特許第6011747号(P6011747)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6011747
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/10 20060101AFI20161006BHJP
   B23B 27/04 20060101ALI20161006BHJP
   B23B 27/16 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   B23B27/10
   B23B27/04
   B23B27/16 B
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-535188(P2016-535188)
(86)(22)【出願日】2016年1月25日
(86)【国際出願番号】JP2016051952
【審査請求日】2016年5月30日
(31)【優先権主張番号】特願2015-12113(P2015-12113)
(32)【優先日】2015年1月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】武田 茂
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−227702(JP,A)
【文献】 特開2012−183634(JP,A)
【文献】 特開平06−031502(JP,A)
【文献】 米国特許第6299388(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0321926(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/10,27/04,27/16,29/12,
B23Q 11/10,11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル部材(2)を備える切削工具(1)であって、
前記切削工具(1)に装着される前記ノズル部材(2)
固定部(3)と延出部(4)とを備え、
内部にクーラント流路(10)を有し、
前記固定部(3)は、2つの端面(5、6)と、該2つの端面の間をつなぐ周囲面(7)とを有し、
前記延出部(4)は、前記固定部(3)の前記2つの端面の一方である第1の端面(5)から突出するように、前記固定部(3)と一体的に形成された構成とされ、
該延出部(4)の先端部分(8)に、クーラント流路(10)が開口する噴出口(9)を有し、
前記固定部(3)は、前記切削工具(1)に固定される面に開口する、前記クーラント流路(10)へのクーラント導入口(11)を有し、
該クーラント流路(10)は、少なくとも2つの屈曲部(12、13)または湾曲部を有し、
前記切削工具(1)は、
工具ボデー(30)から前記延出部(4)が突出する方向に突出する板状部分(31)を備え、
該板状部分(31)の先端側に切れ刃が配置され、
前記ノズル部材(2)は、前記延出部(4)が該板状部分(31)と隣接するように装着されている、切削工具。
【請求項2】
前記延出部(4)と前記板状部分(31)との間に弾性部材(41)を備える請求項に記載の切削工具。
【請求項3】
切削インサート(20)と工具ボデー(30)とをさらに備え、
該工具ボデー(30)は、下あご(34)を備え、
該ノズル部材(2)は、上あご(33)を備え、
前記切削インサート(20)は、該上あご(33)と該下あご(34)との空間に装着されている請求項1又は2に記載の切削工具。
【請求項4】
ノズル部材(2)を備える切削工具(1)であって、
前記切削工具(1)に装着される前記ノズル部材(2)は、
固定部(3)と延出部(4)とを備え、
内部にクーラント流路(10)を有し、
前記固定部(3)は、2つの端面(5、6)と、該2つの端面の間をつなぐ周囲面(7)とを有し、
前記延出部(4)は、前記固定部(3)の前記2つの端面の一方である第1の端面(5)から突出するように、前記固定部(3)と一体的に形成された構成とされ、
該延出部(4)の先端部分(8)に、クーラント流路(10)が開口する噴出口(9)を有し、
前記固定部(3)は、前記切削工具(1)に固定される面に開口する、前記クーラント流路(10)へのクーラント導入口(11)を有し、
該クーラント流路(10)は、少なくとも2つの屈曲部(12、13)または湾曲部を有し、
前記切削工具(1)は、
切削インサート(20)と工具ボデー(30)とをさらに備え、
前記工具ボデー(30)から前記延出部(4)が突出する方向に突出する板状部分(31)を有し、
該板状部分(31)は、その先端側に上あご(33)と下あご(34)とを備え、
前記切削インサート(20)は、該上あご(33)と該下あご(34)との空間に着脱自在に装着され、
前記上あご(33)の先端近傍の上面に突出部(35)を有し、
前記ノズル部材(2)の先端部分(8)の少なくとも一部は、該突出部(35)の後方に配置されている、切削工具。
【請求項5】
ノズル部材(2)を備える切削工具(1)であって、
前記切削工具(1)に装着される前記ノズル部材(2)は、
固定部(3)と延出部(4)とを備え、
内部にクーラント流路(10)を有し、
前記固定部(3)は、2つの端面(5、6)と、該2つの端面の間をつなぐ周囲面(7)とを有し、
前記延出部(4)は、前記固定部(3)の前記2つの端面の一方である第1の端面(5)から突出するように、前記固定部(3)と一体的に形成された構成とされ、
該延出部(4)の先端部分(8)に、クーラント流路(10)が開口する噴出口(9)を有し、
前記固定部(3)は、前記切削工具(1)に固定される面に開口する、前記クーラント流路(10)へのクーラント導入口(11)を有し、
該クーラント流路(10)は、少なくとも2つの屈曲部(12、13)または湾曲部を有し、
前記切削工具(1)は、
切削インサート(20)と工具ボデー(30)とをさらに備え、
前記工具ボデー(30)から前記延出部(4)が突出する方向に突出する板状部分(31)を有し、
該板状部分(31)は、その先端側に上あご(33)と下あご(34)とを備え、
前記切削インサート(20)は、該上あご(33)と該下あご(34)との空間に着脱自在に装着され、
前記上あご(33)の先端近傍の上面に凹部(36)を有し、
前記ノズル部材(2)の先端部分(8)の少なくとも一部は、該凹部(36)内に配置されている、切削工具。
【請求項6】
溝入れまたは突っ切り用の切削工具(1)である請求項からのいずれか一項に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クーラントを噴出するノズル部材を備える切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の切削工具のノズル部材には、特許文献1に示すようなものがある。すなわち、切削工具に着脱自在に装着されるノズル部材であって、固定部と、噴出口が形成される部分(延出部)とを備える。ノズル部材は、内部にクーラント流路を有する。固定部は、2つの端面と、2つの端面の間をつなぐ周囲面とを有する。延出部は、固定部の2つの端面の一方から突出するように、固定部と一体的に形成される。延出部には、クーラント流路が開口する噴出口が形成される。固定部には、クーラント流路へのクーラント導入口が形成される。クーラント流路は、1つの屈曲部を有する。
【0003】
図示しないが、従来の切削工具の別のノズル部材には、パイプを用いて、切れ刃に向く噴出口を備えるものがある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−266103号公報
【特許文献2】特開平8−257807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の切削工具のノズル部材は、クーラントの噴出口が切れ刃から離れた位置に配置される。このため、特に溝入れ加工などのように、切れ刃の周辺に被加工物の壁面などの障害物があると、クーラントが切れ刃まで届きにくく、改善の余地があった。また、パイプを用いてクーラントの噴出口を切れ刃に向けて配置すると、クーラントが切れ刃まで届くように改善されるが、切りくずの衝突によりパイプなどが曲がりやすく、クーラントの供給が安定しない場合があった。また、切りくずがパイプなどにからまりやすく、切りくず処理性が低下する問題があった。本発明の切削工具のノズル部材は、切れ刃の近くにクーラントの噴出口を配置することができる。なおかつ切りくずが衝突しても曲がらず、切りくずがからまりつかないノズル部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ノズル部材(2)を備える切削工具(1)であって、切削工具に装着されるノズル部材、固定部と延出部とを備える。内部にクーラント流路を有する。固定部は、2つの端面と、2つの端面の間をつなぐ周囲面とを有する。延出部は、固定部の2つの端面の一方である第1の端面から突出するように、固定部と一体的に形成される。延出部には、クーラント流路が開口する噴出口が形成される。固定部には、クーラント流路へのクーラント導入口が形成される。クーラント流路は、少なくとも2つの屈曲部または湾曲部を有する。
【0007】
本発明の切削工具は、工具ボデーから延出部が突出する方向に突出する板状部分を備え、板状部分の先端側に切れ刃が配置され、ノズル部材は、延出部が板状部分と隣接するように装着されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の切削工具のノズル部材によれば、固定部から突出するように固定部と一体的に形成される延出部にクーラントなどの噴出口が設けられ、クーラント流路が少なくとも2つの屈曲部または湾曲部を有することで、切れ刃の近くに噴出口を配置でき、なおかつ切りくずが衝突しても曲がらず、さらに切りくずがからまりつくことも防止される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は第1の実施形態である切削工具の斜視図である。
図2図2は第1の実施形態であるノズル部材の斜視図である。
図3図3図2のノズル部材の正面図である。
図4図4図2のノズル部材の右側面図である。
図5図5図2のノズル部材の平面図である。
図6図6図2のノズル部材の左側面図である。
図7図7図2のノズル部材の図3のVII−VII切断線における断面図である。
図8図8図2のノズル部材の図5のVIII−VIII切断線における断面図である。
図9図9図2のノズル部材の図3のIV−IV切断線における断面図である。
図10図10は第2の実施形態である切削工具の斜視図である。
図11図11は第2の実施形態であるノズル部材の斜視図である。
図12図12図11のノズル部材の正面図である。
図13図13図11のノズル部材の平面図である。
図14図14は第2の実施形態の第1の変形例である切削工具の右側面図である。
図15図15図4の一部拡大図である。
図16図16は第2の実施形態の第2の変形例である切削工具の一部拡大右側面図である。
図17図17は第2の実施形態の第3の変形例である切削工具の一部拡大右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を適用した切削工具の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1に示すように、第1の実施形態における切削工具1は、被加工物に溝加工または突っ切り加工を行うための溝入れまたは突っ切り用の切削工具である。この切削工具1は、切削インサート20を用いる。切削インサート20は、正面(先端面)と上面(すくい面)との交差稜線に切れ刃を有する。切れ刃は、切削インサート20の左右の側面と上面との交差稜線の一部にも形成される。
【0011】
切れ刃、および切れ刃の周辺の工具材料は、超硬合金、サーメット、セラミック、立方晶窒化硼素を含む焼結体等の硬質材料またはこれら硬質材料の表面にPVDまたはCVDコーティング膜を被膜したもの、または単結晶ダイヤモンド或いはダイヤモンドを含む焼結体の中から選択されることが好ましい。
【0012】
切削インサート20は、切削工具1のチップ座32へ、着脱自在に装着される。チップ座32は、工具ボデー30から延出部4が突出する方向に突出する板状部分31の先端側に形成される上あご33と下あご34とを備える。切削インサート20を装着するときは、締め付けねじ40を締めつけると、弾性変形によって上あご33と下あご34との間隔が狭まるため、切削インサート20が挟まれて固定される。切削インサート20を取り外すときは、締め付けねじ40を緩めると、弾性変形によって上あご33と下あご34との間隔が広がるため、切削インサート20が解放される。切削工具1を切削加工に使用することにより切削インサート20が摩耗または損傷したときは、別の切削インサート20へ交換することができる。したがって、この切削工具1は繰り返し使用することができて経済的である。なお切削インサート20を切削工具1へ装着するときの固定方法は、この実施形態に限定されない。既知の様々な切削インサート20の固定方法が適用できる。また切削インサート20を用いることにも限定されない。切れ刃を有するチップが板状部分の先端側にろう付けされても構わない(図示しない)。また板状部分が超硬合金、サーメット、セラミックなどの硬質材料で作製され、切れ刃を一体的に有する板状部分とされても構わない(図示しない)。この実施形態では、切れ刃の幅が約4mmの切削インサート20を用いた。すなわち、被加工物に溝幅が約4mmの溝を加工することに適した溝入れ加工用の切削工具1である。しかし切れ刃の幅も、この実施形態に限定されない。切れ刃の形状や幅は、加工される被加工物の形状や切削条件に応じて、適宜選択されるとよい。なお説明をわかりやすくするために、上下左右など、空間内の向きを表す用語を用いているが、これは便宜上のものであって、空間内の絶対的な向きや位置関係を規定することを企図したものではない。特にことわりがない限り、その他の空間内の向きや位置関係を表す用語も同様である。
【0013】
切削工具1は、ノズル部材2を備える。図2から図5に示すように、ノズル部材2は、固定部3と延出部4とを備える。固定部3と延出部4とは、一体的に形成される。固定部3は、2つの端面5、6と、これらの端面5、6の間をつなぐ周囲面7とを有する。固定部3は、締め付けねじ15によって切削工具1に固定される。固定部3は、締め付けねじ15を受容する固定穴14を有する。固定穴14は、締め付けねじ15の頭部を収容するための拡径部分を有する。固定穴14の拡径部分と貫通穴部分との段差部分を締め付けねじ15の頭部が押すことにより、ノズル部材2は切削工具1に着脱自在に固定される。しかし、これに限定されない。ノズル部材2を切削工具1に装着する固定方法は、ろう付けや接着など、既知の様々な固定方法が適用できる。
【0014】
延出部4は、固定部3から突出するように、固定部3と一体的に形成される。この実施形態のノズル部材2は、延出部4が固定部3の2つの端面5、6のうち、第1の端面5から突出する。具体的には、図3において、固定部3の右側の端面である第1の端面5から、延出部4は右側に向かって突出している。延出部4は、第1の端面5から垂直方向に突出している。しかし、これに限定されない。延出部4は、第1の端面5に対して、所定の角度をなすように傾斜する方向に突出しても構わない。この実施形態のノズル部材2は、延出部4が第1の端面5から突出する長さが、2つの端面5、6の間の距離と同じ長さとされる。具体的には、延出部4が第1の端面5から突出する長さは、2つの端面5、6の間の距離と同じ約10mmとされる。
【0015】
ノズル部材2は、内部にクーラント流路10を有する。クーラント流路10は、固定部3および延出部4にそれぞれ開口部を有する。クーラント流路10のうち延出部4に設けられる第3のクーラント流路10cの開口部は、噴出口9とされ、切れ刃または被加工物に向かってクーラントなどを噴出する。クーラント流路10のうち固定部3に設けられる第1のクーラント流路10aの開口部は、クーラント導入口11とされ、切削工具1の内部に形成されている工具ボデー内クーラント流路(図示しない)と連結され、ノズル部材2のクーラント流路10へクーラントを供給する。この実施形態のノズル部材2は、クーラント導入口11に拡径部分が形成されている。この拡径部分には、パッキンなどが挿入されて、工具ボデー内クーラント流路との間に隙間が生じないようにされるとよい。隙間が生じなければ、連結部からクーラントが漏れ出すことを防止できる。なお、ノズル部材2のクーラント流路10と、工具ボデー内クーラント流路との連結方法は、この実施形態に限定されず、図示しないがパイプやホースを用いて連結するなど、既知のさまざまなクーラント流路の連結方法が適用できる。
【0016】
ノズル部材2のクーラント流路10は、2つの屈曲部12、13を有する。第1の屈曲部12は、クーラント導入口11からのびる第1のクーラント流路10aと、延出部ののびる方向に平行にのびる第2のクーラント流路10bとを連結する。第2の屈曲部13は、第2のクーラント流路10bと、噴出口9に向かう第3のクーラント流路10cとを連結する。図7から図9に各々のクーラント流路10a、10b、10cに関する断面図を示す。なお図2および図6にみられるように、第2のクーラント流路10bは、第2の端面6に穴の開口部を有するように形成された後、六角穴付き止めねじ21で穴の開口部が埋められている。したがって、第2のクーラント流路10bは、ノズル部材2の表面に開口部を持たず、ノズル部材2の内部のみに存する。
【0017】
次に、本実施形態の切削工具1のノズル部材2が奏する効果について説明する。ノズル部材2は、工具ボデー30とは別部材とされる。また前述のとおり、ノズル部材2は、固定部3と、その固定部3から突出する延出部4とを備え、ノズル部材2のクーラント流路10は、2つの屈曲部12、13を有する。このように延出部4を備え、クーラント流路10が2つの屈曲部12、13を有することで、噴出口9を切れ刃の近くに配置し、なおかつ切れ刃または被加工物に向かってクーラントなどを噴出することができる。より詳細には、本実施形態のように、工具ボデー内クーラント流路の出口が切削インサート20の切れ刃から離れた位置に且つ下向きに開口していても、固定部3の底面に開口するクーラント導入口11から固定部3内に導入されたクーラントは、第1のクーラント流路10aを通って固定部3内を斜め上方に流れ、屈曲部12において延出部4ののびる方向と平行に方向転換して第2のクーラント流路10bを通って切削インサート20側に流れ、更に屈曲部13において切削インサート20の切れ刃または被加工物に向かう方向に方向転換し、第3のクーラント流路10cを通って噴出口9から噴出される。すなわち2つの屈曲部12、13を有することで、クーラント導入口11の位置および向きに関わらず、噴出口9の位置および向きを調整する自由度を高める。噴出口9が切れ刃または被加工物に対して適切に配置されることで、クーラントなどが切れ刃または被加工物に適切に供給され、冷却効果が高まり、または潤滑効果が高まる。その結果、切削条件を高めて高能率な切削加工を行ったり、あるいは加工品位を高めたりできる。
【0018】
図1に示すように、この実施形態の切削工具1の工作機械への装着部は、PSC規格(ISO 26623)に沿った形状とされる。すなわち、工作機械に装着されるシャンク部分がPSC規格に沿った複雑な形状とされる。もしもノズル部材2を用いず、このような切削工具1にクーラント流路の穴を直接あける場合には、ワークテーブルにPSC規格に沿った保持具を備えた工作機械を用いることになる。また切削工具1の形状も複雑な形状となるため、クーラント流路10を複雑に屈曲または湾曲する形状に穴あけ加工することが難しくなる。したがって、製造コストが増大する問題点がある。これに対して、この実施形態の切削工具1のように、ノズル部材2を別部材として装着する形式にすると、ノズル部材2だけに穴あけ加工を行った後、切削工具1に装着すればよいため、より複雑なクーラント流路10を、製造コストを増大させずに形成できる。すなわち、この実施形態のノズル部材2のように、第1から第3のクーラント流路10a、10b、10cを設け、それぞれを第1および第2の屈曲部12、13でつなぐように形成することが、製造コストを増大させずにできる。同様に、3つ以上の屈曲部を有するノズル部材の場合でも、製造コストを増大させずに製造できる。なお、この実施形態のノズル部材2は、屈曲部12、13を設けたが、屈曲部に代えて湾曲部が形成されても構わない。ただし、通常のドリル加工でクーラント流路10を自由に湾曲させることは難しい。ノズル部材2の内部に湾曲したクーラント流路10を設けるには、鋳造で製造する方法などが一般的である。ノズル部材を別部材として装着する形式にすると、ノズル部材を鋳造などで製造することも容易になる。
【0019】
この実施形態のノズル部材2のように、切削工具1に締め付けねじ15で着脱自在に装着されると、クーラントの噴出方向を調整できる。クーラントの噴出方向の調整は、噴出方向の異なるノズル部材2へ交換することにより行える。または、締め付けねじ15と固定穴14との隙間によってクーラントの噴出方向を微調整することができる。固定穴14を長穴などにすると、クーラントの噴出方向を調整できる範囲がさらに拡張される。
【0020】
クーラント流路10の形成方法は、第2のクーラント流路10bで例示されたように、穴をあけた後に六角穴付き止めねじ21などで穴の一部を埋めることもできる。このように六角穴付き止めねじ21などで穴の一部を埋めると、より複雑なクーラント流路10を形成することができる。なお、穴の一部を埋める方法は、この実施形態のような六角穴付き止めねじ21による方法に限定されない。ピンで埋める方法や、溶接して埋める方法、接着剤を用いて埋める方法など、既知の様々な穴の一部を埋める方法が適用できる。
【0021】
延出部4は、固定部3から大きく突出させることができる。すなわち、延出部4が第1の端面5から突出する長さは、2つの端面5、6の間の距離と同じか、長くすることが好ましい。このように延出部4を大きく突出させることで、噴出口9を切れ刃または被加工物に近づけることができる。この実施形態のノズル部材2のように、延出部4は第1の端面5に対して略垂直に突出させることが好ましい。しかし、これに限定されない。延出部4が突出する方向は、第1の端面5に対して所定の角度をなして傾斜するようにされても構わない。クーラントを噴出するために、障害物を回避するような形状であれば、どのように形成されても構わない。ただし、延出部4をパイプなどのように、切りくずが引っ掛かりやすく、なおかつ巻きつきやすい形状のもので、自由に手で曲げられる形態にするものは含まれない。そして延出部4は、切りくずなどが衝突しても曲がらない強度を要する。また延出部4のうち、切れ刃の近くに配置される部分は、切りくずがからみつかないような形状または配置とされることが好ましい。
【0022】
図10に第2の実施形態における切削工具1を示す。説明を簡略にするため、第1の実施形態における切削工具1と同じ部材には同じ部材番号を付し、説明を省略する。この実施形態における切削工具1も、被加工物に溝加工または突っ切り加工を行うための溝入れまたは突っ切り用切削工具である。この切削工具1は、第1の実施形態における切削インサート20と同じ切削インサート20を用いる。
【0023】
図11から図13に示すように、この実施形態のノズル部材2は、延出部4が固定部3の2つの端面のうち、第1の端面5から突出する。ノズル部材2は、内部にクーラント流路10を有する。クーラント流路10は、2箇所の屈曲部12、13を有する。延出部4が第1の端面5から突出する長さは、2つの端面5、6の間の距離よりも長くされる。具体的には、延出部4が第1の端面5から突出する長さは約15mmとされ、2つの端面5、6の間の距離は約5mmとされる。しかし、これに限定されない。
【0024】
延出部4は、先端側に切れ刃を有する板状部分31の後方かつ上方に配置される。しかし、これに限定されない。延出部4は、板状部分31の上あご33と隣接するように、さらに前方となる板状部分31の上方まで延長されても構わない。
【0025】
図14に第2の実施形態の第1の変形例における切削工具1を示す。説明を簡略にするため、上記実施形態における切削工具1と同じ部材には同じ部材番号を付し、説明を省略する。この変形例における切削工具1も、被加工物に溝加工または突っ切り加工を行うための溝入れまたは突っ切り用切削工具である。この切削工具1は、上記実施形態における切削インサート20と同じ切削インサート20を用いる。
【0026】
図14、15に示すように、この変形例の板状部分31は、その上あご33の先端近傍の上面33Aに突出部35を有する。そして、ノズル部材2の先端部分8の少なくとも一部(この変形例では先端面8Aの近傍)は、この突出部35の後方に隠れるように配置されている。別言すると、上あご33の先端付近の上面33Aに設けられた突出部35の後面35A、すなわち、ノズル部材2の先端面8Aと対向する面と、上あご33の先端近傍の上面33Aとで凹部36が形成されていて、ノズル部材2の先端部分8の少なくとも一部(この変形例では先端面8Aの近傍)部36内に配置されているということもできる。
【0027】
このような構成によれば、ノズル部材2の先端部分8の下面4Aと、上あご33の先端近傍の上面33Aとの間に隙間Gが存在しても、この隙間Gが切削インサート20側から見て突出部35の後方に隠れるため、ノズル部材2に切りくずがからみつくことが防止される。
【0028】
上あご33の先端近傍の形状は、図14、15に示す形態に限定されない。例えば図16に示す第2の変形例のように、上あご33の先端近傍の傾斜角θを図15に示すものより小さくすることにより、上あご33の先端近傍の傾斜面を緩やかにするとともに、突出部35がノズル部材2の先端面8Aの直前で急激に立ち上がるようにしてもよい。この構成では、ノズル部材2に切りくずがからみつくことが防止できるだけでなく、切りくずが上あご33の先端近傍の緩やかな傾斜面に沿って後方に案内されやすくなるため、切りくずの排出性も向上する。
【0029】
上記各実施形態及び変形例においては、延出部4が板状部分31の上あご33と隣接するように、さらに前方となる板状部分31の上方まで延長されていても構わないが、その場合には図17に示す第3の変形例のように、延出部4と板状部分31との間に弾性部材41を備えるとよい。弾性部材41によって、上あご33が切削インサート20の着脱のために弾性変形するときに、上あご33と延出部4との隙間Gの一部又は全部を埋めることができる。一部を埋める構成の場合には、弾性部材41の先端面41Aとノズル部材2の先端面8Aとが同一平面面内に並ぶように弾性部材41を配置しておくことが特に好ましい。以上の構成により、切りくずがからみつくことを防止できる。さらにいえば、ノズル部材2の延出部4は、上あごを兼用するように形成されても構わない。ノズル部材2が上あごを兼用すると、切りくずがからみつくことをさらに防止できる。
【0030】
この発明のノズル部材は、様々な切削工具に適用されて、その切削工具が工作機械に装着されることにより、鋼材などの切削加工に利用できる。なお切削インサートおよび切削工具の形状は、上記実施形態及び変形例に限定されない。溝入れまたは突っ切り用にも限定されず、既知の様々な形状の切削インサートおよび切削工具に適用できる。ただし、本発明のノズル部材は、旋盤用のバイトや回転切削工具などに適用されて、被加工物に溝加工するときに特に有効である。
【0031】
この発明のノズル部材および切削工具は、以上に説明した実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更及び追加が可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 切削工具
2 ノズル部材
3 固定部
4 延出部
5 固定部の第1の端面
6 固定部の第2の端面
7 固定部の周囲面
8 延出部の先端部
9 噴出口
10 クーラント流路
10a 第1のクーラント流路
10b 第2のクーラント流路
10c 第3のクーラント流路
11 クーラント導入口
12 第1の屈曲部
13 第2の屈曲部
14 固定穴
20 切削インサート
30 工具ボデー
31 板状部分
32 チップ座
33 上あご
34 下あご
35 突出部
36 凹部
41 弾性部材
【要約】
クーラントの噴出口を配置する自由度が高い切削工具のノズル部材を提供する。本発明のノズル部材は、切削工具に装着されるノズル部材であって、固定部と延出部とを備える。内部にクーラント流路を有する。固定部は、2つの端面と、2つの端面の間をつなぐ周囲面とを有する。延出部は、固定部の2つの端面の一方である第1の端面から突出するように、固定部と一体的に形成される。延出部には、クーラント流路が開口する噴出口が形成される。固定部には、クーラント流路へのクーラント導入口が形成される。クーラント流路は、少なくとも2つの屈曲部または湾曲部を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17