(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012083
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】ポリマー層を備えたニットアッパーを有する履物製品
(51)【国際特許分類】
A43B 23/02 20060101AFI20161011BHJP
A43B 1/04 20060101ALI20161011BHJP
【FI】
A43B23/02 101A
A43B1/04
【請求項の数】22
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-503676(P2014-503676)
(86)(22)【出願日】2012年3月23日
(65)【公表番号】特表2014-509920(P2014-509920A)
(43)【公表日】2014年4月24日
(86)【国際出願番号】US2012030273
(87)【国際公開番号】WO2012138488
(87)【国際公開日】20121011
【審査請求日】2014年3月26日
(31)【優先権主張番号】13/079,653
(32)【優先日】2011年4月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】314006455
【氏名又は名称】ナイキ イノヴェイト シーヴィー
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100149766
【弁理士】
【氏名又は名称】京村 順二
(72)【発明者】
【氏名】デュア,ブペシュ
(72)【発明者】
【氏名】シェイファー,ベンジャミン エイ.
【審査官】
青木 良憲
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2010/0154256(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0251564(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0110049(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0043253(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 23/02
A43B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッパーと前記アッパーに固定されているソール構造とを有する履物製品であって、前記アッパーは、
一体ニット構造で形成されたニット構成要素であって、第1のニット層と第2のニット層とを含む筒状構造を有し、前記第1のニット層と前記第2のニット層とは互いに重複し、両側の辺に沿って結合されることによって固定されていない中央区域を形成している、前記ニット構成要素と、
一次元材料の構成を有しており、前記筒状構造の前記固定されていない中央区域の長さの少なくとも一部を通って延びているストランドと、
前記ニット構成要素に接着されて、前記アッパーの外面の大部分を形成しているポリマー層とを備え、
前記ポリマー層は、前記筒状構造の第1のニット層に浸透して接着し、かつ前記筒状構造の第2のニット層には固定されていない、履物製品。
【請求項2】
前記ニット構成要素および前記ポリマー層は、前記アッパーの外側側部に沿って、前記アッパーの内側側部に沿って、前記アッパーの足先領域の上に、さらに前記アッパーのかかと領域の周りに延びていることを特徴とする、請求項1に記載の履物製品。
【請求項3】
前記筒状構造は、前記アッパーの前記外側側部上に配置されて、前記ソール構造に近接した区域から上方に延びるように配向されており、
前記ストランドは、前記筒状構造の一端から外側に延びて締めひもを受けるループを形成することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の履物製品。
【請求項4】
前記ループは、前記ニット構成要素と前記ポリマー層との間に配置されていることを特徴とする、請求項3に記載の履物製品。
【請求項5】
前記ニット構成要素は、前記ループに隣接して位置付けられている開口を画成し、
前記締めひもは、前記開口を通って延びていることを特徴とする、請求項3または請求項4に記載の履物製品。
【請求項6】
前記ポリマー層は、熱可塑性ポリマー材料から形成されていることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の履物製品。
【請求項7】
前記ポリマー層は、熱可塑性ポリマー材料から形成されている不織布地であることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の履物製品。
【請求項8】
前記ニット構成要素の第1区域は第1ニット種類を有し、前記ニット構成要素の第2区域は第2ニット種類を有しており、
前記第1ニット種類は、前記第2ニット種類とは異なることを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の履物製品。
【請求項9】
前記ニット構成要素の第1区域は第1の材料からなるストランドを有し、前記ニット構成要素の第2区域は第2の材料からなるストランドを有しており、
前記第1の材料は、前記第2の材料とは異なることを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の履物製品。
【請求項10】
アッパーと前記アッパーに固定されているソール構造とを有する履物製品であって、前記アッパーは、
一体ニット構造で形成されており、前記アッパーの外側側部に沿って、前記アッパーの内側側部に沿って、前記アッパーの足先領域の上に、さらに前記アッパーのかかと領域の周りに延びているニット構成要素を備え、
前記ニット構成要素は、互いに重複し両側の辺に沿って結合されることによって固定されていない筒状構造の中央区域を形成する第1のニット層と第2のニット層とによって画成された前記筒状構造を有し、
前記外側側部および前記内側側部の前記ニット構成要素の、前記筒状構造の固定されていない中央区域内に配置されており、前記ソール構造に近接した区域から上方に延びているとともに前記ニット構成要素から外側に延びて、前記外側側部に外側ループおよび前記内側側部に内側ループを形成している少なくとも1本のストランドと、
前記外側ループおよび前記内側ループを通って延びている締めひもと、
前記ニット構成要素に接着されて、前記アッパーの外面の大部分を形成しているポリマー層とを備え、
前記ポリマー層は、前記筒状構造の第1のニット層に浸透して接着し、かつ前記筒状構造の第2のニット層には固定されていない、履物製品。
【請求項11】
前記外側ループおよび前記内側ループは、前記ポリマー層と前記ニット構成要素との間に配置されていることを特徴とする、請求項10に記載の履物製品。
【請求項12】
前記ニット構成要素は、前記外側ループおよび前記内側ループに隣接して位置付けられている開口を画成し、
前記締めひもは、前記開口を通って延びていることを特徴とする、請求項10または請求項11に記載の履物製品。
【請求項13】
前記ポリマー層は、熱可塑性ポリマー材料から形成されていることを特徴とする、請求項10〜請求項12のいずれか一項に記載の履物製品。
【請求項14】
前記ポリマー層は、熱可塑性ポリマー材料から形成されている不織布地であることを特徴とする、請求項10〜請求項12のいずれか一項に記載の履物製品。
【請求項15】
前記ニット構成要素の第1区域は第1ニット種類を有し、前記ニット構成要素の第2区域は第2ニット種類を有しており、
前記第1ニット種類は、前記第2ニット種類とは異なることを特徴とする、請求項10〜請求項14のいずれか一項に記載の履物製品。
【請求項16】
前記ニット構成要素の第1区域は第1の材料からなるストランドを有し、前記ニット構成要素の第2区域は第2の材料からなるストランドを有しており、
前記第1の材料は、前記第2の材料とは異なることを特徴とする、請求項10〜請求項14のいずれか一項に記載の履物製品。
【請求項17】
アッパーと前記アッパーに固定されているソール構造とを有する履物製品であって、前記アッパーは、
一体ニット構造で形成されており、前記アッパーの外側側部に沿って、前記アッパーの内側側部に沿って、前記アッパーの足先領域の上に、および前記アッパーのかかと領域の周りに延びているニット構成要素と、
前記ニット構成要素に接着されて、前記アッパーの外面の大部分を形成しており、熱可塑性ポリマー材料から形成されているポリマー層とを備え、
前記ニット構成要素は、互いに重複し両側の辺に沿って結合されることによって固定されていない筒状構造の中央区域を形成する第1のニット層と第2のニット層とによって画成された前記筒状構造を有し、
前記ポリマー層は、前記筒状構造の第1のニット層に浸透して接着し、かつ前記筒状構造の第2のニット層には固定されていない、履物製品。
【請求項18】
前記ニット構成要素および前記ポリマー層は複数の開口を画成し、締めひもが前記開口を通って延びていることを特徴とする、請求項17に記載の履物製品。
【請求項19】
前記ポリマー層は、熱可塑性ポリマー材料から形成されている不織布地であることを特徴とする、請求項17または請求項18に記載の履物製品。
【請求項20】
前記ニット構成要素の第1区域は第1ニット種類を有し、前記ニット構成要素の第2区域は第2ニット種類を有しており、
前記第1ニット種類は、前記第2ニット種類とは異なることを特徴とする、請求項17〜請求項19のいずれか一項に記載の履物製品。
【請求項21】
前記ニット構成要素の第1区域は第1の材料からなるストランドを有し、前記ニット構成要素の第2区域は第2の材料からなるストランドを有しており、
前記第1の材料は、前記第2の材料とは異なることを特徴とする、請求項17〜請求項19のいずれか一項に記載の履物製品。
【請求項22】
履物製品を製造する方法であって、前記方法は、
横編みプロセスを利用して、第1面と反対側の第2面とを有するニット構成要素を形成するステップと、
前記ニット構成要素の前記第1面にポリマー層を接着するステップと、
前記ニット構成要素および前記ポリマー層を前記履物製品のアッパーに組み込むステップであって、前記ポリマー層は前記アッパーの外面の大部分を形成している、前記組み込むステップとを含み、
前記ニット構成要素は、互いに重複し両側の辺に沿って結合されることによって固定されていない筒状構造の中央区域を形成する第1のニット層と第2のニット層とによって画成された前記筒状構造を有し、
前記ポリマー層は、前記筒状構造の第1のニット層に浸透して接着し、かつ前記筒状構造の第2のニット層には固定されていない、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー層を備えたニットアッパーを有する履物製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の履物製品は一般に、アッパーおよびソール構造という2つの主要な要素を含んでいる。アッパーは、ソール構造に固定されて、足を快適にかつ安定して受け入れるために、履物の内部に空洞を形成する。ソール構造は、アッパーと地面との間に位置するように、アッパーの下面に固定されている。例えば、いくつかの運動用の履物製品では、ソール構造はミッドソールとアウトソールとを含んでいてもよい。ミッドソールは、地面の反力を弱めて、歩くとき、走るとき、および他の歩行活動中に足および脚にかかる応力を低減するポリマー発泡材料から形成してもよい。アウトソールはミッドソールの下面に固定されて、耐久性のある耐摩耗性の材料で形成されたソール構造の地面係止部を形成する。ソール構造は、履物の快適さを高めるために、空洞内に配置され、足の下面に近接する中敷きも含んでいてもよい。
【0003】
アッパーは大略的に、足の甲およびつま先区域の上に、足の内側側部および外側側部に沿って、さらに足のかかと区域の周りに延びている。バスケットボール用履物およびブーツなどいくつかの履物製品では、アッパーは上方に、足首の周りに延びて、足首に支持または保護を与えてもよい。アッパーの内部の空洞へのアクセスは一般に、履物のかかと区域にある足首開口部によって提供される。アッパーの履き心地を調整するために、しばしば締めひもシステムがアッパーに組み込まれ、それによりアッパー内の空洞に足を入れ、足を抜くことが可能になる。締めひもシステムにより、着用者がアッパーの特定の寸法、特に周長を調節して、さまざまな寸法の足を収容することもできる。くわえて、アッパーは、締めひもシステムの下に延びて履物の調節可能性を高めるベロを含んでいてもよく、アッパーはかかとの動きを制限するために、ヒールカウンタを組み込んでいてもよい。
【0004】
さまざまな材料要素が従来よりアッパーを製造する際に利用されている。例えば、運動用の履物のアッパーは、複数の材料要素から形成してもよい。材料要素は、例えば、耐伸縮性、耐摩耗性、柔軟性、通気性、圧縮性、および速乾性を含む様々な特性に基づいて選択してもよい。アッパーの外面に関しては、比較的高い程度の耐摩耗性を付与するために、つま先区域およびかかと区域を革、合成皮革、またはゴム材料から形成してもよい。革、合成皮革およびゴム材料は、外面の様々な他の区域については、所望の程度の柔軟性および通気性を示さないことがある。したがって、外面の他の区域は、例えば合成布地から形成してもよい。そのため、アッパーの外面は、それぞれがアッパーに異なる特性を付与する複数の材料要素から形成してもよい。アッパーの中間または中央層は、クッション材を提供して快適性を高める軽量なポリマー発泡体から形成してもよい。同様に、アッパーの内面は、足を直に取り囲む区域から汗を取り除く快適で速乾性の布地で形成してもよい。様々な材料要素および他の構成要素は、接着剤または縫製で接合してもよい。したがって、従来のアッパーは、それぞれが履物の様々な区域に異なる特性を付与する様々な材料要素から形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,931,762号明細書
【特許文献2】米国特許第7,347,011号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2008/0110048号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2010/0199406号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2010/0154256号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
アッパーとアッパーに固定されているソール構造とを有する履物製品を以下に開示する。アッパーはニット構成要素とポリマー層とを含んでいる。ニット構成要素は一体ニット構造で形成されており、アッパーの外側側部に沿って、アッパーの内側側部に沿って、アッパーの足先領域の上に、さらにアッパーのかかと領域の周りに延びている。ポリマー層はニット構成要素に接着されて、アッパーの外面の大部分を形成してもよい。ポリマー層は、熱可塑性ポリマー材料から形成されてもよい。
【0007】
履物製品を製造する方法も開示する。方法は、横編みプロセスを利用して、第1面と反対側の第2面とを有するニット構成要素を形成することも含む。ポリマー層はニット構成要素の第1面に接着される。さらに、ニット構成要素およびポリマー層を履物製品のアッパーに組み込む。
【0008】
本発明のさまざまな側面を特徴づける新規性の利点および特徴は、添付の請求項で具体的に指摘されている。しかし、新規性の利点および特徴のより一層理解を得るために、本発明に関するさまざまな構成および概念を説明および図示した以下の説明事項および添付図面を参照することができるであろう。
【0009】
上述の概要および以下の詳細な説明は、添付図面と合わせて読むとよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図5A】
図2の切断線5Aで画定した履物製品の断面図である。
【
図5B】
図2の切断線5Bで画定した履物製品の断面図である。
【
図5C】
図2の切断線5Cで画定した履物製品の断面図である。
【
図5D】
図2の切断線5Dで画定した履物製品の断面図である。
【
図6】履物製品のアッパーの一部を形成しているアッパー構成要素の上平面図である。
【
図8A】
図2に対応する側立面図であり、履物製品のさらなる構成を図示している。
【
図8B】
図2に対応する側立面図であり、履物製品のさらなる構成を図示している。
【
図8C】
図2に対応する側立面図であり、履物製品のさらなる構成を図示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の説明および添付の図面は、ニット構成要素およびポリマー層を含んでいるアッパーを有する履物製品を開示する。ウォーキングまたはランニングに適した一般構成を有する履物製品を開示する。アッパーを含んでいる履物製品に関連する概念は、例えば、野球靴、バスケットボールシューズ、クロストレーニングシューズ、サイクリングシューズ、フットボールシューズ、テニスシューズ、サッカーシューズ、短距離走用シューズ、およびハイキングブーツを含め、さまざまな他の運動用の履物の種類にも適用してもよい。この概念は、ドレスシューズ、ローファー、サンダルおよび作業靴を含め、一般に非運動用と考えられる履物の種類にも適用してもよい。したがって、本明細書で開示する概念は、多様な履物の種類に適用される。
【0012】
一般的な履物の構造
ソール構造20とアッパー30とを含んでいる履物製品10が
図1〜
図5Dに図示されている。参照のために、履物10は、足先領域11と中足領域12とかかと領域13との大略的に3つの領域に分割してもよい。足先領域11は、大略的に、つま先、および中足骨と指骨とを接続する関節に対応する履物10の部分を含んでいる。中足領域12は、大略的に、足のアーチ部位に対応する履物10の部分を含んでいる。かかと領域13は、大略的に、踵骨を含めて足の後部に対応している。履物10は外側側部14および内側側部15も含んでおり、領域11〜13のそれぞれを通って延びており、履物10の両側に対応する。より具体的には、外側側部14は足の外側部位に対応し(つまり、反対の足から遠ざかる方を向く面)、内側側部15は足の内側部位に対応する(つまり、反対の足の方を向く面)。領域11〜13および側部14〜15は履物10の厳密な区域を区切ることを意図していない。むしろ、領域11〜13および側部14〜15は、以下の説明の助けになるように、履物10の大略的な区域を表すことを意図している。履物10に加えて、領域11〜13および側部14〜15はソール構造20、アッパー30およびそれらの個々の要素に適用してもよい。
【0013】
ソール構造20はアッパー30に固定されていて、履物10を履いたときに足と地面との間に延びる。ソール構造20の主要な要素はミッドソール21、アウトソール22、および中敷き23である。ミッドソール21はアッパー30の下面に固定されて、歩いているとき、走っているとき、または他の歩行活動中に足と地面との間で圧縮されると、地面の反力を弱める(つまり、クッション材となる)圧縮可能なポリマー発泡体要素(例、ポリウレタンまたはエチルビニルアセテート発泡体)から形成してもよい。さらなる構成では、ミッドソール21は、地面反力減衰特性を補足する液体充填袋を組み込んでもよく、またはミッドソール21は主に液体充填袋から形成してもよい。アウトソール22はミッドソール21の下面に固定されて、牽引力を付与するように織られた耐摩耗性のゴム材料から形成してもよい。中敷き23はアッパー30内に配置されていて、足の下面の下に延びるように位置付けられている。ソール構造20のこの構成はアッパー30と接続して使用してもよいソール構造の一実施例を提供しているが、ソール構造20のさまざまな他の従来の構成または従来にない構成も利用してもよい。したがって、ソール構造20またはアッパー30とともに利用されるソール構造の構造および特徴は大幅に変わってもよい。
【0014】
アッパー30は、ソール構造20に対して足を受け入れて固定するための空洞を履物10内に画定する。空洞は足を収容するような形状にされており、足の外側側部に沿い、足の内側側部に沿い、足の上、かかとの周り、さらに足の下に延びている。空洞へのアクセスは、少なくともかかと領域13に配置されている足首開口部31により提供される。以下詳細に説明するように、締めひも32がアッパー30の複数の部分を通って延びており、着用者がアッパー30の寸法を調整してさまざまなプロポーションの足を収容できるようにする。さらに具体的には、締めひも32は着用者が足の周りにアッパー30を締めつけることができるようにし、締めひも32は着用者が空洞からの(つまり、足首開口部31を通して)足の出し入れを容易にするために、アッパー30を緩めることができる。くわえて、アッパー30は締めひも32の下に延びているベロ33を含んでいる。
【0015】
アッパー30の大部分はニット構成要素40およびポリマー層50から形成されている。ニット構成要素40は、例えば、横編みプロセスから製造してもよく、外側側部および内側側部15の両方に沿い、足先領域11の上に、さらにかかと領域13の周りに、領域11〜13を通って延びている。さらに、ニット構成要素40はアッパー30の内面を形成している。このように、ニット構成要素40はアッパー30内に空洞の少なくとも一部を画定する。いくつかの構成では、ニット構成要素40は足の下にも延びている。ただし、さまざまな図では例示のために、ストローベル式中敷き34がニット構成要素40に固定されて、足の下に延びているアッパー30の部分の大部分を形成している。この構成において、中敷き23はストローベル式中敷き34の上に延びて、足が載る表面を形成している。
【0016】
ポリマー層50はアッパー30の外面を形成しており、ニット構成要素40の外側区域に固定されている。一般に、ポリマー層50はニット構成要素40に隣接して置いてニット構成要素40に固定されて、アッパー30の外面を形成する。ニット構成要素40と同様に、ポリマー層50は、外側側部14および内側側部15の両方に沿って、足先領域11の上に、さらにかかと領域13の周りに、領域11〜13のそれぞれを通って延びている。ポリマー層50は履物10の中まで、ニット構成要素40の他の区域の上に延びていてもよいが、ポリマー層50は主にアッパー30の外面を形成するように配置されて図示されている。ポリマー層50はアッパー30の外面の大部分を形成するように図示されているが、ニット構成要素40の複数の部分を露出するようにさまざまな区域でポリマー層50が存在しなくてもよい。
【0017】
ニット構成要素40およびポリマー層50の組み合わせは、履物10にさまざまな利点を提供する。一例として、ニット構成要素40およびポリマー層50の組み合わせはアッパー30に比較的ぴったりした手袋のような履き心地を付与する。例えばサッカーシューズとして形成される場合、比較的ぴったりした手袋のような履き心地は、着用者にボールの感触およびコントロールの向上を提供する。ポリマー層50はアッパー30の複数の区域を補強するためにも利用してもよい。例えば、ポリマー層50はニット構成要素40の伸縮性を抑制してもよく、アッパー30の耐摩耗性または耐擦過性を向上してもよい。ポリマー層50は履物10に耐水性も付与してもよい。さらに、この構成の履物10を形成することで、足との均一なフィット性および適合性、着用者の快適性を高めたシームレスな内部、比較的軽量、上張りなく足のサポートを提供してもよい。
【0018】
ニット構成要素の構成
ニット構成要素40はアッパー30の個々の区域に異なる特性を付与するさまざまなニット種類を組み込んでいる。
図1、
図4および
図5Aに図示する実施例として、ニット構成要素40は足先領域11にアッパー30を貫通して延びているさまざまな開口41を形成するが、アッパー30の多くの他の区域はより連続した、または開口の少ない構成を有する。アッパー30内に空気を循環させるより大きな通気性を付与することに加えて、開口41は足先領域11のアッパー30の柔軟性および伸縮性の両方を高めてもよい。これらの利点の多くを促進するために、ポリマー層50は開口41に対応する位置にさまざまな開口を有してもよい。さらなる実施例として、ニット構成要素40の特定の区域に特定のニット種類を選択することにより変化させてもよい他の特性には、液体の透過性、ニット構成要素40が伸縮する方向または伸縮に抵抗する方向、ニット構成要素40の剛性、およびニット構成要素40の圧縮性が含まれる。さまざまなニット種類の区域に異なる特性を付与する履物のアッパーのニット構成要素のさらなる実施例は、Duaに付与された特許文献1およびDuaらに付与された特許文献2に見られ、ともに参照により全体を本明細書に組み込む。関連事項として、ニット構成要素40内のニットの密度は、例えば複数の部分を通気性を低くまたはより剛くするために、アッパー30の個々の区域間で変化してもよい。したがって、ニット構成要素40は、区域に選択される特定のニット種類に応じて、個々の区域にさまざまな特性を示してもよい。
【0019】
ニット構成要素40は、アッパー30の個々の区域に異なる特性を付与するさまざまなヤーンの種類も組み込んでもよい。また、さまざまなヤーンの種類をさまざまな縫製の種類と組み合わせることにより、ニット構成要素40はアッパー30の個々の区域にさまざまな異なる特性を付与してもよい。特定の種類のヤーンがニット構成要素40の一区域に付与することになる特性は、ヤーン内のさまざまなフィラメントおよびファイバから形成されている材料に部分的に依存する。例えば、綿は柔らかな手触り、自然な風合い、および生物分解性を提供する。エラステインおよび伸縮性ポリエステルは、それぞれ実質的な伸縮性および復元力を提供し、伸縮性ポリエステルはリサイクル可能性も提供する。レーヨンは光沢に優れ、吸湿性を提供する。ウールも断熱性に加えて、高い吸湿性を提供する。ナイロンは耐久性があり耐擦過性材料で、比較的強度が高い。ポリエステルは疎水性の材料で、比較的高い耐久性も提供する。材料に加えて、ヤーンに関係する他の側面がアッパー30の特性に影響することもある。例えば、ヤーンは単繊維または多繊維ヤーンであってもよい。ヤーンはそれぞれ異なる材料から形成される個別のフィラメントを含んでいてもよい。ヤーンは、鞘芯構成を有するフィラメントまたは異なる材料から形成される2種類のフィラメントを用いた複合ヤーンなど、それぞれ2以上の異なる材料から形成されている個別のフィラメントを含んでいてもよい。撚りおよび捲縮の程度を異ならせること、ならびにデニールを異ならせることでも、ヤーンを配置するアッパー30の特性に影響を与えてもよい。したがって、ヤーンを形成する材料およびヤーンの他の側面の両方を、アッパー30の個別区域にさまざまな特性を付与するために選択してもよい。
【0020】
ニットの種類およびヤーンの種類に加えて、ニット構成要素40はさまざまなニット構造を組み込んでもよい。例えば、
図2および
図3を参照すると、ニット構成要素40はストランド43が配置されているさまざまなチューブ42を含んでいる。チューブ42は一般に、
図5Bおよび
図5Cに図示するように、重複して少なくとも部分的に同一の広がりをもつ2つのニット材料の層によって形成されている中空構造である。チューブ42を形成しているニット材料の1つの層の両側部および縁部は他の層に固定してもよいが、中央区域は、別の要素(例、ストランド43)がニット材料の2層間に配置されて、チューブ42を通過するように、一般に固定されていない。重複しまたは少なくとも部分的に同一の広がりをもつ層を有する履物のアッパーのさらなる実施例は、Duaらに付与された特許文献3に見られ、参照により本明細書に組み込まれる。
【0021】
チューブ42は、上方に外側側部14および内側側部15に沿って延びている。各チューブ42は少なくとも1本の他のチューブ42に隣接して、チューブペアを形成している。一般に、ストランド43はチューブペアの第1チューブ42を通過して、第1チューブ42の上端から外側に延びてループ44を形成し、チューブペアの第2チューブ42の上端まで延びて第2チューブ42を通過している。すなわち、各ストランド43は少なくとも2本のチューブ42を通過し、ストランド43の露出部分がループ44を形成する。
図5Bに図示するように、ループ44はニット構成要素40とポリマー層50との間に配置されていることに留意する。この構成では、ポリマー層50はループ44の位置を締めひも32が通過する開口41の周りに効果的に固定する。すなわち、ループ44はニット構成要素40の締めひも開口41の周りに延びており、ポリマー層50がループ44の位置を締めひも開口41の周りに固定するので、締めひも32はループ44および締めひも開口41の両方を通過して、履物に締めひもシステムを形成してもよい。
【0022】
個々のストランド43は、ストランド43が1つのループ44を形成するように、2本の隣接するチューブ42だけ(つまり、1つのチューブペア)を通過してもよい。この構成では、ストランド43の端部は2本の隣接するチューブ42の下端から出て、例えば、ストローベル式中敷き34の下のソール構造20に固定して、端部がチューブ42の一方から抜けるのを防止してもよい。ポリマー層50の存在も、端部の位置を固定するのに利用してもよい。別の構成では、個々のストランド43はチューブ42の各々を通過することによって、複数のチューブペアを通過して複数のループ44を形成してもよい。さらに別の構成では、1本のストランド43が外側側部14に配置されているチューブ42の各々を通過してもよく、別のストランド43が内側側部15に配置されているチューブ42の各々を通過してもよい。そのため、一般に、個々のストランド43は少なくとも1つのチューブペアを通過して少なくとも1つのループ44を形成するが、複数のチューブペアを通過して複数のループ44を形成してもよい。
【0023】
図1〜
図4を参照すると、締めひも32はループ44の各々を通して延びており、ループ44の各々に隣接してニット構成要素40で形成されているさまざまな開口41も通過している。前述したように、ループ44はニット構成要素40とポリマー層50との間に配置されて、ポリマー層50がループ44の位置を締めひも32が通過する開口41の周りに効果的に固定している。締めひも32、締めひも32が貫通して延びている開口41、外側側部14および内側側部15の両方の上のさまざまなチューブ42、ストランド43、およびループ44の組み合わせが、アッパー30に効果的な締めひもシステムを提供する。締めひも32が引張って配置されるとき(つまり、着用者が締めひも32を結んでいるとき)、張力はストランド43にも誘導されてもよい。ストランド43が存在しないと、ニット構成要素40の他の部分が結んでいる締めひも32からの張力およびそれによる応力を受けることになろう。しかし、ストランド43の存在が張力および応力を支承する個別の要素となる。また、ニット構成要素40の大部分は一般に、ニットの種類およびヤーンの種類の選択により、引張って配置されるとき伸縮するように形成されてもよく、それによりアッパー30を足の輪郭に適合させる。しかし、ストランド43は一般にアッパー30と比較して非伸縮性であってもよい。
【0024】
ストランド43は多様な材料から形成してもよく、例えば、ロープ、スレッド、帯、ケーブル、ヤーン、フィラメント、または鎖の構成を有してもよい。いくつかの構成では、ストランド43は、ニット構成要素40を形成する編みプロセス中にチューブ42内に配置される。このように、ストランド43は、ニット構成要素40を形成する編み機または他のデバイスで利用される、一般に一次元材料から形成してもよい。本発明に関して使用する場合、「一次元材料」という用語またはその変形語は、幅および厚みよりも実質的に大きい長さを示す一般に細長い材料を包含することが意図されている。したがって、ストランド43に適した材料は、レーヨン、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリル、絹、綿、カーボン、ガラス、アラミド(例、パラアラミドおよびメタアラミド)、超高分子量ポリエチレン、ならびに液晶ポリマーから形成されているさまざまなフィラメント、ファイバおよびヤーンを含む。フィラメントおよびヤーンに加えて、他の一次元材料をストランド43に利用してもよい。一次元材料は幅および厚みが実質的に等しい断面(例、丸形または正方形の断面)を有することが多いが、いくつかの一次元材料は厚みよりもやや大きい幅を有していてもよい(例、方形、楕円形またはその他細長い断面)。幅の方が大きいとしても、材料の長さが材料の幅および厚みよりも実質的に大きい場合、材料は一次元と考えてもよい。
【0025】
ニット構成要素40により形成されている別の構造は、少なくとも部分的に足首開口部31の周りに延びているパッド入りカラー45である。
図1〜
図3を参照すると、カラー45はニット構成要素40の他の多くの部分よりも大きい厚みを呈している。一般に、カラー45は、
図5Dに図示するように、重複して少なくとも部分的に同一の広がりをもつ2つのニット材料の層(つまり、筒状構造)と、層間に延びている複数のフローティングヤーン46とで形成されている。カラー45を形成している一方のニット材料の層の側部または縁部は他方のニット材料の層に固定されていてもよいが、中央区域は一般に固定されていない。このように、ニット材料の層がチューブ42と同様なチューブまたは筒状構造を効果的に形成し、フローティングヤーン46がチューブを通過するように2つのニット材料の層の間に配置または載置されていてもよい。すなわち、フローティングヤーン46はニット材料の層間に延びており、ニット材料の表面に略平行であり、層間の内部空間を埋めている。ニット構成要素40の大部分はニット構造を形成するために機械的に操作されるヤーンから形成されているが、フローティングヤーン46は一般にカラー45の外面を形成しているニット材料の層間の内部空間内で自由であり、またはその他の形で載置されている。
【0026】
チューブ42は1本のストランド43を含んでいるが、カラー45はニット材料の層間の区域を通って延びている複数のフローティングヤーン46を含んでいる。したがって、ニット構成要素40は筒状構造内に1本または複数本のヤーンを有する略筒状構造を形成してもよい。さらに、フローティングヤーン46は多様な材料から形成してもよく、ニット構成要素40を形成する編みプロセス中にカラー45内に配置してもよい。このように、フローティングヤーン46は、ニット構成要素40を形成する編み機または他のデバイスで利用してもよい略一次元材料から形成してもよい。
【0027】
フローティングヤーン46の存在はカラー45に圧縮性の性質を付与し、それにより足首開口部31の区域の履物10の快適性を高める。多くの従来の履物製品はポリマー発泡要素または他の圧縮可能材料をカラー区域に組み込んでいる。従来の履物製品に対して、カラー45はフローティングヤーン46を利用して、圧縮可能な構造を提供する。
【0028】
チューブ42およびストランド43の組み合わせは、アッパー30に、例えば締めひもシステムにおける伸縮性に抵抗する構造要素を提供する。同様に、カラー45およびフローティングヤーン46の組み合わせは、アッパー30に、例えば、足首開口部31の周りにより大きな快適性を付与するために圧縮する構造要素を提供する。これらのニット構造はアッパー30に異なる利点を提供するが、これらのニット構造は、それぞれが(a)一体ニット構造で形成されているニット材料の重複して少なくとも部分的に同一の広がりをもつ2つの層から形成されている筒状構造、および(b)筒状構造内に載置もしくは配置されて、筒状構造の長さの少なくとも一部を通って延びている少なくとも1本のヤーン、ストランドまたは他の一次元材料を含むという点で似ている。
【0029】
横編みプロセス
ニット構成要素40を製造するために横編みプロセスを利用してもよい。横編みプロセスとは、周期的に折り返されるニット材料を製作する方法である(つまり、材料を両側から交互に編む)。材料の2つの側(面ともいう)は従来、表側(つまり、見る人に向かって外側に面する側)および裏側(つまり、見る人から離れて内側に面する側)と呼ばれる。横編みはニット構成要素40を形成するのに適した方法を提供するが、ニット構成要素40に組み込まれる特徴に応じて、他の編みプロセスも利用してもよい。利用してもよい他の編みプロセスの例は、ワイドチューブ丸編み、ナローチューブ丸編みジャカード、シングルニット丸編みジャカード、ダブルニット丸編みジャカード、経編みトリコット、経編みラッセルおよびダブルニードルバーラッセルを含む。
【0030】
ニット構成要素40の製造に横編みプロセスを利用する利点は、上記説明した特徴のそれぞれを横編みプロセスによりニット構成要素40に付与できることである。すなわち、横編みプロセスは、例えば、(a)アッパー30の個別の区域に異なる特性を付与する様々なニットの種類、(b)アッパー30の個別の区域に異なる特性を付与するさまざまなヤーンの種類、(c)チューブ42に重複ニット層の構成を備えるニット構成要素、(d)チューブ42に載置されるストランド43などの材料、(e)カラー45に重複ニット層の構成を備えるニット構成要素、および(f)カラー45にニット材料の層間のフローティングヤーンを有するようにニット構成要素40を形成してもよい。また、これらの特徴および他の特徴のそれぞれを、1回の横編みプロセスでニット構成要素40に組み込んでもよい。このように、横編みプロセスを利用して、履物10に有利なさまざまな特性および構造的な特徴を有するアッパー30を実質的に形成してもよい。
【0031】
1本以上のヤーンを個人が機械的に操作してニット構成要素40を形成してもよい(つまり、ニット構成要素40は手で形成してもよい)が、横編み機は比較的大量のニット構成要素40を形成する効率的な方法を提供するであろう。横編み機は、足の長さおよび幅の一方または両方に基づいて、サイズの異なる履物に適したアッパー30を形成するためにニット構成要素40の寸法を変えるためにも利用してもよい。さらに、横編み機は、左右両足に適したアッパー30を形成するために、ニット構成要素40の構成を変えるために利用してもよい。ニット構成要素40のさまざまな側面は、個人に合わせたカスタムフィットを提供するためにも変えてもよい。したがって、機械的な横編み機の使用は、異なるサイズおよび構成を有する複数のニット構成要素40を形成する効率的な方法を提供するであろう。
【0032】
ニット構成要素40は、一体ニット構造で形成されているさまざまな特徴および構造を組み込んでいる。一般に、特徴および構造は、横編みプロセスの後に行われる他のプロセス(例、縫製、接着、成形)というより、横編みプロセスでニット構成要素40に組み込まれるときに一体ニット構造で形成される。一実施例として、チューブ42およびカラー45の部分は重複して少なくとも部分的に同一の広がりをもつニット材料の層から形成されており、層の端部または縁部を他方の層に固定してもよい。2つのニット材料の層は一般に横編みプロセス中に形成され、補足的な縫製、接着または成形プロセスを伴わない。そのため、重複層は横編みプロセスで一体ニット構造で形成される。別の実施例として、開口41を画成するニットの種類から形成されているニット構成要素40の領域は、横編みプロセスから一体ニット構造で形成される。さらに別の実施例として、フローティングヤーン46は一体ニット構造で形成されている。
【0033】
ニット構成要素40を形成するのに横編みプロセスを利用するさらなる利点は、アッパー30に三次元の性質を組み込めることである。アッパー30は足の周りに延びて足の形状に適合する曲面またはその他三次元構造を有している。例えば、横編みプロセスは、足の形状を補完するために、ある程度の湾曲を備えているニット構成要素40の区域を形成してもよい。三次元の性質を有する履物のアッパー用のニット構成要素の例は、Duaらに付与された特許文献3に見られ、参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
図6および
図7において、ニット構成要素40およびポリマー層50は履物10から分離して図示されている。多くの布地材料の縁を切断すると、布地材料を形成するヤーンの端部が露出するが、ニット構成要素40は仕上げ構成を有するように形成してもよい。すなわち、横編みまたは他の編み技法を利用して、ニット構成要素40内のヤーンの端部がニット構成要素40の縁部に実質的に存在しないように、ニット構成要素40を形成してもよい。横編みにより形成される仕上げ構成の利点は、ニット構成要素40の縁部を形成するヤーンがほどけにくいことであり、これは横編み材料に内在する問題である。仕上げ縁部を形成することにより、ニット構成要素40の完全性が強化されて、ほどけるのを防止するために必要な後処理ステップが少なくなり、または不要になる。さらに、緩いヤーンはアッパー30の美観も損ねにくい。言い換えると、ニット構成要素40の仕上げ構成は、製造効率を高めながら、アッパー20の耐久性および美的品質を向上させるであろう。
【0035】
ニット構成要素40は、履物10のアッパー30に適した構成の一実施例を提供する。例えば、履物製品の意図する用途、履物製品の所望の特性、履物製品の有利な構造的な属性に応じて、ニット構成要素40と同様なニット構成要素を、所望の特性を有するように横編みで形成してもよい。すなわち、横編みを利用して、(a)ニット構成要素の所望の区域に特定のニットの種類を配置する、(b)ニット構成要素の所望の区域に特定のヤーンの種類を配置する、(c)ニット構成要素の所望の区域にチューブ42およびカラー45と同様な重複ニット層を形成する、(d)ニット層間にストランド43およびフローティングヤーン46と同様なストランドまたはフローティングヤーンを配置する、(e)ニット構成要素に三次元の性質を形成する、および(f)仕上げ縁を付与するようにしてもよい。より具体的には、例えば、上記述べた特徴のいずれもニット構成要素内に加味および適合させて、履物のアッパーに特定の特性または構造的な属性を形成してもよい。
【0036】
ポリマー層の構成
ポリマー層50はニット構成要素40に隣接して置き、ニット構成要素40に固定されてアッパー30の外面を形成している。例えば、ポリマーフィルム、ポリマーメッシュ、ポリマーパウダー、および不織布地を含め、多様な構造をポリマー層50に利用してもよい。これらの構造のいずれかとともに、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエステル・ポリウレタン、ポリエーテル・ポリウレタンおよびナイロンを含め、多様なポリマー材料をポリマー層50に利用してもよい。ポリマー層50は熱硬化性ポリマー材料から形成してもよいが、ポリマー層50の多くの構成は熱可塑性ポリマー材料(例、熱可塑性ポリウレタン)から形成されている。一般に、熱可塑性ポリマー材料は加熱すると溶け、冷却すると固体状態に戻る。より具体的には、熱可塑性ポリマー材料は十分な熱を受けると固体状態から軟化した状態または液体状態に遷移し、さらに熱可塑性ポリマー材料は十分に冷却すると軟化した状態または液体状態から固体状態に遷移する。このように、熱可塑性ポリマー材料は複数のサイクルを通して溶融し、成形し、冷却し、再溶融し、再成形し、再び冷却してもよい。熱可塑性ポリマー材料は、以下詳細に説明するように、ニット構成要素40などの布地要素に溶着または熱接着してもよい。多くの熱可塑性ポリマー材料をポリマー層50に利用してもよいが、熱可塑性ポリウレタンを利用する利点は熱接着および着色可能性に関係する。さまざまな他の熱可塑性ポリマー材料(例、ポリオレフィン)と比較して、熱可塑性ポリウレタンは、以下詳細に説明するように、他の要素に比較的接着しやすく、さまざまな従来のプロセスにより熱可塑性ポリウレタンに着色剤を添加してもよい。前述したように、ポリマー層50は不織布地から形成してもよい。ニット構成要素40に接着してもよい熱可塑性ポリマーフィラメントを使用した不織布地の例が、Duaらに付与された特許文献4に開示されており、参照によりこれに組み込む。
【0037】
ポリマー層50を形成する熱可塑性ポリマー材料は、ポリマー層50をニット構成要素40に固定するために利用してもよい。上記説明したように、熱可塑性ポリマー材料は加熱すると溶け、十分に冷却すると固体状態に戻る。熱可塑性ポリマー材料のこの特性に基づいて、熱接着プロセスを利用して、ポリマー層50の部分をニット構成要素40に接合するサーマルボンドを形成してもよい。本明細書で使用する場合、「熱接着」という用語およびその変形語は、冷却したときに要素の材料を互いに固定するように、要素の少なくとも1つの中に熱可塑性ポリマー材料を軟化または溶融することに関わる2要素間の固定技術と定義される。同様に、「サーマルボンド」という用語およびその変形語は、冷却したときに要素の材料を互いに固定するように、要素の少なくとも1つの中に熱可塑性ポリマー材料を軟化または溶融することに関わるプロセスにより2要素を接合するボンド、リンクまたは構造として定義される。実施例として、熱接着は、(a)熱可塑性ポリマー材料をニット構成要素40の材料と混ぜ合わせて、冷却したときに一緒に固定されるように、ポリマー層50を溶融または軟化すること、および(b)熱可塑性材料をニット構成要素40の構造に延ばして、または浸透させて(例、ニット構成要素40のフィラメントもしくはファイバの周りに延ばす、またはフィラメントもしくはファイバと接着する)、冷却したときに要素を一緒に固定するように、ポリマー層50を溶融または軟化することに関わってもよい。さらに、熱接着は一般に縫製または接着剤の使用を伴うのではなく、熱により要素を互いに直接接着することに関わる。しかし、ある状況においては、サーマルボンドまたは熱接着による要素の接合を補足するために、縫製または接着剤を利用してもよい。要素を接合し、またはサーマルボンドを補足するために、ニードルパンチプロセスも利用してもよい。
【0038】
製造プロセス
アッパー30の製造には、多様な方法を利用してもよい。一般に、ニット構成要素40は上記説明した編みプロセスにより製造される。それからポリマー層50をニット構成要素40に固定(例、接着または熱接着)する。例えば、ニット構成要素40およびポリマー層50を、要素を圧縮して加熱するヒートプレスの部分間に配置して、それにより一緒に接着してもよい。いくつかの構成では、ポリマー層50は、ニット構成要素40とともに圧縮加熱されるポリマー材料のシートまたはフィルムであってもよい。別の構成では、ポリマー層50は、ニット構成要素40とともに圧縮加熱される不織布地要素であってもよい。圧縮加熱は不織布布地要素を溶かして、ニット構成要素40の外側にポリマーフィルムを形成してもよく、または不織布地要素の部分を繊維性のまま残して、透湿性または通気性を付与してもよい。不織布地要素に関する詳細は、Duaらに付与された特許文献4に見られ、参照によりこれに組み込む。さらに別の構成では、ポリマー層50はニット構成要素40とともに圧縮加熱するポリマーパウダーであってもよく、圧縮加熱がパウダーを溶かして、ニット構成要素40の外面にポリマーフィルムを形成してもよい。別の実施例として、ポリマー樹脂をニット構成要素40に吹き付け、またはその他の方法で塗布して、ポリマー層50を形成してもよい。したがって、ニット構成要素40およびポリマー層50の組み合わせを形成するためにさまざまな方法を利用してもよい。
【0039】
さらなる構成
上記説明したアッパー30の特徴は、ニット構成要素40およびポリマー層50の両方を含めて、履物10に適した構成の一実施例を提供する。多様な他の構成も利用してもよい。一実施例として、
図8Aに、チューブ42およびストランド43がニット構成要素40にない構成を図示している。ポリマー層50はニット構成要素40の実質的に全部の上に延びていてもよく、アッパー30の外面の大部分を形成するように図示されているが、ニット構成要素40の複数の部分を露出させるために、ポリマー層50がさまざまな区域で存在しなくてもよい。例えば、
図8Bは、ポリマー層50が主に中足領域12に配置されて、領域11および13の両方でニット構成要素40を露出させている構成を図示している。さらなる構成では、ポリマー層50は他の区域で存在しなくてもよい。一実施例として、
図8Cは、ニット構成要素40の複数の区域を露出させるアッパー30全体のさまざまな開口を画成している構成を図示している。ニット構成要素40のさまざまな特徴も変えてもよい。ニット構成要素40の変型のさらなる実施例は、Duaに付与された特許文献5に見られ、参照によりこれに組み込む。さらに、2011年3月15日に米国特許商標庁に出願され、ニット構成要素を組み込んだ履物製品(Article of footwear incorporating a knitted component)と題する米国特許出願番号第13/048,514号は、参照によりこれに組み込まれるが、これはニット構成要素40に利用してもよい追加構成を開示している。
【0040】
製造効率
例えば、従来の運動用の履物のアッパーは、それぞれが履物のさまざまな区域に異なる特性を付与する複数の材料要素から形成されてもよい。従来のアッパーを製造するためには、材料要素を所望の形状に切断してから、通常縫製または接着結合により互いに接合される。アッパーに組み込まれる材料要素の数および種類が増えるほど、材料要素を輸送、保管、切断および接合することに関連する時間および費用も増大するであろう。切断および縫製プロセスから出る廃材も、アッパーに組み込まれる材料要素の数および種類が増えるほど、より多く蓄積する。また、材料、材料要素および他の構成要素の数が多い履物は、少ない要素および材料から形成されているアッパーよりもリサイクルが難しくなるであろう。そのため、アッパーに利用される要素および材料の数を減らすことにより、アッパーの製造効率およびリサイクル性を高めながら廃棄物が減少するであろう。
【0041】
従来のアッパーは複数の材料要素を伴う多様な製造ステップを必要とするが、アッパー30は、(a)ニット構成要素40用の横編みプロセス、および(b)ポリマー層50を固定するための接着プロセスの組み合わせにより形成してもよい。横編みプロセスおよび接着プロセスの後、ニット構成要素40およびポリマー層50を履物10に組み込むのに比較的少数のステップを要する。より具体的には、ストローベル式中敷き34をニット構成要素40の縁部に接合し、かかと領域13の2つの縁部を接合し、締めひも32を組込み、実質的に完成したアッパー30をソール構造20に固定する。従来の製造プロセスと比較して、ニット構成要素40およびポリマー層50の使用は製造ステップの総数を減らすであろう。さらに、リサイクル性を高めつつ、廃棄物が減少するであろう。
【0042】
本発明をさまざまな構成を参照して上記および添付の図面で開示している。しかし、開示が果たす目的は、本発明に関係するさまざまな特徴および概念の実施例を提供することであり、本発明の範囲を制限することではない。当業者は、添付の請求項で定義される本発明の範囲を逸脱することなく、上記説明した構成に複数の変型および変更を行えることは認識するであろう。