特許第6012030号(P6012030)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6012030飲料用起泡剤及びこれを含有する発泡飲料、並びに発泡飲料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012030
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】飲料用起泡剤及びこれを含有する発泡飲料、並びに発泡飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20161011BHJP
   A23L 2/40 20060101ALI20161011BHJP
   C12C 5/02 20060101ALI20161011BHJP
   C12G 1/06 20060101ALI20161011BHJP
   C12G 3/00 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   A23L2/40
   A23L2/00 T
   C12C5/02
   C12G1/06
   C12G3/00
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2009-297305(P2009-297305)
(22)【出願日】2009年12月28日
(65)【公開番号】特開2011-135803(P2011-135803A)
(43)【公開日】2011年7月14日
【審査請求日】2012年12月21日
【審判番号】不服2014-23513(P2014-23513/J1)
【審判請求日】2014年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204181
【氏名又は名称】太陽化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108280
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】川村 泰司
(72)【発明者】
【氏名】間部 謙哉
(72)【発明者】
【氏名】前田 祥貴
【合議体】
【審判長】 田村 嘉章
【審判官】 山崎 勝司
【審判官】 窪田 治彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−295339(JP,A)
【文献】 特開2007−82538(JP,A)
【文献】 特開2007−181427(JP,A)
【文献】 特開平5−244880(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/000990(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/005593(WO,A1)
【文献】 日本化粧品技術者会誌、1983年、Vol.17、No.2、p.127−130
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸飲料に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステルを臨界ミセル濃度の0.25倍〜5倍の濃度で含有させることを特徴とする炭酸飲料用起泡剤であって、
前記炭酸飲料用起泡剤を含有させた発泡飲料は、下記(式1)を泡比率とし、
泡比率=泡容量/全容量×100 (式1)
25℃において1時間経過後に、200mLネスラー管に各サンプルを一定の速度で注ぎ入れ、5分後に全容量に占める泡容量を測定し、泡比率を(式1)に従って計算したときの泡比率が10%〜50%であり、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルが、ポリグリセリンと脂肪酸のモノエステルであり、
前記脂肪酸が、ミリスチン酸であることを特徴とする炭酸飲料用起泡剤。
【請求項2】
請求項1に記載の炭酸飲料用起泡剤を含有することを特徴とする炭酸発泡飲料。
【請求項3】
前記炭酸飲料が、ビール、酎ハイ、サイダー、コーラ、ジンジャーエールからなる群から選択される一つであることを特徴とする請求項1に記載の炭酸飲料用起泡剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料用起泡剤及びこれを含有する発泡飲料、並びに発泡飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料の分野では、飲用時に液内に溶解した二酸化炭素が発泡する発泡飲料(炭酸飲料)が知られている。発泡飲料には、ビール・酎ハイなどのアルコール飲料、サイダー・コーラ・ジンジャーエールなどの非アルコール飲料が市場に提供されている。また近年には、消費者嗜好の多様化に伴って、アルコール度数が低いアルコール飲料や非アルコール飲料の分野において、発泡飲料(炭酸飲料)の開発が行われている。
【0003】
一般に、美味しいビールは、きめ細かく、かつ安定性のある泡を有している。この泡は、視覚上の官能効果に留まらず、空気中の酸素を遮断して酸化に伴う苦味の増加を抑制するという効果を備えている。このため、美味しいビール以外の発泡酒、その他の発泡飲料においても、良好な起泡性と安定性とを備えた起泡剤が求められている。
上記課題を達成するために、例えば、サポニンとオリゴ糖を組み合わせる技術(特許文献1)、サポニン・グリセリン脂肪酸エステルなどのの起泡剤と、寒天・ゼラチン・カラギーナンなどの泡保持剤とを組み合わせた技術(特許文献2)などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−38275号公報
【特許文献2】特開平11−299473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記技術によっても、美味しいビールのようにきめ細かくかつ安定性のある泡を有する発泡飲料は製造できなかった。
本発明は、上記した課題に基づいてなされたものであり、その目的は、美味しいビールのように、きめ細かく、かつ安定性のある泡を有する飲料用起泡剤及びこれを含有する発泡飲料、並びに発泡飲料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、所定のポリグリセリン脂肪酸エステルを所定の濃度で用いることにより、きめ細かく、かつ安定性の泡を有する飲料を提供できることを見出し、基本的には本発明を完成するに至った。
こうして、本願発明に係る飲料用起泡剤は、発泡飲料に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステルを臨界ミセル濃度の0.025倍〜5倍、好ましくは0.1〜3倍の濃度で含有させることを特徴とする。
本発明において、前記飲料用起泡剤を含有させた発泡飲料は、下記(式1)を泡比率とし、
泡比率=泡容量/全容量×100 (式1)
25℃において1時間経過後の気泡が、200mLネスラー管に各サンプルを一定の速度で注ぎ入れ、5分後に全容量に占める泡容量を測定し、泡比率を(式1)に従って計算したときの泡比率が10%〜50%(好ましくは、25%〜50%)となることが好ましい。
本発明において、ポリグリセリン脂肪酸エステルが、ポリグリセリンと脂肪酸のモノエステルであることが好ましい。
【0007】
また、本発明において、脂肪酸が、ミリスチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、イソステアリン酸、ベヘニン酸、エルカ酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、及びオクチル酸からなる群から選択される1種又は2種以上のものであることが好ましい。
本願発明に係る発泡飲料は、上記飲料用起泡剤を含有することを特徴とする。
また、本願発明に係る発泡飲料の製造方法は、炭酸を含有する発泡飲料について、上記飲料用気泡剤を臨界ミセル濃度の0.025倍〜5倍、好ましくは0.1〜3倍の濃度で含有させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、美味しいビールのように、きめ細かく、かつ安定性のある泡を有する飲料用起泡剤及びこれを含有する発泡飲料、並びに発泡飲料の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
本発明において、発泡飲料とは、炭酸を含有する飲料を意味しており、例えばビール・酎ハイなどのアルコール飲料、サイダー・コーラ・ジンジャーエールなどの非アルコール飲料の他に、ビール・酎ハイよりもアルコール度数が低いアルコール飲料などが含まれる。また、発泡飲料は、透明または懸濁のいずれでも良い。
【0010】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとは、脂肪酸とポリグリセリンがエステル結合したものを意味する。ポリグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸は、(1)天然の動植物より抽出した油脂を加水分解し、分離または分離せずに精製して得られるカルボン酸を官能基として含むもの、(2)石油等を原料にして化学的に合成して得られたもの、(3)上記脂肪酸を水素添加等して還元したもの、(4)水酸基を含む脂肪酸を縮重合して得られる縮合脂肪酸、(5)不飽和結合を有する脂肪酸を加熱重合して得られる重合脂肪酸などが含まれる。上記脂肪酸の選択に当たっては所望の効果を勘案して適宜決めればよく、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明に使用可能な脂肪酸の具体例としては、炭素数6〜22の飽和又は不飽和の脂肪酸、すなわちミリスチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、イソステアリン酸、ベヘニン酸、エルカ酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、オクチル酸の他、分子中に水酸基を有するリシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸及びこれらの縮合物などが挙げられる。脂肪酸鎖長については特に限定されるものではないが、好ましくは炭素数12〜22、より好ましくは14〜18、最も好ましくは14の脂肪酸が推奨される。なお、風味の観点からは、飽和系脂肪酸を用いることが好ましい。
【0011】
ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、ポリグリセリンは特に限定されるものではないが、好ましくはそのポリグリセリン組成において、グリセリンの縮合度がトリ,テトラ,ペンタ,ヘキサ,ヘプタ,オクタ,ノナ,デカから選ばれる1種のポリグリセリン、好ましくはデカグリセリンの含量が35%以上であることが望ましく、より好ましくは45%以上がよい。この組成分布はガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーにより分析でき、特にポリグリセリンをトリメチルシリル化誘導体とした後、ガスクロマトグラフィーに付すことにより簡便に分析できる。
ポリグリセリン脂肪酸モノエステルとは、ポリグリセリンと脂肪酸とのモノエステルを意味する。
【0012】
ポリグリセリンモノミリステートとは、ポリグリセリンとミリスチン酸とのモノエステルを意味する。ポリグリセリンとしては、水酸基価から算出される平均重合度が、通常2〜15、好ましくは4〜10のものを使用できる。ポリグリセリンモノミリステートとしては、例えば、市販製品であるペンタグリセリンモノミリステート(サンソフトA−141E;太陽化学)、ヘキサグリセリンモノミリステート(SYグリスターMM−500:阪本薬品工業)、デカグリセリンモノミリステート(サンソフトQ−14Y;太陽化学)などが挙げられる。
ポリグリセリンモノステアレートとは、ポリグリセリンとステアリン酸とのモノエステルを意味する。ポリグリセリンモノステアレートとしては、例えば、市販製品であるペンタグリセリンモノステアレート(サンソフトA−181E;太陽化学)、デカグリセリンモノステアレート(サンソフトQ−18S;太陽化学)などが挙げられる。
臨界ミセル濃度(critical micelle concentration : c.m.c.)とは、界面活性剤がミセルを形成するために必要な最低限の濃度を意味する。一般に、c.m.cは各界面活性剤について固有の値である。
次に、本発明を実施例により詳しく説明する。
【0013】
<試験例1> 炭酸飲料を用いた試験
1.炭酸飲料
炭酸飲料として、炭酸水(サントリーソーダ:サントリー製)を用いた。
2.気泡の微細性および安定性に関する試験
上記炭酸飲料を開封し、表1および表2に示すように、実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例7に記載の飲料用起泡剤を表の添加量に従って添加した後、再度栓をした。25℃または37℃にて、1時間経過後、各サンプルについて、気泡微細性、気泡安定性および風味に関する評価を行った。
なお、乳化剤として用いた物質のc.m.c(臨界ミセル濃度)は、ポリグリセリンモノミリステート(サンソフトA−141E;太陽化学)では0.004質量%、ポリグリセリンモノステアレート(サンソフトA−181E;太陽化学、またはサンソフトQ−18S;太陽化学)では0.008質量%、ポリソルベート80では0.009質量%、ショ糖モノステアレートでは0.004質量%であった。
【0014】
【表1】
【0015】
【表2】
【0016】
気泡微細性および風味については、各サンプルをビーカーに注いだ後、下記に従って、1〜5の評価を行った。
気泡微細性
5…非常に微細な泡が大量に発生
4…微細な泡が発生
3…やや微細な泡が発生
2…無添加炭酸飲料と比べると微細であるが、少量の泡が発生
1…無添加炭酸飲料の泡と同等の泡が発生
【0017】
風味
5…界面活性剤の風味は感じられない
4…界面活性剤の風味はほとんど感じられないが、風味の変化がある
3…界面活性剤の風味が感じられるが、不快感は無い
2…界面活性剤の風味が感じられ、好ましくない
1…界面活性剤の風味があり、飲用に耐えられない
また、気泡安定性については、200mLネスラー管に各サンプルを一定の速度で注ぎ入れ、5分後に全容量に占める泡容量を測定し、泡比率を(式1)に従って計算した。
泡比率=泡容量/全容量×100 (式1)
【0018】
結果を表3および表4に示した。
【表3】
【0019】
【表4】
【0020】
比較例4〜比較例7に示すように、ポリソルベート80またはショ糖モノステアレートでは、添加量を変化させても、気泡微細性および気泡安定性については、良好な結果は得られなかった。また、比較例2に示すように、ポリグリセリンモノミリステートを用いた場合でも、濃度が少ない場合には、気泡微細性および気泡安定性が十分には得られなかった。比較例3に示すように、ポリグリセリンモノミリステートを用いた場合に、濃度が大きすぎると、気泡微細性および気泡安定性は良好であるものの、風味が悪くなり、飲用には耐えられなかった。
一方、実施例1〜実施例6に示すように、ポリグリセリン脂肪酸エステルを適当な濃度範囲で用いると、気泡微細性または/および気泡安定性が良好となり、合わせて風味についても良好な飲料として使用できることが判った。
また、実施例1〜実施例6では、長時間にわたって、飲用時の温度(25℃または37℃)にて放置した場合でも、良好な気泡安定性と風味を保持できることが判った。
【0021】
<試験例2> ビールを用いた試験
1.炭酸飲料
炭酸飲料として、ビールを用いた。
2.気泡の微細性および安定性に関する試験
上記炭酸飲料を開封し、表5および表6に示すように、実施例7〜実施例9および比較例8〜比較例10に記載の飲料用起泡剤を表の添加量に従って添加した後、再度栓をした。25℃または37℃にて、1時間経過後、各サンプルについて、気泡微細性、気泡安定性および風味に関する評価を行った。
【0022】
【表5】
【0023】
【表6】
【0024】
気泡微細性および風味については、各サンプルをビーカーに注いだ後、試験例1と同様の点数によって、1〜5の評価を行った。また、気泡安定性については、試験例1と同様の方法によって評価した。
【0025】
結果を表7および表8に示した。
【表7】
【0026】
【表8】
【0027】
比較例9および比較例10に示すように、ポリソルベート80では、添加量を変化させても、気泡微細性および気泡安定性については、良好な結果は得られなかった。
一方、実施例7〜実施例9に示すように、ポリグリセリン脂肪酸エステルを適当な濃度範囲で用いると、気泡微細性または/および気泡安定性が良好となり、合わせて風味についても良好なビールとして使用できることが判った。
また、実施例7〜実施例9では、長時間にわたって、飲用時の温度(25℃または37℃)にて放置した場合でも、良好な気泡安定性と風味を保持できることが判った。
このように本実施形態によれば、美味しいビールのように、きめ細かく、かつ安定性のある泡を有する飲料用起泡剤及びこれを含有する発泡飲料、並びに発泡飲料の製造方法を提供できた。加えて、飲用時の温度(25℃または37℃)で長時間にわたって放置した場合でも、良好な気泡安定性と風味を保持できた。