(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プレート部材の幅は、前記スリットの幅よりも小さく形成され、前記プレート部材の下端部は、前記スリット内に固定されている、請求項1から3のいずれかに記載の波力発電システム。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−97409号公報
【特許文献2】特開2004−100518号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Watanabe, T. Kondo, H. and Yano, K.: Wave Power Extraction at Coastal Structures by Means of Pendulor System (The First Experimental Operation of the Plant at Muroran-Port) (in Japanese), Transactions of the Japan Society of Mechanical Engineers Ser. B, 52-477 (1986), 2267-2274.
【非特許文献2】Watanabe, T. and Kondou, T.: Haryoku Hatsuden -Genri Kara Ouyou Made- (in Japanese), Pawa-sha (2005) 78-79.
【非特許文献3】Antonio, F. D. O. F.: Wave Energy Utilization -A Review of the Technologies- , Renewable and Sustainable Energy Reviews 14 (2010), 899-918.
【非特許文献4】Osawa, H, Miyazaki, T. and Miyajima ,S. :A Study on Characteristics of Hydrodynamics and Generating Output of Offshore Floating Wave Energy Device "Mighty Whale", Journal of the Society of Naval Architects of Japan, 196 (2004), 115-122.
【非特許文献5】Kanki, H.: Wave Power Generation System Applying Gyroscopic Moment, Journal of the Japan Institute of Energy, 90(2011), 198-200.
【非特許文献6】Kanki, H, Arii, S., Fukui, K. and Oku, K.: Research on Practical Use of Wave-Power Generation System by Gyro Effect, Proceedings of the Japan Society of Mechanical Engineers, No.94-1 (2009), 5-28.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1、2に記載の波力発電システムでは、波が板状部材を押圧することで、板状部材を揺動させているが、進入した波は、板状部材の揺動とともに、揺動方向に板状部材の後方へ流れている。そのため、板状部材には瞬間的に波の力が作用するものの、板状部材の揺動とともにその力が揺動方向へ逃げてしまうため、波の力を効率的に板状部材に作用させることができなかった。そのため、発電効率の向上には未だ改善の余地があった。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、波の及ぼす力を効果的に利用することができ、発電効率を向上することができる波力発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、スリットを介して外海と連通する遊水室を備えた防波堤に設けられる波力発電システムであって、下端部が前記スリット内及び前記遊水室における前記スリットと対向する位置のいずれか一方の設置部に固定され、波の作用によって変形可能なプレート部材であって、上端部が波の作用による変形に伴って移動可能に支持されたプレート部材と、回転軸を有し、当該回転軸の回転に伴って発電を行う発電機と、前記プレート部材の上端部と連結され、当該上端部の移動を前記回転軸の回転に変換する変換機構と、を備えている。
【0009】
この構成によれば、波の作用を受けて変形するプレート部材を設けている。このプレート部材は、下端部がスリット内及び遊水室における前記スリットと対向する位置のいずれか一方の設置部に固定され、上端部が波の作用による変形に伴って移動可能に支持されている。そのため、プレート部材が、スリットを通過して遊水室へ入り込む波の力を受けると、プレート部材の変形に伴って上端部が移動する。そして、この運動が変換機構を介して発電機に伝達されることで、発電が行われる。一方、遊水室に入り込んだ波がスリットから外海へ流れ出す際には、この波もプレート部材で受け止められるため、その際のプレート部材の移動も発電機に伝達することができる。したがって、本発明に係る波力発電システムでは、波の前進及び後退運動をプレート部材で受けることで、プレート部材の変形に伴う往復運動を生成することができ、これによって、発電を行うことができる。その結果、波の運動から効果的に発電を行うことができる。
【0010】
特に、プレート部材は、上下の端部が支持されているため、受けた波の力は、少なくともプレート部材の上端側または下端側から逃げにくく、波の力を効率的に受けることができる。したがって、プレート部材の上端部の移動距離を大きくすることができ、発電を効果的に行うことができる。
【0011】
上記波力発電システムにおいては、前記プレート部材を矩形状に形成し、当該プレート部材において上下方向に延びる第1軸線を屈曲可能に構成することができる。
【0012】
このようにすると、プレート部材が、波を上下方向から包み込むように受けることができる。そのため、プレート部材が受けた波の力が上下方向に逃げるのを抑制することができ、波の力を効率的にプレート部材で受け止めることができる。これにより、プレート部材の上端部の移動距離を大きくすることができ、発電効率を大きくすることができる。
【0013】
ここで、さらに、前記プレート部材において幅方向に延びる第2軸線が屈曲可能に構成することもできる。
【0014】
このように構成すると、プレート部材が、上下方向に加え、幅方向からも波を包むように受けることができる。そのため、プレート部材が受けた波の力が幅方向から逃げるのも抑制することができ、波の力をさらに効率的にプレート部材で受け止めることができる。これにより、プレート部材の上端部の移動距離をさらに大きくすることができ、発電効率を大きくすることができる。
【0015】
上記波力発電システムにおいては、前記プレート部材の下端部を、前記遊水室において前記スリットと対向する位置に固定し、前記プレート部材の幅を、前記スリットの幅よりも大きくすることができる。
【0016】
このようにすると、スリットを通過した波をより大きい範囲で受け止めることができるため、プレート部材が受けた波の力が逃げるのをさらに抑制することができ、波の力を効率的にプレート部材で受け止めることができる。これにより、プレート部材の上端部の移動距離をさらに大きくすることができ、発電効率を大きくすることができる。
【0017】
上記波力発電システムにおいては、前記プレート部材の下端部を、前記遊水室において前記スリットと対向する位置に固定し、前記プレート部材が、前記波の移動に伴って、前記スリット内まで移動するように構成することができる。
【0018】
波の移動速度は、縮流され加速水流となるため、スリット内で最も大きくなる。そのため、プレート部材がスリット内またはスリットに最接近するまで移動するように構成すると、最も速度が速い波(加速水流)をプレート部材で効率的に受けることができるため、プレート部材の上端部の移動距離をさらに大きくすることができる。その結果、発電効率を大きくすることができる。
【0019】
上記波力発電システムにおいては、前記プレート部材の幅を、前記スリットの幅よりも小さく形成し、前記プレート部材の下端部を、前記スリット内に固定することができる。上記のように、波の移動速度は、スリット内で最も大きくなるため、スリット内にプレート部材を配置すれば、より大きい力を波から受けることができ、発電効率を大きくすることができる。
【0020】
また、前記プレート部材の下端部を、前記遊水室において前記スリットと対向する位置に固定したとき、前記プレート部材の幅を、前記スリットの幅よりも大きくするとともに、前記プレート部材を、波の移動に伴って、前記スリットに最接近するまで移動するように構成することができる。プレート部材の幅がスリットの幅よりも大きくなると、プレート部材が移動してもスリット内まで入り込まないが、スリットに最接近するまで移動するように構成すれば、上述したように、波の高い移動速度により、プレート部材の移動距離を大きくすることができる。なお、「最近接」とは、スリットに接触するほどに近接することを意味するが、必ずしも接触しなくてもよく、その近傍であってもよい。
【0021】
また、前記プレート部材の下端部を、前記遊水室において前記スリットと対向する位置に固定したとき、前記プレート部材の幅を、前記スリットの幅よりも小さくするとともに、前記プレート部材を、波の移動に伴って、前記スリット内または前記スリットに最接近するまで移動するように構成することができる。この場合の効果は上述したとおりである。
【0022】
変換機構の構成は、プレート部材の上端部の移動を発電機の回転軸の回転に変換することができれば、特には限定されないが、例えば、次のように構成することができる。すなわち、前記変換機構を、前記プレート部材の上端部に連結された線状の連結部材と、前記連結部材が巻き取られる巻き取りロールと、前記巻き取りロールの往復回転運動を一方向の回転運動に変換する変換ユニットと、を備え、前記プレート部材の移動に伴って前記連結部材が前記巻き取りロールから繰り出されることを繰り返すことによって、当該巻き取りロールが往復回転運動するように構成することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る波力発電システムによれば、波の及ぼす力を効果的に利用することができ、発電効率を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る波力発電システムの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
本発明に係る波力発電システムは、スリット及び遊水室が設けられた防波堤に設置されるものである。まず、この防波堤について説明する。以下では、説明の便宜上、海岸に沿って防波堤の延びる方向を幅方向、防波堤に対して波が進退する方向を進退方向ということがある。また、外海側を「前」、陸側を「後」ということもある。
【0027】
<1.防波堤の構造>
図1に示すように、本実施形態に係る波力発電システムが設置される防波堤は、上下方向に延びる板状の前部壁体10体及び後部壁体20を有している。前部壁体10は外海S側に配置され、これと平行に陸側に後部壁体20が配置されている。前部壁体10は、外海Sとの仕切りとなっており、その壁面には、上下方向に延びる正面視矩形状のスリット101が複数形成されている。また、前部壁体10と後部壁体20との間の空間は遊水室Kを構成しており、上述した複数のスリット101を介して外海Sと遊水室Kが連通している。このため、前部壁体10に対して波が接近すると、その一部はスリット101を通過して遊水室Kに入り込み、渦発生等に伴いエネルギーを減衰させ、消波が行われる。波がスリット101に到達すると、スリット101において水流の方向が揃えられるとともに水流の速度が加速される。そして、スリット101を通過して遊水室Kに流入した水流は、遊水室K内で反射され、再びスリット101を通過して遊水室Kから外海へ流出する。
【0028】
上述したように、スリット101は矩形状を有しているが、このようにスリット101が単純な形状を有している場合、水面にほぼ平行でかつスリットの幅方向dに縮流が生成されるため、縮流生成時の損失を低減できると考えられる。また、スリット101の水平方向に沿った長さ(前部壁体の厚さt)は、遊水室Kの水平方向に沿った長さよりも短いことが好ましく、これにより、消波を適切に行うとともに、遊水室Kにおいて衝突する波のエネルギーを低減させることができる。なお、ここで、水平方向は、波が実質的にない状態における水面に沿った方向に相当する。
【0029】
また、スリット101の幅は、前部壁体10のうちのスリット101の設けられていない部分の幅方向の長さの半分以下であることが好ましい。また、スリット101の幅dは、スリット101の上下方向の長さzよりも短いことが好ましい。このようなスリット101は縦長スリットとも呼ばれる。
【0030】
このような防波堤は陸地と巡続していてもよく、あるいは、防波堤は陸地とは連続することなく海域に単離していてもよい。ただし、防波堤は、海岸線に比較的近い箇所に設置されることが好ましい。また、波力発電システムを海岸線に近い場所に設置した揚合、送電を比較的容易に行うことができる。
【0031】
<2.波力発電システムの構造>
次に、上述した防波堤に設置される発電システムについて、
図2を参照しつつ説明する。
図2は、本実施形態に係る波力発電システムの概略構成図である。上述したように、本実施形態では、1つの前部壁体10に複数のスリット101が形成されているが、各スリット101に対しては同種の波力発電システムが設けられているため、以下の説明では、そのうちの1つのスリット101に対して設けられている波力発電システムについて説明を行う。
【0032】
図2に示すように、この発電システムは、遊水室K内においてスリット101と対向する位置に配置される屈曲可能なプレート部材1を備えており、このプレート部材1が波の衝突によって屈曲すると、その変形に係る力が変換機構2を介して発電機3に伝達されるように構成されている。このプレート部材1は、縦長の矩形状に形成されており、その下辺には水平に延びる下部棒状部材11が取り付けられており、この下部棒状部材11が、遊水室Kの底面に2本の下部ワイヤー12を介して固定されている。一方、プレート部材1の上辺には水平に延びる上部棒状部材13が取り付けられており、この上部棒状部材13が2本の上部ワイヤー14を介して、後述する変換機構2に支持されている。このような構成により、プレート部材1は、波の力が作用しないときは、上部ワイヤー14と下部ワイヤー12との間で、海中に沈められたまま、上下方向に延びるように配置されている。なお、変換機構2は防波堤上に配置され、発電機3は防波堤上、あるいは陸地に配置することができる。
【0033】
プレート部材1は、波の力を受けて屈曲するようなシート状の材料で形成されていればよく、金属、織布、樹脂など、種々の材料で形成することができる。そして、本実施形態においては、少なくとも上下方向に延びる仮想的な第1軸線Xが屈曲するように、プレート部材1は変形する。また、各棒状部材11、13が可撓性を有する材料で形成されていれば、幅方向に延びる仮想的な第2軸線Yが屈曲するように、プレート部材1が変形するように構成することもできる。また、プレート部材1の大きさは特には限定されないが、その幅は、スリット101の幅dよりも小さくすることもできるし、大きくすることもできる。また、プレート部材1の上下方向の長さも同様であり、スリット101の長さzよりも小さくすることもできるし、大きくすることもできる。
【0034】
変換機構2は、上述した上部ワイヤー14がそれぞれ巻き取られる一対の巻き取りローラ21を備えている。これら巻き取りローラ21は、1つの連結軸22によって連結され、且つこの連結軸22周りに回転可能に支持されている。したがって、上部ワイヤー14の移動により、各上部ワイヤー14が、巻き取りローラ21に巻き取られたり、あるいは繰り出されたりすることで、各巻き取りローラ21及び連結軸22が往復回転するようになっている。
【0035】
連結軸22は、油圧ポンプ23に連結されており、油圧ポンプ23によって、
図2のB方向に付勢されている。これにより、上部ワイヤー14はB方向に巻き取られるように張力が作用している。さらに、この油圧ポンプ23が油圧モータ24を介して発電機3に接続されている。油圧ポンプ23は、連結軸22の往復回転運動を駆動力にして作動油を吐出するように構成されており、例えば、公知のロータリーベーンポンプを利用することができる。そして、この油圧ポンプ23は、吐出管231と戻り管232で構成された配管を介して油圧モータ24に接続されており、連結軸22が往復回転すると、吐出管231を介して油圧モータ24へ作動油を供給し、これによって油圧モータ24が駆動するようになっている。そして、油圧モータ24の出力軸(図示省略)は、発電機3の回転軸31と連結されている。
【0036】
<3.発電動作>
次に、上記のように構成された波力発電システムの発電動作について、
図3も参照しつつ説明する。まず、外海Sから防波堤側へ進行した波は、スリット101おいて水流の速度が加速された後、遊水室Kに進入し、プレート部材1に衝突する。これにより、プレート部材1は、陸側に凸となるように第1軸線Xが屈曲し、これに伴って、上部ワイヤー14は、連結軸22のB方向への付勢力に抗して陸側に引っ張られる。その結果、上部ワイヤー14は、巻き取りローラ21から繰り出され、巻き取りローラ21がA方向に回転する。その後、波は後部壁体20で反射され、後部壁体20側からプレート部材1に衝突する。これにより、プレート部材は、
図3(a)の屈曲状態から
図1の状態に戻り、これに伴って、上部ワイヤー14は、連結軸22の付勢力によって巻き取りローラ21に巻き取られ、巻き取りローラ21はB方向に回転する。そして、反射した波が外海S側に進行するにしたがって、プレート部材1は、外海S側に凸となるように屈曲する。これにより、上部ワイヤー14が外海S側へ引っ張られ、巻き取りローラ21はA方向に回転する。その後、波の力がプレート部材1に作用しなくなると、プレート部材1は
図1の初期状態に戻る。その際、上部ワイヤー14は、連結軸22の付勢力により引っ張られ、巻き取りローラ21はB方向に回転する。
【0037】
以上の動作を繰り返すことで、連結軸22は往復回転し、これが油圧ポンプ23に伝達される。油圧ポンプ23は、この往復回転を受けて作動油を油圧モータ24に吐出し、これによって油圧モータ24が駆動する。その結果、発電機3の回転軸31が回転し、発電が行われる。
【0038】
<4.特徴>
以上のように、本実施形態によれば、波の作用を受けて屈曲するプレート部材1を設けているため、このプレート部材1がスリット101内へ入り込む波の力を受けると屈曲し、これに伴って上端部が陸側へ移動する。そして、この運動が変換機構2を介して発電機3に伝達されることで、発電が行われる。一方、波がスリット101から外海Sへ流れ出す際には、この波もプレート部材1で受け止められるため、その際のプレート部材1の屈曲に伴う移動も発電機3に伝達することができる。したがって、本実施形態に係る波力発電システムでは、波の前進及び後退運動をプレート部材1で受けることにより、プレート部材1の屈曲に伴う往復運動を生成することができ、これによって、発電を行うことができる。その結果、波の運動から効果的に発電を行うことができる。
【0039】
特に、プレート部材1は、上下の端部が支持され、波の力を受けると第1軸線Xが屈曲するように変形するため、波を上下方向から包み込むように受けることができる。そのため、プレート部材1が受けた波の力が上下方向に逃げるのを抑制することができ、波の力を効率的にプレート部材1で受け止めることができる。これにより、プレート部材1の上端部の移動距離、つまり上部ワイヤー14が引っ張られる距離を大きくすることができ、発電効率を大きくすることができる。
【0040】
そして、波の速度はスリット内で最も大きくなるので、これを利用するため、プレート部材1が屈曲したときにスリット101内まで達するようにすれば、プレート部材1により大きい力を作用させることができ、プレート部材1の上端部の移動距離をさらに大きくすることができる。このように構成するには、プレート部材1のスリット101からの距離、巻き取りローラ21の付勢力、ワイヤー12、14の長さなどを適宜調整すればよい。
【0041】
また、このような波力発電システムは、新設・既設を問わず、スリット構造を持つ防波堤を利用して設置することができるため、波力発電システムの部品点数を低減させ、発電システムの重量およびコストを抑制できる。さらに、船舶の航行安全や漁揚確保の観点から、海洋に構造物を設置することが厳しく制限されていることに対し、防波堤とは別に海域を占有する構造物や浮体を設ける必要がなく、波力発電システムを設置するための許認可を得やすい。特に、国土面積に対して長大な海岸線を有する日本では、波力発電システムを用いる意義が大きい。また、波力発電システムは防波堤を利用して設置される
【0042】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、プレート部材の形状は特には限定されず、波の力を受けることができるのであれば、矩形状以外でもよい。
【0043】
プレート部材1は、スリット101内に配置することもできる。この場合には、プレート部材1の幅をスリット101よりも小さくする必要がある。
【0044】
また、プレート部材1の幅をスリット101よりも大きくしたときには、プレート部材1は、スリット101と対向する遊水室K内に設けるが、この場合、プレート部材1をスリット101に最近接する位置まで移動するように構成することができる。上述したように、波の速度はスリット101内で最も大きくなるが、それに近接する位置であっても、速度は大きいため、プレート部材1の幅が大きい場合には、プレート部材1をスリット101に最近接する位置まで移動するように構成することが好ましい。
【0045】
また、上部棒状部材13及び下部棒状部材11が可撓性を有すると、プレート部材1において幅方向に延びる第2軸線Yが屈曲可能となる。このように構成すると、プレート部材1が、上下方向に加え、幅方向からも波を包むように受けることができる。そのため、プレート部材1が受けた波の力が幅方向から逃げるのを抑制することができ、波の力を効率的にプレート部材1で受け止めることができる。これにより、発電効率をさらに大きくすることができる。
【0046】
なお、棒状部材を設けず、ワイヤーのみや、あるいは他の固定部材でプレート部材を支持することできる。また、ワイヤーの数や位置を調整することで、プレート部材が積極的に第2軸線に沿って屈曲するように構成することもできる。
【0047】
また、変換機構2は特には限定されず、プレート部材1の上端部の往復運動を、発電機の回転軸を回転させるものであればよく、例えば、リンク機構、カム機構の機械的な変換機構を用いることができる。
【0048】
本発明に係る波力発電システムが設けられる防波堤は上述したものに限定されず、スリット及び遊水室が設けられているものであれば、種々の防波堤に設置可能である。例えば、上記実施形態では、1つの遊水室Kに対して複数のスリット101が設けられ、各スリットに対してプレート部材を設けた例を説明したが、複数のスリット101に対して1つのプレート部材1を設けることもできる。また、1つの遊水室Kに1つのスリットが形成された防波堤に対しても適用することができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0050】
<1.試験装置の概要>
以下では、実施例として、スケール比1/12の簡易型の模擬造波水槽を用い、本実施例に係る波力発電システムを作成した。ここでは、
図4のような装置を作成した。但し、発電機及び変換機構は省略し、プレート部材の動作に基いて出力されるエネルギを計算し、ここから実施例の評価を行った。
図4に示すように、ここで用いられる水槽は回流型の構造となっており、内径146mmの下部管路51に取り付けたピストン52を直動シリンダー53により往復運動させて、流路全体に往復流動を作り出した。そして、流路上部の試験水槽54を大気中に開放することにより、水槽内に模擬波動を発生させた。ここでは、大阪湾で観測される平均的な波浪(周期5秒、波形勾配0.015、波高0.45m)を対象とした。
【0051】
すなわち、次式で定義されるフルード数
【数1】
(g:重力加速度、B:スリット幅、V:流速の実効値)
【0052】
ならびに波形勾配(a/λ、a:波高(m)、λ:波長(m))が実機(実際の波力発電システム)と同一になるよう、式(1)中の水流の実効速度(rms値)をV=0.055m/s、また周期1.44秒と設定した。
図5は、試験水槽(
図4の符号54)を拡大した模式図(平面図及び断面図)である。この中に、水深300mm、幅142mmの開放水槽内にスケール比1/12の防波堤のスリット61模型を設置した。この模型に対し、波動による水流が往復運動して、取り付けたプレート部材62を運動させ、その出力を測定した。
【0053】
ここでは、上部ワイヤー63に輪軸64を介して取り付けた重り65の上昇距離から、波の1周期にわたる仕事量を測定した。プレート部材62の下部は下部ワイヤー66で支持されている。重り65の位置の測定ならびにプレート部材62の動作確認のため、デジタルカメラ(Canon IXY 50S)で重り65の上下動を動画撮影した。なお、プレート部材62が曲げられた後、力が開放されて元の真直な状態に戻るとき、水を押しのける仕事を損失として考える必要がある。そこで、予備試験において、周期的にプレート部材62が曲げられ、元の状態に復帰するのに必要な最小の張力を発生する重り65の質量m
wを求めた。ここでは、負荷として与えた実際の重り65の質量からm
wを差し引き、重り65の上昇距離を乗じることにより、1周期にわたるプレート部材62の実仕事量を評価した。その値を周期で除すことにより、単位時間当たりの出力を求めた。なお、本試験において、損失仕事の割合は10〜20%程度であった。
【0054】
<2.プレート部材の材質の評価>
以下では、プレート部材として剛性の異なる以下の3種類の材料により、プレート部材を作成し、出力されるエネルギの評価を行った。
(1) ステンレス(SUS316、厚さ0.2mm)
(2) 軟質塩化ビニル(厚さ1mm)
(3) ナイロン布(ABCクラフト、平織DD4242、厚さ0.2mm)
【0055】
プレート部材の寸法は、35×130mmとしている。3種類のプレート部材の縦弾性係数Eと曲げ剛性EIを表1に示す。
【表1】
【0056】
プレート部材62の最大出力を求めるため、負荷(重り65の重力)に対する出力の変化を測定した。また、スリット61中心位置を(x=0)として、
図5のようにプレート部材62の取り付け位置x(中心位置から後方への距離)ならびに板の幅Wを変え、出力値の変化を測定した。まず、幅W=35mmのプレート部材式について、表1に示した3種類の剛性をもつ板を対象に、スリット中央(x=0)に取り付けたときの性能試験を行った。その結果を
図6に示す。横軸は負荷(重りの重力)を表す。3種類のプレート部材とも、負荷に対して同様の傾向を示すが、その値は剛性のないナイロン布が最大となった。弾性率が大きくなると、波から受ける力の一部をプレート部材が支えるようになり、上部ワイヤー63の変位が小さくなる。本試験の範囲内では、プレート部材には剛性がなく、負荷による引っ張り力のみ作用する場合の出力が最も良好な結果を与えた。
【0057】
<3.プレート部材の幅と位置の評価>
材質として上記(3)のナイロン布を用い、布の幅Wならびにその取り付け位置を変化させて測定を行った。その結果を
図7に示す。
図7は、スリット幅(42mm)より布の幅がわずかに小さいW=40mmの場合で、スリット中心位置(x=0)から後方に取り付け位置を変化させて出力を測定した。一方、
図8は布幅が60mmの場合であり、取り付け位置をスリット出口のx=20mmから後方へと変化させた結果が示されている。
図7によれば、出力が最大となる負荷の値は、xとともに低負荷側に移行している。また、x=0において出力が極大となり、本試験範囲における最大出力33mWが得られた。x=0で最大値が現れる理由は、スリット61内において水流の最大速度が現れることが原因と考えられる。すなわち、プレート部材62がスリット61内に存在するときに流れから大きな力を受けるため、スリット61内部でのプレート板の曲がりの振り幅が前後対称で最大となるx=0のとき、最大出力が得られたと考えられる。
【0058】
次に、布幅がスリット幅より大きい
図8によれば、x=40mmに取り付けた場合に、最大出力24mwが得られた。
図8において、最大値が現れる負荷は、プレート部材62が最も曲げられたとき、スリット61に近接する位置まで到達する状態に対応した。水流を受ける表面積の増加により、スリット61の近傍において大きな力を受けることができ、出力が大きくなったと考えられる。xを40mmよりも後方のx=50mmに設置すると、負荷を小さくしないとプレート部材62がスリット61近傍まで到達せず、(負荷×変位)で評価される出力は減少する結果となった。一方、xが40mmより小さい場合、スリット61までの距離が小さく、プレート部材62の曲がり変位が小さくなるため、出力の低下を招いた。プレート部材62をスリット61後方に置く場合には、プレート部材62の投影面積を大きくしつつ、ある程度の負荷の下、スリット61近傍まで板が曲がる状態が良好な結果を与えると考えられる。
【0059】
プレート部材62を用いる本実施例においては、流れの力を全面で受けることができ、直接動力に変換できること、ならびに流れに対して垂直に設置したプレート部材62の全面に作用する力をワイヤーの張力に集中できることから、高出力の達成が可能になったと考えられる。
【0060】
<4.波力発電システムの実機の評価>
上記の模型試験結果を利用して、実機における出力を相似則から評価する。式(1)のフルード数一定の条件の下、スケール比R(本試験では1/12)の模型試験の出力P
mと、実機における出力P
rの関係を求めると、次式を得ることができる。
【数2】
【0061】
本試験で対象とした、大阪湾の条件に対し、式(2)から計算される実機スケールの出力は198Wとなる。ここで、従来報告された他形式の発電システムを比較例として出力の比較を行う。公表されているデータにおいては、比較的大きな波高(2m程度)に対する最大出力が記されているものが多い。波のエネルギー流束は、波高の3乗に比例する。ここでは、波高0.45mに対応する本模型試験の結果を利用して、振り子板式発電機[非特許文献1参照]における波高条件2.3mでのプレート部材式の動力を予測評価した。また、発電効率(2次変換効率)として72%を仮定し[非特許文献2参照]、本実施例に係る発電システムの最大出力を試算した。他形式の発電システムとの最大出力の比較を表2に示す。表中の他形式の出力値では、それぞれの文献中に示された波高に対する値とともに、上記2.3mに対応する値の試算結果が()内に示されている。なお、Pelamis[非特許文献3参照]については、波高や出力の実測値が公表されておらず、表中にはシステムの定格発電出力のみを示した。ただし、システムの設置箇所は欧州沿岸の波の高い海域であり、波高2.3m以上を想定した出力と推察される。表中には、それぞれの形式の出力P
maxに加え、幾何学寸法から計算される海面の占有面積当たりの最大出力も合わせて示している。ここで、プレート部材の占有面積(L×W)において、Lとして板の曲がりによる往復動の振り幅を用い、Wにスリット式防波堤の1波長分(スリット+不透過壁)を用いた。実施例の場合、1基当たりの出力は他と比較して小さい。しかしながら、海面の占有面積当たりの出力は、実施例が最大値を示した。これは、プレート部材のエネルギー効率が良好であること、ならびにスリットで加速されたエネルギー密度の高い流れが利用できたことによる。
【表2】
【0062】
本発明に係るプレート部材を用いた波力発電システムにおいては、構造が極めて単純であり、沿岸構造物内部に置くことからも保守が容易であることが利点として挙げられる。また、長大な海岸線に多数の発電機構を設置することにより、大電力への対応も可能と考えられる。