能であり、成形性・生産性を更に向上させることが出来る。
【0051】
また、本実施形態に係る熱間プレス用Alめっき鋼板の表面皮膜形成後の表面の粗さ曲線における輪郭曲線要素の平均長さRSmは、500μm以下であることが好ましい。RSmが500μm以下であると、スポット溶接時の電流分布が一層分散し、溶接性の向上が期待出来るため、好ましい。RSmを500μm以下とするには、例えば皮膜形成前のAlめっき鋼板をスキンパス圧下する方法などがあるが、その方法は一切問わない。かかるRsmは、より好ましくは、50μm以上300μm以下である。Rsmの値は小さければ小さいほど良いが、Rsmを50μm未満とした場合には、得られる効果はわずかである一方で、かかる数値を実現するためのコストが大きくなってしまう。なお、熱間プレス時にAlめっきが溶融するため、加熱後のスポット溶接性向上のために、RSmを制御することは無意味のようにも見えるが、加熱時はめっきが溶融する前に表面皮膜中のバインダー成分が燃焼して酸化亜鉛のみが残存することとなり、酸化亜鉛は下地(すなわち、Alめっき表面)の凹凸を反映した形状で皮膜を形成する。従って、Alめっき表面のRSmを制御しておくことは有効である。なお、表面皮膜形成後の表面の粗さ曲線における輪郭曲線要素の平均長さRSmは、JIS B0633、JIS B 0601に則して、公知の表面粗さ測定機を利用することで測定可能である。
【0052】
酸化亜鉛を含有する表面皮膜層が潤滑性を高めることが出来る理由は、酸化亜鉛の融点にあると考えられる。すなわち、酸化亜鉛の融点は、約1975℃と、融点が約660℃であるアルミめっき層よりも高い。そのため、めっき鋼板を熱間プレス方法で加工する場合など、例えば800℃以上に鋼板を加熱したとしても、この酸化亜鉛を含有する表面皮膜層は溶融しないためと考えられる。その結果、金型への凝着を抑制出来るため、金型に凝着したAl−Fe粉を除去する工程を減らし、生産性を向上させることが出来る。
【0053】
酸化亜鉛を含有する表面皮膜層が塗装後耐食性に優れる理由は、酸化亜鉛が化成処理液中で一部溶解し、めっき表面のpHを上昇させ、化成処理皮膜を形成するためと考えられる。
【0054】
以上、表面皮膜層に含有される亜鉛化合物について、酸化亜鉛を例に挙げながら詳細に説明を行った。ここで、以上説明したような酸化亜鉛の含有に伴う作用効果は、酸化亜鉛以外の亜鉛化合物を含有させた場合であっても同様に生じるものである。
【0055】
(熱間プレス用めっき鋼板の製造方法について)
続いて、本発明の実施形態に係る熱間プレス用めっき鋼板の製造方法について説明する。
【0056】
本実施形態に係る熱間プレス用めっき鋼板の製造方法では、鋼板と、鋼板の片面又は両面に形成されたAlめっき層と、を有するAlめっき鋼板が用いられる。その上で、かかるAlめっき鋼板のAlめっき層上に、亜鉛化合物を含み、かつ、Alめっき鋼板と20°以上50°以下の接触角を有する塗布液が塗布される。その後、塗布液の塗布されたAlめっき鋼板を、最高到達温度60℃以上200℃以下の温度で乾燥させて、Alめっき層上に亜鉛化合物を含む表面皮膜層を形成させる。
【0057】
亜鉛化合物を含む表面皮膜層の形成に利用される塗布液としては、上記のように、亜鉛化合物を含有するゾルと所定の有機性バインダーとが混合されたものを利用することができる。
【0058】
ここで、かかる塗布液のAlめっき層を有するめっき鋼板との接触角は、20°以上50°以下とする。接触角を20°以上50°以下とすることで、塗布液をAlめっき層に対して均一に付着させることが可能となり、形成される表面皮膜層の熱間潤滑性、塗装後耐食性及びスポット溶接性を向上させることが可能となる。接触角が20°未満である場合には、重力による塗布液の垂れが生じやすく、Alめっき層を有する鋼板の表面粗度に起因した凹凸に影響を受けて、凸部では塗布液が薄くなり、凹部では塗布液が厚くなることで、亜鉛化合物の均一付着が阻害されてしまう。また、接触角が50°超過である場合には、Alめっき層を有する鋼板で塗布液のはじきが生じ、亜鉛化合物の均一付着が阻害される。塗布液の接触角は、より好ましくは、25°以上40°以下である。
【0059】
なお、ここでいう接触角とは、静止液体の自由表面が固体壁に接する場所で、液面と固体面との間の液の内部側の角度のことである。かかる接触角は、公知な方法として、Youngの式を利用し、例えば接触角計(協和界面科学株式会社製 DM−901等)を用いて測定することが可能である。
【0060】
なお、塗布液の接触角は、上記の塗布液中に、例えば、水やエチルアルコール等の溶剤、又は、添加剤(例えば、日信化学工業株式会社製 サーフィノール104Eや、東亞合成株式会社製 アロンB500)等を適宜含有させることで、制御することが可能である。
【0061】
また、塗布液の表面張力及び粘度は、特に限定されるものではないが、塗布液の表面張力は、20mN/m以上60mN/m以下であり、塗布液の粘度は、2mPa・s以上20mPa・s以下であることが好ましい。塗布液の表面張力及び粘度を上記の範囲とすることで、塗布液をより均一に付着させることが可能となり、熱間潤滑性、塗装後耐食性及びスポット溶接性を更に向上させることが可能となる。塗布液の表面張力は、より好ましくは、30mN/m以上50mN/m以下であり、塗布液の粘度は、より好ましくは、2.5mPa・s以上10mPa・s以下である。
【0062】
ここで、上記の表面張力は、塗布液の温度を25℃に調整し、白金プレート法(例えば、協和界面科学株式会社製 CBVP−A3)により測定した値である。また、上記の粘度は、塗布液の温度を25℃に調整し、B型粘度計(例えば、芝浦システム社製 VDA2−L)により測定した値である。
【0063】
なお、塗布液の表面張力及び粘度は、上記の塗布液中に、例えば、水やエチルアルコール等の溶剤、又は、添加剤(日信化学工業株式会社製 サーフィノール104Eや、東亞合成株式会社製 アロンB500)等を適宜含有させることで、制御することが可能である。
【0064】
ここで、塗布液をAlめっき層上に塗布する際には、ロールコーターを利用することが好ましい。なお、ロールコーターの塗布条件は、特に限定されるものではないが、例えば、ピックアップロールとアプリケーターロールとを用いて塗布する方法を用いればよい。かかる方法により塗布液をAlめっき層上に塗布することで、塗布液をAlめっき層上により均一に付着させることが可能となり、熱間潤滑性、塗装後耐食性及びスポット密着性を更に向上させることが可能となる。
【0065】
塗布後の焼付け・乾燥方法としては、例えば、熱風炉・誘導加熱炉・近赤外線炉などの方法を用いても良いし、これらの組み合わせによる方法を用いても良い。ここで、焼付け・乾燥時の鋼板の最高到達温度は、60℃以上200℃以下とする。鋼板の最高到達温度(Peak Metal Temperature:PMT)が60℃未満である場合には、表面皮膜層が剥離することがあるため、好ましくない。また、鋼板の最高到達温度が200℃超過である場合には、表面皮膜層にクラックが生じて表面皮膜層が剥離することがあるため、好ましくない。鋼板の最高到達温度は、好ましくは、70℃以上150℃以下である。
【0066】
なお、塗布液に使用されるバインダーの種類によっては、塗布後の焼付け・乾燥の代わりに、例えば紫外線・電子線などによる硬化処理をしても良い。かかる硬化処理が可能な有機性バインダーとしては、例えば、ポリウレタンやポリエステル、アクリルあるいはシランカップリング剤などが挙げられる。
【0067】
しかしながら、亜鉛化合物を含有する表面皮膜層の形成方法は、これらの例に限定されるものではなく、様々な方法により表面皮膜層を形成することが可能である。バインダーを使用しない場合には、Alめっきに塗布した後の密着性がやや低く、強い力で擦ると部分的に剥離する懸念がある。しかし、熱間プレス工程を経て一旦加熱されると、強い密着を示す。
【0068】
以上、本実施形態に係る熱間プレス用Alめっき鋼板の製造方法について、説明した。
【実施例】
【0069】
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る熱間プレス用Alめっき鋼板及び熱間プレス用Alめっき鋼板の製造方法について、より具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係る熱間プレス用Alめっき鋼板及び熱間プレス用Alめっき鋼板の製造方法のあくまでも一例であって、本発明に係る熱間プレス用Alめっき鋼板及び熱間プレス用Alめっき鋼板の製造方法が下記の例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
以下で説明する実施例1では、表1に示す鋼成分の冷延鋼板(板厚1.4mm)を使用して、かかる冷延鋼板の表面をゼンジマー法でAlめっきした。このときの焼鈍温度は、約800℃であった。また、Alめっき浴は、Si:9%を含有し、他に鋼帯から溶出するFeを含有していた。めっき後付着量をガスワイピング法で両面80g/m
2に調整し、冷却後、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酢酸亜鉛のいずれか1種を含む塗布液をロールコーターで塗布し、表2に示す最高到達板温で乾燥させた。
【0071】
なお、用いた塗布液の接触角、表面張力及び粘度は、以下の表1に示した通りである。ここで、塗布液の接触角、表面張力、及び粘度は、塗布液に対して、水と、サーフィノール104E及び/又はアロンB500と、を添加することで調整した。
【0072】
作製した鋼板の最終的な板厚は、1.6mmであった。作製した鋼板は、熱間潤滑性、塗装後耐食性、スポット溶接性を評価した。評価に際しては、比較として皮膜のないAlめっき鋼板も用いた。なお、一部試験材は、皮膜形成前にスキンパス圧下し、Alめっきの表面形態(RSm)を変化させた。
【0073】
また、亜鉛付着量は、蛍光X線分析にて、30mm×30mmの領域における平均付着量として求めた。更に、5mm×5mmの領域における亜鉛の付着した部分を電子線マイクロアナライザ(JEOL JXA−8530F)にてマッピング分析し、分析領域内の任意の連続した1mm
2の領域における亜鉛の付着量が1.5g/m
2を超えた部分の有無を評価した。このときの測定面積は5mm×5mmであり、測定ピッチは20μmであり、電子線の加速電圧は15kVであり、照射電流は50nAであり、ビーム径は20μmであり、測定ピッチ毎の測定時間は50msであった。また、RSmは、表面粗さ測定機(小坂研究所製 SE3500)を用いて測定した。なお、亜鉛化合物のゾル中の粒径については、日機装のナノトラックwaveを用い、動的光散乱法により測定した。
【0074】
【表1】
【0075】
熱間潤滑性は、
図1に示すバウデン試験装置を使用して評価した。150×200mmの鋼板を900℃に加熱後、700℃で鋼球を上から押し当て、押付け荷重と引抜き荷重をそれぞれ測定し、引抜き荷重/押し付け荷重から算出される値を動摩擦係数とした。
【0076】
塗装後耐食性は、自動車技術会制定のJASO M609に規定する方法で行った。
まず、作製したAlめっき鋼板を加熱炉内に入れ、900℃で在炉6分加熱し、取り出した後、直ちにステンレス製の金型で挟んで急冷した。このときの冷却速度は、約150℃/秒であった。次に、冷却後のAlめっき鋼板を70×150mmに剪断し、日本パーカライジング(株)社製化成処理液(PB−SX35T)で化成処理後、日本ペイント(株)社製電着塗料(パワーニクス110)を20μm狙いで塗装し、170℃で焼き付けた。その後、塗膜にカッターでクロスカットを入れ、腐食試験180サイクル(60日)後のクロスカットからの塗膜膨れの幅(片側最大値)を計測した。
【0077】
スポット溶接性は、次のように評価した。
作製したAlめっき材を加熱炉内に入れ、900℃で在炉6分加熱し、取り出した後直ちにステンレス製の金型で挟んで急冷した。このときの冷却速度は、約150℃/秒であった。次に、冷却後のAlめっき鋼板を30×50mmに剪断し、スポット溶接適正電流範囲(上限電流−下限電流)を測定した。測定条件は、以下に示す通りである。下限電流は、ナゲット径4×(板厚)
0.5となったとき、具体的にはナゲット径5.1mmとなる電流値とし、上限電流は、散り発生電流とした。
【0078】
・電流:直流
・電極:クロム銅製、DR(先端6mmφが40R)
・加圧:400kgf(1kgfは、約9.8Nである。)
・通電時間:240msec
【0079】
得られた評価結果を、以下の表2に示した。なお、以下の表2において、「有機酸亜鉛」とは、クエン酸亜鉛を意味している。
【0080】
【表2】
【0081】
Alめっき表面に亜鉛の化合物を含む皮膜層を有するNo.2〜6は、皮膜を有さないNo.1に比べ、潤滑性、塗装後耐食性に優れ、また、スポット溶接性は遜色なく、良好な性能である。中でも、亜鉛化合物が酸化亜鉛であるNo.2は、他よりも性能が良いことがわかった。
【0082】
なお、酸化亜鉛を含む皮膜層を有していても、その付着量(亜鉛換算値)が本発明の範囲外であるNo.7とNo.17は、耐食性が劣るかスポット溶接性が劣る結果となった。酸化亜鉛の付着量(亜鉛換算値)が特に0.6g/m
2以上1.0g/m
2である場合(No.2、NO.9、NO.10)は、特に性能が良好であった。また、酸化亜鉛の付着量が本発明の範囲内であっても、任意の連続した1mm
2の領域における亜鉛の付着量が1.5g/m
2を超えた部分が存在する場合(NO.18)、スポット溶接性が劣る結果となった。更に、RSmは500μm以下である方が、Zn換算での付着量が同一の場合、スポット溶接性が良好であり、好ましいことがわかった。
【0083】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。