(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両の駆動力を出力するモータと駆動輪との間に両者を断接するクラッチが介装され、インヒビタスイッチ信号が走行レンジにあることを示した場合、前記モータを回転数制御すると共に、前記クラッチの目標伝達トルク容量を車両の目標駆動トルクに応じたトルク容量として前記クラッチをスリップ制御しながら車両を発進させる発進モードを有する車両の制御装置であって、
前記発進モード中のモータトルクが前記目標伝達トルク容量に基づく推定モータトルクよりも小さいとき、前記クラッチの油圧室に制御油圧を供給する制御弁が前記油圧室に前記制御油圧を供給不能なニュートラル状態であると判定することを特徴とする車両の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施例1〕
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。
図1、は実施例1のエンジン始動制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、
図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチCL1と、モータジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0010】
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。なお、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0011】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装されたクラッチであり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、AT油圧コントロールユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0012】
自動変速機ATは、前進5速後退1速等の有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り替える変速機であり、第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用している。なお、詳細については後述する。
そして、自動変速機ATの出力軸は、車両駆動軸としてのプロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。なお、前記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いている。
【0013】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。なお、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。
【0014】
また、路面勾配が所定値以上における上り坂等で、ドライバがアクセルペダルを調整し車両停止状態を維持するアクセルヒルホールドが行われるような場合、WSC走行モードでは、第2クラッチCL2のスリップ量が過多の状態が継続されるおそれがある。エンジンEをアイドル回転数より小さくすることができないからである。そこで、実施例1では、エンジンEを作動させたまま、第1クラッチCL1を解放し、モータジェネレータMGを作動させつつ第2クラッチCL2をスリップ制御させ、モータジェネレータMGを動力源として走行するモータスリップ走行モード(以下、「MWSC走行モード」と略称する)を備える。
【0015】
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。
「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪を動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪RR,RLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。
定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。
また、さらなるモードとして、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる発電モードを有する。
【0016】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、
図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、AT油圧コントロールユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。なお、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0017】
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。なお、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0018】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータ回転数,Tm:モータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0019】
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。なお、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0020】
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18とドライバの操作するセレクトレバー27の操作位置に応じたレンジ信号を出力するインヒビタスイッチ28のインヒビタスイッチ信号を入力し、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールユニット8に出力する。AT油圧コントロールユニット8は、セレクトレバー27に連動するマニュアルバルブ(制御弁)8aを備える。セレクトレバー27をNレンジ位置からDレンジ(またはRレンジ)位置に切り替えると、その動きは物理的な連動機構によりマニュアルバルブ8aに伝達され、マニュアルバルブ8aのスプール位置がクラッチ元圧と第2クラッチCL2の油圧室との連通を遮断するNレンジ対応位置から、クラッチ元圧と第2クラッチCL2の油圧室とを連通するDレンジ対応位置に変位することにより、第2クラッチCL2に制御油圧が供給可能となる。なお、アクセルペダル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチ信号は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。また、インヒビタスイッチ信号はコンビネーションメータ(不図示)内に設けられたメータ内表示器29に送られ、現在のレンジ位置が表示される。
【0021】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(摩擦ブレーキによる制動力)で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。
【0022】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nm(第2クラッチCL2のモータ側回転数であり、以下、入力回転数と記載する。なお、レゾルバ13を用いても良い)を検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2out(第2クラッチCL2の駆動輪側回転数であり、以下、出力回転数と記載する。)を検出する第2クラッチ出力回転数センサ22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、第2クラッチCL2の温度を検知する温度センサ25と、前後加速度を検出するGセンサ26からの情報およびCAN通信線11を介して得られた情報を入力する。
【0023】
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、ATコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御と、を行う。
【0024】
以下に、
図2に示すブロック図を用いて、実施例1の統合コントローラ10にて演算される制御を説明する。例えば、この演算は、制御周期10msec毎に統合コントローラ10で演算される。統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を有する。
【0025】
目標駆動力演算部100では、
図3に示す目標駆動トルクマップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動トルクtFoOを演算する。
モード選択部200は、Gセンサ26の検出値に基づいて路面勾配を推定する路面勾配推定演算部201を有する。路面勾配推定演算部201は、車輪速センサ19の車輪速加速度平均値等から実加速度を演算し、この演算結果とGセンサ検出値との偏差から路面勾配を推定する。
【0026】
さらに、モード選択部200は、推定された路面勾配に基づいて、後述する二つのモードマップのうち、いずれかを選択するモードマップ選択部202を有する。
図4は、モードマップ選択部202の選択ロジックを表す概略図である。モードマップ選択部202は、通常モードマップが選択されている状態から推定勾配が所定値g2以上になると、MWSC対応モードマップに切り替える。一方、MWSC対応モードマップが選択されている状態から推定勾配が所定値g1(<g2)未満になると、通常モードマップに切り替える。すなわち、推定勾配に対してヒステリシスを設け、マップ切り替え時の制御ハンチングを防止する。
【0027】
次に、モードマップについて説明する。モードマップとしては、推定勾配が所定値未満のときに選択される通常モードマップと、推定勾配が所定値以上のときに選択されるMWSC対応モードマップとを有する。
図5は通常モードマップ、
図6はMWSCモードマップを表す。
通常モードマップ内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標モードを演算する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」を目標モードとする。
【0028】
図5の通常モードマップにおいて、HEV→WSC切換線は、所定アクセル開度APO1未満の領域では、自動変速機ATが1速段のときに、エンジンEのアイドル回転数よりも小さな回転数となる下限車速VSP1よりも低い領域に設定されている。また、所定アクセル開度APO1以上の領域では、大きな駆動力を要求されることから、下限車速VSP1よりも高い車速VSP1'領域までWSC走行モードが設定されている。なお、バッテリSOCが低く、EV走行モードを達成できないときには、発進時等であってもWSC走行モードを選択するように構成されている。
【0029】
アクセルペダル開度APOが大きいとき、その要求をアイドル回転数付近のエンジン回転数に対応したエンジントルクとモータジェネレータMGのトルクで達成するのは困難な場合がある。ここで、エンジントルクは、エンジン回転数が上昇すればより多くのトルクを出力できる。このことから、エンジン回転数を引き上げてより大きなトルクを出力させれば、例え下限車速VSP1よりも高い車速までWSC走行モードを実行しても、短時間でWSC走行モードからHEV走行モードに遷移させることができる。この場合が
図5に示す下限車速VSP1'まで広げられたWSC領域である。
【0030】
MWSCモードマップ内には、EV走行モード領域が設定されていない点で通常モードマップとは異なる。また、WSC走行モード領域として、アクセルペダル開度APOに応じて領域を変更せず、下限車速VSP1のみで領域が規定されている点で通常モードマップとは異なる。また、WSC走行モード領域内にMWSC走行モード領域が設定されている点で通常モードマップとは異なる。MWSC走行モード領域は、下限車速VSP1よりも低い所定車速VSP2と所定アクセル開度APO1よりも高い所定アクセル開度APO2とで囲まれた領域に設定されている。なお、MWSC走行モードとは、エンジンEを作動した状態で第1クラッチCL1を開放し、モータジェネレータMGを回転数制御すると共に、第2クラッチCL2をスリップ制御して走行するモードである。WSC走行モードに比べ、第2クラッチCL2の入力回転数を低く設定できる点でスリップ量の低減を図ることができる。
【0031】
目標充放電演算部300では、
図7に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。
動作点指令部400では、アクセルペダル開度APOと、目標駆動トルクtFoOと、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標モータトルクと目標第2クラッチ伝達トルク容量と自動変速機ATの目標変速段と第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。
【0032】
また、動作点指令部400には、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときにエンジンEを始動するエンジン始動制御部が設けられている。エンジン始動制御部では、第2クラッチCL2を目標駆動トルクに応じた第2クラッチ伝達トルク容量に設定してスリップ制御状態とし、モータジェネレータMGを回転数制御とし、目標モータ回転数を駆動輪回転数相当値に所定スリップ量を加算した値とする。この状態で、第1クラッチCL1にクラッチ伝達トルク容量を発生させ、エンジン始動を行うものである。これにより、出力軸トルクについては第2クラッチCL2のクラッチ伝達トルク容量で安定させ、第1クラッチCL1の締結によってモータ回転数が低下しようとする場合であっても、回転数制御によってモータトルクが上昇し、確実にエンジン始動を行えるものである。
変速制御部500では、シフトマップに示すシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ伝達トルク容量と目標変速段を達成するように自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御する。なお、シフトマップは、車速VSPとアクセルペダル開度APOに基づいてあらかじめ目標変速段が設定されたものである。
【0033】
[セレクトレバー中間停止時のニュートラル判定について]
図8に示すように、マニュアルバルブ8aは、セレクトケーブル27aおよびAT側リンケージ27bを介してセレクトレバー27と機械的に接続され、セレクトレバー27の操作位置に応じてスプールがストロークすることで、各油路をレンジ位置に応じた状態とする。インヒビタスイッチ28は、AT側リンケージ27bの角度からセレクトレバー27の位置を検出し、対応するインヒビタスイッチ信号を出力する。
図8(a)のようにセレクトレバー27がNレンジ位置にある場合、インヒビタスイッチ信号はNレンジにあることを示す。このとき、マニュアルバルブ8aのスプール位置は、オイルポンプOPとローブレーキL/B(発進時の第2クラッチCL2に相当する。)との連通を遮断したNレンジ対応位置にあり、自動変速機AT(マニュアルバルブ8a)はニュートラル状態である。セレクトレバー27がNレンジ位置からDレンジ位置に移動するとマニュアルバルブ8aのスプール位置がDレンジ対応位置となる前に、インヒビタスイッチ信号はNからDに切り替わる(
図8(b))。そして、セレクトレバー27がDレンジ位置まで移動すると、マニュアルバルブ8aのスプール位置は、オイルポンプOPとローブレーキL/Bとの連通するDレンジ対応位置となり、オイルポンプOPからローブレーキL/Bに制御油圧を供給可能となる(
図8(c))。
【0034】
ここで、
図8(b)に示した状態、すなわち、セレクトレバー27がNレンジ位置とDレンジ位置との間の中間位置で停止した場合など、インヒビタスイッチ信号としてはDレンジにあることを示すが、自動変速機ATはニュートラル状態のままである。このとき、オイルポンプOPとローブレーキL/Bは連通していないため、ローブレーキL/Bに制御油圧を供給できない。この状態でドライバがアクセルを踏み込むと、Dレンジに対応した車両制御、すなわち、第2クラッチCL2に制御油圧を供給可能な状態を前提とした車両制御が実施されることで、以下のような種々の問題が生じる。
【0035】
・アクセルペダルが踏み込まれた際にエンジンEまたはモータジェネレータMGの回転が吹け上がる。
・EV走行モードのときドライバがブレーキを踏むことなくゆっくりNレンジからDレンジへと切り替えた場合、WSC走行モードでクリープトルクを発生させる際に一端回転が吹け上がり、その後第2クラッチCL2が締結可能となった際に急締結によるショックが発生する。
・メータ内表示器29はDレンジと表示されているにもかかわらず、車両が前進しないため、ドライバに違和感を与える。
そこで、統合コントローラ10では、インヒビタスイッチがDレンジにあることを示しているときに自動変速機ATがニュートラル状態であることを精度良く判定すること、および上述した各問題の解決を狙いとし、以下に示すようなニュートラル判定制御処理を実施する。
【0036】
[ニュートラル判定制御処理]
図9は、統合コントローラ10で実行されるニュートラル判定制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
ステップS1では、インヒビタスイッチ信号がDレンジにあることを示しているか否かを判定し、YESの場合はステップS2へ進み、NOの場合は本制御を終了する。
ステップS2では、S1でYES判定されてから一定時間が経過したか否かを判定し、YESの場合はステップS3へ進み、NOの場合はステップS2を繰り返す。一定時間は、インヒビタスイッチ信号がDレンジにあることを示した時点から第2クラッチCL2のガタ詰め処理が行われた後、モータトルクまたはモータ回転数が目標値に達したと予想される時間とする。
ステップS3は、EV走行モードであるかWSC走行モードであるかを判定し、EV走行モードの場合はステップS4へ進み、WSC走行モードの場合はステップS6へ進む。
ステップS4では、第2クラッチCL2がスリップしているか否かを判定し、YESの場合はステップS5へ進み、NOの場合は本制御を終了する。ここでは、入力回転数(モータ回転数)から出力回転数(第2クラッチ出力回転数)を減じた値が所定の閾値以上であるとき、第2クラッチCL2がスリップしていると判定する。なお、閾値はゼロよりも大きな値であればよく、センサ精度を考慮して決定する。
ステップS5では、所定の回転数が得られるようにモータジェネレータMGを回転数制御すると共に、第2クラッチ伝達トルク容量を目標駆動力に応じたトルク容量とする。
【0037】
ステップS6では、自動変速機ATがニュートラル状態であるか否かを判定し、YESの場合はステップS7へ進み、NOの場合は本制御を終了する。ニュートラル状態の判定は、EV走行モードとWSC走行モードで異なる。
1.EV走行モード
モータトルクをTm、目標第2クラッチ伝達トルク容量のトルク換算値TTCL2、自動変速機ATのフリクションとモータジェネレータMGのフリクションと第1クラッチCL1の引き摺り分をFat、モータジェネレータMGの慣性をIω、第2クラッチCL2のトルクばらつき量をαとすると、下記の式(1)が成立したとき、ニュートラル状態であると判定する。
Tm≦TTCL2+Fat+Iω−α …(1)
式(1)の右辺は目標第2クラッチ伝達トルク容量に基づくモータトルクの推定下限値であるため、式(1)が成立した場合、自動変速機ATはニュートラル状態であると推定できる。
図10にニュートラル判定領域、目標第2クラッチ伝達トルク容量のトルク換算値、自動変速機ATのフリクションおよび第2クラッチCL2のトルクばらつき量の関係を示す。なお、フリクションFatは温度を考慮しても良い。
2.WSC走行モード
モータトルクをTm、目標第2クラッチ伝達トルク容量のトルク換算値TTCL2、自動変速機ATとエンジンEとモータジェネレータMGのフリクションをFat、モータジェネレータMGとエンジンEと第1クラッチCL1(第2クラッチCL2よりも前側)の慣性をIω、第2クラッチCL2のトルクばらつき量をα、エンジントルクばらつきをβとすると、下記の式(2)が成立したとき、ニュートラル状態であると判定する。
Tm≦TTCL2+Fat+Iω−α−β−エンジントルク指令値 …(2)
式(2)の右辺は目標第2クラッチ伝達トルク容量に基づくモータトルクの推定下限値であるため、式(2)が成立した場合、自動変速機ATはニュートラル状態であると推定できる。
図11にニュートラル判定領域、目標第2クラッチ伝達トルク容量のトルク換算値、自動変速機ATのフリクション、第2クラッチCL2のトルクばらつき量およびエンジントルクばらつきの関係を示す。
ステップS6はニュートラル判定手段に相当する。
【0038】
ステップS7では、メータ内表示器29のレンジ表示をDレンジからNレンジに変更する。
ステップS8では、第2クラッチ伝達トルク容量をクリープトルク相当に応じたトルク容量に制限する。クリープトルク相当とは、クリープトルクよりも小さなトルクであって、第2クラッチCL2の締結ショック抑制および駆動力確保を考慮した値である。
ステップS9では、自動変速機ATのニュートラル状態が解除されたか否か、またはインヒビタスイッチ信号がPまたはNレンジにあることを示しているか否かを判定し、一方がYESの場合はステップS10へ進み、NOの場合はステップS9を繰り返す。
ステップS10では、メータ内表示器29のレンジ表示をD,P,Nに変更する。ステップS9でニュートラル状態が解除されたと判定された場合はDに切り替え、インヒビタスイッチ信号がPまたはNレンジにあることを示している場合はPまたはNに切り替える。
ステップS11では、第2クラッチ伝達トルク容量の制限を解除し、本制御を終了する。このとき、第2クラッチCL2の急締結を抑制するために、第2クラッチ伝達トルク容量を徐々に走行モードに応じた目標第2クラッチ伝達トルク容量まで上昇させるランプ制御を行っても良い。
【0039】
次に、作用を説明する。
図12は、実施例1のニュートラル判定作用を示すタイムチャートである。なお、車両停車時を前提としている。
時点t1では、セレクトレバー27がインヒビタスイッチ28のD判定位置に達したため、インヒビタスイッチ信号はNレンジにあることを示す信号からDレンジにあることを示す信号へと切り替わる。このとき、車速(=0)とアクセル開度から、走行モードはEV走行モードが選択され、第2クラッチCL2のガタ詰め処理が開始され、メータ内表示器29のレンジ表示はNレンジからDレンジへと切り替わる。
時点t2では、ガタ詰めが完了したため、クリープトルクが得られるようにモータジェネレータMGがトルク制御され、第2クラッチ伝達トルク容量が「目標駆動力+所定のマージン」に応じたトルク容量とされる。これにより、モータ回転数およびモータトルクは上昇を開始する。なお、時点t2以前にセレクトレバー27はNレンジ位置とDレンジ位置との間の中間位置で停止しているため、マニュアルバルブ8aはNレンジ対応位置からDレンジ対応位置に切り替わっておらず、自動変速機ATはニュートラル状態である。
【0040】
時点t3では、第2クラッチCL2がスリップしたとの判定により、トルク制御から回転数制御へと切り替わり、モータ回転数が一定に制御され、第2クラッチ伝達トルク容量がクリープトルク装置のトルク容量とされる。なお、モータ回転数が一定になるため、モータトルクはフリクション分を負荷とする値となる。
時点t4では、ニュートラル状態であるとの判定により、メータ内表示器29のレンジ表示をDレンジからNレンジに変更し、第2クラッチ伝達トルク容量をクリープトルク相当に応じたトルク容量に制限する。
時点t5では、ドライバがセレクトレバー27を操作し、マニュアルバルブ8aがNレンジ対応位置からDレンジ対応位置に切り替わり、自動変速機ATのニュートラル状態が解除されるため、ドライブシャフトトルクが立ち上がる。
時点t6では、ニュートラル状態が解除されたとの判定により、メータ内表示器29のレンジ表示をNレンジからDレンジに変更すると共に、第2クラッチ伝達トルク容量の制限を解除する。これにより、目標第2クラッチ伝達トルク容量は目標駆動力に応じたトルク容量まで上昇し、車両を発進させることができる。
【0041】
[ニュートラル判定作用]
実施例1では、インヒビタスイッチ信号がDレンジにあることを示した場合、モータジェネレータMGを回転数制御し、回転数制御中のモータトルクが目標第2クラッチ伝達トルク容量に基づく推定モータトルクよりも小さいとき、自動変速機ATがニュートラル状態であると判定する。すなわち、モータ回転数が所定回転数となるようにモータジェネレータMGを回転数制御した状態でニュートラル判定を行うため、ドライバがアクセルを踏み込んだ場合であっても、モータ回転またはエンジン回転の吹け上がりを抑制できる。
【0042】
そして、モータジェネレータMGは回転数制御されているため、実際のモータトルクが目標第2クラッチ伝達トルク容量に基づく推定モータトルクよりも小さいか否かによって、後輪RL,RRにトルクが伝達されていないと推定でき、自動変速機ATのニュートラル状態を迅速かつ精度良く判定できる。
例えば、第2クラッチの入出力回転数差のみに基づいてニュートラル判定を行う場合、誤判定しないように回転センサ精度を考慮した回転マージンを設定する必要が有るため、ニュートラル状態を判定するまでの間に時間を要し、モータ回転またはエンジン回転の吹け量が大きくなってしまう。なお、吹け量が大きくなると、第2クラッチが締結した際に大きなショックが発生する。また、入力回転数が規定値以上の場合にフェールと判断するロジックを採用している場合、回転数が吹け上がった状態で判断している上に、フェール制御へと移行するため、ドライバに不安感を与えてしまう。さらに、実施例1に示したWSC走行モードのように、発進時に回転数制御にて第2クラッチをスリップ制御する場合、入出力回転数差を維持するように制御されるため、回転数差のみではニュートラル状態を判定できない。
これに対し、実施例1では、ニュートラル状態をトルク差(モータトルクと推定モータトルクとの偏差)で判定するため、ニュートラル状態を精度良く判定できると共に、判定に要する時間を短くできる。よって、判定終了までの吹け量が抑えられ、フェール制御への移行を抑制できる。
【0043】
また、インヒビタスイッチ信号がDレンジにあることを示した場合、モータジェネレータMGをトルク制御し、トルク制御中に入力回転数(モータ回転数)が出力回転数(第2クラッチ出力回転数)よりも高くなった場合、モータジェネレータMGの回転数制御を開始してニュートラル状態の判定を行う。すなわち、まずトルク制御にて入出力回転数差をモニタし、後輪RL,RRへの伝達ロスが発生していることを確認し、その上で、回転数制御により最終的なニュートラル判定を行うため、より正確にニュートラル状態を判定できる。なお、入出力回転数差による判定には、回転センサ精度を考慮した回転マージンを設定していないため、第2クラッチの入出力回転数差のみに基づいてニュートラル判定を行う場合と比較して、判定時間を短くできる。
【0044】
[ニュートラル判定時のCL2トルク容量制限作用]
実施例1では、インヒビタスイッチがDレンジにあることを示しているときに自動変速機ATがニュートラル状態であると判定された場合、第2クラッチ伝達トルク容量をクリープトルク相当に応じたトルク容量に制限する。例えば、第2クラッチ伝達トルク容量を制限しない場合、マニュアルバルブ8aがNレンジ対応位置からDレンジ対応位置へと切り替わったとき、第2クラッチが急締結されることでショックが発生する。一方、第2クラッチ伝達トルク容量をゼロにした場合、マニュアルバルブ8aがNレンジ対応位置からDレンジ対応位置へと切り替わったとき、第2クラッチ伝達トルク容量が立ち上がるまでの間はトルクが伝達されず、駆動力を確保できない。よって、第2クラッチ伝達トルク容量をクリープトルク相当に制限することで、締結ショック抑制と駆動力確保との両立を図ることができる。
【0045】
[ニュートラル判定時のメータ内表示変更作用]
実施例1では、インヒビタスイッチがDレンジにあることを示しているときに自動変速機ATがニュートラル状態であると判定された場合、メータ内表示器29のレンジ表示をDレンジからNレンジに変更する。メータ内表示器がDレンジと表示されているにもかかわらず、車両が前進しないと、ドライバに違和感を与えてしまうのに対し、表示をDレンジからNレンジに変更することで、ドライバに与える違和感を軽減できると共に、ドライバに対しセレクトレバー27の中間停止を解除する操作を促すことができる。
【0046】
実施例1では、以下に列挙する効果を奏する。
(1) インヒビタスイッチ信号がDレンジにあることを示した場合、モータジェネレータMGを回転数制御し、回転数制御中のモータトルクがモータジェネレータMGと後輪RL,RRとの間に介装され両者を断接する第2クラッチCL2の目標伝達トルク容量に基づく推定モータトルクよりも小さいとき、自動変速機ATがニュートラル状態であると判定する。
よって、インヒビタスイッチ信号がDレンジにあることを示しているときに自動変速機ATがニュートラル状態であることを精度良く判定できる。また、判定中にドライバがアクセルを踏み込んだ場合の、回転数の吹け上がりを抑制できる。
【0047】
(2) インヒビタスイッチ信号がDレンジにあることを示した場合、モータジェネレータMGをトルク制御し、トルク制御中に入力回転数(モータ回転数)が出力回転数(第2クラッチ出力回転数)よりも高くなった場合、モータジェネレータMGの回転数制御を開始してニュートラル状態の判定を行う。
よって、より正確にニュートラル状態を判定できる。
【0048】
(3) ニュートラル判定手段(S6)によりニュートラル状態であると判定された場合、第2クラッチ伝達トルク容量を制限する(S8)。
よって、締結ショック抑制と駆動力確保との両立を図ることができる。
【0049】
(4) ニュートラル判定手段(S6)によりニュートラル状態であると判定された場合、乗員への情報提供を行うメータ内表示器29のレンジ位置をDレンジからNレンジへと切り替える。
よって、ドライバに与える違和感を軽減できると共に、ドライバに対しセレクトレバー27の中間停止を解除する操作を促すことができる。
【0050】
〔他の実施例〕
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、具体的な構成は他の構成であっても良い。例えば、実施例では、FR型のハイブリッド車両について説明したが、FF型のハイブリッド車両であっても構わない。
また、実施例では、エンジンとモータジェネレータとを備えたハイブリッド車両について説明したが、モータのみを駆動源とする電気自動車のも適用可能であり、実施例と同様の作用効果を得ることができる。
また、実施例1では、EV走行モードとWSC走行モードのときニュートラル判定を行う例を示したが、MWSC走行モードにも適用できることは言うまでもない。
また、有段変速機を例示したが、無段変速機であっても構わない。