(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記原料成分は、Cu-Ni合金、Cu-Mn合金、Cu-Al合金またはCu-Cr合金からなる群より選ばれる少なくとも1種の高融点金属粉末、およびSnを成分とする、またはSnを主成分とする低融点金属粉末を含む、請求項1に記載の構造材接合方法。
前記第1構造材および前記第2構造材の少なくとも表面は、Cu-Ni合金、Cu-Mn合金、Cu-Al合金またはCu-Cr合金からなる群より選ばれる少なくとも1種の高融点金属で構成されており、前記原料成分は、Snを成分とする、またはSnを主成分とする低融点金属粉末を含む、請求項1に記載の構造材接合方法。
前記第1構造材および前記第2構造材の少なくとも表面は、Snを成分とする、またはSnを主成分とする低融点金属で構成されており、前記原料成分は、Cu-Ni合金、Cu-Mn合金、Cu-Al合金またはCu-Cr合金からなる群より選ばれる少なくとも1種の高融点金属粉末を含む、請求項1に記載の構造材接合方法。
原料成分と、熱処理時に軟化・流動する樹脂成分との混合層を備える接合用シートを介して第1構造材と第2構造材とが貼り合わされ、熱処理によって、前記第1構造材と前記第2構造材とが金属間化合物層を介して接合され、前記金属間化合物層の側周部が前記樹脂成分の滲出物によって被覆され、
前記金属間化合物層はその内部に微小間隙部を有し、前記微小間隙部に前記樹脂成分が含浸されていて、前記微小間隙部に含浸した前記樹脂成分と前記金属間化合物層の側周部における前記樹脂成分とが連接している、ことを特徴とする接合構造。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。特に、第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0016】
《第1の実施形態》
第1の実施形態に係る構造材接合方法、接合材および接合構造について、
図1〜
図4を参照して説明する。
【0017】
図1(A)は、接合すべき第1構造材10、第2構造材20および接合材30Aの接合前の状態を示す斜視図である。
図1(B)は接合後の状態を示す斜視図である。
図2(A)は、接合すべき第1構造材10、第2構造材20および接合材30Aの接合前の状態を示す断面図である。
図2(B)は接合材の拡大断面図である。
図3(A)は、第1構造材10、第2構造材20および接合材30Aの接合後の状態を示す断面図である。
図3(B)は接合部の拡大断面図である。
【0018】
各構造材は、例えば車体フレーム、建築物、機械設備等の骨格材である。第1構造材10は例えば鋼材であり、接合面にCuめっき膜11が形成されている。同様に、第2構造材20は例えば鋼材であり、接合面にCuめっき膜21が形成されている。各構造材における接合面の面積は1cm
2以上である。なお、各構造材が例えば銅材であれば、その接合面にCuめっき膜11,21が形成されている必要は無い。
【0019】
接合材30Aは、液相拡散接合(以下「TLP接合」)による金属間化合物層を形成するための原料成分と、熱処理時に軟化・流動する樹脂成分との混合層を備える接合用シートである。
図2(B)に示すように、前記原料成分に、例えば粒径0.5〜30μmのCu-Ni合金粉末(高融点金属粉末)31、および粒径0.5〜30μmのSn粉末(低融点金属粉末)32を含む。
【0020】
具体的に言うと、Cu-Ni合金粉末とSn粉末との割合は、例えば(Sn:55wt%,Cu-Ni:45wt%)、(Sn:70wt%,Cu-Ni:30wt%)等である。Cu-Ni合金粉末は、例えばCu-10Ni合金粉末である。なお、接合材30Aの形状はシート状に限定されるものではなく、例えばペースト状であってもよい。
【0021】
樹脂成分33は主にバインダである。バインダはSn等の低融点金属粉末およびCu-Ni合金等の高融点合金粉末を、常温で薄いシート状(たとえば厚み10μm〜3mm)に保持するための形状保持剤としても機能する。混合層にはさらにフラックスが入っている。上記混合層は均一な厚みを有する面状に成形されて、両面に粘着層34が被覆されている。樹脂成分の添加量は低融点金属粉末および高融点合金粉末の合計量100重量部に対して、1重量部〜50重量部であることが好ましい。
【0022】
上記接合材30Aを用いた構造材接合方法は次のとおりである。
【0023】
(1)第1構造材10および第2構造材20の表面にCuめっき膜を形成する。Cuめっき膜は少なくとも接合面に形成すればよい。第1構造材10および第2構造材20が、それらの表面に予めCuめっき膜が形成された構造材であれば、あるいは、構造材自体がCuを含む素材で構成されたものであれば、このCuめっき工程は省略できる。
【0024】
(2)第1構造材10または第2構造材20のCuめっき膜表面に接合材30Aを貼付する。つまり、シート状に成型された接合用シートのうち一方主面側の粘着層34を第1構造材10の接合面に接着させ、他方主面側の粘着層34を第2構造材20の接合面に接着させる。
【0025】
(3)これによって、接合材30Aの粘着層34の粘着性を利用して、接合材30Aを挟み込むように、第1構造材10と第2構造材20とを仮接合する。
【0026】
(4)第1構造材10と第2構造材20との接合部(接合材30A)をホットガン等の工業用ドライヤーを用いて熱風加熱して、高融点金属であるCu-Ni合金の粉末31および低融点金属であるSnの粉末32を反応させ、高融点の反応物であるTLP接合層Cu-Ni-Sn(Cu
2NiSn等)を生じさせる。すなわち、TLP接合反応によって金属間化合物層を生じさせ、この金属間化合物層を介して各構造材を接合させる。このときの加熱温度はSn粉末32の融点以上、Cu-Ni合金粉末31の融点以下あり、例えば250〜350℃である。また、加熱温度は粉末状のSnが残らない条件であり、例えば1分〜10分である。金属間化合物層は(Cu,Ni)
6Sn
5(融点435℃付近)を主相とする高融点合金層である。
【0027】
粘着層34は上記加熱工程で消失するか、樹脂成分33に一体化される。フラックス成分は上記加熱工程で消失する。フラックス成分は還元剤であり、各粉末の表面の酸化膜を溶かし、上記の反応を促進する。なお、粘着層34にもフラックスが含まれていることが好ましい。そのことにより、第1構造材10、第2構造材20の表面(Cuめっき膜11,21)の清浄化および各粉末表面の酸化膜を除去することができ、より緻密な金属間化合物層を形成できるとともに反応速度がより向上する。
【0028】
ミクロ的には、
図3(B)に表れているように、Cu-Ni合金粉末とSn粉末とが反応して、Cuめっき膜の表面にCu
3Sn層およびCu
6Sn
5層が形成される。Cu-Ni合金粉末の表面にはSnとの反応によりSn-Cu-Ni膜が形成される。また、Sn粉末とCuとの反応によりSn-Cu合金(Cu
6Sn
5等)が生じる。さらに、Sn粉末とNiとの反応によりSn-Ni合金(Ni
3Sn
4等)も生じる。
【0029】
得られた金属間化合物層には微小な間隙部(オープンポア)が形成されるが、この微小間隙部には樹脂成分33が充填される。また、熱処理によって樹脂成分が軟化・流動して接合部の側周部に浸み出し、その結果、金属間化合物層の側周部は樹脂成分による膜で被覆される。
【0030】
このようにして金属間化合物層が形成されることにより、金属間化合物層の融点が例えば400℃以上に変化する。なお、Sn分が残存していないことが好ましいが、金属間化合物層の内部であれば、単体のSnが10〜20wt%程度残っていても高い接合強度と400℃の耐熱性は担保できる。
【0031】
樹脂成分33は、バインダとしても機能し、液状または粒状の樹脂であり、その軟化・流動開始温度は130〜300℃であり、具体的には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネイト樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、テフロン(登録商標)樹脂等が挙げられる。混合層においては、この樹脂分100重量部に対して50〜200重量部のフラックス成分が含まれていてもよい。熱処理時、樹脂成分33は、高融点金属粉末と低融点金属粉末とのTLP接合反応にしたがって軟化・流動し、外部へ押し出され、その結果、金属間化合物層の側周(露出)部に樹脂成分33の滲出物である樹脂膜Rが形成される。この樹脂膜Rによって、金属間化合物層の側周(露出)部、さらには、第1構造材と金属間化合物層との接合界面、第2構造材と金属間化合物層の接合界面が被覆される。この樹脂膜Rは、厚み0.1〜0.5mm程度の均一な樹脂膜であり、金属間化合物層や各構造材との接合界面に固着している。また、金属間化合物層の微小間隙部に含浸した樹脂成分と金属間化合物層の側周部に浸み出した樹脂成分とが連接し、樹脂成分による強固な保護膜が形成される。
【0032】
上述したとおり、車体フレームを構成する構造部材の接合はスポット溶接が一般的であって、スポット的(断片的)な溶接であるため、車体フレームの剛性を高くすることには限界がある。接合部を面接合にすれば剛性を高くすることができるが、溶接プロセスが長大になり、生産効率が劣る。これに対して、本実施形態によれば、上記のような特殊な組成のシート状接合材を利用しているので、構造部材同士を簡単に面接合できる。特に、Cu-Ni-Sn系金属間化合物は車体フレーム材として一般的な高張力鋼板よりも硬いため、単なるスポット溶接(さらには面接合溶接)よりも、車体フレームの剛性を高めることができる。なお、はんだシートを用いる手法も考えられるが、はんだは、加熱するといわゆる「ダマ」になってしまう(玉化してしまう)ため、面接合はできない。
【0033】
また、本実施形態によれば、TLP接合層である、低融点金属と高融点金属との金属間化合物層が樹脂層でコートされるため、第1構造材および第2構造材の接合状態を容易に安定化させることができ、また、接合部の強度や耐環境性も向上させることができる。特に、原料成分の低融点金属がSn、高融点金属がCu-Ni合金であることにより、低温で短時間に高融点の反応物(金属間化合物)が形成されて、耐熱性の高い接合構造が得られる。また、TLP接合層に空隙やポアが存在する場合であっても、その外表面が樹脂膜にてカバーされているため、接合部の強度や耐環境性が大きく劣化してしまうことが少ない。さらに、この接合方法では接合材はSn-Ag-Cuはんだのように玉化しないので、各構造材の接合面間の全体にほぼ均一な厚みの接合層が形成され、接合強度を大幅に改善できる。
【0034】
図4(A)は構造材接合用テープの斜視図、
図4(B)はその正面図、
図4(C)は部分拡大断面図である。
【0035】
図4(C)に表れているように、この接合用テープ301は、接合材30Aの一方の面に剥離紙39が貼付されたものである。つまり、接合用シートをテープ状に構成したものである。接合材30Aの構成は既に
図2(B)に示したとおりである。
【0036】
この接合用テープ301は各層がフレキシブルであるため、
図4(A)(B)に示すようにロール状での供給が可能である。
【0037】
なお、低融点金属粉末としては、上記Sn粉末以外に、Snを主成分とする粉末を用いることができる。また、高融点金属粉末としては、上記Cu-Ni合金粉末以外に、Cu-Ni合金、Cu-Mn合金、Cu-Al合金またはCu-Cr合金からなる群より選ばれる1種または複数種の粉末を用いることができる。
【0038】
樹脂成分33のフラックスとしてはアジピン酸、グルコン酸などのカルボキシル基を持つ有機酸を用いることができる。バインダとしてはロジンを用いることができる。
【0039】
粘着層34としては、アクリル系、シリコーン系、天然ゴム系、合成ゴム系、ビニルエーテル系等の単独もしくは2種以上のポリマーを主体に、必要に応じて架橋剤、粘着付与剤、軟化剤、可塑剤、酸化防止剤等を配合した粘着剤等を用いることができる。
【0040】
《第2の実施形態》
第2の実施形態に係る構造材接合方法、接合材および接合構造について、
図5、
図6を参照して説明する。
【0041】
図5(A)は、接合すべき第1構造材10、第2構造材20および接合材30Bの接合前の状態を示す断面図である。
図5(B)は接合材の拡大断面図である。
図6(A)は、第1構造材10、第2構造材20および接合材30Bの接合後の状態を示す断面図である。
図6(B)は接合部の拡大断面図である。
【0042】
第1構造材10は例えば鋼材であり、接合面に高融点金属であるCu-Ni合金のめっき膜12が形成されている。同様に、第2構造材20は例えば鋼材であり、接合面にCu-Ni合金めっき膜22が形成されている。なお、各構造材が例えばCu-Ni合金材であれば、その接合面にCu-Ni合金めっき膜が形成されている必要は無い。
【0043】
接合材30Bは、TLP接合による金属間化合物層を形成するための原料成分と、熱処理時に軟化・流動する樹脂成分との混合層を備える接合用シートである。
図5(B)に示すように、前記原料成分は、Sn粉末32を含む。なお、接合材30Bの形状はシート状に限定されるものではなく、例えばペースト状であってもよい。樹脂成分33は主にバインダである。混合層にはさらにフラックスが入っている。上記混合層は均一な厚みを有する面状に成形されて、両面に粘着層34が被覆されている。
【0044】
上記接合材30Bを用いた構造材接合方法は次のとおりである。
【0045】
(1)第1構造材10および第2構造材20の表面にCu-Ni合金めっき膜を形成する。Cu-Ni合金めっき膜は少なくとも接合面に形成すればよい。第1構造材10および第2構造材20が、それらの表面に予めCu-Ni合金めっき膜が形成された構造材であれば、あるいは、構造材自体がCu-Ni合金を含む素材で構成されたものであれば、このCu-Ni合金めっき工程は省略できる。
【0046】
(2)第1構造材10または第2構造材20のCu-Ni合金めっき膜表面に接合材30Bを貼付する。つまり、シート状に成型された接合用シートのうち一方主面側の粘着層34を第1構造材10の接合面に接着させ、他方主面側の粘着層34を第2構造材10の接合面に接着させる。
【0047】
(3)これによって、接合材30Bの粘着層34の粘着性を利用して、接合材30Bを挟み込むように、第1構造材10と第2構造材20とを仮接合する。
【0048】
(4)第1構造材10と第2構造材20との接合部(接合材30B)を、ホットガン等の工業用ドライヤーを用いて加熱して、高融点金属であるCu-Ni合金めっき膜と、低融点金属粉末であるSn粉末32とを反応させ、高融点の反応物であるTLP接合層(Cu-Ni-Sn)を生じさせる。すなわち、TLP接合反応によって金属間化合物層を生じさせ、この金属間化合物層を介して各構造材を接合させる。
【0049】
図6(B)に表れているように、Cu-Ni合金めっき膜とSn粉末が反応して、Sn-Cu-Ni合金が形成される。
【0050】
粘着層34は上記加熱工程で消失するか、樹脂成分33に一体化される。フラックス成分は上記加熱工程で消失する。フラックス成分は還元剤であり、各粉末の表面の酸化膜を溶かし、上記の反応を促進する。なお、粘着層34にもフラックスが含まれていることが好ましい。そのことにより、第1構造材10、第2構造材20の表面(Cu-Ni合金めっき膜12,22)の清浄化および各粉末表面の酸化膜を除去することができ、より緻密な金属間化合物層を形成できるとともに反応速度がより向上する。
【0051】
得られた金属間化合物層には微小な間隙部(オープンポア)が形成されるが、この微小間隙部には樹脂成分33が充填される。また、熱処理によって樹脂成分が軟化・流動して接合部の側周部に浸み出し、その結果、金属間化合物層の側周部は樹脂成分による膜で被覆される。
【0052】
第1の実施形態と同様に、本実施形態によっても、上記のような特殊な組成のシート状接合部材を利用しているので、構造部材同士を簡単に面接合できる。特に、Cu-Ni-Sn系金属間化合物は車体フレーム材として一般的な高張力鋼板よりも硬いため、単なるスポット溶接(さらには面接合溶接)よりも、車体フレームの剛性を高めることができる。
【0053】
また、TLP接合層の金属間化合物層が樹脂層でコートされるため、第1構造材および第2構造材の接合状態を容易に安定化させることができ、また、接合部の強度も向上させることができる。特に、原料成分の低融点金属がSn、高融点金属がCu-Ni合金であることにより、低温で短時間に高融点の反応物(金属間化合物)が形成されて、耐熱性の高い接合構造が得られる。さらに、この接合方法では、各構造材の接合面間の全体にほぼ均一な厚みの接合層が形成され、接合強度を大幅に改善できる。
【0054】
なお、TLP接合層Cu-Ni-Sn合金を形成し、Sn単体の層が残らないように、接合材30Bの厚み、Cu-Ni合金めっき膜12,22の厚み、およびその割合を定めておく。例えば、接合材30Bの金属粉末成分の体積含有率を50%とした場合Cu-Ni合金めっき膜12,22の厚みは、接合材30Bの厚みに対して0.05〜0.20程度とする。
【0055】
なお、Cu-Ni合金めっきに代えて、Cu-Mn合金めっき、Cu-Al合金めっき、またはCu-Cr合金めっきの膜を形成することで、TLP接合層にCu-Mu-Sn合金層、Cu-Al-Sn合金層、またはCu-Cr-Sn合金層を形成してもよい。
【0056】
《第3の実施形態》
第3の実施形態に係る構造材接合方法、接合材および接合構造について、
図7、
図8を参照して説明する。
【0057】
図7(A)は、接合すべき第1構造材10、第2構造材20および接合材30Cの接合前の状態を示す断面図である。
図7(B)は接合材の拡大断面図である。
図8(A)は、第1構造材10、第2構造材20および接合材30Cの接合後の状態を示す断面図である。
図8(B)は接合部の拡大断面図である。
【0058】
第1構造材10は例えば鋼材であり、接合面に低融点金属であるSnめっき膜13が形成されている。同様に、第2構造材20は例えば鋼材であり、接合面にSnめっき膜23が形成されている。なお、各構造材が例えばSn材であれば、その接合面にSnめっき膜13,23が形成されている必要は無い。
【0059】
接合材30Cは、TLP接合による金属間化合物層を形成するための原料成分と、熱処理時に軟化・流動する樹脂成分との混合層を備える接合用シートである。
図7(B)に示すように、前記原料成分は、高融点金属粉末であるCu-Ni合金粉末31を含む。なお、接合材30Cの形状はシート状に限定されるものではなく、例えばペースト状であってもよい。樹脂成分33は主にバインダである。混合層にはさらにフラックスが入っている。上記混合層は均一な厚みを有する面状に成形されて、両面に粘着層34が被覆されている。
【0060】
上記接合材30Cを用いた構造材接合方法は次のとおりである。
【0061】
(1)第1構造材10および第2構造材20の表面にSnめっき膜を形成する。Snめっき膜は少なくとも接合面に形成すればよい。第1構造材10および第2構造材20が、それらの表面に予めSnめっき膜が形成された構造材であれば、あるいは、構造材自体がSnを含む素材で構成されたものであれば、このSnめっき工程は省略できる。
【0062】
(2)第1構造材10のSnめっき膜13の表面または第2構造材20のSnめっき膜23の表面に接合材30Cを貼付する。つまり、シート状に成型された接合用シートのうち一方主面側の粘着層34を第1構造材10の接合面に接着させ、他方主面側の粘着層34を第2構造材20の接合面に接着させる。
【0063】
(3)これによって、接合材30Cの粘着層34の粘着性を利用して、接合材30Cを挟み込むように、第1構造材10と第2構造材20とを仮接合する。
【0064】
(4)第1構造材10と第2構造材20との接合部(接合材30C)を、ホットガン等の工業用ドライヤーを用いて加熱して、低融点金属であるSnめっき膜とCu-Ni合金粉末31とを反応させ、高融点の反応物であるTLP接合層(Cu-Ni-Sn)を生じさせる。すなわち、TLP接合反応によって金属間化合物層を生じさせ、この金属間化合物層を介して各構造材を接合させる。このときの加熱温度はSnめっき膜13,23の融点以上、Cu-Ni合金粉末31の融点以下あり、例えば250〜350℃である。また、加熱温度は単体のSnが残らない条件であり、例えば1分〜10分である。
【0065】
図8(B)に表れているように、Snめっき膜とCu-Ni合金粉末が反応して、Sn-Cu-Niが形成される。また部分的にはSn-Cuが形成される。
【0066】
粘着層34は上記加熱工程で消失するか、樹脂成分33に一体化される。フラックス成分は上記加熱工程で消失する。フラックス成分は還元剤であり、各粉末の表面の酸化膜を溶かし、上記の反応を促進する。なお、粘着層34にもフラックスが含まれていることが好ましい。そのことにより、第1構造材10、第2構造材20の表面(Snめっき膜13,23)の清浄化および各粉末表面の酸化膜を除去することができ、より緻密な金属間化合物層を形成できるとともに反応速度がより向上する。
【0067】
得られた金属間化合物層には微小な間隙部(オープンポア)が形成されるが、この微小間隙部には樹脂成分33が充填される。また、熱処理によって樹脂成分が軟化・流動して接合部の側周部に浸み出し、その結果、金属間化合物層の側周部は樹脂成分による膜で被覆される。
【0068】
このようにして金属間化合物層が形成されることにより、金属間化合物層の融点が例えば400℃以上に変化する。
【0069】
樹脂成分33は高融点金属粉末と低融点金属粉末とのTLP接合反応にしたがって外部へ押し出されようとし、金属間化合物層の側周(露出)部に樹脂膜Rが形成される。この樹脂膜Rによって金属間化合物層の側周(露出)部が被覆される。また、金属間化合物層の微小間隙部に含浸した樹脂成分と金属間化合物層の側周部に浸み出した樹脂成分とが連接し、樹脂成分による強固な保護膜が形成される。
【0070】
第1の実施形態と同様に、本実施形態によっても、上記のような特殊な組成のシート状接合材を利用しているので、構造部材同士を簡単に面接合できる。特に、Cu-Ni-Sn系金属間化合物は車体フレーム材として一般的な高張力鋼板よりも硬いため、単なるスポット溶接(さらには面接合溶接)よりも、車体フレームの剛性を高めることができる。
【0071】
また、TLP接合層の金属間化合物層が樹脂層でコートされるため、第1構造材および第2構造材の接合状態を容易に安定化させることができ、また、接合部の強度も向上させることができる。特に、原料成分の低融点金属がSn、高融点金属がCu-Ni合金であることにより、低温で短時間に高融点の反応物(金属間化合物)が形成されて、耐熱性の高い接合構造が得られる。さらに、この接合方法では、各構造材の接合面間の全体にほぼ均一な厚みの接合層が形成され、接合強度を大幅に改善できる。
【0072】
なお、接合材30C内にCu-Ni単体の層が残らないように、接合材30Cの厚み、Snめっき膜13,23の厚み、およびその割合を定めておく。例えば、接合材30Cの金属粉末成分の体積含有率を50%とした場合、Snめっき膜13,23の厚みは、接合材30Cの厚みに対して0.30〜0.60程度とする。
【0073】
なお、第1構造材および第2構造材がSn材である場合には、上記(1)のSnめっき膜形成工程は不要であり、上記(2)以降の処理を行えばよい。
【0074】
《第4の実施形態》
第4の実施形態に係る構造材接合方法、接合材および接合構造について、
図9、
図10を参照して説明する。
【0075】
図9(A)は、接合すべき第1構造材10、第2構造材20および接合材30Dの接合前の状態を示す断面図である。
図9(B)は接合材の拡大断面図である。
図10(A)は、第1構造材10、第2構造材20および接合材30Dの接合後の状態を示す断面図である。
図10(B)は接合部の拡大断面図である。
【0076】
第1構造材10および第2構造材20はいずれも銅(Cu)材である。
【0077】
接合材30Dは、TLP接合による金属間化合物層を形成するための原料成分と、熱処理時に軟化・流動する樹脂成分との混合層を備える接合用シートである。
図9(B)に示すように、前記原料成分は、Cu-Ni合金粉末31およびSn粉末32を含む。なお、接合材30Dの形状はシート状に限定されるものではなく、例えばペースト状であってもよい。樹脂成分33は主にバインダである。混合層にはさらにフラックスが入っている。上記混合層は均一な厚みを有する面状に成形されて、両面に粘着層34が被覆されている。
【0078】
上記接合材30Dを用いた構造材接合方法は次のとおりである。
【0079】
(1)第1構造材10または第2構造材20の接合面に接合材30Dを貼付する。つまり、シート状に成型された接合用シートのうち一方主面側の粘着層34を第1構造材10の接合面に接着させ、他方主面側の粘着層34を第2構造材20の接合面に接着させる。
【0080】
(2)これによって、接合材30Dの粘着層34の粘着性を利用して、接合材30Dを挟み込むように、第1構造材10と第2構造材20とを仮接合する。
【0081】
(3)第1構造材10と第2構造材20との接合部(接合材30D)を、ホットガン等の工業用ドライヤーを用いて加熱して、Sn粉末とCu-Ni合金粉末とを反応させ、高融点の反応物であるTLP接合層(Cu-Ni-Sn)を生じさせる。すなわち、TLP接合反応によって金属間化合物層を生じさせ、この金属間化合物層を介して各構造材を接合させる。
【0082】
粘着層34は上記加熱工程で消失するか、樹脂成分33に一体化される。フラックス成分は上記加熱工程で消失する。フラックス成分は還元剤であり、各粉末の表面の酸化膜を溶かし、上記の反応を促進する。なお、粘着層34にもフラックスが含まれていることが好ましい。そのことにより、第1構造材10、第2構造材20の表面の清浄化および各粉末表面の酸化膜を除去することができ、より緻密な金属間化合物層を形成できるとともに反応速度がより向上する。
【0083】
ミクロ的には、
図10(B)に表れているように、Cu-Ni合金粉末とSn粉末が反応して、Cu材の表面にCu
3Sn層およびCu
6Sn
5層が形成される。Cu-Ni合金粉末の表面にはSnとの反応によりSn-Cu-Ni膜が形成される。さらに、Cu-Ni-Snも形成される。
【0084】
得られた金属間化合物層には微小な間隙部(オープンポア)が形成されるが、この微小間隙部には樹脂成分33が充填される。また、熱処理によって樹脂成分が軟化・流動して接合部の側周部に浸み出し、その結果、金属間化合物層の側周部は樹脂成分による膜で被覆される。
【0085】
このようにして金属間化合物層が形成されることにより、融点が例えば400℃以上に変化する。
【0086】
樹脂成分33は高融点金属粉末と低融点金属粉末とのTLP接合反応にしたがって外部へ押し出されようとし、金属間化合物層の側周(露出)部に樹脂膜Rが形成される。この樹脂膜Rによって金属間化合物層の側周(露出)部が被覆される。また、金属間化合物層の微小間隙部に含浸した樹脂成分と金属間化合物層の側周部に浸み出した樹脂成分とが連接し、樹脂成分による強固な保護膜が形成される。
【0087】
《第5の実施形態》
第5の実施形態に係る構造材接合方法、接合材および接合構造について、
図11〜
図13を参照して説明する。
【0088】
図11(A)〜(D)は、第1構造材10と第2構造材20とを構造材接合用テープ305で接合する工程を示す斜視図である。
図12(A)は
図11(C)に示す状態での接合部の拡大断面図である。
図12(B)は、
図11(D)に示す状態での拡大断面図である。
【0089】
図13(A)は構造材接合用テープ305の斜視図、
図13(B)はその正面図、
図13(C)は部分拡大断面図である。
【0090】
図13(C)に表れているように、この接合用テープ305は、接合材30Eがフレキシブルな基材シート35に形成されたものである。接合材30Eの構成は、第4の実施形態で
図10(B)に示した接合材30Dと同じである。
【0091】
第1構造材10および第2構造材20はいずれもCu材である。基材シート35もCu材(箔)である。
【0092】
上記構造材接合用テープ305を用いた構造材接合方法は次のとおりである。
【0093】
(1)
図11(A)(B)(C)、
図12(A)に示すように、第1構造材10と第2構造材20の接合面同士を当接させ、その当接部の周囲に構造材接合用テープ305を貼付することにより仮接合する。
【0094】
(2)構造材接合用テープ305の周囲を、ホットガン等の工業用ドライヤーを用いて加熱して、
図12(B)に示すように、Sn粉末とCu-Ni合金粉末とを反応させ、高融点の反応物であるTLP接合層(Cu-Ni-Sn)を生じさせる。すなわち、TLP接合反応によって金属間化合物層を生じさせ、この金属間化合物層を介して各構造材を接合させる。
【0095】
粘着層34は上記加熱工程で消失するか、樹脂成分33に一体化される。フラックス成分は上記加熱工程で消失する。フラックス成分は還元剤であり、各粉末の表面の酸化膜を溶かし、上記の反応を促進する。なお、粘着層34にもフラックスが含まれていることが好ましい。そのことにより、第1構造材10、第2構造材20の表面の清浄化および各粉末表面の酸化膜を除去することができ、より緻密な金属間化合物層を形成できるとともに反応速度がより向上する。
【0096】
ミクロ的には、
図12(B)に表れているように、Cu-Ni合金粉末とSn粉末が反応して、Cu材の表面にCu-Sn膜(Cu
3Sn,Cu
6Sn
5等)が形成される。Cu-Ni合金粉末の表面にはSnとの反応によりSn-Cu-Ni膜が形成される。また、Sn粉末の一部はCuとの反応によりSn-Cu合金(Cu
6Sn
5等)が形成される。さらに、Sn粉末の一部はNiとの反応によりSn-Ni合金(Ni
3Sn
4等)が形成される。
【0097】
得られた金属間化合物層には微小な間隙部(オープンポア)が形成されるが、この微小間隙部には樹脂成分33が充填される。また、熱処理によって樹脂成分が軟化・流動して接合部の側周部に浸み出し、その結果、金属間化合物層の側周部は樹脂成分による膜で被覆される。
【0098】
このようにして金属間化合物層が形成されることにより、金属間化合物層の融点が例えば400℃以上に変化する。
【0099】
樹脂成分33はTLP接合反応にしたがって外部へ押し出されようとし、金属間化合物層の側周(露出)部に樹脂膜Rが形成される。この樹脂膜Rによって金属間化合物層の側周(露出)部が被覆される。また、金属間化合物層の微小間隙部に含浸した樹脂成分と金属間化合物層の側周部に浸み出した樹脂成分とが連接し、樹脂成分による強固な保護膜が形成される。
【0100】
なお、以上に示した各実施形態の加熱工程において、熱風加熱以外に遠赤外線加熱や高周波誘導加熱を行ってもよい。