【0016】
本発明の鉛蓄電池用蓋の一実施態様の概略を
図1〜6に示した。以下、これらの図を参照して本発明の鉛蓄電池用蓋を説明する。本発明の鉛蓄電池用蓋(1)は、合成樹脂により形成されている。合成樹脂としては、例えば、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂、PP(ポリプロピレン)樹脂、PPE(ポリフェニレンエーテル)樹脂等が挙げられる。
図1は、本発明の鉛蓄電池用蓋の一実施態様の概略を示した要部断面図である。
図1に示されているように、該鉛蓄電池用蓋(1)の一部分には、該蓋(1)の内外面(裏表面)(1b、1a)に対して略垂直な方向に、鉛又は鉛合金から成る筒状ブッシング(2)、及び、前記筒状ブッシング(2)に接して該ブッシング(2)を略同心円状に取り囲む合成樹脂製の筒状壁(3)が備えられている。鉛又は鉛合金から成る筒状ブッシング(2)は、該合成樹脂製の筒状壁(3)の内面に接するようにしてインサート成形することにより設けられている。また、筒状ブッシング(2)には、極柱を挿通するために開口部(2a)が設けられている。ここで、鉛又は鉛合金から成る筒状ブッシング(2)と合成樹脂製の筒状壁(3)とは、好ましくは、
図1に示されているように、筒状ブッシング(2)の下部外周に、環状凹凸部を上下方向に複数段に形成せしめ、筒状壁(3)には、それに対応する環状凹凸部を形成して、両者を噛み合わせて密着させるようにして構成されている。そして、このようにして密着させることにより、電槽内の電解液が、ブッシング(2)と合成樹脂製の筒状壁(3)との間に侵入することを防止している。
【0020】
本発明の鉛蓄電池用蓋は、蓋(1)の内面(裏面)(1b)であって、かつ、合成樹脂製の筒状壁(3)の外側に、電槽内部方向に突出した合成樹脂製の隆起部(8)を更に備えることができる。該合成樹脂製の隆起部(8)は、筒状壁(3)の外側に筒状壁(3)に接して又は筒状壁(3)から離れて、前記筒状ブッシング(2)に対して略同心円状に環状又は円弧状、好ましくは環状に備えられている。
図1に示すように、隆起部(8)は筒状壁(3)と一体化されており、かつ、蓋(1)の外面に存在する環状リブ(7)と一体化されて、これらが一緒になって端子封孔部域(4)を構成している。隆起部(8)を備える態様(
図1)においては、突起部(6)は、隆起部(8)上に、電槽内部方向に突出するようにして備えられる。隆起部(8)上に突起部(6)を設けることにより、筒状壁(3)に発生した亀裂が蓋に拡大していくことを効果的に抑制し得る。また、突起部(6)は、蓋(1)の外面に存在する環状リブ(7)の位置より、極柱側、即ち、筒状壁(3)に近い位置に備えられていることが好ましい。これにより、突起部(6)が、端子封孔部域(4)に充填された接着剤との相互作用により、より一層亀裂の拡大を抑制し得る。ここで、環状の隆起部(8)及び突起部(6)は、通常、該蓋(1)全体を成形する際に、筒状壁(3)及び環状リブ(7)と一緒に、同一の合成樹脂材料により一体的に成形される。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
図1〜6に記載されている鉛蓄電池用蓋と同様の蓋(1)を作製した。鉛から成る筒状ブッシング(2)をPP(ポリプロピレン)樹脂を使用してインサート成形して、蓋(1)とそれに備えられている筒状壁(3)、環状の隆起部(8)、環状の突起部(6)及び環状リブ(7)を一体的に成形して、本発明の鉛蓄電池用蓋(1)を作製した。該鉛蓄電池用蓋(1)の各寸法は下記の通りである。突起部(6)を、前記筒状ブッシング(2)の中心線を含む平面で垂直に切断したときの断面形状は三角形であった。
【0024】
蓋の寸法;縦(l):300mm、横(w):170mm、高さ(h):50mm(
図4参照)
筒状ブッシング(2)の内径(開口部直径)(a):42mm、筒状ブッシング(2)の最大外径(d):52mm
筒状壁(3)の外径(b):58mm、筒状壁(3)の長さ方向の全長(c):25mm
突起部(6)の寸法;極柱の中心からの先端部までの距離(e):32mm、高さ(f):10mm(筒状壁(3)の長さ方向の全長(c)の40%)、厚み(付け根部分)(g):2mm
隆起部(8)の寸法;極柱の中心から端部までの距離(i):37mm、蓋内面から突出した高さ(j):5mm
環状リブ(7)の寸法;極柱の中心から端部までの距離(i):37mm、蓋外面から突出した高さ(m):4mm、厚み(n):2mm
【0025】
次いで、該蓋(1)に備えられた、2箇所の筒状ブッシング(2)の開口部(2a)に、夫々、正極及び負極の極柱を挿通して、電槽に固定しかつ各極柱の外周面と各筒状ブッシング(2)の上端近傍とを溶接した。次いで、該蓋(1)の外面(1a)に設けられている各端子封孔部域(4)にプライマー液を塗布した後、エポキシ樹脂系接着剤を充填して固化し、極柱(端子部)と環状リブ(7)との間を封口して鉛蓄電池を作製した。
【0026】
(実施例2)
突起部の高さ(f)を25mm(筒状壁(3)の長さ方向の全長(c)の100%)とした以外は、実施例1と同一にして鉛蓄電池を作製した。
【0027】
(実施例3)
蓋(1)と一体的に備えられている筒状壁(3)の外面の相対向する位置にスリットを夫々1本、合計2本設けた以外は、実施例1と同一にして鉛蓄電池を作製した。ここで、前記スリットは、筒状壁(3)の長さ方向の全長(25mm)に亘って、幅1.0mm、深さ1.0mmで設けた。また、筒状壁(3)の長さ方向に垂直な面で切断したときのスリットの断面形状は略二等辺三角形であった。
【0028】
(実施例4)
環状の突起部(6)を設けず、蓋(1)と一体的に備えられている筒状壁(3)の外面にスリットを2本設けた以外は、実施例1と同一にして鉛蓄電池を作製した。スリットの位置、並びに、寸法及び形状は、実施例3と同一とした。
【0029】
(実施例5)
環状の突起部(6)を設けず、蓋(1)と一体的に備えられている筒状壁(3)の外面にスリットを2本設けた以外は、実施例1と同一にして鉛蓄電池を作製した。スリットは、筒状壁(3)の最下部から上部(エポキシ樹脂系接着剤が充填された面を上部とする)に向かい長さ方向の半分(12.5mm)に亘って設けた以外は、スリットの位置、並びに、その他の寸法及び形状は、実施例3と同一とした。
【0030】
(実施例6)
環状の突起部(6)を設けず、蓋(1)と一体的に備えられている筒状壁(3)の外面にスリットを2本設けた以外は、実施例1と同一にして鉛蓄電池を作製した。スリットの幅を5.0mmとし、かつ、深さを2.0mmとした以外は、スリットの位置、並びに、その他の寸法及び形状は、実施例3と同一とした。
【0031】
(実施例7)
環状の突起部(6)を設けず、蓋(1)と一体的に備えられている筒状壁(3)の外面にスリットを8本設けた以外は、実施例1と同一にして鉛蓄電池を作製した。スリットの寸法及び形状は、実施例3と同一とした。また、スリットの位置は、筒状壁(3)の外面の相対向する位置に1本ずつ4組の合計8本を、各スリットの間隔が45度になるように設けた。
【0032】
(比較例1)
環状の突起部(6)を設けず、蓋(1)と一体的に備えられている筒状壁(3)の外面にスリットを1本設けた以外は、実施例1と同一にして鉛蓄電池を作製した。スリットの寸法及び形状は、実施例3と同一とした。
【0033】
(比較例2)
環状の突起部(6)を設けなかったこと以外は、実施例1と同一にして鉛蓄電池を作製した。
【0034】
上記のようにして作製した実施例1〜6及び比較例1〜2の鉛蓄電池を使用して、夫々の蓋の耐久性試験を実施した。
【0035】
耐久性試験は、放電を放電電流200Aで3時間行った後、充電を充電電流200Aでの定電圧充電を実施した。前記定電圧値は2.45Vとし、充電時間は8時間とした。この充放電を1サイクルとし、3,000サイクル実施した後、夫々の鉛蓄電池を解体し、蓋の裏面のブッシング(2)を略同心円状に取り囲む合成樹脂製の筒状壁(3)の亀裂の程度を目視によって確認した。前記亀裂の程度は、亀裂が拡大し蓋内面(蓋裏面)にまで達しているものをB、亀裂が蓋内面にまで達していないものをGとした。また、亀裂の本数も併せて目視により確認した。
【0036】
表1に、実施例1〜7及び比較例1〜2の鉛蓄電池について、突起部の有無、スリットの有無、スリット幅、スリット深さ、亀裂の程度、亀裂の本数を夫々示した。
【0037】
【表1】
*:表1において、突起部の高さの単位%は、筒状壁(3)の長さ方向の全長(25.0mm)を100%としたとき、突起部の高さを筒状壁(3)の長さ方向の全長に対する%で示したものである。
【0038】
耐久性試験の結果、実施例1〜7において亀裂は認められたが、その亀裂はいずれも僅かであり、蓋外面(蓋表面)にまで到達する危険性は全くなかった。これは、本発明の鉛蓄電池用蓋に設けられた突起部により、亀裂の拡大が抑制されたため、及び、本発明の鉛蓄電池用蓋の筒状壁に設けられたスリットにより、1本の亀裂にかかる応力が分散されて、亀裂の拡大が抑制されたためであると考えられる。実施例1及び2は、突起部(6)の高さを変えたものである。実施例1では、亀裂が突起部の頂部にまで達していたのに対して、実施例1より突起部(6)を高くした実施例2では、亀裂は突起部の頂部にまで達していなかった。このように、突起部の高さを高くすると亀裂の拡大をより抑制し得ることが分かった。実施例3は、実施例1にはないスリット(5)を筒状壁(3)に2本設けたものである。実施例1では亀裂が1本であったのに対して、実施例3では亀裂が2本となった。しかし、亀裂1本当たりの亀裂の程度は大幅に制限されていた。このように、スリット(5)を設けると亀裂の拡大を大幅に抑制し得ることが分かった。実施例4は、実施例3には備えられている突起部(6)を備えていないものである。実施例3及び4のいずれにおいても、生じた亀裂は全てスリット(5)で抑制されており、突起部(6)の存在の有無による亀裂抑制の効果の差異を確認し得るに至るものではなかった。しかし、スリット(5)に加え突起部(6)を設ければ、スリット(5)と突起部(6)との少なくとも総和以上の効果により、より一層亀裂の拡大を抑制し得ると推定される。実施例5は、実施例4に対してスリット(5)の長さを短くしたものである。発生した亀裂の程度に差異は見られなかった。このことから、実施例4及び5におけるスリット(5)の長さの相違においては、亀裂の拡大の抑制に大きな変化がないことが分かった。実施例6は、実施例4に対してスリット(5)の幅及び深さを大きくしたものである。発生した亀裂の程度に差異は見られなかった。このことから、実施例4及び6におけるスリット(5)の幅及び深さの相違においては、亀裂の拡大の抑制に大きな変化がないことが分かった。実施例7は、実施例4に対してスリット(5)の本数を4倍の8本にしたものである。実施例7では、発生した亀裂の本数は4本と多かったが、1本ごとの亀裂の程度は著しく小さいものであった。このように、スリットの本数を増やすと、亀裂の本数が増加して応力が分散され、それにより亀裂の拡大がより一層抑制されることが分かった。それ故、亀裂が蓋外面に到達する可能性は著しく抑制されると考えられる。
【0039】
一方、比較例1及び2においては蓋に大きな亀裂が生じており、その亀裂はいずれも蓋外面(蓋表面)にまで達するようなレベルであった。特に、スリットを1本とした比較例1では、亀裂は著しく発達しており、該亀裂はスリット部分から発生し拡大したものと考えられる。このようにスリットを1本のみ設けたときは、スリットはむしろ亀裂を誘発する原因となることが分かった。これに対して、実施例3〜7のように、スリットを2本以上設けたときには、筒状壁に亀裂が発生しても、スリット1本に応力が集中することなく、亀裂の拡大を抑制できることが分かった。
【0040】
実施例1〜7においては、蓋に環状の隆起部(8)を設けた鉛蓄電池用蓋の耐久性試験の例を示したが、
図7に示すような環状の隆起部(8)を有しない鉛蓄電池用蓋においても同様の結果が得られた。また、実施例3〜7においては、スリットを相対向する位置に設けた鉛蓄電池用蓋の耐久性試験の例を示したが、スリットの位置はこれに限定されることなく、合成樹脂製の筒状壁に、蓋の内外面に対して略垂直な方向にスリットを2本以上設けることで、同様の効果が得られた。