特許第6012003号(P6012003)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6012003板ガラスの製造方法、及び板ガラスの製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012003
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】板ガラスの製造方法、及び板ガラスの製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 33/033 20060101AFI20161011BHJP
   B26F 3/00 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   C03B33/033
   B26F3/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-533798(P2013-533798)
(86)(22)【出願日】2013年7月25日
(86)【国際出願番号】JP2013070151
(87)【国際公開番号】WO2014017577
(87)【国際公開日】20140130
【審査請求日】2015年12月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-167172(P2012-167172)
(32)【優先日】2012年7月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】藤居 孝英
(72)【発明者】
【氏名】塚田 将夫
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−085734(JP,A)
【文献】 特開2007−126322(JP,A)
【文献】 特開2009−083079(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102442765(CN,A)
【文献】 特開2014−024720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 33/00− 33/14
B28D 1/00− 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形状のガラス原板における縁部の周辺に該縁部と平行なスクライブをその一表面に形成し、該スクライブを境界として前記ガラス原板を折割る板ガラスの製造方法であって、
前記スクライブを前記縁部に沿う方向における両端部を除外して形成すると共に、前記ガラス原板のコーナー部において、前記スクライブに連なった仮想延長直線より内側に最大応力が発生するように折割りを行うことを特徴とする板ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記ガラス原板を折割るための折割部材が、前記縁部に沿う方向に延び且つ前記ガラス原板の前記一表面を押圧する押圧部を備え、該押圧部の前記縁部に沿う方向における両側先端部が、その先端側に移行するにつれて前記ガラス原板の縁部側から内側へと漸次突出する突出部を有し、
該折割部材の押圧部で前記スクライブより縁部側を押圧することを特徴とする請求項1に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記スクライブをその全長に亘って覆設部材で覆うことにより水蒸気の流通空間を形成し、該流通空間における前記スクライブに沿う方向の一端側から流通空間内へと前記水蒸気を流入させると共に、前記スクライブに沿う方向の他端側から流通空間外へと流出する前記水蒸気により折割りで発生したガラスチッピングを回収することを特徴とする請求項1又は2に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記折割部材の押圧部が、前記縁部に沿う方向における一端側から他端側に移行するにつれて前記ガラス原板の前記一表面に対し漸次離反する傾斜部を有し、
前記折割部材の押圧部で前記スクライブより縁部側を、一端側から他端側へと順次に押圧することを特徴とする請求項3に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記ガラス原板が縦姿勢であると共に、前記流通空間における一端側を上方側、他端側を下方側としたことを特徴とする請求項3又は4に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記水蒸気を、大径部と小径部とが交互に連なった蛇腹構造を有する筒状体内を通過させて前記流通空間の上方側から流通空間内へと流入させることを特徴とする請求項5に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項7】
矩形状のガラス原板における縁部の周辺に該縁部と平行で且つ該縁部に沿う方向の両端部を除外して形成されたスクライブを境界として前記ガラス原板を折割る折割部材を備えた板ガラスの製造装置であって、
前記ガラス原板が折割られる際に、該ガラス原板のコーナー部において、前記スクライブに連なった仮想延長直線より内側に最大応力が発生するように構成したことを特徴とする板ガラスの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板ガラス、及び板ガラスに形成したスクライブを境界として当該板ガラスを折割る板ガラスの製造方法、並びに板ガラスの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ等のフラットパネルディスプレイに使用される板ガラス製品の製造工程では、大面積の板ガラスから小面積の板ガラスを切り出したり、板ガラスの辺に沿う縁部をトリミングしたりする。そのための手法としては、板ガラスを割断することが挙げられる。
【0003】
板ガラスを割断する手法の一つとしては、下記の特許文献1に開示されるような、折割りによる割断方法が公知となっている。この方法は、板ガラスにスクライブを形成した後、折割部材を用いてスクライブの周辺を押圧する。これにより、スクライブの近傍に曲げモーメントを与え、これに起因して板ガラスに発生する引張応力によって、スクライブにより生じたメディアンクラックを板ガラスのスクライブ面(スクライブを形成した面)側から他面側へと進展させて割断を行う方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−25633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この方法によって折割られた板ガラスは、そのコーナー部が角張ったシャープな形状となる。このことに起因して、下記のような解決すべき問題が生じていた。
【0006】
すなわち、製造途中の板ガラスを工程内、又は、工程間で移動させる場合、当該板ガラスを搬送コンベア等に載置して所定の搬送経路に沿って搬送することが広く行われている。この際、シャープなコーナー部が搬送経路の周辺に設置された治具等と接触して、当該コーナー部に欠陥が生じたり、破損してしまったりする場合がある。そのため、最終的に製造される板ガラス製品の歩留まりが悪化する事態を招いていた。
【0007】
また、板ガラスを搬送する際には、当該板ガラスの表裏面に傷や割れが生じることを防止するため、板ガラスを保護シート上に載置した状態で搬送を行うことがある。しかしながら、コーナー部がシャープな板ガラスを搬送する場合には、当該コーナー部が保護シートに突き刺さったり、引っ掛かったりする等して、保護シートが損傷する等の問題が生じている。
【0008】
上記事情に鑑みなされた本発明は、板ガラスを製造する際に、板ガラスのコーナー部における欠陥の発生や破損を防止すると共に、保護シートへの突き刺さりや引っ掛かりを回避することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために創案された本発明に係る方法は、矩形状のガラス原板における縁部の周辺に該縁部と平行なスクライブをその一表面に形成し、該スクライブを境界として前記ガラス原板を折割る板ガラスの製造方法であって、前記スクライブを前記縁部に沿う方向における両端部を除外して形成すると共に、前記ガラス原板のコーナー部において、前記スクライブに連なった仮想延長直線より内側に最大応力が発生するように折割りを行うことに特徴付けられる。
【0010】
ガラス原板を折割る際において、その割断部は、ガラス原板における強度の弱い部位を起点とし、且つ周辺部に対して高い応力が発生している部位に沿って進展する。そのため、ガラス原板のコーナー部において、割断部は、ガラス原板の縁部に沿う方向におけるスクライブの端部を起点として、当該スクライブに連なった仮想延長直線より内側に位置する最大応力の発生した部位を通過するように進展することとなる。その結果、折割りの実施後におけるガラス原板のコーナー部は、凸状に湾曲した形状となる。これにより、製造途中の板ガラスを工程内、又は、工程間で搬送するような場合に、そのコーナー部が搬送経路の周辺に設置された治具等との接触により欠陥を生じたり、破損したりするような事態を防止することができる。また、当該板ガラスを保護シート上に載置するような場合においても、コーナー部が保護シートに突き刺さったり、引っ掛かったりすることを回避することが可能となる。
【0011】
上記の方法において、前記ガラス原板を折割るための折割部材が、前記縁部に沿う方向に延び且つ前記ガラス原板の前記一表面を押圧する押圧部を備え、該押圧部の前記縁部に沿う方向における両側先端部が、その先端側に移行するにつれて前記ガラス原板の縁部側から内側へと漸次突出する突出部を有し、該折割部材の押圧部で前記スクライブより縁部側を押圧することが好ましい。
【0012】
折割部材でガラス原板を押圧する際、ガラス原板には曲げモーメントによって当該ガラス原板が局所的に折れ曲がった屈曲部が形成される。そして、ガラス原板のコーナー部において、この屈曲部はコーナー部を押圧する折割部材の突出部の形状に倣い、縁部に沿う方向の先端側に移行するにつれてガラス原板の縁部側から内側へと漸次突出すると共に、スクライブに連なった状態で連続的に形成される。このとき、屈曲部には、その周辺部と比較して高い引張応力が作用した状態となると共に、この屈曲部において最大応力が発生する。そのため、コーナー部においては、ガラス原板はスクライブではなく、スクライブに連なった屈曲部に沿って折割られることになる。その結果、コーナー部を凸状に湾曲した形状とすることができる。
【0013】
上記の方法において、前記スクライブをその全長に亘って覆設部材で覆うことにより水蒸気の流通空間を形成し、該流通空間における前記スクライブに沿う方向の一端側から流通空間内へと前記水蒸気を流入させると共に、前記スクライブに沿う方向の他端側から流通空間外へと流出する前記水蒸気により折割りで発生したガラスチッピングを回収することが好ましい。ここで、「水蒸気」とは、水蒸気のみからなる気体だけではなく、水蒸気と空気とからなる混合気体をも含む(以下において同じ)。
【0014】
このようにすれば、覆設部材によって形成した流通空間内に水蒸気を流すことにより、覆設部材で覆ったスクライブの周辺が、単に空気を流すだけの場合と比較して加湿された状態となる。この加湿された状態下においては、ガラス原板を折割るために必要な押圧力が小さくなることが明らかとなっている。そして、折割りの際に割断部から発生するガラスチッピングの量は、この押圧力の大小に影響を受けており、押圧力が大きい程、多量のガラスチッピングが発生する。このため、折割りの際にガラス原板の割断部から発生するガラスチッピングの量を抑制することが可能となる。また、水蒸気を流通空間におけるスクライブに沿う方向の一方側から他方側へと流していることにより、割断部から発生したガラスチッピングを飛散させることなく、流出空間内から流出空間外へと運んで回収することができる。その結果、ガラスチッピングをガラス原板に付着させることなく適切に回収することが可能となる。
【0015】
上記の方法において、前記折割部材の押圧部が、前記縁部に沿う方向における一端側から他端側に移行するにつれて前記ガラス原板の前記一表面に対し漸次離反する傾斜部を有し、前記折割部材の押圧部で前記スクライブより縁部側を、一端側から他端側へと順次に押圧することが好ましい。
【0016】
このようにすれば、ガラス原板に押圧力を作用させる際において、ガラス原板は一端側から他端側へと折割部材によって順次に押圧される。このため、折割りの進行方向と、流通空間内を流れる水蒸気の向きとが共に一端側から他端側となり、ガラスチッピングを回収するための大量の水蒸気を不要に流出空間に流入させる必要がなくなる。その結果、無駄なく確実にガラスチッピングを回収することが可能となる。
【0017】
上記の方法において、前記ガラス原板が縦姿勢であると共に、前記流通空間における一端側を上方側、他端側を下方側とすることが好ましい。
【0018】
このようにすれば、ガラスチッピングが重力によって、ガラス原板の表面へと落下することが防止される。その結果、ガラスチッピングのガラス原板の表面への付着をより効果的に回避することが可能となる。
【0019】
上記の方法おいて、前記水蒸気を、大径部と小径部とが交互に連なった蛇腹構造を有する筒状体内を通過させて前記流通空間の上方側から流通空間内へと流入させることが好ましい。
【0020】
このようにすれば、蛇腹構造を有する筒状体の大径部によって、水蒸気の結露に起因して発生した水滴が堰き止められるため、水滴が流通空間内へと流入し、ガラス原板の表面を汚染する恐れが可及的に低減される。
【0021】
また、上記課題を解決するために創案された本発明に係る装置は、矩形状のガラス原板における縁部の周辺に該縁部と平行で且つ該縁部に沿う方向の両端部を除外して形成されたスクライブを境界として前記ガラス原板を折割る折割部材を備えた板ガラスの製造装置であって、前記ガラス原板が折割られる際に、該ガラス原板のコーナー部において、前記スクライブに連なった仮想延長直線より内側に最大応力が発生するように構成したことに特徴付けられる。
【0022】
このような構成によれば、上記の板ガラスの製造方法について既に述べた事項と同様の作用効果を享受することができる。
【0023】
また、上記課題を解決するために創案された本発明に係る板ガラスは、凸状に湾曲したコーナー部を有する略矩形の板ガラスにおいて、前記コーナー部における端面が、切りっ放し鏡面で構成されていることに特徴付けられる。ここで、「切りっ放し鏡面」とは、研磨加工等によらず、切断時において既に鏡面に仕上がった面であることを意味する。
【0024】
このような構成によれば、凸状に湾曲したコーナー部において、端面が切りっ放し鏡面で構成されているため、この板ガラスを工程内、又は、工程間で搬送するような場合に、そのコーナー部が搬送経路の周辺に設置された治具等との接触により欠陥を生じたり、破損したりするような事態を可及的に防止することができる。加えて、製造上欠陥が発生しやすく割れやすいコーナー部が、スクライブによるチッピング等の欠陥のない鏡面となっていることから、切断後の工程において、板ガラスのコーナー部からの破損を効果的に抑制することも可能である。また、当該板ガラスを保護シート上に載置するような場合においても、コーナー部が保護シートに突き刺さったり、引っ掛かったりすることを好適に回避することが可能となる。さらに、この板ガラスのコーナー部は、切断時において既に鏡面に仕上っていることから、当該コーナー部に対し、改めて研磨加工等を実施する必要がない。そのため、この板ガラスは、迅速、且つ簡便に製造することが可能である。加えて、コーナー部はスクライブを形成することなく切断されていることから、ガラス粉の発生が可及的に低減される。その結果、ガラス粉に起因して板ガラスに不具合が発生することを抑制でき、歩留まりを向上させることが可能となる。
【0025】
上記の構成において、前記コーナー部を除く部位における端面が、板厚方向の一方側に存するスクライブ痕と、他方側に存する切りっ放し鏡面とで構成された領域を含むことが好ましい。
【0026】
このような板ガラスは、コーナー部を除く部位における端面に、スクライブに沿った折割りによって形成された領域を含んでいることになる。そのため、当該領域の形成、ひいては、この板ガラスの製造をさらに迅速、且つ簡便なものとすることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明によれば、板ガラスを製造する際に、板ガラスのコーナー部における欠陥の発生や破損を防止すると共に、保護シートへの突き刺さりや引っ掛かりを回避することが可能となるため、製品の歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る板ガラスの製造装置を示す斜視図である。
図2】板ガラスの製造装置に備えられた覆設部材を示す断面図である。
図3a】板ガラスの製造装置に備えられた折割りバーを示す正面図である。
図3b】板ガラスの製造装置に備えられた折割りバーを示す側面図である。
図4a】本発明の実施形態に係る板ガラスの製造方法の実施状況を示す正面図である。
図4b】本発明の実施形態に係る板ガラスの製造方法の実施状況を示す正面図である。
図4c】本発明の実施形態に係る板ガラスの製造方法の実施状況を示す正面図である。
図4d】本発明の実施形態に係る板ガラスの製造方法の実施状況を示す正面図である。
図5】板ガラスの製造装置に備えられた折割りバーを示す正面図である。
図6a】本発明の実施形態に係る板ガラスのコーナー部を示す正面図である。
図6b】本発明の実施形態に係る板ガラスのコーナー部を示す正面図である。
図6c】本発明の実施形態に係る板ガラスのコーナー部を示す正面図である。
図6d】本発明の実施形態に係る板ガラスのコーナー部を示す正面図である。
図6e】本発明の実施形態に係る板ガラスのコーナー部を示す正面図である。
図7】板ガラスの製造装置に備えられた折割りバーを示す側面図である。
図8】板ガラスの製造装置に備えられた折割りバーを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して説明する。なお、下記の実施形態においては、縦姿勢にされた板ガラスの上下方向と平行な両側の縁部を、スクライブを境界として折割る場合を例に挙げて説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る板ガラスの製造装置を示す斜視図である。同図に示すように、板ガラスの製造装置1は、縦姿勢とされたガラス原板としての板ガラスGの表面に形成されたスクライブSを覆って水蒸気Mの流通空間Fを形成する覆設部材2と、流通空間F内に水蒸気Mを流入させる筒状体としての供給ホース4と、流通空間F外へと水蒸気Mを流出させる排気ホース5と、板ガラスGにおける縁部Gaの周辺を押圧してスクライブSの近傍に曲げモーメントを作用させる折割部材としての折割りバー3とを主要な要素として構成される。なお、折割の対象である板ガラスGは、図示省略の把持部材(例えば、チャック)により吊り下げられている。
【0031】
覆設部材2は、板ガラスGをその厚み方向に挟んだ一対を一組として、二組が設置されており、板ガラスGの上下方向に平行な縁部Gaと平行に形成された二本のスクライブSを、それぞれ板ガラスGの表面側と裏面側とから、その全長に亘って覆うように構成されている。また、覆設部材2は、図2に示すように、「コ」の字形の横断面形状を有しており、板ガラスGの表面及び裏面と、覆設部材2とで囲まれる水蒸気Mの流通空間Fを形成している。さらに、板ガラスGの表面及び裏面との二箇所の当接部の内、縁部Ga側の当接部にはゴム2aが設けられており、後述する折割りバー3を用いて同図に示すP方向に板ガラスGを押圧する際に、板ガラスGの変形に応じてゴム2aが弾性変形することにより流通空間Fを常に密閉するように構成されている。また、覆設部材2の上下方向における両端部には、それぞれ開口が形成されており、上方側の開口が流通空間Fに水蒸気Mを流入させる流入口となり、下方側の開口が流通空間Fから水蒸気Mを流出させる流出口となっている。
【0032】
覆設部材2に形成された流入口と接続される供給ホース4、及び流出口と接続される排気ホース5は、内径が大きい大径部と、内径が小さい小径部とが交互に連なった、いわゆる蛇腹構造を有している。供給ホース4は、図示省略の水蒸気の供給装置(例えば、加湿器)と接続されており、供給装置で発生した水蒸気Mが供給ホース4内を通過して流通空間F内に流入する。排気ホース5は、図示省略の吸引装置(例えば、真空ポンプ)と接続されており、この吸引装置の吸引によって排気ホース5内に負圧が作用し、流通空間F外へと水蒸気Mが流出する。
【0033】
以上の構成から、水蒸気の供給装置で発生した水蒸気Mは、供給ホース4内を通過して流入口から流出空間F内へと流入した後、板ガラスGに形成されたスクライブSに沿って上方側から下方側へと流れる。その後、流出口から流通空間F外へと排気され、排気ホース5内を通過して吸引装置へと至る。
【0034】
折割りバー3は、図3aに示すように、板ガラスGの縁部Gaと平行となるように設置されている。上下方向の両側先端部には、その先端側に移行するにつれて板ガラスGの縁部Ga側から内側へと漸次突出する突出部3aが設けられている。また、同図に示すA方向から折割りバー3を視た側面図である図3bに示すように、板ガラスGの表面を押圧する押圧部3bは、上方側から下方側に移行するにつれて板ガラスGの表面に対し漸次離反するように上下方向における全域が傾斜している。これにより、折割りバー3が板ガラスGを押圧する際に、押圧部3bが上方側から下方側へと順次板ガラスGの表面と当接して押圧するように構成されている。ここで、押圧部3bの鉛直線に対する傾斜角度は、0.1°〜5°であることが好ましい。
【0035】
以下、上記の板ガラスの製造装置1を用いた板ガラスの製造方法について添付の図面を参照して説明する。なお、板ガラスの製造方法について説明するための各図面において、覆設部材2、供給ホース4、排気ホース5、流通空間Fの図示は省略している。
【0036】
まず、図4aに示すように、ホイールカッターによる押圧、レーザーの照射等により、同図に示すB点を起点として板ガラスGの表面にスクライブSを形成する。このスクライブSは、板ガラスGの上下方向における両端部を除外して、尚且つ、縁部Gaと平行となるように形成する。なお、B点の縁部Gaからの離間距離は、3mm〜50mm程度であることが好ましい。3mm未満になると、後述するように、コーナー部Gbを、凸状に湾曲した形状とすることが困難となる。また、板ガラスGの搬送時に、振動等に起因して、折り割りバー3で折割る前にスクライブSを境界として板ガラスGが割れやすくなってしまう。さらに、50mmを超えると、コーナー部を凸状に湾曲した形状とすることが実用的ではない。
【0037】
次に、スクライブSの形成が完了すると、図示省略の覆設部材2によってスクライブSをその全長に亘って覆う。その後、図4bに示すように、折割りバー3を用いて板ガラスGの表面を上方側から下方側へと順次に押圧する(押圧力が作用する方向は、同図において紙面の手前側から奥側に向かう方向)。ここで、同図に示す折割りバー3において、クロスハッチングを施した領域は、その領域が板ガラスGを押圧していることを表している(以降の図において同じ)。
【0038】
折割りバー3による板ガラスGの押圧が開始されると、供給ホース4を通じて流通空間F内に水蒸気Mを流入させる。この際、供給ホース4が蛇腹構造を有することにより、水蒸気Mの結露に起因して供給ホース4内に水滴が発生した場合であっても、この水滴が蛇腹構造の大径部で堰き止められるため、水滴が流通空間F内へと流入することが防止される。その結果、水滴によって板ガラスGの表面が汚染される恐れを可及的に低減することが可能となる。
【0039】
板ガラスGにおける上方側端部の付近が折割りバー3により押圧されると、板ガラスGには、押圧力に起因して発生する曲げモーメントにより、同図に二点鎖線で示すように、板ガラスGが局所的に折れ曲がった屈曲部Lが形成される。この屈曲部Lは、折割りバー3に設けられた突出部3aの形状に倣い、板ガラスGの上下方向における上方側先端に移行するにつれて縁部Ga側から内側へと漸次突出すると共に、B点でスクライブSに連なった状態で連続的に形成される。このとき、屈曲部Lには、その周辺部と比較して高い引張応力が作用した状態となると共に、この屈曲部Lにおいて最大応力が発生する。そのため、この部位においては、板ガラスGがスクライブSではなく、スクライブSに連なった屈曲部Lに沿って折割られることで、同図に示すV方向に割断部Cが順次に形成されていく。また、割断部Cからは、ガラス小片やガラス粉末からなるガラスチッピングKが発生する。このガラスチッピングKは、流通空間F内を流れる水蒸気Mによって上方側から下方側へと運ばれる。
【0040】
その後、図4cに示すように、折割りバー3による板ガラスGの押圧をさらに下方側へと進行させると、板ガラスGの表面に形成されたスクライブSの近傍では、上方側から下方側へと順次に曲げモーメントが発生する。これにより、板ガラスGは上方側から下方側へとスクライブSを境界として順次折割られる。この際においても、上述の場合と同様に割断部CからガラスチッピングKが発生する。
【0041】
この板ガラスGの折割りが進行するとき、流通空間F内を流れる水蒸気Mにより、スクライブSの周辺は、単に空気を流すだけの場合と比較して、加湿された状態となる。そして、この加湿された状態下では、板ガラスGを折割るために必要な押圧力が小さくなることが判明している。このため、折割りの際に割断部Cから発生するガラスチッピングKの量を抑制することが可能となる。
【0042】
さらに、折割りの進行方向と、流通空間F内を流れる水蒸気Mの向きとが共に上方側から下方側となることにより、ガラスチッピングKを回収するための大量の水蒸気Mを不要に流出空間F内に流入させる必要がなくなる。また、水蒸気MとガラスチッピングKとが上方側から下方側へと重力に逆らうことなく運ばれることになる。このため、無駄なく確実にガラスチッピングKを回収することができる。
【0043】
加えて、板ガラスGを縦姿勢としたことで、ガラスチッピングKが重力によって板ガラスGの表面へと落下し付着してしまうような事態も回避することができる。また、流通空間F内が加湿されることにより、静電気がガラスチッピングKに帯電し難くなるため、板ガラスGへの付着を防止する効果をより高めることが可能となる。
【0044】
そして、さらに板ガラスGの折割りが進行し、板ガラスGの下方側端部の付近が折割りバー3により押圧されると、上述の上方側端部の付近を押圧した際と同様にして板ガラスGが折割られ、図4dに示すように、板ガラスGの縁部Gaが完全に割断される。また、水蒸気Mにより上方側から下方側へと運ばれたガラスチッピングKは、水蒸気Mと共に排気ホース5を通じて流通空間F外へと運ばれ回収される。これらが完了すると、水蒸気Mの流通空間Fへの流入を停止させる。
【0045】
このようにして製造された板ガラスGは、そのコーナー部Gbが凸状に湾曲した形状となると共に、当該コーナー部Gbの端面が研磨加工等によらず、切断時において既に鏡面に仕上がった切りっ放し鏡面となる。なお、コーナー部Gbを除く部位のうち、図4dにおいて上下方向に延びる端面は、板厚方向の一方側(スクライブSを形成した面側)に存するスクライブ痕と、他方側に存する切りっ放し鏡面とで構成される。
【0046】
従来において、このような鏡面を得るためには、砥石等を用いた研削加工と研磨加工とを板ガラスのコーナー部に施す必要があったことから、製造効率が悪化しやすいという難点があった。しかしながら、本実施形態に係る板ガラスの製造方法によれば、これらの加工に対し、製造効率の観点から大幅に有利な折割りの実行のみで、これに伴って鏡面を備えたコーナー部Gbを得ることが可能である。そのため、板ガラスGの製造を迅速、且つ簡便なものとすることができる。また、コーナー部Gbはスクライブを形成することなく切断されていることから、ガラス粉の発生が可及的に低減される。その結果、ガラス粉に起因して板ガラスGに不具合が発生することを抑制でき、歩留まりを向上させることが可能となる。加えて、製造上欠陥が発生しやすく割れやすいコーナー部Gbが、スクライブによるチッピング等の欠陥のない鏡面となっていることから、切断後の工程において、板ガラスGのコーナー部Gbからの破損を効果的に抑制することも可能である。
【0047】
また、製造途中における板ガラスGを工程内、又は、工程間で移動させる場合、板ガラスGに傷や割れが生じることを防止するため、板ガラスGを保護シート上に載置する場合がある。この際、従来の製造方法により製造された板ガラスにおいては、そのコーナー部が角張ったシャープな形状となっていたため、当該コーナー部が保護シートに突き刺さったり、引っ掛かったりする等して、保護シートが損傷する不具合を生じていた。しかしながら、上述の板ガラスの製造方法により製造された板ガラスGでは、このような不具合の発生を可及的に抑制することが可能となる。なお、本実施形態においては、板ガラスGの上下のコーナー部Gbを双方共に、凸状に湾曲した形状に形成している。しかしながら、板ガラスGが、両側の縁部Gaを割断された後、搬送されるような場合にあっては、上下のコーナー部Gbのうち、割断後に板ガラスGの搬送方向の前方となる側のコーナー部Gbのみを凸状に湾曲した形状に形成してもよい。
【0048】
ここで、本発明に係る板ガラスの製造装置の構成は、上記の実施形態で説明した構成に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態では、上方側から下方側へと水蒸気を流す構成となっているが、下方側から上方側へと流す構成としてもよい。この場合、折割りバーの押圧部における傾斜の方向を上記の実施形態とは上下逆向きとし、折割りの進行方向を下方側から上方側とすることが好ましい。また、この他、水蒸気を水平方向や斜め方向に流す構成とすることもできる。
【0049】
さらに、折割りバーの形状についても、必ずしも上記の実施形態と同一である必要はない。例えば、折割りバーに設けられた突出部の形状は、図5に示すように、湾曲を有する形状であってもよい。このように突出部の形状を適宜変更することで、図6a〜図6eに示すように、板ガラスGにおけるコーナー部Gbを多様な形状に形成することができる。なお、これらの図に示すコーナー部Gbを備えた板ガラスGによっても上記の実施形態において既に説明した効果を同様に得ることが可能である。また、上記の実施形態において、折割りバーの押圧部は上下方向の全域が傾斜した形状となっているが、図7に示すように、上下方向における一部が傾斜した形状であってもよい。さらに、図8に示すように、押圧部3bは、二段階に勾配が形成された形状としてもよい。この場合、押圧部3bの第一勾配部3baが、折割りバー3の長さに対して、その割合が10%以下となるように形成すると共に、鉛直線に対する傾斜角度を3°〜10°とし、第一勾配部3baに連なる第二勾配部3bbの傾斜角度を0.1°〜5°とすれば、より折割りの実施が容易となる。
【0050】
また、流通空間内に水蒸気を流入させるタイミングについても、上記の実施形態に限定されるものではなく、折割りバーが板ガラスを押圧するより前に、流通空間内に水蒸気を流入させてもよいし、折割りの進行状況とは無関係に、常に流通空間に水蒸気を流すようにしてもよい。
【0051】
加えて、上記の実施形態においては、縦姿勢における板ガラスの上下方向に平行な両側の縁部を、スクライブを境界として折割る場合を例に挙げたが、これに限定するものではない。例えば、横姿勢における板ガラスの縁部を折割るようにしてもよいし、水平面に対して傾斜した姿勢における板ガラスの縁部を折割るようにしてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 板ガラスの製造装置
2 覆設部材
2a ゴム
3 折割りバー
3a 突出部
3b 押圧部
3ba 第一勾配部
3bb 第二勾配部
4 供給ホース
5 排気ホース
G 板ガラス
Ga 板ガラスの縁部
Gb 板ガラスのコーナー部
S スクライブ
B スクライブの起点
L 屈曲部
M 水蒸気
F 水蒸気の流通空間
C 割断部
K ガラスチッピング
図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図4c
図4d
図5
図6a
図6b
図6c
図6d
図6e
図7
図8