特許第6012076号(P6012076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012076
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】インフルエンザ治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/351 20060101AFI20161011BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20161011BHJP
   C07D 309/28 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
   A61K31/351
   A61P31/16
   C07D309/28
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-89202(P2013-89202)
(22)【出願日】2013年4月22日
(62)【分割の表示】特願2009-502568(P2009-502568)の分割
【原出願日】2008年3月3日
(65)【公開番号】特開2013-139483(P2013-139483A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2013年4月22日
【審判番号】不服2015-7547(P2015-7547/J1)
【審判請求日】2015年4月22日
(31)【優先権主張番号】特願2007-56872(P2007-56872)
(32)【優先日】2007年3月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(72)【発明者】
【氏名】山下 誠
(72)【発明者】
【氏名】河岡 義裕
【合議体】
【審判長】 蔵野 雅昭
【審判官】 前田 佳与子
【審判官】 服部 智
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−330373(JP,A)
【文献】 特開2002−012590(JP,A)
【文献】 N.Engl.J.Med.,2005年,Vol.353,p.2633−2636
【文献】 Nature,2006,Vol.443,p.45−49
【文献】 Nature,2005,Vol.437,No.7062,p.1108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/351
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

[式中、R1およびR2は、それぞれ、水素原子を示し、Xはメトキシ基を示し、R3は、水素原子を示す。]
で表される化合物を有効成分として含有するH5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤。
【請求項2】
H5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤を製造するための一般式(I)
【化2】

[式中、R1およびR2は、それぞれ、水素原子を示し、Xはメトキシ基を示し、R3は、水素原子を示す。]で表される化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式(I)で表される化合物を有効成分として含有するH5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
家禽類へのH5N1型トリインフルエンザウイルスの感染は、2003年以降、アジア、ヨーロッパ、アフリカ等を含む広い地域で拡大しており、ヒトへの感染は、アジアのみならず中東、アフリカの地域でも認められている。新型のH5N1型インフルエンザウイルスが出現してその感染が始まった場合、ほとんどのヒトがそのウイルスに対する免疫を保有していないこと、また、インフルエンザウイルスは飛沫感染により伝播することから、感染は急速に拡大し、世界的な流行、すなわち、「インフルエンザパンデミック」を引き起こすと考えられている。H5N1型インフルエンザウイルスに感染したヒト患者の半数以上が死亡に至っており、致死率が高い。20世紀中にスペイン風邪、アジア風邪、および、香港風邪の3度のインフルエンザバンデミックが起きたことが知られているが、患者数が最も多かったスペイン風邪においては、世界中で約2000〜4000万人、本邦においても約50万人が死亡したと推計されている。
【0003】
2005年11月の厚生労働省(日本)からの報告では、新型インフルエンザウイルスが流行した場合、本邦で当該新型インフルエンザの罹患により受診する患者数は、約1800万人〜2500万人と推計されている。さらに、新型インフルエンザウイルスの病原性が重度である場合には、入院患者数は約20万人,死亡者数は64万人と推定され、健康被害とともに社会活動へ大きな影響を及ぼすことが危惧されている。
【0004】
以上のことから,新型インフルエンザウイルスは重篤性の高い疾患であり、有効な治療剤の早期の開発が望まれている。
【0005】
ノイラミニダーゼ阻害活性を有するインフルエンザ治療剤であるザナミビル(特に、ザナミビル 水和物)、および、オセルタミビル(特に、オセルタミビル リン酸塩、または、オセルタミビル カルボキシレート)がH5N1型インフルエンザウイルスに対して阻害活性を有することが報告されているが、さらに優れた活性を有する化合物が望まれている(非特許文献1または2)。また、オセルタミビルが阻害活性を示さない(すなわち、オセルタミビル耐性の)H5N1型インフルエンザウイルス株が報告されており、それらのオセルタミビル耐性のH5N1型インフルエンザウイルスに対して阻害活性を有する化合物が望まれている(非特許文献1または2)。
【0006】
一般式(I)で表される化合物は、ノイラミニダーゼ阻害活性を有するインフルエンザ治療剤として有用であることが知られている(特許文献1乃至3)。しかしながら、これらの化合物がH5N1型インフルエンザウイルスに対して阻害活性を有することは報告されていない。また、一般式(I)で表される化合物の構造は、ザナミビルとは類似するが、オセルタミビルとは全く異なる。
【0007】
【非特許文献1】Nature, 2005年,第437巻, p.1108
【非特許文献2】N.Engl.J.Med., 2005年,第353巻,(25): 2667-72
【特許文献1】米国特許6340702号明細書(特許第3209946号公報)
【特許文献2】米国特許6451766号明細書(特開平10−109981号公報)
【特許文献3】米国特許6844363号明細書(特開2002−012590号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らはインフルエンザの治療剤または予防剤について鋭意検討を行ない、一般式(I)で表される化合物がH5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤として極めて有用であることを見出した。本発明は上記の知見に基づき完成された。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記のH5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤を提供する。
【0010】
(1)一般式(I)
【化1】
[式中、R1およびR2は、同一または異なって、水素原子または炭素数2乃至20個のアルカノイル基を示し、Xは、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1乃至4個のアルコキシ基または炭素数2乃至20個のアルカノイルオキシ基を示し、R3は、水素原子または炭素数1乃至20個のアルキル基を示す。但し、R1およびR2が水素原子であり、Xが水酸基であり、かつR3が水素原子である化合物を除く。]
で表される化合物を有効成分として含有するH5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤、
(2)(1)において、Xが炭素数1乃至4個のアルコキシ基である化合物を有効成分として含有するH5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤、
(3)(1)において、Xがメトキシ基である化合物を有効成分として含有するH5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤、
(4)(1)乃至(3)のいずれかにおいて、R1が炭素数6乃至20個のアルカノイル基であり、R2が水素原子であり、R3が水素原子である化合物を有効成分として含有するH5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤、
(5)(1)乃至(3)のいずれかにおいて、R1が炭素数6乃至18個のアルカノイル基であり、R2が水素原子であり、R3が水素原子である化合物を有効成分として含有するH5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤、
(6)(1)乃至(3)のいずれかにおいて、R1がヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイルまたはオクタデカノイル基であり、R2が水素原子であり、R3が水素原子である化合物を有効成分として含有するH5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤、
(7)(1)乃至(3)のいずれかにおいて、R1およびR2が水素原子であり、R3が炭素数8乃至20個のアルキル基である化合物を有効成分として含有するH5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤、
(8)(1)乃至(3)のいずれかにおいて、R1およびR2が水素原子であり、R3がデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシルまたはオクタデシル基である化合物を有効成分として含有するH5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤、または、
(9)(1)において、下記の群から選択される化合物を有効成分として含有するH5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤:
5-アセタミド-4-グアニジノ-9-O-ヘキサノイル-2、3、4、5-テトラデオキシ-7-O-メチル-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラソン酸、
5-アセタミド-4-グアニジノ-9-O-オクタノイル-2、3、4、5-テトラデオキシ-7-O-メチル-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラソン酸、
5-アセタミド-4-グアニジノ-9-O-デカノイル-2、3、4、5-テトラデオキシ-7-O-メチル-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラソン酸、
5-アセタミド-4-グアニジノ-9-O-ドデカノイル-2、3、4、5-テトラデオキシ-7-O-メチル-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラソン酸、および、
5-アセタミド-4-グアニジノ-9-O-テトラデカノイル-2、3、4、5-テトラデオキシ-7-O-メチル-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラソン酸。
【0011】
(10)一般式(I)
【化2】
[式中、R1およびR2は、同一または異なって、水素原子または炭素数2乃至20個のアルカノイル基を示し、Xは、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1乃至4個のアルコキシ基または炭素数2乃至20個のアルカノイルオキシ基を示し、R3は、水素原子または炭素数1乃至20個のアルキル基を示す。但し、R1およびR2が水素原子であり、Xが水酸基であり、かつR3が水素原子である化合物を除く。]
で表される化合物の薬理学的に有効な量を脊椎動物に投与することによるH5N1型インフルエンザを治療または予防する方法。
【0012】
(11)H5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤を製造するための一般式(I)
【化3】
[式中、R1およびR2は、同一または異なって、水素原子または炭素数2乃至20個のアルカノイル基を示し、Xは、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1乃至4個のアルコキシ基または炭素数2乃至20個のアルカノイルオキシ基を示し、R3は、水素原子または炭素数1乃至20個のアルキル基を示す。但し、R1およびR2が水素原子であり、Xが水酸基であり、かつR3が水素原子である化合物を除く。]
で表される化合物の使用。
【0013】
上記において、一般式(I)で表される化合物は、例えば、US6340702(特許第3209946号公報)、US6451766(特開平10−109981号公報)、US6844363(特開2002−012590号公報)等に記載された2−デオキシ−2,3−ジデヒドロ−N−アセチルノイラミン酸誘導体である。
【0014】
一般式(I)で表される化合物において、Xにおける「ハロゲン原子」は、例えば、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子であり得、好適には、フッ素または塩素原子であり、最も好適には、フッ素原子である。
【0015】
Xにおける「炭素数1乃至4個のアルコキシ基」は、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、s−ブトキシまたはt-ブトキシ基のような炭素数1乃至4個の直鎖または分枝状アルコキシ基であり得、好適には、メトキシまたはエトキシ基であり、最も好適には、メトキシ基である。
Xは、好適には、炭素数1乃至4個のアルコキシ基であり、最も好適には、メトキシ基である。
【0016】
1およびR2における「炭素数2乃至20個のアルカノイル基」、ならびに、Xにおける「炭素数2乃至20個のアルカノイルオキシ基」のアルカノイル部分は、炭素数2乃至20個の直鎖または分枝鎖アルカノイル基であり、好適には、炭素数6乃至20個のアルカノイル基であり、さらに好適には、炭素数6乃至18個のアルカノイル基であり、さらにより好適には、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイルまたはオクタデカノイル基である。
【0017】
3における「炭素数1乃至20個のアルキル基」は、炭素数1乃至20個の直鎖または分枝状アルキル基である。上記のR3における「炭素数1乃至20個のアルキル基」は、R1およびR2が水素原子であり、Xがハロゲン原子、水酸基または炭素数1乃至4個のアルコキシ基である場合、好適には、炭素数8乃至20個のアルキル基であり、さらに好適には、炭素数10乃至20個のアルキル基であり、さらにより好適には、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシルまたはオクタデシル基である。
【0018】
1またはR2が炭素数6乃至20個のアルカノイル基である場合、R3は、好適には、水素原子または炭素数1乃至4個のアルキル基であり、より好適には、水素原子である。
【0019】
一般式(I)で表される化合物は、好適には、下記の化合物である:
(I−1)Xが炭素数1乃至4個のアルコキシ基である化合物、
(I−2)Xがメトキシ基である化合物、
(I−3)R1が炭素数6乃至20個のアルカノイル基であり、R2が水素原子であり、Xが炭素数1乃至4個のアルコキシ基であり、R3が水素原子である化合物、
(I−4)R1が炭素数6乃至20個のアルカノイル基であり、R2が水素原子であり、Xがメトキシ基であり、R3が水素原子である化合物、
(I−5)R1が炭素数6乃至18個のアルカノイル基であり、R2が水素原子であり、Xがメトキシ基であり、R3が水素原子である化合物、
(I−6)R1がヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイルまたはオクタデカノイル基であり、R2が水素原子であり、Xがメトキシ基であり、R3が水素原子である化合物、
(I−7)R1およびR2が水素原子であり、Xがメトキシ基であり、R3が炭素数8乃至20個のアルキル基である化合物、または、
(I−8)R1およびR2が水素原子であり、Xがメトキシ基であり、R3がデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシルまたはオクタデシル基である化合物。
【0020】
一般式(I)で表される化合物において、R1もしくはR2がアルカノイル基である場合、Xがアルカノイルオキシ基である場合、または、R3がアルキル基である場合、R1O−、R2O−、X、または、R3OCO−は、それぞれエステル基を形成する。一般式(I)で表される化合物がこれらのエステル基を有する場合、当該化合物はプロドラッグであり得る(「医薬品の開発」、広川書店、1990年刊、第7巻、分子設計、p.163-198)。一般式(I)で表される化合物における上記のエステル基は、投与された後、生体内の代謝過程(例えば、加水分解)で水酸基またはカルボキシル基へ変換され、その変換により生成した化合物が薬理活性を示す(例えば、US6451766の試験例1’乃至4’、特開平10−109981号公報の試験例1乃至4)。
【0021】
一般式(I)で表される化合物は、分子内にグアニジノ基またはカルボキシル基を有するため、薬理学上毒性を示さない酸または塩基とともに薬理上許容される塩を形成することができる。
【0022】
「薬理上許容される塩」は、例えば、フッ化水素酸塩、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩のようなハロゲン化水素酸塩;硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、りん酸塩のような無機酸塩;メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩のようなアルカンスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩のようなアリールスルホン酸塩;酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、しゅう酸塩、マレイン酸塩のような有機酸塩;グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩;リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩のような金属塩;または、アンモニウム塩、t−オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、エチレンジアミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、プロカイン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩のような有機アミン塩もしくは有機アンモニウム塩であり得、好適には、アルカリ金属塩、有機酸塩または無機酸塩である。
【0023】
一般式(I)で表される化合物は、大気中に放置する、または、水もしくは有機溶媒と混和すること等により、水和物または溶媒和物を形成する場合がある。
【0024】
上記に示された一般式(I)で表される化合物の薬理上許容される塩、水和物および溶媒和物は、本発明の治療剤または予防剤の有効成分に含まれる。
【0025】
一般式(I)で表される化合物は、H5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤として極めて有用である。上記H5N1型インフルエンザは、オセルタミビル感受性または耐性のH5N1型インフルエンザウイルスによるインフルエンザであり得、好適には、オセルタミビル耐性のH5N1型インフルエンザウイルスによるインフルエンザである。上記オセルタミビル感受性のH5N1型インフルエンザウイルスは、例えば、A/Hanoi/30408/2005(clone 7)であり得、上記オセルタミビル耐性のH5N1型インフルエンザウイルスは、例えば、A/Hanoi/30408/2005(clone 9)であり得る。また、別の観点からは、一般式(I)で表される化合物は、オセルタミビル耐性のインフルエンザウイルス(H5N1型に限定されない)によるインフルエンザの治療剤または予防剤としても有用である。
【発明の効果】
【0026】
一般式(I)で表される化合物は、H5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤として極めて有用であり、また、オセルタミビル耐性のH5N1型インフルエンザウイルスによるインフルエンザの治療剤または予防剤としても有用である。
【0027】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2007‐56872の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の治療剤または予防剤の有効成分である一般式(I)で表される化合物は、US6340702(特許第3209946号公報)、US6451766(特開平10−109981号公報)、US6844363(特開2002−012590号公報)等に記載された方法またはそれらに準ずる方法によって製造することができる。
【0029】
一般式(I)で表される化合物は、それをインフルエンザの治療剤または予防剤として使用する場合には、(i)それ自体で;または、(ii)適宜の薬理学的に許容される賦形剤、希釈剤等と混合して製造される製剤(例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、軟膏剤、液剤、懸濁剤、エアゾール剤、トローチ剤等)として、投与することができる。
【0030】
これらの製剤は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、懸濁化剤、希釈剤、製剤用溶剤等の添加物を用いて周知の方法で製造される。
【0031】
賦形剤は、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビットのような糖類;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α−デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプンのようなデンプン誘導体;結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩類;リン酸カルシウムのようなリン酸塩類;炭酸カルシウムのような炭酸塩類;または、硫酸カルシウムのような硫酸塩類であり得る。
【0032】
結合剤は、例えば、上記の賦形剤として示された化合物;ゼラチン;ポリビニルピロリドン;または、マグロゴールであり得る。
【0033】
崩壊剤は、例えば、上記の賦形剤として示された化合物;または、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾された、デンプンもしくはセルロース誘導体であり得る。
【0034】
滑沢剤は、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ビーガム;ビーズワックス、ゲイロウのようなワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸のようなカルボン酸類;安息香酸ナトリウムのようなカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウムのような硫酸類塩;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;または、上記の賦形剤におけるデンプン誘導体であり得る。
【0035】
安定剤は、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラヒドロキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;無水酢酸;または、ソルビン酸であり得る。
【0036】
矯味矯臭剤は、例えば、通常使用される、甘味料、酸味料または香料であり得る。
【0037】
懸濁化剤は、例えば、ポリソルベート80またはカルボキシメチルセルロースナトリウムであり得る。
【0038】
製剤用溶剤は、例えば、水、エタノールまたはグリセリンであり得る。
【0039】
本発明の治療剤または予防剤は、経口的または非経口的に投与することができるが、有効成分がインフルエンザウイルスの主たる感染経路である受容者の呼吸器組織(口腔、鼻腔、気道または肺の組織)へ送達され得る投与方法(例えば点鼻、経鼻、経肺、口腔内投与等)によって投与することが好ましい。一般に、有効成分は溶液、懸濁液または乾燥粉末の形態で投与し得る。溶液剤および懸濁剤は水性であり、例えば、水のみ(例えば、無菌水または発熱物質非含有水)、あるいは、水および薬理上許容される補助溶媒(例えば、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールまたはPEG 400)から一般に製造される。そのような溶液剤または懸濁剤は、他の賦形剤、防腐剤(例えば、塩化ベンザルコニウム)、ポリソルベートのような可溶化剤/表面活性剤(例えば、Tween 80、Span 80または塩化ベンザルコニウム)、緩衝剤、等張性調節剤(例えば、塩化ナトリウム)、吸収促進剤または増粘剤をさらに含有していてもよい。懸濁液は、懸濁化剤(例えば、微結晶質セルロースまたはカルボキシメチルセルロースナトリウム)をさらに含有していてもよい。溶液剤または懸濁剤は、一般的な手段(例えば、スポイト、ピペットまたは噴霧器)で鼻腔または口腔に直接投与される。溶液剤または懸濁剤は、一回のみの投与量または多数回投与量の形態で提供され得る。後者の場合、投与量の計量手段が設けられていることが好ましい。スポイトまたはピペットを使用する場合、患者が自ら適切な所定容量の溶液剤または懸濁剤を投与する。噴霧器を使用する場合、例えば、計量噴霧スプレーポンプの手段によって投与され得る。気道または肺への投与は、有効成分を、適当な噴射剤[例えば、クロロフルオロカーボン(CFC)、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素のようなガス]と共に加圧パックの形態としたエアゾール配合物によってなし得る。エアゾール配合物は、レシチンのような表面活性剤を含有していることが好適である。有効成分の投与量は、投与機器に計量バルブを備えることによって制御し得る。また、有効成分は、それ自体の乾燥粉末、あるいは、ラクトース、デンプン、デンプン誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)またはポリビニルピロリジン(PVP)のような適当な粉末基剤に有効成分を混合した粉末混合物、の形態で提供され得る。上記の乾燥粉末または粉末混合物が鼻腔内でゲルを形成することが好適である。上記の乾燥粉末または粉末混合物は、例えばゼラチンでできた、カプセルもしくはカートリッジ、または、ブリスターパックにより単位投与量の形態で提供することができ、これらのカプセル、カートリッジまたはブリスターパックから吸入器によって投与され得る。鼻腔内配合物を含めた気道または肺へ投与するための配合物では、有効成分の粒子サイズは一般に小さい。そのような粒子サイズの有効成分は、超微粉化のような製剤学の分野で周知の方法によって得られる。有効成分を持続的に放出するように製造された配合物を用いることもできる。
【0040】
本発明の治療剤または予防剤は、粉末混合物として、鼻又は口から吸入投与されるのが特に好ましい。
【0041】
本発明の治療剤または予防剤は、他の治療剤と組合せて使用することができ、組合せて使用される治療剤は、好適には、オセルタミビル(特に、オセルタミビル リン酸塩、または、オセルタミビル カルボキシレート)、ザナミビル(特に、ザナミビル 水和物)、アマンタジン(特に、アマンタジン 塩酸塩)、リマンタジン、リバビリンのようなインフルエンザ治療剤である。そのような組み合わせの個々の有効成分は、別々のまたは一緒にした医薬配合物の形で、順次または同時に投与し得る。本発明の治療剤または予防剤を同じウイルスに対して活性な他の治療剤と共に用いるとき、各有効成分の投与量は、各有効成分を単独で使用するときの投与量と同じでも異なっていてもよい。
【0042】
本発明の治療剤または予防剤の投与は、パンデミックが起こった場合に、または、家禽類でのインフルエンザが流行している地域に行く場合に、必要に応じて開始され、1週間に1乃至7回、必要に応じて回数を増減しながら行うことができる。パンデミックが起こった際には、流行が身近に迫った場合、集団生活を行っている場合、不特定多数の人が集合する場所(例えば、保育園、幼稚園、学校、会社、病院、老人ホーム、映画館、図書館、コンサート会場、スポーツ観戦会場等)で生活をしまたは働く場合、あるいは、それらの場所へ行く場合には、投与回数を増やしたり、事前に投与することが可能である。家禽類でのインフルエンザが流行している地域に調査または旅行等で行く場合にも、投与回数を増やしたり、事前に投与することが可能である。投与回数を増やすとは、例えば、1日1回投与することであり、事前に投与するとは、インフルエンザ感染の可能性のある行動の前、または、当該行動の後インフルエンザ発症の前、に投与することである。
【0043】
本発明の治療剤または予防剤の投与量は、使用される有効成分の種類、インフルエンザの流行の程度、投与される患者の体重もしくは年齢等の状態により異なるが、ヒトに対して吸入投与する場合、体重1kgあたり、1回10μg乃至5mgの用量で、1週間に1から7回乃至1日に1から3回程度投与することが好ましい。
【0044】
本発明の治療剤または予防剤の有効成分は、H5N1型インフルエンザウイルスの増殖に必須であるノイラミニダーゼを阻害し、ウイルスの増殖を阻害することができる。このノイラミニダーゼ阻害活性は、例えば、以下のような方法で評価することができるが、その評価方法は、以下の方法に限定されない。
【0045】
例えば、ノイラミニダーゼ酵素活性を有するH5N1型インフルエンザウイルスおよびノイラミニダーゼ基質を混和し、酵素活性を検出する反応系に、本発明の治療剤または予防剤の有効成分を添加することにより、酵素阻害活性を定量的に評価することができる。
【0046】
また、例えば、H5N1型インフルエンザウイルスを培養細胞に感染させ、ウイルスの増殖に基づくプラークを形成させる実験系に、本発明の治療剤または予防剤の有効成分を添加した後、プラークの数もしくは大きさの減少、または、培養液中のウイルス量を測定することにより、H5N1型インフルエンザウイルスの増殖阻害活性を定量的に評価することができる。
【0047】
本発明の治療剤または予防剤によるインフルエンザウイルス感染に対する治療効果または予防効果は、以下のような方法で評価することができるが、その評価方法は、以下の方法に限定されない。
【0048】
例えば、本発明の治療剤または予防剤の有効成分の適量を、溶液、懸濁液または粉末の形態で、ヒト、マウス、ラット、フェレット、ブタ、トリなどの脊椎動物の呼吸器へ、点鼻、経鼻、経肺、吸入等の投与方法によって投与する。投与直後から1ヶ月後まで間の適当な時期に1回、インフルエンザウイルスを吸入させ、または、鼻へ滴下して、感染させる。その後、インフルエンザの症状(例えば、発熱;頭痛;全身倦怠感;関節痛;筋肉痛;せきまたは痰などの呼吸器症状;咽喉ぬぐい液、鼻汁または肺洗浄液などに含まれるウイルス量;生死など)を観察または測定し、治療効果または予防効果を評価することができる。
【0049】
また、インフルエンザ流行地域で、経口、直腸、鼻、局所(口内および舌下を含む)、膣、非経口(筋肉内、皮下および静脈内を含む)または吸入による投与により、本発明の治療剤または予防剤の有効成分の適量を気道(鼻を通過することを含む)へ投与されるヒトの群を作成する。一方で、本発明の治療剤または予防剤の有効成分を投与されないヒトの群を作成する。一定期間後に、両群でインフルエンザウイルスに感染しインフルエンザの症状を発症したヒトの割合を統計学的に検証し、治療効果または予防効果を評価することができる。
【0050】
マウスを使用して予防効果を評価する場合には、生理食塩水または適切な緩衝液に溶解した本発明の治療剤または予防剤の有効成分を鼻腔内に適量滴下することにより経鼻的に投与し、その直後から1ヶ月後の適当な時期に同様の方法で経鼻的にインフルエンザウイルスに感染させる。感染後、マウスの肺を取り出して肺中のウイルス量を測定することにより、予防効果を評価することができる。使用するインフルエンザウイルスがマウスに対して致死的感染を起こす場合には、マウスの生死を観察することにより予防効果を評価することができる。
【実施例】
【0051】
以下に製造例、実施例および製剤例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0052】
(製造例1)
5−アセタミド−4−グアニジノ−9−O−オクタノイル−2、3、4、5−テトラデオキシ−7−O−メチル−D−グリセロ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラソン酸
【化4】
(1)US6340702(特許第3209946号公報)の実施例35(i)に記載された5−アセタミド−4−(N,N’−ビス−t−ブチロキシカルボニル)グアニジノ−9−O−オクタノイル−2,3,4,5−テトラデオキシ−7−O−メチル−D−グリセロ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラノソン酸ジフェニルメチル(3.46g,4.1mmol)を塩化メチレン(27ml)およびトリフルオロ酢酸(14ml)に溶解し、室温で終夜撹拌した。反応液を減圧下にて濃縮乾固した後、トルエン(5ml)で3回共沸乾固した。得られた油状物を酢酸エチル(10ml)に溶解した。この溶液を飽和重曹水(50ml)に注加し、20%炭酸ナトリウム水溶液を加えpH8.5に調整した。室温で3時間撹拌した後、塩酸(3ml)でpH5.0に調整し、室温で1時間撹拌した。さらに氷冷下で1時間撹拌した後、析出した結晶を吸引濾過し、外温50℃にて10時間真空乾燥した。空気中で1日間放置し、標記化合物を水和物結晶として得た。(0.97g,収率51%)。
【0053】
赤外線吸収スペクトル(KBr)νmax cm-1: 3412, 2929, 2856, 1676, 1401, 1320, 1285, 1205, 1137, 722.
1H核磁気共鳴スペクトル(400MHz, CD3OD)δppm: 5.88(1H, d, J=2.5 Hz), 4.45 (3H, m), 4.27 (1H, dd, J=10.0 Hz, 10.0 Hz), 4.15 (1H, m), 3.47 (2H, m), 3.42 (3H, s), 2.37 (2H, t, J=7.4 Hz), 2.10 (3H, s), 1.31 (2H, m), 1.20-1.40 (8H, m), 0.85-0.95 (3H, m).
13C核磁気共鳴スペクトル(100MHz, CD3OD)δppm: 176.5, 173.7, 164.7, 158.9, 146.7, 108.7, 80.1, 78.0, 69.3, 66.8, 61.4, 52.4, 35.1, 32.8, 30.2, 30.1, 26.0, 23.7, 22.8, 14.4.
(2)標記化合物は以下の方法によっても得られた。
【0054】
US6340702(特許第3209946号公報)の実施例35(ii)に記載された5−アセタミド−4−グアニジノ−9−O−オクタノイル−2、3、4、5−テトラデオキシ−7−O−メチル−D−グリセロ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラソン酸トリフルオロ酢酸塩(3.0g,5.1mmol)を逆相カラムクロマトグラフィー[コスモシル75C18PREP(ナカライテスク)、100g]に付し、メタノール/水(0/1−1/1−2/1)を用いて溶出させた。目的物を含む分画を減圧下にて濃縮し、析出した結晶を吸引濾過し、減圧下にて乾燥した。空気中で1日間放置し、標記化合物を水和物結晶として得た(1.2g,収率49%)。得られた化合物の物性データは、上記(1)で得られた化合物と一致した。
【0055】
(製造例2)
5−アセタミド−4−グアニジノ−2、3、4、5−テトラデオキシ−7−O−メチル−D−グリセロ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラソン酸
【化5】
US6340702(特許第3209946号公報)の実施例28(viii)に記載された5−アセタミド−4−グアニジノ−2、3、4、5−テトラデオキシ−7−O−メチル−D−グリセロ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラソン酸トリフルオロ酢酸塩(3.0g,5.1mmol)をイオン交換樹脂カラム[Dowex−50W;(i)水,(ii)5%アンモニア水溶液]で精製した後、次いで逆相カラムクロマトグラフィー[コスモシル75C18PREP(ナカライテスク);水]で精製した。目的物を含む画分を減圧下にて濃縮し、得られた固体をメタノールで洗浄し、濾取し、乾燥して、標記化合物(1.43g)を無色固体として得た。
【0056】
1H核磁気共鳴スペクトル(400MHz, CD3OD)δppm: 5.64(1H, d, J=2.0 Hz), 4.43 (2H, m), 4.22 (1H, dd, J=10.0 Hz, 10.0 Hz), 4.00 (1H, m), 3.85 (1H, dd, J=10.0 Hz, 2.4 Hz), 3.68 (1H, dd, J=10.0 Hz, 5.5 Hz), 3.58 (1H, m), 3.43 (3H, s).
なお、製造例2の化合物は、製造例1の化合物が体内で代謝されて生成される化合物である。すなわち、製造例1の化合物は、製造例2の化合物のプロドラッグであり、製造例2の化合物は活性本体である。
(実施例1)ノイラミニダーゼ阻害活性試験
以下の試験は、Nature, 2005年,第437巻, p.1108に記載された方法に準じた方法に従って行われた。
【0057】
ノイラミニダーゼ活性が800乃至1200蛍光単位になるように希釈したH5N1型ウイルス液、および、0.01乃至100000nMに調整した試験化合物を混合し、37℃で30分間反応した後、基質である0.1mMの2'-(4-methylumbelliferyl)-α-D-N-acetylneuraminic acidを加え、さらに37℃で1時間反応させた。その後、360nmの励起波長および465nmの蛍光波長を測定した。得られた蛍光強度から試験化合物が無添加である場合を100としたときの、各濃度での試験化合物の阻害率(%)を算出し、50%の酵素阻害活性を与える試験化合物の濃度(IC50)を算出した。結果を表1に示す。
【0058】
本発明の治療剤または予防剤の有効成分は、オセルタミビル感受性および耐性のH5N1型インフルエンザウイルス株に対して強力なノイラミニダーゼ阻害活性を有し、オセルタミビル耐性のH5N1型インフルエンザウイルス株に対しても優れた阻害活性を示した。
【0059】
(表1)ノイラミニダーゼ阻害活性(IC50,nM)
オセルタミビル感受性株: A/Hanoi/30408/2005 (clone 7)
オセルタミビル耐性株: A/Hanoi/30408/2005 (clone 9)
(実施例2)ウイルス増殖阻害活性試験
H5N1型インフルエンザウイルスを一つのwellあたり50乃至100個のプラークを形成するようにMDCK細胞に接種し、37℃で1時間吸着させた後、0.1乃至1000nMの濃度の試験化合物を含む寒天培地を重層し、MDCK細胞を2日間培養した。その後、19%メタノールに溶解した0.1%クリスタルバイオレットにて固定染色し、プラーク数およびプラークの直径を測定した。面積を基として阻害率を算出するため、全プラークの直径の二乗の和を計算し、試験化合物が無添加である場合を100%としたときの各濃度での試験化合物の阻害率(%)を算出し、50%のウイルス増殖阻害活性を与える試験化合物の濃度(IC50)を算出した。結果を表2に示す。
【0060】
本発明の治療剤または予防剤の有効成分は、オセルタミビル感受性および耐性のH5N1型インフルエンザウイルス株に対して強力なウイルス増殖阻害活性を有し、ザナミビルに比較して極めて優れたウイルス増殖阻害活性を示した。
【0061】
(表2)ウイルス増殖阻害活性(IC50,nM)
オセルタミビル感受性株: A/Hanoi/30408/2005 (clone 7)
オセルタミビル耐性株: A/Hanoi/30408/2005 (clone 9)
(実施例3)マウス感染治療試験1
Balb/cマウスに生理食塩水のみまたは生理食塩水に溶解した種々の濃度の試験化合物を経鼻的に投与し、投与7日後に、H5N1型インフルエンザウイルスを経鼻的に接種して、感染させる。感染の1日、2日および3日後にマウスの肺を採取し、肺中に含まれるH5N1型インフルエンザウイルスを定量することにより、H5N1型インフルエンザウイルスの増殖抑制効果を調べる。
【0062】
本発明の治療剤または予防剤の有効成分を投与されたマウスでは、生理食塩水のみを投与されたマウスに比較して、肺中のウイルス量が有意に減少する。
【0063】
(実施例4)マウス感染治療試験2
実施例3と同様にして試験化合物を投与し、H5N1型インフルエンザウイルスを接種したマウスの生存を感染の20日後まで観察する。
【0064】
生理食塩水のみを投与されたマウスは感染20日後までにほぼ全例が死亡するが、本発明の治療剤または予防剤の有効成分を投与されたマウスは感染20日後においても生存例が認められる。
【0065】
具体的には、H5N1トリインフルエンザウイルス感染患者より分離したA/Hanoi/UT30408(clone7)/2005 (H5N1)を80pfu(プラーク形成ユニット)含む溶液50μlをマウス(BALB/C、メス、6週令)に経鼻的に滴下感染した。製造例1の化合物を生理食塩水に、あるいは3%タミフルドライシロップ(登録商標)(リン酸オセルタミビル)を蒸留水に溶解した。製造例1の化合物を70あるいは700μg/kg/50μlの投与量になるよう、リン酸オセルタミビルを0.5、5あるいは50mg/kg/200μlになるように調製し、製造例1の化合物は感染の2時間後に1回経鼻投与し、リン酸オセルタミビルは感染の2時間後に1回、以降1日2回5日間、計10回、経口投与した。結果は、感染後6日、8日、10日、15日、20日の生存マウス数で示した。なお、試験は、各群10匹で行った。
【0066】
(表3)
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0067】
一般式(I)で表される化合物は、H5N1型インフルエンザの治療剤または予防剤として極めて有用であり、また、オセルタミビル耐性のH5N1型インフルエンザウイルスによるインフルエンザの治療剤または予防剤としても有用である。