【文献】
International Journal ofMolecular Medicine,2010年,Vol.26,No.6,p.877-883
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ラベプラゾール(Rabeprazole)及びランソプラゾール(Lansoprazole)からなる群より選択される一以上の化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、骨形成促進剤。
骨形成促進剤を製造するための、ラベプラゾール(Rabeprazole)及びランソプラゾール(Lansoprazole)からなる群より選択される一以上の化合物又はその薬学的に許容される塩の使用。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
BMPは骨のみに作用するサイトカインではなく、しかもタンパク質であるためその適用方法は限定的である(経口投与は事実上、不可能である)。また、骨新生を誘導したい部位に最適な濃度でデリバリーするためには適切な担体が必要となる。生産コストも高額である。更には、強力な骨誘導能があるため、意図しない部位での骨新生(異所性骨化)のおそれも高い。一方、レチノイン酸には催奇形性があるため、その臨床利用は大幅に制限されている。また、ビタミンD3、エストロゲン、グルココルチコイドには骨吸収の促進や高カルシウム血症、卵巣がんの発生などの副作用が報告されている。デキサメサゾン、β-グリセロフォスフェート及びアスコルビン酸の組み合わせによる骨髄間葉系細胞のex vivo分化誘導が臨床研究応用されているが、患者への局所投与ならびに全身投与には適さない。
以上の事情に鑑み本発明は、局所投与ならびに全身投与が可能な臨床応用に適した骨形成促進剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化を誘導するマスター転写因子としてRunx2(runt-related transcription factor 2)が知られている。Runx2の発現はBMP-2により促進される。本願発明者らは、Runx2に注目し、Runx2の発現を特異的に増強させる低分子化合物を既認可薬の中からスクリーニングすることを試みた。具体的には、まず正常ヒトRUNX2遺伝子のP1プロモーター領域2 kbをルシフェラーゼのcDNA上流に連結したレポーターベクターをマウス未分化間葉系細胞株C3H10T1/2に遺伝子導入し、安定発現株を樹立した。こうして得た細胞を、培養液へのBMP-2の添加により骨芽細胞に分化誘導した後、1186種類の既認可薬(Prestwick Chemical社)の存在下でさらに24時間培養し、ルシフェラーゼアッセイによるスクリーニングを行った。1次スクリーニングではレポーター活性促進のカットオフ値をvehicle比の1.5倍に設定した。1次スクリーニングで選抜された48種類の候補薬を更に条件を厳しくした2次スクリーニングに供し、15種類の候補薬に絞った。この中で、国内で使用実績のある9種類に注目し、それらの活性について濃度依存性を調べた(3次スクリーニング)。その結果、7種類の候補薬にRUNX2プロモーター活性促進に関する濃度依存性が存在した。これら7種類の候補薬の内、5種類にはRUNX2プロモーター活性を特異的に促進する作用を認めた。これら5種類の候補薬の中から、臨床的に幅広く使用され、長期服用による安全性が担保されているプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor, PPI)である2種類を選択し、BMP-2誘導C3H10T1/2細胞とヒト骨肉腫細胞株(HOS)を用いて内因性RUNX2の遺伝子発現をリアルタイムPCR法で検討したところ、濃度依存的な内因性RUNX2遺伝子の発現上昇を認めた。これら2種類の既認可薬は消化性潰瘍治療薬として利用されているプロトンポンプ阻害薬(PPI)のランソプラゾール(商品名タケプロン、武田薬品工業)とラベプラゾール(商品名パリエット、エーザイ)であった。更に検討を進め、BMP-2誘導C3H10T1/2細胞とHOS細胞を用いてRunx2の蛋白発現量および骨分化指標であるアルカリフォスファターゼ(ALP)活性をそれぞれウェスタンブロッティング法およびELISA法で経時的に評価したところ、上記PPI添加後48時間、72時間でRunx2蛋白発現量は濃度依存性に上昇しており、アルカリフォスファターゼ活性は薬剤添加後、C3H10T1/2細胞では5日、HOS細胞では6日で有意に上昇した。即ち、これら2種類のPPIに骨形成促進効果が認められた。また、ラット骨髄間葉系細胞とヒト骨髄間葉系幹細胞(Poietics(登録商標)、Lonza Ltd.)を用いた実験においても、これらのPPIに骨形成促進効果が確認された。一方、これらPPIのin vivoでの効果を検証するために、ランソプラゾールをラット大腿骨骨欠損モデルに適用した結果、良好な骨形成促進効果を示した。
以下に示す発明は、主として上記の成果に基づく。
[1]フェナゾピリジン塩酸塩(Phenazopyridine hydrochloride)、リルゾール塩酸塩(Riluzole hydrochloride)、トラニラスト(Tranilast)、ラベプラゾール(Rabeprazole)、インドプロフェン(Indoprofen)、ナブメトン(Nabumetone)、ルテオリン(Luteolin)、レフルノミド(Leflunomide)、ランソプラゾール(Lansoprazole)、メチアゾール(Methiazole)、チアベンダゾール(Tiabendazole)、アルベンダゾール(Albendazole)、チアプロフェン酸(Tiaprofenic acid)、バルサラジドナトリウム塩(Balsalazide Sodium)及びシクロスポリンA(Cyclosporin A)からなる群より選択される一以上の化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、骨形成促進剤。
[2]有効成分が、リルゾール塩酸塩(Riluzole hydrochloride)、トラニラスト(Tranilast)、ラベプラゾール(Rabeprazole)、ナブメトン(Nabumetone)、レフルノミド(Leflunomide)、ランソプラゾール(Lansoprazole)、アルベンダゾール(Albendazole)、チアプロフェン酸(Tiaprofenic acid)又はシクロスポリンA(Cyclosporin A)、或いはその薬学的に許容される塩である、[1]に記載の骨形成促進剤。
[3]有効成分が、リルゾール塩酸塩(Riluzole hydrochloride)、トラニラスト(Tranilast)、ラベプラゾール(Rabeprazole)、ナブメトン(Nabumetone)、レフルノミド(Leflunomide)、ランソプラゾール(Lansoprazole)又はチアプロフェン酸(Tiaprofenic acid)、或いはその薬学的に許容される塩である、[1]に記載の骨形成促進剤。
[4]有効成分が、ラベプラゾール(Rabeprazole)、ナブメトン(Nabumetone)、レフルノミド(Leflunomide)、ランソプラゾール(Lansoprazole)又はチアプロフェン酸(Tiaprofenic acid)、或いはその薬学的に許容される塩である、[1]に記載の骨形成促進剤。
[5]有効成分が、ラベプラゾール(Rabeprazole)又はランソプラゾール(Lansoprazole)、或いはその薬学的に許容される塩である、[1]に記載の骨形成促進剤。
[6]前記有効成分はRunx2の発現を誘導する、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の骨形成促進剤。
[7]フェナゾピリジン塩酸塩(Phenazopyridine hydrochloride)、リルゾール塩酸塩(Riluzole hydrochloride)、トラニラスト(Tranilast)、ラベプラゾール(Rabeprazole)、インドプロフェン(Indoprofen)、ナブメトン(Nabumetone)、ルテオリン(Luteolin)、レフルノミド(Leflunomide)、ランソプラゾール(Lansoprazole)、メチアゾール(Methiazole)、チアベンダゾール(Tiabendazole)、アルベンダゾール(Albendazole)、チアプロフェン酸(Tiaprofenic acid)、バルサラジドナトリウム塩(Balsalazide Sodium)及びシクロスポリンA(Cyclosporin A)からなる群より選択される一以上の化合物又はその薬学的に許容される塩を治療上有効量、骨形成が必要な患者に投与するステップを含む、骨形成方法。
[8]骨形成促進剤を製造するための、フェナゾピリジン塩酸塩(Phenazopyridine hydrochloride)、リルゾール塩酸塩(Riluzole hydrochloride)、トラニラスト(Tranilast)、ラベプラゾール(Rabeprazole)、インドプロフェン(Indoprofen)、ナブメトン(Nabumetone)、ルテオリン(Luteolin)、レフルノミド(Leflunomide)、ランソプラゾール(Lansoprazole)、メチアゾール(Methiazole)、チアベンダゾール(Tiabendazole)、アルベンダゾール(Albendazole)、チアプロフェン酸(Tiaprofenic acid)、バルサラジドナトリウム塩(Balsalazide Sodium)及びシクロスポリンA(Cyclosporin A)からなる群より選択される一以上の化合物又はその薬学的に許容される塩の使用。
[9]プロトンポンプ阻害剤を有効成分として含有する、骨形成促進剤。
[10]プロトンポンプ阻害剤がベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤である、[9]に記載の骨形成促進剤。
[11]プロトンポンプ阻害剤を治療上有効量、骨形成が必要な患者に投与するステップを含む、骨形成方法。
[12]プロトンポンプ阻害剤がベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤である、[11]に記載の骨形成方法。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】PPI(ラベプラゾール又はランソプラゾール)によるRunx2遺伝子の発現誘導効果。HOS細胞を実験に使用した。横軸はPPIの添加濃度であり、縦軸はRunx2遺伝子の相対発現量である。
【
図2】PPI(ラベプラゾール又はランソプラゾール)によるRunx2遺伝子の発現誘導効果。BMP-2で分化誘導したC3H10T1/2細胞を実験に使用した。横軸はPPIの添加濃度であり、縦軸はRunx2遺伝子の相対発現量である。
【
図3】PPI(ランソプラゾール)によるRunx2蛋白の発現誘導効果。HOS細胞を実験に使用した。Gapdh(内部標準)に対する相対発現量を算出した。
【
図4】PPI(ラベプラゾール)によるRunx2蛋白の発現誘導効果。HOS細胞を実験に使用した。Gapdh(内部標準)に対する相対発現量を算出した。
【
図5】PPI(ランソプラゾール)によるRunx2蛋白の発現誘導効果。BMP-2で分化誘導したC3H10T1/2細胞を実験に使用した。Gapdh(内部標準)に対する相対発現量を算出した。
【
図6】PPI(ラベプラゾール)によるRunx2蛋白の発現誘導効果。BMP-2で分化誘導したC3H10T1/2細胞を実験に使用した。Gapdh(内部標準)に対する相対発現量を算出した。
【
図7】PPI(ラベプラゾール又はランソプラゾール)によるALP活性の上昇効果。HOS細胞を実験に使用した。横軸はPPIの添加濃度であり、縦軸はALPの相対活性である。*p<0.05
【
図8】PPI(ラベプラゾール又はランソプラゾール)によるALP活性の上昇効果。BMP-2で分化誘導したC3H10T1/2細胞を実験に使用した。横軸はPPIの添加濃度であり、縦軸はALPの相対活性である。*p<0.05 **p<0.1
【
図9】PPI(ラベプラゾール又はランソプラゾール)によるRunx2遺伝子の発現誘導効果。ラット骨髄間葉系細胞を実験に使用した。横軸はPPIの添加濃度であり、縦軸はRunx2遺伝子の相対発現量である。P1:1継代、P2:2継代、P3:3継代
【
図10】PPI(ラベプラゾール又はランソプラゾール)によるRunx2遺伝子の発現誘導効果。ヒト骨髄間葉系幹細胞を実験に使用した。横軸はPPIの添加濃度であり、縦軸はRunx2遺伝子の相対発現量である。P0:初代培養、P1:1継代、P2:2継代
【
図11】ラット大腿骨骨欠損モデルでのPPI(ランソプラゾール)の骨形成促進効果。左:ランソプラゾールを投与した群No.1〜6における骨欠損部の軟X線像。右:コントロール群No.1〜6における骨欠損部の軟X線像。○:骨癒合を認める。×:骨癒合を認めない。投与群は1週+2日(但し、No.5のみ0週+3日)と12週+0日の時点の撮影結果を示した。コントロール群は1週+0日(但し、No.1のみ1週+4日)と12週+0日の時点の撮影結果を示した。投与群No.6は4〜5週で創外固定器にゆるみが生じ、肉眼的に骨髄炎を認めた。コントロール群No.3は9〜10週で創外固定器が外れた。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の第1の局面は骨形成促進剤(説明の便宜上、以下では「本発明の医薬」と呼ぶ)に関する。「骨形成促進剤」とは、骨芽細胞系列への分化能を潜在的に有する幹細胞又は前駆細胞に対して作用し、骨芽細胞系列へと分化誘導することによって骨組織の形成を促す薬剤である。骨形成が直接又は間接的に治療ないし予防効果をもたらす各種疾患に対して広く本発明の医薬を適用可能である。例えば、骨折、骨欠損、仮骨延長法を利用した骨延長術に本発明の医薬を適用することができる。本剤は生体外で幹細胞から骨芽細胞を分化誘導させる場合にも適応される。更に全身的な投与と骨形成を必要とする場所に対して局所的に投与することにより骨形成促進が可能である。骨折には1回の衝撃で発生する外傷性骨折、反復する負荷により発生する疲労骨折を含む。骨欠損には、外傷性骨欠損、腫瘍切除後骨欠損、先天性偽関節症、骨系統疾患、歯槽骨欠損、変形矯正後骨欠損を含む。
【0009】
本発明の医薬は、フェナゾピリジン塩酸塩(Phenazopyridine hydrochloride、3-phenyldiazenylpyridine-2,6-diamine hydrochloride(IUPAC名))、リルゾール塩酸塩(Riluzole hydrochloride、6-(trifluoromethoxy)-1,3-benzothiazol-2-amine hydrochloride(IUPAC名))、トラニラスト(Tranilast、2-[[(E)-3-(3,4-dimethoxyphenyl)prop-2-enoyl]amino]benzoic acid(IUPAC名))、ラベプラゾール(Rabeprazole、2-[[4-(3-methoxypropoxy)-3-methylpyridin-2-yl]methylsulfinyl]-1H-benzimidazole(IUPAC名))、インドプロフェン(Indoprofen、2-[4-(3-oxo-1H-isoindol-2-yl)phenyl]propanoic acid(IUPAC名))、ナブメトン(Nabumetone、4-(6-methoxynaphthalen-2-yl)butan-2-one(IUPAC名))、ルテオリン(Luteolin、2-(3,4-dihydroxyphenyl)-5,7-dihydroxychromen-4-one(IUPAC名))、レフルノミド(Leflunomide、5-methyl-N-[4-(trifluoromethyl)phenyl]-1,2-oxazole-4-carboxamide(IUPAC名))、ランソプラゾール(Lansoprazole、2-[[3-methyl-4-(2,2,2-trifluoroethoxy)pyridin-2-yl]methylsulfinyl]-1H-benzimidazole(IUPAC名))、メチアゾール(Methiazole、methyl N-(6-propan-2-ylsulfanyl-1H-benzimidazol-2-yl)carbamate(IUPAC名))、チアベンダゾール(Tiabendazole、4-(1H-benzimidazol-2-yl)-1,3-thiazole(IUPAC名))、アルベンダゾール(Albendazole、methyl N-(6-propylsulfanyl-1H-benzimidazol-2-yl)carbamate(IUPAC名))、チアプロフェン酸(Tiaprofenic acid、2-(5-benzoylthiophen-2-yl)propanoic acid(IUPAC名))、バルサラジドナトリウム塩(Balsalazide Sodium、disodium(3Z)-3-[[4-(2-carboxylatoethylcarbamoyl)phenyl]hydrazinylidene]-6-oxocyclohexa-1,4-diene-1-carboxylate dehydrate(IUPAC名))及びシクロスポリンA(Cyclosporin A、(3S,6S,9S,12R,15S,18S,21S,24S,30S,33S)-30-ethyl-33-[(E,1R,2R)-1-hydroxy-2-methylhex-4-enyl]-1,4,7,10,12,15,19,25,28-nonamethyl-6,9,18,24-tetrakis(2-methylpropyl)-3,21-di(propan-2-yl)-1,4,7,10,13,16,19,22,25,28,31-undecazacyclotritriacontane-2,5,8,11,14,17,20,23,26,29,32-undecone(IUPAC名))からなる群より選択される一以上の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を有効成分とする。これらの化合物は、厳しい評価基準を採用した2次スクリーング(詳細は後述の実施例に示す)よって選抜された化合物であり、転写因子Runx2のプロモーター活性を上昇させる。従って、本発明の医薬は、Runx2の発現上昇を介して治療効果を発揮する。Runx2は骨芽細胞への分化を誘導するマスター転写因子である。骨芽細胞分化にRunx2は必須である。Runx2は骨芽細胞分化の前期では促進的に、後期では抑制的にそれぞれ働くことが知られている。Runx2遺伝子の配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1(DEFINITION: Homo sapiens runt-related transcription factor 2 (RUNX2), transcript variant 1, mRNA. ACCESSION: NM_001024630)及び配列番号2(DEFINITION: runt-related transcription factor 2 isoform a [Homo sapiens]. ACCESSION: NP_001019801)に示す。
【0010】
上記15種類の化合物はいずれも臨床応用の実績がある化合物であり容易に入手可能である。例えば、リルゾール塩酸塩はALS治療薬リルテック(商品名)として、トラニラストは抗アレルギー薬リザベン(商品名)として、ラベプラゾールはプロトンポンプ阻害薬パリエット(商品名)として、ナブメトンは非ステロイド系抗炎症薬レリフェン(商品名)として、レフルノミドは核酸合成阻害薬アラバ(商品名)として、ランソプラゾールはプロトンポンプ阻害薬タケプロン(商品名)として、アルベンダゾールは駆虫薬エスカゾール(商品名)として、チアプロフェン酸は非ステロイド系抗炎症薬スルガム(商品名)として、シクロスポリンAは免疫抑制薬サンジュミン(商品名)として購入することができる。
【0011】
好ましくは、リルゾール塩酸塩、トラニラスト、ラベプラゾール、ナブメトン、レフルノミド、ランソプラゾール、アルベンダゾール、チアプロフェン酸又はシクロスポリンAが有効成分として用いられる。これらの化合物は国内での使用実績のある化合物である。
【0012】
更に好ましくは、リルゾール塩酸塩、トラニラスト、ラベプラゾール、ナブメトン、レフルノミド、ランソプラゾール又はチアプロフェン酸が有効成分として用いられる。これらの化合物は濃度依存性を指標にした3次スクリーニングによって選抜された化合物である。尚、これらの化合物は長期投与にも適する。
【0013】
より一層好ましくは、ラベプラゾール、ナブメトン、レフルノミド、ランソプラゾール又はチアプロフェン酸が有効成分として用いられる。これらの化合物には、RUNX2プロモーター活性を特異的に促進する作用が認められた。
【0014】
最も好ましくは、ラベプラゾール又はランソプラゾールが有効成分として用いられる。これらの化合物は、臨床的に幅広く使用され、長期服用による安全性が担保されているプロトンポンプ阻害薬(PPI)である。本発明者らの検討の結果、これら2種類のPPIは培養細胞を使用した実験において骨形成促進効果を示した。また、in vivoでの骨形成促進効果についても、モデル動物による実験(ランソプラゾールを供試薬として使用)で確認された。
【0015】
本発明の一態様では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)に骨形成促進効果を認めた事実に基づき、PPIを有効成分として用いる。PPIとして、好ましくはベンズイミダゾール系PPIが採用される。は、ベンズイミダゾール系PPIの例はラベプラゾール、ランソプラゾール、オメプラゾール、パントプラゾール、エソメプラゾール、レバプラザン、イラプラゾール、テナトプラゾールである。ベンズイミダゾール系PPIは公知の方法(例えば、特開昭52−62275号公報、特開昭54−141783号公報、特開平1−6270号公報等を参照)により製造することができる。
【0016】
本発明の医薬の有効成分として、上記15種類の化合物の薬理学的に許容される塩を用いても良い。「薬理学的に許容される塩」とは、例えば酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩又はアミノ酸付加塩である。酸付加塩の例としては塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩などの無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、リンゴ酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩が挙げられる。金属塩の例としてはナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩が挙げられる。アンモニウム塩の例としてはアンモニウム、テトラメチルアンモニウムなどの塩が挙げられる。有機アミン付加塩の例としてはモルホリン付加塩、ピペリジン付加塩が挙げられる。アミノ酸付加塩の例としてはグリシン付加塩、フェニルアラニン付加塩、リジン付加塩、アスパラギン酸付加塩、グルタミン酸付加塩が挙げられる。
【0017】
所望の活性を示す限りにおいて、上記15種類の化合物の光学異性体を使用することにしてもよい。光学異性体が存在する場合にはラセミ体または実質的に純粋なエナンチオマーの形態で有効成分に使用することができる。
【0018】
上記15種類の化合物のプロドラッグを有効成分として用いてもよい。ここで、「プロドラッグ」とは、不活性又は活性の低い形態の化合物であり、生体に投与されると活性体に変換されて薬効を示すものをいう。例えば、バイオアベイラビリティ(bioavailability)の改善や副作用の軽減等を目的としてプロドラッグが利用される。プロドラッグとしては、活性体である本来の薬剤に対してアミノ基やスルフィド基などのスルホニル化、アシル化、アルキル化、リン酸化、ホウ酸化、炭酸化、エステル化、アミド化、ウレタン化等が施された化合物が挙げられる。
【0019】
本発明の医薬の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
【0020】
製剤化する場合の剤形も特に限定されない。剤形の例は錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤である。本発明の医薬はその剤形に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。また、全身的な投与と局所的な投与も対象により適応される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる(例えば、経口投与と同時に又は所定時間経過後に静脈注射等を行う等)。本発明の医薬には、期待される治療効果を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明の医薬中の有効成分量は一般に剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.1重量%〜約99重量%の範囲内で設定する。
【0021】
本発明の他の局面では本発明の医薬を使用した骨形成方法が提供される。本発明の骨形成方法は、本発明の医薬を骨形成が必要な患者に投与するステップを含む。骨形成が必要な病態としては、骨折、骨欠損、仮骨延長法を利用した骨延長術が挙げられる。骨折には1回の衝撃で発生する外傷性骨折、反復する負荷により発生する疲労骨折を含む。骨欠損には、外傷性骨欠損、腫瘍切除後骨欠損、先天性偽関節症、骨系統疾患、歯槽骨欠損、骨粗鬆症による橈骨遠位端骨折、脊椎骨折(圧迫骨折)等の変形修復後の骨欠損を含む。
【0022】
本発明の医薬の投与量は、期待される治療効果が得られるように設定される。治療上有効な投与量の設定においては一般に患者の症状、年齢、性別、及び体重などが考慮される。当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。例えば、成人(体重約60kg)を対象として一日当たりの有効成分量が約0.1mg〜約1000mgとなるよう投与量を設定することができる。投与スケジュールとしては例えば一日一回〜数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの設定においては、患者の病状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。局所投与に関しては手術時の使用、あるいは治癒過程の促進目的に担体もしくは相応しい剤型で局所に注入などの方法がある。
【0023】
本発明の医薬による治療に並行して他の医薬(例えば既存の治療薬)による治療を行ったり、既存の治療手技に対して本発明の医薬による治療を組み合わせたりしてもよい。既存の治療手技として骨延長術を例示することができる。骨延長術では固定装置(内固定型又は外固定型)又は骨延長器などと呼ばれる専用の装置が用いられる。骨延長術の方法は通常、骨切り、待機期間、骨延長期間及び骨硬化期間の行程からなる。本発明の医薬を骨延長術と併用する場合、通常は、待機期間の開始時〜骨硬化期間の終了時までの間に本発明の医薬を局所投与する。投与回数は特に限定されない。例えば、1回〜10回の投与を行う。尚、骨延長術については、例えば、ADVANCE SERIES II-9 骨延長術:最近の進歩(克誠堂出版、波利井清紀 監修、杉原平樹 編著)に詳しい。
【実施例】
【0024】
<骨形成促進効果を有する化合物のスクリーニング>
骨形成促進効果を有する化合物を見出すべく、転写因子Runx2の発現を特異的に上昇させる低分子化合物を既認可薬の中からスクリーニングすることにした。
【0025】
1.1次スクリーニング
(1)方法
転写因子Runx2のプロモーター活性を上昇させる既存薬をルシフェラーゼアッセイによって網羅的に検索した。まず、ヒトRunx2遺伝子のP1プロモーター領域をpGL4ルシフェラーゼレポーターベクター(プロメガ社)のマルチプルクローニングサイトに挿入した(pGL4.10ベクター)。pGL4.10ベクターをマウス未分化間葉系細胞株C3H10T1/2にトランスフェクトし、G418含有培地で選択培養することによって安定発現株を樹立した。当該細胞を96穴ウェルに播種し(1日目)、2日目に各ウェルにヒトBMP-2を添加して骨芽細胞に分化誘導した。翌日、Prestwick Chemical library(登録商標)(Prestwick Chemical ltd.)を構成する各試験化合物(10μM)を添加し、24時間後に細胞を回収してルシフェラーゼアッセイに供した。ルシフェラーゼアッセイは3回繰り返し行い、ルシフェラーゼのレポーター活性(ルミネセンス)がコントロール(vehicle)比で1回でも1.5倍以上になった化合物を選抜した。
【0026】
(2)結果
上記基準でスクリーニングした結果、48種類の候補薬が選抜された。
【0027】
2.2次スクリーニング
(1)方法
測定機器の感度のムラやピペッティングの違いによる影響を排除するため、1次スクリーニングで選抜された48種類の候補薬に対して、再度合計5回(N=6/回)のスクリーニングを行った。ルシフェラーゼのレポーター活性の5回の平均がコントロール比で1.5倍以上の化合物に加えて、1回でもコントロール比で1.5倍以上の化合物を選択した。
【0028】
(2)結果
上記基準でスクリーニングした結果、15種類の候補薬(フェナゾピリジン塩酸塩、リルゾール塩酸塩、トラニラスト、ラベプラゾール、インドプロフェン、ナブメトン、ルテオリン、レフルノミド、ランソプラゾール、メチアゾール、チアベンダゾール、アルベンダゾール、チアプロフェン酸、バルサラジドナトリウム塩及びシクロスポリンA)が選抜された。
【0029】
3.3次スクリーニング
(1)方法
2次スクリーニングで選抜された15種類の候補薬の内、国内で実際に使用されている9種類(リルゾール塩酸塩、トラニラスト、ラベプラゾール、ナブメトン、レフルノミド、ランソプラゾール、アルベンダゾール、チアプロフェン酸及びシクロスポリンA)について、レポーター活性の濃度依存性が存在するかどうかを確認するため、濃度を8段階設定し、合計3回(N=6/回)のスクリーニングを実施した。
【0030】
(2)結果
7種類の候補薬(リルゾール塩酸塩、トラニラスト、ラベプラゾール、ナブメトン、レフルノミド、ランソプラゾール及びチアプロフェン酸)がRUNX2プロモーター活性促進に関する濃度依存性を示した。候補薬自体がルシフェラーゼタンパク質の酵素活性を増強させている可能性を除くため、pGL4.10基本ベクター(pGL4.10 [luc2/SV40] basic vector)とphRLベクター(phRL [hRluc/TK] vector)をC3H10T1/2細胞にコトランスフェクトし、各候補薬を添加して二重ルシフェラーゼアッセイを実施した。その結果、5種類の候補薬(ラベプラゾール、ナブメトン、レフルノミド、ランソプラゾール及びチアプロフェン酸)について、RUNX2プロモーター活性を特異的に促進する作用を認めた。他の2種類の候補薬(リルゾール塩酸塩、トラニラスト)はルシフェラーゼ活性を軽度上昇させる効果を認めたために、さらなる検討対象からは除外した。これら5種類の候補薬の内、臨床的に幅広く使用され、長期服用による安全性が担保されているプロトンポンプ阻害薬(PPI)2種類(ラベプラゾール及びランソプラゾール)を最終候補薬に決定し、その骨形成促進作用を調べることにした。
【0031】
4.選抜されたPPIによる骨形成促進効果
4−1.Runx2遺伝子の発現誘導(細胞株での検討)
(1)方法
ヒト骨肉腫細胞(HOS)とC3H10T1/2細胞を実験に使用した。まず、細胞(HOS又はC3H10T1/2)を12穴プレートに播種した(1日目)。C3H10T1/2細胞を使用する場合には、翌日、ヒトBMP-2を各ウェルに添加した。3日目にPPI(ラベプラゾール又はランソプラゾール)を添加して24時間培養した後、細胞を回収した。回収した細胞から全RNAを調製し、定量的PCR法によってRunx2遺伝子の発現を解析した。
【0032】
(2)結果
ラベプラゾール及びランソプラゾールはいずれも、濃度依存的なRunx2遺伝子の発現誘導活性を示した(
図1、2)。
【0033】
4−2.Runx2蛋白の発現誘導及びアルカリフォスファターゼ(ALP)活性の上昇(細胞株での検討)
(1)方法
4−1.と同様の手順で培養したHOS細胞及びC3H10T1/2細胞を用いて、Runx2蛋白の発現量及び骨分化指標であるALP活性を経時的に評価した。Runx2蛋白の発現量はウエスタンブロットで評価し、ALP活性はELISA法で測定した。
【0034】
(2)結果
PPI添加後48時間及び78時間において、濃度依存的なRunx2蛋白発現量の増加が認められた(
図3〜6)。また、ALP活性はPPI添加後6日(HOS細胞の場合。
図7)と5日(BMP-2誘導C3H10T1/2細胞の場合。
図8)で有意に上昇した。
【0035】
4−3.Runx2遺伝子の発現誘導(骨髄細胞での検討)
(1)方法
ラット骨髄液から間葉系細胞を調製し、培養した(培養骨髄間葉系細胞)。骨誘導培地(増殖培地にデキサメサゾン、β-グリセロリン酸、アスコルビン酸を添加)に切り換えて継代培養(P1、P2、P3)した。P1、P2、P3各々コンフルエントに達した時点でPPIを添加した。PPI添加後24時間で細胞を回収し、4−1.と同様の方法でRunx2遺伝子の発現を解析した。
【0036】
一方、ヒト骨髄間葉系幹細胞(Poietics(登録商標)、Lonza Ltd.)を、PPI含有骨誘導培地(増殖培地にPPIとデキサメサゾン、β-グリセロリン酸、アスコルビン酸を添加)で初代培養(P0)及び継代培養(P1、P2)した。骨誘導培地は3日毎に交換した。P0、P1、P2各々コンフルエントに達した時点で細胞を回収し、4−1.と同様の方法でRunx2遺伝子の発現を解析した。
【0037】
(2)結果
ラット培養骨髄細胞の場合、P3においてPPI濃度依存的なRunx2遺伝子の発現誘導が認められる(
図9)。一方、ヒト骨髄間葉系幹細胞の場合には、早い段階からPPI濃度依存的なRunx2遺伝子の発現誘導が認められるとともに、その効果は持続した(
図10)。
【0038】
4−4.ラット大腿骨骨欠損モデルでの骨形成促進効果
(1)方法
SDラット(オス、9週齢)の左後肢大腿骨を前外側アプローチで展開し、創外固定器を設置した。骨幹部を振動鋸(oscillating saw)で切断し(欠損量3mm)、一期的に骨延長して骨欠損モデルとした(欠損群N=6、対照群N=6)。当該骨欠損モデルに対して、ランソプラゾールを自然経口投与し(ヒト常用量の約10〜20倍)、定期的に軟X線で骨欠損部を撮影した。また、体重と飲水量を定期的に計測した。
【0039】
(2)結果
ランソプラゾールを投与した群では、半数(3/6)において良好な骨形成が認められた(
図11左)。即ち、ランソプラゾールが優れた骨形成促進効果を発揮することが示された。