(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パレットに上積みした荷物を前記パレットとともに出し入れする収納棚が上下方向及び/又は横方向に複数並設されてなるラックを備えた自動ラック倉庫の制振構造であって、
前記ラックが、上下方向に立設された複数の柱と、前記柱に固設されて前記柱とともに前記収納棚を形成し前記パレットを出し入れ可能に上載して支持する支持部材と備え、
前記ラックの支持部材と前記パレットの間に介装される傾斜すべり支承機構を備えて構成されており、
前記傾斜すべり支承機構は、前記支持部材に支持され前記パレットとともに前記荷物を出し入れする荷物出入方向に延設された案内部材と、前記案内部材上に前記荷物出入方向に進退自在に配設され前記パレットを上載して支持するパレット受け部材とを備え、
前記案内部材は、前記パレット受け部材が当接する上面が前記荷物出入方向一端から他端側に向かうに従い漸次下方に傾斜する第1傾斜面と、前記他端から前記一端側に向かうに従い漸次下方に傾斜する第2傾斜面とを備えて形成され、
前記パレット受け部材は、前記案内部材の上面に当接する下面が前記荷物出入方向に沿う断面視で下方に凸の円弧状に形成されていることを特徴とする自動ラック倉庫の制振構造。
【背景技術】
【0002】
自動ラック倉庫は、荷役等の作業を自動化した倉庫であり、自動運搬機器をコンピュータと連動して制御することで大量の荷物を効率よく管理することができ、近年、急速にその普及が進んでいる。
【0003】
また、一般に、この種の自動ラック倉庫では、鉄骨を柱部材や梁部材などとして組み付け、荷物(物品)を収納する複数の収納棚を水平方向と上下方向に並設して多層式のラック(収納庫)が形成されている。このような多層式のラック(収納庫)に対し、パレットに荷物を段積みして、このパレットごと荷物をラックの収納棚の中に収納するように構成されている。そして、このとき、パレットは単にラックに載っている状態で、固定されていないため、地震時に、パレットが大きく揺れて移動しラックから落下したり、パレットが落下しなくても段積みされた荷物が崩れて落下することがあった。
【0004】
また、地震によって倉庫の建屋の構造体やラックに被害が生じなくても、落下した荷物により倉庫の自動搬送機能が停止することもある。東北地方太平洋沖地震では、このような荷崩れの発生によって倉庫の業務再開まで数か月を要した事例もあり、BCP(事業継続計画)の観点から、地震時の荷崩れ防止技術の確立が強く要望され、その対応が急務とされている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
これに対し、本願の出願人は、ラックの最上段にTMD(Turned Mass Damper)制振装置を設置し、パレットの落下を防止する技術を開発している。しかしながら、このパッシブ制振のTMD制振装置を適用した対策においては、同調させた特定の固有周期に対して優れた制振効果を発揮できる反面、荷物の量が変化してラック全体としての固有周期が変化すると、その制振効果が十分に発揮できなくなる場合があり、この点で改善の余地が残されていた。
【0006】
一方、TMDのような同調型の制振装置ではなく、ラックの最上段に設置するだけで固有周期が変動しても一定の制振効果を発揮することを可能にしたフードダンパー(Houde Damper)と称する制振装置が提案、実用化されている。このフードダンパー制振装置Aは、例えば
図20に示すように、ラック1の柱2に固定して設けられた腕木3に支持された支持枠4と、支持枠4上に載置され、リニアガイド5に沿って水平方向(ラックの奥行き方向、荷物出入方向)T1に進退自在に設けられた平盤状の可動質量(錘)6と、支持枠4と可動質量6に接続して配設されたオイルダンパー7とを備えて構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る自動ラック倉庫の制振構造(ラック、収納棚)を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る自動ラック倉庫の制振構造の傾斜すべり支承機構を示す側面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る自動ラック倉庫の制振構造の傾斜すべり支承機構を示す分解斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る自動ラック倉庫の制振構造の傾斜すべり支承機構を示す断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る自動ラック倉庫の制振構造の傾斜すべり支承機構を固定するための固定手段の一例を示す斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る自動ラック倉庫の制振構造の傾斜すべり支承機構のパレット受け部材を示す図であり、下面を上方に向けた状態のパレット受け部材を示す斜視図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る自動ラック倉庫の制振構造の傾斜すべり支承機構のパレット受け部材を示す正面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る自動ラック倉庫の制振構造の傾斜すべり支承機構の係合部、ガイド溝を示す断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る自動ラック倉庫の制振構造の傾斜すべり支承機構の係合部、ガイド溝を示す側面視図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る自動ラック倉庫の制振構造の傾斜すべり支承機構の動作を示す図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る自動ラック倉庫の制振構造の傾斜すべり支承機構の復元力特性を示す図である。
【
図12】シミュレーションの解析モデルを示す図である。
【
図13】シミュレーションの解析モデルを示す図である。
【
図14】シミュレーションの解析モデルで用いた傾斜すべり支承機構の復元力特性を示す図である。
【
図15】シミュレーションで用いた入力地震動(模擬波:東京湾北部直下/観測波:Kik−net成田)の特性を示す図である。
【
図16】シミュレーション結果を示す図であり、ラック本体の最大応答加速度を示す図である。
【
図17】シミュレーション結果を示す図であり、荷物(パレット)の最大応答加速度を示す図である。
【
図18】シミュレーション結果を示す図であり、荷物(パレット)とラック本体との最大応答相対変位を示す図である。
【
図19】シミュレーション結果を示す図であり、ラック本体の最大応答変位を示す図である。
【
図20】本発明の一実施形態に係る自動ラック倉庫の制振構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、
図1から
図19を参照し、本発明の一実施形態に係る自動ラック倉庫の制振構造について説明する。
【0019】
はじめに、本実施形態の自動ラック倉庫は、例えば、コンピュータ制御によって無人化して荷物(物品)の入出庫を行なうものであり、鉄骨の柱部材や梁部材などを組み付け、荷物が収納される複数の収納棚が上下方向と横方向に並設されてなるラック(収納庫)と、パレット上に上積みして載置した荷物をパレットごと搬送してラックの収納棚に対して出し入れするためのスタッカクレーンとを備えている。
【0020】
また、スタッカクレーンは、例えばラックに平行するように床や天井に延設されたレール上を走行する駆動手段を備えた走行台車と、走行台車に接続されて垂直に立設したマストと、このマストに沿って昇降する昇降台と、昇降台を昇降させる昇降装置とを備えて構成されている。さらに、このスタッカクレーンでは、昇降台に水平方向に伸縮自在に取り付けられたアーム(スライドフォーク)が具備され、ラックに対して平行に走行しながら昇降台がマストに沿って昇降し、所定のラックの収納棚と対向する位置に昇降台が定置した段階で、アームを伸縮させることで、荷物をパレットごと昇降台からラック側に移送する入庫作業や、ラックの収納棚内の荷物をパレットごとラックから昇降台側に移送する出庫作業を行う。
【0021】
ラック(ラック本体)1は、
図1に示すように、上下方向T2に立設された複数の柱2と、この柱2に固設されて柱2とともに収納棚1aを形成するパレット支持架台10とを備えて形成されている。また、パレット支持架台10は、パレット11とともに荷物を出し入れする荷物出入方向(ラック1の奥行き方向)T1に互いに平行に延び、パレット11を出し入れ可能に上載して支持する2本の支持部材(腕木)12と、これら支持部材12を接続する2本の接続部材13とを備えて頑丈な枠状に形成されている。また、接続部材13にはパレットの移動を規制するストッパー14が設けられている。
【0022】
そして、本実施形態の自動ラック倉庫の制振構造Bは、ラック1の支持部材12とその上に載置されるパレット11との間に介装される傾斜すべり支承機構15を備えて構成され、本実施形態では、各支持部材12の荷物出入方向T1の前方側と後方側に傾斜すべり支承機構15がそれぞれ設けられている。すなわち、本実施形態では、1つの収納棚1aに4つの傾斜すべり支承機構15が設けられている。
【0023】
傾斜すべり支承機構15は、
図1及び
図2に示すように、支持部材12上に載置して支持され、荷物出入方向T1に延設された案内部材16と、案内部材16上に荷物出入方向T1に進退自在に配設され、パレット11を上載して支持するパレット受け部材17とを備えている。
【0024】
また、
図2及び
図3に示すように、案内部材16は、パレット受け部材17が当接する上面が、荷物出入方向T1一端16aから他端16b側の中央に向かうに従い漸次下方に傾斜する第1傾斜面(滑り面)16cと、他端16bから一端16a側の中央に向かうに従い漸次下方に傾斜する第2傾斜面(滑り面)16dとを備えて形成されている。そして、この案内部材16は、
図4及び
図5に示すU型の保持部18aとこの保持部18aの両側部にそれぞれ溶接などして固着したボルト軸18bからなる接合金具18を、保持部18aで支持部材12を内包するように配置するとともにボルト軸18bを案内部材16に挿通してナットを締結することで、支持部材12に着脱可能に固設されている。また、このとき、案内部材16は、支持部材12に沿って、すなわち、荷物出入方向T1に一端16aから他端16bの延設方向を一致させて配設されている。
【0025】
パレット受け部材17は、
図2、
図6及び
図7に示すように、案内部材16の上面に当接する下面17aが荷物出入方向T1に沿う断面視で下方に凸の円弧状に形成されている。また、
図2、
図3、
図4、
図6及び
図7に示すように、本実施形態では、パレット受け部材17が荷物出入方向T1に直交する幅方向両側端側にそれぞれ、下面17aから下方に突出し、荷物出入方向T1に延びる一対のガイド部19を備えて断面略コ字状に形成されている。そして、このパレット受け部材17は、互いの延設方向を一致させるようにして、一対のガイド部19の間に案内部材16を係合させることにより、案内部材16の上面に円弧状の下面17aを当接させて案内部材16上に配設されている。また、このように一対のガイド部19の間に案内部材16が係合していることにより、パレット受け部材17は、案内部材16に案内されて荷物出入方向T1に進退自在とされている。
【0026】
なお、これら一対のガイド部19は、案内部材16上のパレット受け部材17を確実に荷物出入方向T1に進退自在に案内するとともに、パレット受け部材17が案内部材16から外れて脱落しないようにする。すなわち、ガイド機構、兼脱落防止機構として機能する。
【0027】
ここで、本実施形態の制振構造Bでは、
図1に示すように、ラック1の支持部材(腕木)12とパレット11の間に傾斜すべり支承機構15を介在させ、この傾斜すべり支承機構15の案内部材16及びパレット受け部材17を荷物出入方向T1(スタッカクレーンの走行方向に直交するラックの奥行き方向)に延設して構成している。これにより、荷物や荷物を載置したパレット11の制振対象に対する制振性能は、ラック1の奥行き方向T1のみに発揮される。
【0028】
ラック1の奥行き方向T1に直交する開口方向T3に制振しない理由は、地震被害の実績として奥行き方向T1へのパレット落下が圧倒的に多く、この奥行き方向T1へのパレット11の落下が生じると被災後の対処も困難になるからである。また、開口方向T3の隣接パレット11への荷物の崩落に対しては、ネットなどによる養生を行うことで容易に対処できるためである。
【0029】
また、本実施形態の傾斜すべり支承機構15においては、例えば、テフロンコーティングを施したり、テフロンテープを貼り付けるなどして、パレット受け部材17の下面17aが低摩擦化処理されている。これにより、本実施形態の傾斜すべり支承機構15では、案内部材16の上面とパレット受け部材17の下面17aとの間の摩擦係数μが0.05〜0.2とされている。
【0030】
さらに、案内部材16は、
図3に示すように、その第1傾斜面16cと第2傾斜面16dのそれぞれの水平に対する傾斜角度をθとしたとき、tanθ=0.01〜0.05、且つtanθ≧0.1μの条件を満たすように形成されている。
【0031】
ここで、摩擦係数μ=0.1程度のすべり支承は免震部材として一般的なものであり、例えばtanθ=0.03(勾配角:1/33)はθ=1.7°に相当する。この勾配では、ラック1とパレット11との相対変位100mmに対する鉛直変位が3mmであり、第1及び第2傾斜面16c、16dによる高さ変化は僅かで、傾斜すべり支承機構15の高さを小さくすることができる。
【0032】
また、第1及び第2傾斜面16c、16dがtanθ≧μで形成されている場合には、残留変位を完全になくせることが容易に分かるが、この1/10に相当するように構成した本実施形態の傾斜すべり支承機構15であっても、ほぼ残留変形をなくすことができる。この事項については、本願の出願人及び発明者によって既に特許出願を行っている(特願2011−201873)。なお、この特許出願では、定荷重ばねを用いているが、本実施形態では、傾斜復元力(自重×tanθ)を用いている。
【0033】
また、第1及び第2傾斜面16c、16dの傾斜角度θに関し、tanθ<0.01とした場合は、残留変形をなくすための十分な傾斜復元力が得られず、tanθ>0.05として案内部材16を形成した場合には、パレット11の加速度が大きくなってしまい、tanθ=0.01〜0.05とすることで好適な傾斜復元力、すなわち、好適な制振効果を得ることが可能になる。
【0034】
さらに、本実施形態の制振構造B、傾斜すべり支承機構15では、案内部材16の第1及び第2傾斜面16c、16dでの摩擦抵抗力を減衰とする。このため、案内部材16の上面とパレット受け部材17の下面17aとの間の摩擦係数μが小さすぎると減衰効果がなくなる。これにより、好適な摩擦抵抗力が得られるように、摩擦係数μの下限を0.05としている。また、一方で、摩擦係数μが大きすぎるとパレット11(荷物)の加速度が増大してしまうので、加速度を好適に抑えられるように上限を0.2としている。
【0035】
そして、本実施形態の制振構造Bでは、パレット11と傾斜すべり支承機構15とを何ら固定手段で固定することはしない。すなわち、パレット11は、傾斜すべり支承機構15のパレット受け部材17の上面に単に載置するだけとする。このとき、傾斜すべり支承機構15とパレット11との間の摩擦係数μ’は、一般的にμ’≧0.4である。これに対し、この1/2以下の摩擦係数μで傾斜すべり支承機構15の案内部材16とパレット受け部材17が係合しているため、地震時には傾斜すべり支承機構15とパレット11よりも先行して案内部材16とパレット受け部材17の滑動が生じることになる。このことから、パレット11や荷物には何ら補強等を加える必要がなく、従前のものをそのまま使用することが可能になる。
【0036】
さらに、本実施形態の傾斜すべり支承機構15では、
図3、
図8及び
図9に示すように、パレット受け部材17のガイド部19に、幅方向内側に突出して設けられたピン状の係合部(シアピン)20と、案内部材16の側面に、幅方向内側に凹み、パレット受け部材17の進退方向に延設され、係合部20が係合するガイド溝21とが設けられている。そして、この係合部20とガイド溝21は、ガイド機構、兼脱落防止機構として機能する。すなわち、この係合部20とガイド溝21を備えることで、案内部材16上のパレット受け部材17を確実に荷物出入方向T1に進退自在に案内することが可能になるとともに、パレット受け部材17が案内部材16から外れて脱落しないようにすることができる。
【0037】
次に、本実施形態の自動ラック倉庫の制振構造B(傾斜すべり支承機構15)による制振作用及び効果について説明する。
【0038】
本実施形態の制振構造Bにおいては、
図10に示すように、地震時にパレット11やパレット11に上積みした荷物に外力(水平力、振動)Fが作用した際に、パレット11を上載して支持するパレット受け部材17が、案内部材16の第1傾斜面16cと第2傾斜面16dの傾斜によってその位置を制御されながら、案内部材16上で滑動して進退する。これにより、パレット11や荷物に作用する外力Fが吸収され、地震時の荷崩れが防止される。
【0039】
そして、本実施形態の制振構造Bにおいて、滑りが生じ始める時の水平荷重F
0は、tanθ=0.01〜0.05、滑り面の摩擦係数μ=0.05〜0.2としたとき、次の式1で表される。
【0041】
したがって、パレット11上の荷物が剛体(振動しない)と仮定すれば、その応答加速度は0.25×980=245galで頭打ちされることになる。
【0042】
ここで、復元ばねを用いて案内部材16上でパレット受け部材17(支持部材12上でパレット11)を進退させることも考えられるが、この場合には、加速度の頭打ちができず、過大な入力時での加速度が本実施形態の制振構造Bよりも大幅に大きくなってしまう。また、ばねを用いた場合には、固有周期が存在し、その固有周期で加振入力された際に共振して応答が大きくなる特性がある。これに対し、本実施形態の制振構造Bでは、固有周期が存在しないので共振することがない。
なお、パレット11上の荷物に崩落のおそれがあるのは400galを超えた場合であり、本実施形態の制振構造Bによればそのおそれがなくなる。
【0043】
また、本実施形態の制振構造Bの傾斜すべり支承機構15の復元力特性を
図11に示す。変位が同一の摩擦ダンパーと同じ履歴エネルギーをもち、変位によらず一定の復元力をもつことから、
図11(a)と
図11(b)を合成した
図11(c)の矩形をずらして並べたような形の復元力特性が本実施形態の傾斜すべり支承機構15の復元特性となる。
【0044】
また、本実施形態の制振構造Bは、上記の通り、式1のF
0以下の水平力の作用では水平変位しないという「トリガー特性」を有する。このため、スタッカクレーンの走行時の振動や機器振動などの小さな外乱ではパレット11が搖動するようなことがない。
【0045】
さらに、傾斜すべり支承機構15は、第1及び第2傾斜面16c、16dを有する案内部材16とパレット受け部材17で構成でき、各部品を大量生産することも比較的容易にできるため、安価に製造することが可能である。さらに、設置工事も溶接不要で簡単なため、既存の自動ラック倉庫に容易に施工(適用)することができる。
【0046】
また、パレット11とラック1の支持部材12の間に傾斜すべり支承機構15を設置するだけであり、パレット11の載置部分を制振構造Bで占有することがない。このため、制振補強工事を行うことで荷物の収容量が減ってしまうことがない。
【0047】
さらに、TMDのような同調型の制振ではないため、荷物の量が変化して固有周期が変動しても制振効果が変わることはなく、常時、その制振性能を維持することができる。
【0048】
よって、本実施形態の自動ラック倉庫の制振構造Bによれば、傾斜すべり支承機構15をラック1の支持部材12とパレット11の間に介装するように設置するだけで、制振性能を付与することができ、これにより、荷物の収容量を減らすことがなく、荷物の量が変動して周期が変わっても制振性能を確実に発揮して、地震時の荷崩れを防止できるとともに、容易に施工でき、経済的に且つ効果的に制振性能を付与することが可能になる。
【0049】
また、本実施形態の自動ラック倉庫の制振構造Bにおいては、案内部材16の第1傾斜面16cと第2傾斜面16dのそれぞれの水平に対する傾斜角度をθ、案内部材16の上面とパレット受け部材17の下面17aとの間の摩擦係数をμとしたとき、摩擦係数μを0.05〜0.2とし、tanθ=0.01〜0.05、且つtanθ≧0.1μの条件を満たすように案内部材16を形成することにより、確実に且つ効果的に、地震時、パレット受け部材17を案内部材16の第1傾斜面16cと第2傾斜面16dでその位置を制御しながら、案内部材16上で滑動させることができる。そして、このパレット受け部材17の滑動によってパレット11や荷物に作用する外力Fを吸収することが可能になる。また、荷物の量に係らず、地震時にパレット受け部材17が滑動することで、パレット11や荷物に作用する外力Fを吸収することができる。
【0050】
さらに、本実施形態の自動ラック倉庫の制振構造Bにおいては、パレット受け部材17が幅方向両側端側にそれぞれガイド部19を備えて断面略コ字状に形成され、また、ガイド部19に、幅方向内側に突出する係合部20が設けられ、且つこの係合部20が係合するガイド溝21が案内部材16に形成されていることにより、案内部材16上のパレット受け部材17を確実に荷物出入方向T1に進退自在に案内することが可能になるとともに、パレット受け部材17が案内部材16から外れて脱落することを防止できる。
【0051】
ここで、本発明に係る自動ラック倉庫の制振構造Bの優位性を実証するために行ったシミュレーションについて説明する。
【0052】
まず、このシミュレーションでは、制振構造Bによる制振効果を時刻歴応答解析によって検討した。そして、自動ラック倉庫のラック1(収納棚1a)の解析モデルは、
図12及び
図13に示すように、ラック段数が13段、全高が1825mm、横10×8列で平面配置数が80基、ラック自重が70tonfとし、荷物重量は、0.7tonf×80=56tonf/段、総重量が56×13段=728tonfとした。ラック剛性は、立体フレームの応答解析結果より、下記の等価せん断剛性を設定した。
【0053】
解析は、荷物出入方向(ラックの奥行き方向)をY方向として1方向のみ検討を行った。格段の自由度はY方向並進のみとし、13自由度の串団子型(等価せん断型)振動モデルとした。ラック構造体の1次固有周期は0.754sec、減衰は1次に対して2%の剛性比例型とした。荷物は上記の重量の通り、満載の条件とした。
【0054】
傾斜すべり支承機構15のパラメータを、傾斜角度:1/20、1/50、1/100の3パターン、摩擦係数:0.1、0.2の2パターンとして検討を行った。なお、傾斜すべり支承機構15の剛性復元力特性は、
図14に示す通りである。
【0055】
さらに、入力地震動は、
図15(a)に示す模擬波(東京湾北部直下:EW方向、最大加速度209gal)と、
図15(b)に示す観測波(東北地方太平洋沖地震での観測波(震度5強)/Kik−net 成田:EW方向、最大加速度234gal)の2波とし、時間刻み0.002secで時刻暦応答解析を行った。
【0056】
図16から
図19にシミュレーションの解析結果を示す。
ここで、図中の凡例にある比較パラメータは次の通りである。
【0057】
1)無制振:バネ要素の剛性を∞とし、パレットがラックと一体化されたモデルケース
2)s1/20u0.1:傾斜面の勾配が1/20で、摩擦係数μ=0.1のケース
3)s1/20u0.2:傾斜面の勾配が1/20で、摩擦係数μ=0.2のケース
4)s1/50u0.1:傾斜面の勾配が1/50で、摩擦係数μ=0.1のケース
5)s1/50u0.2:傾斜面の勾配が1/50で、摩擦係数μ=0.2のケース
6)s1/100u0.1:傾斜面の勾配が1/100で、摩擦係数μ=0.1のケース
7)s1/100u0.2:傾斜面の勾配が1/100で、摩擦係数μ=0.2のケース
【0058】
なお、図中の縦軸はラックの段を示す(全部で13段のうち、下からの段数を示す)。
また、上記の7)のケースは、tanθ=1/100<0.1μ=0.02となり、上述の本実施形態の制振構造Bの条件を満足していないが、比較のため、ここでは解析ケースに加えている。
【0059】
まず、
図16に、ラック本体の最大応答加速度の解析結果を示す。
この結果、ラック本体の加速度は、無制振より大きくなる場合も見受けられ、上部では入力加速度の2倍以上となることが確認された。また、傾斜角度が大きいほど、最大応答加速度が大きくなる傾向が認められた。さらに、摩擦係数μ=0.1に比べ、μ=0.2の方が、最大応答加速度が大きくなる傾向が認められた。
【0060】
ここで、ラック本体構造は鉄骨造であり、加速度が大きくても破壊に繋がらないため、荷物の加速度が大きくならなければ、ラック本体の応答加速度が大きくても問題にはならない。ただし、無制振の場合は、ラック本体の応答加速度が荷物(パレット)の応答加速度となっており、400galを超える範囲(東京湾北部地震では12〜13段、Kik−net成田では4段以上)で荷物が崩落するおそれがある。
【0061】
次に、
図17に、荷物(パレット)の最大応答加速度の解析結果を示す。
荷物の最大応答加速度は傾斜角度θと摩擦係数μにより決まる上限「応答加速度の上限=(摩擦係数(μ)+勾配(tanθ))×980gal」で頭打ちされ、傾斜角度、摩擦係数が大きいほど、最大応答加速度が大きくなる。
そして、この結果では、地震動によらず、全段にわたり400gal以下となり、荷物が崩落するおそれがないことが確認された。また、入力地震動が大きくなると、各段の応答加速度が上限に均等化され、一定値に近くなることが確認された。
【0062】
次に、
図18に、荷物(パレット)とラック本体の最大応答相対変位の解析結果を示す。
荷物とラック本体(支持部材、腕木)との相対変位は、いずれも100mm以内であり、傾斜すべり支承の可動変位許容値に納まっていることが確認された。また、摩擦係数μ=0.1に比べ、μ=0.2の方が、上部で相対変位が大きくなる傾向が確認された。なお、荷物とラック本体との残留変位はいずれも12mm以下であった。
【0063】
次に、
図19に、ラック本体の最大応答変位の解析結果を示す。
ラック本体の最大応答変位は、摩擦係数μ=0.1に比べ、μ=0.2の方が大きくなる傾向が確認された。Kik−net成田地震動では、無制振の場合においてもラック本体は許容応力度以内にあった。このため、傾斜すべり支承を用いた制振を講じた場合にはいずれもラック本体が許容応力度以内となった。一方で、傾斜すべり支承を用いた制振を講じた場合には、無制振の場合に対して1/2以下の応力しか生じないことが確認された。よって、本実施形態の制振構造を備えた場合には、ラック本体構造を補強する必要がないことが確認された。
【0064】
以上のことから、自動ラック倉庫に対して本実施形態の傾斜すべり支承機構15を用いた制振構造Bを適用することにより、地震動によらず荷物に作用する加速度を一定値以下に抑制し、荷物の崩落を防止することが可能になることが実証された。また、このとき、本実施形態の制振構造Bを備えていない場合には、荷物に作用する加速度が400gal以上となり崩落のおそれがあるのに対し、本実施形態の制振構造Bを備えることで、震度5強でも荷物に作用する加速度が250gal以下となり、確実に崩落を防止することが可能になることが確認された。さらに、本実施形態の制振構造Bにおいては、異なる地震動に対しても、荷物に作用する最大加速度がほとんど変わらないという大きな特長も確認された。
【0065】
また、本実施形態の制振構造Bは、検討した地震動レベルにおいて、ラック本体1とパレット11(荷物)との相対変位を100mm以内に収めることができ、本実施形態に例示した傾斜すべり支承機構15の可動代で十分に制御することができることが確認された。
【0066】
さらに、荷物(パレット11)のラック本体1に対する残留変位は全て12mm未満となり、例えばパレット11を支持部材12に設置する精度が一般に50mm以内とされているので、自動ラック倉庫をそのまま継続使用することができる。そして、摩擦係数μ=0.1、傾斜角度1/20、1/50の場合は、地震動によらずいずれも残留変形が1mm未満となり、ほぼなくなることが実証された。
これにより、本実施形態の制振構造Bにおいては、残留変位がほとんどないので、地震直後でも稼動停止せずにすぐ自動倉庫機能を復帰させて事業継続することが可能になる。 また、制振構造Bを備えることによりラック本体1に作用するせん断力が増大するわけではないので、ラック本体1の構造部材を補強する必要がない。
【0067】
以上、本発明に係る自動ラック倉庫の制振構造の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0068】
本実施形態では、パレット受け部材17の幅方向両側端側にガイド部19を設けて傾斜すべり支承機構15が構成されているものとしたが、案内部材16の幅方向両側側にそれぞれガイド部19を設け、この案内部材16の一対のガイド部19の間にパレット受け部材17を係合し、案内部材16上にパレット受け部材17を荷物出入方向T1に進退自在に設けて傾斜すべり支承機構15を構成するようにしてよい。この場合においても、本実施形態と同様のガイド部19による作用効果を得ることが可能である。
【0069】
さらに、本実施形態では、パレット受け部材17の幅方向両側端側にガイド部19を設け、このガイド部19に係合部20を設け、案内部材16の側面に形成したガイド溝21に係合部20を係合させて傾斜すべり支承機構15が構成されているものとしたが、案内部材16にガイド部19を設け、この案内部材16のガイド部19の係合部20を、パレット受け部材17に形成したガイド溝21に係合させて傾斜すべり支承機構15を構成するようにしてもよい。この場合においても、本実施形態と同様の係合部20、ガイド溝21による作用効果を得ることが可能である。
【0070】
なお、本実施形態のようなガイド部19、係合部20、ガイド溝21は必ずしも傾斜すべり支承機構15に具備されていなくてもよい。
【0071】
また、本実施形態では、傾斜すべり支承機構15をパレット1つあたり4箇所に設けるものとしたが、1本の支持部材(腕木)12上にある2つの案内部材16やパレット受け部材17を一体化することも可能である。そして、このように構成した場合には、位置合わせなどの設置手間が軽減されるとともに、パレット受け部材17が一体化されることで、傾斜面滑動時にもパレット11に曲げが生じにくくなり、パレット11が水平を保持しやすくなる。すなわち、傾斜面滑動時に、パレット受け部材17の回転をパレット11の曲げ剛性で拘束してパレット11の水平を維持することができる。さらに、パレット受け部材17と案内部材16との間に鉛直方向周りの相対回転(ねじれ)が生じない。このため、パレット11にもねじれ(X−Y平面内の回転変位)が生じない。
【0072】
また、ラック1の支持部材12への案内部材16の固定方法や、案内部材16の形状・寸法(傾斜面16c、16dの形状・寸法など)、パレット受け部材17の形状・寸法(下面17aの形状・寸法)などは本発明に係る事項を除き、特に限定する必要はない。例えば、案内部材16の上面に当接する下面17aは下方に凸の円弧状であるものとしたが、これに代わり、V型やU型等の形状にすることもできる。
【0073】
また、本実施形態のシミュレーションでは全ての段に傾斜すべり支承機構15を設置したが、必ずしも全部の段に設ける必要はなく、加速度が小さい下部の段については制振構造Bを設置せず、上部の段のみに設置するようにしてもよい。