(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011981
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】電子リークが低減された高出力・高効率量子カスケードレーザ
(51)【国際特許分類】
H01S 5/343 20060101AFI20161011BHJP
【FI】
H01S5/343
【請求項の数】25
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-524077(P2013-524077)
(86)(22)【出願日】2011年6月3日
(65)【公表番号】特表2013-534369(P2013-534369A)
(43)【公表日】2013年9月2日
(86)【国際出願番号】US2011039133
(87)【国際公開番号】WO2012021208
(87)【国際公開日】20120216
【審査請求日】2014年6月2日
(31)【優先権主張番号】12/855,476
(32)【優先日】2010年8月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591013274
【氏名又は名称】ウィスコンシン アラムニ リサーチ ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】ボテツ ダン
(72)【発明者】
【氏名】シン ジェ チョル
【審査官】
高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−165994(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0022196(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0036530(US,A1)
【文献】
特開平08−279647(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0043794(US,A1)
【文献】
特表2007−517411(JP,A)
【文献】
特開2008−177366(JP,A)
【文献】
特開2009−123955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子カスケードレーザ用の半導体構造であって、
電子注入部と、前記電子注入部に隣接する活性領域と、前記活性領域に隣接する電子引き抜き部とを備え、
前記電子注入部、前記活性領域及び前記電子引き抜き部は、それぞれ半導体の層を有し、それらの層は、量子井戸と障壁とを交互に提供するように構成されており、
前記活性領域は、注入障壁と、放出障壁と、前記注入障壁と前記放出障壁との間の第1の中間障壁と、前記注入障壁と前記放出障壁との間で前記第1の中間障壁の下流にある第2の中間障壁と、前記第1の中間障壁と前記第2の中間障壁との間の第3の中間障壁とを含み、
前記注入障壁、前記放出障壁、前記第1の中間障壁、前記第2の中間障壁及び前記第3の中間障壁のそれぞれのエネルギーは、前記電子注入部の障壁のエネルギーよりも大きく、
また、前記注入障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーよりも小さく、
前記第1の中間障壁のエネルギーは前記第2の中間障壁のエネルギーよりも小さく、
前記第3の中間障壁のエネルギーは、前記第1の中間障壁のエネルギーから前記第2の中間障壁のエネルギーまでの範囲にあり、更に、
前記第1の中間障壁、前記第2の中間障壁及び前記第3の中間障壁は、前記中間障壁のエネルギーが前記電子注入部に向かって減少し、かつ、前記中間障壁のエネルギーが前記電子引き抜き部へ向かって増加するように配置されている、半導体構造。
【請求項2】
前記第1の中間障壁のエネルギーは、前記注入障壁のエネルギー以上の大きさである、請求項1に記載の半導体構造。
【請求項3】
前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギー以上の大きさであり、
前記第2の中間障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギー以下の大きさである、
請求項1に記載の半導体構造。
【請求項4】
前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギー以上の大きさであり、
前記第2の中間障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーよりも大きい、
請求項1に記載の半導体構造。
【請求項5】
前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギー以上の大きさである、
請求項1に記載の半導体構造。
【請求項6】
前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギー以上の大きさであり、
前記第2の中間障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギー以下の大きさである、
請求項1に記載の半導体構造。
【請求項7】
前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギー以上の大きさであり、
前記第2の中間障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーよりも大きい、
請求項1に記載の半導体構造。
【請求項8】
前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギーよりも大きく、
前記第2の中間障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーに等しく、
前記第3の中間障壁のエネルギーは前記第1の中間障壁のエネルギーに等しい、
請求項1に記載の半導体構造。
【請求項9】
前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギーに等しく、
前記第2の中間障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーに等しく、
前記第3の中間障壁のエネルギーは前記第1の中間障壁のエネルギーに等しい、
請求項1に記載の半導体構造。
【請求項10】
前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギーに等しく、
前記第2の中間障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーよりも小さく、
前記第3の中間障壁のエネルギーは、前記第1の中間障壁のエネルギーよりも大きく、かつ前記第2の中間障壁のエネルギーよりも小さい、
請求項1に記載の半導体構造。
【請求項11】
前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギーよりも大きく、
前記第2の中間障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーよりも大きく、
前記第3の中間障壁のエネルギーは前記第1の中間障壁のエネルギーに等しい、
請求項1に記載の半導体構造。
【請求項12】
前記注入障壁は、第1の障壁層と第2の障壁層とを含む複合注入障壁であり、
前記第1の障壁層の組成と前記第2の障壁層の組成とが異なる、請求項1に記載の半導体構造。
【請求項13】
前記活性領域の量子井戸のうち少なくとも1つは、前記隣接する上流の電子注入部における量子井戸の底よりもエネルギーが低い井戸底を有する量子井戸である、請求項1に記載の半導体構造。
【請求項14】
前記活性領域の量子井戸は全て、各々が、前記隣接する上流の電子注入部における量子井戸の底よりもエネルギーが低い井戸底を有する量子井戸である、請求項1に記載の半導体構造。
【請求項15】
当該半導体構造は、InGaAsを含む量子井戸と、AlInAsを含む障壁とを含む、請求項1に記載の半導体構造。
【請求項16】
前記活性領域は上位のエネルギー状態4、5及び6を含み、エネルギー状態4と5の間のエネルギー差(E54)は少なくとも約70meVである、請求項1に記載の半導体構造。
【請求項17】
更に、エネルギー状態5と6の間のエネルギー差(E65)は少なくとも約70meVである、請求項16に記載の半導体構造。
【請求項18】
更に、エネルギー状態5と6の間のエネルギー差(E65)は少なくとも約100meVである、請求項16に記載の半導体構造。
【請求項19】
当該半導体構造は、約4μmから約5μmの波長帯で放射線を発するレーザ装置を提供するように構成されている、請求項1に記載の半導体構造。
【請求項20】
当該半導体構造は、約5%以下である室温相対リーク電流値(Jleak/Jth)を特徴とするレーザ装置を提供するように構成されている、請求項19に記載の半導体構造。
【請求項21】
当該半導体構造は、約20%より高い前端面室温連続波最大ウォールプラグ効率(ηwp,max)を示すレーザ装置を提供するように構成されている、請求項19に記載の半導体構造。
【請求項22】
量子カスケードレーザ用の半導体構造であって、
電子注入部と、前記電子注入部に隣接する活性領域と、前記活性領域に隣接する電子引き抜き部とを備え、
前記電子注入部、前記活性領域及び前記電子引き抜き部は、それぞれ半導体の層を有し、それらの層は、量子井戸と障壁とを交互に提供するように構成されており、
前記活性領域は、注入障壁と、放出障壁と、前記注入障壁と前記放出障壁との間の第1の中間障壁と、前記注入障壁と前記放出障壁との間で前記第1の中間障壁の下流にある第2の中間障壁と、前記第1の中間障壁と前記第2の中間障壁との間の第3の中間障壁とを含み、
前記放出障壁、前記第1の中間障壁、前記第2の中間障壁及び前記第3の中間障壁のそれぞれのエネルギーは、前記電子注入部の障壁のエネルギーよりも大きく、
また、前記注入障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーよりも小さく、
前記第1の中間障壁のエネルギーは前記第2の中間障壁のエネルギーよりも小さく、
前記第3の中間障壁のエネルギーは、前記第1の中間障壁のエネルギーから前記第2の中間障壁のエネルギーまでの範囲にあり、
前記第1の中間障壁、前記第2の中間障壁及び前記第3の中間障壁は、前記中間障壁のエネルギーが前記電子注入部に向かって減少し、かつ、前記中間障壁のエネルギーが前記電子引き抜き部へ向かって増加するように配置されており、
更に、当該半導体構造は、約5μmより大きい波長で放射するレーザ装置を提供するように構成されている、半導体構造。
【請求項23】
当該半導体構造は、約8μmより大きい波長で放射するレーザ装置を提供するように構成されている、請求項22に記載の半導体構造。
【請求項24】
複数のレーザ段を含むレーザ装置であって、各レーザ段は、請求項22に記載の半導体構造を含む、レーザ装置。
【請求項25】
複数のレーザ段を含むレーザ装置であって、
各レーザ段は、量子カスケードレーザ用の半導体構造を含み、
該半導体構造は、
電子注入部と、前記電子注入部に隣接する活性領域と、前記活性領域に隣接する電子引き抜き部とを備え、
前記電子注入部、前記活性領域及び前記電子引き抜き部は、それぞれ半導体の層を有し、それらの層は、量子井戸と障壁とを交互に提供するように構成されており、
前記活性領域は、注入障壁と、放出障壁と、前記注入障壁と前記放出障壁との間の第1の中間障壁と、前記注入障壁と前記放出障壁との間で前記第1の中間障壁の下流にある第2の中間障壁と、前記第1の中間障壁と前記第2の中間障壁との間の第3の中間障壁とを含み、
前記注入障壁、前記放出障壁、前記第1の中間障壁、前記第2の中間障壁及び前記第3の中間障壁のそれぞれのエネルギーは、前記電子注入部の障壁のエネルギーよりも大きく、
また、前記注入障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーよりも小さく、
前記第1の中間障壁のエネルギーは前記第2の中間障壁のエネルギーよりも小さく、
前記第3の中間障壁のエネルギーは、前記第1の中間障壁のエネルギーから前記第2の中間障壁のエネルギーまでの範囲にあり、かつ、
前記第1の中間障壁、前記第2の中間障壁及び前記第3の中間障壁は、前記中間障壁のエネルギーが前記電子注入部に向かって減少し、かつ、前記中間障壁のエネルギーが前記電子引き抜き部へ向かって増加するように配置されている、
レーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
量子カスケードレーザ(QCLs:Quantum Cascade Lasers)は、電子注入部、活性領域、電子引き抜き部の3つの領域からそれぞれなる多段で構成されている。従来のQCLsでは、量子井戸と障壁は、すべての領域で同じであり、それぞれ一定のアロイ組成のものである。短波長(λ〜4.8μm)QCLsの注入部の電子は、格子よりも温度が高いことが分かっている。このため、連続波(CW:Continuous‐Wave)高出力で、4.5〜5.0μmの範囲で放射するように最適化されたデバイスでは、レーザ上準位からのかなりの電子リークが見られ、従って、デバイスの電気光学特性は、室温より上の温度に極めて敏感である。特に、このようなデバイスは、300Kより上で微分量子効率η
dの急激な低下を示し(すなわち、η
dの特性温度T
1が〜140Kの低い値である)、更には、300Kより上で閾値電流密度J
thの比較的急速な増加を示す(すなわち、J
thの特性温度T
0が〜140Kの低い値である)。その結果、(高反射コーティングされた後端面を持つデバイスの前端面からの300Kでの放射の場合の)最大CWウォールプラグ効率η
wp,maxは、理論的に予測される上限値である〜28%(λ=4.6μm)には遠く及ばない〜12%の標準値を持つ。
【0002】
現状技術のQCLsは、低減された電子リークの結果として、より高いT
1値及びT
0値を示すものが開発されている。J.C.Shin等による「Ultra‐low temperature sensitive deep‐well quantum cascade lasers(λ=4.8μm) via uptapering conduction band edge of injector regions(注入領域の伝導帯端の傾斜を大きくすることにより温度依存性が極めて低く井戸が深い量子カスケードレーザ(λ=4.8μm))」Electronics Letters誌,2009年7月2日,45巻、14号、を参照することができる。ところが、このようなQCLsの室温J
th値は、レーザ遷移効率が従来のQCLsと比較して約20%低下するので、基本的に従来のQCLsの場合と同じである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
半導体構造、及びその半導体構造を含むレーザ装置を提供する。
【0004】
本発明の一態様により、半導体構造を提供する。この半導体構造は、電子注入部と、電子注入部に隣接する活性領域と、活性領域に隣接する電子引き抜き部と、を備える。電子注入部、活性領域、及び電子引き抜き部は、それぞれ半導体の層を有し、それらの層は、量子井戸と障壁とを交互に提供するように構成されている。活性領域は、注入障壁と、放出障壁と、注入障壁と放出障壁との間の第1の中間障壁と、注入障壁と放出障壁との間で第1の中間障壁の下流にある第2の中間障壁と、を含んでいる。放出障壁、第1の中間障壁、及び第2の中間障壁のそれぞれのエネルギーは、電子注入部の障壁のエネルギーよりも大きい。更に、注入障壁のエネルギーも、電子注入部の障壁のエネルギーより大きくてもよい。そして、注入障壁のエネルギーは放出障壁のエネルギーよりも小さく、第1の中間障壁のエネルギーは第2の中間障壁のエネルギーよりも小さい。第1の中間障壁と第2の中間障壁のエネルギーは、それぞれ、注入障壁と放出障壁のエネルギーに対して相対的な値の範囲を持ち得る。
【0005】
半導体構造は、第1の中間障壁と第2の中間障壁との間に第3の中間障壁を含むことができる。第3の中間障壁のエネルギーは、電子注入部の障壁のエネルギーよりも大きく、第1及び第2の中間障壁のエネルギーに対して相対的な値の範囲を仮定することができる。
【0006】
半導体構造の活性領域の障壁は、複合障壁とすることができる。半導体構造の活性領域の量子井戸は、深い量子井戸とすることができる。半導体構造は、様々な組成の量子井戸及び障壁を含むことができる。
【0007】
半導体構造の活性領域は、上位のエネルギー状態(energy state)4,5、6を含んでいる。半導体構造の活性領域は、エネルギー状態4と5の間のエネルギー差(E
54)が少なくとも約70meVであることを特徴とすることができる。半導体構造の活性領域は、更に、エネルギー状態5と6の間のエネルギー差(E
65)が少なくとも約70meVであることを特徴とすることができる。
【0008】
半導体構造は、中波長から長波長(すなわち3〜12μm)の赤外領域の放射線を発するレーザ装置を提供するように構成することができる。このように、本発明の他の態様により、開示する半導体構造のいずれかを含むレーザ装置を提供する。レーザ装置は、室温での低い相対リーク電流値(例えば、約5%以下のJ
leak/J
th)と、室温での低いJ
th値(例えば、30段、3mm長で、コーティングされていないミラー端面を持つ装置の場合に、約1.7kA/cm
2以下)と、室温での高い最大ウォールプラグ効率(例えば、約15%を超えるη
wp,max)とを含む優れた電気光学特性を示すことができる。
【0009】
構造の活性領域に特定の構成及び組成の障壁及び量子井戸を持つ例示的な半導体構造について、本明細書で記載する。更に、そのような構造を備えたレーザ装置の電気光学特性を提示する。
【0010】
本発明の他の主な特徴及び効果は、以下の図面、詳細な説明、及び添付の請求項をよく吟味することで、当業者には明らかになるであろう。
【0011】
本発明の例示的な実施形態について、添付の図面を参照して以下で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、従来のQCLについてのバンド図及び関連する波動関数を示している。
【0013】
【
図2A】
図2Aは、開示する半導体構造の例示的な実施形態についてのバンド図及び関連する波動関数を示している。
【0014】
【
図2B】
図2Bは、
図2Aの半導体構造における量子井戸及び障壁のそれぞれの組成及び厚さを示している。
【0015】
【
図3A】
図3Aは、開示する半導体構造の例示的な実施形態についてのバンド図及び関連する波動関数を示している。
【0016】
【
図3B】
図3Bは、
図3Aの半導体構造における量子井戸及び障壁のそれぞれの組成及び厚さを示している。
【0017】
【
図4A】
図4Aは、開示する半導体構造の例示的な実施形態についてのバンド図及び関連する波動関数を示している。
【0018】
【
図4B】
図4Bは、
図4Aの半導体構造における量子井戸及び障壁のそれぞれの組成及び厚さを示している。
【0019】
【
図5A】
図5Aは、開示する半導体構造の例示的な実施形態についてのバンド図及び関連する波動関数を示している。
【0020】
【
図5B】
図5Bは、
図5Aの半導体構造における量子井戸及び障壁のそれぞれの組成及び厚さを示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
半導体構造、及びその半導体構造を含むレーザ装置を提供する。この半導体構造により、中波長から長波長(すなわち3〜12μm)の赤外線放射を発し、長時間(すなわち>1000時間)にわたる準連続波又は連続波(CW)動作で、高出力(すなわちワットレンジ)かつ高ウォールプラグ効率で機能するレーザ装置を提供することが可能である。このようなレーザ装置は、環境モニタリングから、爆発物の遠隔検知及び商用と軍用の両方の飛行機のミサイル回避システムに至るまで、様々な用途での使用に適している。
【0022】
本発明は、QCLsにおける電子リークを、そのようなデバイスの活性領域において障壁及び量子井戸のある特定の構成を用いることによって実質的に抑制することができるという本発明者らの発見に、少なくとも部分的に基づくものである。これによって、開示する半導体構造のいずれかを含むレーザ装置は、従来及び現状技術のQCLsのどちらと比較した場合でも、優れた電気光学特性を示す。ほんの一例として、開示するレーザ装置のいずれかにおける電子リークは、現状技術のQCLsの約3分の1、従来のQCLsの約6分の1となり得る。室温J
th値は、レーザ発振レベル間の行列要素を減少させる(現状技術のQCLsの課題)ことなく、現状技術及び従来のQCLsのどちらよりも約20%小さくなり得る。低いJ
th値と、電子リークが実質的に抑制されることの組み合わせによって、有意に高い前端面(front-facet)又は片端面(single-facet)の室温CWウォールプラグ効率(例えば約22%)につながる。そして、CWウォールプラグ効率の温度に伴う変化が、従来のQCLsに比較して約3倍遅くなり得ることで、高温かつワットレンジ出力レベルでの長期的な安定動作が可能となる。当然のことながら、上記の電気光学値は、開示するレーザ装置の単なる例示的な電気光学値にすぎない。他の値が可能である。
【0023】
開示する発明についての更なる背景を提供するため、
図1は、従来のQCLについてのバンド図及び関連する波動関数を示している。QCLの1段100は、注入領域102と、活性領域104と、引き抜き領域106と、を含んでいる。活性領域の障壁には、注入障壁108と、放出障壁110と、中間障壁112と、が含まれる。電子は、注入領域における基底準位gから、活性領域におけるレーザ上準位4に注入される。一部の電子は、所望の波長で光を発して、レーザ下準位3に緩和する。レーザ上準位4からの一次電子リーク経路は、準位5への電子の熱励起を伴い、そこからそれらは、下位のエネルギー状態3、2、1に緩和するか、更に準位6に励起されるか、いずれかである。準位6では、電子リークは、準位3、2、1への緩和と、上位のΓミニバンド準位への励起及びその後の連続準位への励起と、そのどちらも伴う。
図1は、更に、準位4と5のエネルギー差(E
54=46meV)、準位5と6のエネルギー差(E
65=80meV)、準位6と上位のΓミニバンドの底の準位のエネルギー差(E
um,6=70meV)を提示している。
【0024】
開示するレーザ装置に関連する電気光学特性を算出するためには、QCLsの閾値電流密度J
th、微分量子効率η
d、最大ウォールプラグ効率η
wp,maxについての従来の等式を、電子のリーク及びバックフィリングの影響を考慮して修正する必要がある。そのような等式については、等式の導出についての詳細な解説を含めて、掲載のために2010年7月に受理されたD.Botez等による「Temperature dependence of the key electro‐optical characteristics for mid‐infrared emitting quantum cascade lasers(中赤外放射量子カスケードレーザの主な電気光学特性の温度依存性)」Applied Physics Letters誌、を参照することができる。
【0025】
基本的な実施形態において、優れた電気光学特性を持つレーザ装置を提供する半導体構造は、電子注入部と、電子注入部に隣接する活性領域と、活性領域に隣接する電子引き抜き部とを含んでいる。電子注入部、活性領域、及び電子引き抜き部は、それぞれ半導体の層を含んでおり、それらの層は、量子井戸と障壁とを交互に提供するように構成されている。活性領域は、注入障壁と、放出障壁と、注入障壁と放出障壁との間の第1の中間障壁と、注入障壁と放出障壁との間で第1の中間障壁の下流にある第2の中間障壁と、を含んでいる。放出障壁、第1の中間障壁、及び第2の中間障壁のそれぞれのエネルギーは、電子注入部の障壁のエネルギーよりも大きい。一部の実施形態では、注入障壁のエネルギーも、同じく電子注入部の障壁のエネルギーよりも大きい。そして、注入障壁のエネルギーは放出障壁のエネルギーよりも小さく、第1の中間障壁のエネルギーは第2の中間障壁のエネルギーよりも小さい。
【0026】
活性領域の障壁のエネルギーは、その障壁の上端と、上流の隣接する量子井戸の底との間のエネルギーの差と定義することができる。例えば、
図1の従来のQCLでは、放出障壁110のエネルギーは、障壁110の上端と上流の隣接する量子井戸114の底との間のエネルギーの差である。
【0027】
第1の中間障壁と第2の中間障壁のエネルギーは、それぞれ、注入障壁と放出障壁のエネルギーに対して相対的な(すなわち、より小さい、等しい、又はより大きい)値の範囲を持ち得る。しかし、一部の実施形態では、第1の中間障壁のエネルギーは注入障壁のエネルギー以上の大きさである。他の実施形態では、第1の中間障壁のエネルギーは注入障壁のエネルギー以上の大きさであり、第2の中間障壁のエネルギーは放出障壁のエネルギー以下の大きさである。更に別の実施形態では、第1の中間障壁のエネルギーは注入障壁のエネルギー以上の大きさであり、第2の中間障壁のエネルギーは放出障壁のエネルギーよりも大きい。
【0028】
開示する半導体構造は、第1の中間障壁と第2の中間障壁との間に第3の中間障壁を含むことができ、この第3の中間障壁のエネルギーは、電子注入部の障壁のエネルギーよりも大きい。一部の実施形態では、第1と第2の中間障壁に対し、第3の中間障壁のエネルギーは、第1の中間障壁のエネルギーから第2の中間障壁のエネルギーまでの範囲とすることができる。このような実施形態では、第1の中間障壁と第2の中間障壁のエネルギーは、上記で開示したエネルギーのいずれかとすることができる。一部の実施形態では、第1の中間障壁のエネルギーは注入障壁のエネルギーよりも大きく、第2の中間障壁のエネルギーは放出障壁のエネルギーに等しく、第3の中間障壁のエネルギーは第1の中間障壁のエネルギーに等しい。
【0029】
他の実施形態では、第1の中間障壁のエネルギーは注入障壁のエネルギーに等しく、第2の中間障壁のエネルギーは放出障壁のエネルギーに等しく、第3の中間障壁のエネルギーは第1の中間障壁のエネルギーに等しい。
【0030】
更に別の実施形態では、第1の中間障壁のエネルギーは注入障壁のエネルギーに等しく、第2の中間障壁のエネルギーは放出障壁のエネルギーよりも小さく、第3の中間障壁のエネルギーは、第1の中間障壁のエネルギーよりも大きく、かつ第2の中間障壁のエネルギーよりも小さい。
【0031】
更に別の実施形態では、第1の中間障壁のエネルギーは注入障壁のエネルギーよりも大きく、第2の中間障壁のエネルギーは放出障壁のエネルギーよりも大きく、第3の中間障壁のエネルギーは第1の中間障壁のエネルギーに等しい。
【0032】
開示する半導体構造の活性領域の障壁は、複合障壁とすることができる。複合障壁は、2つ以上の異なる半導体の障壁層からなる障壁である。複合障壁のエネルギーは、最も高いエネルギーの障壁層のエネルギーと、最も低いエネルギーの障壁層のエネルギー値との間の中間値である。例示的な複合障壁208を
図2Aに示している。この複合障壁は、第1の障壁層210と第2の障壁層212とを含んでいる。
図2Bに示すように、第1の障壁層(Al
0.56In
0.44As)と第2の障壁層(Al
0.65In
0.35As)の組成は異なる。一部の実施形態では、開示する半導体構造のいずれかにおける注入障壁は、第1の障壁層と第2の障壁層とを含む複合注入障壁である。
【0033】
開示する半導体構造の活性領域の量子井戸は、深い量子井戸とすることができる。深い量子井戸は、隣接する電子注入部の量子井戸の底よりも低いエネルギーの井戸底を持つ量子井戸である。例示的な深い量子井戸222を
図2Aに示している。一部の実施形態では、活性領域の量子井戸のうち少なくとも1つは、深い量子井戸である。他の実施形態では、活性領域の量子井戸の各々は、深い量子井戸である。
【0034】
開示する半導体構造は、様々な組成の量子井戸及び障壁を含むことができる。一部の実施形態では、半導体構造は、InGaAsを含む量子井戸と、AlInAsを含む障壁と、を含んでいる。また、そのような実施形態では、半導体構造は、AlAsを含む障壁を含むこともできる。他の実施形態では、半導体構造は、InGaAsを含む量子井戸と、AlAsSbを含む障壁と、を含んでいる。また、そのような実施形態では、半導体構造は、AlAsを含む障壁を含むこともできる。更に別の実施形態では、半導体構造は、GaAsを含む量子井戸と、AlGaAsを含む障壁と、を含んでいる。更に別の実施形態では、半導体構造は、InGaAsを含む量子井戸と、GaAsを含む量子井戸と、AlGaAsを含む障壁と、AlGaAsPを含む障壁と、GaAsPを含む障壁と、を含んでいる。具体的な、量子井戸及び障壁の典型例となる組成は、
図2B、3B、4B、及び5Bに記載している。考えられる他の組成は、米国特許第7558305号及び第7403552号に記載されている。
【0035】
開示する半導体構造の活性領域は、上位のエネルギー状態4、5、6(例えば、
図2A、3A、4A、5Aに示す例示的な実施形態を参照)を含んでおり、エネルギー状態4と5のエネルギー差はE
54で表され、エネルギー状態5と6のエネルギー差はE
65で表される。従来及び現状技術のQCLsと比べて、開示する半導体構造は、はるかに大きいE
54値及びE
65値を提供し、その結果、電子リークが実質的に抑制される。一部の実施形態では、E
54は、少なくとも約70meVである。他の実施形態では、E
54は、少なくとも約75meV、又は少なくとも約80meVである。一部の実施形態では、E
65は、少なくとも約70meVである。他の実施形態では、E
65は、少なくとも約75meV、少なくとも約80meV、少なくとも約85meV、少なくとも約90meV、少なくとも約95meV、又は少なくとも約100meVである。
【0036】
開示する半導体構造は、中波長から長波長(すなわち3〜12μm)の赤外領域で放射するレーザ装置を提供するように構成することができる。一部の実施形態では、半導体構造は、約3μmから約5μmまで、約4μmから約5μmまで、約4.5μmから約5μmまで、約5μm超から、約8μm超から、又は約8μmから約12μmまでの波長帯で放射線を発するレーザ装置を提供するように構成される。このようにして、更に、開示する半導体構造のいずれかを含むレーザ装置が提供される。このようなレーザ装置は、複数のレーザ段(laser stage)を含み、各レーザ段は、開示する半導体構造のいずれかを有している。一部の実施形態では、レーザ装置は、少なくとも10、少なくとも25、少なくとも30、又は少なくとも40のレーザ段を含んでいる。レーザ装置は、例えば、最終電子ブラッグミラーを提供するための追加の引き抜き領域及び注入領域、横方向光導波路、基板、及びコンタクト層など、QCL型半導体構造をレーザ装置に構成するための他の周知の構成要素を含むことができる。これらの構成要素のいくつかに関する更なる詳細については、少なくとも、J.C.Shin等による「Ultra‐low temperature sensitive deep‐well quantum cascade lasers(λ=4.8μm) via uptapering conduction band edge of injector regions(注入領域の伝導帯端の傾斜を大きくすることにより温度依存性が極めて低く井戸が深い量子カスケードレーザ(λ=4.8μm))」Electronics Letters誌,2009年7月2日,45巻、14号、を参照することができる。
【0037】
上述のように、開示する半導体構造は、低い電子リークと、低い室温J
th値と、高い最大ウォールプラグ効率とを含む優れた電気光学特性を持つ構造を備えるレーザ装置を提供することが可能である。一部の実施形態では、半導体構造は、約4μmから約5μmで放射するレーザ装置を提供するように構成されており、そのレーザ装置は、約5%以下、約4%以下、又は約3%以下である相対リーク電流値(J
leak/J
th)によって特徴付けられる。閾値電流密度J
thは、上記のように算出することができ、又は周知の方法を用いて実験的に決定することができる。また、電子リークJ
leakは、掲載のために2010年7月に受理されたD.Botez等による「Temperature dependence of the key electro‐optical characteristics for mid‐infrared emitting quantum cascade lasers(中赤外放射量子カスケードレーザの主な電気光学特性の温度依存性)」Applied Physics Letters誌、に記載されている適当な式から算出することもできる。
【0038】
一部の実施形態では、半導体構造は、約4.5μmから約5μmの波長帯で放射線を発するレーザ装置を提供するように構成されており、そのレーザ装置は、30段、3mm長で、端面がコーティングされていない構造の場合に、約1.7kA/cm
2以下、約1.6kA/cm
2以下、約1.5kA/cm
2以下、又は約1.4kA/cm
2以下である室温J
th値によって特徴付けられる。他の実施形態では、半導体構造は、約4.5μmから約5μmの波長帯で放射線を発するレーザ装置を提供するように構成されており、そのレーザ装置は、40段、3mm長で、後端面が高反射コーティングされた構造の場合に、約1.0kA/cm
2以下、約0.9kA/cm
2以下、約0.8kA/cm
2以下、又は約0.7kA/cm
2以下である室温J
th値によって特徴付けられる。
【0039】
一部の実施形態では、半導体構造は、約4.5から約5μmの波長帯で放射線を発するレーザ装置を提供するように構成されており、そのレーザ装置は、約15%超、約20%超、又は約22%超の室温CW最大ウォールプラグ効率(η
wp,max)を示すものである。η
wp,max値は、掲載のために2010年7月に受理されたD.Botez等による「Temperature dependence of the key electro‐optical characteristics for mid‐infrared emitting quantum cascade lasers(中赤外放射量子カスケードレーザの主な電気光学特性の温度依存性)」Applied Physics Letters誌、に掲載されている適当な式から算出することができる。
【0040】
開示する半導体構造及びレーザ装置は、周知の方法を用いて形成することができる。例えば、半導体構造は、有機金属化学気相成長法(MOCVD)を用いて、適当な基板(例えば、InP、GaAs、GaSb、及びInAs)上に成長させることができる。
【0041】
開示する半導体構造の例示的な実施形態を、
図2〜5に示しており、更に以下で説明している。
図2Aは、半導体構造200についての、74kV/cmの印加電界でのバンド図及び関連する波動関数を示している。半導体構造200は、4.64μmの波長で放射線を発するレーザ装置を提供するように構成されている。
図2Bは、
図2Aの半導体構造200における量子井戸及び障壁のそれぞれの組成及び厚さを示している。
【0042】
図2Aを参照すると、半導体構造200は、電子注入部202と、活性領域204と、電子引き抜き部206と、を含んでいる。活性領域204は注入障壁208を含んでおり、それは、第1の障壁層210と第2の障壁層212とを含む複合注入障壁である。上述のように、注入障壁208のエネルギーは、第1の障壁層210のエネルギーと、第2の障壁層212のエネルギーとの間の中間値を持つ。更に、活性領域は、放出障壁214と、第1の中間障壁216と、第2の中間障壁218と、第3の中間障壁220と、を含んでいる。注入障壁208、放出障壁214、中間障壁218〜220のそれぞれのエネルギーは、電子注入部202の障壁224のエネルギーよりも大きい。注入障壁208のエネルギーは、放出障壁214のエネルギーよりも小さく、第1の中間障壁216のエネルギーは、第2の中間障壁218のエネルギーよりも小さい。また、第1の中間障壁216は注入障壁208よりもエネルギーが大きく、第2の中間障壁218は放出障壁214とエネルギーが等しく、第3の中間障壁220は第1の中間障壁216とエネルギーが等しい。活性領域は、更に量子井戸222を含み、これらは深い量子井戸である。
【0043】
図2Aは、更に、半導体構造200のE
54値が77meVであり、E
65値が77meVであることを示している。結果として、電子リークが大幅に抑制される。半導体構造200を含むレーザ装置についての、計算による室温での推定相対リーク電流J
leak/J
thは、約4%である。これは、現状技術のQCLsの約2分の1であり、従来のQCLsの約4分の1である。30段、3mm長で、端面がコーティングされていない装置の場合の、計算による室温での推定J
th値は、約1.57kA/cm
2である。これは、現状技術及び従来のQCLsのいずれの同様の装置のパラメータよりも、約14%小さい。一方、レーザ発振遷移の行列要素(すなわちz
43)は1.42nmであり、寿命τ
4とτ
3は、それぞれ1.54psと0.29psである。これらの値は、従来のQCLsにおける場合と同じような値である。比較のため、現状技術のQCLsの電気光学特性は以下の通りである。室温J
leak/J
thは約9%であり、30段、3mm長で、端面がコーティングされていない装置の場合の室温J
thは約1.83kA/cm
2であり、z
43=1.44nm、τ
4=1.37ps、τ
3=0.33psである。このように、半導体構造200は、電子リークを抑制することが可能であり、また、レーザ発振レベル間の行列要素を減少させることなく、はるかに低い室温J
th値を示すことが可能であり、これによって、高い前端面CWウォールプラグ効率を提供する。
【0044】
図3Aは、半導体構造300についての、82kV/cmの印加電界でのバンド図及び関連する波動関数を示している。半導体構造300は、4.65μmの波長で放射線を発するレーザ装置を提供するように構成されている。
図3Bは、
図3Aの半導体構造300における量子井戸及び障壁のそれぞれの組成及び厚さを示している。
【0045】
図3Aを参照すると、半導体構造300は、電子注入部302と、活性領域304と、電子引き抜き部306と、を含んでいる。活性領域304は、注入障壁308と、放出障壁310と、第1の中間障壁312と、第2の中間障壁314と、第3の中間障壁316と、を含んでいる。注入障壁308、放出障壁314、及び中間障壁312〜316のそれぞれのエネルギーは、電子注入部302の障壁320のエネルギーよりも大きい。注入障壁308のエネルギーは放出障壁310のエネルギーよりも小さく、第1の中間障壁312のエネルギーは第2の中間障壁314のエネルギーよりも小さい。また、第1の中間障壁312は注入障壁308とエネルギーが等しく、第2の中間障壁314は放出障壁310とエネルギーが等しく、第3の中間障壁316は第1の中間障壁312とエネルギーが等しい。活性領域は、更に量子井戸318を含み、これらは深い量子井戸である。
【0046】
図3Aは、更に、半導体構造300のE
54値が75meVであり、E
65値が83meVであることを示している。結果として、電子リークが大幅に抑制される。半導体構造300を含むレーザ装置についての、計算による室温での推定相対リーク電流J
leak/J
thは、約4%である。これは、現状技術のQCLsの約2分の1であり、従来のQCLsの約4分の1である。30段、3mm長で、端面がコーティングされていない装置の場合の、計算による室温での推定J
th値は約1.64kA/cm
2である。これは、現状技術及び従来のQCLsのいずれの同様の装置のパラメータよりも、約10%小さい。一方、レーザ発振遷移の行列要素(すなわちz
43)は1.45nmであり、寿命τ
4とτ
3は、それぞれ1.47psと0.35psである。これらの値は、従来のQCLsの場合と同じような値である。このように、半導体構造300は、電子リークを抑制することが可能であり、また、レーザ発振レベル間の行列要素を減少させることなく、はるかに低い室温J
th値を示すことが可能であり、これによって、高い前端面CWウォールプラグ効率を提供する。
【0047】
図4Aは、半導体構造400についての、74kV/cmの印加電界でのバンド図及び関連する波動関数を示している。半導体構造400は、4.60μmの波長で放射線を発するレーザ装置を提供するように構成されている。
図4Bは、
図4Aの半導体構造400における量子井戸及び障壁のそれぞれの組成及び厚さを示している。
【0048】
図4Aを参照すると、半導体構造400は、電子注入部402と、活性領域404と、電子引き抜き部406と、を含んでいる。活性領域404は、注入障壁408と、放出障壁410と、第1の中間障壁412と、第2の中間障壁414と、第3の中間障壁416と、を含んでいる。注入障壁408、放出障壁410、中間障壁412〜416のそれぞれのエネルギーは、電子注入部402の障壁420のエネルギーよりも大きい。注入障壁408のエネルギーは放出障壁410のエネルギーよりも小さく、第1の中間障壁412のエネルギーは第2の中間障壁414のエネルギーよりも小さい。第1の中間障壁412は注入障壁408とエネルギーが等しく、第2の中間障壁414のエネルギーは放出障壁410のエネルギーよりも小さく、第3の中間障壁416のエネルギーは、第1の中間障壁412のエネルギーよりも大きく、かつ第2の中間障壁414のエネルギーよりも小さい。活性領域は、更に量子井戸418を含み、これらは深い量子井戸である。
【0049】
図4Aは、更に、半導体構造400のE
54値が84meVであり、E
65値が101meVであることを示している。これらは、任意のタイプのQCL装置で達成されるそのような値の最も大きな値である。結果として、電子リークが大幅に抑制される。具体的には、半導体構造400を含むレーザ装置についての、計算による室温での相対リーク電流J
leak/J
thは、約2.7%である。これは、現状技術のQCLsの約3分の1であり、従来のQCLsの約6分の1である。半導体構造400を含む、30段、3mm長で、端面がコーティングされていないレーザ装置の場合の、計算による室温でのJ
th値は、約1.5kA/cm
2である。これは、現状技術及び従来のQCLsのいずれの同様の装置のパラメータよりも、約18%小さい。一方、レーザ発振遷移の行列要素(すなわちz
43)は1.4nmであり、寿命τ
4とτ
3は、それぞれ1.59psと0.36psである。これらの値は、従来のQCLsの場合と同じような値である。
【0050】
低いJ
th値と、電子リークが実質的に抑制されることの組み合わせによって、有意に高い室温CWウォールプラグ効率につながる。具体的には、半導体構造400を含み、後端面が高反射コーティングされた装置の前端面放射出力についての推定室温パルスη
wp,max(すなわち有効出力)は、約22.7%である。これは、これまでに公表された片端面出力の最高のパルスη
wp,max値よりも約1.6倍高い。R.Maulini等によるApplied Physics Letters誌,95巻、151112(2009年)を参照することができる。半導体構造400を含む、40段、3mm長で、後端面が高反射コーティングされたレーザ装置の前端面の推定室温CWη
wp,maxは、約21.5%である。これは、あらゆるタイプのQCLでこれまでに得られた最高の室温CWη
wp,max値の約2倍である。そして、温度に伴うCWウォールプラグ効率の変化は、従来のQCLsに比べて約3倍遅い。
【0051】
図5Aは、半導体構造500についての、74kV/cmの印加電界でのバンド図及び関連する波動関数を示している。半導体構造500は、4.6μmの波長で放射線を発するレーザ装置を提供するように構成されている。
図5Bは、
図5Aの半導体構造500における量子井戸及び障壁のそれぞれの組成及び厚さを示している。
【0052】
図5Aを参照すると、半導体構造500は、電子注入部502と、活性領域504と、電子引き抜き部506と、を含んでいる。活性領域504は注入障壁508を含み、これは、第1の障壁層510と第2の障壁層512とからなる複合障壁である。上述のように、注入障壁508のエネルギーは、第1の障壁層510のエネルギーと第2の障壁層512のエネルギーとの間の中間値を持つ。更に、活性領域は、放出障壁514と、第1の中間障壁516と、第2の中間障壁518と、第3の中間障壁520と、を含んでいる。注入障壁508、放出障壁514、及び中間障壁516〜520のそれぞれのエネルギーは、電子注入部502の障壁524のエネルギーよりも大きい。注入障壁508のエネルギーは放出障壁514のエネルギーよりも小さく、第1の中間障壁516のエネルギーは第2の中間障壁518のエネルギーよりも小さい。第1の中間障壁516のエネルギーは注入障壁508のエネルギーよりも大きく、第2の中間障壁518のエネルギーは放出障壁514のエネルギーよりも大きく、第3の中間障壁520は第1の中間障壁516とエネルギーが等しい。活性領域は、更に量子井戸522を含み、これらは深い量子井戸である。
【0053】
図5Aは、更に、半導体構造500のE
54値が79meVであり、E
65値が73meVであることを示している。結果として、電子リークが大幅に抑制される。半導体構造500を含むレーザ装置についての、計算による室温での推定相対リーク電流J
leak/J
thは約3.5%である。これは、現状技術のQCLsの約2.5分の1であり、従来のQCLsの約4分の1である。30段、3mm長で、端面がコーティングされていない装置の場合の、計算による室温での推定J
th値は、約1.36kA/cm
2である。これは、現状技術及び従来のQCLsのいずれの同様の装置のパラメータよりも約26%小さい。40段、3mm長で、後端面が高反射コーティングされた装置の場合の、計算による室温での推定J
th値は更に低く、約0.67kA/cm
2である。また、レーザ発振遷移の行列要素(すなわちz
43)は1.4nmであり、寿命τ
4とτ
3は、それぞれ1.77psと0.34psである。このように、半導体構造500は、電子リークを抑制することが可能であり、また、レーザ発振レベル間の行列要素を減少させることなく、はるかに低い室温J
th値を示すことが可能であり、これによって、高い前端面CWウォールプラグ効率を提供する。具体的には、半導体構造500を含む、40段、3mm長で、後端面が高反射コーティングされたレーザ装置の場合の、推定される前端面室温CWη
wp,maxは22%である。
【0054】
本開示の目的では、特に指定がなければ、“a”又は“an”は、「1つ又は複数の」を意味する。更に、「及び」もしくは「又は」を用いるときは、特に指定がなければ、「及び/又は」を含むものとする。
【0055】
本明細書で引用した全ての特許、出願、参考文献、及び刊行物は、それらが個々に参照により組み込まれるのと同じ程度に、その全体が参照により組み込まれる。
【0056】
当業者であれば分かるように、あらゆる目的のため、特に書面による明細書において、本書で開示する全ての範囲(range)は、その考え得るあらゆる部分範囲(subrange)、及び部分範囲の組み合わせも含むものである。記載した範囲はいずれも、その範囲を少なくとも2等分、3等分、4等分、5等分、10等分などすることを十分に示すものとして、またそのような等分が可能なものとして、容易に認められる。限定するものではない例として、本明細書で記載した範囲はそれぞれ、下側3分の1と、真ん中の3分の1と、上側3分の1などに、容易に分割することができる。また、やはり当業者であれば分かるように、「最大で(up to)」、「少なくとも(at least)」、「より大きい(greater than)」、「より小さい(less than)」などの表現は全て、記載した数値を含むものであり、上述のように後に部分範囲に分割することが可能な範囲を指している。更に、当業者であれば分かるように、範囲は、1つ1つの要素を含むものである。
【0057】
本発明は、特に、本明細書に記載の実施形態及び実例に限定されるものではなく、それらの実施形態の変形を含むものであり、それには、それらの実施形態の部分、及び異なる実施形態の要素の組み合わせで、以下の請求項の範囲内にあるものが含まれる。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕半導体構造であって、
電子注入部と、前記電子注入部に隣接する活性領域と、前記活性領域に隣接する電子引き抜き部とを備え、
前記電子注入部、前記活性領域及び前記電子引き抜き部は、それぞれ半導体の層を有し、それらの層は、量子井戸と障壁とを交互に提供するように構成されており、
前記活性領域は、注入障壁と、放出障壁と、前記注入障壁と前記放出障壁との間の第1の中間障壁と、前記注入障壁と前記放出障壁との間で前記第1の中間障壁の下流にある第2の中間障壁とを含み、
前記注入障壁、前記放出障壁、前記第1の中間障壁及び前記第2の中間障壁のそれぞれのエネルギーは、前記電子注入部の障壁のエネルギーよりも大きく、
また、前記注入障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーよりも小さく、
前記第1の中間障壁のエネルギーは前記第2の中間障壁のエネルギーよりも小さい、
半導体構造。
〔2〕前記第1の中間障壁のエネルギーは、前記注入障壁のエネルギー以上の大きさである、前記〔1〕に記載の半導体構造。
〔3〕前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギー以上の大きさであり、
前記第2の中間障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギー以下の大きさである、
前記〔1〕に記載の半導体構造。
〔4〕前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギー以上の大きさであり、
前記第2の中間障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーよりも大きい、
前記〔1〕に記載の半導体構造。
〔5〕前記第1の中間障壁と前記第2の中間障壁との間に第3の中間障壁を更に含み、
前記第3の中間障壁のエネルギーは前記電子注入部の障壁のエネルギーよりも大きい、前記〔1〕に記載の半導体構造。
〔6〕前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギー以上の大きさであり、
前記第3の中間障壁のエネルギーは、前記第1の中間障壁のエネルギーから前記第2の中間障壁のエネルギーまでの範囲にある、
前記〔5〕に記載の半導体構造。
〔7〕前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギー以上の大きさであり、
前記第2の中間障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギー以下の大きさであり、
前記第3の中間障壁のエネルギーは前記第1の中間障壁のエネルギーから前記第2の中間障壁のエネルギーまでの範囲にある、
前記〔5〕に記載の半導体構造。
〔8〕前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギー以上の大きさであり、
前記第2の中間障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーよりも大きく、
前記第3の中間障壁のエネルギーは前記第1の中間障壁のエネルギーから前記2の中間障壁のエネルギーまでの範囲にある、
前記〔5〕に記載の半導体構造。
〔9〕前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギーよりも大きく、
前記第2の中間障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーに等しく、
前記第3の中間障壁のエネルギーは前記第1の中間障壁のエネルギーに等しい、
前記〔5〕に記載の半導体構造。
〔10〕前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギーに等しく、
前記第2の中間障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーに等しく、
前記第3の中間障壁のエネルギーは前記第1の中間障壁のエネルギーに等しい、
前記〔5〕に記載の半導体構造。
〔11〕前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギーに等しく、
前記第2の中間障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーよりも小さく、
前記第3の中間障壁のエネルギーは、前記第1の中間障壁のエネルギーよりも大きく、かつ前記第2の中間障壁のエネルギーよりも小さい、
前記〔5〕に記載の半導体構造。
〔12〕前記第1の中間障壁のエネルギーは前記注入障壁のエネルギーよりも大きく、
前記第2の中間障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーよりも大きく、
前記第3の中間障壁のエネルギーは前記第1の中間障壁のエネルギーに等しい、
前記〔5〕に記載の半導体構造。
〔13〕前記注入障壁は、第1の障壁層と第2の障壁層とを含む複合注入障壁である、前記〔1〕に記載の半導体構造。
〔14〕前記活性領域の量子井戸のうち少なくとも1つは、深い量子井戸である、前記〔1〕に記載の半導体構造。
〔15〕前記活性領域の量子井戸は全て、深い量子井戸である、前記〔1〕に記載の半導体構造。
〔16〕当該半導体構造は、InGaAsを含む量子井戸と、AlInAsを含む障壁とを含む、前記〔1〕に記載の半導体構造。
〔17〕前記活性領域は上位のエネルギー状態4、5、6を含み、エネルギー状態4と5の間のエネルギー差(E54)は少なくとも約70meVである、前記〔1〕に記載の半導体構造。
〔18〕更に、エネルギー状態5と6の間のエネルギー差(E65)は少なくとも約70meVである、前記〔17〕に記載の半導体構造。
〔19〕更に、エネルギー状態5と6の間のエネルギー差(E65)は少なくとも約100meVである、前記〔17〕に記載の半導体構造。
〔20〕当該半導体構造は、約4μmから約5μmの波長帯で放射線を発するレーザ装置を提供するように構成されている、前記〔1〕に記載の半導体構造。
〔21〕当該半導体構造は、約5%以下である室温相対リーク電流値(Jleak/Jth)を特徴とするレーザ装置を提供するように構成されている、前記〔20〕に記載の半導体構造。
〔22〕当該半導体構造は、約20%より高い前端面室温連続波最大ウォールプラグ効率(ηwp,max)を示すレーザ装置を提供するように構成されている、前記〔20〕に記載の半導体構造。
〔23〕半導体構造であって、
電子注入部と、前記電子注入部に隣接する活性領域と、前記活性領域に隣接する電子引き抜き部とを備え、
前記電子注入部、前記活性領域及び前記電子引き抜き部は、それぞれ半導体の層を有し、それらの層は、量子井戸と障壁とを交互に提供するように構成されており、
前記活性領域は、注入障壁と、放出障壁と、前記注入障壁と前記放出障壁との間の第1の中間障壁と、前記注入障壁と前記放出障壁との間で前記第1の中間障壁の下流にある第2の中間障壁とを含み、
前記放出障壁、前記第1の中間障壁及び前記第2の中間障壁のそれぞれのエネルギーは、前記電子注入部の障壁のエネルギーよりも大きく、
また、前記注入障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーよりも小さく、
前記第1の中間障壁のエネルギーは前記第2の中間障壁のエネルギーよりも小さく、
更に、当該半導体構造は、約5μmより大きい波長で放射するレーザ装置を提供するように構成されている、半導体構造。
〔24〕当該半導体構造は、約8μmより大きい波長で放射するレーザ装置を提供するように構成されている、前記〔23〕に記載の半導体構造。
〔25〕複数のレーザ段を含むレーザ装置であって、各レーザ段は、前記〔23〕に記載の半導体構造を含む、レーザ装置。
〔26〕複数のレーザ段を含むレーザ装置であって、
各レーザ段は半導体構造を含み、
該半導体構造は、
電子注入部と、前記電子注入部に隣接する活性領域と、前記活性領域に隣接する電子引き抜き部とを備え、
前記電子注入部、前記活性領域及び前記電子引き抜き部は、それぞれ半導体の層を有し、それらの層は、量子井戸と障壁とを交互に提供するように構成されており、
前記活性領域は、注入障壁と、放出障壁と、前記注入障壁と前記放出障壁との間の第1の中間障壁と、前記注入障壁と前記放出障壁との間で前記第1の中間障壁の下流にある第2の中間障壁とを含み、
前記注入障壁、前記放出障壁、前記第1の中間障壁及び前記第2の中間障壁のそれぞれのエネルギーは、前記電子注入部の障壁のエネルギーよりも大きく、
また、前記注入障壁のエネルギーは前記放出障壁のエネルギーよりも小さく、
前記第1の中間障壁のエネルギーは前記第2の中間障壁のエネルギーよりも小さい、
レーザ装置。