特許第6011753号(P6011753)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6011753-容器用ラミネート金属板 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6011753
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】容器用ラミネート金属板
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/09 20060101AFI20161006BHJP
   B65D 8/16 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   B32B15/09 A
   B65D8/16
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-545384(P2016-545384)
(86)(22)【出願日】2016年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2016060725
【審査請求日】2016年7月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-70504(P2015-70504)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】北川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】中丸 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】山中 洋一郎
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−254629(JP,A)
【文献】 特開2014−210363(JP,A)
【文献】 特開2001−1447(JP,A)
【文献】 特開2003−213104(JP,A)
【文献】 特開平5−269819(JP,A)
【文献】 特開2004−74777(JP,A)
【文献】 特開2002−307632(JP,A)
【文献】 特開2002−331612(JP,A)
【文献】 特開2002−331629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00〜43/00
B65D1/00〜 1/48
8/00〜 8/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の片面もしくは両面に多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とが重合されたポリエステルを主成分とする少なくとも2層の積層樹脂層を具備した容器用ラミネート金属板であって、
前記積層樹脂層の金属板と接する下層のポリエステル樹脂層は、多価カルボン酸成分のうちテレフタル酸が90モル%以上であり、多価アルコール成分のうちエチレングリコールが30〜50モル%、1,4−ブタンジオールが50〜70モル%、それ以外の多価アルコール成分が10モル%以下であり、
前記積層樹脂層の上層の主層であるポリエステル樹脂層は、多価カルボン酸成分のうちテレフタル酸が90モル%以上であり、多価アルコール成分のうち1,4−ブタンジオールが90モル%以上となるポリエステルから構成され、合計厚みが3〜25μmであり、X線回折で、2θ=22.5°〜24.0°の範囲内に見られるピークの強度(I100)に対する2θ=15.5°〜17.0°の範囲内に見られるピークの強度(I011)の比(I011/I100)が0.2〜5.0の範囲内にあることを特徴とする容器用ラミネート金属板。
【請求項2】
前記積層樹脂層のうち、金属板と接する下層の膜厚比率が樹脂の前記積層樹脂層の合計厚みに対して10〜30%であることを特徴とする請求項1に記載の容器用ラミネート金属板。
【請求項3】
前記積層樹脂層に着色顔料が含有されることを特徴とする請求項1または2に記載の容器用ラミネート金属板。
【請求項4】
前記積層樹脂層のさらに上層に、1μm以上のポリエステル樹脂が積層され、樹脂層全体の合計膜厚が3〜25μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の容器用ラミネート金属板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料缶や食缶などの容器の材料として用いられる容器用ラミネート金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品用金属缶の内面および外面には、内容物の風味を保つと同時に、金属缶素材の腐食を防止することを目的として、あるいは缶外面の意匠性の向上、印刷面の保護などを目的として、熱硬化性樹脂を主成分とする溶剤型の塗料が塗布されていた。しかし、溶剤型塗料は塗膜を形成するために高温での加熱が必要であり、また、その時に多量の溶剤が発生するため、作業の安全性および環境の面で問題があった。そのため、最近は溶剤を用いない腐食防止法として、熱可塑性樹脂による金属の被覆が提案されている。この技術では、熱可塑性樹脂の中でも特にポリエステルが加工性、耐熱性などに優れることから、ポリエステルをベースとした金属ラミネート用フィルムの開発が進められている。
【0003】
しかし、ポリエステルフィルムをラミネートした金属容器には、レトルト殺菌処理などの高温殺菌処理の際に、意匠性や内容物の風味を損なうという問題があった。また、同じくレトルト殺菌処理中に、樹脂層そのものが白く濁ったように変色する白化現象(レトルト白化)が発生するという問題もあった。
【0004】
これに対して、内容物の風味を保持する方法として、多数の技術が開示されている。例えば、特許文献1〜6にはブチレンテレフタレート単位を主体とする樹脂被覆技術が開示されている。
【0005】
特に、特許文献4に開示されている鋼板用化粧フィルムには、鋼板との貼合面側に非晶性の共重合ポリエチレンテレフタレート系樹脂を主成分とする接着層が設けられている。この接着層では、ポリエチレンテレフタレートのジオール部分であるエチレングリコールの一部が1,4−シクロヘキサンジメタノールに置き換えられている。接着層の上部には、顔料を配合したポリブチレンテレフタレートを主成分とする層が設けられている。この接着層は、厚み2〜50μmで、かつ、全層の厚みの50%未満のものとされている。
【0006】
また、特許文献5には、2層構成を少なくとも有する積層ポリエステルフィルムであって、主として壁紙表層用のフィルムが開示されている。このうち1層のポリエステルは、グリコール成分として、エチレングリコール成分および1,4−ブタンジオール成分を90モル%以上含む事を特徴としたガスバリア性に優れたフィルムである。
【0007】
特許文献6に開示されている容器用樹脂被覆鋼板では、18リットル缶用途の鋼板であるが、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとをブレンドした樹脂層が鋼板に接するように被覆されている。その上に、ポリブチレンテレフタレートからなる層が積層されて2層とされ、さらにその上に、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレートからなる共重合ポリエステル樹脂からなる層が積層されている。先述の2層のうち、鋼板に接するように被覆された層は、ポリエチレンテレフタレートに対し、ポリブチレンテレフタレートのブレンド比率が1/5以上である未配向層であり、その上に積層されたポリブチレンテレフタレートからなる層は未配向層である。
【0008】
また、特許文献7,8には、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートからなるフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3697854号公報
【特許文献2】特許第2565284号公報
【特許文献3】特許第3083707号公報
【特許文献4】特許第4681875号公報
【特許文献5】国際公開第2007/058152号
【特許文献6】特開2001−1447号公報
【特許文献7】特許第3481196号公報
【特許文献8】特許第3753592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1〜3では、レトルト殺菌処理が施される用途および加工性について考慮されていない。すなわち、特許文献1および3はポリブチレンテレフタレート比率が低いため、レトルト殺菌処理が施された場合、白化する懸念がある。また、特許文献2では板厚減少率20%の加工にとどまっているのに対して、本願発明においては、板厚減少率50%となる高加工の成形が必要になるが、特許文献2は、配向結晶を有しているため、高加工した場合の加工性に劣る懸念がある。また、特許文献4,5の技術では、外装用に用いられレトルト殺菌を施す必要がないため、レトルト白化の問題は解決されていない。
【0011】
特許文献6の技術でも、18リットル缶用途を目的としておりレトルト殺菌が施されないため、レトルト白化の問題は解決されていない。また、特に天蓋で使用される場合、手環を溶接にて取り付ける際にフィルム損傷する場合があり、フィルム厚みとして40μm以上にする必要があるが、本発明の用途で同様の厚膜とした場合、成形が困難となるため、本願発明の用途には適用できない。また、厚膜である分、レトルト白化には有利になるため問題視されなかったことも考えられる。また、特許文献7,8のフィルムは接着層を持たないため、加工した際の密着性に問題があった。
【0012】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、成形性とレトルト殺菌処理後の缶体外観の意匠性とがともに優れ、DRD缶およびDI缶といった2ピース缶に適用可能な容器用ラミネート金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る容器用ラミネート金属板は、金属板の片面もしくは両面に多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とが重合されたポリエステルを主成分とする少なくとも2層の積層樹脂層を具備した容器用ラミネート金属板であって、前記積層樹脂層の金属板と接する下層のポリエステル樹脂層は、多価カルボン酸成分のうちテレフタル酸が90モル%以上であり、多価アルコール成分のうちエチレングリコールが30〜50モル%、1,4−ブタンジオールが50〜70モル%、それ以外の多価アルコール成分が10モル%以下であり、前記積層樹脂層の上層の主層であるポリエステル樹脂層は、多価カルボン酸成分のうちテレフタル酸が90モル%以上であり、多価アルコール成分のうち1,4−ブタンジオールが90モル%以上であるポリエステルから構成され、合計厚みが3μm以上、25μm以下であり、X線回折で、2θ=22.5°〜24.0°の範囲内に見られるピークの強度(I100)に対する2θ=15.5°〜17.0°の範囲内に見られるピークの強度(I011)の比(I011/I100)が0.2〜5.0の範囲内にあることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る容器用ラミネート金属板は、上記発明において、前記積層樹脂層に着色顔料が含有されることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る容器用ラミネート金属板は、上記発明において、前記積層樹脂層のうち、金属板と接する下層の膜厚比率が樹脂の前記積層樹脂層の合計厚みに対して10〜30%であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る容器用ラミネート金属板は、上記発明において、前記積層樹脂層のさらに上層に、1μm以上のポリエステル樹脂が積層され、樹脂層全体の合計膜厚が3〜25μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成形性とレトルト殺菌処理後の缶体外観の意匠性とがともに優れ、DRD缶およびDI缶といった2ピース缶に適用可能な容器用ラミネート金属板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態であるラミネート金属板の片面側の断面の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0020】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の組成を有するポリエステルフィルムを延伸することなく無延伸のままでラミネートした金属板を使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0021】
一般的なポリエステル樹脂が被覆された金属板を用いて製造された食品缶詰についてレトルト殺菌処理を行うと、多くの場合、食品缶詰の缶の外面側の樹脂層が白化する現象が見られる。これは、樹脂層内部に微小な空隙が形成されてそれが外光を乱反射するため白く濁ったように観察されるものである。これら空隙は乾燥条件下での熱処理では形成されない。さらに、内容物が充填されない空缶でのレトルト殺菌処理時には発生しない。また、白化が発生している樹脂層と金属板断面とを観察すると、白化は樹脂層の厚み全体に発生するのではなく、金属板の表面近傍の樹脂(すなわち、樹脂層の最下層近傍)に観察される。これらの観察結果から、レトルト殺菌処理時の食品缶詰の缶の外面側樹脂層には以下のメカニズムで空隙が発生していると考えられる。
【0022】
内容物が充填された缶体の外面側は、レトルト殺菌処理開始直後に高温高圧の水蒸気にさらされる。その際に、一部の水蒸気が缶体の外面側の樹脂層を透過して、金属板の表面近傍まで侵入する。内容物が充填されている缶体は、レトルト殺菌処理前に充填された内容物によって冷やされている状態であり、缶体の外面側の樹脂層のうち、特に金属板の表面近傍の樹脂は缶体周囲の雰囲気よりも低温になっている。そのため金属板の表面近傍のポリエステル樹脂中に進入した高温の水蒸気が冷やされて水へ凝縮される。この凝縮水によって外面側樹脂層が押し広げられて水泡が形成される。レトルト殺菌処理が経過すれば内容物の温度が上がるので、この水泡はじきに気化する。この水泡が気化した後が空隙となるものと推定される。
【0023】
加熱した金属板にポリエステルフィルムを熱融着するラミネート方式でポリエステル樹脂層を形成する場合、特に金属板の表面近傍のポリエステル樹脂が熱影響を受けやすいため、従来の二軸延伸ポリエステルフィルムの場合でも、金属板の表面近傍のポリエステル樹脂は結晶配向が崩れた非晶層となり、機械的強度が低下している場合がある。また、無延伸ポリエステルフィルムの場合には、ポリエステル樹脂層は製膜時にポリエステル樹脂の結晶が配向しない非晶構造となっており、もともと機械的強度が高くない状態である。いずれの場合にも、ポリエステル樹脂層のうち金属板の表面近傍は機械的強度が小さいために変形しやすく、前述のようにして空隙が発生すると考えられる。つまり二軸延伸ポリエステルフィルムであろうと無延伸ポリエステルフィルムであろうと製膜方法に限らず、白化現象は発生する可能性がある。
【0024】
容器にしたときに外面側となるポリエステル樹脂層のうち金属板の表面近傍の樹脂の強度を結晶化などにより上昇させることができれば、白化現象の抑制(耐レトルト白化性の向上)は可能であると考えられる。しかし、一般的な製造方法である熱融着法では、ポリエステルフィルムのガラス転移点以上の高温に金属板を加熱してポリエステルフィルムを熱融着させ、ポリエステル樹脂層を形成するため、ポリエステルフィルムがあらかじめ結晶構造を有していても、金属板の表面近傍のポリエステル樹脂の結晶構造が崩れることは避けられない。ゆえに、本発明者らは、ポリエステル樹脂層を、ラミネート直後は機械的強度が小さい非晶層として形成させ、容器として缶体(缶胴および蓋)となった後に硬く強固な層として形成させることにより、白化現象を回避することに思い至った。
【0025】
容器にしたときに外面側となるポリエステル樹脂層のうち金属板の表面近傍の樹脂をレトルト殺菌処理前に結晶化させる方法には、レトルト殺菌処理前に熱処理を施すという手段がある。容器成形前に熱処理を施す場合には、結晶配向が高いポリエステル樹脂は、成形性に劣るため、適用できる容器の形態が非常に限られ現実的でない。また、容器成形後に熱処理を施す場合も、成形後の工程が増えて製造コストが増大するデメリットがある。
【0026】
そのため、本発明者らは、レトルト殺菌処理時の熱を利用して結晶化を高めることを狙い、結晶化速度の速い樹脂組成を見出して容器用ラミネート金属板に適用することを考えた。つまり、レトルト殺菌処理で缶の外面側樹脂層に空隙が形成される前に非晶ポリエステル樹脂を結晶化させ、樹脂層の強度を向上させることを考えた。
【0027】
そこで、本発明の一実施形態であるラミネート金属板は、以下に説明するように構成される。図1は、本発明の一実施形態であるラミネート金属板の片面側の断面の構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施の形態のラミネート金属板1は、金属板2と、金属板2の片面もしくは両面に形成されたフィルム3とを備える。フィルム3は、少なくともラミネート金属板1が容器に成形された際に容器の外面側になる面に形成され、金属板2に接する下層3aと表面側の上層3bとの少なくとも2層に積層されたポリエステル樹脂層(積層樹脂層)で構成される。これらのポリエステル樹脂層3a,3bには、着色顔料を含有してもよい。ただし、金属板との密着性の観点から、金属板2と接する下層3aには着色顔料を含有しないことが好ましい。また、この積層樹脂層の上層3bのさらに上層(3c)に着色顔料を含有しないポリエステル樹脂層が形成されていることが好ましい。また、ポリエステル樹脂層3a,3b,3cの中でも複数の層で構成されていてもよい。
【0028】
<金属板>
本発明において下地となる金属板2は、缶用材料として広く使用されている鋼板やアルミニウム板を用いることができ、特に下層が金属クロム、上層がクロム水酸化物となる二層皮膜の表面処理鋼板であるティンフリースチール(以下TFS)などが好適である。TFSの金属クロム、およびクロム水酸化物層の付着量は特に限定されないが、加工性や耐食性の観点から、金属クロム層は70〜200mg/m、クロム水酸化物層は10〜30mg/mの範囲とすることが望ましい。
【0029】
<金属板にラミネートされるフィルム>
本発明において金属板2にラミネートされるフィルム3は、ポリエステルを主成分とする少なくとも2層の積層樹脂層で構成され、二軸延伸されることなく無延伸のまま製膜されたものが使用される。過去に検討されてきた二軸延伸フィルムは、延伸工程により樹脂の分子鎖が特定方位に配向した配向結晶を有しており、フィルム強度は増すものの延性は損なわれる。この配向結晶が多く残存した場合、加工性を阻害する要因になる。このように二軸延伸フィルムラミネート金属板は、ラミネート時の入熱により大きく性能が変化し、そのコントロールに細心の注意を払う必要がある。特に、DI缶のような加工度の大きい成形では、樹脂の融点近傍の高温でラミネートして配向結晶をほとんどアモルファス(非晶)化させることで成形性を向上させている。その場合、高温ゆえにフィルムが流動し、金属板へのラミネート時に圧着ロールへの付着が発生するなどして生産性が落ちる要因になる可能性がある。無延伸フィルムであれば、ラミネート条件の緻密な制御を行う必要がないため、ラミネート性に優れている。
【0030】
<金属板と接する下層のポリエステル樹脂層>
積層樹脂層の下層3aに形成される金属板2と接するポリエステル樹脂層は、レトルト殺菌処理後の白化を抑制するため、多価カルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とし、多価アルコール成分としてエチレングリコールと1,4−ブタンジオールを主成分とするポリエステルから構成される。多価カルボン酸成分のうちテレフタル酸が90モル%以上であり、好ましくは95モル%以上である。90モル%未満の場合、耐レトルト白化性を損ねる。多価アルコール成分中のエチレングリコールは30〜50モル%、1,4−ブタンジオールが50〜70モル%、それ以外の多価アルコール成分が10モル%以下である。エチレングリコールが30モル%より少ないと加工後の密着性を損ね、50モル%超になると耐レトルト白化性を損ねる。本発明の効果を妨げない範囲で、他のモノマーを10モル%以下共重合してもよい。
【0031】
共重合する多価カルボン酸成分として、たとえば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などのジカルボン酸、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンや乳酸などが挙げられる。また共重合する多価アルコール成分として、たとえば、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールAやビスフェノールSのエチレンオキシド付加体などが挙げられる。さらに、共重合成分として、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの3官能化合物などを少量用いてもよい。これらの共重合成分は2種以上併用してもよい。
【0032】
<金属板と接する下層のポリエステル樹脂層の上層のポリエステル樹脂層>
金属板2と接する下層3aのポリエステル樹脂層の上層3bに位置する表面側のポリエステル樹脂層(以下、主層とする)は、多価カルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とし、多価アルコール成分として1,4−ブタンジオールを主成分とするポリエステルから構成される。多価カルボン酸成分として、10モル%以下のテレフタル酸以外の多価カルボン酸を共重合したテレフタル酸を主成分としてもよい。例えば、多価カルボン酸成分として、10モル%以下のイソフタル酸を共重合したテレフタル酸を主成分とする。
【0033】
ここでいう主成分とは、各成分中90モル%以上、好ましくは95モル%以上であることを指す。90モル%以下であると、耐変色性が劣化する。本発明の効果を妨げない範囲として、10モル%以下で、他のモノマーを共重合してもよい。共重合する多価カルボン酸成分として、たとえば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などのジカルボン酸、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンや乳酸などが挙げられる。
【0034】
また、共重合する多価アルコール成分として、たとえば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールAやビスフェノールSのエチレンオキシド付加体などが挙げられる。さらに、共重合成分として、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの3官能化合物などを少量用いてもよい。これらの共重合成分は2種以上併用してもよい。
【0035】
これらのポリエステル樹脂層3a,3bには、着色顔料が含有されてもよい。ただし、金属板との密着性の観点から、金属板2と接する下層3aには着色顔料が含有されないことが好ましい。ポリエステル樹脂層に着色顔料を添加して着色樹脂層を形成することで、下地の金属光沢を利用した光輝色の付与も可能であり、優れた意匠性を得ることができる。フィルム3の表面への印刷と異なり、フィルム3内に直接顔料を添加して着色しているため、容器成形工程においても色調が脱落する問題もなく、良好な外観を保持できる。また、一般的に、容器成形後には塗装印刷が施されるが、着色樹脂層を形成することで工程の一部を省略することができる。
【0036】
添加する着色顔料としては、容器成形後に優れた意匠性を発揮できることが必要であり、二酸化チタンなどの無機系顔料やジスアゾ系有機顔料が好ましい。これらは着色力が強く、展延性にも富むため、容器成形後も良好な意匠性を確保できるので好適である。特に、容器内面側となるポリエステル樹脂層に添加する顔料としては、二酸化チタンの使用が望ましい。容器開封後、内容物の色が映えるとともに、清潔感を付与できるためである。一方、容器外面側となるポリエステル樹脂層に添加する顔料としては、ジスアゾ系顔料の使用が望ましい。透明性に優れながら着色力が強く、展延性に富むため、製缶後も光輝色のある外観が得られるためである。
【0037】
着色顔料の添加量は、必要とする着色度合いに応じて適宜選択すればよい。白色顔料である二酸化チタンの添加量は、ポリエステル樹脂層に対して、質量比で5〜30%であることが望ましい。5%未満であると、白色度が十分でなく、良好な意匠性が確保できない。一方、30%超の含有量となると、白色度が飽和するとともに経済的にも不利であるため、30%未満とすることが望ましい。なお、以下、顔料の添加量は、顔料を添加したポリエステル樹脂層に対する(下層3aのポリエステル樹脂層に添加した場合は、下層3aのポリエステル樹脂層に対する)割合を意味する。
【0038】
ジスアゾ系顔料の添加量は、必要とする黄色の度合いにより、適宜選択すればよい。一般的に有機顔料は無機顔料よりも少量で所望の色が確保でき、ジスアゾ系顔料の場合、ポリエステル樹脂層に対して、質量比で0.3〜0.6%であることが望ましい。黄色顔料としては、カラーインデックス(C.I.登録の名称)が、ピグメントイエロー12、13、14、16、17、55、81、83、180、181のうちの少なくとも1種類とすることが好ましい。特に、色調(光輝色)の鮮映性、レトルト殺菌処理環境での耐ブリーディング性(顔料がフィルム表面に析出する現象に対する抑制能)などの観点から、分子量が大きくポリブチレンテレフタレートへの溶解性が乏しい顔料が望ましく、分子量が700以上の、ベンズイミダゾロン構造を有するC.I.ピグメントイエロー180がより好ましく用いられる。
【0039】
<最表層を形成するポリエステル樹脂層>
上記主層3bに顔料が添加された場合に、レトルト後に色調が変化するのを抑制するために、上記した2層の積層樹脂層のさらに上層(すなわち、主層3bのさらに上層)に最表層3cを形成するとよい。最表層3cのポリエステル樹脂層の厚みは、色調変化の抑制を安定して確保するために、1μm以上とすることが好ましい。膜厚上限としては、樹脂層全体が膜厚上限を超えない膜厚が確保されていればよい。樹脂組成は特に限定されるものではないが、製膜上の観点から金属板2と接する下層3aまたはその上層の主層3bと融点差が20℃以内であることが好ましく、同等の樹脂組成である事がさらに好ましい。
【0040】
<積層樹脂層の上層と下層の膜厚比>
本発明は、加工性の観点から膜厚上限があり、限られた膜厚内で耐レトルト白化性、加工性、密着性、製缶後密着性を確保するために、積層樹脂層の上層(主層)3bと下層3aとの膜厚比率を特定の範囲とすることが好ましく、金属板2と接する下層3aの膜厚は、上層3bと下層3aとの合計膜厚の5%以上50%以下であることが好ましく、10%以上30%以下であることがさらに好ましい。膜厚比が10%未満だと製缶後の密着性に劣る場合がある。30%超の場合、性能上の劣化は無いが、生産性に劣る場合があるためコストアップにつながり好ましくない。
【0041】
<フィルム厚み>
フィルム3全体の厚さは、金属板2にラミネートされた後の成形性、金属板2に対する被覆性、耐衝撃性、味特性の点で、内面側、外面側とも、3〜25μmであり、好ましくは8〜20μmである。フィルム厚みを3μm未満の薄膜とするためには、製膜上コストアップし、性能の安定的な確保も難しく、25μm超だと、コストアップする上、製缶性がかえって劣化するためである。
【0042】
<結晶化度>
容器に加工前の本発明のフィルム3は、加工性の観点から、X線回折で、2θ=22.5°〜24.0°の範囲内に見られるピークの強度(I100)に対する2θ=15.5°〜17.0°の範囲内に見られるピークの強度(I011)の比(I011/I100)が0.2〜5.0の範囲内にあることを特徴とする。ポリブチレンテレフタレートは、結晶化速度が速いため延伸処理していなくても結晶が形成される。このように、ポリブチレンテレフタレートの結晶が形成されると、加工性に影響を及ぼすため、結晶量の制御が必要となる。
【0043】
X線回折で、2θ=22.5°〜24.0°の範囲内に見られるピークはポリブチレンテレフタレートの(100)面由来の回折ピークであり、2θ=15.5°〜17.0°の範囲内に見られるピークはポリブチレンテレフタレートの(011)面由来の回折ピークである。これらのピーク強度比(I011/I100)が0.2より小さいと、(100)面の比率が高く加工性が劣るため好ましくない。一方、ピーク強度比(I011/I100)を5.0より大きくするためには、後述するようにラミネート温度を上げる必要があり、フィルムがロールに溶着する懸念があるため好ましくない。
【0044】
ピーク強度比(I011/I100)を適切に制御するためには、ラミネート時の熱履歴を適切に制御する必要がある。フィルムへの入熱を大きくすると、ピーク強度比(I011/I100)が大きくなる。フィルムへの入熱を大きくすることは、例えばラミネート時の侵入板温を高くする方法やラミネート時間を長くする方法により達成される。なお、前述のピーク強度比は、以下の方法を用いて求めた。リガク製のX線回折装置RINT2000で、Cu-αの管球を用いて、2θ=10〜30°の範囲で測定し、2θ=10°、2θ=30°におけるX線回折強度を直線で結びベースラインとし、2θ=22.5°〜24.0°の範囲内に現れるピークの高さをベースラインより測定する。ベースラインが不明瞭な場合は、同一のラミネート材を融点以上に昇温した後、液体窒素等でクエンチした試料を上記方法で測定し、これをベースラインとしても良い。
【0045】
<フィルム製造方法>
本発明のフィルム3の製造方法としては、公知のポリエステルフィルムの製造方法が適用できる。一例を挙げると、押出機を用いて樹脂ペレットをポリエステル樹脂の融解温度より高い温度で加熱溶融して、溶融したポリエステル樹脂をTダイからフィルム状に冷却したキャスティングロール上に押し出し、延伸せずに無延伸樹脂フィルムとしてコイラーに巻き取る。本発明のフィルム3には、金属板2との熱圧着性およびその後の密着性を更に向上させる目的で、共押出法やラミネート加工、あるいはコーティング加工により接着層を設けることができる。接着層は乾燥膜厚で1μm以下であることが好ましい。接着層は、特に限定されないが、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂やこれらの各種変性樹脂からなる熱硬化性樹脂層であることが好ましい。
【0046】
<ラミネート金属板の製造方法>
金属板2を予め170〜250℃まで予熱しておき、これと本発明のフィルム3とを、金属板2より30℃、更には50℃以上低く温度制御されたロールによって圧接して熱圧着させた後、室温まで冷却する。これにより、本発明のフィルム3が連続的に金属板2にラミネートされ、ラミネート金属板1が製造される。
【0047】
金属板2の加熱方法としては、ヒーターロール伝熱方式、誘導加熱方式、抵抗加熱方式、熱風伝達方式などが挙げられる。また、ラミネート後の冷却方法については、水などの冷媒中に浸漬する方法や冷却ロールと接触させる方法を用いることができる。
【0048】
フィルム3のラミネート条件については、無延伸フィルムであればポリエステル樹脂の融解温度以下の温度でも金属板2に接着させることが可能である。ラミネート時の温度は、本発明のラミネート金属板1の性能が損なわれない範囲で調整できる。例えば、ラミネート直前の金属板2の温度は、160〜240℃、好ましくは170〜230℃、さらに好ましくは180〜220℃とする。160℃未満では、ポリエステル樹脂が十分に流動せず、ロールで加圧する際に金属板2の表面と馴染まないために密着性が劣る。240℃を超えると、上層3bのポリエステル樹脂層の融点を超える為、再溶融したフィルム3がラミネート後に結晶化し、加工性を損なう。
【0049】
ラミネート時にフィルム3の受ける温度履歴として、前記の温度で金属板2と接している時間を1〜35msecの範囲とすることが好適である。このようなラミネート条件を達成するためには、高速でのラミネートに加えて、融着中の冷却も必要である。ラミネート時の加圧は特に規定するものではないが、面圧として9.8〜294N/cm(1〜30kgf/cm)が好ましい。この値が低すぎると、樹脂界面の到達する温度が前記の温度範囲であっても時間が短時間であるため溶融が不十分であり、十分な密着性が得られ難い。また、加圧が大きいと、ラミネート金属板1の性能上の不都合がないものの、ラミネートロールにかかる力が大きく設備的な強度が必要となり装置の大型化を招くため不経済である。
【0050】
以上、説明したように、本実施の形態のラミネート金属板1によれば、成形性とレトルト殺菌処理後の缶体外観の意匠性とがともに優れ、DRD缶およびDI缶といった2ピース缶に適用可能な容器用ラミネート金属板を提供できる。
【0051】
上記実施の形態は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、仕様などに応じて種々変形することは本発明の範囲内であり、更に本発明の範囲内において、他の様々な実施の形態が可能であることは上記記載から自明である。
【0052】
[実施例]
厚さ0.22mmの冷間圧延、焼鈍、調質圧延を施した鋼板(調質度T3CA)を、脱脂、酸洗後、クロムめっきを行い、クロムめっき鋼板(TFS)を製造した。クロムめっきは、CrO、F、SO2−を含むクロムめっき浴でクロムめっき、中間リンス後、CrO、Fを含む化成処理液で電解した。その際、電解条件(電流密度・電気量など)を調整して金属クロム付着量とクロム水酸化物付着量を、Cr換算でそれぞれ120mg/m、15mg/mに調整した。
【0053】
次いで、金属板の被覆装置を用い、前記で得たクロムめっき鋼板を加熱し、ラミネート温度185℃となるように、ラミネートロールで前記クロムめっき鋼板の両面に本発明の積層ポリエステル樹脂を被覆した。ラミネートロールは内部水冷式とし、被覆中に冷却水を強制循環させ、フィルム接着中の冷却を行った。使用したフィルムの特性、以上の方法で製造した被覆金属板の特性についての方法、測定、評価方法を下記に示す。
【0054】
(1)成形後密着性
DI成形では、まずラミネート鋼板の両面に融点45℃のパラフィンワックスを50mg/m塗布した後に、123mmφのブランクを打ち抜き、そのブランクを市販のカッピングプレスで、内径71mmφ、高さ36mmのカップに絞り成形した。次いでこのカップを市販のDI成形装置に装入して、ポンチスピード200mm/s、ストローク560mmで、再絞り加工および3段階のアイアニング加工で総リダクション率50%(それぞれのリダクション20%、19%、23%)を行い、最終的に缶内径52mmφ、缶高さ90mmの缶を成形した。なお、DI成形中には、水道水を50℃の温度で循環させた。製缶後の表面のスクラッチ状態を評価した(後述の(4)参照)。缶の内外面を対象とし、DI成形後の缶に125℃、60分間の条件でレトルト殺菌処理を実施した。この缶をレトルト殺菌処理装置から取り出した後に、成形後密着性として、缶口からのフィルム剥離が発生しているか否か、また剥離している場合には剥離長さ(缶口から何mm剥離しているか)を以下の評点で評価した。
【0055】
(評点)
◎:発生せず
○:5(mm)未満
△:20(mm)未満、5(mm)以上
×:20(mm)以上
【0056】
(2)耐レトルト白化性
成形可能であった缶の底部(缶外面側)を対象として耐レトルト白化性を評価した。具体的に、缶内に常温の水道水を満たした後、蓋を巻き締めて密閉した。その後、缶底部を下向きにして、蒸気式レトルト殺菌炉の中に配置し、125℃で90分間、レトルト殺菌処理を行った。レトルト殺菌処理の終了後、急速冷却を施し、底部の缶外面側の外観変化を目視で観察し、以下の評点で耐レトルト白化性を評価した。
【0057】
(評点)
◎:外観変化なし
○:外観にかすかな曇り(フィルム表面積で5%未満)発生
△:外観にかすかな曇り(フィルム表面積で5%以上10%未満)発生
×:外観が白濁(フィルム表面積で10%以上白化発生)
【0058】
(3)耐変色性
着色顔料(白、黄)が添加されたフィルムにおいて、レトルト殺菌処理後に色調が変化する場合があるため、耐変色性評価として、レトルト殺菌処理前後の色調変化を評価した。レトルト殺菌処理前後の表面色調は、日本電色工業製の分光色彩計SQ−2000を用いて調査した。レトルト殺菌処理前をL、a、b、レトルト殺菌処理後を、L2、a2、b2として、次式(1)によりΔE*を求めた。耐変色性は、ΔE*に基づいて、以下の評点で評価した。
【0059】
ΔE*={(L−L2+(a−a2+(b−b20.5 …(1)
【0060】
(評点)
◎:ΔE*≦5.0
○:5.0<ΔE*≦10
×:ΔE*>10
【0061】
(4)製缶性
上記(1)の成形後密着性の評価時に、DI成形を行った際に外面側に発生したスクラッチの面積率を目視して、以下の評点で製缶性を評価した。
【0062】
(評点)
◎:0%
○:5%未満
△:20%未満、5%以上
×:20%以上
【0063】
表1に、2層構造フィルムを使用した実施例および比較例についての評価結果を示す。ここで、2層構造フィルムとは、積層樹脂層の金属板に接する下層3aの下層ポリエステルと、その上層3bの主層ポリエステルとからなるフィルムを意味する。本願請求範囲である実施例は、製缶後フィルム密着性、耐レトルト白化性、耐変色性、および製缶性が全て優れていた。一方、比較例1〜4では、主層ポリエステルの組成が本願発明外であるために、耐レトルト白化性が劣っていた。比較例5,6では、下層の酸成分が本願発明外であるために、耐レトルト白化性が劣っていた。比較例7では、下層のグリコール成分が本願発明外であるために、耐レトルト白化性および製缶性が劣っていた。比較例8では、1層であり、鋼板と密着している層の構成が本願発明外であるため、密着性が劣っていた。比較例9では、フィルムの合計厚みが40μmであり、製缶性が劣っていた。比較例10では、二軸延伸処理を施したフィルムを用いており、結晶状態が本願発明外であり、製缶性が劣っていた。比較例11では、結晶状態が本願発明外であり、製造上不具合があり製造できなかった。
【0064】
また、表2に、3層構造フィルムを使用した実施例および比較例についての評価結果を示す。ここで3層構造フィルムとは、上記2層構造フィルムと同様の下層ポリエステルと、着色顔料が添加された主層ポリエステルと、この主層ポリエステルの外面側の最表層3cに設けられた外層ポリエステルとからなるフィルムを意味する。本願請求範囲である実施例は、製缶後フィルム密着性、耐レトルト白化性、耐変色性、および製缶性が全て優れている。一方、比較例12では、主層の酸成分が、比較例13では、主層のグリコール成分が本願発明外であるために、耐レトルト白化性が劣っていた。比較例14では、下層のグリコール成分が本願発明外であるために、耐レトルト白化性および製缶性が劣っていた。比較例15は、2層構成であり、鋼板と密着している層のグリコール成分が本願発明外であるため、密着性が劣っていた。比較例16では、結晶状態を本願発明外としているため、製缶性が劣っていた。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、成形性とレトルト殺菌処理後の缶体外観の意匠性とがともに優れ、DRD缶およびDI缶といった2ピース缶に適用可能な容器用ラミネート金属板を提供することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 ラミネート金属板
2 金属板
3 フィルム
3a 積層樹脂層の下層
3b 積層樹脂層の上層(主層)
3c 積層樹脂層3bのさらに上層(最表層)
【要約】
ラミネート金属板1は、金属板2の片面もしくは両面に形成されたポリエステルを主成分とする少なくとも2層の積層樹脂層からなるフィルム3を具備し、積層樹脂層の金属板2と接する下層3aのポリエステル樹脂層は、多価カルボン酸成分としてのテレフタル酸が90モル%以上であり、多価アルコール成分がエチレングリコールと1,4−ブタンジオールで構成され、多価アルコール成分中のエチレングリコールが30〜50モル%、1,4−ブタンジオールが50〜70モル%、それ以外の多価アルコール成分が10モル%以下であり、積層樹脂層の上層3bのポリエステル樹脂層は、多価カルボン酸成分としてのテレフタル酸と、多価アルコール成分としての1,4−ブタンジオールがともに各成分中90モル%以上となるポリエステルから構成され、合計厚みが3〜25μmであり、X線回折で、2θ=22.5°〜24.0°の範囲内に見られるピークの強度(I100)に対する2θ=15.5°〜17.0°の範囲内に見られるピークの強度(I011)の比(I011/I100)が0.2〜5.0の範囲内にある。
図1