特許第6011844号(P6011844)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011844
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】交流電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20161006BHJP
【FI】
   H02P27/06
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-116307(P2012-116307)
(22)【出願日】2012年5月22日
(65)【公開番号】特開2013-243876(P2013-243876A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】田島 宏一
【審査官】 上野 力
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−201099(JP,A)
【文献】 特開昭58−136288(JP,A)
【文献】 特開2005−124336(JP,A)
【文献】 特開2012−065463(JP,A)
【文献】 特開平07−177784(JP,A)
【文献】 特開2002−136196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電動機のトルク指令値及び一次周波数指令値に基づいて電圧指令値を演算し、前記電圧指令値を用いてインバータをパルス幅変調制御することにより交流電動機のトルクを制御する制御装置であって、
前記トルク指令値を制限するためのトルクリミッタ設定値の上限値を、トルクリミッタ上限値により制限するトルクリミッタと、
前記トルクリミッタ上限値に乗算される低減係数を演算する低減係数演算手段と、を備えた制御装置において、
前記低減係数演算手段は、
前記インバータの直流電圧<第1直流電圧設定値のときに1.0、
第1直流電圧設定値≦前記直流電圧≦第2直流電圧設定値のときに1.0〜0.0、
前記直流電圧>第2直流電圧設定値のときに0.0、
となるパターンを出力する直流電圧パターン演算手段と、
前記電圧指令値の振幅<第1電圧振幅設定値のときに0.0、
第1電圧振幅設定値≦前記電圧指令値の振幅≦第2電圧振幅設定値のときに0.0〜1.0、
前記電圧指令値の振幅>第2電圧振幅設定値のときに1.0、
となるパターンを出力する電圧振幅パターン演算手段と、
前記直流電圧パターン演算手段の出力と前記電圧振幅パターン演算手段の出力とを乗算する乗算手段と、
この乗算手段の出力に所定の低減率設定値を乗算した結果を1.0から減算して前記低減係数を演算する手段と、
を備えたことを特徴とする交流電動機の制御装置。
【請求項2】
交流電動機のトルク指令値及び一次周波数指令値に基づいて電圧指令値を演算し、前記電圧指令値を用いてインバータをパルス幅変調制御することにより交流電動機のトルクを制御する制御装置であって、
前記トルク指令値を制限するためのトルクリミッタ設定値の上限値を、トルクリミッタ上限値により制限するトルクリミッタと、
前記トルクリミッタ上限値に乗算される低減係数を演算する低減係数演算手段と、を備えた制御装置において、
前記低減係数演算手段は、
前記インバータの直流電圧<第1直流電圧設定値のときに1.0、
第1直流電圧設定値≦前記直流電圧≦第2直流電圧設定値のときに1.0〜0.0、
前記直流電圧>第2直流電圧設定値のときに0.0、
となるパターンを出力する直流電圧パターン演算手段と、
前記交流電動機の一次周波数の絶対値<第1周波数設定値のときに0.0、
第1周波数設定値≦前記一次周波数の絶対値≦第2周波数設定値のときに0.0〜1.0、
前記一次周波数の絶対値>第2周波数設定値のときに1.0、
となるパターンを出力する一次周波数パターン演算手段と、
前記直流電圧パターン演算手段の出力と前記一次周波数パターン演算手段の出力とを乗算する乗算手段と、
この乗算手段の出力に所定の低減率設定値を乗算した結果を1.0から減算して前記低減係数を演算する手段と、
を備えたことを特徴とする交流電動機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した交流電動機の制御装置において、
前記トルクリミッタに入力されるトルク指令値は、外部から入力された速度指令値と速度検出値との偏差を速度調節手段に入力して得た信号と、外部から入力されたトルク指令値と、の何れか一方であることを特徴とする交流電動機の制御装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載した交流電動機の制御装置において、
前記トルクリミッタに入力されるトルク指令値は、外部から入力された速度指令値と速度推定値との偏差を速度調節手段に入力して得た信号と、外部から入力されたトルク指令値と、の何れか一方であることを特徴とする交流電動機の制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載した交流電動機の制御装置において、
前記交流電動機が永久磁石同期電動機であり、
前記トルクリミッタから出力されたトルク指令値、及び、永久磁石同期電動機の速度検出値または速度推定値を用いて、電流指令値を演算する手段と、
前記電流指令値から前記電圧指令値を演算する手段と、
を備えたことを特徴とする交流電動機の制御装置。
【請求項6】
請求項1〜の何れか1項に記載した交流電動機の制御装置において、
前記交流電動機が誘導電動機であり、
前記トルクリミッタから出力されたトルク指令値、及び、誘導電動機の速度検出値または速度推定値から演算した磁束指令値を用いて、電流指令値を演算する手段と、
前記電流指令値から前記電圧指令値を演算する手段と、
を備えたことを特徴とする交流電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータにより駆動される交流電動機のトルクを制御するための制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、誘導電動機(Induction Motor,以下、IMともいう)または同期電動機(Synchronous Motor,以下、SMともいう)のトルク制御方式としてベクトル制御方式が記載されている。
また、特許文献1には、同期電動機の一種である永久磁石同期電動機(Permanent Magnet Synchronous Motor,以下、PMSMともいう)のリラクタンストルクを利用する制御装置が記載されている。
【0003】
ここで、図8は、PMSMを駆動対象とする従来技術のブロック図であり、その基本的な構成は、後述するトルクリミッタを除いて特許文献1に記載された制御装置と同一である。
図8において、10は直流電源、20はPWM(Pulse Width Modulation)制御されるPWMインバータ、30は駆動対象としてのPMSMである。また、41は直流電源電圧を検出する直流電圧検出手段、42はインバータ20の出力電流を検出する電流検出手段、43はPMSM30の軸に取り付けられた位置・速度検出器である。なお、直流電源10は、系統電源に接続されたダイオード整流器やPWMコンバータ、またはバッテリー等によって構成されている。
【0004】
位置・速度検出器43の出力信号は位相角検出手段61及び速度検出手段62に入力され、位相角検出値θ、速度検出値ωがそれぞれ求められる。
速度指令値ωと速度検出値ωとの偏差が減算手段51により演算され、この偏差は速度調節手段52に入力されている。速度調節手段52は、比例積分演算等の調節演算を行い、その結果を出力する。
【0005】
切替手段53は、速度制御を行うときは速度調節手段52の出力信号を選択し、トルク制御を行うときは外部からの第1トルク指令値τを選択するように動作し、選択した信号を第2トルク指令値τ**として出力する。
トルクリミッタ55は、第2トルク指令値τ**をトルクリミッタ設定値に応じて制限する処理を行い、その結果を第3トルク指令値τ***として出力する。
【0006】
電流指令値演算手段(PMSM)56Sは、第3トルク指令値τ***及び速度検出値ωを入力としてPMSM30の特性に基づく演算を行い、d−q回転座標上のd軸電流指令値i1d、q軸電流指令値i1qを出力する。
電流座標変換手段63は、電流検出手段42から出力される三相交流電流検出値i,i,iを入力とし、位相角検出手段61からの位相角検出値θを用いて座標変換を行い、d軸電流検出値i1d、q軸電流検出値i1qを出力する。
【0007】
電流調節手段57は、d軸電流指令値i1d、q軸電流指令値i1q、d軸電流検出値i1d、q軸電流検出値i1q、及び一次周波数指令値ω(=速度検出値ω)を入力として、各電流検出値i1d,i1qが各電流指令値i1d,i1qにそれぞれ一致するように調節演算を行い、d軸電圧指令値v1d及びq軸電圧指令値v1qを出力する。
これらのd軸電圧指令値v1d及びq軸電圧指令値v1qは電圧座標変換手段59に入力され、位相角検出値θを用いて三相交流電圧指令値v,v,vに変換される。
【0008】
三相交流電圧指令値v,v,vは、直流電圧検出値edcと共にPWM演算手段60に入力され、インバータ20の半導体スイッチング素子を駆動するためのゲート信号が生成される。
インバータ20は、上記ゲート信号に従ってパルス幅変調制御を行い、三相交流電圧指令値v,v,vに従った三相交流電圧を発生してPMSM30を駆動する。
【0009】
次に、図9はIM40を駆動対象とする従来技術のブロック図である。この従来技術が図8と相違するのは、IM40を制御するための磁束指令値演算手段64、すべり周波数演算手段65等が追加されており、速度検出器44及び速度検出手段62を介して得た速度検出値ωにすべり周波数指令値ωslを加算して一次周波数指令値ωを生成する点、一次周波数指令値ωを積分して求めた位相角指令値θを各座標変換手段59,63に入力する点、磁束指令値演算手段64により演算した磁束指令値φ2dと第3トルク指令値τ***とを用いて電流指令値演算(IM)56Iが各電流指令値i1d,i1qを演算する点、等である。
なお、66は加算手段、67は積分手段を示している。
【0010】
図10は、図8図9におけるトルクリミッタ55の構成を示すブロック図である。
図10に示すように、トルクリミッタ55では、トルクリミッタ設定値(プラス側)55aとトルクリミッタ設定値(マイナス側)55bとによって第2トルク指令値τ**を制限する処理(リミッタ処理)を行い、第3トルク指令値τ***を出力する。
トルクリミッタ設定値(プラス側)55aにはトルクリミッタ上限値(プラス側)55cが設けられると共に、トルクリミッタ設定値(マイナス側)55bにはトルクリミッタ上限値(マイナス側)55dが設けられており、これらのトルクリミッタ上限値(プラス側)55c及びトルクリミッタ上限値(マイナス側)55dは予め設定された固定値となっている。そして、トルクリミッタ設定値55a,55bがそれぞれトルクリミッタ上限値55c,55dを上回る場合には、その上限値55c,55dによりトルクリミッタ設定値55a,55bを制限するように動作している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−243699号公報(段落[0032]、図1等)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】中野 孝良,「交流モータのベクトル制御」,第4章〜第6章等,1996年,日刊工業新聞社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
インバータ20が出力可能な電圧の大きさは、直流入力電圧に比例する。このため、直流電源10の電圧が低下すると、インバータ20の出力電圧の上限値も低下することになる。
PMSM30やIM40等の交流電動機が出力可能な最大トルクはインバータ20の出力電圧の上限値によって決まるため、直流電源電圧が低下すると、交流電動機の出力可能な最大トルクも低下する。このため、交流電動機が出力可能な最大トルクを上回るトルク指令値が与えられた場合、交流電動機は指令値通りのトルクを発生することができず、脱調や停動が発生して交流電動機を正常に運転できなくなるという問題があった。
【0014】
そこで、本発明の目的は、直流電源電圧の低下に応じてトルク指令値を制限することにより交流電動機の脱調や停動の発生を防止するようにした交流電動機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は、PMSMやIM等の交流電動機のトルク指令値及び一次周波数指令値に基づいて電圧指令値を演算し、この電圧指令値を用いてインバータをパルス幅変調制御することにより交流電動機のトルクを制御する制御装置を対象としている。
そして、本発明の制御装置は、トルク指令値を制限するためのトルクリミッタ設定値の上限値を、トルクリミッタ上限値により制限するトルクリミッタと、トルクリミッタ上限値に乗算される低減係数を演算する低減係数演算手段と、を備えている。
【0016】
ここで、低減係数演算手段は、インバータの直流電圧が所定値以下であって電圧指令値の振幅が所定値以上であるとき、または、インバータの直流電圧が所定値以下であって一次周波数指令値の絶対値が所定値以上であるときに、0.0〜1.0の範囲の低減係数を演算する機能を有する。
具体的に説明すると、低減係数演算手段は、インバータの直流電圧と第1,第2直流電圧設定値との大小関係に応じて0.0〜1.0となるパターンを出力する直流電圧パターン演算手段と、電圧指令値の振幅と第1,第2電圧振幅設定値との大小関係に応じて0.0〜1.0となるパターンを出力する電圧振幅パターン演算手段と、これらの両パターン演算手段の出力の乗算結果に所定の低減率設定値を乗算した結果を1.0から減算して0.0〜1.0の範囲の低減係数を求める手段と、から構成される。
他の例として、低減係数演算手段は、上記直流電圧パターン演算手段と、一次周波数の絶対値と第1,第2周波数設定値との大小関係に応じて0.0〜1.0となるパターンを出力する一次周波数パターン演算手段と、これらの両パターン演算手段の出力の乗算結果に所定の低減率設定値を乗算した結果を1.0から減算して0.0〜1.0の範囲の低減係数を求める手段と、から構成される。
【0017】
また、トルクリミッタに入力されるトルク指令値は、外部から入力された速度指令値と速度検出値または速度推定値との偏差を速度調節手段に入力して得た信号と、外部から入力されたトルク指令値と、の何れか一方が選択される。
【0018】
交流電動機がPMSMである場合には、トルクリミッタにより制限されたトルク指令値、及び、PMSMの速度検出値または速度推定値を用いて電流指令値を演算し、この電流指令値に基づいて電圧指令値を演算する。
また、交流電動機がIMである場合には、トルクリミッタにより制限されたトルク指令値、及び、IMの速度検出値または速度推定値から演算した磁束指令値を用いて電流指令値を演算し、この電流指令値に基づいて電圧指令値を演算する。
これらの電圧指令値に従ってインバータをPWM制御することにより、直流電源電圧の低下時に交流電動機の出力トルクが適切に制限されることになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、インバータの直流電源電圧が低下したときに、トルクリミッタ制限値を交流電動機が出力可能な最大トルク以下に設定することにより、交流電動機の脱調や停動を防いで正常な運転を継続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態を示すブロック図である。
図2】本発明の第2実施形態を示すブロック図である。
図3】第1実施形態及び第2実施形態におけるリミッタ値低減係数演算手段の構成を示すブロック図である。
図4】第1実施形態〜第4実施形態におけるトルクリミッタの構成を示すブロック図である。
図5】本発明の第3実施形態を示すブロック図である。
図6】本発明の第4実施形態を示すブロック図である。
図7】第3実施形態及び第4実施形態におけるリミッタ値低減係数演算手段の構成を示すブロック図である。
図8】PMSMを駆動対象とした従来技術を示すブロック図である。
図9】IMを駆動対象とした従来技術を示すブロック図である。
図10図8図9におけるトルクリミッタの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。まず、図1は本発明の第1実施形態を示すブロック図であり、PMSM30を駆動するための制御装置に関するものである。
図1において、図8と同一の機能を有するブロックには図8と同一の符号を付して説明を省略し、以下では図8と異なる部分を中心に説明する。
【0022】
図1において、54Aはリミッタ値低減係数演算手段、58は電圧振幅演算手段である。電圧振幅演算手段58は、電流調節手段57から出力されるd軸電圧指令値v1d及びq軸電圧指令値v1qを用いて、数式1により電圧振幅指令値vを演算する。
【数1】
【0023】
リミッタ値低減係数演算手段54Aは、直流電圧検出値edc及び電圧振幅指令値vを入力として低減係数を演算し、この低減係数をトルクリミッタ55Aに入力する。
なお、リミッタ値低減係数演算手段54Aの構成及び機能については後述する。
【0024】
次に、図2は本発明の第2実施形態を示すブロック図であり、IM40を駆動するための制御装置に関するものである。
図2において、図9と同一の機能を有するブロックには図9と同一の符号を付して説明を省略し、以下では図9と異なる部分を中心に説明する。
【0025】
この第2実施形態も、第1実施形態と同様にリミッタ値低減係数演算手段54A、電圧振幅演算手段58を備えている。そして、電圧振幅演算手段58は前述の数式1により電圧振幅指令値vを演算し、リミッタ値低減係数演算手段54Aは、直流電圧検出値edc及び電圧振幅指令値vを入力として低減係数を演算し、この低減係数をトルクリミッタ55Aに入力する。
【0026】
図3は、第1実施形態及び第2実施形態におけるリミッタ値低減係数演算手段54Aの構成を示すブロック図である。
パターン演算手段(直流電圧)541は、直流電圧検出値edcと第1直流電圧設定値edc(1),第2直流電圧設定値edc(2)(ここで、edc(1)<edc(2))との大小関係に応じて、下記のパターン演算を行う。
・edc<edc(1)のとき……パターンの出力は1.0
・edc(1)≦edc≦edc(2)のとき……パターンの出力は1.0〜0.0
・edc>edc(2)のとき……パターンの出力は0.0
なお、パターン演算手段(直流電圧)541は、請求項における直流電圧パターン演算手段に相当する。
【0027】
また、パターン演算手段(電圧振幅)542は、電圧振幅指令値vと第1電圧振幅設定値v(1),第2電圧振幅設定値v(2)(ここで、v(1)<v(2))との大小関係に応じて、下記のパターン演算を行う。
・v<v(1)のとき……パターンの出力は0.0
・v(1)≦v≦v(2)のとき……パターンの出力は0.0〜1.0
・v>v(2)のとき……パターンの出力は1.0
なお、パターン演算手段(電圧振幅)542は、請求項における電圧振幅パターン演算手段に相当する。
【0028】
そして、パターン演算手段(直流電圧)541の出力とパターン演算手段(電圧振幅)542の出力とを乗算手段543にて乗算し、その結果に、予め設定された低減率設定値(0.0〜1.0)を乗算手段544にて乗算する。更に、減算手段545において、「1.0」から乗算手段544の出力を減算することで低減係数(0.0〜1.0)を演算する。
上記の構成により、低減係数は、直流電圧検出値edcが小さく、かつ電圧振幅指令値vが大きくて、電動機の出力トルクに限界が生じる条件のもとで「0.0以上1.0未満」となるように演算されることになる。
【0029】
次いで、図4は、リミッタ値低減係数演算手段54A(または後述するリミッタ値低減係数演算手段54B)により演算した低減係数が入力されるトルクリミッタ55Aの構成を示すブロック図である。このトルクリミッタ55Aの構成は本発明の第1〜第4実施形態に共通しており、図10と同一の機能を有するブロックには図10と同一の符号を付してある。
【0030】
図4のトルクリミッタ55Aにおいて、低減係数はトルクリミッタ上限値(プラス側)及びトルクリミッタ上限値(マイナス側)に作用してこれらの上限値を低減する。
すなわち、低減係数は、乗算手段551によりトルクリミッタ上限値(プラス側)55cに乗算されると共に、乗算手段552によりトルクリミッタ上限値(マイナス側)55dに乗算される。そして、乗算手段551の出力によりトルクリミッタ設定値(プラス側)55aが制限され、乗算手段552の出力によりトルクリミッタ設定値(マイナス側)55bが制限されるようになっている。ここで、トルクリミッタ上限値(プラス側)55c及びトルクリミッタ上限値(マイナス側)55dは、交流電動機(PMSMまたはIM)が出力可能な最大トルクに相当する値である。
【0031】
上記の構成により、トルクリミッタ55Aは、低減係数が1.0より小さいときはトルクリミッタ上限値を低減させてトルクリミッタ設定値をプラス側及びマイナス側から制限し、第2トルク指令値τ**を電動機の出力トルクの限界値以下に制限して第3トルク指令値τ***として出力するように動作する。
従って、直流電源電圧が低下した場合には交流電動機に対するトルク指令値が低減されることになり、交流電動機は指令値通りのトルクを発生可能であるため、脱調や停動が発生するおそれはないものである。
【0032】
次に、図5は本発明の第3実施形態を示すブロック図であり、PMSM30を駆動するための制御装置に関するものである。図5において、図1と同一の機能を有するブロックには図1と同一の符号を付して説明を省略し、以下では図1と異なる部分を中心に説明する。
図5に示す第3実施形態では、直流電圧検出値edc及び一次周波数指令値ωを入力として低減係数を演算するリミッタ値低減係数演算手段54Bが設けられており、この演算手段54Bにより演算した低減係数がトルクリミッタ55Aに入力されている。
なお、リミッタ値低減係数演算手段54Bの構成及び機能については後述する。
【0033】
図6は、本発明の第4実施形態を示すブロック図であり、IM40を駆動するための制御装置に関するものである。図6において、図2と同一の機能を有するブロックには図2と同一の符号を付して説明を省略し、以下では図2と異なる部分を中心に説明する。
この第4実施形態においても、直流電圧検出値edc及び一次周波数指令値ωを入力として低減係数を演算するリミッタ値低減係数演算手段54Bが設けられ、この演算手段54Bにより演算した低減係数がトルクリミッタ55Aに入力されている。
なお、図2に示した電圧振幅演算手段58は除去されている。
【0034】
図7は、第3実施形態及び第4実施形態におけるリミッタ値低減係数演算手段54Bの構成を示すブロック図である。
このリミッタ値低減係数演算手段54Bと図3におけるリミッタ値低減係数演算手段54Aとの相違点は、図3のパターン演算手段(電圧振幅)542の代わりに絶対値演算手段546及びパターン演算手段(一次周波数)547を備えている点である。すなわち、図7において、一次周波数指令値ωの絶対値|ω|を絶対値演算手段546により演算し、絶対値|ω|と第1周波数設定値ω (1),第2周波数設定値ω (2)(ここで、ω(1)<ω(2))との大小関係に応じて、下記のパターン演算を行う。
・|ω|<ω (1)のとき……パターンの出力は0.0
・ω (1)≦|ω|≦ω(2)のとき……パターンの出力は0.0〜1.0
・|ω|>ω(2)のとき……パターンの出力は1.0
なお、パターン演算手段(一次周波数)547は、請求項における一次周波数パターン演算手段に相当する。
【0035】
図7における乗算手段543では、パターン演算手段(一次周波数)547の出力とパターン演算手段(直流電圧)541の出力とが乗算され、以降の動作は図3と同様である。
図7のリミッタ値低減係数演算手段54Bによれば、低減係数は、直流電圧検出値edcが小さく、かつ一次周波数指令値ωが大きくて、電動機の出力トルクに限界が生じる条件のもとで「0.0以上1.0未満」となるように演算される。
【0036】
一般に交流電動機の誘起電圧は一次周波数に比例し、一次周波数が高いときは電圧振幅も大きくなる傾向があるため、このリミッタ値低減係数演算手段54Bにより、図3のリミッタ値低減係数演算手段54Aと同様の動作を実現することができる。
これにより、トルクリミッタ55Aは、リミッタ値低減係数演算手段54Bから出力される低減係数が1.0より小さいときはトルクリミッタ上限値を低減させてトルクリミッタ設定値をプラス側及びマイナス側から制限し、第2トルク指令値τ**を交流電動機の出力トルクの限界値以下に制限して第3トルク指令値τ***として出力する。
従って、直流電源電圧が低下した場合には交流電動機に対するトルク指令値が低減されて交流電動機は指令値通りのトルクを発生可能であるため、脱調や停動が発生するおそれはない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
上述した各実施形態では、位置・速度検出器43により得た回転子の位置・速度検出値、または、速度検出器44により得た回転子の速度検出値を用いて交流電動機を駆動するベクトル制御方式について説明した。しかし、本発明の制御装置は、回転子の位置や速度を検出せずに、電動機に印加される電圧と電動機を流れる電流とを用いて、演算により位置・速度を推定するベクトル制御、いわゆる速度センサレスベクトル制御方式の制御装置としても利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
10:直流電源
20:PWMインバータ
30:PMSM
40:IM
41:直流電圧検出手段
42:電流検出手段
43:位置・速度検出器
44:速度検出器
51:減算手段
52:速度調節手段
53:切替手段
54A,54B:リミッタ値低減係数演算手段
541,542,547:パターン演算手段
543,544:乗算手段
545:減算手段
546:絶対値演算手段
55A:トルクリミッタ
55a,55b:トルクリミッタ設定値
55c,55d:トルクリミッタ上限値
551,552:乗算手段
56S:電流指令値演算手段(PMSM)
56I:電流指令値演算手段(IM)
57:電流調節手段
58:電圧振幅演算手段
59:電圧座標変換手段
60:PWM演算手段
61:位相角検出手段
62:速度検出手段
63:電流座標変換手段
64:磁束指令値演算手段
65:すべり周波数演算手段
66:加算手段
67:積分手段
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