(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012071
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】塩素バイパス排ガスの処理方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/60 20060101AFI20161011BHJP
B01D 53/50 20060101ALI20161011BHJP
B01D 53/34 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
C04B7/60
B01D53/50 245
B01D53/34ZAB
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-263961(P2012-263961)
(22)【出願日】2012年12月3日
(65)【公開番号】特開2014-108906(P2014-108906A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 淳一
(72)【発明者】
【氏名】菊崎 智文
(72)【発明者】
【氏名】千葉 裕己
【審査官】
佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−051850(JP,A)
【文献】
特開2008−231549(JP,A)
【文献】
特開2009−298678(JP,A)
【文献】
特開2012−187458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/60
B01D 53/34
B01D 53/50
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼排ガスの一部を冷却しながら抽気するプローブと、該プローブによる抽気ガスを湿式で脱硫する脱硫装置と、該脱硫装置から排出されるスラリーを5μm以上15μm以下の分級点で分級する湿式分級装置と、該湿式分級装置から排出される微粉側スラリー及び粗粉側スラリーを、別々に固液分離する固液分離装置とを備える塩素バイパスシステムにおいて、
前記微粉側スラリーを固液分離して得られた脱水ケーキをセメント原料として利用し、
前記粗粉側スラリーを固液分離して得られた脱塩ケーキを石膏として利用することを特徴とする塩素バイパス排ガスの処理方法。
【請求項2】
前記塩素バイパスシステムは、前記プローブで抽気した抽気ガスに含まれる微粉を回収する乾式分級装置を備え、該乾式分級装置から排出されたガスを前記脱硫装置に導入することを特徴とする請求項1に記載の塩素バイパス排ガスの処理方法。
【請求項3】
前記塩素バイパスシステムは、前記脱硫装置の前段において、
前記プローブで抽気した燃焼ガス又は前記乾式分級装置から排出されたガスを冷却する冷却器と、
該冷却器から排出されるガスに含まれるダストを集塵する乾式集塵装置と、
該乾式集塵装置から排出されるダストに水を添加してスラリー化する溶解槽とを備え、
該溶解槽で得られたスラリーを前記脱硫装置に供給することを特徴とする請求項1又は2に記載の塩素バイパス排ガスの処理方法。
【請求項4】
前記脱硫装置は、湿式スクラバーであることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の塩素バイパス排ガスの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気し、塩素分等を除去する塩素バイパスシステム
から排出されるガスを処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント製造設備におけるプレヒータの閉塞等の問題を引き起こす原因となる塩素分、硫黄分、アルカリ分等の中で、塩素分が特に問題となることに着目し、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気して塩素を除去する塩素バイパスシステムが用いられている。
【0003】
この塩素バイパスシステムから排出されるガス(以下、「塩素バイパス排ガス」という)には、高濃度のSO
2ガスが含まれているため、脱硫処理が必要となる。そこで、例えば、特許文献1及び2では、塩素バイパスダストを用いて塩素バイパス排ガスを脱硫した後、脱硫後のスラリーを固液分離し、塩水と、石膏を主成分とする脱塩ケーキ(以下、「回収石膏ケーキ」という)を回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−148681号公報
【特許文献2】特開2011−144058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記塩素バイパスシステムで得られた脱塩ケーキは、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3や、鉛(Pb)及びその他の微量成分を含有する。そのため、用途によってそれらの成分の含有が問題となり、上記回収石膏ケーキの用途拡大を妨げる要因となっていた。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、運転コスト及び設備コストを低く抑えながら不純物の少ない回収石膏ケーキとし、その回収石膏ケーキの有効利用、及び用途の拡大を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、塩素バイパス
排ガスの処理方法であって、セメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼排ガスの一部を冷却しながら抽気するプローブと、該プローブによる抽気ガスを湿式で脱硫する脱硫装置と、該脱硫装置から排出されるスラリーを
5μm以上15μm以下の分級点で分級する湿式分級装置と
、該湿式分級装置から排出される微粉側スラリー及び粗粉側スラリーを、別々に固液分離する固液分離装置とを備える
塩素バイパスシステムにおいて、前記微粉側スラリーを固液分離して得られた脱水ケーキをセメント原料として利用し、前記粗粉側スラリーを固液分離して得られた脱塩ケーキを石膏として利用することを特徴とする。
【0008】
そして、本発明によれば、湿式分級装置
の分級点を5μm以上15μm以下とすることで、脱硫装置からのスラリーに含まれる不純物をスラリーの一部に効率よく濃縮させることができ、湿式分級装置から排出される各スラリーを別々に固液分離することで、脱水ケーキをセメント原料として、脱塩ケーキを石膏として有効利用することができる。
【0011】
上記塩素バイパスシステムは、前記プローブで抽気した抽気ガスに含まれる微粉を回収する乾式分級装置を備え、該乾式分級装置から排出されたガスを前記脱硫装置に導入することができる。これによって、塩素含有率の高い微粉のみを塩素バイパスシステムで処理することができる。
【0012】
上記塩素バイパスシステムは、前記脱硫装置の前段において、前記プローブで抽気した燃焼ガスを冷却する冷却器と、該冷却器から排出されるガスに含まれるダストを集塵する乾式集塵装置と、該乾式集塵装置から排出されるダストを水に溶解させる溶解槽とを備えることができる。また、これらを設けることなく、前記脱硫装置を湿式スクラバーとすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、運転コスト及び設備コストを低く抑えながら不純物の少ない回収石膏ケーキとし、その回収石膏ケーキの有効利用、及び用途の拡大を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る
塩素バイパス排ガスの処理方法を実施する塩素バイパスシステムの
一例を示す全体構成図である。
【
図2】本発明に係る
塩素バイパス排ガスの処理方法を実施する塩素バイパスシステムの
他の例を示す全体構成図である。
【
図3】
図1の塩素バイパスシステムの脱硫装置で生成されたスラリー中のダストの粒度と鉛濃度との関係を示すグラフであって、縦軸は鉛(Pb)濃縮率(倍)、横軸は10μm通過分(%)を示す。
【
図4】
図1の塩素バイパスシステムの脱硫装置で生成されたスラリー中のダストの粒度とセメント原料成分との関係を示すグラフであって、縦軸はセメント原料成分(SiO
2+Al
2O
3+Fe
2O
3分)の濃縮率(倍)、横軸は10μm通過分(%)を示す。
【
図5】
図1の塩素バイパスシステムの脱硫装置で生成されたスラリー中のダストの粒度とカルシウム分の濃度との関係を示すグラフであって、縦軸はカルシウム分(Ca分)の濃縮率(倍)、横軸は10μm通過分(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る
塩素バイパス排ガスの処理方法を実施する塩素バイパスシステムの一
例を示し、このシステム1は、セメントキルン2の窯尻からプレヒータの最下段サイクロン(不図示)に至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼排ガスの一部(図中符号G)を抽気するプローブ3と、プローブ3内に冷風Aを供給して燃焼排ガスGを急冷する冷却ファン4と、抽気ガスG1に含まれるダストの粗粉D1を分離する乾式分級装置としてのサイクロン5と、排ガスG2を冷却する冷却器6と、排ガスG2に含まれる微粉D2を回収する乾式集塵装置としてのバッグフィルタ7と、微粉D2を水Wと混合してスラリーS1を生成する溶解槽8と、バッグフィルタ7の排ガスG3とスラリーS1とを反応させる脱硫装置10と、脱硫装置10からのスラリーS2を湿式分級する湿式分級装置11と、湿式分級装置11からの各スラリーS3、S4を別々に固液分離する2つの固液分離装置12、13等で構成される。
【0017】
プローブ3、冷却ファン4、サイクロン5、冷却器6及びバッグフィルタ7は、従来の塩素バイパスシステムに用いられている装置であって、これらについての詳細説明を省略する。
【0018】
溶解槽8は、冷却器6及びバッグフィルタ7からの微粉D2を水Wを用いてスラリー化するために備えられる。
【0019】
脱硫装置10は、バッグフィルタ7からファン9を介して供給された排ガスG3を溶解槽8から供給されたスラリーS1を利用して脱硫するために備えられる。脱硫された排ガスG4は、排気ファンを経てセメントキルン2に付設されたプレヒータの出口等の排ガス流路等に戻される。
【0020】
湿式分級装置11は、脱硫装置10からのスラリーS2を、セメント原料成分(SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3)や、鉛(Pb)及びその他微量成分が濃縮されたスラリーS3と、石膏が濃縮されたスラリーS4とに分離するために備えられる。ここで、後述するように、各々のスラリーS3、S4に不純物及び石膏を各々効率よく濃縮させるため、分級点を10μm程度(5μm以上15μ以下)とすることが好ましい。
【0021】
固液分離装置12、13は、湿式分級装置11からのスラリーS3、S4を各々別々に、ろ液L1、L2と、不純物が多い脱水ケーキC1、純度の高い回収石膏ケーキC2とに固液分離するために備えられる。
【0022】
次に、上記構成を有するシステム1
を用いた本発明に係る塩素バイパス排ガスの処理方法について、
図1を参照しながら説明する。
【0023】
プローブ3で抽気された燃焼排ガスGは、冷却ファン4からの冷風Aによって350〜550℃程度に冷却された後、抽気ガスG1としてサイクロン5に導入され、粗粉D1と、塩素分が偏在している微粉D2を含む排ガスG2とに分離される。ここで、粗粉D1は塩素含有量が少ないため、セメント原料系へ戻すことができる。
【0024】
サイクロン5から排出された微粉D2を含む排ガスG2は、冷却器6において冷却された後、冷却器6及びバッグフィルタ7にて微粉D2が回収される。回収された微粉D2は、溶解槽8において水Wと混合されてスラリーS1が生成される。
【0025】
次に、バッグフィルタ7の排ガスG3は、ファン9を介して脱硫装置10に導入され、溶解槽8から供給されるスラリーS1を利用して脱硫される。脱硫後の排ガスG4は、セメントキルン2の排ガス系へ戻される。
【0026】
ここで、上記スラリーS1中には、カルシウム化合物として、CaO、CaCO
3及びCa(OH)
2が混在するが、これらは、脱硫装置10でバグフィルタ7の排ガスG3に含まれるSO
2と反応して二水石膏(CaSO
4・2H
2O)へと転換する。
【0027】
脱硫装置10からのスラリーS2は、湿式分級装置11に導入され、分級点10μm程度で分級される。ここで、
図3及び
図4に示すように、10μm通過分が増加する、すなわち10μm以下の固形分が多くなるように分級するほど、Pb並びにSiO
2、Al
2O
3及びFe
2O
3の濃縮率が増加する。一方、
図5に示すように、10μm通過分が減少する、すなわち10μm以下の固形分だけを回収するほど、Ca分、すなわち二水石膏の濃縮率が増加する。これにより、湿式分級装置11からのスラリーS3(微粉スラリー)側にセメント原料成分や鉛等の不純物を、またスラリーS4(粗粉スラリー)側に石膏を濃縮させることができる。
【0028】
固液分離装置12で固液分離されて得られた不純物が多い脱水ケーキC1は、セメント原料成分や鉛等の不純物を多く含むため、セメント原料として再利用したり、重金属を濃縮させて重金属回収工程で処理する。また、固液分離装置12、13からのろ液L1、L2は、セメント仕上ミルへの添加、あるいは塩回収工程、排水処理等で処理する。
【0029】
一方、固液分離装置13で得られた脱塩ケーキC2は、上述のように、上記不純物の含有率の低い高純度の二水石膏であるため、クリンカと共に粉砕してセメント製造に利用したり、他の用途に利用することができる。
【0030】
次に、本発明に係る
塩素バイパス排ガスの処理方法の第2の実施形態について、
図2を参照しながら説明する。
【0031】
このシステム21は、
図1に示すシステム1の冷却器6〜脱硫装置10に代えて、湿式スクラバー22を設けたことを特徴とし、他の構成はシステム1と同様である。
【0032】
湿式スクラバー22は、微粉D2及びガスG2を水及び循環液槽22bからのスラリーS1に接触させて冷却・除塵する本体22aと、本体22aとの間でスラリーS1を循環させる循環液槽22bと、工水を噴霧する洗浄塔22cと、循環ポンプ22d等を備える。
【0033】
このシステム21においても、プローブ3で抽気された燃焼排ガスGは、冷却ファン4からの冷風Aによって350〜550℃程度に冷却された後、抽気ガスG1としてサイクロン5に導入される。サイクロン5で、抽気ガスG1を粗粉D1と、塩素分が偏在している微粉D2を含む排ガスG2とに分離し、粗粉D1をセメント原料系へ戻す。
【0034】
サイクロン5から排出された微粉D2を含む排ガスG2は、湿式スクラバー22に導入され、湿式スクラバー22において、循環液槽22bから供給されるスラリーS1によって冷却しながら燃焼排ガスG2に含まれるダストD2を除塵し、スラリーS1を構成するカルシウム化合物にすると共に、脱硫され、スラリーS1中のカルシウム化合物が排ガスG2に含まれるSO
2との脱硫反応により二水石膏(CaSO
4・2H
2O)へ転換する。湿式スクラバー22の洗浄塔22cから排出された排ガスG4は、排気ファンを経てセメントキルン2に付設されたプレヒータの出口等の排ガス流路に戻される。
【0035】
湿式スクラバー22からのスラリーS2は、湿式分級装置11に導入され、以後
図1に示した第1の実施形態と同様の工程を経て、湿式分級装置11からのスラリーS3(微粉スラリー)側にセメント原料成分や鉛等の不純物を、またスラリーS4(粗粉スラリー)側に石膏を濃縮させ、固液分離装置12で固液分離されて得られた不純物が多い脱水ケーキC1は、セメント原料成分や鉛等の不純物を多く含むため、セメント原料として再利用したり、重金属を濃縮させて重金属回収工程で処理する。また、固液分離装置12、13からのろ液L1、L2は、セメント仕上ミルへの添加、あるいは塩回収工程、排水処理等で処理する。固液分離装置13で得られた脱塩ケーキC2は、不純物の含有率の低い高純度の二水石膏であり、クリンカと共に粉砕してセメント製造に利用したり、他の用途に利用することができる。
【0036】
以上のように、本実施の形態では、
図1のシステム1の冷却器6〜脱硫装置10に代えて湿式スクラバー22を設置したため、システム1に比較して設備コスト及び運転コストを低減させることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 塩素パイパスシステム
2 セメントキルン
3 プローブ
4 冷却ファン
5 サイクロン
6 冷却器
7 バッグフィルタ
8 溶解槽
9 ファン
10 脱硫装置
11 湿式分級装置
12、13 固液分離装置
21 塩素パイパスシステム
22 湿式スクラバー
22a 本体
22b 循環液槽
22c 洗浄塔
22d 循環ポンプ
A 冷風
C1 脱水ケーキ
C2 脱塩ケーキ
D1 粗粉
D2 微粉
G 燃焼排ガスの一部
G1 抽気ガス
G2〜G4 排ガス
L1、L2 ろ液
S1〜S4 スラリー
W 水