(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
盛土により円錐台形状に造成されて消波堤として機能する大規模な第一のマウンドを、津波の襲来が想定される地域の海岸線に沿って間隔をおいて千鳥配置して多数設置してなり、前記第一のマウンドの法面勾配は擁壁を必要としない範囲に設定されているとともに、
盛土により円錐台形状に造成されて災害発生時に避難場所として利用可能な大規模な第二のマウンドを、津波等の災害による被害が想定される地域に対して間隔をおいて格子状に分散配置して多数設置してなり、
前記第二のマウンドが前記第一のマウンドよりも大規模に形成されていることを特徴とする地域防災システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、単に防波堤や防潮堤の高さを高く設定しておくことのみでは、想定を超える規模の津波の際には容易に越流が生じてしまい、また防波堤や防潮堤が容易に破壊されてしまって、殆ど無力であることが先の東日本大震災により露呈した。
また、特許文献1に示されるような浮消波堤も、大規模な津波に対しては消波効果は殆ど期待できるものではない。
【0005】
いずれにしても、現時点では想定規模を超える津波による被害を防止し軽減し得る有効適切な防災システムは確立されていないのが実状であり、遠からず発生することが確実視されている大地震に備えて十分な防災対策を講じることが急務とされている。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は都市計画的な手法によって津波被害を軽減可能であり、また津波のみならず他の災害発生時においても地域住人が安全に避難するための避難場所を確保するための有効適切な地域防災システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項
1記載の発明の地域防災システムは、盛土により円錐台形状に造成されて消波堤として機能する大規模な第一のマウンドを、津波の襲来が想定される地域の海岸線に沿って間隔をおいて千鳥配置して多数設置してなり、前記第一のマウンドの法面勾配は擁壁を必要としない範囲に設定されているとともに、盛土により円錐台形状に造成されて災害発生時に避難場所として利用可能な大規模な第二のマウンドを、津波等の災害による被害が想定される地域に対して間隔をおいて格子状に分散配置して多数設置してなり、前記第二のマウンドが前記第一のマウンドよりも大規模に形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項
2記載の発明は、請求項
1記載の地域防災システムであって、前記マウンドの内部に、災害時及び/又は通常時に利用可能な諸施設を設置するための地下空洞部を設けてなることを特徴とする。
【0011】
請求項
3記載の発明は、請求項
2記載の地域防災システムであって、前記マウンドの底部から前記地下空洞部に通じる通路を設けてなることを特徴とする。
【0012】
請求項
4記載の発明は、請求項1,
2または3記載の地域防災システムであって、前記マウンドの頂部に、災害時及び/又は通常時に利用可能な塔状構造物を設けてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の地域防災システムによれば、対象地域の海岸部に消波用のマウンドを間隔をおいて配列しておくことにより、津波の際にはそれらのマウンドによって十分な消波効果が得られることはもとより、それらのマウンドは単なる防波堤や防潮堤のように容易に破壊されたり倒壊してしまうことなく粘り強く消波機能を発揮し得ることから、想定規模を超える津波に対する被害を十分に軽減可能である。しかも、各マウンド間には平坦な道路や通路を支障なく確保し得るので、通常の防潮堤に代えて設置すれば海岸部と地域内部とが分断されてしまう不便もない。
【0014】
また、本発明の地域防災システムによれば、地域内の各所に避難場所として利用可能な人工の高台としてのマウンドを多数分散配置しておくことにより、津波はもとより洪水その他の災害に対する人的被害を軽減できるし、各マウンドを被災後の避難生活の場として有効に活用可能である。
【0015】
なお、マウンドの内部に災害時及び/又は通常時に利用可能な諸施設、たとえば備蓄倉庫、集会場、避難広場、駐車場、エネルギープラント等を設置するための地下空洞部を設けておき、その場合にはマウンドの底部から地下空洞部に通じる通路を設けておくと、マウンドをさらに有効に活用可能である。
あるいは、マウンドの頂部に災害時及び/又は通常時に各種用途に利用可能な塔状構造物、たとえば津波避難ビル、オフィス、集合住宅、ホテル等の多層ないし高層建物を設けておくと、さらに有効に活用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の地域防災システムの一実施形態を
図1〜
図4を参照して説明する。
本実施形態の地域防災システムは、たとえば
図1に示すような大地震により津波被害が想定される沿海地域を対象として、その地域の海岸線に沿って消波堤として機能する多数のマウンド1を配列するとともに、地域内の各所に災害発生時に避難場所として利用可能な人工の高台としての多数のマウンド2を分散設置したことを主眼とする。
【0018】
図2に消波堤としてのマウンド1の設置パターンの例を模式的に示す。
これらのマウンド1は土木工事による盛土によって円錐台形状をなすように施工されたもので、(a)に示すように全体として3列をなすように千鳥配置され、縦横に隣接するものどうしの相互間隔がたとえば50〜100m程度とされ、それぞれのマウンド1の大きさはたとえば底部直径が50m程度、頂部直径が10m程度、高さは10m程度、周面の傾斜角度(法面勾配)は25〜30°程度とされた大規模なものである。
なお、マウンド1の法面勾配は擁壁を必要としない範囲に設定することが好ましく、それによりマウンド1の造成工事を十分に簡略にかつ安価に施工することが可能である。
【0019】
これらのマウンド1は、相互に間隔をおいて配置されているので通常の防潮堤のようにそれ自体で津波を堰き止めることは期待できないし、その高さも10m程度であるのでそれを超える波高の津波は越流してしまうことから、これ自体では津波による地域内への海水の流入は阻止し得ないものではあるが、襲来した津波は
図2(a)に矢印で示しているように各マウンド1に衝突してそれを迂回しつつ各マウンド1間を進行し、また波高によっては各マウンド1に乗り上げてそれを乗り越えて地域内に進入することになるので、その際に津波エネルギーが自ずと消費されてマウンド群の全体による消波効果は十分に得られるものであり、したがって大規模な津波に対する被害に十分に軽減することは可能である。
【0020】
また、それらのマウンド1は周面が滑らかな傾斜面(法面)とされた円錐台形状であるし、頂部は平坦面であるから、各マウンド1は津波エネルギーを消費させ散逸させつつも通常の防潮堤のように想定規模を超える津波に正対し、容易に破壊されてしまったり倒壊してしまうことはなく、粘り強く消波機能を維持可能なものである。
しかも、各マウンド1を密接させることなく間隔をおいて配列しているので、各マウンド1間には迂回路とはなるものの平常時に支障なく使用可能な平坦な通路や道路を確保できるものである。したがって通常のように長大な防潮堤を連続的に設けることに代えて本実施形態のマウンド群を消波堤として設けることにより、平常時においても海岸部と地域内部(市街地)とが分断されてしまう不便は生じないし、防潮堤を設ける場合には要所に通路を確保するために設ける必要のある格別の開口部やそれを開閉するための扉を設ける必要もない。
【0021】
図3に地域内の各所に避難場所として設置されるマウンド2の設置パターンを模式的に示し、
図4にそのマウンド2の具体的な構成例を示す。
避難場所としてのマウンド2も、上記の消波堤としてのマウンド1と同様に盛土により円錐台形状をなす人工の高台として設置されるものであるが、その設置パターンはたとえば
図3に示すように縦横に間隔をおいて格子状に配置され、かつそれぞれのマウンド2は上記の消波堤としてのマウンド1よりもさらに大規模とされていて、たとえば底部直径が110m程度、頂部直径が50m程度、高さが15m程度とされている。
そして、
図4に示すように、周面には非常時に避難道路となり平常時には管理道路として使用される道路4や、非常時に避難通路となり平常時には遊歩道としても使用可能な階段5が頂部に通じるように設けられている。
【0022】
このマウンド2の頂部の平坦面は災害時および被災後に避難場所として利用することから、そのために必要となる各種の設備や施設類、たとえば避難所や仮設住宅となる建物や防災備蓄倉庫を始めとして、非常時に利用可能な簡易な上下水道設備や非常電源設備その他のインフラストラクチャをマウンド2単位で予め整備しておくことが好ましい。
特に、太陽光や風力による発電設備等の自立分散型エネルギー供給施設を設けて、このマウンド2全体をスマートシティの一つのタイプとして活用できるようにしておくことにより、マウンド2単位で相当数の避難者が独立かつ自立的に相当期間の避難生活を営めるようにしておくことが好ましい。
【0023】
また、これらのマウンド2は災害時に避難場所として利用するのみならず、平常時においてはコミュニティーの核となる広場や公園、運動場、集会場その他の公共施設として利用することも可能であるので、必要に応じてそのための各種施設や設備を整備しておくと良い。
その場合、マウンド2全体が平常時においても好ましい景観と環境を提供できることが好ましく、そのためにはたとえば
図4に示す具体例のようにマウンド2の周面に段部3を設けたり、周面全体を植樹や植栽により緑化したものとすることが考えられるが、全体の意匠や仕上げは平常時の用途に応じて、かつ本来の目的である避難場所としての機能を損なわない範囲で、任意に設計すれば良い。
【0024】
このようなマウンド2を地域内の各所に多数分散配置しておくことにより、津波等の災害時における住人の避難場所として有効に利用可能である。
特に、自然の高台や津波に対して安全な中高層建物がない地域に対して、上記のように人工の高台としての多数のマウンド2をたとえば500m程度の間隔で縦横に設置しておけば、個々のマウンド2のカバーエリアは500m×500m=250,000m
2となり、地域内の全域からいずれかのマウンド2への避難距離は最大でもわずか350m程度となることから、その範囲内に居住する多くの住人が大地震発生直後にいずれかのマウンド2まで迅速に避難することが可能であり、その後に襲来する津波による人的被害を十分に軽減することが可能である。
【0025】
以上のように、本発明の地域防災システムによれば、対象地域の海岸部に多数の消波用のマウンド1を配列して設置するとともに、地域内部に避難場所としてのマウンド2を多数分散配置することにより、この地域に対する津波被害を十分に軽減することが可能である。
特に、従来のように単なる防波堤や防潮堤の高さに頼る津波対策では想定規模を超える津波に対しては殆ど無力であるが、本発明のように消波用のマウンド1を間隔をおいて配列することにより津波を完全に堰き止めることはできないものの津波エネルギーを有効に低減可能であるし、想定規模を超える津波に対しても容易に破壊されることはないので粘り強く消波機能を発揮し得るものとなる。
また、避難場所としてのマウンド2を多数分散配置しておくことにより、津波はもとより洪水その他の災害に対して迅速な被害が可能であって人的被害を軽減できるし、各マウンド2を多数の被災者の避難生活の場として長期にわたって有効に活用可能であるから、特に多数の被災者が発生することが想定される都市域における地域防災システムとして極めて有効である。
【0026】
なお、本発明におけるマウンド1,2は周知の盛土工法により容易にかつ低コストで造成可能であるが、本発明の地域防災システムを先の東日本大震災による津波被災地に対する復旧・復興事業の一環として適用することも考えられ、その場合には当地で発生した膨大な量の瓦礫をマウンド1,2を造成するための盛土材料として利用することも考えられる。
そのようにすれば、マウンド1,2の造成工事を瓦礫処理・処分を兼ねて実施することが可能であるし、マウンド1,2の造成スペースを瓦礫処分スペースとして利用可能である(つまり、マウンド1,2を造成するべき位置を瓦礫処分場としてそこに瓦礫を山積みすれば良い)ので合理的である。
【0027】
以上で本発明の一実施形態について説明したが、上記実施形態はあくまで好適な一例であって、本発明の地域防災システムは上記実施形態に限定されるものでは勿論なく、たとえば以下に列挙するような適宜の設計的変更や応用が可能である。
【0028】
上記実施形態は津波被害が想定される沿海地域に対する適用例であるので、津波に対する消波用のマウンド1と避難場所としてのマウンド2の双方を並設するものとしたが、必ずしもそうすることはなく、地域条件によっていずれか一方のみを設置することで十分な場合には他方は省略しても良い。
【0029】
上記実施形態で例示したマウンド1,2の形態や規模(面積、高さ、法面勾配、設置間隔等の諸元、頂部や周面に設置する各種施設や設備類の有無やその種類、その他の仕様)はあくまで一例であって、要は本発明においては盛土による円錐台形状のマウンドを消波堤及び/又は避難場所として機能するように地域内の要所に間隔をおいて設置すれば良いのであって、その限りにおいてそれらのマウンドは実際の地域の状況に応じて最適な規模、パターンで設置すれば良い。
【0030】
特に、上記実施形態では消波用のマウンド1を全体として3列をなすように千鳥配置したが、それに限るものではなく、海岸線の状況や想定される津波の規模に応じてマウンド群の全体で所望の消波機能を確保し得るように所望規模のマウンド1を所望間隔で所望列数をなすように設ければ良い。
また、上記実施形態において避難場所としてのマウンド2の具体例として例示した
図4に示す構成は、消波堤として設置するマウンド1の構成例としても同様に適用可能であることはいうまでもなく、可能であれば消波堤としてのマウンド1も平常時には任意の用途に活用するべく必要に応じてそのための施設や設備を整備しておけば良い。
【0031】
本発明のマウンド1を全体として消波堤として機能するようにマウンド群として設置することで通常の防波堤や防潮堤は省略することが可能であるが、必要であれば通常の防波堤や防潮堤を設置することを妨げるものではなく、本発明の消波堤としてのマウンド群の外側あるいは内側もしくは両側にさらに通常の防波堤や防潮堤を設置しても良い。
その場合、マウンド群の外側に防波堤や防潮堤を設ければ、津波が防波堤や防潮堤を越流しても、また防波堤や防潮堤が破壊され倒壊されたとしても、さらにマウンド群による消波効果により津波被害を軽減し得る。また、マウンド群の内側に防潮堤を設ければ、津波はマウンド群によりエネルギーが弱められてから防潮堤に到達するので、その防潮堤の簡略化を図ることもできる。
【0032】
避難場所としてのマウンド2についても、対象地域の用途や地形、環境、地域内における人口およびその分布、想定される災害の規模その他の諸条件を考慮して、可及的に全ての住人に対して安全な避難場所を均等に提供し得るように、また必要に応じて平常時においても所望の用途で有効に活用可能であるように、最適規模のマウンドを最適位置に最適間隔で分散配置すれば良い。
【0033】
図5(a)〜(c)に避難場所としてのマウンド2の他の構成例を示す。なお、以下に示す構成例は避難難場所としてのマウンド2のみならず、必要であれば消波堤としてのマウンド1に対しても同様に適用可能である。
【0034】
図5(a)はマウンド2の内部に、災害時及び/又は通常時に利用可能な諸施設を設置するための地下空洞部10を設けて、その内部にたとえば備蓄倉庫、集会場、避難広場、駐車場、エネルギープラント等の諸施設を設けるようにしたものである。
このような地下空洞部10を設ける場合には、たとえばシールド性能の高い鉄筋コンクリート造の地下外壁11を原地盤上に先行施工して、その外側に盛土によるマウンド2を造成すれば良い。それにより、盛土工事に要する手間とコストを軽減することが可能であるし、そのように施工される地下空洞部10は実質的に原地盤の地盤上に設けられるものであるから地下水の影響を受け難いというメリットがある。
なお、図示例の地下空洞部10は水平断面形状を円形とし、かつその面積をマウンド2の頂部と同等にし、底部を原地盤のレベルとしているが、地下空洞部10の形状や規模、底部の深度その他の仕様はマウンド2全体の形状や規模も考慮して任意に設定すれば良い。勿論、地下空洞部10の上部には屋根部12を架設してその上部(つまりマウンド2の頂部)を上記実施形態の場合と同様に利用可能とすれば良いし、マウンド2の周面も上記実施形態の場合と同様に利用可能である。
【0035】
図5(b)は上記の地下空洞部10の内部に複数層(図示例では2層)の床部13を設けて,地下空洞部10全体を多層の地下建築空間として各種用途に利用可能としたものである。
なお、(a)あるいは(b)に示したような地下空洞部10を設ける場合においては、必要であれば(b)に示しているようにマウンド2の底部から地下空洞部10に通じる通路14を設けておくと良く、その通路14には津波襲来時あるいは洪水発生時に地下空洞部10への浸水を防止するための防潮機能を備えた設備を設けておくと良い。
【0036】
図5(c)はマウンド2の内部に上記のような地下空洞部10を設けたうえで、さらにマウンド2の上部に各種用途に利用可能な塔状構造物15、たとえば津波避難ビル、オフィス、集合住宅、ホテル、立体駐車場等の多層ないし高層建物を設けたものである。これによれば、マウンド2全体をさらに有効かつ多様に活用可能であるので、そのマウンド2を単なる防災施設や公共施設としてのみならず事業用施設として構築し運用することも考えられる。
なお、この場合、塔状構造物15の平面形状や規模、高さ、構造は任意であって、図示例のような多層ないし高層の建物としてのみならず文字どおり塔(タワー)として設けることでも良い。また、必ずしも図示例のように地下空洞部10と塔状構造物15の双方を並設することはなく、地下空洞部10を省略して塔状構造物15のみを設けることでも良いが、いずれにしても塔状構造物15は想定される災害に対して耐え得る構造としておく必要があることはもとより、その屋上面は上記実施形態におけるマウンド2の頂部と同様に避難広場等として利用可能にしておくと良い。