特許第6011798号(P6011798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6011798新規化合物、新規配位子、新規遷移金属錯体および新規遷移金属錯体からなる触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011798
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】新規化合物、新規配位子、新規遷移金属錯体および新規遷移金属錯体からなる触媒
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/58 20060101AFI20161006BHJP
   C07F 19/00 20060101ALI20161006BHJP
   C07F 17/02 20060101ALI20161006BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   C07F9/58 ACSP
   C07F19/00
   C07F17/02
   B01J31/24 Z
【請求項の数】15
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2012-558002(P2012-558002)
(86)(22)【出願日】2012年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2012053633
(87)【国際公開番号】WO2012111737
(87)【国際公開日】20120823
【審査請求日】2015年1月19日
(31)【優先権主張番号】特願2011-31853(P2011-31853)
(32)【優先日】2011年2月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】是永 敏伸
(72)【発明者】
【氏名】酒井 貴志
(72)【発明者】
【氏名】コ アラム
【審査官】 早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 H. Brunner, P. Bublak,Enantioselektive Katalyse; 92. Mitteilung. Optisch aktive Dendrimerphosphine mit verzweigten Pyridinbausteinen,Synthesis,1995年,no.01,36-38,DOI: 10.1055/s-1995-3845
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/58
B01J 31/24
C07F 9/6558
C07F 17/02
C07F 19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)または(2)で表され、かつ総炭素原子数が15〜110である化合物。
123A (1)
12A−Y−AR34 (2)
(式中、Aはリンまたはヒ素を示し;R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、Aの両メタ位に互いに相違していてもよい、炭素原子数が1〜4のパーハロアルキル基、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基、ペンタフルオロフェニル基、テトラフルオロピリジル基、ヘプタフルオロトリル基、2,6−ジトリフルオロメチルピリジル基および3,5−ジトリフルオロメチルフェニル基からなる群から選ばれた電子求引性基が結合し、Aの両オルト位に水素原子が結合した置換ピリジル基を示し;Yは置換されていてもよい、エチル基、キサンテン基、ビフェニル基またはフェロセンにより形成される2価の基を示す。)
【請求項2】
前記炭素原子数が1〜4のパーハロアルキル基が、炭素原子数が1〜4のパーフルオロアルキル基、パークロルアルキル基およびパーブロモアルキル基からなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項に記載の化合物。
【請求項3】
前記炭素原子数が1〜4のパーフルオロアルキル基が、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基およびノナフルオロブチル基からなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項に記載の化合物。
【請求項4】
前記ハロゲンが、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項に記載の化合物。
【請求項5】
トリ[2,6−ビス(トリフルオロメチル)−4−ピリジル]ホスフィン、トリ[2,6−ビスペンタフルオロエチル−4−ピリジル]ホスフィン、トリ[2,6−ビスヘプタフルオロプロピル−4−ピリジル]ホスフィンまたはトリ[2,6−ビスノナフルオロブチル−4−ピリジル]ホスフィンである請求項1〜のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
トリ[2,6−ジフルオロ−4−ピリジル]ホスフィンである請求項1または4に記載の化合物。
【請求項7】
トリ[2,6−ジニトロ−4−ピリジル]ホスフィンまたはトリ[2,6−ジシアノ−4−ピリジル]ホスフィンである請求項に記載の化合物。
【請求項8】
下記式(4)、(5)または(6)で表される請求項1〜のいずれかに記載の化合物。
【化1】
(式中、Arは2,6−ビストリフルオロメチル−4−ピリジル基を示す。)
【請求項9】
下記一般式(7)で表される請求項1〜のいずれかに記載の化合物。
【化2】
(式中、Arは請求項1〜4のいずれかに記載のR1、R2、R3およびR4と同義であり;11、R12およびR13は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜10のフッ素化アルキル基または炭素数1〜10のフッ素化アルコキシ基を示し;R14は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜10のフッ素化アルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基または炭素数1〜10のフッ素化アルコキシ基を示し;同一のベンゼン環に結合しているR11、R12、R13およびR14は、互いに結合して環を形成していてもよい。)
【請求項10】
下記式(10)または(11)表される軸不斉化合物である請求項1〜またはのいずれかに記載の化合物。
【化3】
(式中、Meはメチル基を示し、Arは2,6−ビストリフルオロメチル−4−ピリジル基を示す。)
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の化合物からなる配位子。
【請求項12】
請求項11に記載の配位子が配位能を有する遷移金属に配位した遷移金属錯体。
【請求項13】
前記配位能を有する遷移金属が、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、銀、金または白金である請求項12に記載の遷移金属錯体。
【請求項14】
請求項12または13に記載の遷移金属錯体からなる、イミンの不斉アリール化反応またはスティルカップリング反応用の触媒。
【請求項15】
下記式(17)で表される、イミンの不斉アリール化反応用の触媒である、請求項14に記載の触媒。
[RhCl(C2422/(R)−L* (17)
(式中、(R)−L*は、前記式(10)で表される軸不斉化合物からなる不斉2座配位子を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物(ホスフィンおよびアルシン)、当該化合物からなる新規な配位子、当該配位子が配位した新規遷移金属錯体、当該新規遷移金属錯体からなる触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
有機金属錯体触媒は、機能性分子や医薬品等の開発に欠かすことのできないクロスカップリング反応に用いられるなど、有機合成化学分野において極めて高い実用性と将来性を有している。その金属錯体触媒の選択性・触媒活性を左右するのが金属に配位させる"配位子"であるが、すべての触媒反応に対して優れた立体選択性や反応活性を示す万能な配位子は存在しないため、有用な触媒反応開発のためには特徴ある配位子を見出さなければならない。
【0003】
従来、ホスフィンやアルシンは遷移金属錯体における配位子として広く使用されてきた。たとえば、BINAP[(1,1-binaphthalene)-2,2-diylbis(diphenylphosphine)]やMeO-BIPHEP[(6,6'-dimethoxybiphenyl-2,2'-diyl)bis(diphenylphosphine)]に代表される不斉ジホスフィン化合物は、不斉合成用触媒として用いられる光学活性な遷移金属錯体のための不斉配位子として極めて汎用的に用いられている化合物である。
【0004】
発明者らは以前に、下記式に示す不斉配位子1aおよび1bを開発した(特許文献1,非特許文献1〜3)。このうち不斉配位子1bは、"高度に電子不足"という不斉ジホスフィン配位子としては前例のない特徴を有し、不斉1,4-付加反応において、高いエナンチオ選択性のまま、触媒的不斉炭素−炭素結合反応としては世界最高の活性を記録する金属触媒を生み出すことのできる、極めて有望な配位子である。
【0005】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−173958号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Org. Lett. 2009, 11, 2325.
【非特許文献1】Adv. Synth. Catal. 2010, 352, 3247.
【非特許文献2】Heterocycles 2010, 80, 157.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
基本的に芳香環上のフッ素の数が増えれば増える程その芳香環の電子求引力が増大するため、ヘプタフルオロトリル基やペンタフルオロフェニル基といったパーフルオロ芳香環(炭素との結合点以外のすべての水素がフッ素化された芳香環)を有する不斉配位子1aは1bよりもさらに電子不足である。しかしながら、1bを配位子とする金属錯体が高活性である一方、より電子不足な1aを配位子とする金属錯体は良い触媒活性を示さなかった。これは、1aに存在するオルト位のフッ素がリン周りを嵩高くするため、1aが金属に配位しにくくなったためであると考えられる(図1)。
【0009】
本発明は、リンまたはヒ素の両オルト位に置換基を持たないことで金属との強い配位力を有し、なおかつ1aに匹敵する電子求引力を有する(電子不足である)、遷移金属錯体の新規の配位子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ビストリフルオロメチル-ピリジル基(2)が、1aに匹敵する電子求引力を有しつつ、金属が感じる嵩高さが小さいため金属との強い配位力を有する、上記課題を解決しうるホスフィン配位子となることを突きとめ(図2)、これを有する数種の新規のホスフィン化合物を合成した。そして、そのようなホスフィン配位子を有する遷移金属錯体が実際に、前記不斉配位子1bを有する遷移金属錯体よりも優れた触媒活性を発揮することを確認し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、一般式(1)または(2)で表され、かつ総炭素原子数が15〜1
10である化合物を提供する。
123A (1)
12A−Y−AR34 (2)
(式中、Aはリンまたはヒ素を示し;R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、Aの両メタ位に互いに相違していてもよい電子求引性基が結合し、Aの両オルト位に水素原子が結合した置換ピリジル基を示し;Yは炭素原子数が2〜20の置換されていてもよくヘテロ原子を含んでいてもよい脂肪族、脂環式もしくは芳香族化合物またはフェロセンにより形成される2価の基を示す。)
上記電子求引性基としては、炭素原子数が1〜4のパーハロアルキル基、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基、ペンタフルオロフェニル基、テトラフルオロピリジル基、ヘプタフルオロトリル基、2,6−ジトリフルオロメチルピリジル基および3,5−ジトリフルオロメチルフェニル基からなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましい。たとえば、上記炭素原子数が1〜4のパーハロアルキル基として、炭素原子数が1〜4のパーフルオロアルキル基、パークロルアルキル基およびパーブロモアルキル基からなる群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。より具体的には、上記炭素原子数が1〜4のパーフルオロアルキル基として、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基およびノナフルオロブチル基からなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましい。また、上記ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0012】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、トリ[2,6−ビス(トリフルオロメチル)−4−ピリジル]ホスフィン、トリ[2,6−ビスペンタフルオロエチル−4−ピリジル]ホスフィン、トリ[2,6−ビスヘプタフルオロプロピル−4−ピリジル]ホスフィン、トリ[2,6−ビスノナフルオロブチル−4−ピリジル]ホスフィン、トリ[2,6−ジフルオロ−4−ピリジル]ホスフィン、トリ[2,6−ジニトロ−4−ピリジル]ホスフィン、トリ[2,6−ジシアノ−4−ピリジル]ホスフィンが挙げられる。
【0013】
一方、一般式(2)で表される化合物の具体例としては、下記式(4)、(5)または(6)で表される化合物が挙げられる。
【0014】
【化2】
(式中、Arは2,6−ビストリフルオロメチル−4−ピリジル基を示す。)
また、一般式(2)で表される化合物として、下記一般式(7)で表される化合物、より具体的には下記式(10)、(11)、(12)または(13)で表される軸不斉化合物も挙げられる。
【0015】
【化3】
(式中、R11、R12およびR13は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜10のフッ素化アルキル基または炭素数1〜10のフッ素化アルコキシ基を示し;R14は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜10のフッ素化アルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基または炭素数1〜10のフッ素化アルコキシ基を示し;同一のベンゼン環に結合しているR11、R12、R13およびR14は、互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0016】
【化4】
また、本発明は、上記の化合物からなる配位子、および当該配位子が配位能を有する遷移金属に配位した遷移金属錯体を提供する。
【0017】
上記配位能を有する遷移金属としては、たとえば、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、銀、金または白金が挙げられる。
【0018】
さらに、本発明は、上記の遷移金属錯体からなる触媒を提供する。そのような触媒としては、たとえば、下記式(17)で表される不斉触媒が挙げられる。
[RhCl(C2422/(R)−L* (17)
(式中、(R)−L*は、前記式(10)で表される軸不斉化合物からなる不斉2座配位子を示す。)
【発明の効果】
【0019】
本発明が提供する新規配位子は、芳香族ホスフィン(P-Ar型)の中で最強の電子求引性を有しながらも、金属との配位を阻害するオルト位の置換基を持たず立体的に嵩高くないため、金属触媒との配位が容易である。この事は、配位した金属に対し従来にない電子的影響を存分にもたらし、触媒活性を飛躍的に向上させることが可能であることを意味する。実際、後記実施例に示すように、PAr3型配位子を用いたクロスカップリング反応(スティルカップリング)では従来の配位子を超える触媒活性を示した。さらに、不斉ジホスフィン配位子を用いたイミンへの不斉アリール化反応では、高いエナンチオ選択性を維持しながら従来の不斉触媒を圧倒的に上回る触媒活性を示した。これは医薬品に必須である光学活性アミノ化合物の効率的合成に繋がるものである。本事実はこれら反応における優位性を示すだけでなく、他の(不斉)触媒反応においても、触媒の高機能化や新型反応の開発を実現化する事を予期させる結果でもあり、非常に将来性豊かな配位子である事を示している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、ペンタフルオロフェニル基を有する従来の配位子およびビス(トリフルオロメチル)ピリジル基を有する本発明の配位子における、リンのオルト位がリン−金属の結合の安定性に与える影響を説明する図である。(左)オルト位のフッ素が嵩高いので、リン(P)−金属(M)結合を不安定化する。(右)嵩高くなく、極めて強い電子吸引力を有するビストリフルオロメチル−ピリジル基を有するホスフィンは金属と高い配位能力を示す。
図2図2は、従来の配位子および本発明の配位子が有する置換基の、Taftのδ*値(値が大きいほど電子求引性が大きい)およびリン配位子に導入したときに金属が感じる嵩高さを表す図である。
図3図3は、実施例2−2における配位子の電子吸引力の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本明細書において、「一般式(n)で表される化合物」(nは自然数)またはその化合物からなる配位子を「化合物(n)」または「配位子(n)」と称することがある。また、式(1)または式(2)中のR1、R2、R3およびR4に相当する置換基を記号「Ar」で表すこともある。
【0022】
−新規化合物−
本発明の第1の新規化合物は、下記一般式(1)で表され、かつ総炭素原子数が15〜110である化合物である。
【0023】
123A (1)
式(1)中、Aはリンまたはヒ素を示し;R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、Aの両メタ位に互いに相違していてもよい電子求引性基が結合し、Aの両オルト位に水素原子が結合した置換ピリジル基を示す。
【0024】
本発明の第2の新規化合物は、下記一般式(2)で表され、かつ総炭素原子数が15〜110である化合物である。
【0025】
12A−Y−AR34 (2)
式(2)中、Aはリンまたはヒ素を示し;R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、Aの両メタ位に互いに相違していてもよい電子求引性基が結合し、Aの両オルト位に水素原子が結合した置換ピリジル基を示し;Yは炭素原子数が2〜20の置換されていてもよくヘテロ原子を含んでいてもよい、脂肪族、脂環式もしくは芳香族化合物またはフェロセンからなる2価の基を示す。
【0026】
なお、Aの両メタ位は、ピリジン環のNを基準(1位)とすれば2位および6位であり、これらに互いに相違していてもよい電子求引性基が結合し、Aの両オルト位は、ピリジン環のNを基準(1位)とすれば3位および5位であり、これらに水素原子が結合する。
【0027】
式(1)および(2)中のR1、R2、R3およびR4に含まれる「電子求引性基」としては、たとえば炭素原子数が1〜4のパーハロアルキル基、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基、ペンタフルオロフェニル基、テトラフルオロピリジル基、ヘプタフルオロトリル基、2,6−ジトリフルオロメチルピリジル基および3,5−ジトリフルオロメチルフェニル基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明における「電子求引性基」は、一般的に無置換のフェニル基よりも電子求引力の強い置換基であればよく、そのような電子求引性基の中から適切なものを選択して、R1、R2、R3およびR4としてピリジン環に導入することが可能である。
【0028】
上記「電子求引性基」の一つである「炭素原子数が1〜4のパーハロアルキル基」としては、たとえば炭素原子数が1〜4のパーフルオロアルキル基、パークロルアルキル基およびパーブロモアルキル基が挙げられる。
【0029】
上記「炭素原子数が1〜4のパーフルオロアルキル基」としては、たとえばトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基およびノナフルオロブチル基が挙げられる。
【0030】
上記「電子求引性基」の一つである「ハロゲン」としては、たとえばフッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。
【0031】
なかでも、触媒活性を十分に高めることが可能で、ホスフィンないしアルシンの調製も容易であり、その原料調達も比較的容易でなおかつ芳香環では最大級の電子求引力を有する2,6−ビス(トリフルオロメチル)−4−ピリジル基は、本発明における電子求引性基として好適である。
【0032】
上記化合物(1)の具体例としては、トリ[2,6−ビストリフルオロメチル−4−ピリジル]ホスフィン、トリ[2,6−ビスペンタフルオロエチル−4−ピリジル]ホスフィン、トリ[2,6−ビスヘプタフルオロプロピル−4−ピリジル]ホスフィン、トリ[2,6−ビスノナフルオロブチル−4−ピリジル]ホスフィン、トリ[2,6−ジフルオロ−4−ピリジル]ホスフィン、トリ[2,6−ジニトロ−4−ピリジル]ホスフィン、トリ[2,6−ジシアノ−4−ピリジル]ホスフィンが挙げられる。
【0033】
一方、式(2)中のYである「炭素原子数が2〜20の置換されていてもよくヘテロ原子を含んでいてもよい脂肪族、脂環式もしくは芳香族化合物またはフェロセンにより形成される2価の基」は、遷移金属に配位して錯体を形成する公知のホスフィン/アルシン(本発明の式(2)におけるR1、R2、R3およびR4に相当する官能基が公知)における、本発明の式(2)におけるYに相当する部位の2価の基の中から選択することができる。
【0034】
化合物(2)の代表例としては、下記式(7)で表される、Yとしてビフェニル骨格を有する2価の基を有する化合物が挙げられる。
【0035】
【化5】
式(7)中、R11、R12およびR13は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜10のフッ素化アルキル基または炭素数1〜10のフッ素化アルコキシ基を示す。R14は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜10のフッ素化アルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基または炭素数1〜10のフッ素化アルコキシ基を示す。同一のベンゼン環に結合しているR11、R12、R13およびR14は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0036】
上記ハロゲン原子としては、たとえばフッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられる。上記炭素数1〜6のアルキル基としては、たとえばメチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、2−メチル−2−プロピル基、1−ペンチル基、1−ヘキシル基などが挙げられる。上記炭素数1〜6のアルコキシ基としては、たとえばメトキシ基、エトキシ基、1−プロポキシル基、2−プロポキシ基、1−ブトキシ基、2−ブトキシ基、2−メチル−2−プロポキシ基、1−ペンチルオキシ基、1−ヘキシルオキシ基が挙げられる。
【0037】
炭素数1〜10のフッ素化アルキル基は、アルキル基中の全ての水素原子がフッ素原子に置換されたもの(パーフルオロアルキル基)と、アルキル基中の一部の水素原子がフッ素原子で置換されたものを含み、直鎖状でも分岐状でもよい。本発明のジホスフィン化合物を、フッ素系の溶媒を用いる不斉合成反応用の触媒の配位子とする場合に、その触媒の溶解性を良好なものとすることができる。このようなフッ素化アルキル基としては、たとえば下記式(8)で表されるものが挙げられる。
【0038】
―(CH2m―(CF2n―CF3 (8)
式(8)中、mは1〜9の整数であり、nは0〜8の整数であり、m+nは1〜9の整数である、
炭素数1〜10のフッ素化アルコキシ基は、アルコキシ基中の全ての水素原子がフッ素原子に置換されたもの(パーフルオロアルコキシ基)と、アルコキシ基中の一部の水素原子がフッ素原子で置換されたものを含み、直鎖状でも分岐状でもよい。本発明のジホスフィン化合物を、フッ素系の溶媒を用いる不斉合成反応用の触媒の配位子とする場合に、その触媒の溶解性を良好なものとすることができる。このようなフッ素化アルコキシ基としては、たとえば下記式(9)で表されるものが挙げられる。
【0039】
―O―(CH2m―(CF2n―CF3 (9)
式(9)中、mは1〜9の整数であり、nは0〜8の整数であり、m+nは1〜9の整数である、
合成しやすさの面からは、R11、R12およびR13は、いずれも水素原子であることが好ましい。
【0040】
また、R14によりビフェニル骨格の6位および6'位にアルコキシ基を結合させることによって、化合物の合成が容易になる。中でもR14がメチル基であること、すなわち、ビフェニル骨格の6位および6'位にメトキシ基を結合させることが、特に合成しやすいため好ましい。
【0041】
同一のベンゼン環に結合しているR11、R12、R13およびR14は互いに結合して環を形成していてもよいが、そのような基としては、ともにアルキル基であり合計の炭素原子数が4となるR13およびR14が互いに結合し、最初からあるベンゼン環と一体となってナフタレン環を形成している基、たとえば化合物(5)および(6)が有するような基が好ましい。
【0042】
上記のビフェニル骨格ないしビナフタレン骨格を有するYには軸不斉の光学異性体が存在する。そのようなYを含む化合物(2)は、目的とする金属錯体(不斉合成触媒)の調製を容易にする観点から、R体またはS体いずれかの光学活性体として調製しておくことが望ましい。化合物(2)をラセミ体(R体およびS体の等量混合物)として調製した後、適切な段階、たとえば遷移金属に当該化合物を配位させて錯体を形成させてから光学分割をして、最終的に目的とする不斉合成触媒を得ることも可能である。
【0043】
本発明の化合物(1)または(2)に該当するホスフィンの具体例を以下に示す。
【0044】
【化6】
式(10),(11),(12),(13)中、Meはメチル基を示し、Arは2,6−ビス(トリフルオロメチル)−4−ピリジル基を示す。
【0045】
−新規化合物の製造方法−
本発明の新規化合物は、特定の置換ピリジル基を導入するようにすること以外、従来のホスフィンまたはアルシンと同様の方法で合成することができる。
【0046】
たとえば、本発明のホスフィン化合物(一般式(1)におけるAがリンの場合)は、
下記一般式(14)で表される化合物と、マグネシウムと、ハロゲン化リチウムとを反応させる第1工程、および
第1工程の反応生成物(グリニャール試薬)と、下記一般式(15)または一般式(16)で表されるハロゲン化リン化合物とを反応させる第2工程を含む方法(グリニャール反応)により合成することが好適である。
【0047】
R−X1 (14)
式(14)中、Rは前記一般式(1)または(2)におけるR1、R2、R3およびR4と同義であり、X1はハロゲン原子を示す。
【0048】
P−X23 (15)
22P−Y−PX22 (16)
式(15)および(16)中、X2はハロゲン原子を示し、Yは前記一般式(2)と同義である。
【0049】
第1工程は、つづく第2工程のためのグリニャール試薬を調製するための工程である。化合物(14)は、Rとして、目的とする化合物(1)または(2)のR1、R2、R3およびR4に応じた官能基を有するものが選択される。化合物(14)のX1としては臭素が好ましい。原料となる化合物(14)は、公知の方法に準じて調製することができ、市販品を購入してもよい。
【0050】
第2工程は、第1工程で調製したグリニャール試薬を用いたグリニャール反応により目的とする化合物を生成させるための工程である。化合物(15)および(16)のX2としては塩素が好ましい。原料となる化合物(15)および(16)は公知の方法による調製または市販品の購入により用意することができる。
【0051】
第1工程で調製したグリニャール試薬は単離することが困難であるため、通常、第1工程の反応系に第2工程で用いる化合物(15)または(16)を添加するような様式で、第1工程および第2工程は連続的に行われる。
【0052】
上記第1工程および第2工程に用いる反応溶媒としては、通常のグリニャール反応と同様、水を含まない非プロトン性の有機溶媒が用いられ、テトラヒドロフラン(THF)やジエチルエーテルなどのエーテルが好ましい。そのほか、反応温度、反応時間、化合物(15)または(16)に対する化合物(14)の使用量などの各種の反応条件は、従来の方法に準じ、目的とする化合物(1)または(2)に応じて適切に調整することができる。通常、反応温度は室温〜60℃であり、反応時間は1〜8時間であり、使用量はリン原子1モルに対して化合物(14)1.5〜3モルである。
【0053】
なお、上記のような調製方法を用いることにより、化合物(16)としてYが軸不斉化合物からなる2価の基を有するものを用いる場合であっても、ラセミ化を起こすことなく目的とする化合物(2)を得ることができる。
【0054】
−新規遷移金属錯体−
上述したような本発明の新規化合物は、配位能を有する遷移金属に対する配位子となる。本発明の遷移金属錯体は、そのような配位子が配位能を有する遷移金属に配位したものである。
【0055】
上記配位能を有する遷移金属(周期律表の第3族〜第11族に属する元素)としては、たとえば、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、銀、金、および白金が挙げられる。なかでも、周期律表の第8族、第9族および第10族に属する元素、たとえばロジウム、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、鉄、イリジウムが好ましい。これらの遷移金属が用いられる場合、ハロゲン化物、カルボニル錯体、オレフィン錯体、エノラート錯体などの遷移金属塩または遷移金属錯体に本発明の新規化合物を配位させることが好ましい。
【0056】
本発明の遷移金属錯体は、公知の遷移金属錯体と同様の方法で調製することができる。通常、本発明の新規化合物(ホスフィンまたはアルシン)と遷移金属化合物とを適切な溶媒中で混合し、反応系内で錯体を形成させるようにすればよい。このようにして調製された遷移金属錯体は、その調製のための反応系から分離せずにそのまま用いてもよいし、分離して必要に応じて精製した上で用いてもよい。
【0057】
本発明の遷移金属錯体は、公知の遷移金属錯体と同様の反応における触媒として使用することができる。たとえば、本発明の軸不斉ホスフィン化合物を配位子とする遷移金属錯体は、不斉水素化反応(ケトンの還元反応、イミンの還元反応など)、不斉付加反応(1,4−付加反応、1,2−付加反応など)、不斉異性化反応(オレフィン異性化反応など)、不斉交差カップリング反応(鈴木−宮浦カップリング反応など)といった各種の不斉合成反応用の、不斉触媒として使用することができる。上記の不斉合成反応以外にも、公知の遷移金属錯体が適用されている各種の反応(たとえば、スティルカップリング反応、ヘック反応など)において、本発明の遷移金属錯体を使用することができる。換言すれば、本発明は、新規遷移金属錯体の上記反応における触媒としての使用方法および新規遷移金属錯体を触媒として使用する上記反応方法を包含する。
【0058】
一例として、一般式(17)で表される不斉触媒は、生理活性物質などに多く含まれている光学活性アミンを合成することができる、イミンの不斉アリール化反応に使用することができる。
【0059】
[RhCl(C2422/(R)−L* (17)
式(17)中、(R)−L*は、前記一般式(10)で表される軸不斉化合物からなる不斉2座配位子を示す。
【0060】
本発明の遷移金属触媒の使用量は、対象とする反応や用いる触媒の種類に応じて適宜調整することができるが、原料化合物に対して通常0.5〜3モル%、好ましくは0.1〜0.5モル%である。本発明の遷移金属触媒は従来のものに比べて極めて触媒活性が高いので、従来よりも少ない範囲で使用量を調整することができる。また、反応温度や反応時間など反応条件も適宜調整することができるが、やはり本発明の遷移金属触媒の触媒活性の高さにより、従来よりも穏やかな温度条件、短い反応時間を設定することができる。
【実施例】
【0061】
[実施例1−1]
【0062】
【化7】
十分に乾燥させた50 mLの二つ口ナスフラスコに切削マグネシウム (365 mg, 15.0 mmol)、塩化リチウム (318 mg, 7.49 mmol) を入れ不活性ガス雰囲気下で(Et2O 20 mL) を加えた。次いで、DAIBAL-Hのヘキサン溶液 (1 M, 100 μL, 0.100 mmol) を滴下し5分間撹拌した後、4-ブロモ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)ピリジン (1.77 g, 6.00 mmol) を加え1時間攪拌した。この後、トリクロロホスフィン (131 μL, 1.5 mmol) を約5分かけて滴下し、1時間反応させた。その後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、Et2Oを留去後、残渣を酢酸エチルに溶解させて抽出操作を行い、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、セライト濾過を行い、濃縮・乾固させた。シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 6/1) によって精製することにより、目的化合物を得た(78% yield)。1H NMR (300 MHz, acetone-d6): δ 8.48 (d, J = 6.6 Hz). 19F NMR (282 MHz, acetone-d6) : δ -64.5 (s). 31P NMR (121 MHz, acetone-d6): δ 0.17 (s). IR (KBr): 3069, 1722, 1593, 1454, 1361, 1283, 1198, 1150, 1103, 901, 854, 718, 696, 683 cm-1. Anal. calc. for C21H6F18N3P: C, 37.46; H, 0.90; N, 6.24. Found: C, 37.39; H, 1.26; N, 6.37.。
【0063】
[実施例1−2]
【0064】
【化8】
十分に乾燥させた50 mLの二つ口ナスフラスコに切削マグネシウム (365 mg, 15.0 mmol)、塩化リチウム (318 mg, 7.49 mmol) を入れ不活性ガス雰囲気下でEt2O (20 mL) を加えた。次いで、DAIBAL-Hのヘキサン溶液 (1 M, 100 μL, 0.100 mmol) を滴下し5分間撹拌した後、4-ブロモ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)ピリジン (1.77 g, 6.00 mmol) を加え1時間攪拌した。この後、ビス(ジクロロホスフィノ)エタン (150 μL, 1.0 mmol) を約5分かけて滴下し、1時間反応させた。その後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、Et2Oを留去後、残渣を酢酸エチルに溶解させて抽出操作を行い、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、セライト濾過を行い、濃縮・乾固させた。シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 5/1) によって精製することにより、目的化合物を得た(81% yield)。 1H NMR (300 MHz, acetone-d6): δ 2.96 (t, J = 5.1 Hz, 4H), 8.28 - 8.30 (m, 8H). 19F NMR (282 MHz, acetone-d6): δ -64.5 (s). 31P NMR (121 MHz, acetone-d6): δ -3.24 (s). IR (KBr): 1593, 1454, 1361, 1288, 1205, 1134, 899, 854, 718, 696, 683 cm-1. Anal. calc. for C30H12F24N4P2: C, 38.07; H, 1.28; N, 5.92. Found: C, 37.69; H, 1.28; N, 6.17.。
【0065】
[実施例1−3]
合成スキーム(下記反応1−3−1から1−3−3まで)
【0066】
【化9】
【0067】
<反応1−3−1>
【0068】
【化10】
十分に乾燥させた50 mLのシュレンク管にフェロセン (279 mg, 1.50 mmol) を入れ、不活性ガス雰囲気下でN,N,N′,N′-テトラメチル-1,2-エタンジアミン (490 μL, 3.3 mmol) とヘキサン (12 mL) を加えた。1.59 M n-ブチルリチウム(2.1 mL, 3.3 mmol) を約10分かけて滴下し、60℃で1時間撹拌した。この後、-78℃に冷却し、ビス(ジエチルアミノ)クロロホスフィン (620 μL, 2.9 mmol) とトリエチルアミン (400 μL, 2.9 mmol) のヘキサン (3 mL) 溶液を約10分かけて滴下した。反応液を室温で10時間撹拌し不活性ガス雰囲気下でセライトろ過を行った。溶媒留去を行った後、更なる精製を行わず反応1−3−2に移った。1H NMR (300 MHz, C6D6): δ 1.04 (t, J = 6.8 Hz, 24 H), 3.00 - 3.10 (m, 16 H), 4.39 - 4.43 (m, 8 H). 31P NMR (121 MHz, C6D6): δ 91.3 (s).。
【0069】
<反応1−3−2>
【0070】
【化11】
十分に乾燥させた50 mLのシュレンク管に不活性ガス雰囲気下で[3]で合成した1,1'-ビス[ビス[ジエチルアミノ]ホスフィノ]フェロセンのEt2O溶液 (4 mL) を入れ、-78℃に冷却した。塩化水素のEt2O溶液(1 M, 25 mL, 25 mmol) を約20分かけて滴下し、ゆっくり室温に戻しながら8時間撹拌した後、溶媒留去を行った。不活性ガス雰囲気下でベンゼンを加えて反応で生じた塩を溶別し、セライトろ過により取り除いた。溶媒留去を行った後、更なる精製を行わず反応1−3−3に移った。1H NMR (300 MHz, C6D6): δ 3.98 (t, J = 1.9 Hz, 4 H), 4.15 - 4.18 (m, 4 H). 31P NMR (121 MHz, C6D6): δ 162.6 (s) 。
【0071】
<反応1−3−3>
【0072】
【化12】
十分に乾燥させた50 mLの二つ口ナスフラスコに切削マグネシウム (457 mg, 18.8 mmol)、塩化リチウム (399 mg, 9.41 mmol) を入れ不活性ガス雰囲気下でEt2O (20 mL) を加えた。次いで、DAIBAL-Hのヘキサン溶液 (1 M, 120 μL, 0.120 mmol) を滴下し5分間撹拌した後、4-ブロモ-2,6-ビス[トリフルオロメチル]ピリジン (2.20 g, 7.50 mmol) を加え1時間攪拌した。この後、反応1−3−2で合成した1,1'-ビス(ジクロロホスフィノ)フェロセンのTHF溶液 (5 mL) を約10分かけて滴下し、8時間反応させた。その後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、THFを留去後、残渣を酢酸エチルに溶解させて抽出操作を行い、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、セライト濾過を行い、濃縮・乾固させた。シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 3/1) によって精製することにより、目的化合物を得た(35% yield (3段階)。 1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 3.98 - 4.02 (m, 4 H), 4.42 - 4.46 (m, 4 H), 7.69 (d, J = 6.3 Hz, 8 H), 7.89 (s, 4 H). 13C NMR (75 MHz, acetone-d6): δ 71.5 (d, J = 6.8 Hz), 74.7 (d, J = 4.1 Hz), 75.5 (d, J = 16.1 Hz), 121.9 (q, J = 272.9 Hz), 128.7 (d, J = 17.9 Hz), 148.6 (dq, J = 5.6, 35.7 Hz), 153.5 (d, J = 22.6 Hz). 19F NMR (282 MHz, CDCl3): δ -64.6 (s). 31P NMR (121 MHz, CDCl3): δ -15.0 (s). IR (KBr): 3050, 1593, 1362, 1283, 1200, 1144, 1124, 897, 854, 835, 720, 696 cm-1. M.p. = 240℃ (dec.) Anal. calc. for C38H16F24FeN4P2: C, 41.40; H, 1.46; N, 5.08. Found: C, 41.28; H, 1.71; N, 4.68.。
【0073】
[実施例1−4]
合成スキーム(下記反応1−4−1から1−4−6まで)
【0074】
【化13】
【0075】
<反応1−4−1>
【0076】
【化14】
十分に乾燥させた50 mLの二つ口ナスフラスコに不活性ガス雰囲気下で塩化パラジウム(II) (485 mg, 2.70 mmol)、3-ブロモアニソール (17 mL, 134 mmol) を加えた。160℃で撹拌しながらトリエチルホスファイトを1時間ごとに約5 mLずつ、計28 mL (160 mmol) 加え、さらに1時間反応させた。シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 1/1) によって精製し、さらに減圧蒸留を行うことにより、目的化合物を得た(91% yield)。 1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 1.37 (t, J = 7.2 Hz, 6H), 3.85 (s, 3H), 4.01 - 4.22 (m, 4H), 7.05 - 7.11 (m, 1H), 7.29 - 7.42 (m, 3H). 31P NMR (121 MHz, CDCl3): δ 19.8 (s).。
【0077】
<反応1−4−2>
【0078】
【化15】
300 mLの三つ口フラスコを十分に乾燥させ、不活性ガス雰囲気下で、ジイソプロピルアミン (14.5 mL, 103 mmol), THF (50 mL) を加え、-20℃まで冷却した。次いで、1.63 M n-ブチルリチウム (60 mL, 98 mmol) を約1時間かけて滴下し、さらに30分攪拌した。この後、-78℃に冷却し、反応1−4−1で合成した(3-メトキシフェニル)リン酸ジエチルエステル (17.6 g, 72.0 mmol) のTHF (90 mL) 溶液を約1時間かけて滴下し、2時間反応させた。さらに塩化鉄(III) (14.7 g, 90.0 mmol) のTHF (90 mL) 溶液を反応器に加え、室温で14時間反応させた。溶媒留去を行い、残渣をジクロロメタンで溶解させて水酸化ナトリウム水溶液を加え、セライトろ過を行った。ジクロロメタンで有機物を抽出し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した後、濃縮した。Et2Oで洗浄し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (酢酸エチル/メタノール = 10/1) によって精製を行い、フロリジールによって不純物を取り除くことにより、目的化合物を得た(42% yield)。 1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 1.12 (t, J = 8.3 Hz, 6H), 1.16 (t, J = 8.3 Hz, 6H), 3.71 (s, 3H), 3.77 - 3.93 (m, 8H), 7.10 (d, J = 8.1 Hz, 2H), 7.29 - 7.42 (m, 3H), 7.56 (ddd, J = 1.2, 7.8, 13.5 Hz, 2H). 31P NMR (121 MHz, CDCl3): δ 18.6 (s).。
【0079】
<反応1−4−3>
【0080】
【化16】
1000 mL ナスフラスコに反応1−4−2で合成した[6'-(ジエトキシホスフォニル)-6,2'-ジメトキシビフェニル-2-イル]-2-リン酸ジエチルエステル (7.81 g, 16.1 mmol) と(+)-ジベンゾイル酒石酸 (6.91 g, 19.3 mmol) を入れよくかき混ぜた。次いで、Et2O (500 mL) を加えて 16時間撹拌し、析出した固体をろ別した。固体をEt2O で洗浄した後、ジクロロメタンに溶解させ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を濃縮して目的化合物を得た(47% yield, (R)-isomer, >99% ee)。 HPLC (Daicel Chiralcel OD-H, Hexane/i-PrOH = 20/1, flow rate = 1.0 mL/min); detected at 280 nm; tR = 21.6 min ((R)-isomer), tR = 25.2 min ((S)-isomer).。
【0081】
<反応1−4−4>
【0082】
【化17】
20 mLのシュレンク管を十分に乾燥させ、不活性ガス雰囲気下でリチウムアルムニウムヒドリド (190 mg, 4.8 mmol)、THF (3 mL) を加えた。-78℃に冷却し、トリメチルシランクロリド (0.61 mL, 4.8 mmol) を約5分かけて滴下し、15分撹拌した後、室温で2時間撹拌した。次いで、-30℃に冷却し、(R)-[6'-(ジエトキシホスフォニル)-6,2'-ジメトキシビフェニル-2-イル]-2-リン酸ジエチルエステル (390 mg, 0.8 mmol) のTHF (3 mL) 溶液を約10分かけて滴下し、30℃で3日間反応させた。脱気した水(0.8 mL) を加え、水素の発生が収まった後、脱気した30% 水酸化ナトリウム水溶液(2.4 mL)とTHF (10 mL) を加えた。有機層をカニュラーで別の反応器に移した後、さらにシュレンク管に残った残渣にセライトを加え粘性を減らし、有機物をTHFで抽出した。抽出した有機層を脱気した飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、Et2O (10 mL) を加えた後、水層をカニュラーで除いた。残った有機層に硫酸ナトリウムを加えて乾燥させ溶媒留去を行い、目的化合物を得た(95% yield)。1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 3.57 (d, JP-H = 205 Hz, 4H), 3.73 (s, 6H), 6.93 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 7.23 - 7.31 (m, 4H). 31P NMR (121 MHz, CDCl3): δ -127.2 (s).。
【0083】
<反応1−4−5>
【0084】
【化18】
30 mL 耐圧試験管を充分に乾燥させ、トリホスゲン (480 mg, 1.62 mmol)を入れ、Aliquat(登録商標)336 (38 mg, 0.094 mmol) のトルエン溶液 (3 mL) を加え、すばやく栓をし、35℃で2日間、激しく攪拌した。その後、その反応溶液及び、反応1−4−4で合成した(R)-[6,6'-ジメトキシ(1,1'-ビフェニル)-2,2'-ジイル]ビスホスフィン (224 mg, 0.804 mmol) の塩化メチレン溶液 (6 mL) を-78℃に冷却し、カニュラーを用いて、トルエン溶液を、塩化メチレン溶液に混合させた。徐々に室温に戻し、さらに2日間攪拌し、溶媒を留去することで目的化合物とAliquat(登録商標)の混合物を得た。Aliquat(登録商標)336は取り除かずに、そのまま反応1−4−6に移った。1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 3.77 (s, 6H), 7.11(d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.63 (m, 2H), 7.86 (d, J = 8.1 H, 2H). 31P NMR (121 MHz, CDCl3): δ 158.1 (s).。
【0085】
<反応1−4−6>
【0086】
【化19】
十分に乾燥させた50 mLの二つ口ナスフラスコに切削マグネシウム (389 mg, 16.0 mmol)、塩化リチウム(339 mg, 8.00 mmol) を入れ不活性ガス雰囲気下でEt2O (20 mL)を加えた。次いで、DAIBAL-Hのヘキサン溶液(1 M, 100 μL, 0.100 mmol) を滴下し5分間撹拌した。この後4-ブロモ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)ピリジン(1.88g, 6.40 mmol) を加え1時間攪拌した。この後、反応1−4−5で合成した(R)-[6,6'-ジメトキシ(1,1'-ビフェニル)-2,2'-ジイル]ホスフォナスジクロライドのTHF溶液 (1 mL) へ約5分かけて滴下し、4時間還流して反応させた。その後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し、Et2OとTHFを留去後、残渣を酢酸エチルに溶解させて抽出操作を行い、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、セライト濾過を行い、濃縮・乾固させた。シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/アセトン = 3/1) によって精製することにより、目的化合物を得た(52% yield (反応1−4−5からの2 step))。1H NMR (400 MHz, acetone-d6): δ 3.72 (s, 6H), 7.16 - 7.19 (m, 2H), 7.38 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.86 (t, J = 8.0 Hz, 2H), 7.89 - 7.91 (m, 4H), 8.15 - 8.17 (m, 4H). 13C NMR (100 MHz, acetone-d6): δ 55.0, 114.2, 120.5 (q, 1JF-C = 274.5 Hz), 120.8 (q, 1JF-C = 274.4 Hz), 125.8 - 126.1 (m), 127.0 - 127.2 (m), 131.3, 132.5, 133.6 - 134.2 (m), 146.8 - 148.1 (m), 151.5 - 152.3 (m), 157.5 - 157.7 (m). 19F NMR (376 MHz, acetone-d6): δ -64.9 (s, 12 F), -64.5 (s, 12F). 31P NMR (162 MHz, acetone-d6): δ -6.0 (s). IR (KBr) : 3422, 3082, 2949, 2845, 1591, 1570, 1464, 1362, 1283, 1204, 1155, 1126, 1043, 891, 854, 718, 696, 625 cm-1. Anal. calcd. for C42H20F24N4O2P2: C, 44.62; H, 1.78; N, 4.85.Found: C, 44.66; H, 1.94; N, 4.96. [α]D16.4 = +33.9° (c 0.93, CHCl3).。
【0087】
[実施例1−5]
【0088】
【化20】
【0089】
<反応1−5−1>
【0090】
【化21】
50mL シュレンク管に9,9-ジメチルキサンテン (177 mg, 0.808 mmol),テトラメチルエチレンジアミン(0.0.50 mL, 3.2 mmol),Et2O (11 mL)を加え氷浴で0℃に冷却した後、t-BuLi (1.55 M in petane, 2.1 mL, 3.2 mmol)を滴下した。室温で24時間撹拌後、エタノール浴で-70℃ に冷却して塩化亜鉛のEt2O(0.66M, 3.1 mL, 2.0 mmol)溶液を滴下した。-70℃で2時間撹拌した後、液体窒素浴に浸けて反応液を凍結させた。凍結した反応液にPCl3 (4.5 mL, 53 mmol) を滴下し、反応器を-70℃のエタノール浴につけた。エタノール浴を10時間かけて室温に戻しながら反応液を撹拌し、溶媒留去後淡黄色の粗生成物を得た。精製を行わず次の反応に使用した。1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 1.14 (t, J = 7.0 Hz, 6H), 3.10− 3.22 (m, 8H). 31P NMR (121 MHz, CDCl3): δ 160.2 (s).。
【0091】
<反応1−5−2>
【0092】
【化22】
十分に乾燥させた50 mLの二つ口ナスフラスコに切削マグネシウム (334 mg, 13.7 mmol)、塩化リチウム(290 mg, 6.84 mmol) を入れ不活性ガス雰囲気下でEt2O (11 mL)を加えた。次いで、DAIBAL-Hのヘキサン溶液(1 M, 85 μL, 0.085 mmol) を滴下し5分間撹拌した。この後4-ブロモ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)ピリジン(1.60 g, 5.44 mmol) を加え1時間攪拌した。この後、反応1−5−1で合成した9,9-ジメチルキサンテン-4,5-ジイル-ビスホスホナスジクロリドのTHF溶液(2 mL)を滴下し、17時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水を加えた後、溶媒留去し酢酸エチルで抽出を行った。シリカゲルカラム(hexane/acetone = 3/1)、引き続きアセトン-ヘキサンによる再結晶を行い、白色固体 (69.0 mg, 8%)を得た。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 1.72 (s, 6H), 6.43 - 6.45 (m, 2H), 7.26 (dd, J = 8.0 Hz, J = 8.0 Hz, 2H), 7.61 - 7.65 (m, 8H), 7.70 (dd, J = 8.0 Hz, J = 1.2 Hz, 2H). 19F NMR (376 MHz, CDCl3): δ -69.2 (s). 31P NMR (162 MHz, CDCl3): δ -14.8 (s). IR (KBr): 3074, 2978, 2932, 2872, 1593, 1452, 1412, 1364, 1283, 1246, 1202, 1151, 1126, 999, 897, 854, 791, 745, 718, 696, 623, 532 cm-1. Anal. calcd. for C45H26F24N4OP2: C, 45.84; H, 1.79; N, 4.97. Found: C, 46.03; H, 1.98; N, 5.08.。
【0093】
[実施例2−1]
【0094】
【化23】
25 mLの二つ口フラスコを十分に乾燥させ、(アセチルアセトナト)ジカルボニルロジウム(I) (22.0 mg, 0.0853 mmol) とトリス[2,6-ビス(トリフルオロメチル)-ピリジル]ホスフィン(57.4 mg, 0.0853 mmol) を入れ、不活性ガス雰囲気下でジクロロメタン (5 mL) を加え1時間撹拌した。反応液を綿に通して固形物を取り除き、溶媒留去を行った。再結晶(ジクロロメタン/へキサン) により、目的化合物を得た(21% yield)。1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 1.70 (s, 3H), 2.20 (s, 3H), 5.63 (s, 1H), 8.05 (d, J = 10.8 Hz, 6H). 19F NMR (282 MHz, CDCl3): δ -69.1 (s). 31P NMR (121 MHz, CDCl3): δ 52.6 (d, 1JRh-P = 188.0 Hz). IR (CH2Cl2): 3071, 2007, 1204, 1162, 1128, 896 cm-1. Anal. calc. for C27H13F18RhN3O3P: C, 35.90; H, 1.45; N, 4.65. Found: C, 36.20; H, 1.66; N, 4.89.。
【0095】
[実施例2−2]
【0096】
【化24】
20 mLのシュレンク管を十分に乾燥させ、 μ-ジクロロテトラカルボニルロジウム(I) (4.30 mg, 0.0111 mmol) とトリス[2,6-ビス(トリフルオロメチル)-ピリジル]ホスフィン(30.0 mg, 0.0446 mmol) を入れ、不活性ガス雰囲気下でジクロロメタン (1.5 mL) を加え1時間撹拌した。反応液を綿に通して固形物を取り除き、溶媒留去を行った。再結晶(ジクロロメタン/ベンゼン) により、目的化合物を得た(60% yield)。1H NMR (300 MHz, acetone-d6): δ 8.70 - 8.82 (m). 19F NMR (282 MHz, acetone-d6): δ -65.0 (s). 31P NMR (121 MHz, acetone-d6): δ 39.4 (d, 1JRh-P = 139.2 Hz). IR (CH2Cl2): 3051, 2951, 2017, 1363, 1281, 1205, 1166, 1129, 895 cm-1. M.p. = 230℃ (dec.).。
【0097】
<電子求引力の測定>
PAr3型配位子3(実施例1−1参照)および対照として公知の4種類のフッ素化芳香環(特許文献1参照)またはベンゼン環を有するPAr3型配位子を用いて、それらの電子求引力を測定した。上記実施例2−2と同様の方法で、各配位子をカルボニル基を有するロジウム錯体と錯形成させそのカルボニルの伸縮振動を調べたところ、3はどの対照の配位子よりも大きな伸縮振動を示した(図3)。これは、3が極めて高度に電子不足である事を意味している。
【0098】
[実施例2−3]
【0099】
【化25】
20 mLのシュレンク管を十分に乾燥させ、ジクロロ(1,5-シクロオクタジエン)白金(II) (10.5 mg, 0.0281 mmol) とビス[[2,6-ビス(トリフルオロメチル)-ピリジル]ホスフィノ]エタン(26.5 mg, 0.0280 mmol) を入れ、不活性ガス雰囲気下でアセトン (2 mL) を加え3時間撹拌した。溶媒留去を行った後、再結晶(ジクロロメタン/ヘキサン) により、目的化合物を得た(59% yield)。1H NMR (300 MHz, acetone-d6): δ 3.80 - 3.90 (m, 4H), 8.80 - 8.87 (m, 8H). 19F NMR (282 MHz, acetone-d6) : δ -64.9 (s). 31P NMR (121 MHz, acetone-d6): δ 49.6 (s w/Pt-satellites, 1JPt-P = 3560 Hz). Anal. calc. for C30H12Cl2F24N4P2Pt: C, 29.72; H, 1.00; N, 4.62. Found: C, 29.76; H, 1.15; N, 4.57.。
【0100】
[実施例2−4]
【0101】
【化26】
20 mLのシュレンク管を十分に乾燥させ、 ヘキサカルボニルモリブデン (14.0 mg, 0.0530 mmol) とビス[[2,6-ビス(トリフルオロメチル)-ピリジル]ホスフィノ]エタン(50.2 mg, 0.0530 mmol) を入れ、不活性ガス雰囲気下でトルエン (0.5 mL) を加え20時間還流を行った。溶媒留去を行った後、再結晶(アセトン/ベンゼン)により、目的化合物を得た(77% yield)。1H NMR (300 MHz, acetone-d6): δ 3.58 - 3.76 (m, 4H), 8.51 (d, J = 9.6 Hz, 8H). 19F NMR (282 MHz, acetone-d6): δ -64.6 (s). 31P NMR (121 MHz, acetone-d6): δ 72.5 (s). IR (CH2Cl2): 3060, 3005, 2040.7, 1936, 1362, 1271, 1206, 1163, 1127, 897 cm-1. Anal. calc. for C34H12F24MoN4O4P2: C, 35.38; H, 1.05; N, 4.85. Found: C, 35.00; H, 1.26; N, 4.75.。
【0102】
[実施例2−5]
合成スキーム(下記反応2−5−1から2−5−3まで)
【0103】
【化27】
【0104】
<反応2−5−1>
【0105】
【化28】
20 mLのシュレンク管を十分に乾燥させ、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム (91.5 mg, 0.100 mmol) を入れ、不活性ガス雰囲気下でN,N,N′,N′-テトラメチル-1,2-エタンジアミン (45 μL, 0.30 mmol)、ヨードベンゼン (30 μL, 0.27 mmol)、ベンゼン(1.5 mL) を加え、50℃で3時間撹拌した。セライトろ過を行い、溶媒留去を行った後、再結晶(ジクロロメタン/Et2O) により、目的化合物を得た(90% yield)。1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 2.34 (s, 6H), 2.55 - 2.77 (m, 10 H), 6.77 - 6.83 (m, 1H), 6.89 - 6.95 (m, 2H), 7.23 - 7.27 (m, 2H). 13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 49.7, 49.9, 58.2, 62.1, 121.7, 126.5, 136.4, 144.5.。
【0106】
<反応2−5−2>
【0107】
【化29】
20 mLのシュレンク管を十分に乾燥させ、ヨードフェニル(N,N,N′,N′-テトラメチル-1,2-エタンジアミン)パラジウム (80.0 mg, 0.188 mmol) とフッ化セシウム (42.8 mg, 0.282 mmol) を入れ、不活性ガス雰囲気下でトリフルオロメチルトリメチルシラン (56 μL, 0.38 mmol) とTHF (1 mL) を加え、3時間撹拌した。セライトろ過を行い、溶媒留去を行った後、再結晶(ジクロロメタン/Et2O) により、目的化合物を得た(67% yield)。1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 2.23 (s, 6H), 2.55 - 2.70 (m, 10 H), 6.90 - 7.00 (m, 3H), 7.46 - 7.49 (m, 2H). 13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 49.7, 49.9, 58.2, 62.1, 121.7, 126.5, 136.4, 144.5. 19F NMR (282 MHz, CDCl3): δ -22.6 (s). IR (KBr): 3051, 2975, 2899, 2842, 1566, 1463, 1093, 1061, 1021, 979, 962, 804, 746, 706 cm-1.。
【0108】
<反応2−5−3>
【0109】
【化30】
20 mLのシュレンク管を十分に乾燥させ、ヨード(N,N,N',N'-テトラメチル-1,2-エタンジアミン)(トリフルオロメチル)パラジウム (19.9 mg, 0.0540 mmol) と硫酸水素カリウム(42.8 mg, 0.282 mmol)、ビス[[2,6-ビス(トリフルオロメチル)-ピリジル]ホスフィノ]エタン (51.1 mg, 0.0540 mmol) を入れ、不活性ガス雰囲気下で THF (1 mL) を加え、40℃で7日間撹拌した。セライトろ過を行い、溶媒留去を行った後、再結晶 (ジクロロメタン/ヘキサン) により、目的化合物を得た(25% yield)。1H NMR (300 MHz, acetone-d6): δ 3.77 - 3.95 (m, 2H), 4.03 - 4.21 (m, 2H), 7.20 - 7.33 (m, 3H), 7.57 - 7.62 (m, 2H), 8.66 (d, J = 10.1 Hz, 4H), 9.12 (d, J = 10.1 Hz, 4H). 19F NMR (282 MHz, acetone-d6): δ -64.5 (s, 12F), -64.4 (s, 12F), -12.2 (dd, JF-P = 52.1 Hz, JF-P = 18.4 Hz, 3F). 31P NMR (121 MHz, acetone-d6): δ 45.4 - 45.7 (m), 49.2 - 50.3 (m).。
【0110】
[実施例2−6]
【0111】
【化31】
20 mLのシュレンク管を十分に乾燥させ、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム (91.5 mg, 0.100 mmol) と1,1'-ビス[ビス[2,6-ビス(トリフルオロメチル)-ピリジル]ホスフィノ]フェロセン (276 mg, 0.250 mmol) を入れ、THF (1.5 mL) を加え、1.5時間撹拌した。セライトろ過を行い、溶媒留去を行った後、再結晶(ジクロロメタン/Et2O) により、目的化合物を得た(68% yield)。1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 4.30 - 4.33 (m, 2H), 4.60 - 4.62 (m, 2H), 4.94 (s), 5.30 - 5.33 (m, 2H), 6.44 - 6.55 (m, 1H), 6.54 - 6.60 (m, 2H), 6.94 - 6.70 (m, 2H), 8.21 (d, J = 10.5 Hz, 4 H), 8.90 (d, J = 10.5 Hz, 4 H). 19F NMR (282 MHz, CDCl3): δ -64.9 (s, 12F), -64.8 (s, 12F). 31P NMR (121 MHz, CDCl3): δ 15.9 (d, 2J P-P = 35.6 Hz), 30.8(d, 2J P-P = 35.6 Hz).。
【0112】
[実施例2−7]
【0113】
【化32】
20 mLのシュレンク管を十分に乾燥させ、μ-ジクロロテトラエチレンジロジウム(I) (1.00 mg, 0.00257 mmol) と1,1'-ビス[ビス[2,6-ビス(トリフルオロメチル)-ピリジル]ホスフィノ]フェロセン (5.68 mg, 0.00515 mmol) を入れ、不活性ガス雰囲気下でジクロロメタン (0.5 mL)を加え、30分間撹拌し、目的化合物を得た。19F NMR (282 MHz, CH2Cl2): δ -70.2 (s). 31P NMR (121 MHz, CH2Cl2): δ 53.3 (d, 1J Rh-P = 202.9 Hz).。
【0114】
[実施例2−8]
【0115】
【化33】
20 mLのシュレンク管を十分に乾燥させ、 μ-ジクロロテトラエチレンジロジウム(I) (1.00 mg, 0.00257 mmol) と(R)-(6,6'-ジメトキシビフェニル-2,2'-ジイル)ビス[ビス[2,6-ビス(トリフルオロメチル)-ピリジル]ホスフィン] (5.82 mg, 0.00515 mmol)を入れ、不活性ガス雰囲気下でジクロロメタン (0.5 mL)を加え、30℃で10分間撹拌し、目的化合物を得た。19F NMR (282 MHz, CH2Cl2): δ -70.0 (s, 24F), -69.6 (s, 24F). 31P NMR (121 MHz, CH2Cl2): δ 49.1 (d, 1J Rh-P = 194.0 Hz).。
【0116】
[実施例3−1]スティルカップリング反応
【0117】
【化34】
20mLシュレンク管にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム (1.5 mg, 1.6 μmol) とトリス[2,6-ビス(トリフルオロメチル)-ピリジル]ホスフィン (6.5 mg, 9.7 μmol) を入れ、不活性ガス雰囲気下でTHF (1 mL) を加えて10分間撹拌した後、ヨードベンゼン(18 μL, 0.16 mmol)、トリブチルビニルスズ (48 μL, 0.16 mmol) を加えて65℃で12時間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、酢酸エチルで有機物を抽出した。
1H NMR により変換率を求めた(88% conv.)。1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 5.25 (dd, J = 10.8, 0.9 Hz, 1H), 5.75 (dd, J = 17.4, 0.9 Hz, 1H), 6.72 (dd, J = 17.4, 10.8 Hz, 1H), 7.25 - 7.36 (m, 3H), 7.40 - 7.43 (m, 2H).。
【0118】
<触媒活性の対比>
上記実施例3−1に示したように、PAr3型配位子(3)を有するパラジウム触媒は上記スティルカップリングにおいて収率88%を示した。この収率は、公知のホスフィン(P(OPh)3)もしくはアルシン(AsPh3)配位子を有するパラジウム触媒について報告されている同じ反応における収率、ならびに公知のホスフィン配位子について上記実施例3−1に準じて反応を行ったときの収率に比べて高く、配位子(3)は従来の同型配位子と比べ高い触媒活性を示した(表1)。これは、配位子(3)の著しく強い電子求引力によるものであるが、従来最も電子不足な部類であるP(C6F5)3配位子が立体効果による配位力不足から極めて低い触媒活性しか示さない事を鑑みると、配位子(3)の好成績は電子効果だけではなく、金属との強い配位を意識した設計がうまく生かされている結果である事が明瞭に示されている。
【0119】
【表1】
【0120】
[実施例3−2]イミンの不斉アリール化反応
【0121】
【化35】
20 mLのシュレンク管を十分に乾燥させ、μ-ジクロロテトラエチレンジロジウム(I) (50.5 μg, 0.130 μmol) と(R)-(6,6'-ジメトキシビフェニル-2,2'-ジイル)ビス[ビス[2,6-ビス(トリフルオロメチル)-ピリジル]ホスフィン] (294 μg, 0.260 μmol) を入れ、不活性ガス雰囲気下でジクロロメタン(0.2 mL) を加えて15分間撹拌した後、溶媒留去を行った。次いで4-メトキシベンズアルデヒド トシルイミン (151 mg, 0.520 mmol)、フェニルボロン酸 (63.4 mg, 0.520 mmol)、水酸化カリウム (5.84 mg, 0.104 mmol) を入れ、トルエン (0.5 mL) と水 (0.25 mL) を加えて20℃で1時間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、酢酸エチルで有機物を抽出した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 1/1)により精製することで目的化合物を得た(98% yield, (S)-isomer, 98% ee)。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 2.38 (s, 3H), 3.75 (s, 3H), 5.01 (d, J = 6.8 Hz, 1H), 5.52 (d, J = 6.8 Hz, 1H), 6.73 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 6.99 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.09 - 7.21 (m, 7H), 7.56 (d, J = 8.0 Hz, 2H). [α]D26.7 = -19.7° (c 1.0, CHCl3). HPLC (Daicel Chiralcel OD-H, Hexane/i-PrOH = 70/30, flow rate = 0.7 mL/min); detected at 230 nm; tR = 11.0 min ((S)-isomer), tR = 16.9 min ((R)-isomer).。
【0122】
<触媒活性の対比>
不斉配位子(10)を有するロジウム錯体(17)は、上記実施例3−2と同様のイミンの不斉アリール化反応において、わずか0.05%用いただけでも、30℃一時間で反応は終了し98%eeの光学活性アミンが得られた(表2)。これまで、遷移金属触媒を用いる本反応と同様の手法は過去に十数例報告されているが、そのほとんどは3%以上の触媒を必要とし、反応時間も数時間から数十時間必要であった。それに比べ新規ロジウム錯体(17)は極めて少量の触媒量・短時間で光学活性化合物を与える事から、光学活性アミンの有効な効率的合成手法となりうると考えられる。
【0123】
【表2】
【0124】
また、上記実施例3−2と同一の条件下における、特許文献1に記載の公知の不斉ホスフィン配位子と一時間あたりの触媒活性とも対比した(表3)。室温での一時間あたりの回転数が、公知の不斉ホスフィン配位子では最大でも620回転であるのに対し、本発明の不斉ホスフィン配位子(10)は1960回転もする事からその高い活性は明らかであり、極めて電子不足で嵩高くないビストリフルオロメチル-ピリジル基を有するホスフィンの配位子としての優位性は明らかである。
【0125】
【表3】
図2
図1
図3