【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1:アユへの冷水病ワクチンの取り込み)
ワクチン作製用の菌株として、2004年に広島県内の養殖場の冷水病のアユから分離されたFlavobacteirum psychrophilum PH−0424株を、CGY培地(0.25重量%カシトン、0.15重量%ゼラチン、および0.05重量%酵母エキスを含有)を用い、対数増殖後期まで15℃にて振盪培養(110rpm)したものに、0.3(v/v)%となるようにホルマリンを添加して不活化させることにより、冷水病ワクチンを得た。
【0061】
平均体重2.0gの人工生産されたアユ30尾を実験区の1区として用いた。パパイン製剤(新日本化学工業株式会社製スミチームP)1gを5Lの淡水に溶解した水溶液を水槽に仕込み、この水槽に当該区のアユを14.0℃で15分間浸漬した。その後、全てのアユを水槽から取り出し、これらのアユを、淡水で容量比1/10まで希釈した上記冷水病ワクチン懸濁液5Lに14.0℃で15分間浸漬した。
【0062】
全てのアユをワクチン懸濁液から取り出し、通常の飼育水槽に移して15日間飼育した。
【0063】
上記ワクチン処理から15日経過後、この実験区の全てのアユを、冷水病菌培養液(PH−1037株培養液;10
6.8CFU/mL)に30分間浸漬した。なお、当該PH−1037株は、2010年に広島県内の養殖場で発生した冷水病のアユから分離されたF.psychrophilumである。
【0064】
その後アユを通常の飼育環境に戻し、このまま14日間アユの飼育を継続し、その期間における死亡したアユの個体数をカウントした。この死亡した個体数について、飼育期間の累積死亡数の割合として算出したものを
図1に示す。
【0065】
(比較例1:アユへの冷水病ワクチンの取り込み)
パパイン製剤を溶解した水溶液への浸漬を行わず、ワクチン懸濁液への浸漬のみを行ったこと以外は実施例1と同様にしてアユの飼育を行った。その後、実施例1と同様にしてアユを冷水病菌培養液にて浸漬し、その後アユを通常の飼育環境に戻した状態で飼育し、その期間における死亡したアユの個体数をカウントした。この死亡した個体数について、飼育期間の累積死亡数の割合として算出したものを
図1に示す。
【0066】
(比較例2:対照区(非免疫区))
対照区として、パパイン製剤を溶解した水溶液への浸漬を行わず、かつワクチン懸濁液への浸漬も行わなかったこと以外は実施例1と同様にしてアユの飼育を行った。その後、実施例1と同様にしてアユを冷水病菌培養液にて浸漬し、その後アユを通常の飼育環境に戻した状態で飼育し、その期間における死亡したアユの個体数をカウントした。この死亡した個体数について、飼育期間の累積死亡数の割合として算出したものを
図1に示す。
【0067】
図1に示すように、14日後の累積死亡率は比較例2の対照区で63.3%,ワクチンのみで処理した比較例1の実験区で73.3%、プロテアーゼ処理かつワクチン処理した実施例1の実験区44.8%となり、ワクチン処理前にプロテアーゼ水溶液で処理することにより、該当する実験区のアユに対してワクチンの効果が高まっていたことがわかる。
【0068】
(参考例1:アユへのプロテアーゼ処理の効果)
平均体重4.7gの人工生産されたアユ20尾を実験区の1区として用いた。パパイン製剤(新日本化学工業株式会社製スミチームP)0.5gを10Lの淡水に溶解した水溶液を水槽に仕込み、この水槽に当該区のアユを15.5℃で30分間浸漬した。
【0069】
全てのアユをパパイン水溶液から取り出し、この実験区の全てのアユを、冷病菌培養液(PH−0424株培養液;10
6.9CFU/mL)に1時間浸漬した。
【0070】
その後アユを通常の飼育環境に戻し、このまま14日間アユの飼育を継続し、その期間における死亡したアユの個体数をカウントした。この死亡した個体数について、飼育期間の累積死亡数の割合として算出したものを
図2に示す。
【0071】
(参考例2:アユへのプロテーゼ処理および回復処理の効果)
参考例1と同様にしてプロテアーゼ水溶液によるアユの浸漬処理を行った。全てのアユをプロテアーゼ水溶液から取り出して、1日間淡水中で飼育した(回復処理)。
【0072】
その後、参考例1と同様にしてアユを冷水病菌培養液にて浸漬し、その後アユを通常の飼育環境に戻した状態で飼育し、その期間における死亡したアユの個体数をカウントした。この死亡した個体数について、飼育期間の累積死亡数の割合として算出したものを
図2に示す。
【0073】
(参考比較例1:対照区(非免疫区))
対照区として、パパイン製剤を溶解した水溶液への浸漬を行わなかったこと以外は参考例1と同様にしてアユの飼育を行った。その後、参考例1と同様にしてアユを冷水病菌培養液にて浸漬し、その後アユを通常の飼育環境に戻した状態で飼育し、その期間における死亡したアユの個体数をカウントした。この死亡した個体数について、飼育期間の累積死亡数の割合として算出したものを
図2に示す。
【0074】
図2に示すように、14日後の累積死亡率は参考比較例1の対照区で45%、プロテアーゼ処理のみを行った参考例1の実験区で70%、プロテアーゼ処理と回復処理とを行った参考例2の実験区で20%となった。このことから、プロテアーゼ処理によって、アユは、実施例1のようなワクチンだけでなく、水溶液中の細菌を取り込みやすくなっており、むしろ参考例1と参考比較例1とを比較した場合は、プロテアーゼ処理を行った参考例1の方が冷水病菌の取り込みが増大されたことがわかる。これに対し、プロテアーゼ処理と回復処理とを行った参考例2の実験区では、プロテアーゼ処理で失われた体表粘液が1日後には回復していることがわかる。
【0075】
(実施例2:ヒラメへのレンサ球菌症ワクチンの取り込み)
平均体重28.5gの人工生産されたヒラメ20尾を実験区の1区として用いた。パパイン製剤(新日本化学工業株式会社製スミチームP)5gを1Lの海水に溶解した水溶液を水槽に仕込み、この水槽に当該区のヒラメを19.0℃で15分間浸漬した。その後、全てのヒラメを水槽から取り出し、これらのヒラメを、海水で容量比1/10まで希釈したレンサ球菌ワクチン(Mバックイニエ;共立製薬株式会社製)を含有する懸濁液1Lに19.0℃で30分間浸漬した。
【0076】
全てのヒラメをワクチン懸濁液から取り出し、通常の飼育水槽に移して14日間飼育した。
【0077】
上記ワクチン処理から14日経過後、この実験区の全てのヒラメを、トリプトソーヤブイヨン(日水製薬株式会社製)で培養したStreptococcus iniae Psi402株(松岡ら、魚病研究、2007年、第42号、pp.181−189)を10
4.1CFU/個体となるようにそれぞれ腹腔内注射した。
【0078】
その後ヒラメを通常の飼育環境に戻し、このまま13日間ヒラメの飼育を継続し、その期間における死亡したヒラメの個体数をカウントした。この死亡した個体数について、飼育期間の累積死亡数の割合として算出したものを
図3に示す。
【0079】
(比較例3:ヒラメへのレンサ球菌症ワクチンの取り込み)
パパイン製剤を溶解した水溶液への浸漬を行わず、ワクチン懸濁液への浸漬のみを行ったこと以外は実施例2と同様にしてヒラメの飼育を行った。その後、実施例2と同様にしてPsi402株の腹腔内注射を行い、その後ヒラメを通常の飼育環境に戻した状態で飼育し、その期間における死亡したヒラメの個体数をカウントした。この死亡した個体数について、飼育期間の累積死亡数の割合として算出したものを
図3に示す。
【0080】
(比較例4:対照区(非免疫区))
対照区として、パパイン製剤を溶解した水溶液への浸漬を行わず、かつワクチン懸濁液への浸漬も行わなかったこと以外は実施例2と同様にしてヒラメの飼育を行った。その後、実施例2と同様にしてPsi402株の腹腔内注射を行い、その後ヒラメを通常の飼育環境に戻した状態で飼育し、その期間における死亡したヒラメの個体数をカウントした。この死亡した個体数について、飼育期間の累積死亡数の割合として算出したものを
図3に示す。
【0081】
図3に示すように、13日後の累積死亡率は比較例4の対照区で95.0%、ワクチンのみで処理した比較例3の実験区で45.0%、プロテアーゼ処理かつワクチン処理した実施例2の実験区で20.0%となりワクチン処理前にプロテアーゼ水溶液で処理することにより、該当する実験区のヒラメに対してワクチンの効果が高まっていたことがわかる。
【0082】
(参考例3:ヒラメへのプロテアーゼ処理の効果)
平均体重28.5gの人工生産されたヒラメ10尾を実験区の1区として用いた。パパイン製剤(新日本化学工業株式会社製スミチームP)2gを溶解させ、かつ容量比で1/4にまで淡水で希釈した海水2Lで構成される水溶液を水槽に仕込み、この水槽に当該区のヒラメを26.5℃で15分間浸漬した。
【0083】
全てのヒラメをパパイン水溶液から取り出し、この実験区の全てのヒラメを、レンサ球菌培養液(Psi402株培養液;10
8.1CFU/mL)に30分間浸漬した。
【0084】
その後ヒラメを通常の飼育環境に戻し、このまま2週間ヒラメの飼育を継続し、その期間における死亡したヒラメの個体数をカウントした。この死亡した個体数について、飼育期間の累積死亡数の割合として算出したものを
図4に示す。
【0085】
(参考例4:ヒラメへの酵素処理および回復処理の効果)
参考例3と同様にしてパパイン水溶液によるヒラメの浸漬処理を行った。全てのヒラメをパパイン水溶液から取り出して、1日間海水中で飼育した(回復処理)。
【0086】
その後、参考例3と同様にしてヒラメをレンサ球菌培養液にて浸漬し、その後ヒラメを通常の飼育環境に戻した状態で飼育し、その期間における死亡したヒラメの個体数をカウントした。この死亡した個体数について、飼育期間の累積死亡数の割合として算出したものを
図4に示す。
【0087】
(参考比較例2:対照区(非免疫区))
対照区として、パパイン製剤を溶解した水溶液への浸漬を行わなかったこと以外は参考例3と同様にしてヒラメの飼育を行った。その後、参考例1と同様にしてヒラメをレンサ球菌培養液にて浸漬し、その後ヒラメを通常の飼育環境に戻した状態で飼育し、その期間における死亡したヒラメの個体数をカウントした。この死亡した個体数について、飼育期間の累積死亡数の割合として算出したものを
図4に示す。
【0088】
図4に示すように、2週間後の累積死亡率は、参考比較例2の対照区で10%、プロテアーゼ処理のみを行った参考例3の実験区で90%、プロテアーゼ処理と回復処理とを行った参考例4の実験区で10%となった。このことから、プロテアーゼ処理によって、ヒラメは、実施例2のようなワクチンだけでなく、水溶液中の細菌を取り込みやすくなっており、むしろ参考例3と参考比較例2とを比較した場合は、プロテアーゼ処理を行った参考例3の方がレンサ球菌の取り込みが増大されたことがわかる。これに対し、プロテアーゼ処理と回復処理とを行った参考例4の実験区では、プロテアーゼ処理で失われた体表粘液が1日後には回復していることがわかる。
【0089】
(実施例3:アユへのレンサ球菌症ワクチンの取り込み)
平均体重12.5gの人工生産されたアユ25尾を実験区の1区として用いた。パパイン製剤(新日本化学工業株式会社製スミチームP)0.4gを2Lの淡水に溶解した水溶液を水槽に仕込み、この水槽に当該区のアユを20.0℃で15分間浸漬した。その後、全てのアユを水槽から取り出し、これらのアユを、淡水で容量比1/10まで希釈したレンサ球菌ワクチン(Mバックイニエ;共立製薬株式会社製)を含有する懸濁液1Lに20.0℃で10分間浸漬した。
【0090】
全てのアユをワクチン懸濁液から取り出し、通常の飼育水槽に移して13日間飼育した。
【0091】
上記ワクチン処理から13日経過後、この実験区から5尾のアユを取り出し、それぞれ尾部血管から採血し、血液を遠心分離(5000g、5分間)にかけて血清を回収した。得られた血清から、抗体価を、抗アユIgMモノクローナル抗体(フナコシ株式会社製)を用いたELISA法によって測定した。得られた結果を
図5に示す。
【0092】
(比較例5:アユへのレンサ球菌症ワクチンの取り込み)
パパイン製剤を溶解した水溶液への浸漬を行わず、ワクチン懸濁液への浸漬のみを行ったこと以外は実施例3と同様にしてアユの飼育を行った。その後、実施例3と同様にして血清を得、抗アユIgMモノクローナル抗体を用いたELISA法によって抗体価を測定した。得られた結果を
図5に示す。
【0093】
(比較例6:対照区(非免疫区))
対照区として、パパイン製剤を溶解した水溶液への浸漬を行わず、かつワクチン懸濁液への浸漬も行わなかったこと以外は実施例3と同様にしてアユの飼育を行った。その後、実施例3と同様にして血清を得、抗アユIgMモノクローナル抗体を用いたELISA法によって抗体価を測定した。得られた結果を
図5に示す。
【0094】
図5に示すように、抗体価は、プロテアーゼ処理かつワクチン処理した実施例3のアユの場合に最も高くなっており、プロテアーゼ処理によってワクチン成分の取り込みが促進されていたことがわかる。