特許第6011998号(P6011998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本軽金属株式会社の特許一覧

特許6011998Al−Fe−Si系化合物を微細化させたアルミニウム合金の製造方法
<>
  • 特許6011998-Al−Fe−Si系化合物を微細化させたアルミニウム合金の製造方法 図000003
  • 特許6011998-Al−Fe−Si系化合物を微細化させたアルミニウム合金の製造方法 図000004
  • 特許6011998-Al−Fe−Si系化合物を微細化させたアルミニウム合金の製造方法 図000005
  • 特許6011998-Al−Fe−Si系化合物を微細化させたアルミニウム合金の製造方法 図000006
  • 特許6011998-Al−Fe−Si系化合物を微細化させたアルミニウム合金の製造方法 図000007
  • 特許6011998-Al−Fe−Si系化合物を微細化させたアルミニウム合金の製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011998
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】Al−Fe−Si系化合物を微細化させたアルミニウム合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/02 20060101AFI20161011BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20161011BHJP
   B22D 27/20 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   C22C1/02 503J
   C22C21/02
   B22D27/20 B
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-281039(P2012-281039)
(22)【出願日】2012年12月25日
(65)【公開番号】特開2014-125645(P2014-125645A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116621
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 萬里
(72)【発明者】
【氏名】織田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】菊入 鉄矢
(72)【発明者】
【氏名】磯部 智洋
(72)【発明者】
【氏名】岡田 浩
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−535488(JP,A)
【文献】 特開2004−256873(JP,A)
【文献】 特表平11−513439(JP,A)
【文献】 特表2000−511233(JP,A)
【文献】 特開昭61−223156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/02
C22C 1/03
C22C 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:8〜20質量%,Fe:0.5〜1質量%を含み、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金溶湯に、Al‐Fe‐Si系化合物晶出の際に溶湯中に固相として存在するAlBを、Bがアルミニウム合金溶湯全体として0.01〜0.5質量%の範囲となる量で、しかもBがTiBとして0.003〜0.015質量%含有されているAl−B合金の形で添加することを特徴とするAl−Fe−Si系化合物を微細化させたアルミニウム合金の製造方法。
【請求項2】
Si:8〜20質量%,Fe:1質量超4質量%以下と、さらにMn:0.005〜2.5質量%,Cr:0.5質量%以下のいずれか1種以上を含み、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金溶湯に、Al‐Fe‐Si系化合物晶出の際に溶湯中に固相として存在するAlBを、Bがアルミニウム合金溶湯全体として0.01〜0.5質量%の範囲となる量で、しかもBがTiBとして0.003〜0.015質量%含有されているAl−B合金の形で添加することを特徴とするAl−Fe−Si系化合物を微細化させたアルミニウム合金の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム合金溶湯が、さらにNi:0.5〜6質量%、Cu:0.5〜8質量%、Mg:0.05〜1.5質量%のいずれか1種以上を含むものである請求項2に記載のAl−Fe−Si系化合物を微細化させたアルミニウム合金の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム合金溶湯が、さらにPを0.003〜0.02質量%を含むものである請求項2または3に記載のAl−Fe−Si系化合物を微細化させたアルミニウム合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金の製造方法に関するもので、特にAl-Fe-Si系化合物の微細に晶出させることができるアルミニウム合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金の耐摩耗性、剛性を向上させるためには、Siを添加して初晶Siや共晶Siを晶出させることが有効である。Siの添加量を増やすと晶出量が増えて、これらの特性は向上する。ただし添加量の増加に伴い液相線温度が上昇するため、添加量には限界がある。そこで特性をさらに向上させることが必要な場合には、Al-Fe-Si系化合物、Al-Ni系化合物、Al-Ni-Cu系化合物などの別の晶出物を利用する必要がある。これらの晶出物を得るためにはFe、Ni、Cuを添加する。これらの添加元素の内、NiとCuはアルミニウム合金のコストアップにつながるが、Feは低コストである。しかしAl-Fe-Si系化合物は晶出量を増やすと粗大化し、これにより強度、伸び、疲労などの機械特性が低下し、さらに加工性が低下するという問題があった。
【0003】
アルミニウム合金におけるAl-Fe-Si系化合物の粗大化を防ぐために、通常はMnやCrを添加している。ただしFeの添加量が多い場合には十分な微細化効果は得られない。
Feの添加量が多い場合の微細化手法として、例えば特許文献1では、Feが1〜4質量%に対して、Si含有量を1.7×Fe含有量+13〜13.7質量%、Ti含有量を0.05〜0.07×Fe含有量+0.1質量%、Cr含有量を0.1×Fe含有量+0.05〜0.15質量%、Mn含有量を0.4〜0.6×Fe含有量に調整し、液相線温度以上で超音波照射をしている。
アルミニウム合金溶湯に対して液相線温度以上で超音波振動を照射することにより、アルミニウム溶湯内における結晶核の芽であるエンブリオが増加する。これにより多数の結晶核が生成して、晶出物が微細に晶出する。また、アルミニウム合金溶湯の成分、組成範囲を上記のとおりに調整したことにより、各種晶出物を短時間の間に、しかもAl-Ti系化合物、Al-Cr系化合物、Al-Fe-Si系化合物、Siの順となるように晶出させる。これによりAl-Ti系化合物及びAl−Cr系化合物をAl−Fe−Si系化合物の核として作用させる。
【0004】
また本発明者らは特許文献2で、Al-Fe-Si系化合物の凝固核として作用する高温安定な珪化物粒子を添加することを提案している。珪化物という意味で、CrSi,TiSi,WSi,MoSi,ZrSi,TaSi,NbSi等が想定できる。上記金属珪化物の融点は1500〜2000℃である。融点が1500〜2000℃であっても、溶湯中に保持しておくといつかは溶解してしまうが、高融点であればしばらくは固相として存在することができ、凝固核になることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−090429号公報
【特許文献2】PCT/JP2012/075692
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、Al-Ti系化合物、Al-Cr系化合物がまず微細化し、これを凝固核とすることでAl-Fe-Si系化合物を微細にしている。しかしながら、超音波照射を行うので、超音波照射設備の増設に伴うコスト上昇ばかりでなく、ホーンサイズによっては処理量に限界がある、といった問題点がある。
また、特許文献2の方法では凝固核を粉末形態で添加している。このため溶湯との濡れ性が悪く、添加が困難であることが予想される。各種の珪化物の内、例えばCrSiをAl-Cr-Si合金で添加する場合は、添加は容易である。この合金中では、CrとSiが凝固核であるCrSiを生成している。ただし不要なAl13CrSiとSiも生成してしまうため、凝固核の数が少ない、といった問題がある。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するために案出されたものであり、簡便で効率的な手段の採用により、Al-Fe-Si系化合物微細に晶出させることが可能な廉価なアルミニウム合金を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のAl−Fe−Si系化合物を微細化させたアルミニウム合金の製造方法は、その目的を達成するため、Si:8〜20質量%,Fe:0.5〜1質量%を含み、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金溶湯に、Al‐Fe‐Si系化合物晶出の際に溶湯中に固相として存在するAlBを、Bがアルミニウム合金溶湯全体として0.01〜0.5質量%の範囲となる量で、しかもBがTiBとして0.003〜0.015質量%含有されているAl−B合金の形で添加することを特徴とする。
【0009】
Si:8〜20質量%,Fe:1質量%超4質量%以下と、さらにMn:0.005〜2.5質量%,Cr:0.5質量%以下のいずれか1種以上を、さらに必要に応じてNi:0.5〜6質量%、Cu:0.5〜8質量%、Mg:0.05〜1.5質量%、P:0.003〜0.02質量%のいずれか1種以上を含いずれか1種以上を含み、残部がAlと不可避的不純物からなるアルミニウム合金溶湯に、Al‐Fe‐Si系化合物晶出の際に溶湯中に固相として存在するAlBを、Bがアルミニウム合金溶湯全体として0.01〜0.5質量%の範囲となる量で、しかもBがTiBとして0.003〜0.015質量%含有されているAl−B合金の形で添加する方法であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルミニウム合金の製造方法によれば、Si及びFeを含有するアルミニウム合金溶湯に、Al-Fe-Si系化合物の晶出の際に溶湯中に固相として存在し、かつAl-Fe-Si系晶出物の凝固核となるAlBを添加しておくことにより、珪化物を添加した場合と同等の微細化効果が得られる。
また、AlBをAl-B合金の形態で添加すると、粉末で添加した場合よりも溶湯中に拡散しやすく、粉末より添加が容易である。またAl-B合金中の晶出粒子はAlBのみであり、凝固核の数も多い。
Al−Fe−Si系化合物の晶出温度がAlBの晶出温度より低くなるような組成では,一度溶解し,再度晶出するAlBもAl−Fe−Si系化合物の凝固核として作用する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例、比較例で製造されたアルミニウム合金の金属組織を示す図(その1)
図2】実施例、比較例で製造されたアルミニウム合金の金属組織を示す図(その2)
図3】実施例、比較例で製造されたアルミニウム合金の金属組織を示す図(その3)
図4】実施例、比較例で製造されたアルミニウム合金の金属組織を示す図(その4)
図5】実施例、比較例で製造されたアルミニウム合金の金属組織を示す図(その5)
図6】実施例、比較例で製造されたアルミニウム合金の金属組織を示す図(その6)
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者等は、多量のSiとFeを含むアルミニウム合金を製造する際に、溶湯の冷却・凝固の過程で晶出するAl-Fe-Si系晶出物の粗大化を防止し、微細に晶出させる方法について、鋭意検討を重ねてきた。
特許文献1で提案した方法においてAl-Fe-Si系晶出物の微細化効果が得られたため、超音波照射によって微細化したAl-Fe-Si系化合物の構成元素を調査したところ、CrSiとTiSiがAl-Fe-Si系化合物の凝固核になっていることがわかった。さらに特許文献2で提案した方法においてCrSi,TiSiを含む珪化物を添加することによってもAl-Fe-Si系化合物が微細化することがわかった。
【0013】
特許文献2中のCrSiとAlBは同じ結晶系である。したがってAl-Fe-Si系化合物の晶出の際にAlBを固相として含有させておけば、これがAl-Fe-Si系化合物の凝固核として機能して、晶出物の微細化効果が得られると推測し、本発明に到達したものである。
【0014】
AlBの融点はAl-Fe-Si系化合物の晶出温度より高温であるため、一定の時間は溶湯中に固相として存在し、Al-Fe-Si系化合物が晶出する際の核となる。しかし長時間保持すると、最終的には溶解する。そして一度溶解すると、再度晶出する際には、Al−Fe−Si系化合物より高温で晶出するとは限らない。この場合はAl-Fe-Si系化合物の核はない状態である。これに対して,AlBの高温安定性を向上させるためには、Al-B合金を作製する際、予め加えたTiBを凝固核としてAlBを晶出させることが有効である。TiBは少量でもアルミニウム合金溶湯中で固相として存在することができる微細粒子であるため、これを凝固核としたAlBの高温安定性も向上する。
【0015】
以下に本発明を詳しく説明する。
まず、アルミニウム合金溶湯の成分、組成範囲について説明する。
Si:8〜20質量%
Siは、アルミニウム合金の剛性,耐摩耗性を向上させ,熱膨張を低減させるために必須の元素であり、8〜20質量%の範囲で含有させる。8質量%を満たない場合は鋳造性が悪い。20質量%を超えた場合はSiの晶出温度が著しく高くなり,溶解温度、鋳造温度を高くする必要がある。これにより溶湯中のガス量が増加し、鋳造欠陥が発生する。また、鋳造温度の上昇は耐火材寿命の低下を招くことにもなる。
【0016】
Fe:0.5〜4質量%
Al-Fe-Si系化合物として晶出し、アルミニウム合金において剛性を向上させて熱膨張を低下させる。Fe含有量が、0.5質量%より少ないと剛性を高めるために必要な量のAl‐Fe-Si系晶出物が得られず、4質量%より多いと晶出粒子が粗大化してしまうため、加工性が低下する。さらに、4質量%を超えるとAl-Fe-Si系化合物の晶出温度が高くなり、鋳造温度を高くする必要がある。これにより溶湯中のガス量が増加し、鋳造欠陥が発生する。また、鋳造温度の上昇は耐火材寿命の低下を招くことにもなる。
【0017】
Mn:0.005〜2.5質量%
MnはAl-(Fe,Mn)-Si系化合物として晶出する元素であり、針状粗大なAl-Fe-Si系晶出物を塊状に変える作用があるので必要に応じて含有させる。Fe量が1質量%を超えると、Al-Fe-Si系化合物の針状粗大化が問題になってくる。この場合にはFe量の0.5〜0.6倍程度のMnを添加することが塊状化に有効である。Fe量が1質量%未満の場合はFe量と関係なく、0.005〜0.6質量%の添加で良い。しかし、2.5質量%より多いと粗大化を促進させてしまう。さらにAl-(Fe,Mn)-Si系化合物の晶出温度が高くなり、溶解温度、鋳造温度を高くする必要がある。これにより溶湯中のガス量が増加し、鋳造欠陥が発生する。また、鋳造温度の上昇は耐火材寿命の低下を招くことにもなる。
【0018】
Cr:0.5質量%以下
CrはAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物として晶出する元素であり、針状粗大なAl-Fe-Si系晶出物を塊状に変える作用があるので必要に応じて含有させる。しかし、0.5質量%より多いとAl-(Fe,Mn,Cr)-Si系化合物の晶出温度が高くなり、溶解温度、鋳造温度を高くする必要がある。これにより溶湯中のガス量が増加し、鋳造欠陥が発生する。また、鋳造温度の上昇は耐火材寿命の低下を招くことにもなる。
【0019】
P:0.003〜0.02質量%
Pは初晶Siの微細化剤として働く。その作用を有効に発現させるためには0.003質量%の含有が必要である。しかしながら,0.02質量%を超える量を添加すると湯流れ性が悪くなり、湯まわり不良等の鋳造欠陥が発生しやすくなる。そこで、P含有量の上限は0.02質量%とする。特にSiが11.5質量%以上の場合にはP:0.003〜0.02質量%を含んでいることが好ましい。
【0020】
Ni:0.5〜6質量%
NiはCuが存在する状態ではAl-Ni-Cu系化合物として晶出し、剛性を向上させ熱膨張を低減させる作用があるため、必要により添加する。また高温強度も向上させる。この作用は0.5質量%以上で特に効果を発揮し、6.0質量%を超えると液相線温度が高くなるため,鋳造性が悪くなる。そこでNiの添加量は0.5〜6.0質量%の範囲にすることが好ましい。
【0021】
Cu:0.5〜8質量%
Cuは機械的強度を向上させる作用があるため、必要により添加する。またAl-Ni-Cu系化合物として剛性も向上させて、熱膨張を低減させる。また高温強度も向上させる。この作用は0.5質量%以上の添加で顕著となるが、8質量%を超えると化合物の粗大化が進み機械的強度が低下してしさらに耐食性も低下してしまう。そこでCuの添加量は0.5〜8%にすることが好ましい。
【0022】
Mg:0.05〜1.5質量%
Mgはアルミニウム合金の強度を上昇させるために有用な合金元素であるため、必要により添加する。Mgを0.05質量%以上添加することで上記の効果が得られるが、1.5質量%を超えるとマトリックスが硬くなって、靭性が低下するので好ましくない。そこでMgの添加量は0.05%〜1.5質量%にすることが好ましい。
【0023】
次に、アルミニウム合金溶湯に添加し、Al-Fe-Si系化合物の晶出の際に凝固核として作用する物質の形態、添加量等について説明する。
各元素の組成範囲を上記のとおりに調整したアルミニウム合金溶湯に、Al-Fe-Si系化合物晶出の際に溶湯中に固相として存在するAlBを、Bがアルミニウム合金溶湯全体として0.01〜0.5質量%の範囲となる量で添加する。この量は、AlBに換算すると0.02〜1.2質量%になる。AlBはAl-Fe-Si系化合物晶出の際に凝固核となり、Al-Fe-Si系化合物を微細に晶出させることができる。計算値としてのAlBが0.02質量%に満たないとこの効果が得られず、1.2質量%を超える程に多いと溶湯の粘性が高くなって、流動性が悪化する。
【0024】
アルミニウム合金溶湯へのAlBの添加はAl-B合金で行うことが好ましい。例えばAl-0.5質量%B合金,Al-3質量%B合金,Al-4質量%B合金等が使用できる。これら合金中のBは通常AlBの形態を採っている。AlBによる微細化効果は30分程度持続するので、添加後30分以内に鋳造を行うことが好ましい。微細化効果をさらに延長させるためには、Al-B合金として、予めTiBを0.003〜0.015質量%添加した合金を用いることが好ましい。この合金ではTiBを凝固核としてAlBが晶出しているので、AlBが長期に亘って核として有効に作用することになる。この場合、AlBの微細化効果が1時間以上持続する。
なお、AlBの添加はAl-Fe-Si系化合物の晶出の際に固相として存在することができれば、上記のような方法に限定されない。
【実施例】
【0025】
Al-25質量%Si合金,Al-5質量%Fe合金,Al-10質量%Mn合金,Al-5質量%Cr合金,Al-20質量%Ni合金,Al-30質量%Cu合金,純Si,純Fe,純Cu,純Mg,Al−19質量%Cu-1.4質量%P合金を使用し、表1に記載の成分組成のアルミニウム合金溶湯を調製した。
実施例1〜7のBは、福岡アルミ工業(株)社製のAl-4質量%B合金インゴットをスライスして添加した。実施例8ではTiBを0.007質量%含有させたAl-0.5質量%B合金(自社製)でBを添加した。
比較例5のCrSiは日本新金属(株)製の平均粒径2〜5μmのCrSi粉末(品番CrSi2-F)で添加した。
微細化剤を添加してから鋳造までの保持時間は実施例1〜7が30分,実施例8が70分,比較例5が30分である。鋳造法としてダイカストと重力鋳造を用いたが,冷却速度はいずれも10℃/sである(ダイカスト:肉厚6あるいは10mmの板,銅製鋳型を用いた重力鋳造:φ10の丸棒)。鋳造温度は760〜770℃の範囲でほぼ同等である。鋳型温度も100〜130℃の範囲でほぼ同等である。
【0026】
図1〜6は、実施例1〜8、比較例1〜7で製造されたアルミニウム合金の金属組織を示す顕微鏡写真である。図1〜6の金属組織写真において、灰色部分はAl-Fe-Si系の化合物であり、黒色部分は単体Siの結晶である。
実施例1と比較例1は同一組成を有する合金を試料とし、実施例1にAlBを添加した。比較例1でも著しく粗大なAl-Fe-Si系化合物は存在しないが、実施例1の方が微細である。
実施例2と比較例2はほぼ同一組成を有する合金を試料とした。そしてBを添加した実施例2の方が微細である。
【0027】
実施例3と比較例3は同一組成を有する合金を試料とした。Bを添加した実施例3の方が微細である。
実施例4と比較例4、5がほぼ同一組成を有する合金を試料とした。Bを添加した実施例4はB無添加の比較例4より微細である。実施例4と比較例5は同等組織であるが、比較例5では粉末状の微細化剤を添加することは困難であり、溶湯撹拌を行っても粉末状の微細化剤は、溶湯中に充分に拡散されず、通常、粉末で添加した場合、10%程度しか溶湯とうまく混ざらなかった。
【0028】
実施例5と比較例6は同一組成を有する合金を試料とした。Bを0.4質量%添加した実施例5の方が微細である。
実施例6,7と比較例7が同一組成を有する合金を試料とした。Bをそれぞれ0.04,0.01質量%添加した実施例6,7では微細なAl-Fe-Si系化合物を得ている。
実施例8ではB添加をAl-B-TiB合金で行った。その結果、1時間以上の保持時間でも微細なAl-Fe-Si系化合物を得た。
以上の結果から、アルミニウム合金溶湯にAlBを添加することによりAl-Fe-Si系化合物が微細化すること、微細化剤としてAl-B-TiB合金が用いることによって微細効果の持続時間が長くなることがわかる。
【0029】
図1
図2
図3
図4
図5
図6