(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
原料空気を供給するための圧縮機と、上記圧縮機から供給された原料空気中の窒素を吸着して酸素を濃縮するための複数の吸着部と、各吸着部に対応して設けられて上記圧縮機から原料空気を供給する吸着部を切り替えるために開閉する開閉弁とを備えた酸素濃縮装置であって、
上記開閉弁は上記圧縮機からパイロットエアーが導入されることにより開閉するパイロット式の開閉弁であり、上記パイロットエアーを導入するパイロットエアー流路にオリフィスを設けるとともに、
上記オリフィスと開閉弁との間のパイロットエアー流路に、パイロットエアーの圧力変化の速度をより緩やかとし、上記圧縮機の吐出圧力が急変したときに、パイロットエアーの圧力変化に遅れを生じさせてパイロットエアーの圧力を維持するための、圧力貯槽で内部に多孔体を収容したフィルタータイプとしたバッファー手段を存在させたことを特徴とする酸素濃縮装置。
【背景技術】
【0002】
図1は、一般に用いられる医療用圧力変動吸着式酸素濃縮器の構成の一例を示す。
【0003】
この例では、濃縮酸素を製造するための主な構成要素として、原料空気を送り込むコンプレッサー3、原料空気の送り先を切り替える電磁弁8,9、酸素を選択的に取り出す2本の吸着筒12,13を備えている。
【0004】
原料空気の流路は、電磁弁8,9によって切り替えられて2本の吸着筒12,13に対して交互に原料空気が送り込まれる。各吸着筒12,13には、酸素よりも窒素との親和性が強いゼオライトが充填されている。原料空気が送り込まれた吸着筒12,13内では窒素がゼオライトに吸着されて酸素が濃縮され、製造された酸素濃縮ガスが最終的にカニューラ26を通じて使用者に供給される。
【0005】
片方の吸着筒(例えば12)にコンプレッサー3で加圧した原料空気を送り込んで酸素を製造している間、他方の吸着筒(例えば13)では、圧力を開放して前の酸素製造工程で吸着していた窒素を脱着するとともに、製造された酸素の一部を送り込んでパージすることが行われる。以上の工程を片方と他方で交互に行うように切り替え、繰り返して連続的に酸素を製造するのである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したような原料ガス切り替え用の電磁弁8,9には、直動式とパイロット式の2種類がある。ここで、直動式はガス流路を直接電磁石で開閉する構造から、大容量の空気を制御する際の消費電力が大きいうえ大型になり、効率が悪い。一方、パイロット式電磁弁は、パイロットエアーでダイヤフラムを開閉し、このパイロットエアーの制御を小型の電磁弁で行うものである。このため、空気容量が比較的大きく、一晩中稼動させることが多い医療用の酸素濃縮器に搭載される電磁弁8,9としては、パイロット式の電磁弁8,9が採用されることが多い。
【0008】
このようなパイロット式の電磁弁8,9の開閉は、ガスの圧力によって行われる。この動作用のガスはパイロットエアーと呼ばれ、上述した酸素濃縮器では、原料空気を圧縮するコンプレッサー3の吐出ガスが用いられている。
【0009】
ここで、パイロット式電磁弁には、パイロットエアーとして外部から導入する空気圧を利用する外部パイロット式と、装置内に保有する空気圧(例えばコンプレッサー3の空気圧)を利用する内部パイロット式との2種類がある。医療用酸素濃縮器は、外部の空気圧供給機器との接続がない独立した装置であり、それ自体にコンプレッサーを備えたものであるため、内部パイロット式電磁弁が用いられる。
【0010】
図2は、内部パイロット式電磁弁の模式図を示す。
【0011】
図2(A)は電磁弁の閉状態であり、パイロット弁33(パイロットエアーを制御する小型電磁弁)は、パイロットエアー入口側が開き、パイロットエアー出口側が閉じている。この状態では、コンプレッサー3の圧力がダイヤフラム34を裏側から押さえつけるように働き、エアー入口35およびエアー出口36(原料空気の主流路である)を閉じる。
【0012】
図2(B)は電磁弁の開状態であり、パイロット弁33は、パイロットエアー入口側が閉じ、パイロットエアー出口側が開く。すると、ダイヤフラム室内のエアーはパイロットエアー出口から排出されて圧力が下がる。この状態では、ダイヤフラム34を裏側から押さえつけるコンプレッサー3の圧力が働かず、ダイヤフラム34は主流路のコンプレッサーエアーに押し上げられ、エアー入口35およびエアー出口36が開くのである。
【0013】
コンプレッサー3が常に高い圧力を維持していれば、パイロット式の電磁弁8,9の開閉には何の問題も起こらない。
【0014】
ところが、上述したように、酸素濃縮器の圧力変動吸着サイクルでは、パイロット式の電磁弁8,9で吸着筒12,13を交互に切り替えることが行われる。この切り換えの際、加圧状態で窒素を吸着している吸着筒(仮にAとする)に接続されていたコンプレッサー3は、それまで圧力開放状態で酸素パージされていた吸着筒(仮にBとする)に接続されるため、コンプレッサー3の吐出圧が急激に低下する。このように、コンプレッサー3の吐出圧が低下すると、それに伴いパイロットエアーの圧力が低下する。このとき、それまで加圧されていた吸着筒(A)の圧力はまだ充分高いので、圧力の下がったパイロットエアーではダイヤフラム34を抑えきることができない。そうすると、それまで開いていた電磁弁8,9が、閉じなければならないタイミングで閉じないことになり、それまで加圧されていた吸着筒(A)から原料空気が逆流してしまうのである。このような逆流が起こると、吸着筒(A)から吸着筒(B)に水分や窒素で汚染された空気が流れ込んでしまい、酸素濃度の低下につながってしまう。
【0015】
そこで、この逆流を防止するため、逆止弁6,7を設けているのである。このような逆止弁6,7には、いくつかの問題点がある。
【0016】
第1の問題点は、逆止弁6,7がうなり音を発することである。すなわち、逆止弁6,7の弁体は、バネで流路口に押しつけられており、逆方向に空気が流れないのはもちろんだが、正方向の流れもバネによる抵抗を受けている。上述したように、吸着筒12,13への導入流路は弁の切り換え動作に伴う圧力変動が大きいため、この空気の流れとバネとがせめぎ合って振動し、あたかも一種の楽器のようにうなり音を発生することがある。医療用酸素濃縮器は24時間使用されるものであるから、静寂な夜間にはこの僅かな振動音が使用者にとって不快な音と感じられることがある。このため、特開2007−222378号(上記特許文献1)では、逆止弁6,7を包み込む技術が開示されている。
【0017】
第2の問題点は、動作不良の発生である。圧力変動型酸素濃縮器においては、逆止弁6,7は吸着筒12,13へ送る空気流路の切替タイミング毎に頻繁な開閉を繰り返し、上述した振動が加わる。これにより、弁体とケーシングとの摩擦・摩耗が発生し、長期使用する間に動作不良を起こすことがある。このような動作不良は、必然的に酸素濃度の低下の要因となる。
【0018】
第3の問題点は、逆止弁6,7には圧力損失がともなうことである。すなわち、原料空気の量を確保するためには逆止弁6,7の抵抗を乗り越えるまでコンプレッサー3の圧力を高めなければならない。そうすると必然的に、消費電力も騒音も増大してしまう。
【0019】
これら数々の問題があるため、逆止弁を使わないパイロット式の電磁弁システムが望まれていた。
【0020】
そこで、特開2008−238076号(上記特許文献2)では、パイロットガスの圧力を主弁内を流通するガスの圧力に対し実質的に同等以上になるよう、パイロットガス流路にパイロット空気タンクを設け、逆流を防止することが検討されている。しかしながら、特許文献2の構成では、依然としてパイロット空気タンクの上流、すなわち弁の切り換え動作に伴う圧力変動が大きい流路に逆止弁を使用しており、上述した各問題を解消するには至っていない。
【0021】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、数々のトラブルの元凶となっていた逆止弁を完全に排除し、静音化を実現するとともに長期的な性能の安定性を高め、消費電力や騒音が増大することもない酸素濃縮器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため、本発明の酸素濃縮器は、原料空気を供給するための圧縮機と、上記圧縮機から供給された原料空気中の窒素を吸着して酸素を濃縮するための複数の吸着部と、各吸着部に対応して設けられて上記圧縮機から原料空気を供給する吸着部を切り替えるために開閉する開閉弁とを備えた酸素濃縮装置であって、
上記開閉弁は上記圧縮機からパイロットエアーが導入されることにより開閉するパイロット式の開閉弁であり、上記パイロットエアーを導入するパイロットエアー流路にオリフィスを設けるとともに、
上記オリフィスと開閉弁との間のパイロットエアー流路に、パイロットエアーの圧力変化の速度をより緩やかとし、上記圧縮機の吐出圧力が急変したときに、パイロットエアーの圧力変化に遅れを生じさせてパイロットエアーの圧力を維持するための
、圧力貯槽で内部に多孔体を収容したフィルタータイプとしたバッファー手段を存在させたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0023】
すなわち、本発明では、パイロットエアー流路に、流路面積を絞るオリフィスを設けることにより、圧縮機の吐出圧力に急激な変化が生じたとしても、パイロットエアー圧力の変化に遅れを生じさせることができる。このような圧力変化の遅れにより、圧縮機の吐出圧力が瞬間的に低下しても、パイロットエアーは、開閉弁を閉めるのに必要な圧力を維持できる。数秒後には、圧縮機の吐出圧力は回復して再び高圧となり、パイロットエアーとして十分に閉弁動作を行なうだけの圧力となる。このようなメカニズムにより、従来問題となっていた、開閉弁が閉まりきらないことによる逆流を完全に防止しながら、上述した各種の問題を引き起こす逆止弁を完全に撤廃することができた。これにより、逆止弁のうなり音がなくなって酸素濃縮器の静音化を実現した。また、逆止弁の長期使用による動作不良の問題も解消し、酸素濃縮器の性能を長期的に安定化させることができる。さらに、消費電力や騒音が増大することもない。
上記オリフィスと開閉弁との間のパイロットエアー流路に、バッファー手段を存在させ、パイロットエアーの圧力変化の速度をより緩やかとし、圧縮機の吐出圧力に急激な変化が生じたときに、パイロットエアーの圧力変化に適切な遅れを生じさせ、パイロットエアーの圧力を適切に維持したため、開閉弁が閉まりきらないことによる逆流を完全に防止できる。
【0024】
本発明において、上記オリフィスの口径が0.05mm以上0.5mm以下である場合には、
圧縮機の吐出圧力に急激な変化が生じたときに、パイロットエアー圧力の変化に適切な遅れを生じさせ、パイロットエアーの圧力を適切に維持し、開閉弁が閉まりきらないことによる逆流を完全に防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0029】
図3は、本発明の酸素濃縮器の一実施形態を示す構成図である。この例は、在宅酸素療法に用いられる2筒式の圧力変動吸着法による酸素濃縮器である。
【0030】
この酸素濃縮器は、原料空気を供給するための圧縮機としてのコンプレッサー3と、上記圧縮機から供給された原料空気中の窒素を吸着して酸素を濃縮するための吸着部としてそれぞれ機能する2本の吸着筒12,13とを備えている。また、上記各吸着筒12,13に対応して設けられ、上記コンプレッサー3から原料空気を供給する吸着筒12,13を切り替えるために開閉する開閉弁として機能する電磁弁8,9を備えている。そして、吸着筒12,13に原料空気を送り込んで窒素を吸着し、酸素が濃縮された酸素濃縮ガスをカニューラ26等を用いて使用者に供給するようになっている。
【0031】
このとき、原料空気は、電磁弁8,9によって切り替えられて2本の吸着筒12,13に対して交互に送り込まれる。また、開放弁10,11を切り換えて開閉動作することによって、原料空気が送り込まれるのと同期して交互に、2本の吸着筒12,13を大気開放するようになっている。
【0032】
すなわち、一方の吸着筒(例えば12)に加圧した原料空気を送り込んで酸素濃縮ガスを製造している間、他方の吸着筒(例えば13)では、圧力を開放して前の酸素濃縮で吸着された窒素を脱着するとともに、製造された酸素濃縮ガスの一部を送り込んでパージすることが行われる。上記電磁弁8,9および開放弁10,11の開閉動作により、2本の吸着筒12,13で「酸素濃縮工程」と「窒素脱着工程」を交互に行うように切り替えることを繰り返し、連続的に酸素濃縮ガスを製造する。
【0034】
この酸素濃縮器では、原料空気は、筐体28に取り付けられたスポンジフィルター1と、流路の入口部分に設けられた吸気フィルター2によって異物が除去され、コンプレッサー3により加圧されて吸着筒12,13に導入される。コンプレッサー3は、モータ電力や空気の断熱圧縮熱などにより発熱するので、ブロワー4の送風により冷却する。コンプレッサー3で発生した異物はインラインフィルター5で除去する。
【0035】
吸着筒12,13には窒素との親和性が強い吸着材(ゼオライト)が充填されており、吸着筒12,13一端の原料口に原料空気が送り込まれると、他方の製品口からはゼオライトとの親和性が弱い酸素が窒素より先に出てくる。これにより、酸素の濃縮を行なって酸素濃縮ガスを製造する。これを製品ガスとして酸素バッファータンク19に蓄える。この工程を「酸素濃縮工程(加圧工程)」という。
【0036】
一方の吸着筒(この説明では12とする)で酸素濃縮工程(加圧工程)を行っている間、前の酸素濃縮工程(加圧工程)が終わった他方の吸着筒(この説明では13とする)では、ゼオライトに多量の窒素が吸着されている。そこで、吸着筒13の圧力を開放して窒素を大気に排出し、酸素濃縮工程(加圧工程)を行っている吸着筒12で生成された酸素濃縮ガスの一部をパージ弁14を通じて吸着筒13の製品口から導入し、吸着筒13内を酸素で置換する。この工程を「窒素脱着工程(パージ工程)」という。
【0037】
酸素濃縮工程(加圧工程)を続けていると、ゼオライトの吸着力が限界に達して吸着筒12で得られる酸素濃縮ガスの酸素濃度が低下しだすので、その前に、原料空気の行先を一方の吸着筒12から他方の吸着筒13に切り替えることが行われる。すなわち、各吸着筒12,13にそれぞれに対応するよう電磁弁8,9が設けられ、これら電磁弁8,9の開閉動作により吸着筒12,13の切り替えを行う。
【0038】
一方の吸着筒12へ原料空気を送るときは、吸着筒12に対応した電磁弁8が「開」、他方の電磁弁9が「閉」となるよう切り換え制御する。他方の吸着筒13へ原料空気を送るときは、吸着筒13に対応した電磁弁9が「開」、他方の電磁弁8が「閉」となるよう切り換え制御する。
【0039】
また、各吸着筒12,13にそれぞれに対応するよう開放弁10,11が設けられ、上記電磁弁8,9の開閉動作に伴って開閉動作を行ない、窒素脱着工程(パージ工程)を制御する。すなわち、吸着筒12で酸素濃縮工程(加圧工程)を行っている間は、開放弁10を「閉」として吸着筒12内の加圧状態を維持する。吸着筒12で窒素脱着工程(パージ工程)を行っている間は、開放弁10を「開」とし、吸着された窒素を大気に放出する。反対に、吸着筒13で酸素濃縮工程(加圧工程)を行っている間は、開放弁11を「閉」として吸着筒13内の加圧状態を維持する。吸着筒13で窒素脱着工程(パージ工程)を行っている間は、開放弁11を「開」とし、吸着された窒素を大気に放出する。吸着筒12,13を大気開放する際の騒音は、排気出口に設けたサイレンサー27で消音する。
【0040】
パージ用のガスは、酸素濃縮工程(加圧工程)を行っている一方の吸着筒12(または13)の製品端から、窒素脱着工程(パージ工程)を行っている他方の吸着筒13(または12)の製品端へ、パージラインを通じて供給される。パージラインには、直動式のパージ弁14とオリフィス15,16が設けられている。パージ弁14は、パージの時間を正確に制御するために設置され、オリフィス15,16は通過する酸素ガスの流速を制御するために設置される。
【0041】
製造された酸素濃縮ガスは、酸素バッファータンク19に蓄えられ、減圧弁20で供給圧力が調整され、流量制御器22で流量を設定し、酸素濃度計23で酸素濃度を計測する。また、製造された酸素濃縮ガスは絶乾燥状態であるため加湿器24で湿度を与え、カニューラ26を通じて使用に供される。なお、流量制御器22と酸素濃度計23を異物から保護するためにメンブランフィルター21が設けられている。また、ガスの逆流を防ぐための逆止弁17,18,25を適宜設置することができる。
【0042】
また、騒音を発する機器や部品は金属製の防音ボックスの中に収容される。特に大きな騒音を発するのはコンプレッサー3と排気開放部である。ブロワー4の運転音とコンプレッサー3への吸気音がそれについで大きい。ブロワー4は、外気をコンプレッサー3に当てて冷却するものなので、コンプレッサー3と同居させることはできない。吸気フィルター2も酸素の少ない排気開放部と同居させることができない。従って、防音ボックスを2部屋に区分し、第1防音ボックス29にはコンプレッサー3と排気開放部を収容し、第2防音ボックス30にはブロワー4と吸気フィルター2を収容する。電磁弁8,9は、この例では、温度とスペースの関係から第2防音ボックス30に収容している。装置全体は木材とプラスチックから構築される筐体28に収納される。
【0043】
ここで、吸着材であるゼオライトの量とコンプレッサー3の送風能力が設定されたとき、2筒式の酸素濃縮器で純度の高い酸素濃縮ガスを効率的に製造するためには、原料空気の送り込み量(すなわちコンプレッサー3が原料空気を加圧して送り込んでいる時間)と、酸素濃縮ガスによるパージ量(すなわちパージ時間)を最適化することが重要である。このとき、酸素濃縮工程(加圧工程)で送り込まれる原料空気の量を制御するのは電磁弁8,9であり、大容量の原料空気を低消費電力で効率よく制御できることから、パイロット式の電磁弁8,9が用いられる。
【0044】
図4は、本実施形態におけるパイロット式の電磁弁8,9を示す構成図である。
【0045】
パイロット式の電磁弁8,9は、パイロットエアーの流路を小型の直動式電磁弁(パイロット弁33)で開閉し、パイロットエアーの圧力をダイヤフラム34に作用させて大きな弁体(ダイヤフラム34)を開閉するメカニズムである。医療用の酸素濃縮器は、独立据え置きの機器であり外部からパイロットエアーを得ることはできないことから、それ自体に備えたコンプレッサー3で加圧された原料空気の一部を内部パイロットエアーとして用いられる。
【0046】
上述したように、2筒式の酸素濃縮器においては原料空気の送り込み先を吸着筒A(12)から吸着筒B(13)に切り替えることが行われる。このとき、それまで酸素濃縮工程(加圧工程)を行っていた吸着筒A(12)から、それまでパージ工程を行っていた吸着筒B(13)に切り替える。吸着筒B(13)はそれまでパージ工程にあって圧力は大気圧にほぼ等しいため、吸着筒B(13)に繋がったコンプレッサー3の圧力は急激に低下する。
【0047】
このときに吸着筒A(12)に対応してコンプレッサー3を繋ぐパイロット式の電磁弁8は「閉」にならなければならないが、コンプレッサー3の圧力が急激に低下したためにダイヤフラムを押す力が非常に弱くなる。一方、遮断されるべき吸着筒A(12)の圧力はそれまでコンプレッサー3で加圧されていたので充分に高い。したがって、その高い圧力を低下したパイロットエアーでは抑えきることができない。このため、吸着筒A(12)から吸着筒B(13)に切り替えるときに、吸着筒A(12)からコンプレッサー3へ原料空気が逆流するのである。吸着筒A(12)から逆流した原料空気には、吸着していた原料空気中の水分や窒素が多く含まれ、これがコンプレッサー3を経由して吸着筒B(13)に送り込まれることとなり、吸着筒B(13)が汚染されて機能の低下を大幅に早める。なお、吸着筒B(13)から吸着筒A(12)へ切り替える際にも同様の現象が起こる。
【0048】
このような逆流と汚染を防ぐため、従来は逆止弁6,7(
図1参照)が使用されていた。
【0049】
本発明者らは、この吸着筒12,13からコンプレッサー3への逆流現象を静的、動的に仔細に解析した。
【0050】
図2(A)(B)は従来のパイロット式電磁弁の構造の一例を示す。パイロット式電磁弁は、弁体であるダイヤフラム34と、コンプレッサー3からのエアー入口35と吸着筒12,13へのエアー出口36が形成された弁座とを有し、ダイヤフラム34が弁座に接触したら閉じ、ダイヤフラム34が弁座から離れたら開くようになっている。ダイヤフラム34の開閉動作は、ダイヤフラム34のパイロットエアー側(図示の上側)と弁座側(図示の下側)の圧力のバランスによって行われる。
【0051】
閉じた状態において、上記ダイヤフラム34のパイロットエアー側には、パイロットエアーの圧力がその全面積に対して加わるのに対し、弁座側のエアー入口35とエアー出口36がダイヤフラム34に対して開口して圧力が加わる面積は小さい。従って、閉じたダイヤフラム34を閉じ続けるためには、パイロットエアーの圧力はコンプレッサーエアーの圧力よりずっと小さくてよい。一方、開いていたダイヤフラム34を閉じるときには、ダイヤフラム34の上下の圧力が加わる面積がほぼ等しくなるので、静的に見ればパイロットエアーの圧力は、コンプレッサーエアーまたは吸着筒エアーと、同等かあるいはそれ以上の圧力が必要となる。
【0052】
しかしながら、コンプレッサーエアーの吸着筒12,13への流路切替え直後を瞬間的にみれば、上述したように、弁座側の主流路では、加圧状態で吸着していた吸着筒と常圧でパージされていた吸着筒がコンプレッサー3を介して一瞬つながった状態となる。この瞬間に、弁座側の主流路内の圧力は、加圧状態から急速に低下する。しかも、このときの急速な空気の流れはベルヌーイの法則によりさらにダイヤフラム34を閉じる方向に働く。これらのことを勘案すると、このときにダイヤフラム34を閉じるためのパイロットエアーの圧力は、必ずしも吸着のときと同じだけの高圧を維持する必要はなく、多少圧力が下がってもダイヤフラム34を閉じることができると考えられた。
【0053】
そこで、パイロットエアーがコンプレッサー3につながる流路を絞って、パイロットエアーの圧力低下を緩やかにすることで逆流が防止できることを見いだしたのである。
【0054】
すなわち、本実施形態の酸素濃縮器は、上記パイロットエアーを導入するパイロットエアー流路にオリフィス31を設けたことを特徴とする。
【0055】
このようにパイロットエアー流路に、流路面積を絞るオリフィス31を設けることにより、コンプレッサー3の吐出圧力に急激な変化が生じたとしても、パイロットエアー圧力の変化に遅れを生じさせることができる。このような圧力変化の遅れにより、コンプレッサー3の吐出圧力が瞬間的に低下しても、パイロットエアーは、電磁弁8,9を閉めるのに必要な圧力を維持できる。数秒後には、コンプレッサー3の吐出圧力は回復して再び高圧となり、パイロットエアーとして十分に閉弁動作を行なうだけの圧力となる。このようなメカニズムにより、従来問題となっていた、電磁弁8,9が閉まりきらないことによる逆流を完全に防止しながら、上述した各種の問題を引き起こす逆止弁6,7を完全に撤廃することができた。これにより、逆止弁6,7のうなり音がなくなって酸素濃縮器の静音化を実現した。また、逆止弁6,7の長期使用による動作不良の問題も解消し、酸素濃縮器の性能を長期的に安定化させることができる。さらに、消費電力や騒音が増大することもない。
【0056】
このような構造によってダイヤフラム34を閉じるためには、ダイヤフラム34による主弁を流れる空気圧と同等以上のパイロットエアー圧力は必ずしも必要とはしない。
【0057】
上記オリフィス31の口径は0.05mm以上0.5mm以下に設定するのが好ましい。このようなオリフィス31の口径に設定した場合には、コンプレッサー3の吐出圧力に急激な変化が生じたときに、パイロットエアー圧力の変化に適切な遅れを生じさせ、パイロットエアーの圧力を適切に維持し、電磁弁8,9が閉まりきらないことによる逆流を完全に防止できる。
【0058】
上記オリフィス31と電磁弁8,9との間のパイロットエアー流路に、バッファー手段を存在させることが望ましい。
【0059】
具体的には、このメカニズムを更に好ましく発揮させるために、オリフィス31とパイロット式の電磁弁8,9との間にバッファー手段として圧力貯槽32を設けることができる。圧力貯槽32を設けることでパイロットエアーの圧力低下速度をさらに緩やかにすることができる。
【0060】
このように、上記オリフィス31と電磁弁8,9との間のパイロットエアー流路に、圧力貯槽32を存在させた場合には、パイロットエアーの圧力変化の速度はより緩やかになり、コンプレッサー3の吐出圧力に急激な変化が生じたときに、パイロットエアーの圧力変化に適切な遅れを生じさせ、パイロットエアーの圧力を適切に維持し、開閉弁が閉まりきらないことによる逆流を完全に防止できる。
ここで、圧力貯槽32としては、中空容器であれば形状は問わず、また内部に多孔体を収容したフィルタータイプであってもよい。
【0061】
パイロット式の電磁弁8,9はマニフォールドと呼ばれる内部に空気の流通路を掘り込んだアルミブロックの上に電磁弁本体を複数乗せた構造がよく使われる。その場合には、マニフォールド内のパイロットエアー通路を大きく掘り込み、バッファー手段として機能させることも有力である。
【0062】
さらに、上記オリフィス31と電磁弁8,9との間のパイロットエアー流路を、バッファー手段として機能させる容積となるよう形成することもできる。
【0063】
このようにした場合には、パイロットエアー流路自体をバッファー手段として機能させることにより、装置の大型化を避けながら、パイロットエアーの圧力変化速度をより緩やかにし、コンプレッサー3の吐出圧力に急激な変化が生じたときに、パイロットエアー圧力の変化に適切な遅れを生じさせ、パイロットエアーの圧力を適切に維持し、開閉弁が閉まりきらないことによる逆流を完全に防止できる。
【0064】
オリフィス31は逆止弁6,7のようなうなり音を発することがなく、運動部分がないため部品の消耗もない。このように、原料空気の供給切り替え流路に逆止弁6,7を使わずにすみ、騒音と不具合を完全に解消することができた。
【実施例】
【0065】
図3に示す酸素濃縮器において、
図4に示すオリフィスバッファーパイロット電磁弁システムを構築した。
【0066】
オリフィス31には内径0.1mmのものを使用した。オリフィス31とパイロット式の電磁弁8,9の間に内径30mm、有効長46mm、有効内容積約35cm
3の円筒形の圧力貯槽32を装着した。
【0067】
このシステムで酸素濃縮器を5L/minのモードで運転したところ、酸素濃縮ガスの酸素濃度は94%以上であり、逆止弁がなくても優良な酸素濃度が得られることが立証された。
【0068】
図5は、運転中のコンプレッサー圧力、パイロットエアー圧力、及び吸着筒圧力を示すチャートである。吸着筒12,13を切り替えるとき、加圧されていた吸着筒は急な圧力低下がなく、他方ではコンプレッサー3の圧力は急降下し、パイロット式の電磁弁8,9における逆流が生じていないことが確認された。
【0069】
以上、本発明を詳しく説明したが、本発明に使用されるバッファー手段はバッファータンクとしての形状を持つものに限定されるものではなく、バッファー手段としての機能を有すればそれで目的が達せられる。例えばオリフィスとチューブの組み合わせだけでも必要とされるパイロットエアーの量を満たすならバッファー手段としての目的は達せられる。