【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例で用いた試薬および溶媒は、特に記載がない限りアルドリッチ社、東京化成工業社、メルク社または和光純薬社から購入したものをそのまま用いた。なお、MeOHおよびTHFは、無水グレードのものを用いた。
融点(m.p.)は、AZ WAN ATM-1融点測定器を用いて測定し、未補正の値を示した。
【0046】
1H-NMRスペクトルは、JEOL Lambda 400 (400 MHz)またはBRUKER AVANCE 600 (600 MHz)スペクトロメーターの何れかを用いて記録した。
13C-NMRスペクトルは、JEOL Lambda 400 (100 MHz)またはBRUKER AVANCE 600 (150 MHz)スペクトロメーターの何れかを用いて記録した。
1H-NMRおよび
13C-NMRのケミカルシフトは、CDCl
3中のCHCl
3 (δ=7.26もしくは77.1)または(CD
3)
2SO中の(CH
3)
2SO (δ=2.49もしくは39.5)と比べて百万分の一(δ(ppm))で記録した。
低分解能質量分析(LRMS)および高分解能質量分析(HRMS)は、高速原子衝撃イオン化法(FAB)に対してJEOL JMS-700Tによって得られた。
【0047】
全ての反応は、市販の既製薄層プレート(ワットマン社製のシリカゲルプレート0.25 mmまたはメルク社製の酸化アルミニウム60 F
254、0.25 mm)を用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)によりモニターした。TLCは、UVランプを用いて可視化した。
フラッシュクロマトグラフィーには、ダイソー社製IR-60 1002W (40/63mm)またはメルク社製酸化アルミニウム60を用いた。
ペンタセンは、周囲光の条件下で不安定であることが知られているので、合成は、暗状態で、または反応容器をアルミホイルで被覆して行った。
【0048】
製造例1
6-ペンタセノン(5)の合成
室温で、6,13-ペンタセンジオン(3.01 g、9.76 mmol)の濃硫酸(100 mL)懸濁液をH
2O (300 mL)に徐々に加えながら撹拌した後に吸引ろ過を行い、H
2O (150 mL)で洗浄した。得られた黄色の固体を室温でH
2O (300 mL)に懸濁し、アルゴン雰囲気下で30% NaOH水溶液(100 mL)およびNa
2S
2O
4 (40 g)を加えて90℃で1時間加熱撹拌した。室温まで冷却した後に吸引ろ過し、H
2O (150 mL)で洗浄した後にデシケータ中で減圧乾燥し、淡黄色の固体を得た(2.61 g、収率90%)。
1H-NMR (400 MHz、CDCl
3) δ(ppm):8.97 (s、2H)、8.07 (d、J = 8.0 Hz、2H)、7.96 (s、2H)、7.89(d、J = 8.3 Hz、2H)、7.61(t、J = 16.1 Hz、2H)、7.53(t、J = 14.2 Hz、2H)、4.71(s、2H)
HRMS (m/z): [M]
+ C
22H
12O、理論値;294.1045、実測値:294.1045。
【0049】
製造例2
1,3-ジアミノ-1,3-ジメチルウレア(9)の合成
アルゴン雰囲気下、無水ジクロロメタン(270 mL)にメチルヒドラジン(25 mL、458 mmol)を加え、ドライアイス−メタノール溶液につけ−50℃まで冷却し、撹拌した。これにトリホスゲン(11.1g、38 mmol)の無水トルエン(110 mL)溶液を滴下し、−50℃で4時間撹拌した。その後、室温で17時間撹拌した。反応液を吸引ろ過し、残渣をヘキサン(40 mL)で洗った。ろ液を減圧乾燥し、淡黄色固体を得た(13.20g、収率42%)。
m.p.:60℃;
1H-NMR (400 MHz、CDCl
3) δ(ppm):4.37(s、4H)、3.04(s、6H);
13C-NMR (100 MHz,CDCl
3) δ(ppm):165.0、41.1。
【0050】
実施例1
4-(ペンタセン-6-イル)ベンズアルデヒド(8)(アルデヒド化合物(8))の合成
アルゴン雰囲気下、室温でMg (0.45 g、18.5 mmol)のTHF (3 mL)懸濁液に、撹拌下2-(4-ブロモフェニル)-1,3-ジオキソラン(3) (0.1 mL、0.66 mol)を加え、溶液の色がこげ茶色に変化するまでドライヤーで50℃程度まで加熱した。これに(3) (1 mL、6.6 mmol)のTHF (4 mL)溶液を滴下し、1時間撹拌することで4-(1,3-ジオキソラン-2-イル)フェニルマグネシウムブロミド(グリニャール試薬(4))のTHF溶液を調製した。この溶液を、アルゴン雰囲気下で6-ペンタセノン(5) (0.65 g、2.21 mmol)のTHF (80 mL)溶液に滴下し、59℃で2時間撹拌した。室温まで冷却後飽和塩化アンモニウム水溶液(50 mL×2)を用いて有機層を洗浄し、MgSO
4で乾燥後、濾液を減圧濃縮した。それに(CH
2Cl)
2 (10 mL)を加えろ過し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:(CH
2Cl)
2 で流した後にEtOAc)によってアセタール(6)とアルデヒド(7)の混合物を得た。
【0051】
ペンタセンは光と酸素に鋭敏なので以下の操作から実験器具にアルミホイルを巻いて暗所にすることで反応を進行させた。(6)および(7)の混合物をアセトン(10 mL)に溶かし、室温で濃HCl (4 mL)を加え5分間撹拌させた後、H
2O (50 mL)を加えて紫色の粉末を得た。粉末を濾過して集め、H
2O、ヘキサンで洗浄し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;CH
2Cl
2:ヘキサン=2:1)によって精製し、濃い紫色の粉末を単離した(0.16 g、収率19%)。
【0052】
m.p.:204℃;TLC (CH
2Cl
2:ヘキサン2:1 v/v):Rf = 0.26;
1H-NMR (400 MHz、CDCl
3)δ(ppm):10.28 (s、1H)、9.04 (s、1H)、8.69 (s、2H)、8.22 (d、J = 8.3 Hz、2H)、8.17 (s、2H)、7.92 (d、J = 8.6 Hz、2H)、7.77 (d、J = 8.3 Hz、2H)、7.72 (d、J = 8.6 Hz、2H)、7.27 - 7.34 (m、4H);
13C-NMR (100 MHz、CDCl
3)δ(ppm):192.2、146.3、135.8、134.8、132.6、131.7、131.2、130.1、129.7;
HRMS (m/z):[M]
+ C
29H
18O、理論値:382.1358;実測値:382.1357;
[M+H]
+ C
29H
19O、理論値:382.1436、実測値:382.1426;
元素分析(C
29H
18O):C(理論値:91.07、実測値:90.56)、H(理論値:4.74、実測値:4.92)。
【0053】
実施例2
2,4-ジメチル-6-(4-(ペンタセン-6-イル)フェニル)-1,2,4,5-テトラジナン-3-オン(1b)(前駆体(1b))の合成
4-(ペンタセン-6-イル)ベンズアルデヒド(8) (0.26 g、0.68 mmol)と1,3-ジアミノ-1,3-ジメチルウレア(9) (0.33 g、2.79 mmol)の(CH
2Cl)
2 (50 mL)溶液を暗所、アルゴン雰囲気下で3時間還流し、室温まで冷却後、アルミナカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;(CH
2Cl)
2で流した後にEtOH)により精製し、紫色粉末を得た(0.23 g、収率70%)。
【0054】
m.p.:206℃;TLC (EtOH):Rf = 0.87;
1H-NMR (400 MHz、CDCl
3) δ(ppm):9.05 (s、1H)、8.71 (s、2H)、8.22 (s、2H)、7.94(d、J = 8.4 Hz、2H)、7.84 (d、J = 7.8 Hz、2H)、7.74 (d、J = 8.4 Hz、2H)、7.63 (d、J = 7.8 Hz、2H)、7.32 (t、J = 8.4、Hz、2H)、7.27 (t、J = 8.4 Hz、2H)、5.31 (t、J = 10.2 Hz、H)、4.59 (d、J = 10.2 Hz、2H)、3.29 (s、6H);
13C-NMR (100 MHz、CDCl
3) δ(ppm):155.7、140.1、135.7、134.5、132.2、131.6 131.2、129.8、128.80、128.76、128.1、127.2、126.7 126.6、125.4、125.2、125.1、69.8、38.2;
HRMS (m/z):[M]
+ C
32H
26N
4O、理論値:482.2107、実測値:482.2118;
[M+H]
+ C
32H
27N
4O、理論値:483.2185、実測値:483.2166。
【0055】
実施例3
2,4-ジメチル-6-(4-(ペンタセン-6-イル)フェニル)-ヴァーダジル-3-オン(1a)(ペンタセンのラジカル誘導体(1a))の合成
2,4-ジメチル-6-(4-(ペンタセン-6-イル)フェニル)-1,2,4,5-テトラジナン-3-オン(1b) (0.12g、0.25 mmol)とセライト担持Ag
2CO
3 (50 wt%、0.30 g、0.54 mol)の(CH
2Cl)
2 (50 mL)溶液を、暗所、アルゴン雰囲気下、52℃で3時間撹拌し室温まで冷却後、アルミナカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;(CH
2Cl)
2)により精製した。減圧濃縮した溶液にヘキサンを加え結晶を析出させ、1aの濃紫色の結晶を得た(0.04 g、収率33%)。
【0056】
m.p.:>300℃;TLC ((CH
2Cl)
2):Rf = 0.78;
HRMS (m/z):[M]
+ C
32H
23N
4O、理論値:479.1872、実測値:479.1875;
[M+H]
+ C
32H
24N
4O、理論値:480.1950、実測値:480.1942。
【0057】
実施例4
4,4,5,5-テトラメチル-2-(4-(ペンタセン-6-イル)フェニル)イミダゾリジン-1,3-ジオール(2b)(前駆体(2b))の合成
アルゴン雰囲気下で4-(ペンタセン-6-イル)ベンズアルデヒド(8) (0.20 g、0.52 mmol)、2,3-ビス(ヒドロキシアミノ)-2,3-ジメチルブタンサルフェート(1.04 g、4.22 mmol)、K
2CO
3 (0.51 g、3.69 mmol)の混合物のMeOH:(CH
2Cl)
2=1:1の懸濁液(30 mL)を、暗所中で72時間還流し、室温まで冷却後に濾過し、H
2Oと少量の(CH
2Cl)
2を用いて洗浄し、(2b)の紫色粉末を得た(0.20 g、収率74%)。
【0058】
mp:225℃(分解);
1H-NMR (600 MHz、(CD
3)
2SO) δ(ppm):9.22 (s、1H)、8.90 (s、2H)、8.24 (s、2H)、8.04(d、J = 8.4 Hz、2H)、7.98 (s、2H)、7.84 (d、J = 7.8 Hz、2H)、7.76 (d、J = 8.4 Hz、2H)、7.55 (d、J = 7.8 Hz、2H)、7.38 (t、J = 8.4 Hz、2H)、7.33 (t、J = 8.4 Hz、2H)、1.18 (s、6H)、1.17 (s、6H);
13C-NMR (100 MHz、(CD
3)
2SO) δ(ppm):141.6、137.2 、136.3、131.0、130.7、130.6、129.3、128.9、128.4、128.2、128.0、126.9、126.7、125.6、125.5、124.5、90.5、66.3、24.6、17.2;
HRMS (m/z):[M]
+ C
35H
32N
2O
2、理論値:512.2464、実測値:512.2444;
[M+H]
+ C
35H
33N
2O
2、理論値:513.2542、実測値:513.2548。
【0059】
実施例5
4,4,5,5-テトラメチル-2-(4-ペンタセン-6-イル)フェニル)イミダゾリジン-1,3-ジオキシル(2a)(ペンタセンのラジカル誘導体(2a))
暗所中、室温で4,4,5,5-テトラメチル-2-(4-(ペンタセン-6-イル)フェニル)イミダゾリジン-1,3-ジオール(2b) (0.10 g、0.20 mmol)のCH
2Cl
2 (10 mL)溶液にNaIO
4 (0.33 g、1.54 mmol)水溶液(20 mL)を加え30分間撹拌した。有機層を分離しシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:CH
2Cl
2)により精製し、(2a)の濃紫色粉末を得た(3.26 mg、収率3%)。
mp > 300℃;TLC (CH
2Cl
2):Rf = 0.23;
HRMS (m/z):[M]
+ C
35H
29N
2O
2、理論値:509.2229;実測値:509.2224;
[M+H]
+ C
35H
30N
2O
2、理論値:510.2307;実測値:510.2316。
【0060】
試験例1
室温で、ペンタセンをTHFに加えペンタセンのTHF飽和溶液を調整し、紫外−可視吸収スペクトルの経時変化を記録した。その結果を
図3の(a)および(b)に示す。
図3の(b)は測定波長λ=575nmにおける吸光度の経時変化を示す。なお、ペンタセンは難溶性であるため該溶液のペンタセン濃度は不明であったが、THF中のペンタセンが極めて不安定であることが示された。
【0061】
試験例2
実施例2で得られた2,4-ジメチル-6-(4-(ペンタセン-6-イル)フェニル)-1,2,4,5-テトラジナン-3-オン(1b)(前駆体(1b))のTHF溶液(濃度:0.945×10
-4M)を調整し、紫外−可視吸収スペクトルの経時変化を記録した。その結果を
図4(a)に示す。
同様に、実施例3で得られた2,4-ジメチル-6-(4-(ペンタセン-6-イル)フェニル)-ヴァーダジル-3-オン(1a)(ペンタセンのラジカル誘導体(1a))のTHF溶液(濃度:0.993×10
-4M)を調整し、紫外−可視吸収スペクトルの経時変化を記録した。その結果を
図4(b)に示す。
【0062】
上記の結果から、前駆体(1b)の吸光度は、経時的に短時間で顕著に減衰する一方、ペンタセンのラジカル誘導体(1a)の吸光度は、1時間後でさえ僅かな減衰を示しただけで、ペンタセンのラジカル誘導体(1a)が、極めて安定な化合物であることが判った。
【0063】
試験例3
実施例4で得られた4,4,5,5-テトラメチル-2-(4-(ペンタセン-6-イル)フェニル)イミダゾリジン-1,3-ジオール(2b)(前駆体(2b))のTHF溶液(濃度:0.983×10
-4M)を調整し、紫外−可視吸収スペクトルの経時変化を記録した。その結果を
図5(a)に示す。
同様に、実施例5で得られた4,4,5,5-テトラメチル-2-(4-ペンタセン-6-イル)フェニル)イミダゾリジン-1,3-ジオキシル(2a)(ペンタセンのラジカル誘導体(2a))のTHF溶液(濃度:1.02×10
-4M)を調整し、紫外−可視吸収スペクトルの経時変化を記録した。その結果を
図5(b)に示す。
【0064】
上記の結果から、前駆体(2b)の吸光度は、経時的に短時間で顕著に減衰する一方、ペンタセンのラジカル誘導体(2a)の吸光度は、1時間後でさえ僅かな減衰を示しただけで、ペンタセンのラジカル誘導体(2a)が、極めて安定な化合物であることが判った。
【0065】
試験例4
上記の試験例1〜3と全く同様にして、ペンタセン、前駆体(1b)、ペンタセンのラジカル誘導体(1a)、前駆体(2b)およびペンタセンのラジカル誘導体(2a)の各THF溶液を調整し、各溶液の色合の経時変化を観察した。その結果を
図6の(a)に示す。
また、上記の各THF溶液の紫外−可視吸収スペクトルの吸光度の変化を各化合物の極大吸収波長で測定した結果を
図6の(b)に示す。
図6の(a)および(b)において1bは前駆体(1b)を、1aはペンタセンのラジカル誘導体(1a)を、2bは前駆体(2b)を、2aはペンタセンのラジカル誘導体(2a)をそれぞれ意味する。また、
図6の(b)中、△はペンタセン(測定波長:λ=575 nm)、●は1a (測定波長:λ=587 nm)、○は1b (測定波長:λ=586 nm)、■は2a (測定波長:λ= 588 nm)および□は2b (測定波長:λ= 587 nm)をそれぞれ意味する。
【0066】
上記の試験から、前駆体(1b)および(2b)のTHF溶液では、3分後にはほぼ退色したが、ペンタセンのラジカル誘導体(1a)および(2a)のTHF溶液では、顕著な退色は観察されなかった。
【0067】
また、ペンタセン、前駆体(1b)および(2b)の各THF溶液の初期吸光度に対する経時吸光度は、測定開始後10分でほぼ0になっており、各化合物におけるπ電子共役系が経時的に大きく影響を受けたことが判った。
しかしながら、ペンタセンのラジカル誘導体(1a)および(2a)のTHF溶液では、吸光度の減衰が極めて小さいことからペンタセンのラジカル誘導体(1a)および(2a)におけるペンタセン骨格のπ電子共役系は殆ど経時的影響を受けないことが示された。
【0068】
以上の結果から、本発明によるペンタセンのラジカル誘導体(1a)および(2a)は光およびTHF溶液中でも極めて安定で、かつ溶解性が高く、これらの化合物は、従来の減圧昇華法に加え、ウェットプロセスにも用いられ得ることが示された。