(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011777
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3232 20160101AFI20161006BHJP
【FI】
F16J15/3232 201
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-111366(P2012-111366)
(22)【出願日】2012年5月15日
(65)【公開番号】特開2013-238275(P2013-238275A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】森 達也
(72)【発明者】
【氏名】古山 秀之
【審査官】
佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−337517(JP,A)
【文献】
実開平01−165859(JP,U)
【文献】
実開昭63−003566(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16−15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密封空間側へ延び互いに同心の固定リップと摺動リップを有し、この固定リップと摺動リップの間が周方向へ連続した受圧溝となっており、前記摺動リップの摺動部に周方向へ連続した摺動突条が形成され、前記摺動突条は、その嶺部から前記摺動リップの先端側へ延びる第一斜面が、前記嶺部から前記摺動リップの根元側へ延びる第二斜面よりも緩勾配に形成され、前記摺動突条の第一斜面が、前記摺動リップにおける前記受圧溝側の斜面よりも緩勾配であることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
摺動突条の嶺部が、摺動リップの軸方向中間位置よりも根元側に位置することを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
摺動突条が軸方向へ反復的に蛇行しながら周方向へ延びることを特徴とする請求項1又は2に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機や油圧機器等、液圧を発生する機器の回転部と非回転部との間に介在されて前記液圧をシールする密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のベルト式無段変速機において、固定シーブ及びこの固定シーブに対して軸方向移動可能な可動シーブを回転させる中空のシーブ用軸の内周面と、このシーブ用軸に挿入された非回転のリテーナの筒状部の外周面との間には、可動シーブを軸方向へ動作させる油圧をシールするための密封装置として、合成樹脂製のシールリングが介装されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、この種のシールリングは、円周方向一カ所で切断されているので、漏れを生じことは避けられず、シール性の良いものでも10〜40cc/minの漏れを生じていた。
【0003】
したがって、このような機器の密封手段としては、
図4に示すように、金属製の補強環にゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で一体成形され、前記補強環に加硫接着された基部101と、この基部101から高圧空間(密封空間)A側へ向けて延びる固定リップ(内周側リップ)102と摺動リップ(外周側リップ)103を有する密封装置100も開発されている。また、この密封装置100は無端形状であって、すなわち円周方向へ連続したものとなっている。
【0004】
すなわちこの密封装置100は、不図示の非回転部材の外周面に内周側の固定リップ102が密接した状態で装着されると共に、外周側の摺動リップ103が、外周の回転部材200の内周面に摺動可能に密接されることによって、密封空間Aの作動液が大気B側へ漏洩するのを防止するもので、円周方向へ連続したものとなっているため、円周方向一カ所で切断された合成樹脂製のシールリングに比較してシール性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−078041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の密封装置100によれば、密封空間Aが高圧になった場合に、摺動リップ103が外周の回転部材200の内周面にべた当たりしてトルクの上昇を来たすと共に、潤滑不足によって摺動リップ103が摩耗してそのシール性が早期に低下してしまう懸念がある。
【0007】
これは、摺動リップ103の内周面に作用する液圧P
1の受圧面積と、摺動リップ103の密接摺動部103aよりも密封空間A側で摺動リップ102の外周面に作用する液圧P
2の受圧面積との差δが大きく、すなわち符号δで示す領域において摺動リップ103の内周面に作用する液圧P
1が、この摺動リップ102を外周の回転部材200の内周面に押し付けるように作用するので、密封空間Aが高圧のときには摺動リップ102が液圧P
1によって図中に破線で示すように変形し、面圧上昇による摺動トルクの増大と、摺動面積の増大による潤滑不足を来たすのである。
【0008】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、高圧条件でもシール耐久性に優れ、低摺動トルクを維持可能な密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る密封装置は、密封空間側へ延び互いに同心の固定リップと摺動リップを有し、この固定リップと摺動リップの間が周方向へ連続した受圧溝となっており、前記摺動リップの摺動部に周方向へ連続した摺動突条が形成され、前記摺動突条は、その嶺部から前記摺動リップの先端側へ延びる第一斜面が、前記嶺部から前記摺動リップの根元側へ延びる第二斜面よりも緩勾配に形成
され、前記摺動突条の第一斜面が、前記摺動リップにおける前記受圧溝側の斜面よりも緩勾配であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項1の構成によれば、摺動突条の嶺部から摺動リップの先端側(密封空間側)へ延びる第一斜面が、前記嶺部から摺動リップの根元側(反密封空間側)へ延びる第二斜面よりも緩勾配であるため、前記嶺部が前記摺動突条における反密封空間側へ偏在しており、このため固定リップと摺動リップの間の受圧溝に作用する密封空間の圧力のうち、摺動リップを摺動相手材へ押し付けるように作用する圧力のアンバランス分の受圧面積が小さくなるので、密封空間が高圧になることによる摺動相手材に対する摺動リップの面圧の増大が抑制され、しかも摺動突条の嶺部から密封空間側へ延びる第一斜面が緩勾配であることによって、密封空間の密封対象液がクサビ状に浸入しやすくなるので、摺動突条の嶺部が良好に潤滑される。
【0011】
請求項2の発明に係る密封装置は、請求項1に記載の構成において、摺動突条の嶺部が、摺動リップの軸方向中間位置よりも根元側に位置することを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の構成によれば、固定リップと摺動リップの間の受圧溝に作用する密封空間の圧力のうち、摺動リップを摺動相手材へ押し付けるように作用する圧力のアンバランス分の受圧面積が十分に小さくなるので、摺動リップの面圧の増大を一層有効に抑制することができる。
【0013】
請求項3の発明に係る密封装置は、請求項1又は2に記載の構成において、摺動突条が軸方向へ反復的に蛇行しながら周方向へ延びることを特徴とするものである。
【0014】
請求項3の構成によれば、摺動突条が軸方向へ反復的に蛇行していることによって、摺動相手材の回転に伴って共回りする密封対象液が、摺動突条と摺動相手材の間へクサビ状に浸入しやすくなるので、摺動面が一層良好に潤滑される。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る密封装置によれば、摺動リップを摺動相手材へ押し付けるように作用する圧力の受圧面積が小さくなると共に、摺動部に密封対象液による潤滑液膜が形成されやすくなるので、密封空間が高圧になることによる摺動リップの面圧の増大が抑制されると共に良好な潤滑状態が確保され、
しかも、摺動突条の第一斜面が、摺動リップにおける受圧溝側の斜面よりも緩勾配であることによって、摺動突条の第一斜面に作用する液圧のうち摺動リップを摺動相手材から浮き上がらせる径方向成分が、摺動リップにおける受圧溝側の斜面に作用する液圧のうち摺動リップを摺動相手材へ押し付ける径方向成分よりも大きくなるので、密封空間の密封対象液がクサビ状に浸入しやすくなって、摺動面が一層良好に潤滑される。したがって高圧条件でもシール耐久性に優れ、かつ低トルクを維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態を、軸心を通る平面で切断して示す半断面図である。
【
図2】本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態を外周側から見た図である。
【
図3】本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態の作用を示す説明図である。
【
図4】従来の技術による密封装置の作用を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1に示すように、この密封装置1は、金属製の補強環15にゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で一体成形されたものであって、前記補強環15に加硫接着された基部11と、この基部11から装着状態における密封空間A側へ向けて延びる固定リップ(内周側リップ)12及び摺動リップ(外周側リップ)13を有し、この固定リップ12と摺動リップ13の間は、断面略V字形の、周方向へ連続した受圧溝14となっている。また、基部11の内周面には複数の支持突条11aが周方向所定間隔で形成されている。
【0021】
摺動リップ13の摺動側である外周面には、周方向へ連続した摺動突条131が形成されている。
図2に示すように、この摺動突条131は、軸方向へ反復的に蛇行しながら周方向へ延びるものである。
【0022】
また
図3に示すように、摺動突条131は、その嶺部131aから摺動リップ13の先端側(密封空間A側)へ延びる第一斜面131bが、前記嶺部131aから摺動リップ13の根元側(反密封空間B側)へ延びる第二斜面131cよりも緩勾配(θ
1<θ
2)に形成されており、さらに前記第一斜面131bが、摺動リップ13における受圧溝14側の斜面(内周面)132よりも緩勾配(θ
1<θ
3)となっている。
【0023】
そしてこのため、摺動突条131の嶺部131aは、摺動突条131における反密封空間B側へ偏在しており、かつ摺動リップ13の軸方向中間位置より根元側(反密封空間B側)に位置しており、蛇行によって摺動突条131が最も摺動リップ13の先端側に偏在する部分でも、嶺部131aは摺動リップ13の軸方向中間位置より根元側に位置している。
【0024】
以上のように構成された実施の形態の密封装置1は、例えば自動車の無段変速機における中空のシーブ用軸の内周面と、このシーブ用軸に挿入された非回転のリテーナの筒状部の間の密封手段として用いられるものであって、不図示の内周の非回転部材(例えば前記リテーナの筒状部)の外周面に内周側の固定リップ12が密接した状態で装着されると共に、外周側の摺動リップ13が、
図2に示すように、外周の筒状の回転部材(例えば前記シーブ用軸)2の内周面に摺動可能に密接されることによって、回転部材2の内周の密封空間Aの密封対象液(作動油)が、反密封空間Bへ漏洩するのを防止するものである。そしてこの密封装置1は、円周方向へ連続したものであるため、円周方向一カ所で切断されたシールリングに比較してシール性に優れており、漏れ量を1cc/min以下とすることができる。
【0025】
ここで、密封空間Aの液圧は、固定リップ12に対しては内周の非回転部材の外周面へ押し付けるように作用するが、摺動リップ13に対しては、外周の回転部材2への顕著な押し付け力としては作用しない。
【0026】
これについて詳しく説明すると、摺動リップ13の摺動突条131における第一斜面131bが緩勾配、第二斜面131cが急勾配であることによって、上述のように、摺動突条131の嶺部131aが摺動突条131における反密封空間B側へ偏在しており、しかもこの嶺部131aは摺動リップ13の軸方向中間位置より根元側(反密封空間B側)に位置していることから、摺動リップ13における受圧溝14側の斜面(内周面)132に作用する液圧P
1の受圧面積と、回転部材2との摺動面となる摺動突条131の嶺部131aよりも密封空間A側で摺動リップ13の外周面に作用する液圧P
2の受圧面積との差δが小さいものとなっている。
【0027】
すなわち摺動リップ13を回転部材2の内周面に押し付けるように作用する液圧P
1は、実質的に
図3に符号δで示す領域にのみ作用し、この領域δよりも摺動リップ13の先端側では内周側と外周側で液圧P
1,P
2が径方向に相殺される。言い換えれば、摺動リップ13を回転部材2へ押し付けるように作用する圧力のアンバランス分を受圧する領域δの面積が小さいので、回転部材2に対する摺動リップ13(摺動突条131)の面圧の増大が抑制される。
【0028】
しかも、上述の面圧増大抑制作用に加え、摺動突条131の第一斜面131bが緩勾配(θ
1<θ
2)であるため、密封空間Aの密封対象液が摺動突条131と回転部材2との摺動面間へクサビ状に浸入しやすくなる。また、θ
1<θ
3であることによって、摺動突条131の第一斜面131bに作用する液圧P
2のうち摺動リップ13を回転部材2から浮き上がらせる径方向成分が、摺動リップ13における受圧溝14側の斜面132に作用する液圧P
1のうち摺動リップ13を回転部材2へ押し付ける径方向成分よりも大きくなる。
【0029】
さらには、摺動突条131が軸方向へ反復的に蛇行しているので、回転部材2の回転に伴って共回りする密封対象液が、摺動突条131の嶺部131aと回転部材2の摺動面間へクサビ状に浸入しやすくなる。
【0030】
そして密封装置1によれば、これらの作用によって、密封空間Aが高圧になっても前記摺動面間に良好な潤滑液膜が形成されるので、例えば回転数が3,000rpm、密封空間Aの圧力が3.5MPaといった条件でも、摺動発熱の抑制、摩耗の抑制及び摺動トルクの低減を図ることができ、その結果、シール耐久性が向上する。
【0031】
なお、上述した実施の形態では、固定リップ12が内周側、摺動リップ13が外周側に形成されているが、その逆の関係、すなわち固定リップ12が外周側、摺動リップ13が内周側に存在するものとすることによって、外周の部材が非回転で、内周の部材が回転する機器において適用可能とすることができる。
【符号の説明】
【0032】
1 密封装置
11 基部
12 固定リップ
13 摺動リップ
131 摺動突条
131a 嶺部
131b 第一斜面
131c 第二斜面
14 受圧溝
2 外周部材
A 密封空間
B 反密封空間