(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6012103
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月25日
(54)【発明の名称】ワイヤソー用多溝付きローラの溝加工方法
(51)【国際特許分類】
B24B 27/06 20060101AFI20161011BHJP
【FI】
B24B27/06 Q
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-240210(P2012-240210)
(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公開番号】特開2014-87902(P2014-87902A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000152675
【氏名又は名称】コマツNTC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083770
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 國男
(74)【代理人】
【識別番号】100148943
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 貴志
(72)【発明者】
【氏名】河津 知之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正法
【審査官】
小川 真
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−239889(JP,A)
【文献】
特開2008−126341(JP,A)
【文献】
特開2009−233779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
H01L 21/304
B28D 5/04
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
V溝加工後の複数の多溝付きローラを加工対象とし、前記複数の多溝付きローラをワイヤソーに取り付け、前記複数の多溝付きローラの間に固定砥粒付きワイヤを前記各多溝付きローラの多数のV溝に沿って低い張力のもとに螺旋状に巻き掛け、前記複数の多溝付きローラを異なる回転数のもとに回転させ、前記各多溝付きローラの周速度と前記固定砥粒付きワイヤの走行速度との間に速度差を与え、前記各多溝付きローラを所定の時間にわたって回転させた後に、前記複数の多溝付きローラの回転数の大小関係を転換し、かつ前記複数の多溝付きローラの回転方向を反転して、前記複数の多溝付きローラを所定の時間にわたって回転させ、前記固定砥粒付きワイヤの研削作用によって、前記V溝にU溝を形成する、ことを特徴とするワイヤソー用多溝付きローラの溝加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤソーの多溝付きローラの溝をワイヤソーおよび同じワイヤソーの固定砥粒付きワイヤにより加工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤソーは、加工用の複数の多溝付きローラ間に固定砥粒付きワイヤを多重に巻き掛けて、ワイヤ列を形成し、このワイヤ列の加工域に半導体インゴットなどのワークを押し当てながら加工送りし、ワークを多数のウエーハとして切断するときに利用される。固定砥粒付きワイヤは、多溝付きローラの独立した環状の多数の溝の内部に納められる。
【0003】
多溝付きローラの溝加工は、一般に工作機械を用い、旋削加工や研削加工によって行われる。溝の理想形は、固定砥粒付きワイヤの外れ防止、横振れのない安定な走行の観点から、多溝付きローラの外周面
において、溝の開口位置でテーパ面を有し、溝の両側面でローラの軸線に対して垂直な面となっており、さらに
溝の底面で固定砥粒付きワイヤの外形に適合する適度な深さのU字状の面として形成されていることである。しかし、上記のような理想形の溝加工は、旋削加工や研削加工によって不可能に近い。特に、固定砥粒付きワイヤの細線化にともなって、適切な深さのU字状の面の機械加工は、ますます困難な状況にある。
【0004】
このような背景のもとに、特許文献1は、専用の溝加工装置を用い、加工対象のローラを回転させるとともに、溝加工用ワイヤを走行させつつ加工対象のローラに押し当て、ローラの外周面に所定のピッチで多数の溝を形成する、ことを開示している。
【0005】
特許文献1の技術によると、専用の溝加工装置が必要とされること、溝加工用ワイヤとワイヤソーで用いられる溝加工用ワイヤとが相違していること、仮にそれらのワイヤが同一規格の製品であるとしても、ロットの違いによって、加工後の多数の溝がワイヤソーで用いられる溝加工用ワイヤに正確に適合しないこともある、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−126341公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、専用の溝加工装置を用いることなく、多溝付きローラの溝、特にU溝をワイヤソーで用いられる固定砥粒付きワイヤに正確に適合させ、理想的な形状の溝加工を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題のもとに、本発明は、溝加工にワイヤソーおよび同じワイヤソーの固定砥粒付きワイヤを用い、V溝加工後の複数の多溝付きローラを加工対象とし、これらの多溝付きローラをワイヤソーに取り付け、複数の多溝付きローラの間に固定砥粒付きワイヤを各多溝付きローラの多数のV溝に沿って低い張力のもとに螺旋状に巻き掛け、複数の多溝付きローラを異なる回転数のもとに回転させ、各多溝付きローラと固定砥粒付きワイヤとの間に速度差を与え、
さらに、所定の時間後に、多溝付きローラの回転数の大小関係の転換、および複数の多溝付きローラの回転方向の反転を行うことによって、V溝にU溝を
均一に形成している。
【0009】
具体的に記載すると、本発明に係るワイヤソー用多溝付きローラの溝加工方法は、V溝加工後の複数の多溝付きローラを加工対象とし、前記複数の多溝付きローラをワイヤソーに取り付け、前記複数の多溝付きローラの間に固定砥粒付きワイヤを前記各多溝付きローラの多数のV溝に沿って低い張力のもとに螺旋状に巻き掛け、前記複数の多溝付きローラを異なる回転数のもとに回転させ、前記各多溝付きローラの周速度と前記固定砥粒付きワイヤの走行速度との間に速度差を与え、
前記各多溝付きローラを所定の時間にわたって回転させた後に、前記複数の多溝付きローラの回転数の大小関係を転換し、かつ前記複数の多溝付きローラの回転方向を反転して、前記複数の多溝付きローラを所定の時間にわたって回転させ、前記固定砥粒付きワイヤの研削作用によって、前記V溝にU溝を形成する、ことを特徴としてい
る。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るワイヤソー用多溝付きローラの溝加工方法によると、U溝の加工過程でワイヤソーが利用されるから、溝加工に特別な加工機が必要とされず、ワイヤソーの機能が有効に活用でき、しかも溝加工後の多溝付きローラが溝加工に用いられた固定砥粒付きワイヤとともに同じワイヤソーで用いられるから、加工後のU溝が溝加工に用いられた固定砥粒付きワイヤに正確に適合し、理想的な形状の溝加工が可能となり、さらに溝加工後にワークの切断加工に移行するときに、多溝付きローラや固定砥粒付きワイヤの取り替え作業が必要とされず、省力化が達成でき
る。
【0011】
特に、本発明に係るワイヤソー用多溝付きローラの溝加工方法によると、複数の多溝付きローラの間で高速回転と低速回転とが転換されるから、それらの多溝付きローラでのU溝の深さに差異が現れにくく、多溝付きローラ間でのU溝の形成が均一となり、
さらに、回転の大小関係
の転換と同時に回転方向も変えられるから、多溝付きローラ間での溝加工の条件がさらに均等となり、多溝付きローラ間でのU溝の形成が一層均一とな
る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の前提となるワイヤソーの要部の平面図である。
【
図2】加工対象の多溝付きローラの一部拡大断面付きの側面図である。
【
図3】本発明に係るワイヤソー用多溝付きローラの溝加工方法にもとづいて加工対象の多溝付きローラをワイヤソーに取り付け、多溝付きローラ間に固定砥粒付きワイヤを巻き掛けた状態の平面図である。
【
図4】本発明に係るワイヤソー用多溝付きローラの溝加工方法にもとづいて加工対象の多溝付きローラをワイヤソーに取り付け、多溝付きローラ間に固定砥粒付きワイヤを巻き掛けた状態の正面図である。
【
図5】多溝付きローラの溝を示し、(1)はV溝の拡大断面図、(2)はV溝および溝加工後のU溝の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明に係るワイヤソー用多溝付きローラの溝加工方法の前提となるワイヤソー1の要部を示している。なお、図において、溝ピッチやワイヤピッチなどは、明示のために誇張して描かれており、また、ワイヤ巻き数は、作図上の限界から少なく表されている。
【0014】
図1のように、ワイヤソー1は、複数、例えば2本の駆動軸2、3を有しており、各駆動軸2、3は、各駆動モータ4、5により駆動され、これらの駆動モータ4、5は、制御装置11によって回転数制御すなわち速度制御される。なお、
2つの駆動軸2
および2つの駆動軸3は、同一軸線上で向き合っており、それぞれ軸受け17、18によって回転自在に支持されている部分とこれらを連結する中間の
平行な連結ボルト19、20とからなる。図示の例によると、中間の連結ボルト19、20は、それぞれ駆動軸2、3をねじ結合として一体化しているが、連結ボルト19、20を取り外すことによって、それぞれの駆動軸2、3は、同一軸線上で分離できるようになっている。
【0015】
本発明に係るワイヤソー用多溝付きローラの溝加工方法は、
図2に示すように、多溝付きローラ6、7を加工対象としている。これらの多溝付きローラ6、7は、予めV溝加工されており、外周面において環状で独立のV溝8、9を所定の等しい溝ピッチのもとに多数形成している。なお、一例としてV溝8、9は、多溝付きローラ6、7の軸線方向において、10mmの間に30本程度形成されている。
【0016】
そして本発明に係るワイヤソー用多溝付きローラの溝加工方法は、
図3および
図4に例示するように、加工対象の多溝付きローラ6、7をワイヤソー1の対応の駆動軸2、3に取り付け、
平行な多溝付きローラ6、7の間に、それぞれのV溝8、9に沿って固定砥粒付きワイヤ10を低い張力、例えば5N程度で螺旋状に巻き掛け、駆動モータ4、5の回転数制御によって一方の多溝付きローラ6と他方の多溝付きローラ7との間に異なる回転数を与え、この異なる回転数のもとで加工具としての固定砥粒付きワイヤ10を連続走行または往復走行させる。
【0017】
駆動軸2、3に対する多溝付きローラ6、7の取り付けは、両方の駆動軸2、3から連結ボルト19、20を抜き取った後に、一対の軸受け17、18の間に加工対象の多溝付きローラ6、7を配置し、駆動軸2、3の中心孔および多溝付きローラ6、7の中心孔に連結ボルト19、20を挿入し、一対の駆動軸2、3の円錐面で芯出ししながら多溝付きローラ6、7を挟み込み、連結ボルト19、20の先端のねじを対応の駆動軸2、3のねじ孔にねじ込むことによって行われる。
【0018】
また、固定砥粒付きワイヤ10は、例えばダイヤモンド砥粒付きのワイヤであり、
図4において、加工域となる上側の位置で、同じピッチ位置のV溝8、9に巻き掛けられているが、加工域とならない下側の位置で、或るV溝8から1ピッチ隣のV溝9に巻き掛けられるから、全体として螺旋状に巻き掛けられる。
【0019】
多溝付きローラ6、7に対する異なる回転数の設定によって、多溝付きローラ6のV溝8の周速度とV溝8に納まっている固定砥粒付きワイヤ10の走行速度との間、および多溝付きローラ7のV溝9の周速度とV溝9に納まっている固定砥粒付きワイヤ10の走行速度との間に速度差が与えられるため、固定砥粒付きワイヤ10は、速度差にもとづくV溝8、9に対する滑
り、換言すると、滑りにともなう研削作用によって、
図5の(1)のようなV溝8、9の両斜面を研削し、所定の時間後に、
図5の(2)のように、適切な深さのU溝12、13を形成する。
【0020】
このようにして、多溝付きローラ6、7は、U溝12、13の溝加工後に、V溝8、9を開口側
でテーパ面とし、U溝12、13を溝側面および溝底面とする理想的な形状の溝14、15を形成する。溝加工時において、溝14、15の深さは、加工の時間によって任意に決定できる。
【0021】
固定砥粒付きワイヤ10の研削作用は、一方の多溝付きローラ6のV溝8の周速度とV溝8に納まっている固定砥粒付きワイヤ10の走行速度との間の速度差、および他方の多溝付きローラ7のV溝9の周速度とV溝9に納まっている固定砥粒付きワイヤ10の走行速度との間の速度差によって決定されが、それらの速度差は、基本的には
V溝8、9に対する固定砥粒付きワイヤ10の滑りに起因して発生するから、一方の多溝付きローラ6のV溝8と他方の多溝付きローラ7のV溝9との間で不均一に発生することも予測される。もし、速度差が不均一に発生すると、多溝付きローラ6、7の間で固定砥粒付きワイヤ10の研削作用が異なるため、U溝12、13は同じ形状として形成されなくなる。
【0022】
前記のような可能性があることを想定し、本発明に係るワイヤソー用多溝付きローラの溝加工方法は、多溝付きローラ6、7を異なる回転数のもとに所定の時間にわたって回転させた後に、多溝付きローラ6、7の回転数の大小関係を転換して、多溝付きローラ6、7を前と同じ回転方向で所定の時間にわたって回転させている。
【0023】
上記のような溝加工方法によると、一方の前記多溝付きローラ6と他方の多溝付きローラ7との間で高速回転と低速回転とが転換されるから、各多溝付きローラ6、7において固定砥粒付きワイヤ10の研削作用が同じとなり、U溝12、13の深さや形状に差異が現れず、多溝付きローラ6、7の間でのU溝12、13の形成が均一となる。
【0024】
さらに、本発明に係るワイヤソー用溝付きローラの溝加工方法は、多溝付きローラ6、7を異なる回転数のもとに所定の時間にわたって回転させた後に、多溝付きローラ6、7の回転数の大小関係を転換し、かつ回転方向を反転して、多溝付きローラ6、7を所定の時間にわたって回転させている。
【0025】
上記のような溝加工方法によると、回転数の大小関係を転換し、かつ回転方向を反転すると、多溝付きローラ6、7の間での溝加工の条件がさらに均等となり、各多溝付きローラ6、7において、固定砥粒付きワイヤ10の研削作用が正確に同じにできるため、多溝付きローラ6、7の間でのU溝12、13の深さや形状が一層均一となる。
【0026】
多溝付きローラ6、7の回転数、加工の時間などは、制御装置11により設定される。回転数は、例えば0
rpm<回転数<150rpm程度であり
、また、溝加工の時間は、固定砥粒付きワイヤ10の研削能力にもよるが、通常、30分程度である。
【0027】
次の表1は、駆動モータ4、5の
回転数(100rpm・95rpm)の大小関係を転換し、かつ回転方向
(正転
・逆転
)を反転したときの回転数および加工時間を設定した例を示している。
【0029】
多溝付きローラ6、7は、上記の溝加工の工程を経て、溝加工に利用したワイヤソー1および溝研削に使用した固定砥粒付きワイヤ10をそのまま用いて、ワーク16の切断加工に利用できる状態となる。
【0030】
そこで、作業者は、制御装置11をワーク16の切断加工モードに切替え、固定砥粒付きワイヤ10の張力を切断加工時の目標張力に設定した後に、溝加工後の多溝付きローラ6、7を速度制御、張力制御に切り換えて、ワイヤソー1を運転し、
図4に想像線で例示するように、半導体インゴットなどのワーク16を固定砥粒付きワイヤ10
のワイヤ列の切断域に押し当てながら送り移動させ、固定砥粒付きワイヤ10の連続走行または往復走行によってワーク16をウエーハとして切断する。なお、ワーク16の送り移動は、送りユニット21によって行われる。このようにして、溝加工に利用されたワイヤソー1および固定砥粒付きワイヤ10は、溝加工後の多溝付きローラ6、7とともに、そのままワーク16の切断に利用される。
【0031】
なお、固定砥粒付きワイヤ10の張力は、図示しないが、ワイヤ経路に設置したダンサ装置によって制御される。ダンサ装置は、固定砥粒付きワイヤ10をダンサローラに巻き掛けておき、ダンサローラを支持するアームをトルクモータによって所定のトルクで駆動することによって、固定砥粒付きワイヤ10の張力を目標張力に維持する。
【0032】
以上のように、本発明に係るワイヤソー用多溝付きローラの溝加工方法によると、多溝付きローラ6、7の溝加工は、ワイヤソー1の機能を利用して行えるから、ワイヤソー1の機能が有効に活用でき、U溝12、13の加工に特別な加工機は、必要とされない。しかも、溝加工後の多溝付きローラ6、7は、溝加工に用いた固定砥粒付きワイヤ10とともに、溝加工に供したワイヤソー1と同時に利用されるから、U溝12、13は、固定砥粒付きワイヤ10に正確に適合し、かつ理想的な溝形態となっている。さらに、溝加工後にワーク16の切断加工に移行するときに、溝加工に供したワイヤソー1の重い多溝付きローラ6、7の取り替えや、固定砥粒付きワイヤ10の面倒な巻き替え作業が必要とされず、省力化が達成でき、作業性も向上する。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上の例は、2本構成の多溝付きローラ6、7を例示しているが、多溝付きローラ6、7は、3本以上の多溝付きローラとして構成することもできる。例えば多溝付きローラが3本ある場合、2本の多溝付きローラと1本の多溝付きローラとの間で異なる回転数を設定してもよく、また3本の多溝付きローラ毎に異なる回転数を設定してもよい。また、多溝付きローラ6、7の設置数に対して駆動モータ4、5の設置数が少ないときには、多溝付きローラ6、7の回転駆動のために、外部の駆動モータが用意される。
【符号の説明】
【0034】
1 ワイヤソー
2、3 駆動軸
4、5 駆動モータ
6、7 多溝付きローラ
8、9 V溝
10 固定砥粒付きワイヤ
11 制御装置
12、13 U溝
14、15 溝
16 ワーク
17、18 軸受け
19、20 連結ボルト
21 送りユニット