(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011997
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】ボールジョイント用ダストカバー
(51)【国際特許分類】
F16C 11/06 20060101AFI20161011BHJP
【FI】
F16C11/06 Q
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-226550(P2012-226550)
(22)【出願日】2012年10月12日
(65)【公開番号】特開2014-77519(P2014-77519A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107320
【弁理士】
【氏名又は名称】高塚 一郎
(72)【発明者】
【氏名】金川 幸司
【審査官】
瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−052614(JP,A)
【文献】
特開2004−176872(JP,A)
【文献】
実開昭60−054868(JP,U)
【文献】
特開平09−004725(JP,A)
【文献】
実開昭62−013270(JP,U)
【文献】
特開昭53−049658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールスタッド(1)の一端に形成された球頭部(2)がソケット(3)内に保持され、前記ボールスタッド(1)の他端の軸部(4)はナックル(5)に締め付け固定され、金属材製補強環(60)が埋設された一端大径開口部(6)が前記ソケット(3)の外周面に固定保持され、他端小径開口部(7)が前記軸部(4)に保持され、前記一端大径開口部(6)と前記他端小径開口部(7)とを連結している外側に張り出した略鼓形状の膜部(8)を備えたゴム状弾性材製ボールジョイント用ダストカバーにおいて、前記一端大径開口部(6)と前記膜部(8)の接合部(9)外周面に凹部(91)を設けると共に、前記凹部(91)が、円周上等配に複数個設けられていることを特徴とするボールジョイント用ダストカバー。
【請求項2】
ボールスタッド(1)の一端に形成された球頭部(2)がソケット(3)内に保持され、前記ボールスタッド(1)の他端の軸部(4)はナックル(5)に締め付け固定され、金属材製補強環(60)が埋設された一端大径開口部(6)が前記ソケット(3)の外周面に固定保持され、他端小径開口部(7)が前記軸部(4)に保持され、前記一端大径開口部(6)と前記他端小径開口部(7)とを連結している外側に張り出した略鼓形状の膜部(8)を備えたゴム状弾性材製ボールジョイント用ダストカバーにおいて、前記一端大径開口部(6)と前記膜部(8)の接合部(9)外周面に凹部(91)を設け、前記金属材製補強環(60)の外径(X)が、前記膜部(8)の最大外径(Y)と等しいかそれよりも小さいことを特徴とするボールジョイント用ダストカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールジョイント用ダストカバーに関する。
また、本発明は、自動車懸架装置、操舵装置等に使用されるボールジョイント用ダストカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールジョイント継ぎ手部の防塵、防水を目的としてダストカバーが装着されているボールジョイントとしては、
図4及び
図5に記載のボールジョイント用ダストカバーが知られている。(特許文献1、2)
【0003】
この種ボールジョイント用ダストカバーのシール構造は、
図4及び
図5に示す様に、ボールスタッド100の一端に形成された球頭部200がソケット300内に保持されている。
そして、ボールスタッド100の他端の軸部400は、ナックル500に締め付け固定されている。
一方、ゴム状弾性材製ダストカバーの一端大径開口部90が、ソケット300の外周面に一端大径開口部600に埋設した金属材製補強環600により固定保持され、他端小径開口部70が軸部400に保持された構成となっている。
そして、一端大径開口部60と他端小径開口部70とを連結している膜部800全体が外側に張り出した鼓形状を呈している。
【0004】
補強環600は、基部610と、この基部610からソケット300の外周面に向かって伸びる刃部620から構成されている。
そして、この刃部620がソケット300の外周面に食い込むことにより、ダストカバーのソケット300からの離脱を防止している。
この為、刃部620にはバネ弾性を備えている必要があり、一方、基部610は、大径開口部60をソケット300に押し込む際、変形してシール性能が低下しないだけの十分な剛性を備えている必要がある。
【0005】
この種金属材製補強環600は、
図5に示す様に、板厚Zを備えた環状の薄板の外周側を折り曲げる事により製造している。
この為、基部610の径方向幅Aは、必然的に大きくならざるを得なかった。
この結果、
図4に示す様に、圧縮側(図上左側)の膜部800が一端大径開口部90と干渉し、膜部800が早期に摩耗損傷する問題を惹起した。
【0006】
また、基部610の径方向幅Aが十分ある場合は、
図6に示す様に圧入冶具Pにより基部610を押圧出来る為、ダストカバーをソケット300に装着することは問題なかったが、圧縮側の膜部800が一端大径開口部90と干渉することを避ける為、一端大径開口部90の径方向外方への張り出しを少なくすると、必然的に基部610の径方向幅Aが狭くなる結果、圧入冶具Pにより基部610を押圧出来る面積が少なくなり、一端大径開口部90をソケット300に押し込む事が困難と成る問題を招来した。
【0007】
同様に、近年、ボールジョイントのコンパクト化の要望が強く、ソケット300の径を極力小さくした結果、一端大径開口部90が装着されるソケット300の段部を設けるスペースが制限された。
この結果、圧入冶具Pにより基部610を押圧出来る面積が少なくなり、一端大径開口部90をソケット300に押し込む事が困難と成る問題を惹起した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−24834号公報
【特許文献2】特開2001−323923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、一端大径開口部に埋設した金属材製補強環の基部の径方向幅が狭くなったとしても、また、ボールジョイントのコンパクト化が進んだとしても、一端大径開口部をソケットで押し込むことが容易なボールジョイント用ダストカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るボールジョイント用ダストカバーは、ボールスタッドの一端に形成された球頭部がソケット内に保持され、前記ボールスタッドの他端の軸部はナックルに締め付け固定され、金属材製補強環が埋設された一端大径開口部が前記ソケットの外周面に固定保持され、他端小径開ロ部が前記軸部に保持され、前記一端大径開口部と前記他端小径開口部とを連結している外側に張り出した略鼓形状の膜部を備えたゴム状弾性材製ボールジョイント用ダストカバーにおいて、前記一端大径開口部と前記膜部の接合部外周面に凹部を設け
ると共に、前記凹部が、円周上等配に複数個設けられていることを特徴とする。
また、本発明に係るボールジョイント用ダストカバーは、ボールスタッドの一端に形成された球頭部がソケット内に保持され、前記ボールスタッドの他端の軸部はナックルに締め付け固定され、金属材製補強環が埋設された一端大径開口部が前記ソケットの外周面に固定保持され、他端小径開ロ部が前記軸部に保持され、前記一端大径開口部と前記他端小径開口部とを連結している外側に張り出した略鼓形状の膜部を備えたゴム状弾性材製ボールジョイント用ダストカバーにおいて、前記一端大径開口部と前記膜部の接合部外周面に凹部を設け、前記金属材製補強環の外径が、前記膜部の最大外径と等しいかそれよりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
請求項1記載の発明のボールジョイント用ダストカバーによれば、一端大径開口部と膜部の接合部外周面に凹部を設ける構成としている為、一端大径開口部に埋設した金属材製補強環の基部の径方向幅が狭くなったとしても、また、ボールジョイントのコンパクト化が進んだとしても、一端大径開口部をソケットに押し込むことが容易である
と共に、凹部が、円周上等配に複数個設ける態様としている為、膜部が特異変形することを抑えられると共に、膜部の強度の低下を最小限に抑えられる。
【0012】
更に、請求項
2記載の発明のボールジョイント用ダストカバーによれば、
一端大径開口部と膜部の接合部外周面に凹部を設ける構成としている為、一端大径開口部に埋設した金属材製補強環の基部の径方向幅が狭くなったとしても、また、ボールジョイントのコンパクト化が進んだとしても、一端大径開口部をソケットに押し込むことが容易であると共に、金属材製補強環の外径が、膜部の最大外径と等しいかそれよりも小さい態様のものに於いて、特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るボールジョイント用ダストカバーの縦断面図。
【
図2】本発明に係るボールジョイント用ダストカバーの要部拡大図。
【
図3】本発明に係るボールジョイント用ダストカバーをソケットに装着する為の冶具を取り付けた状態の縦断面図。
【
図4】従来技術に係る、ボールジョイント用ダストカバーの縦断面図。
【
図6】従来技術に係るボールジョイント用ダストカバーをソケットに装着する為の冶具を取り付けた状態の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
図1及び
図2に示される様に、本発明に係るボールジョイント用ダストカバーの態様は、
ボールスタッド1の一端に形成された球頭部2がソケット3内に保持され、このボールスタッド1の他端の軸部4はナックル5に締め付け固定され、金属材製補強環60が埋設された一端大径開口部6がソケット3の外周面に固定保持され、他端小径開ロ部7が軸部4に保持され、一端大径開口部6と他端小径開口部7とを連結している外側に張り出した略鼓形状の膜部8を備えた構成となっている。
【0015】
そして、一端大径開口部6と膜部8の接合部9の外周面には、凹部91を設けている。
この様に、凹部91を設けることにより、従来の
図6に示す様な装着冶具Pによっては装着が困難であった、一端大径開口部6に埋設した金属材製補強環60の基部61の径方向幅が狭くなった態様や、ボールジョイントのコンパクト化が進んだ態様のものであっても、一端大径開口部6をソケット3に押し込むことが容易である。
【0016】
この凹部91
は、円周上等配に複数個設ける態様と
している為、膜部8の特異変形を抑えられると共に、膜部8の強度の低下を最小限に
抑えられる。
【0017】
そして、ボールジョイント用ダストカバーをソケット3に装着する場合は、
図3に示す様に、複数に分割した割り装着冶具Jの先端に設けた、径方向内方に突出した突起10、10を円周上等配に複数個設けた凹部91、91内に挿入した後、装着冶具Jを押し込む(図上下方に移動させる)事により、装着冶具Jの押し込み力が、突起10、10を介して金属材製補強環60の基部61に伝える事が出来る。
【0018】
この為、
図3に示す様な金属材製補強環60の基部61の径方向幅が狭くなった態様のものにおいても、容易に一端大径開口部6をソケット3に押し込んで装着することが出来る。
【0019】
また、金属材製補強環60の外径Xが、膜部8の最大外径Yと等しいかそれよりも小さい場合は、従来の
図6に示す様な装着冶具Pによっては装着が全く不可能である為、一端大径開口部6と膜部8の接合部9の外周面に凹部91を設ける、本発明の態様が特に有効となる。
【0020】
また、補強環60は、板金加工、鍛造等により製作された各種形態のものが適用可能である。
また、ダストカバーは、各種のゴム状弾性材により成形されている。
【0021】
この様に、装着性を配慮する事無く、補強環60をよりコンパクトに出来る為、圧縮側において、膜部8が一端大径開口部6と干渉する危険性をより少なく出来る。
【0022】
また、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0023】
自動車の懸架装置及び操舵装置等に使用されるボールジョイントに使用できる。
【符号の説明】
【0024】
1 ボールスタッド
2 球頭部
3 ソケット
4 軸部
5 ナックル
6 一端大径開口部
7 他端小径開口部
8 膜部
9 接合部
10 突起
60 補強環
61 基部
91 凹部