特許第6011799号(P6011799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6011799-組電池 図000002
  • 特許6011799-組電池 図000003
  • 特許6011799-組電池 図000004
  • 特許6011799-組電池 図000005
  • 特許6011799-組電池 図000006
  • 特許6011799-組電池 図000007
  • 特許6011799-組電池 図000008
  • 特許6011799-組電池 図000009
  • 特許6011799-組電池 図000010
  • 特許6011799-組電池 図000011
  • 特許6011799-組電池 図000012
  • 特許6011799-組電池 図000013
  • 特許6011799-組電池 図000014
  • 特許6011799-組電池 図000015
  • 特許6011799-組電池 図000016
  • 特許6011799-組電池 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011799
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/06 20060101AFI20161006BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20161006BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20161006BHJP
   H01M 2/08 20060101ALI20161006BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   H01M12/06 F
   H01M4/70 A
   H01M2/02 K
   H01M2/08 K
   H01M4/86 B
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-7486(P2013-7486)
(22)【出願日】2013年1月18日
(65)【公開番号】特開2013-175446(P2013-175446A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2015年11月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-15355(P2012-15355)
(32)【優先日】2012年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 篤史
(72)【発明者】
【氏名】姫野 友克
(72)【発明者】
【氏名】入月 桂太
(72)【発明者】
【氏名】長山 森
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−146339(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0021303(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0316485(US,A1)
【文献】 特開2010−238663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/06
H01M 2/02
H01M 2/08
H01M 4/70
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の空気電池を積層した組電池であって、
それぞれの空気電池は、
電解質層を間にして正極層及び負極層を備えると共に、電気絶縁性を有し且つ少なくとも電解質層及び正極層の外周を包囲する外枠部材を備え、
正極層が、正極表面に、平面視において電解質層の外周よりも外側に周縁部分を有する液密通気部材を備えると共に、
外枠部材が、正極側に、液密通気部材の周縁部分を受ける保持部を備えており、
液密通気部材の周縁部分が、厚さ方向の圧縮荷重が付与される被圧縮部である組電池。
【請求項2】
外枠部材の保持部及び負極側における保持部の反対位置のいずれか一方に、凸部を備えている請求項1に記載の組電池。
【請求項3】
外枠部材の保持部が、枠内周側に下る傾斜面を有している請求項1に記載の組電池。
【請求項4】
負極層が、負極表面側に、断面波形状若しくは複数の凸構造を有する負極集電部材を備えており、
この負極集電部材が、外枠部材の保持部の反対位置に、凸部を備えている請求項1に記載の組電池。
【請求項5】
液密通気部材が、その表面側にガス流路を形成するガス流路形成部材を備えており、
ガス流路形成部材が、液密通気部材の被圧縮部に圧縮荷重を付与する押圧部を備えている請求項1に記載の組電池。
【請求項6】
液密通気部材が、導電性を有している請求項1〜5のいずれか1項に記載の組電池。
【請求項7】
液密通気部材が、触媒を含む部材であって、本体部分の触媒量よりも周縁部分の触媒量を少なくしてある請求項6に記載の組電池。
【請求項8】
液密通気部材が、触媒を含む部材であって、厚さ方向において内側の触媒量よりも外側の触媒量を少なくしてある請求項6に記載の組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を正極活物質として利用する空気電池を電池要素として用いた組電池に関し、とくに、複数個の空気電池を積層することで直列接続して成る組電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、自動車等の車両の電源又は補助電源として使用する空気電池の研究開発が進められている。この車載用の空気電池は、車両に要する出力及び容量が求められるので、複数個を直列に接続して組電池を構成する必要があり、しかも、搭載スペースが狭く限られているので、薄型(小型)にすることが重要である。また、薄型化を図る場合、電解液の収容部分と外部との間隔も短くなるので、電解液のシール性能を充分に確保しておくことも非常に重要である。
【0003】
従来における空気電池としては、特許文献1に記載されているいわゆるボタン型空気電池のほかに、例えば特許文献2に記載されているように、充放電が可能な二次電池としたものがある。この特許文献2に記載の空気電池は、通気口を有する上側のキャップと、下側の円形容器との間に、上側から、多孔質膜、集電体金網、正極、電解液を含むセパレータ、亜鉛負極及び集電体を積層状態にして収容した構造になっている。この空気電池は、正極、セパレータ及び亜鉛負極の外周を取り囲む絶縁シールを備えており、絶縁シールにより、キャップ及び正極側の集電体金網と、円形容器及び負極側の集電体との間の絶縁性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03−289074号公報
【特許文献2】特開2009−093983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したような従来の空気電池にあっては、円形容器とキャップとの間に電池の各要素を積層して収容した構造であるから、電解液のシール性能を充分に確保しつつ薄型化を図ることが難しいという問題点があり、このような問題点を解決することが課題であった。
【0006】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたもので、薄型化と電解液の高いシール性能の両立を実現することができる空気電池を電池要素とする組電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数個の空気電池を積層した組電池であって、それぞれの空気電池は、電解質層を間にして正極層及び負極層を備えると共に、電気絶縁性を有し且つ少なくとも電解質層及び正極層の外周を包囲する外枠部材を備えている。また、それぞれの空気電池は、正極層が、正極表面に、平面視において電解質層の外周よりも外側に周縁部分を有する液密通気部材を備えると共に、外枠部材が、正極側に、液密通気部材の周縁部分を受ける保持部を備えている。そして、液密通気部材の周縁部分が、厚さ方向の圧縮荷重が付与される被圧縮部となっている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組電池は、電池要素であるそれぞれの空気電池に上記構成を採用したことにより、薄型化と電解液の高いシール性能の両立を実現することができる。これにより、複数個を接続して成る組電池を容易に構成し得るので、車載用の電源としても非常に好適なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の組電池の一実施形態を示す断面図である。
図2図1の組電池を構成している電池要素としての空気電池の詳細を示す図で、(A)は断面図(A)、(B)は平面図である。
図3】本発明の組電池における空気電池の他の実施形態を説明する断面図である。
図4】本発明の組電池のさらに他の実施形態を説明する断面図である。
図5】本発明の組電池のさらに他の実施形態を説明する断面図である。
図6】本発明の組電池における空気電池のさらに他の実施形態を説明する断面図である。
図7】本発明の組電池における空気電池のさらに他の実施形態を説明する断面図である。
図8図7に示す空気電池を電池要素として積層した組電池の断面図である。
図9】本発明の組電池における空気電池のさらに他の実施形態を説明する断面図である。
図10図9に示す空気電池のガス流路形成部材の説明図で、(A)はガス流路部材の断面図、(B)は押圧部の一例を示す断面図、(C)は押圧部の他の例を示す断面図である。
図11図9に示す空気電池を電池要素として積層した組電池の断面図である。
図12】(A)は図9に示す空気電池の平面図、(B)は同図(A)のA−A線に沿った断面図、(C)は同図(A)のB−B線に沿った断面図である。
図13】(A),(B)は共にガス流路形成部材の他の例を示す断面図である。
図14】本発明の組電池における空気電池のさらに他の実施形態を説明する断面図である。
図15】本発明の組電池における空気電池のさらに他の実施形態を示す図で、(A)は平面図、(B)は同図(A)のA−A線に沿った断面図、(C)は同図(A)のB−B線に沿った断面図である。
図16】(A)は電解液の漏出試験に用いた試験装置を説明する断面図、(B)は漏出した電解液成分の比と被圧縮部の圧縮荷重との関係を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて、本発明の組電池の一実施形態を詳細に説明する。
【0011】
図1に示す組電池Cは、平坦で薄型の空気電池A1を電池要素(単電池)として、これらの複数個の空気電池A1を積層して直列接続することで構成される。なお、図1では、図面の錯綜化を避けるために、積層する二つの空気電池A1同士の間に隙間をもたせてあるが、それらの空気電池A1同士を積層した場合には、当然のことながら双方の空気電池A1同士は直接接触することになる。
【0012】
図2は、図1におけるそれぞれの空気電池A1の詳細を示していて、同図に示す空気電池A1は、矩形板状を成すものであって、電解質層1を間にして、図中上側の正極層2と、図中下側の負極層3を備えると共に、電気絶縁性を有し且つ少なくとも正極層2及び電解質層1の外周を包囲する外枠部材4を備えている。
【0013】
正極層2は、正極集電部材21及び正極部材22を備えると共に、正極表面に、図2(B)に示す平面視において電解質層1の外周よりも外側に周縁部分を有する液密通気部材23を備えている。他方、負極層3は、負極部材31と、負極表面に配置した負極集電部材32を積層状態に備えている。なお、液密通気部材23は、それ自体の液密性または水密性をもって液体の通流を阻止する一方で、空気等の気体の通流は許容する通気性を有しているものである。
【0014】
また、外枠部材4は、正極側に、液密通気部材23の周縁部分を受ける保持部4Aを備えている。この実施形態の保持部4Aは、液密通気部材23の自由状態での厚さよりもわずかに小さい高さの段差形状を成している。そして、液密通気部材23は、その周縁部分が、図1に示すような空気電池A1同士の積層時に、厚さ方向の圧縮荷重が付与される被圧縮部23Aになっている。したがって、図2(B)の状態では、外枠部材4の上面よりも液密通気部材23の上面の方がわずかに上方に突出している。
【0015】
電解質層1は、水酸化カリウム(KOH)や塩化物を主成分とした水溶液(電解液)もしくは非水溶液をセパレータ内に含浸させたものであり、その水溶液や非水溶液を貯留させるために、セパレータには微細な孔が所定の割合で形成されている。なお、電解質層1そのものを、固体あるいはゲル状の電解質としても良い。
【0016】
前記正極層2において、正極集電部材21は、正極層2における面内方向(面に沿う方向)の導電性を良好に確保するものであって、ステンレス、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、及びカーボンなどの材料で形成した通気性を有する導電部材である。この正極集電部材21は、正極部材22の導電性に応じて通気部分の開口率を選択し、金網状の部材である場合には、例えば50〜600メッシュ相当の仕様の中から選択して使用することができる。正極集電部材21には、金網状部材のほかエキスパンドメタル、パンチングメタル、金属繊維の不織布並びにカーボンペーパーも使用可能である。
【0017】
正極部材22は、触媒を含む導電性多孔質材料で形成してあり、例えば、カーボン材料とバインダー樹脂とで形成した導電性多孔体の内部に、二酸化マンガンなどの触媒を担持させたものである。
【0018】
液密通気部材23は、電解質層1の電解液に対して液密性(水密性)を有すると共に、正極部材22に酸素を供給し得るように、酸素の通気性を有する導電性部材である。この液密通気部材23は、とくに図2(A)中の拡大図に示すように、厚さ方向に連通した多数の微細孔を有するものであって、導電性を要しない場合には、例えばゴアテックス(登録商標)に代表されるフッ素樹脂などの撥水膜が用いられるが、本実施形態のように導電性を必要とする場合には、液密通気部材23は例えばカーボンペーパーのように導電性を有する多孔質材料で形成されている。
【0019】
前記負極層3において、負極部材31は、リチウム(Li)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、及びマグネシウム(Mg)等の純金属、もしくは合金などの材料から成るものである。
【0020】
負極集電部材32は、電解質層1の電解液が外部に漏出するのを阻止し得る材質から成る導電性部材であって、例えば、ステンレス、及び銅(合金)や、金属材料の表面に耐食性を有する金属をメッキしたものなどである。
【0021】
外枠部材4は、電気絶縁性を有していると共に、矩形枠状を成しており、電解質層1及び正極層2の外周に加えて、負極層3の負極部材31の外周をも包囲している。このため、負極層3の負極集電部材32は、外枠部材4と同等の矩形状を成し、外枠部材4の負極側の開口部分を閉塞するように設けてある。
【0022】
上記の外枠部材4は、ポリプロピレン(PP)やエンジニアリングプラスチックなどの耐電解液性を有する樹脂製であることが好ましく、これにより軽量化も図ることができる。また、外枠部材4は、機械的強度を持たせるために、樹脂をカーボン繊維やガラス繊維などの強化繊維によって複合化した繊維強化プラスチック(FRP)を使用することもできる。ただし、本実施形態の外枠部材4は、先に述べたように電気絶縁性を有していることが必須条件である。
【0023】
なお、空気電池A1は、図示を省略したが、例えば、正極集電部材21から外部に通じる通電経路や、当該空気電池A1の積層時に正極層2に空気を供給するための隙間を形成する手段を設けることができる。また、正極層2の表面には、不使用時における放電を阻止するために、剥離可能な密封シートを設けることができる。
【0024】
上記構成を備えた空気電池A1は、電解質層1を挟む正極層2及び負極層3と、これらを包囲する外枠部材4を基本構造としているので、構造が非常に簡単であり、薄型化を図ることが容易である。
【0025】
ここで、空気電池は、負極層側では、構成部材が金属製であるために電解液のシール性を確保し易いのであるが、正極層側では、構成部材に多孔質材料を用いているので、薄型化に伴って電解液の漏出が発生し易くなる恐れがある。
【0026】
これに対して、上記実施形態の空気電池A1は、正極層2の液密通気部材23が電解質層1よりも一回り大きく、液密通気部材23の周縁部分を被圧縮部23Aとして、この被圧縮部23Aを外枠部材4の保持部4Aで受ける構造にしている。そのため、図1に示すように、複数の空気電池A1同士を積層して直列接続の組電池Cとした場合には、下側の空気電池A1における正極側の液密通気部材23と上側の空気電池A1の負極集電部材32とが互いに接触し、しかも液密通気部材23が導電性を有しているので、双方の空気電池A1同士が導通することになる。その際に、下側の空気電池A1の液密通気部材23は、当該下側の空気電池A1の外枠部材4と上側の空気電池A1の負極集電部材32との間に挟まれるかたちとなり、その周縁部分の被圧縮部23Aに厚さ方向の圧縮荷重が付与されて当該被圧縮部23Aが圧縮変形することになる。これにより、空気電池A1は、元々耐電解液性を有する液密通気部材23がシール部材として機能し、とくに、液密通気部材23の周縁部分、すなわち厚さ方向の圧縮荷重が付与される被圧縮部23Aにおいて液体及び気体の透過を阻止するので、正極側における電解液の漏出を確実に防ぐことができる。
【0027】
このようにして、上記の空気電池A1は、薄型化と電解液の高いシール性能の両立を実現することができる。また、図1に示すように、空気電池A1は、複数個を直列接続して組電池を構成することができ、組電池の小型化や構造の簡略化をも実現し得るので、車載用の電源としても非常に好適なものとなる。
【0028】
図3は、本発明の組電池の他の実施形態として、電池要素である空気電池を説明する図である。なお、以下の各実施形態において、先の実施形態と同一の構成部位については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0029】
図3に示す空気電池A2は、外枠部材4が、その枠内周側に矩形枠状の接点部材5を備えており、この接点部材5に、前記液密通気部材23の周縁部分である被圧縮部23Aを受けるための段差状の保持部4Aが形成してある。
【0030】
接点部材5は、内端部(図中では下端部)が正極集電部材21の周縁部に接触し且つ外端部(図中では上端部)が外枠部材4の表面に露出している。この接点部材5は、外端部が、液密通気部材23の表面よりもわずかに低く且つ外枠部材4の上面と同一面位置に位置している。
【0031】
接点部材5は、導電性を有する金属製のものであって、例えば、銅(Cu)、ステンレス、及びニッケル(Ni)などの金属を使用することができる。また、その他の金属でも電解液に対する耐食性が確保されるように表面処理を行えば、それを使用することができる。さらに、接点部材5は、正極集電部材21との接触抵抗を低減するために、互いの接触面の少なくとも一方に、金(Au)や銀(Ag)などのメッキを施すことができる。なお、図3の空気電池A2は、導電性を有する接点部材5を備えているために、液密通気部材23は必ずしも導電性を有する材料で形成されている必要はない。
【0032】
上記の空気電池A2は、先の実施形態と同様に、薄型化と電解液の高いシール性能の両立を実現することができるほか、接点部材5を備えた外枠部材4を採用したことから、接点部材5の外端部を正極端子とし、その反対側の負極集電部材32を負極端子として、図1と同様の形態で積層して空気電池A2同士を直接的に直列接続することで組電池Cとすることができる。その際に、下側の空気電池A2の液密通気部材23は当該下側の空気電池A2の接点部材5と上側の空気電池A2の負極集電部材32との間に挟まれるかたちとなり、その周縁部分の被圧縮部23Aに厚さ方向の圧縮荷重が付与されて当該被圧縮部23Aが圧縮変形することになる。これにより、先の実施形態と同様に、空気電池A2は、元々耐電解液性を有する液密通気部材23がシール部材として機能し、とくに、液密通気部材23の周縁部分、すなわち厚さ方向の圧縮荷重が付与される被圧縮部23Aにおいて液体及び気体の透過を阻止するので、正極側における電解液の漏出を確実に防ぐことができる。
【0033】
図4及び図5に示す組電池Cにおける空気電池A3,A4は、外枠部材4の保持部4A及び負極側における保持部4Aの反対位置のいずれか一方に、凸部6を備えたものである。図4に示す空気電池A3は、負極集電部材32において、保持部4Aの反対位置に凸部6が設けてある。また、液密通気部材23の上面は外枠部材4の上面と同一平面上に位置している。他方、図5に示す空気電池A4は、外枠部材4の保持部4Aに凸部6が設けてある。この凸部6があることによって、空気電池A4単独の状態では、液密通気部材23の周縁部の被圧縮部23Aのうちの凸部6に相当する部分が上方に膨出していて、外枠部材4の上面よりも上方に突出している。なお、図4及び図5においても、図面の錯綜化を避けるために、複数の空気電池A3同士またはA4同士の間に隙間をもたせてあるが、それらの空気電池A3同士またはA4同士を積層した場合には、当然のことながら空気電池A3同士またはA4同士は直接接触することになる。また、図4及び図5に示す空気電池A3,A4は、図1及び図2に示した空気電池A1と同様に、液密通気部材23が導電性を有する材料で形成されていることが必須条件とされる。
【0034】
図4に示す空気電池A3は、積層して組電池Cを構成した際に、負極側の凸部6と隣接する空気電池A3の保持部4Aとの間で、液密通気部材23の被圧縮部23Aに厚さ方向の圧縮荷重を付与する。他方、図5に示す空気電池A4は、保持部4Aの凸部6と隣接する空気電池A4の負極表面との間で、液密通気部材23の被圧縮部23Aに厚さ方向の圧縮荷重を付与する。
【0035】
これにより、上記の空気電池A3,A4は、液密通気部材23の被圧縮部23Aにおいて液体及び気体の透過を阻止し、正極側における電解液の漏出を確実に防止することとなり、薄型化と電解液の高いシール性能の両立を実現することができる。
【0036】
図6は本発明の組電池の他の実施形態として、電池要素である空気電池単独の状態を示している。図6に示す空気電池A5は、外枠部材4の保持部4Aが、枠内周側に下る傾斜面を有している。また、図示の空気電池A5は、液密通気部材23の厚さが、保持部4Aの高低差よりも若干大きいものとなっている。
【0037】
上記の空気電池A5は、図1と同様の形態で積層して組電池Cを構成した際に、保持部4Aと隣接する空気電池A5の負極表面との間で、液密通気部材23を圧縮し、とくに、液密通気部材23の被圧縮部23Aに厚さ方向の圧縮荷重を付与する。同時に、正極層2の液密通気部材23を、導電性を有する材料で形成してあることで、下側の空気電池A5の液密通気部材23と上側の空気電池A5の負極集電部材32とが接触して、上下の空気電池同士A5同士が導通することになる。このとき、空気電池A5は、保持部4Aが傾斜面になっているので、面内方向において被圧縮部23Aの圧縮率を変えることができ、これによりシール性能のさらなる向上に貢献することができる。
【0038】
図7,8は、本発明の組電池のさらに他の実施形態を示している。図7及び図8に示す空気電池A6は、上記と同様に、正極層2の液密通気部材23を、導電性を有する材料で形成してあると共に、負極層3の負極表面側に、断面波形状若しくは複数の凸構造を有する負極集電部材33を備えている。液密通気部材23には、カーボンペーパ等の多孔質材料を用いることができる。なお、液密通気部材23の上面は外枠部材4の上面と同一平面上に位置している。
【0039】
図示例の負極集電部材33は、例えばコルゲート加工により、平坦な素材を断面波形状に形成したものである。したがって、波形状は、負極集電部材33が矩形状である場合、短辺若しくは長辺のいずれかの方向に連続している。そして、負極集電部材33は、外枠部材4の保持部4Aの反対位置に、凸部33Aを備えている。
【0040】
上記の空気電池A6は、図8に示す如く積層して組電池Cを構成した際に、導電性を有する液密通気部材23と隣接する空気電池A6の負極集電部材33とが接触して、直列接続される。また、空気電池A6は、負極集電部材33の凸部33Aと隣接する空気電池A6の保持部4Aとの間で、液密通気部材23の被圧縮部23Aに厚さ方向の圧縮荷重を付与する。さらに、断面波形状を成す負極集電部材33において、隣接する空気電池A6側(図中で下側)に開放された凹部分が空気流路となる。
【0041】
上記の空気電池A6は、液密通気部材23の被圧縮部23Aにおいて液体及び気体の透過を阻止し、正極側における電解液の漏出を確実に防止して、薄型化と電解液の高いシール性能の両立を実現することができる。また、断面波形状の負極集電部材33の採用により、きわめて簡単な構成でありながら、隣接する空気電池A6との良好な電気的接続、上記被圧縮部23Aの圧縮とこれに伴うシール性能の確保、及び空気流路の形成を実現することができる。
【0042】
なお、上記実施形態の負極集電部材33は、コルゲート加工で断面波形状に形成したものとしたが、例えば、適宜形状の凸部を縦横に配列した複数の凸構造にすることも可能である。この場合、負極集電部材33は、隣接する空気電池A6側に凸部が向くように配置することで、その空気電池A6に対する空気流路を確保する。
【0043】
図9は、本発明の組電池のさらに他の実施形態として、電池要素である空気電池単独の状態を示している。図9に示す空気電池A7は、正極層2の液密通気部材23が、その表面側にガス流路を形成するガス流路形成部材24を備えており、このガス流路形成部材24が、液密通気部材23の被圧縮部23Aに圧縮荷重を付与する押圧部24Aを備えている。ガス流路形成部材24のうち少なくとも押圧部24Aは導電性を有する材料で形成されている。
【0044】
図10(A)にも示すガス流路形成部材24は、パンチングメタルのように平坦なものや、金属又は樹脂のメッシュ及びエキスパンドメタルのように立体的なものを用いることができる。この実施形態におけるガス流路形成部材24は、図12に示すように、矩形状の空気電池A7において、その短辺方向に図12(A)の矢印で示すようなガス(空気)を流通させるものである。なお、図12では、外枠部材4の長辺部のうちの長手方向の中央部の高さを端部に比べて一段低くしてあり、これによって図12(A)に矢印で示すような短辺方向を指向する空気流路を確保することができる。
【0045】
上記のガス流路形成部材24は、その外周部に枠状の押圧部24Aを備えている。押圧部24Aとしては、図10(B)に示すように、本体部分よりも肉厚に形成したものや、図10(C)に示すように、圧縮量をより増大させるための突起24Bを有するものなどを採用することができる。
【0046】
上記の空気電池A7は、図11に示す如く積層して組電池Cを構成した際に、隣接する空気電池A7との間にガス流路形成部材24を介装する。これにより、空気電池A7は、ガス流路部材24の押圧部24Aと外枠部材4の保持部4Aとの間で、液密通気部材23の被圧縮部23Aに厚さ方向の圧縮荷重を付与し、なお且つガス流路形成部材24により空気流路を確保する。
【0047】
上記の空気電池A7にあっても、先の各実施形態と同様に、液密通気部材23の被圧縮部23Aにおいて液体及び気体の透過を阻止し、正極側における電解液の漏出を確実に防止して、薄型化と電解液の高いシール性能の両立を実現することができる。また、押圧部24Aを有するガス流路形成部材24の採用により、簡単な構成でありながら、被圧縮部23Aの圧縮とこれに伴うシール性能の確保、及び空気流路の形成を実現する。さらに、ガス流路形成部材24は、外周部に枠状の押圧部24Aを備えたものとすることで、液密通気部材23の被圧縮部23Aを圧縮する機能のほかに、機械的強度が向上するという利点もある。
【0048】
図13はガス流路形成部材の他の例を示す図であって、図13(A)に示すガス流路形成部材25は、例えば、パンチングメタルやメッシュ等の素材を断面波形状若しくは複数の凸構造に形成したものであり、外周部分に枠状の押圧部25Aを有している。また、図13(B)に示すガス流路形成部材26は、例えば、パンチングメタルやメッシュ等の第1部材26Aに、点状若しくは線状など各種形状の第2部材26Bを配置したものである。これらのガス流路形成部材25,26を用いた場合でも、先の実施形態と同様に、シール性能の確保と空気流路の形成を実現することができる。
【0049】
図14に示す空気電池A8は、液密通気部材23が、導電性を有するとともに触媒を含む部材であって、本体部分の触媒量よりも周縁部分である被圧縮部23Aの触媒量を少なくしたものとなっている。
【0050】
また、図示例の空気電池A8は、液密通気部材23が、被圧縮部23Aを有する外側層231と、被圧縮部23Aに相当する周縁部分の無い内側層232を有する二層構造になっている。この場合には、厚さ方向において内側の触媒量よりも外側の触媒量を少なくすることができる。つまり、触媒を含む内側層232と、触媒が少ない若しくは含まない外側層231とすることができる。
【0051】
上記の空気電池A8にあっては、先の各実施形態と同様に、薄型化と電解液の高いシール性能の両立を実現するほかに、一つの液密通気部材23において触媒層の機能とシールの機能とを得ることができる。また、液密通気部材23を外側層231と内側層232を有する二層構造にした場合には、シール機能と触媒層の機能を外側と内側に分担させることができるので、両機能を有する液密通気部材23の製造が非常に容易になる。
【0052】
図15に示す空気電池A9は、図9に示すものと同等の基本構造を有していると共に、円盤状を成している。この構造では、比較的浅い円筒状の外枠部材4に加えて内筒61を備えていて、これらの外枠部材4と内筒61との間の空間が図9と同等の基本構造を有している。外枠部材4及び内筒61の上面には放射状の複数の溝部62,63を形成してあり、空気電池A9同士を積層した場合に、これらの溝部62,63が上下の空気電池A9間の空気通路として機能するようになっている。本発明の組電池を構成する空気電池は、矩形状や円盤状のほか、電源供給相手の構成などに応じて様々な形態にすることが可能である。
【0053】
(実施例)
図16(A)に示す試験装置を用いて、電解液の漏出試験を行った。図示の試験装置は、下向きに開放されたステンレス製の内側容器51と、これを収容するステンレス製の外側容器52と、内側容器51を外側容器52側に圧接させるための加圧プレート53を備えている。内側容器51には、加圧プレート53を貫通した電解液供給管54及び脱気管55が連通している。
【0054】
試験に際して、内側容器51と外側容器52の底部との間に液密通気部材23を介在させ、複数のボルト56で加圧プレート53を外側容器52に固定することにより、液密通気部材23に厚さ方向の圧縮荷重を付与した。また、加圧プレート53と外側容器52との間には、ワッシャ57を介装して隙間を形成した。
【0055】
このとき、各容器51,52において、液密通気部材23との接触面の表面粗さをRa<0.1μm、Ry<10μmとした。なお、Raは中心平均粗さ、Ryは最大高さである。また、液密通気部材23に対する圧縮荷重は、ボルト56の絞め付けトルクから算出、又は感圧紙などで確認した。
【0056】
そして、上記の内側容器51内に電解液を注入した後、上記試験装置を純水(500ml)の入った容器において水没させて、両容器51,52の間も純水で満たし、60℃で100時間放置した。その後、純水中に含まれる電解液成分の定量分析を行い、電解液成分の溶出量を確認した。
【0057】
その結果、図16(B)に示すように、圧縮荷重が0.1MPaである場合の電解液成分(Na)の濃度を1とすると、圧縮荷重を0.5MPaとした場合には、電解液成分の溶出量が著しく減少することが判明し、高いシール性能が得られることを確認した。
【0058】
本発明に係る空気電池は、その構成が上記の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の細部を適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0059】
A1〜A9 空気電池
C 組電池
1 電解質層
2 正極層
3 負極層
4 外枠部材
4A 保持部
6 凸部
23 液密通気部材
23A 被圧縮部
24〜26 ガス流路形成部材
24A 押圧部
25A 押圧部
33 負極集電部材
33A 凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16