【実施例】
【0075】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明する。
【0076】
(実施例1)摂食意欲の変化の評価−麻婆風味スープモデルの場合
麻婆風味スープモデルである表1の組成にしたがい、呈味組成物を調製した(未添加品M)。次に呈味組成物およびフレーバー組成物を調製し、良く混合した(添加品M1)。さらに呈味組成物、フレーバー組成物および辛み組成物を調製し、良く混合した(添加品M2)。これらの未添加品M、添加品M1および添加品M2の各試料を下記の手順にしたがい、被験者に摂食させ、こめかみ部付近の血流量を光トポグラフィ装置で測定すると共に、官能評価アンケートへの回答を行わせた。
【0077】
【表1】
【0078】
[被験者]
8名(20〜30代の男性6名、女性2名)。
[測定方法]
調製した試料は飲用前に60℃に加温し、プラスチックカップに40ml程度注ぎ入れて、被験者に飲用させる試料とした。被験者による試料の飲用および評価の手順は以下の通りである。
安静60秒→試料飲用(30秒間飲用した試料の評価)→安静60秒→180秒:その間に評価アンケートに記入→再度、最初の安静からの手順を繰り返す。試料の呈示、飲用、評価のタイムスケジュールを
図1に示す。
図1中、コントロール条件は下記の呈示順(A1)の2試料目と3試料目、テスト条件は下記の呈示順(A2)の2試料目と3試料目に対応する。
[呈示順(A)]
呈示順(A1):添加品M1→添加品M1→添加品M1
呈示順(A2):添加品M1→添加品M1→添加品M2
呈示順(A1)および(A2)を各1回ずつ計測した。
[測定装置]
日立ETG−4000型光トポグラフィ装置((株)日立メディコ製:52チャンネル)
[官能評価アンケート]
においの強さについて最低を「無」、最高を「非常に強い」として、その間を「弱い」、「普通」、「強い」として13段階、辛みの強さについて最低を「無」、最高を「非常に強い」として、その間を「弱い」、「普通」、「強い」として13段階、摂食した試料の各食品としての好ましさについて最低を「好ましくない」、最高を「好ましい」として13段階に分けた官能評価表を用いて被験者に記載させた。また、甘味、酸味、塩味、うま味、苦味についても同様に13段階に分けて記載させた。官能評価アンケート用紙を
図4に示す。
【0079】
(比較例1)辛み組成物単独の摂食意欲の変化への影響の確認
麻婆風味スープモデルである表1の組成にしたがい呈味組成物を調製した(未添加品M)。次に呈味組成物および辛み組成物を調製し、良く混合した(添加品M3)。未添加品Mおよび添加品M3を下記の手順に従って被験者に飲用させて、こめかみ部付近の血流量を光トポグラフィ装置で測定すると共に、官能評価アンケートに記載させた。
[呈示順(B)]
呈示順(B1):未添加品M→未添加品M→未添加品M
呈示順(B2):未添加品M→未添加品M→添加品M3
実施例1と同じ被験者により、呈示順(B1)および(B2)を各1回ずつ計測した。測定方法、測定装置および官能評価アンケートの記載方法は実施例1と同じである。
【0080】
[実施例1および比較例1の結果]
呈示順(A2)において添加品M1(2試料目)の飲用後、添加品M2を飲用した場合の被験者の平均血流変化(52チャンネルの測定結果)を
図2に示す。また、呈示順(B2)において未添加品M(2試料目)の飲用後、添加品M3を飲用した場合の被験者の平均血流変化(52チャンネルの測定結果)を
図3に示す。また、呈示順(A1)における添加品M1(3試料目)および呈示順(A2)における添加品M2を飲用した場合の被験者の官能評価結果を
図6に示す。また、呈示順(B1)における未添加品M(3試料目)および呈示順(B2)における添加品M3を飲用した場合の被験者の官能評価結果を
図7に示す。
まず、呈示順(A1)における添加品M1(3試料目)、および呈示順(A2)における添加品M2を飲用した場合であるが、
図6の官能評価の結果に示した通り、被験者は呈味組成物およびフレーバー組成物を混合した添加品M1に比べ、さらに辛み組成物を添加した添加品M2は有意に辛み、香りの強さおよび好ましさの評価が高かった。一方、甘味およびうま味は辛み刺激により抑えられ適度な程度に抑えられたと回答した。
次に、
図2の結果に示した通り、血流増加量の大きいチャンネルとしては左側ではチャンネル19、20、21、29、30、32、40、41、42、43、44、51、52、右側ではチャンネル11、12、22、23、32、33、34、43、44、45であった。これらのうち、左側ではチャンネル30、40、41、42、51、52、右側ではチャンネル22、23、32、43、44が特に大きかった。これらのチャンネルは左右のこめかみ部付近の血流量変化の応答を反映するものであるが、この部位においては、唾液腺、特に耳下腺活動に伴う信号がリアルタイムに計測されることが知られている。
血流量については、8名中8名が添加品M1を飲用させた場合と比較して、添加品M2を飲用させた場合、左右のこめかみ部領域で唾液腺活動に伴う血流変化量の有意な増加が認められた(
図2)。2試料目飲用後の3試料目に対する血流変化量の、2試料目に対する血流変化量に対するピーク比(応答強度比)を用いて比較した結果、添加品M1を連続して呈示した場合(呈示順(A1))と比較して、左右のこめかみ部の計測領域で、麻婆風味スープモデルフレーバーの存在下での辛み物質の添加により有意に血流量が増加することが確認された(
図5)。
以上の結果から、麻婆風味スープモデルの呈味組成物とフレーバー組成物を含む試料に辛み物質を添加することにより、食べたい、飲みたいという摂食意欲が上昇し、唾液腺血流量も増強することが確認された。
【0081】
一方、呈示順(B2)において未添加品Mおよび添加品M3を飲用した場合からは次のことが確認された。すなわち、
図7の官能評価の結果に示した通り、被験者8名全員が呈味組成物である未添加品Mは「飲めるがおいしくはない」と回答し、さらに辛み物質を添加した添加品M3は喉に残る強い辛みであり、辛みのインパクトばかりが強調されていると評価した。
また、血流量については、8名全員が未添加品Mを飲用させた場合と比較して、添加品M3を飲用させた場合、左右のこめかみ部領域での唾液腺活動に伴う血流変化量の有意な増加が認められなかった(
図3)。このことは、2試料目飲用後の3試料目に対する血流変化量の、2試料目に対する血流変化量に対するピーク比(応答強度比)を用いた比較でより明確に示された。すなわち、未添加品Mを連続して呈示した場合(呈示順(B1))の未添加品Mの応答強度比と呈示順(B2)での添加品M3の応答強度比には有意な差は認められなかった(
図5)。
以上の結果から、麻婆風味スープモデルフレーバーの不存在下で、麻婆風味スープモデルの呈味組成物に辛み物質を添加するだけでは、食べたい、飲みたいという摂食意欲が上昇することはなく、唾液腺血流量の増加は認められなかった。
【0082】
実施例1および比較例1の結果から、次の結論を導き出すことができる。すなわち、呈味組成物に辛み物質を添加した添加品M3の飲用では唾液腺血流量の増加はなく、摂食意欲の上昇がないことが確認された。
これに対し、呈味組成物、フレーバー組成物および辛み物質を添加した添加品M2では唾液腺血流量の有意な増加が認められ、麻婆風味スープモデルにおいて使用したフレーバー組成物および辛み物質の組合せは摂食意欲を上昇させることを確認することができた。
以上のように、本発明の評価方法により、辛み物質が摂食意欲に及ぼす効果を測定したところ、官能評価と相関する結果が得られ、本発明の評価方法で規定する相対値が辛み物質による摂食意欲の変化を評価するうえで、客観的な指標となりうることが確認された。また、本発明の評価方法を用いれば、辛み刺激を有する飲食品について添加するフレーバーが摂食意欲を上昇させる好ましいものであるかの評価を行うことや、辛み刺激を持たない食品に辛み物質を添加した場合に摂食意欲を上昇させることができるかなどの評価法として使用することが可能である。
【0083】
(実施例2)苦味物質による摂食意欲の変化の評価−グレープフルーツ風味飲料モデル
グレープフルーツ風味飲料モデルである表2の組成にしたがい呈味組成物を調製した(未添加品G)。次に呈味組成物および苦味組成物を良く混合した(添加品G1)。さらに呈味組成物、苦味組成物およびフレーバー組成物を良く混合した(添加品G2)。これらの未添加品G、添加品G1および添加品G2の各試料を下記の手順にしたがい、被験者に摂食させ、こめかみ部付近の血流量を光トポグラフィ装置で測定すると共に、官能評価アンケートへの回答を行わせた。
【0084】
【表2】
【0085】
[被験者]
8名(20代〜30代の女性5名、20代〜30代の男性3名)
[測定方法]
被験者による試料の飲用および評価の手順は以下の通りである。
安静60秒→試料飲用(30秒間飲用した試料の評価)→安静60秒→180秒:その間に評価アンケートに記入→再度、最初の安静からの手順を繰り返す。試料の呈示、飲用、評価のタイムスケジュールを
図1に示す。試料の呈示、飲用、評価のタイムスケジュールを
図1に示す。
図1中、コントロール条件は下記の呈示順(C1)の2試料目と3試料目、テスト条件は下記の呈示順(C2)の2試料目と3試料目に対応する。
[呈示順(C)]
呈示順(C1):添加品G1→添加品G1→添加品G1
呈示順(C2):添加品G1→添加品G1→添加品G2
呈示順(C1)および(C2)を各1回ずつ計測した。
[測定装置]
日立ETG−4000型光トポグラフィ装置((株)日立メディコ製:52チャンネル)
[官能評価アンケート]
においの強さについて最低を「無」、最高を「非常に強い」として、その間を「弱い」、「普通」、「強い」として13段階、苦味、酸味、甘味、塩味、うま味の強さについて最低を「無」、最高を「非常に強い」として、その間を「弱い」、「普通」、「強い」として13段階、摂食した試料の各食品としての好ましさについて最低を「好ましくない」、最高を「好ましい」として13段階に分けた官能評価表を用いて被験者に記載させた。また、摂食した試料のグレープフルーツらしさ、および果汁感、さのう感、アルベド感のようなグレープフルーツらしさを評価する項目についても同様に13段階に分けて記載させた。
官能評価アンケート用紙を
図10に示す。
【0086】
(比較例2)苦味組成物単独の摂食意欲の変化への影響の確認
グレープフルーツ風味飲料モデルである表2の組成にしたがい呈味組成物を調製した(未添加品G)。次に呈味組成物およびフレーバー組成物を調製し、良く混合した(添加品G3)。未添加品Gおよび添加品G3を下記の手順に従って被験者に飲用させて、こめかみ部付近の血流量を測定すると共に、官能評価アンケートに記載させた。
[呈示順(D)]
呈示順(D1):未添加品G→未添加品G→未添加品G
呈示順(D2):未添加品G→未添加品G→添加品G3
実施例2と同じ被験者により、呈示順(D1)および(D2)を各1回ずつ計測した。測定方法、測定装置および官能評価アンケートの記載方法は実施例2と同じである。
【0087】
[実施例2および比較例2の結果]
呈示順(C2)において添加品G1(2試料目)の飲用後、添加品G2を飲用した場合の被験者の平均血流変化(52チャンネルの測定結果)を
図8に示す。また、呈示順(D2)において未添加品G(2試料目)の飲用後、添加品G3を飲用した場合の被験者の平均血流変化(52チャンネルの測定結果)を
図9に示す。また、呈示順(C1)における添加品G1(3試料目)、および呈示順(C2)における添加品G2を飲用した場合の被験者の官能評価結果を
図12に示す。また、呈示順(D1)における未添加品G(3試料目)、および呈示順(D2)における添加品G3を飲用した場合の被験者の官能評価結果を
図13に示す。
まず、呈示順(C1)および(C2)の飲用の場合であるが、
図12の官能評価の結果に示した通り、被験者は呈味組成物および苦味組成物を混合した添加品G1に比べ、さらにフレーバー組成物を添加した添加品G2は甘味、酸味の増強が確認された。また、フレーバー組成物の添加により、アルベド感(柑橘の果皮に由来する香味などの感覚)、果汁感が顕著に増加するとともに、グレープフルーツらしさ、まとまり・調和、好ましさが顕著に増加した。
また、血流量については、8名中8名が添加品G1を飲用させた場合と比較して、添加品G2を飲用させた場合、左右のこめかみ部領域で唾液腺活動に伴う血流変化量の顕著な増加が認められた(
図8。なお、チャンネル9、10、20は測定不能であった。)。2試料目飲用後の3試料目に対する血流変化量の、2試料目に対する血流変化量に対するピーク比(応答強度比)を用いて比較した結果、添加品G1を連続して呈示した場合(呈示順(C1))と比較して、左右のこめかみ部の計測領域で、フレーバー組成物添加により有意に血流が増加することが確認された(
図11)。
以上の結果から、グレープフルーツ飲料モデルの呈味組成物と苦味組成物を含む試料にフレーバー組成物を添加することにより、食べたい、飲みたいという摂食意欲が上昇し、唾液腺血流量も増強することが確認された。
【0088】
一方、呈示順(D2)の飲用の場合からは次のことが確認された。すなわち、
図13の官能評価の結果に示した通り、フレーバー組成物を添加した添加品G3は苦味の増強に加え、さのう感、果汁感、アルベド感などのグループフルーツらしさが増強した。まとまり・調和、好ましさは増加したが、呈味組成物と苦味組成物を含む試料にフレーバー組成物を添加した添加品G2ほど顕著ではなかった。
また、血流量については、8名全員が未添加品Gを飲用させた場合と比較して、添加品G3を飲用させた場合、左右のこめかみ部領域での唾液腺活動に伴う血流変化量の有意な増加は認められなかった(
図9)。このことは、2試料目飲用後の3試料目に対する血流変化量の、2試料目に対する血流変化量に対するピーク比(応答強度比)を用いた比較でより明確に示された。すなわち、未添加品Gを連続して呈示した場合の未添加品G(呈示順(D1))の応答強度比と呈示順(D2)での添加品G3の応答強度比には有意な差は認められなかった(
図11)。
以上の結果から、グレープフルーツ風味飲料モデルの呈味組成物にフレーバー組成物を添加するだけでは、食べたい、飲みたいという摂食意欲の上昇は顕著ではなく、唾液腺血流量の明確な増加は認められなかった。
【0089】
実施例2および比較例2の結果から、次の結論を導き出すことができる。すなわち、呈味組成物にフレーバー組成物を添加した添加品G3の飲用では、唾液腺血流量の増加は、呈味組成物と苦味組成物を含む試料にフレーバー組成物を添加した添加品G2ほど多くはなく、摂食意欲の上昇も添加品G2ほどではないことが確認された。
これに対し、呈味組成物、フレーバー組成物および苦味組成物を添加した添加品G2では唾液腺血流量の有意な増加が認められ、グレープフルーツ風味飲料モデルにおいて、使用したフレーバー組成物および苦味組成物の組合せは摂食意欲を上昇させる組合せであることを確認することができた。
以上のように、本発明の評価方法により、苦味物質が摂食意欲に及ぼす効果を測定したところ、官能評価と相関する結果が得られ、本発明の評価方法で規定する相対値が苦味物質による摂食意欲の変化を評価するうえで、客観的な指標となりうることが確認された。また、本発明の評価方法を用いれば、苦味刺激を有する飲食品について添加するフレーバーが摂食意欲を上昇させる好ましいものであるかの評価を行うことや、苦味刺激を持たない食品に苦味物質を添加した場合に摂食意欲を上昇させることができるかの評価法として使用することが可能である。