(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011821
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】バルーンカテーテルのバルーン上に生理活性表面を形成する方法、バルーンカテーテルのバルーン、および、バルーンカテーテル
(51)【国際特許分類】
A61M 25/10 20130101AFI20161006BHJP
【FI】
A61M25/10 500
【請求項の数】17
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-172965(P2014-172965)
(22)【出願日】2014年8月27日
(62)【分割の表示】特願2011-519090(P2011-519090)の分割
【原出願日】2009年7月21日
(65)【公開番号】特開2014-237046(P2014-237046A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2014年9月25日
(31)【優先権主張番号】102008034826.0
(32)【優先日】2008年7月22日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510264523
【氏名又は名称】リューベン,アレクサンダー
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】リューベン,アレクサンダー
【審査官】
鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/061642(WO,A2)
【文献】
特表2003−521275(JP,A)
【文献】
米国特許第6369039(US,B1)
【文献】
特表2001−514936(JP,A)
【文献】
米国特許第6306166(US,B1)
【文献】
特表2007−529285(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0088255(US,A1)
【文献】
国際公開第2008/008126(WO,A2)
【文献】
米国特許第6287628(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/10
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルーンカテーテル(1)のバルーン(3)上に生理活性表面を形成する方法であって、
・バルーン(3)の表面を少なくとも部分的に、作用物質(8)の第1の溶液により湿らせ、
・前記バルーン(3)の表面において、作用物質(8)の第1の溶液により湿らされた部分を、作用物質の第2の飽和溶液(28)により湿らし、
前記第2の飽和溶液(28)の溶剤がエタノール及び水からなる溶剤であることを特徴とする方法。
【請求項2】
第2の飽和溶液は、エタノールまたはアセトンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の飽和溶液は、共沸溶剤を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
第1の溶液(8)として飽和溶液が使用される、請求項1から3までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
バルーン(3)の表面を作用物質(8)の第1の溶液により、バルーン(3)を該第1の溶液(8)内に浸漬すること(9)によって湿らせる、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
バルーン(3)は、10mm/sまでの速度により第1の溶液(8)から引き出され(10)る、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
バルーン(3)の表面は、作用物質の第1の溶液(8)による湿しの前にクリーニングされ、および/または構造化またはプロフィールが施される、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
バルーン(3)の表面は、作用物質の第1の溶液(8)による湿しの後であって、第2の飽和溶液(28)による湿しの前に、作用物質の別の溶液(18)により湿らされる、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
バルーン(3)の表面を作用物質の別の溶液(18)により、バルーン(3)を該別の溶液(18)に浸漬すること(19)によって湿らせる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
バルーン(3)の表面は、最大で20秒、作用物質の別の溶液(18)に浸漬される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
バルーン(3)の表面は、作用物質の別の溶液(18)により最大3分、作用物質の第1の溶液(8)による湿しの後に湿らされる、請求項8から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
バルーン(3)の表面は、作用物質の別の溶液(18)による湿しの後に、乾燥される、請求項8から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
使用される作用物質は、トレチノインおよび/またはトレチノイン誘導体および/またはオーファン受容体作動薬および/またはエラフィン誘導体および/または副腎皮質ホルモンおよび/またはステロイドホルモンおよび/またはパクリタキセルおよび/またはパクリタキセル誘導体および/またはラパムンおよび/またはタクロリムスおよび/または疎水性タンパク質および/または細胞プロフィール変更物質を含む、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
溶剤として、ジクロロメタン、クロロホルム、アルコール、アセトン、ジエチルエテル、液体炭化水素、トルオール、テトロヒドラフラン(THF)、またはエステル酸が使用される、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
溶剤は、エタノールおよび水を含む、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
第2の飽和溶液は、酢酸を含む、請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
バルーンカテーテル(1)のバルーン(3)上に生理活性表面を形成する方法であって、
・バルーン(3)の表面を少なくとも部分的に、作用物質(8)の第1の溶液により湿らせ、
・前記バルーン(3)の表面において、作用物質(8)の第1の溶液により湿らされた部分を、作用物質の第2の非飽和溶液により湿らし、
前記第2の非飽和溶液の溶剤がエタノール及び水からなる溶剤であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーンカテーテルのバルーン上に生理活性表面を形成する方法に関する。加えて本発明は、バルーンカテーテルのバルーン、およびバルーンカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる「最小侵襲法」は、医学でますます大きな意義を持つようになっている。ここでは放射線学の枠内で、最小侵襲技術の開発に重要であり、そのために必要な、適切な材料からなる機器および人工機能補完装具に寄与している干渉放射線学を挙げておく。現在のバルーンカテーテルは、心臓学によっても、放射線学によっても、血管を拡張するために使用される。この手術では、拡張領域内で、連続的に内径の狭くなる血管壁が、細胞分裂により厚くなることがある。
【0003】
バルーンカテーテルのバルーンの表面から薬剤を放出することにより、この問題に対抗することができる。典型的には、溶剤中に溶解された作用物質がバルーンカテーテルのバルーンの表面に取り付けられ、引き続き溶剤は蒸発する。そして作用物質は、表面に層として存在する。
【0004】
これに対して表面上での作用物質の付着性の改善を達成するための手段が、例えば特許文献1および特許文献2に記載されている。特許文献1には、薬剤により被覆されたバルーンカテーテルが記載されている。ここで第1の変形実施形態では、作用物質または薬剤が満たされたマイクロカプセルが、バルーン表面のひだにより包囲され、それぞれの位置で機械的に保持される。第2の変形実施形態では、マイクロカプセルが接着仲介物を用いてバルーン表面に接着される。
【0005】
特許文献2に記載されたバルーンカテーテルでは、その表面が層を有しており、この層に作用物質の充填されたマイクロカプセルが完全に埋め込まれている。とりわけ、作用物質のマイクロカプセルへの注入、および引き続くマイクロカプセルのバルーン表面での固定または埋め込みは比較的面倒であり、したがってコストの掛かる工程である。
【0006】
基本的にはバルーンカテーテルのバルーンの表面が、均質で再生可能な薬剤積載部を有しており、同時に、身体中の周辺組織へ均等に薬剤放出することを特徴とするのが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5102402号
【特許文献2】米国特許第619705号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の第1の課題は、バルーンカテーテルのバルーン上に生理活性表面を形成する有利な方法を提供することである。本発明の第2の課題は、バルーンカテーテルの有利なバルーンを提供することである。第3の課題は、有利なバルーンカテーテルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の課題は請求項1による方法によって、第2の課題は請求項17によるバルーンカテーテルのバルーンによって、そして第3の課題は請求項18によるバルーンカテーテルによって解決される。従属請求項は、本発明のさらなる有利な構成を含んでいる。これらの特徴は、単独でも、相互の組合せでも有利である。
【0010】
バルーンカテーテルのバルーン上に生理活性表面を形成ための本発明による方法では、バルーンの表面が少なくとも部分的に作用物質の第1の溶液により湿らされる。引き続き作用物質の第1の溶液により湿らされたバルーンの表面の部分が、作用物質の第2の飽和溶液により湿らされる。ここで作用物質の第1の溶液により湿らされたバルーンの表面は、緩慢に乾燥する。
【0011】
バルーンの表面を作用物質の第1の溶液により湿らせることにより、この表面上にはラッカー状の透明な作用物質層が形成され、この作用物質層が均質で再生可能な作用物質積載部に対するベースとして用いられる。ここでは多くの部分または大部分が、作用物質積載部全体に取り付けられる。湿しの間に、バルーン材料は、とりわけジクロロメタンを使用する場合には溶剤を吸収し、この溶剤は通常の条件下では数時間で再び放出される。
【0012】
作用物質の第2の飽和溶液により湿らせることにより、被覆部全体が脆化し、光学的に透明でなくなる。すなわち乳白化する。このようにして形成された表面はチョーク状で、とりわけ非結晶で、一貫性を有し、この一貫性は摩擦の際に、バルーンの表面を、作用物質の第1の溶液により湿らせることだけによって被覆した場合よりも比較的高い作用物質の崩壊を可能にする。本発明の方法によって、バルーンから身体の周辺組織への作用物質放出が、バルーンの表面を作用物質の第1の溶液の湿しだけにより被覆した場合よりも高まる。
【0013】
基本的に、バルーン表面全体でも、バルーン表面の一部だけでも、例えば拡張の際に組織と接触する表面の領域を、本発明の方法により被覆することができる。とりわけバルーンは、シリンダ状の領域と少なくとも1つの円錐状の領域とを含むことができる。この場合、例えばバルーンのシリンダ状の領域だけを作用物質により、本発明にしたがって被覆するか、またはバルーンのシリンダ状の領域と円錐状の領域の両方を被覆することができる。
【0014】
好ましくは第2の飽和溶液は、エタノールまたはアセトンを含むことができる。エタノールまたはアセトン中では、使用される作用物質の溶解度が、第1の溶液の枠内で使用される溶剤中よりも小さい。その結果、第2の飽和溶液による湿しの間に、作用物質の一部が第1の溶液による処理の枠内で形成された被覆部から溶出し、またはこの被覆部を第2の溶液が侵襲し、表面が多孔性になるか、または部分的に脆化される。
【0015】
さらに第2の飽和溶液は、共沸溶剤を含むことができる。
【0016】
第1の溶液としてとりわけ飽和溶液を使用することができ、好ましくはジクロロメタン中の作用物質、パクリタキセルの飽和溶液である。他の溶剤、例えばクロロホルムまたはエタノール、あるいは混合溶剤も同様に使用することができる。
【0017】
有利にはバルーンの表面を作用物質の第1の溶液により、バルーンを第1の溶液内に浸漬することによって湿らせることができる。バルーンは浸漬後、10mm/sまでの速度により第1の溶液から引き出すことができる。引き出しが5mm/s未満の速度、好ましくは0.5mm/sから2mm/sの間の速度により行われるとさらに有利である。ゆっくりと引き上げることにより、表面がゆっくりと乾燥し、これによりラッカー状の作用物質層が形成される。
【0018】
とりわけバルーンの表面は、作用物質の第1の溶液による湿しの前にクリーニングすることができ、および/または構造化またはプロフィールを施すことができる。バルーンの表面は例えば機械的、熱的、または化学的に構造化することができ、またはプロフィール付与することができる。とりわけ表面を、粗化により構造化またはプロフィール付与することができる。有利にはバルーンの表面の拡大により、表面には深さ5〜50μm、幅5〜50μmの凹部が形成される。
【0019】
さらにバルーンの表面は、作用物質の第1の溶液による湿しの後であって、第2の飽和溶液による湿しの前に、作用物質の好ましくは別の非飽和溶液により湿らせることができる。これにより作用物質の積載量が上昇する。被覆部全体は、作用物質の別の溶液により湿すことによって脆化するか、または部分的に脆化することができる。とりわけ被覆部全体は、光学的に透明度を低くすることができ、したがって乳白色にすることができる。全体として、作用物質の別の溶液による湿しは、摩擦の際に、第1の溶液による湿しによって発生したラッカー状の表面と比較して大きな作用物質放出に作用する。
【0020】
作用物質の第1の溶液による湿しの後での、作用物質の別の溶液による湿しが省略されると、結果として、バルーン表面での作用物質積載量が減少する。
【0021】
別の溶液は例えば、ジクロロメタン中のパクリタキセルの溶液とすることができる。有利には、この溶液の濃度は、第1の溶液の濃度よりも小さく、例えば100mg/mlである。他の溶剤、例えばクロロホルムまたはエタノール、あるいは混合溶剤も同様に使用することができる。
【0022】
さらにバルーンの表面を作用物質の別の溶液により、バルーンをこの別の溶液内に浸漬することによって湿らせることができる。バルーンの表面は、とりわけ最大で20秒、有利には0.5秒から10秒の間で、作用物質の別の溶液に浸漬することができ、ないしはこれにより湿らせることができる。湿しまたは浸漬の持続時間は、第1の溶液による湿し後の作用物質積載量に依存させることができる。第1の溶液による湿しの後での作用物質積載量が高ければ高いほど、バルーンの表面を作用物質の別の溶液に比較的長く浸漬すべきであり、ないしはこれにより比較的長く湿らせるべきである。好ましくは、バルーンの表面は作用物質の非飽和溶液により最大3分、第1の溶液による湿しの後に湿らされる。
【0023】
さらにバルーンの表面を作用物質の第2の飽和溶液により、バルーンをこの第2の飽和溶液内に浸漬することによって湿らせることができる。バルーンの表面は、とりわけ最大で20秒、有利には0.5秒から10秒の間で、作用物質の第2の溶液に浸漬することができ、ないしはこれにより湿らせることができる。湿しまたは浸漬の持続時間は、第1の溶液による湿し後の作用物質積載量、または別の溶液による湿しの後の作用物質積載量に依存させることができる。第1の溶液または別の溶液による湿しの後での作用物質積載量が高ければ高いほど、バルーンの表面を作用物質の第2の飽和溶液に比較的長く浸漬すべきであり、ないしはこれにより比較的長く湿らせるべきである。好ましくは、バルーンの表面は作用物質の第2の飽和溶液により最大3分、第1の溶液による湿しの後に湿らされる。または最大3分、別の溶液による湿しの後に湿らされる。
【0024】
とりわけバルーンの表面は、作用物質の別の溶液による湿しの後に、および/または作用物質の第2の飽和溶液による湿しの後に乾燥することができる。例えばバルーンは長手軸を含むことができ、乾燥中にこの長手軸を中心に回転することができる。できるだけ均等に乾燥させるために、バルーンの長手軸は、別の溶液による湿しの後に、および/または第2の飽和溶液による湿しの後に水平状態にもたらすことができる。次にバルーンは、空気流中でその長手軸を中心に回転させることができる。
【0025】
使用される作用物質はとりわけ、トレチノインおよび/またはトレチノイン誘導体および/またはオーファン受容体作動薬および/またはエラフィン誘導体および/または副腎皮質ホルモンおよび/またはステロイドホルモンおよび/またはパクリタキセルおよび/またはパクリタキセル誘導体および/またはラパムンおよび/またはタクロリムスおよび/または疎水性タンパク質および/または細胞プロフィール変更物質、またはそれらの混合物を含むことができる。ステロイドホルモンとしては、例えばメチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、またはエストラジオールを使用することができる。
【0026】
第1の溶液および/または第2の飽和溶液および/または非飽和溶液と関連して、溶剤として例えばジクロロメタン、クロロホルム、アルコール、とりわけエタノール、メタノールまたはイソプロパノール、アセトン、ジエチルエテル、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ジクロヘキサンまたはオクタンのような液体炭化水素、トルオール、テトロヒドラフラン(THF)、またはエステル酸を使用することができる。使用される溶剤は、とりわけエタノールまたは水を含むことができる。第2の飽和溶液はとりわけ酢酸を含むことができる。
【0027】
第2の飽和溶液の枠内で、例えばエタノールと水を含む混合液のような混合溶剤を使用することができる。例えば共沸混合溶剤は、それぞれ重量を基準にして96%までのエタノールと4%までの水から生成することができる。さらにこの混合溶剤には、容積を基準にして0.1%の酢酸を混合することができる。酢酸は、作用物質、例えばパクリタキセルの安定化に作用する。
【0028】
バルーンカテーテルの本発明のバルーンは、少なくとも部分的に作用物質を備えた被覆部を有する表面を含む。この被覆部は、全体が被覆された領域内で均質かつ脆性に構成されている。表面はとりわけチョーク状構造または非結晶構造を有することができる。とりわけバルーンの表面は、完全に被覆することも部分的にだけ被覆することもできる。とりわけバルーンは、シリンダ状の領域、および少なくとも1つの円錐状の領域を含むことができる。この場合、例えばバルーンのシリンダ状の領域だけを被覆するか、またはシリンダ状の領域と円錐状の領域を作用物質により本発明にしたがって被覆することができる。本発明のバルーンは、基本的に本発明の方法により作製される。このバルーンは、身体の周辺組織への均一で大きな薬剤放出を保証する。
【0029】
本発明のバルーンカテーテルは、前に述べた本発明のバルーンを含み、本発明のバルーンと同じ利点を有する。
【0030】
以下に本発明のさらなる特徴、特質および利点を、添付図面を参照した実施例に基づいて説明する。説明する特徴は、単独でも、相互の組合せでも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】バルーンカテーテルを概略的に示す図である。
【
図2】作用物質の第1の溶液に浸漬したバルーンカテーテルを概略的に示す図である。
【
図3】第1の溶液に浸漬した後のバルーンカテーテルのバルーンの一部の概略的断面図である。
【
図4】別の非飽和溶液に浸漬したバルーンカテーテルを概略的に示す図である。
【
図5】別の非飽和溶液または第2の飽和溶液に浸漬した後の乾燥プロセス中のバルーンカテーテルの回転を概略的に示す図である。
【
図6】別の非飽和溶液に浸漬した後のバルーンカテーテルのバルーンの表面の一部の概略的断面図である。
【
図7】第2の飽和溶液に浸漬したバルーンカテーテルを概略的に示す図である。
【
図8】第2の飽和溶液に浸漬した後のバルーンカテーテルのバルーンの表面の一部の概略的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明の実施例を、
図1から8に基づいて詳細に説明する。
図1は、バルーンカテーテル1を概略的に示す。バルーンカテーテル1は、カテーテルゾンデ2とバルーン3を含む。バルーン3は、カテーテルゾンデ2の一部を包囲している。バルーンカテーテル1の長手軸は、参照符合4により示されている。バルーン3は、2つの円錐状領域5と、2つの円錐状領域5の間に配置されたシリンダ状領域6を含む。
【0033】
本発明の方法の枠内で、バルーンカテーテル1のバルーン3はまず溶液、好ましくは例えばジクロロメタン中のパクリタキセルのような飽和溶液に浸漬される。これが概略的に
図2に示されている。
図2は概略的に、第1の溶液8の存在する容器7を示す。第1の溶液8は、例えばジクロロメタン中のパクリタキセルの飽和溶液である。基本的に他の溶剤、例えばクロロホルム、エタノールまたは混合溶剤も考えられる。バルーン3は、第1の溶液8に浸漬する前にまずクリーニング、または粗化してクリーニングすることができる。バルーン3は、第1の溶液8に好ましくは垂直に完全に浸漬される。この浸漬は、
図2に矢印9により示されている。その後、バルーン3は緩慢に、好ましくは約1mm/sの速度で第1の溶液8から垂直に再び引き出される。この引き出しは、
図2に矢印10により示されている。引き出し10の後、バルーン3は緩慢に乾燥される。
【0034】
バルーン3を第1の溶液8に浸漬し、緩慢に引き出し、乾燥させることにより、バルーン3の上に透明なラッカー状のパクリタキセル層が発生し、このパクリタキセル層が、作用物質パクリタキセルを備える、バルーン3の均質で再生可能な全体積載部に対するベースとして用いられる。バルーン3を第1の溶液8に浸漬し、緩慢に引き出し、乾燥することにより、作用物質の多くの部分または大部分がバルーン3に取り付けられる。バルーン材料は乾燥プロセス中に明白に溶剤を吸収し、この溶剤は通常の条件下では数時間で再び放出される。
【0035】
第1の溶液8に浸漬することにより発生した、バルーン3の表面の被覆部が
図3に概略的に示されている。
図3は、バルーン3の表面の一部の断面を示す。バルーン3の表面にはパクリタキセルからなる作用物質層11が存在し、この層はラッカー状の表面12を有する。パクリタキセル層11は全体的に透明である。
【0036】
バルーンカテーテル1の前に説明した被覆されたバルーン3は、本実施例で適用されるオプション工程で、ジクロロメタン中のパクリタキセルの別の非飽和溶液18に浸漬される。このオプション工程が
図4に概略的に示されている。
図4は、非飽和溶液18が存在する容器7を示す。非飽和溶液18は、第1の工程で使用される第1の溶液8よりも低い濃度を有する。非飽和溶液18は例えば、100mg/mlの濃度を備える、ジクロロメタン中のパクリタキセルの溶液とすることができる。その代りに、他の溶剤、例えばクロロホルム、エタノールまたは混合溶剤も使用できる。非飽和溶液18へのバルーン3の浸漬が、
図4に矢印19によって示されている。引き続きバルーン3を非飽和溶液18から引き出すことは、矢印20によって示されている。
【0037】
好ましくはバルーン3は、第1の溶液8からの引き出し後、3分以内に短時間、例えば約1秒間、非飽和溶液18に浸漬される。その代りに、バルーン3を非飽和溶液18により単に湿らせることもできる。これはとりわけスプレーにより行うことができる。
【0038】
湿しまたは非飽和溶液18への浸漬の後、バルーン3をできるだけ均等に乾燥させるために、バルーンカテーテル1またはバルーン3は、その長手軸4を基準にして水平位置に直接もたらされ、空気流中をその長手軸4を中心に回転される。これが
図5に概略的に示されている。その長手軸4を中心にするバルーンカテーテル1の回転が、矢印13によって示されている。
【0039】
バルーン3を非飽和溶液18に浸漬することにより、またはバルーン3を非飽和溶液18により湿らせることにより、バルーン表面上の作用物質積載量、本実施例ではパクリタキセル積載量が増大する。とりわけ被覆部全体が脆くなるか、または部分的に脆化される。とりわけ被覆部全体は、光学的に透明度が低くなり、したがって乳白色になる。全体として非飽和溶液18による前記処理により、作用物質の崩壊が高まる。すなわち摩擦の結果、比較的多くのパクリタキセルがバルーン表面から崩れる。
【0040】
図6は、非飽和溶液18により処理した後のバルーン表面3の一部の断面を概略的に示す。バルーン3の表面上に存在する作用物質層11は、本実施例ではパクリタキセル層であり、脆いチョーク状の表面14を有する。
【0041】
本実施例で行われた、非飽和溶液18によるオプション処理に続いて、バルーン3は、例えばエタノールと水に0.1%の酢酸が混合された共沸混合液中の例えばパクリタキセルの飽和溶液に浸漬される。これが
図7に概略的に示されている。
【0042】
図7は容器27を示し、この容器27内には、エタノールと水からなる混合液28中のパクリタキセルの第2の飽和溶液が存在している。これは例えば、重量を基準にして96%のエタノールと4%の水の共沸混合液とすることができる。さらにこの共沸混合液には、容積を基準にして0.1%の酢酸を混合することができる。酢酸は、作用物質、本実施例ではパクリタキセルの安定化に作用する。パクリタキセルの溶解性は、共沸混合液中では、飽和溶液8中、および先行の工程の枠内で使用される溶剤の非飽和溶液18中よりも小さい。
【0043】
好ましくは、まず飽和溶液8により、そして非飽和溶液18により、前に説明したように処理されたバルーン3を、非飽和溶液18からの引き上げ後、3分以内で短時間、共沸混合液28中の第2の非飽和溶液に浸漬するか、またはこれにより湿らせる。共沸混合液28中の第2の飽和溶液へのバルーン3の浸漬が、
図7に矢印29によって示されている。共沸混合液28中の第2の飽和溶液からのバルーン3の引き出しは、
図7に矢印30によって示されている。
【0044】
バルーン3は好ましくは約1秒間、共沸混合液28中の第2の飽和溶液に浸漬される。浸漬の持続時間は、第1の溶液8による処理後に達成される層厚に依存し、20秒までとすることができる。バルーン3を、共沸混合液28中の第2の飽和溶液から引き出した30後、均等に乾燥させるためバルーン3は直接水平にもたらされ、空気流中でその長手軸4を中心に、
図5に関連してすでに説明したように回転される。
【0045】
バルーン3を、共沸混合液28中のパクリタキセルの第2の飽和溶液により前記のように処理することで、層11全体が脆化し、光学的に透明でなくなる。すなわち乳白化する。これが
図8に概略的に示されている。
図8は、共沸混合液28中の第2の飽和溶液による処理に続く、バルーン3の表面の一部の断面を概略的に示す。バルーン3の表面にはパクリタキセルからなる作用物質層が存在し、この層は脆い、チョーク状の表面15を有する。
図6に示したパクリタキセル層11の表面14と比較して、共沸混合液28中の第2の飽和溶液により処理した結果で発生した表面15はより強く脆化されており、摩擦の際に比較的多くのパクリタキセルが崩れる。
【0046】
基本的に
図4から6に関連して説明した別の非飽和溶液18による処理、すなわちバルーン3を溶液18に浸沈すること、またはバルーン3の表面を非飽和溶液18により湿らせることは省略することができる。この場合バルーン3は、第1の溶液8から完全に引き出した後、最大で3分以内に、共沸混合液28中の第2の飽和溶液に浸漬されるか、またはこれにより湿らされる。非飽和溶液18による処理が省略される場合、バルーン3の表面上の作用物質積載量は全体的に減少する。同様にこの場合、作用物質層11に形成された表面の脆性は増大する。
【0047】
基本的にバルーン3の表面は、完全に被覆することも部分的にだけ被覆することもできる。とりわけバルーン3のシリンダ状領域6だけを本発明により作用物質によって被覆することができる。なぜならバルーン3のシリンダ状領域6が、治療すべき身体にある周辺組織と主に接触するからである。