(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記軸方向に離間する前記基台の複数の箇所において、前記軸方向に直交する方向であって、前記プロテクタ基材の装着位置とは反対方向に引張力(Y)を付与することを特徴とする請求項1に記載の金属部材用プロテクタの製造方法。
前記プロテクタ基材が装着された前記基台の直線性が維持されるように、前記引張力(X)および前記引張力(Y)を調整することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属部材用プロテクタの製造方法。
前記プロテクタ基材の他面と前記基台の周面との前記軸方向の摺動を許容した状態で、前記プロテクタ基材を前記基台に装着することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の金属部材用プロテクタの製造方法。
前記プロテクタ基材の装着位置の反対側が凸になるような基台の撓み状態が維持されるように、前記引張力(Y)を調整することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属部材用プロテクタの製造方法。
前記プロテクタ基材が装着された前記基台の両端部以外の部分を支持体により支持しながら、前記溶射被膜を再溶融処理することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載の金属部材用プロテクタの製造方法。
【背景技術】
【0002】
石炭焚ボイラ、ごみ焼却ボイラ、流動床ボイラなどにおいて、燃焼煤塵や流動媒体などによるボイラ部品の磨耗(エロージョン)が問題となる。また、ボイラにおける燃焼温度の高温化などに伴い、ボイラ部品の腐食(コロージョン)も問題となっている。
【0003】
ボイラ部品であるボイラチューブを磨耗や腐食から保護するための手段として、
図6に示すような半円筒形のプロテクタ1(ボイラチューブプロテクタ)が知られている。
【0004】
図7は、
図6に示すプロテクタ1がボイラチューブ2に取り付けられている状態を示している。
図7に示すように、プロテクタ1は、磨耗・腐食環境に曝されるボイラチューブ2の保護対象面3を覆うように被せられ、その両端部において、取付け治具5(保護対象面3と反対側のボイラチューブ2の外周面4に当接される半円環状の取付け治具)に溶接されることによりボイラチューブ2に取付けられている。
図7(B)において、Wは溶接部である。
【0005】
図6および
図7に示したプロテクタ1は、ステンレスなどの金属材料からなる。また、かかるボイラチューブプロテクタの外周面にセラミックの溶射被膜を形成することにより、耐摩耗性および耐腐食性を向上させることが提案されている(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のプロテクタのように、セラミックの溶射被膜を形成してなるボイラチューブプロテクタは、プロテクタ基材(金属材料)に対する溶射被膜(セラミック)の密着性が十分ではなく、また、十分な膜厚で耐久性の良好な溶射被膜を形成することができない。
【0008】
そこで、本発明者は、耐摩耗性および耐食性に優れているとともに、金属材料との密着性が良好で、厚膜形成も可能である自溶合金層(溶射−再溶融処理による被膜)をプロテクタ基材の外周面に形成することについて検討を行った。
【0009】
しかしながら、半円筒形状のプロテクタ基材の外周面に自溶合金を溶射し、溶射被膜を再溶融処理(フェージング)したところ、
図8に示すように、得られたプロテクタ6は、外周面側が凸になるような撓みを生じて直線性に劣るものであった。
一例を示すと、長さ(L)が1mの半円筒形のプロテクタ基材の外周面に対して自溶合金を溶射し、溶射被膜を再溶融処理したところ、得られたプロテクタの撓み量(d)は0.5mm程度であった。このような撓みは、円筒状の基材(例えばチューブ自体)に形成した溶射被膜に対して再溶融処理を行う場合には生じないものである。
【0010】
このような撓みのあるプロテクタを直管状のボイラチューブに取り付けることは不可能またはきわめて困難である。
このような場合に、ボイラチューブへの取付け前または取付け時において、撓みのあるプロテクタにプレス加工などを行って機械的に矯正することも考えられるが、撓みの矯正作業は煩雑であり、また、撓みの矯正時に自溶合金の被膜が割れてしまうことがある。
なお、ボイラチューブに対してプロテクタが適正に取り付けられていない場合(例えば、ボイラチューブの外周面(保護対象面)からプロテクタの内周面が離間している場合)には、ボイラチューブによって十分に冷却されないためにプロテクタの温度が過大となり、その消耗速度が著しく増大することがある。
【0011】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の目的は、耐摩耗性および耐腐食性に優れているとともに、基材に対する被膜の密着性に優れ、撓みが小さくて直線性にも優れた金属部材用プロテクタを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記の目的を達成するために、本発明の金属部材用プロテクタの製造方法は、板状のプロテクタ基材の一面に自溶合金を溶射処理して溶射被膜を形成する工程と、
前記プロテクタ基材の他面を、
角柱状の基台の周面に当接させることにより、前記プロテクタ基材を前記基台に装着し、前記プロテクタ基材が装着された前記基台に対して、その軸方向に引張力(X)を付与し、前記軸方向に直交する方向であって前記プロテクタ基材の装着位置とは反対方向に引張力(Y)を必要に応じて付与しながら、高周波誘導加熱によって前記溶射被膜を再溶融処理することにより、前記プロテクタ基材の一面に自溶合金層を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
(a)このような製造方法によれば、自溶合金の溶射被膜を再溶融処理することにより、耐摩耗性および耐腐食性に優れ、基材に対する密着性にも優れた被膜(自溶合金層)をプロテクタ基材の
一面に形成することができる。
【0014】
(b)また、
角柱状の基台にプロテクタ基材を装着した状態で溶射被膜の再溶融処理が施されるので、基台の有する撓み剛性によってプロテクタ基材が撓みにくくなり、得られるプロテクタの直線性が確保されやすくなる。
【0015】
(c)また、基台に対して軸方向の引張力(X)を付与することにより、プロテクタ基材の装着側が凸になるような基台(プロテクタ基材)の撓みが解消され、再溶融処理の際に、基台およびプロテクタ基材の直線性が維持される。
【0016】
(d)また、基台に対して軸方向の引張力(X)を付与することにより、自重によって下側(通常、プロテクタ基材の装着位置の反対側)が凸になるような基台(プロテクタ基材)の撓みが解消され、再溶融処理の際に、基台およびプロテクタ基材の直線性が維持される。
【0017】
(e)また、基台の半径方向(軸方向に直交する方向)であってプロテクタ基材の装着位置とは反対方向に引張力(Y)を付与することにより、再溶融処理の際に、プロテクタ基材の装着側が凸になるような基台およびプロテクタ基材の撓みを迅速に解消することができる。
【0018】
(f)また、基台の半径方向(軸方向に直交する方向)であってプロテクタ基材の装着位置とは反対方向に引張力(Y)を付与することにより、再溶融処理の際に、プロテクタ基材の装着位置の反対側が凸になるような基台およびプロテクタ基材の撓み状態(逆反り形状)を形成することができる。
そして、基台をこのような撓み状態(逆反り形状)にして再溶融処理することによれば、再溶融処理の際に基台およびプロテクタ基材の直線性を維持するだけでは直線性の良好なプロテクタを得ることができない場合であっても、形成した撓み状態(逆反り形状)によって、得られるプロテクタの直線性を十分に確保することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によれば、耐摩耗性および耐腐食性に優れ、基材に対する被膜(自溶合金層)の密着性に優れ、撓みが小さくて直線性にも優れた金属部材用プロテクタを確実に製造することができる。得られたプロテクタは、例えば、燃焼室の内壁を構成するボイラ部品を保護するライニング材(ボイラ部品プロテクタ)などとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態および後述する第2実施形態乃至第4実施形態では、金属管材用プロテクタであるボイラチューブプロテクタを製造する方法について説明する。
【0022】
<第1実施形態>
本実施形態の製造方法は、半円筒形のプロテクタ基材の外周面に自溶合金の溶射被膜を形成する工程(溶射工程)と、このプロテクタ基材を基台に装着し、この基台に対して、その軸方向に引張力(X)を付与し、必要に応じて、基台の半径方向であってプロテクタ基材の装着位置とは反対方向に引張力(Y)を付与しながら、プロテクタ基材の外周面に形成された溶射被膜を再溶融処理して自溶合金層を形成する工程(再溶融工程)とを含む。
本実施形態で使用されるプロテクタ基材は半円筒形(円筒を半割りした形状)を有し、その外径は、通常25〜80mmとされ、その肉厚は、通常5〜10mm程度とされる。プロテクタ基材の長さは、通常30cm以上とされ、好ましくは1m以上、更に好ましくは1.5m以上とされる。30cm以上の基材を使用する場合において、本発明の製造方法は特に効果的である。
プロテクタ基材を構成材料としては、ステンレス、炭素鋼、CrMo鋼などの低合金鋼、鋳鉄などの金属材料を挙げることができる。
【0023】
溶射工程において、プロテクタ基材の外周面には自溶合金が溶射されて溶射被膜が形成される。本発明の製造方法で使用する自溶合金としては、金属材料(基材)に、耐摩耗性および耐食性を付与しうる公知の自溶合金を挙げることができるが、好ましい自溶合金として、Bの割合が1〜5質量%、Siの割合が1〜5質量%、Crの割合が10〜40質量%、Moの割合が0.0〜4質量%、Cの割合が1質量%以下であるNi基合金を挙げることができる。
溶射処理方法としては、従来公知の方法を採用することができる。なお、必要に応じて、被処理面にショットブラストなどの表面洗浄処理を施してもよい。
【0024】
プロテクタ基材の外周面に形成された溶射被膜は1000〜1100℃程度の温度で再溶融して緻密な被膜(自溶合金層)となり、その耐久性(耐摩耗性・耐食性)が更に向上する。ここに、本実施形態の製造方法により形成される自溶合金層の厚さとしては、通常0.5〜5mmとされる。
【0025】
再溶融工程(溶射被膜の再溶融処理)は、
図1に示すような装置を使用し、この装置を構成する円柱状の基台20に、溶射被膜11Aが形成されたプロテクタ基材10を装着した状態で行われる。
図1において、30は、基台20の両端部を摺動自在に支持する支持体、40は、引張ワイヤ40Wを介して基台20を軸方向に引張する引張手段、50は、軸方向に離間する三箇所(20a,20b,20c)において、引張ワイヤ50Wを介して基台20を下側に引張する引張手段、60は、溶射被膜11Aの加熱手段である半円筒形の高周波コイルである。
【0026】
図1に示すように、基台20は、その軸方向が水平になるように、その両端部が支持体30,30によって支持されている。ここに、基台20は、支持体30,30に対して、軸方向に摺動自在である。基台20の長さとしては、プロテクタ基材10の長さより0.4〜1m程度長いことが好ましい。基台20の構成材料としては、例えば炭素鋼を挙げることができる。
【0027】
プロテクタ基材10は、その内周面を基台20の外周面(上側の半周面)に当接させた状態で、基台20の外周面に対してスポット溶接により仮止め固定されている(互いに当接するプロテクタ基材10の内周面と、基台20の外周面とは、実質的に同じ曲率である)。
図1においてSは溶接部である。これにより、プロテクタ基材10は基台20と一体的に挙動し、再溶融処理の際には、同一の形状(直線または撓み形状)を維持することができる。
そして、基台20にプロテクタ基材10を装着した状態で再溶融処理が行われることにより、円柱状の基台20の有する高い撓み剛性によってプロテクタ基材10が撓みにくくなり、この結果、得られるプロテクタの直線性が確保されやすくなる。
【0028】
本実施形態において、溶射被膜11Aの再溶融処理は、基台20の軸方向(水平方向)に移動する高周波コイル60による誘導加熱によって行われる。これにより、電気炉などによる加熱では処理できない長さのプロテクタ基材であっても確実に処理して、プロテクタを製造することができる。
【0029】
また、本実施形態において、溶射被膜11Aの再溶融処理は、プロテクタ基材10が装着された基台20に対して、その軸方向に引張手段40による引張力(X)を付与し、必要に応じて、基台20の軸方向に離間する三箇所(20a,20b,20c)において、下方向(基台20の半径方向であって、プロテクタ基材10の装着位置とは反対方向)に引張手段50による引張力(Y)を付与することによって基台20およびプロテクタ基材10の直線性(水平度)を維持し、この状態で、高周波コイル60を軸方向(水平方向)に移動させることにより行われる。
【0030】
溶射被膜11Aの再溶融処理において、基台20に装着されたプロテクタ基材10は、単独で再溶融処理される場合と比較して撓みにくいものであるが、再溶融処理の際に、部分的に高温(1000℃以上)となる基台20(プロテクタ基材10)には、不可避的に撓みが生じる。
再溶融処理の際に生じる基台20の撓みとしては、上側(プロテクタ基材10の装着側)が凸になるような撓み、基台20の自重などにより下側(プロテクタ基材10の装着位置の反対側)が凸になるような撓みがある。
【0031】
そこで、本実施形態の製造方法では、プロテクタ基材10が装着されている基台20に対して、その軸方向に引張手段40による引張力(X)を付与する。これにより基台20の撓みを解消することができ、再溶融処理の際に、基台20およびプロテクタ基材10の直線性が維持される。
【0032】
さらに、基台20の軸方向に離間する三箇所(20a,20b,20c)の各々において、下方向に引張手段50による引張力(Y)を付与することにより、上側が凸になるような基台20の撓みを迅速に解消することができ、これにより、再溶融処理の際に、基台20およびプロテクタ基材10の直線性が維持される。
【0033】
再溶融工程の終了後、溶接部Sをグラインダなどで除去し、プロテクタ基材10の外周面に自溶合金層11Bが形成されてなるプロテクタが、基台20から取り外される。
【0034】
本実施形態の製造方法によれば、プロテクタ基材10を基台20に装着するとともに、プロテクタ基材10が装着されている基台20の直線性が維持されるように、引張力(X)および引張力(Y)を調整することにより、得られるプロテクタの直線性を向上させることができる。本実施形態の製造方法により得られたプロテクタの撓み量としては、通常±1mm以内であって寸法精度の高いものである。
【0035】
<第2実施形態>
本実施形態の製造方法は、再溶融工程において、第1実施形態で使用したものと同様の装置を使用し、
図2に示すように下側(プロテクタ基材10の装着位置の反対側)が凸になるような基台20の撓み状態(逆反り形状)が維持されるように、引張力(Y)を調整しながら、高周波コイル60を水平方向に移動させることにより、溶着被膜11Aを誘導加熱して自溶合金層11Bを形成する点に特徴がある。
【0036】
本発明者らが検討したところ、プロテクタ基材10の材質によっては、再溶融処理の際に基台20の直線性を維持するだけでは、直線性の良好なプロテクタを得ることができない場合があった。
そこで、このような場合(プロテクタ基材10の材質)において、基台20(プロテクタ基材10)を
図2に示したような撓み状態(逆反り形状)とし、この状態を維持しながら、溶射被膜11Aを再溶融処理したところ、直線性の優れたプロテクタを得ることができた。本実施形態の製造方法は、このような知見に基づくものである。
【0037】
このような撓み状態(逆反り形状)は、例えば、基台20の中央に位置する部位20bに対する引張力(Y)を、他の部位20a,20cに対する引張力(Y)より大きくすることにより形成することができる。
ここに、逆反り形状における撓み量としては、例えば、プロテクタ基材10の長さの−0.01〜−1.0%とされる。
【0038】
<第3実施形態>
本実施形態の製造方法は、再溶融工程において
図3に示すような装置を使用することにより、プロテクタ基材10の内周面と、基台20の外周面との軸方向の摺動を許容した状態で、プロテクタ基材10を基台20に装着し、この基台20の直線性が維持されるように、引張力(X)および引張力(Y)を付与しながら、高周波コイル60を軸方向(水平方向)に移動させることにより、溶着被膜11Aを誘導加熱して自溶合金層11Bを形成する点に特徴がある。
【0039】
図3において、70は、プロテクタ基材10を基台20に装着させるためのガイド部材である。
図3に示す装置においては、12個〔
図3(A)に図示されている6個と、これらと同じ軸方向位置で紙面の反対側に位置する
図3(A)には図示されていない6個)〕のガイド部材70が、基台20の外周面に溶接により固定されることによって配置されている。
図3(B)において、Wは溶接部である。
なお、ガイド部材70の固定方法としては溶接に限定されず、例えばネジ止めによって固定することもできる。
【0040】
図3(B)に示すように、ガイド部材70は、金属板をL字状に折り曲げて形成されている。なお、プロテクタ基材10の外周面に当接するガイド部材70の内周面は、プロテクタ基材10の外周面形状に沿って湾曲している。
プロテクタ基材10は、その両側部101,102が、基台20の外周面と、ガイド部材70の内周面との間に緩く挟持され、軸方向には移動(スライド)可能であるが、半径方向(上下方向)には移動できない(プロテクタ基材10の内周面が、基台20の外周面から離間できない)状態で基台20に装着されている。この場合においても、プロテクタ基材10は基台20と一体的に挙動し、再溶融処理の際に、同一の形状(直線または撓み形状)を維持することができる。
【0041】
本実施形態の製造方法によれば、プロテクタ基材10と基台20とが線膨張率が異なる異種の金属材料から構成される場合であっても、再溶融処理時においてプロテクタ基材10の内周面と基台20の外周面とを軸方向に摺動させることにより、線膨張率の差に起因する問題(溶融処理時にプロテクタ基材10が基台20から脱着したり、再溶融処理後にプロテクタ基材10に応力が残留したりする問題)を回避することができる。
また、本実施形態の製造方法によれば、プロテクタ基材10の装着操作、プロテクタの脱着操作が容易で、生産性に優れている。
【0042】
なお、プロテクタ基材10の外周面に形成されている溶着被膜11Aのうち、ガイド部材70の内周面が接触している部分の溶着被膜については、これを再溶融させることができないが、プロテクタの両側部101,102は相対的に消耗されにく部分であるために、通常問題とならない。また、本実施形態の製造方法により得られたプロテクタをボイラチューブに取り付ける際に、再溶融されなかった部分を、取付け治具(
図7参照)との溶接部とすることもできる。
【0043】
<第4実施形態>
本実施形態の製造方法は、再溶融工程において
図4に示すような装置を使用し、長尺のプロテクタ基材10Lが装着された基台20Lの中央部分を支持体33により摺動自在に支持するとともに、引張力(X)および引張力(Y)を付与しながら、高周波コイル60を軸方向(水平方向)に移動させることにより、プロテクタ基材10Lの外周面上の溶着被膜11Aを誘導加熱して自溶合金層11Bを形成する点に特徴がある。
ここに、本実施形態で使用するのに好適な長尺のプロテクタ基材10Lの長さとしては、通常1m以上とされ、好ましくは1〜10mとされる。
また、本実施形態で使用する装置を構成する基台20Lの長さとしては、プロテクタ基材10Lの長さより0.5m以上長いことが好ましい。
【0044】
長尺のプロテクタ基材10Lを基台20Lに装着するための手段(図示省略)としては、両者の熱膨張率の差による影響が大きいことを考慮して、
図3に示したようなガイド部材(70)を採用し、プロテクタ基材10Lの内周面と基台20Lの外周面との軸方向の摺動を許容した状態で、プロテクタ基材10Lを基台20Lに装着することが好ましい。 本実施形態の製造方法によれば、自重によって下側が凸になるような基台20L(プロテクタ基材10L)の撓みを支持体33によって防止することができ、これにより、直線性に優れた長尺のプロテクタを製造することができる。
なお、
図4には、基台20Lの両端部以外の部分を支持する支持体33は1つであったが、そのような支持体を2つ以上設けることも可能である。この場合において、支持体の配置間隔としては1.0〜2.0mであることが好ましい。
【0045】
<第5実施形態(ボイラ部品プロテクタの製造方法)>
本実施形態の製造方法は、金属部材用プロテクタであるボイラ部品プロテクタを製造する方法であって、板状のプロテクタ基材の一面に自溶合金を溶射処理して溶射被膜を形成する工程(溶射工程)と、
図5に示したような装置を使用し、プロテクタ基材15の他面を、角柱状の基台25の周面(上面)に当接させることにより、プロテクタ基材15を基台25に装着し、この基台25に対して、その軸方向に引張手段40による引張力(X)を付与し、必要に応じて、基台25の軸方向に離間する三箇所(25a,25b,25c)において下方向(軸方向に直交する方向であって、プロテクタ基材15の装着位置とは反対方向)に引張手段50による引張力(Y)を付与することによって基台25およびプロテクタ基材15の直線性(水平度)を維持しながら、高周波コイル65を軸方向(水平方向)に移動させて溶射被膜11Aを再溶融処理することにより、プロテクタ基材15の一面に自溶合金層11Bを形成する工程(再溶融工程)とを含む。
【0046】
再溶融工程(溶射被膜の再溶融処理)は、
図5に示すような装置を使用し、この装置を構成する角柱状の基台25に、溶射被膜11Aが形成されたプロテクタ基材15を装着した状態で行われる。
図5において、35は、基台25の両端部を摺動自在に支持する支持体、65は、溶射被膜11Aを再溶融させるための加熱手段としての半角筒状の高周波コイル、75は、プロテクタ基材15を基台25に装着させるためのガイド部材である。
図5に示す装置においては、12個〔
図5(A)に図示されている6個と、これらと同じ軸方向位置で紙面の反対側に位置する
図5(A)には図示されていない6個)〕のガイド部材75が、基台20の外周面に溶接により固定されることによって配置されている。
図5(B)において、Wは溶接部である。なお、ガイド部材75の固定方法としては溶接に限定されず、例えばネジ止めによって固定することもできる。
【0047】
図5(B)に示すように、ガイド部材75は、金属板をL字状に折り曲げて形成されている。プロテクタ基材15は、その両側部151,152が、基台25の上面と、ガイド部材75の内周面との間に緩く挟持されることにより、軸方向には移動(スライド)可能であるが上下方向には移動できない(プロテクタ基材15の他面が、基台25の上面から離間できない)状態で基台25に装着されている。
【0048】
本実施形態の製造方法によれば、耐摩耗性および耐腐食性に優れ、プロテクタ基材15に対する被膜(自溶合金層11B)の密着性に優れ、撓みが小さくて直線性にも優れたボイラ部品プロテクタを確実に製造することができる。
本実施形態の製造方法により得られたプロテクタは、例えば、燃焼室の内壁を構成するボイラ部品を保護するライニング材などとして好適に使用することができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の製造方法は、これらに限定されるものではない。
また、本発明の製造方法によって得られるプロテクタは、ボイラチューブプロテクタやボイラ部品プロテクタに限定されるものではなく、例えば、ボイラ以外の熱交換器、化学プラント、船舶などを構成する各種配管および金属部材を保護するためのプロテクタとして好適に使用することができる。